(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態およびその変形例を説明する。なお、以下の記載は特許請求の範囲に記載される技術的範囲や用語の意義を限定するものではない。また、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0013】
図1〜
図10を参照して、本実施形態に係る止血器具10を説明する。
図1〜
図6は、止血器具10の各部の説明に供する図である。
図7〜
図10は、止血器具10の使用例の説明に供する図である。
【0014】
実施形態に係る止血器具10は、
図7および
図9に示すように、手首W(「肢体」に相当)の橈骨動脈Rに形成された穿刺部位P(「止血すべき部位」に相当)に留置していたイントロデューサーシースを抜去した後、その穿刺部位Pを止血するために使用するものである。上記イントロデューサーシースは、例えば、治療・検査等を行うカテーテル等を血管内に挿入する目的で用いられる。
【0015】
止血器具10は、
図1および
図9に示すように、手首Wに巻き付けるための帯体20と、帯体20を手首Wに巻き付けた状態で固定する面ファスナー30(「固定手段(固定部材)」に相当)と、空気(「気体」に相当)を注入することにより拡張し、穿刺部位Pを圧迫する拡張部40と、拡張部40を穿刺部位Pに位置合わせするためのマーカー40cと、空気を拡張部40に注入可能な注入部50と、帯体20に連結された支持板60と、拡張部40と注入部50を連通するチューブ(「流通経路」に相当)91と、を有している。
【0016】
なお、本明細書中では、帯体20を手首Wに巻き付けた状態のとき、支持板60において注入部50が配置される側の面を「外面」(「第1面」に相当する)と称し、支持板60において拡張部40が配置され、手首Wの体表面に向かい合う側の面(装着面)を「内面」(「第2面」に相当)と称する。
図3において、外面側は符号S1で示し、内面側は符号S2で示す。
【0017】
支持板60は、
図1〜
図3に示すように、拡張部40が配置される第1支持板70と、注入部50が配置される第2支持板80と、を有している。
【0018】
図2に示すように、第1支持板70と第2支持板80は、帯体20の長軸A1上に配置される。帯体20の長軸A1は、止血器具10を手首Wに装着していない状態の帯体20の延在方向(長手方向)を示す。つまり、第1支持板70と第2支持板80は、帯体20の延在方向上の異なる位置にそれぞれ配置されている。第1支持板70に配置された拡張部40と第2支持板80に配置された注入部50は、各支持板70、80と同様に帯体20の長軸A1上の異なる位置にそれぞれ配置されている。
【0019】
図2および
図3に示すように、第1支持板70は、長軸A1方向の両端部側から中央部71側へ向けて外面側に突出するように湾曲した断面形状を有する。第1支持板70の第2支持板80側の端部には、第2支持板80と連結される第1連結部73aを設けている。第1支持板70の帯体20側の端部には、帯体20に連結される第2連結部73bを設けている。
【0020】
第2支持板80は、長軸A1方向の両端部側から中央部81側へ向けて外面側に突出するように湾曲した断面形状を有する。第2支持板80の第1支持板70側の端部には、第1支持板70と連結される第1連結部83bを設けている。第2支持板80の第1連結部83bが設けられた端部と反対側の端部には、連結部材85を配置している。第2支持板80は、連結部材85側の端部に設けられた第2連結部83aを介して連結部材85と連結している。
【0021】
なお、各支持板70、80の形状、各支持板70、80の帯体20の長軸Aに沿う長さ寸法等は、止血器具10による圧迫止血を行い得る限りにおいて特に限定されることはない。
【0022】
連結部材85は、止血器具10を手首Wに装着する際に、帯体20と第2支持板80を連結する。また、連結部材85は、装着者の手首Wの外周長(手首の太さ)に応じて帯体20の長さを調整する。
図3および
図8に示すように、連結部材85は、第2支持板80と連結される連結部85aと、帯体20の一部を折り返した状態で保持する保持部85bと、帯体20を挿通させる挿通部85cと、を有している。
【0023】
帯体20は、手首Wの外周の一部に沿うように巻き付けられる。帯体20は、
図7および
図8に示すように、例えば、手の平を上側に向けた状態において手首Wに止血器具10を装着した際に、手首Wの外周の半周以上の範囲を覆うように長さが調整される。
【0024】
図3に示すように、帯体20の第1支持板70側の端部には、第1支持板70と連結される連結端部21aを設けている。
【0025】
図2および
図3に示すように、帯体20には、面ファスナー30を配置している。面ファスナー30は、例えば、日本でVELCRO(登録商標)又はマジックテープ(登録商標)のような一般的な製品として知られるhook and loop fastenerである。面ファスナー30は、二つの雌側31a、31bと、一つの雄側32で構成している。各雌側31a、31bと雄側32は、
図2および
図3に示すように、止血器具10を手首Wに装着する前の状態では、外面側に配置される。
【0026】
止血器具10を手首Wに装着する際は、
図8に示すように、帯体20を連結部材85の保持部85bで折り返しつつ手首Wに巻き付ける。帯体20は、連結部材85の保持部85bで折り返されることにより、各雌側31a、31bと対向するように雄側32を配置する。装着者の手首Wの外周長に合わせて帯体20を折り返す長さを調整することにより、装着者に依らずに、止血器具10を適切に装着させることが可能になる。止血器具10は、各雌側31a、31bと雄側32が接合されることにより、手首Wに装着される。一般的に、雌側31a、31bは、雄側32よりも柔軟である。このため、
図1に示すように、止血器具10を手首Wに装着した際に、雄側32よりも手首Wの外表面に近接する位置に雌側31a、31bを配置することにより、装着者に与える不快感を抑えることができる。
【0027】
なお、面ファスナー30は、例えば、一つの雌側と一つの雄側で構成したり、雌側の位置と雄側の位置を入れ替えて構成したりすることも可能である。また、帯体20を手首Wに巻き付けた状態で固定する手段は、面ファスナー30に限定されず、例えば、スナップ、ボタン、クリップ、または帯体20の端部を通す枠部材などの固定部材を用いてもよい。
【0028】
帯体20の構成材料は、可撓性を備える材料であれば特に限定されない。そのような材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)のようなポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)のようなポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、シリコーン、ポリウレタン、ポリアミドエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー等の各種熱可塑性エラストマー、あるいはこれらを任意に組み合わせたもの(ブレンド樹脂、ポリマーアロイ、積層体等)が挙げられる。
【0029】
また、帯体20は、例えば、透明、半透明、有色透明でもよいし、特定の色が付されていてもよい。
【0030】
図3に示すように、第1支持板70は、第1支持板70の第1連結部73aと第2支持板80の第1連結部83bを介して、第2支持板80に対して相対的に可動に連結されている。
【0031】
第1支持板70の第1連結部73aは、略円形の断面形状を有する軸状の部材で構成している。第2支持板80の第1連結部83bは、第1支持板70の第1連結部73aに嵌め込み可能な凹状の溝で構成している。第2支持板80の第1連結部83bは、第1支持板70の第1連結部73aに嵌め込まれた状態で、第1連結部73aの外周面に沿って回動可能となる。
【0032】
図3に示すように、第1支持板70は、第1支持板70の第2連結部73bと帯体20の連結端部21aを介して、帯体20に対して相対的に可動に連結されている。
【0033】
第1支持板70の第2連結部73bは、略円形の断面形状を有する軸状の部材で構成している。帯体20の連結端部21aは、帯体20の一部(端部)で構成している。帯体20の連結端部21aは、第1支持板70の第2連結部73bの外周面に巻き付けるように配置されている。第1支持板70の第2連結部73b付近には、帯体20の連結端部21aが第2連結部73bの外周面に沿って回動するのを可能にする隙間73cが設けられている。
【0034】
図3に示すように、第2支持板80と連結部材85は、第2支持板80の第2連結部83aと連結部材85の連結部85aを介して相互に連結している。
【0035】
連結部材85の連結部85aは、略円形の断面形状を有する軸状の部材で構成している。第2支持板80の第2連結部83aは、連結部材85の連結部85aに嵌め込み可能な凹状の溝で構成している。第2支持板80の第2連結部83aは、連結部材85の連結部85aに嵌め込まれた状態で、連結部85aの外周面に沿って回動可能となる。
【0036】
連結部材85の保持部85bは、連結部材85上で回転するように構成している。保持部85bは、止血器具10を手首Wに装着するに際して連結部材85の挿通部85cに帯体20を挿通させると、帯体20の挿通に合わせて回転する。保持部85bは、この回転により、帯体20を巻き取る方向(手首Wに巻き付ける方向)に帯体20を送り出して、手首Wに対する帯体20の巻き付け作業を円滑に行うことを可能にする。
【0037】
第1支持板70および第2支持板80は、帯体20よりも硬質な材料で構成されており、
図3に示す湾曲した断面形状をほぼ一定に保つようになっている。
【0038】
図8に示すように、第1支持板70は、当該第1支持板70の内面側に設けられた第1凸部75aと、第2凸部75bと、を有している。
【0039】
第1凸部75aは、第1支持板70の第2支持板80側(第2支持板80が連結される側)に配置している。第2凸部75bは、第1支持板70の帯体20側(帯体20が連結される側)に配置されており、第1凸部75aとの間で拡張部40を帯体20の長軸A1方向(
図8の左右方向)に沿って挟み込むように形成されている。
【0040】
第1凸部75aおよび第2凸部75bは、止血器具10を手首Wに装着し、かつ、拡張部40を拡張させる前の状態(
図8に示す状態)において、穿刺部位Pと第1支持板70との間の距離を調整する機能を有している。
【0041】
第1凸部75aおよび第2凸部75bは、帯体20を手首Wに巻き付ける際に第1支持板70を手首W上に配置すると、手首Wに接触する。穿刺部位Pと第1支持板70との間の距離は、第1凸部75aおよび第2凸部75bを手首Wに接触させた状態で帯体20を連結部材85において折り返して手首Wに巻き付けると、第1凸部75aおよび第2凸部75bの高さ寸法(突出方向の寸法)に応じて所定の大きさに調整される。同様に、第1支持板70に配置された拡張部40と穿刺部位Pとの間の距離も所定の大きさに調整される。このため、例えば、装着者ごとの手首Wの外周長の違いに依らずに、拡張開始前の拡張部40と穿刺部位Pとの間の距離を所定の距離に保つことができる。そして、拡張開始前の拡張部40と穿刺部位Pとの間の距離が所定の距離に調整された状態で拡張を行うことにより、装着者に依らずに、一定の圧迫力を付与することが可能になる。
【0042】
第1凸部75aおよび第2凸部75bは、例えば、突出方向の先端部が丸みを帯びた断面形状で形成することが可能である。第1凸部75aおよび第2凸部75bは、このような断面形状を有することにより、手首Wに接触した際に装着者に対して過剰な押圧力が掛かるのを防止する。
【0043】
各凸部75a、75bの高さ寸法(突出方向の寸法)は、拡張開始前の拡張部40と穿刺部位Pとの間の距離を所定の大きさに保つことが可能であれば特に制限されず、例えば、拡張部40の拡張時の厚み寸法等に応じて適宜設定することが可能である。また、各凸部75a、75bの断面形状、第1支持板70上において配置される位置についても特に制限はなく、適宜変更することが可能である。また、各凸部75a、75bは第1支持板70と一体的に構成してもよいし、第1支持板70とは別部材で構成してもよい。また、各凸部75a、75bには、皮膚への接触時の押圧力を緩和する緩衝部材を設けてもよい。
【0044】
各支持板70、80の構成材料は、例えば、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル(特に硬質ポリ塩化ビニル)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエンのようなポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアセタール、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、アイオノマー、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)のようなポリエステル、ブタジエン−スチレン共重合体、芳香族または脂肪族ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂等が挙げられる。
【0045】
第1支持板70は、拡張部40と少なくとも重なる部分が実質的に透明であることが好ましいが、透明に限定されず、半透明または有色透明であってもよい。これにより、穿刺部位Pを外面側から確実に視認することができ、後述するマーカー40cを穿刺部位Pに容易に位置合わせすることができる。
【0046】
拡張部40は、空気を注入することにより拡張し、穿刺部位Pに圧迫力を付与する機能を備えている。本実施形態では、拡張部40は、
図1および
図3に示すように、略矩形状の2枚のシートを重ね合わせ、周縁を接合した袋状の部材によって構成している。これにより、2枚のシートの間に拡張空間40aが形成されている。なお、拡張部40の構成は、空気を注入することにより拡張可能であれば特に限定されない。例えば、拡張部40は、1枚のシートを折り曲げ、縁部を接合した袋状の部材によって構成してもよいし、縁部を備えない風船状の部材によって構成してもよい。また、拡張部40の外形形状は、特に限定されない。例えば、拡張部40は、拡張していない状態において、平面視した際に、円形、楕円形、多角形等の外形形状を備えていてもよい。
【0047】
拡張部40は、気体透過性が比較的高い熱硬化性エラストマーにより構成している。このため、拡張部40内に注入された空気は、当該拡張部40を拡張した後、拡張部40の構成材料である熱硬化性エラストマーを介して、血管閉塞を防止可能な程度に拡張部40から経時的に抜ける(空気が抜ける様子は、
図10において破線の矢印で示す)。上記の熱硬化性エラストマーとしては、例えば、シリコーン、天然ゴム等を用いることができる。なお、熱硬化性エラストマーは、視認性の観点から、シリコーンを用いることが好ましい。
【0048】
拡張部40を熱硬化性エラストマーで構成する場合、拡張部40を袋状に形作るための接合は、例えば、接着剤により行うことが可能である。また、拡張部40は、例えば、一部を熱硬化性エラストマーで構成し、他の部分を熱可塑性材料で構成してもよい。一部を熱硬化性エラストマーで構成し、他の部分を熱可塑性材料で構成する場合、例えば、熱可塑性材料および熱硬化性エラストマーが一体成形されたシートや、熱可塑性材料によって構成された枠状の部材の中央に、熱硬化性エラストマーによって構成された矩形状の部材が接着されたシート等を利用して拡張部40を形成することが可能である。上記の熱可塑性材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデン等の熱可塑性樹脂又はオレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエチレン系熱可塑性エラストマー等の各種熱可塑性エラストマーを用いることができる。
【0049】
拡張部40は、
図3に示すように、第1支持板70の中央部71と重なる位置に配置している。このため、
図9に示すように、拡張部40を拡張させた際、第1支持板70により拡張部40の手首Wの体表面から離れる方向への拡張が抑制され、拡張部40の圧迫力が手首W側に集中する。
【0050】
拡張部40は、
図3に示すように、第1支持板70の第1凸部75aと第1支持板70の第2凸部75bとに挟まれた状態で、第1支持板70の内面側に保持されている。拡張部40は、当該拡張部40へ空気を送り込むためのチューブ91を介して第2支持板80に連結(接続)している。拡張部40は、チューブ91を介して連結されることにより、止血器具10からの脱落が防止される。拡張部40は、例えば、第1支持板70に接着して固定したり、嵌合、挟み込み等の機械的な方法で第1支持板70に着脱可能に保持させたりして第1支持板70に直接連結してもよく、第1支持板70への連結方法等は特に限定されない。このように、帯体20と拡張部40の連結形態は特に限定されず、例えば、帯体20と拡張部40が直接固定(連結)されていたり、帯体20に固定された注入部50と連通するチューブ91を介して拡張部40が帯体20と連結されていたりしてもよい。
【0051】
拡張部40は、実質的に透明であることが好ましいが、透明に限定されず、半透明または有色透明であってもよい。これにより、穿刺部位Pを外面側から視認することができ、後述するマーカー40cを穿刺部位Pに容易に位置合わせすることができる。
【0052】
図9に示すように、第1支持板70は、第1凸部75aの第2凸部75b側(
図9中の左側)に配置された補助圧迫部78を有する。
【0053】
補助圧迫部78は、拡張した状態における拡張部40と接触し、
図9中の矢印で示すように拡張部40の圧迫方向を調整する。拡張部40は、拡張した際、補助圧迫部78により、穿刺部位Pに向うように圧迫方向が調整される。
【0054】
補助圧迫部78の断面形状や大きさ等は、第1支持板70の内面側で拡張部40の拡張方向を所望の方向に調整可能であれば特に制限されない。なお、本実施形態のように、第1支持板70の内面側に設けた簡素な部材により補助圧迫部78を構成することにより、補助圧迫部78の付加に伴う製造コストの削減を図ることができる。
【0055】
補助圧迫部78は、例えば、スポンジ状の物質、弾性材料、綿のような繊維の集合体、またはこれらの組合せなどによって構成することが可能である。
【0056】
図3および
図9に示すように、第2支持板80の内面(注入部50が配置される外面と対向する面)には、当該内面から手首Wへ伝わる接触力(押圧力)を緩和する緩衝部材88を配置している。緩衝部材88は、止血器具10を手首Wに装着した状態で圧迫止血を行っている最中に第2支持板80と手首Wが接触して配置されるような場合においても、第2支持板80が手首Wに押し付けられて装着者に不快感が与えられるのを防止する。
【0057】
第2支持板80の第2面において緩衝部材88を設ける位置、緩衝部材88の断面形状、厚み等は、第2支持板80の第2面から手首Wへの押圧力の伝達を緩和し得る限りにおいて特に限定されない。例えば、第2支持板80の断面形状が手首Wと接触しないような形状である場合、また第2支持板80の一部に手首Wと接触しないような部分が設けられる場合、第2支持板80の形状に合わせて緩衝部材88を設ける位置を適宜変更することができる。
【0058】
緩衝部材88は、例えば、軟質の樹脂材料、スポンジ状の物質、弾性材料によって構成することが可能である。
【0059】
マーカー40cは、
図2および
図3に示すように、拡張部40において帯体20に面する側の略中央に設けられている。拡張部40にマーカー40cを設けることによって、拡張部40を穿刺部位Pに対して容易に位置合わせすることができるため、拡張部40の位置ズレが抑制される。なお、マーカー40cは拡張部40において手首Wに面する側に設けてもよい。この際、マーカー40cは、穿刺部位Pと直接接触しないように、拡張部40内の内表面に設けられることが好ましい。なお、マーカー40cを設ける位置は、拡張部40を穿刺部位Pに位置合わせ可能である限りにおいて特に限定されない。例えば、マーカー40cは、拡張部40を穿刺部位Pに位置合わせ可能である限り、第1支持板70に設けられていてもよい。
【0060】
マーカー40cの形状は、特に限定されず、例えば、円、三角形、四角形等が挙げられ、本実施形態では、四角形をなしている。
【0061】
マーカー40cの大きさは、特に限定されないが、例えば、マーカー40cの形状が四角形をなしている場合、その一辺の長さが1〜4mmの範囲であることが好ましい。一辺の長さが5mm以上であると、穿刺部位Pの大きさに対してマーカー40cの大きさが大きくなるため、拡張部40の中心部を穿刺部位Pに位置合わせし難くなる。
【0062】
マーカー40cの材質は、特に限定されず、例えば、インキ等の油性着色料、色素を混練した樹脂等が挙げられる。
【0063】
マーカー40cの色は、拡張部40を穿刺部位Pに位置合わせすることができる色であれば特に限定されないが、緑色系が好ましい。緑色系にすることにより、マーカー40cを血液や皮膚上で容易に視認することができるため、拡張部40を穿刺部位Pに位置合わせすることがより容易となる。
【0064】
また、マーカー40cは半透明または有色透明であることが好ましい。これにより、穿刺部位Pをマーカー40cの外面側から視認することができる。
【0065】
拡張部40にマーカー40cを設ける方法は特に限定されないが、例えば、マーカー40cを拡張部40に印刷する方法、マーカー40cを拡張部40に融着する方法、マーカー40cの片面に接着剤を塗布して拡張部40に貼り付ける方法等が挙げられる。
【0066】
注入部50は、拡張部40に空気を注入する機能を備えている。注入部50は、
図3および
図4に示すように、空気を収容可能な収容空間50aを備える立体形状の部材によって構成している。
【0067】
注入部50は、
図4および
図5に示すように、当該注入部50を貫通し、かつ、収容空間50aと連通した孔部50bを有している。孔部50bは、第2支持板80の注入部50が配置されている領域への垂線X1上に配置されている。本実施形態において、第2支持板80の注入部50が配置されている領域は、第2支持板80の中央部81付近である。
【0068】
また、注入部50は、第2支持板80に固定される底部51と、底部51から孔部50bに向かって立ち上がる縦壁部52と、孔部50bで構成された上部53と、を有している。底部51には、第2支持板80において注入部50と固定される固定部51aが設けられている。注入部50は、例えば、接着剤等により第2支持板80に固定することができる。
【0069】
本実施形態においては、注入部50の底部51は、第2支持板80の外面に臨む開口部で形成されている。このため、底部51自体は、注入部50の底面を構成しておらず、第2支持板80の外面の一部により注入部50の底面が構成されている。注入部50の収容空間50aは、第2支持板80の外面の一部および縦壁部52に囲まれた空間に相当する。
【0070】
縦壁部52の外周は、底部51側から孔部50b側(底部51から離間する方向)に向かって小さくなるように形成している。また、
図4および
図9に示すように、縦壁部52は、第2支持板80の注入部50が配置されている領域への垂線X1と平行な断面において、テーパー形状に形成している。ここでいうテーパー形状とは、平面視における孔部50bの中心位置を通る垂線X1に向けて、底部51から孔部50bに向けて徐々に外周長が小さくなる形状を意味する。
【0071】
なお、注入部50の外形形状は、特に限定されず、例えば、四角柱等の多角柱であってもよいし、底部、縦壁部および上部の区別がない球、断面視がテーパー形状以外の形状等であってもよい。また、底部51および上部53が開口部(孔部)で構成された注入部50を図示しているが、注入部50は、底部に底面が形成され、上部に上面が形成された構造のものであってもよい。また、孔部の数は1つ以上であれば特に限定されず、孔部の形状も図示した形状に限定されることはない。
【0072】
注入部50の収容空間50aの容積は、拡張部40の拡張空間40aの容積の1/4〜1/3程度であることが好ましい。これにより、注入部50を適度な大きさに形成し、注入部50が止血器具10の周辺で行われる手技等を妨げるのを防止するとともに、後述する拡張部40に空気を注入する注入動作を行う回数を低減することができる。
【0073】
注入部50は、収縮可能であって、かつ、収縮後に元の形状に復元可能となるように、例えば、シリコーンゴム、ラテックスゴム等のエラストマー素材やポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性プラスチック素材、またこれら両方の性質を併せ持つ各種熱可塑性エラストマー素材によって構成していることが好ましい。
【0074】
図8に示すように、注入部50の収容空間50aは、チューブ91を介して拡張部40の拡張空間40aと連通している。
【0075】
注入部50は、孔部50bから収容空間50a内へ空気を取り込むことにより、
図4に示す初期形状となる。注入部50を利用した拡張部40の拡張操作を行う際は、注入部50が初期形状となっている状態で、
図8に示すように、孔部50bを手指F1で塞ぎつつ注入部50を押し潰すように変形させる。
【0076】
上記のように注入部50を押し潰す操作を行うと、チューブ91を経由して空気が拡張部40へ送られる。拡張部40へ空気を送り込む操作を再度行う場合、孔部50bから手指F1を移動させて、収容空間50aが外部と連通した状態にする。注入部50は、孔部50bから収容空間50aに取り込まれた空気により、
図9に示す初期形状に復元するように変形する。収容空間50a内に空気が取りこまれた状態で注入部50を再度押し潰すと、拡張部40へ空気を送り込むことができる。
【0077】
注入部50は、第2支持板80の外面から離間する方向に延在しており、孔部50bは、第2支持板80の注入部50が配置されている領域への垂線X1上に配置されている。このため、拡張部40へ空気を送る際に注入部50を押圧する方向は、第2支持板80の注入部50が配置されている領域への垂線X1に沿う方向(縦方向)となる(
図4を参照)。このため、手指F1から注入部50に対して効率良く力を付与することができ、拡張部40へ円滑に空気を送り込むことができる。また、注入部50は、縦壁部52の外周が底部51側から孔部50b側に向かって小さくなるため、注入部50を押し潰す操作がなされる際に、注入部50の底部51側で座屈しにくく、折れ等の破損が生じるのを防止することができる。さらに、注入部50は、縦壁部52の外周が底部51側から孔部50b側に向かって小さくなるため、注入部50を押し潰す操作がなされる際に、注入部50の孔部50b側が注入部50の収容空間50aの内側に折り畳まれるように変形する。このため、注入部50を孔部50b側から底部51側に向けて小さい力で押し潰すことができ、収容空間50aの空気を拡張部40へ効率的に送り込むことができる。
【0078】
注入部50は、比較的硬質な第2支持板80上に固定されているため、注入部50を押圧する際に、第2支持板80が変形するのを防止できる。また、第2支持板80は、第1支持板70に対して可動に連結されているため、注入部50を押圧した際に第2支持板80に伝達される押圧力は、第2支持板80と第1支持板70の連結部分で吸収される。その結果、注入部50を押圧した際に生じる押圧力は、第1支持板70まで伝達され難くなり、穿刺部位Pへも伝達され難くなる。このため、装着者は、拡張部40を拡張させる操作が行われている最中に、拡張部40から穿刺部位Pに付与される圧迫力のみを適切に把握することができる。したがって、装着者が感じる圧迫力に基づいて注入部50を操作することにより、拡張部40に穿刺部位Pの止血に最適な量の空気を注入することができる。
【0079】
注入部50は、第1支持板70の外面側に配置している。また、
図1および
図7に示すように、止血器具10を手首Wに装着した際、注入部50の孔部50bは、手の平が向く方向側であって、かつ、手首Wの斜め外方に向けられる。医師等は、通常、手の平の向きと平行な手首Wの外側面側(
図7の左右側)から止血器具10に対する操作を行う。このため、注入部50の孔部50bは、止血器具10に対する操作を行っている最中に、周囲に存在する物品等で塞がれるような状態になりにくく、また装着者や医師等は孔部50bが塞がれた状態であるか否かを目視で容易に確認することもできる。また、装着者は、止血器具10に対する操作が終了した後、病室にいる際、孔部50bが塞がれた状態であるか否かを目視で容易に確認することもできる。このため、止血器具10は、孔部50bが周辺の物品等で塞がれた状態で注入部50が押し潰されてしまうのを防止でき、穿刺部位Pが必要以上に圧迫されてしまうのを防止することができる。また、
図1および
図7に示すように止血器具10を右手の手首Wに装着することにより、注入部50を押圧する際に、尺骨動脈に押圧力が付与されるのを防止することが可能になる。
【0080】
また、第1支持板70および第2支持板80は、帯体20の長軸A1上に配置されており、注入部50は第2支持板80上に配置されている。このため、注入部50が帯体20から手首W側へ突出するように設けられている場合と比較して、注入部50が装着者の手首Wと接触しにくく、装着者が感じる不快感を低減することができる。さらに、注入部50は、拡張部40が配置された第1支持板70とは別部材である第2支持板80上に配置されているため、マーカー40cを利用して行われる拡張部40の穿刺部位Pへの位置合わせを妨げることがない。
【0081】
図3および
図4に示すように、チューブ91の基端部は、注入部50の底部51側に取り付けられており、チューブ91の先端部は、拡張部40の拡張空間40aに入り込むようにして拡張部40に取り付けられている。なお、注入部50においてチューブ91を取付ける位置は、注入部50の収容空間50aと拡張部40の拡張空間40aとを連通可能である限り特に限定されない。例えば、チューブ91の基端部は、注入部50の縦壁部52に取り付けてもよい。ただし、本実施形態のように孔部50bが上部53側に配置される場合、チューブ91の基端部は、収容空間50aの空気を拡張部40へ効率的に送り込むため、注入部50の底部51側に取り付けられることが好ましい。
【0082】
図3に示すように、第2支持板80には貫通孔が設けられており、チューブ91の基端部は、当該貫通孔を挿通するようにして配置されている。補助圧迫部78には、第2支持板80と同様に、チューブ91を挿通する貫通孔を設けている。また、第1支持板70の第1凸部75aには、チューブ91の一部を挿通させるための貫通孔76を設けている。チューブ91は、帯体20の貫通孔、補助圧迫部78の貫通孔、第2支持板80の内面側、および貫通孔76を通って拡張部40と連結されている。このため、止血器具10を手首Wに装着する際や手首Wから取り外す際、チューブ91に不用意に外力が付加されるのを防止でき、チューブ91に破損等が生じるのを防止できる。なお、チューブ91の破損が生じるのを防止するために、例えば、チューブ91の一部を第1支持板70の内部や第2支持板80の内部に配置してもよい。ただし、チューブ91の配置(取り回し)は特に限定されず、例えば、第2支持板80に貫通穴を設けず、第2支持板80の外面側を回り込むようにしてチューブ91を配置してもよい。
【0083】
図5に示すように、チューブ91の拡張空間40a内に配置された先端部には、拡張空間40a内から注入部50側への逆流を防止する逆流防止機構92を設けている。
【0084】
逆流防止機構92は、拡張部40内に配置している。逆流防止機構92は、
図5に示すように、チューブ91の先端部に接続される芯材93と、芯材93を覆う被覆部材94と、を備えている。
【0085】
芯材93は、芯材93の基端部をチューブ91の内腔91aの先端側に挿入して固定することで、チューブ91と連結している。
【0086】
芯材93は、略円柱状の外形形状を備えている。芯材93は、チューブ91の内腔91a内において開口した基端開口部93bと、芯材93において被覆部材94が設けられている面において開口した先端開口部93cと、基端開口部93bと先端開口部93cに連通する内腔93aと、を有している。
【0087】
なお、芯材93とチューブ91は、芯材93の基端部をチューブ91の内腔91aに挿入して固定する方法以外の形態で連結してもよく、例えば、芯材93の基端面とチューブ91の先端面とを突き合せた状態で各々を接着し、芯材93の内腔93aとチューブ91の内腔91aとを気密に連通させるようにしてもよい。
【0088】
芯材93の構成材料は、被覆部材94よりも硬度の高い材料であることが好ましい。そのような材料としては、例えば、公知の金属材料、プラスチック材料等が挙げられる。
【0089】
被覆部材94は、円筒状の外形形状を備えている。芯材93は、被覆部材94を挿通している。
【0090】
被覆部材94の構成材料は、弾性部材であることが好ましく、そのような材料としては、例えば、ブチルゴム、多硫化ゴム、エピクロロヒドリンゴム、高ニトリルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム等のエラストマー素材、および各種熱可塑性エラストマー素材等が挙げられる。
【0091】
図6を参照して、逆流防止機構92の動作を説明する。
図6において、破線の矢印は空気の流れを示し、実線の矢印は空気が被覆部材94に付与する圧力の方向を示している。
【0092】
図6(A)に示すように、拡張部40が十分に拡張していない状態において注入部50からチューブ91に空気が注入されると、空気は、芯材93の内腔93aを通り抜けて、被覆部材94に芯材93から離れる方向の圧力を付与する。
【0093】
被覆部材94は、注入部50から送り込まれた空気から受ける圧力が所定の大きさ以上になると、芯材93の外表面から離れて、先端開口部93cと拡張空間40aを連通させる。例えば、注入部50を十分に押し潰す操作がなされず、注入部50側から送り込まれた空気量が少なくいと、被覆部材94に付与される圧力も低下するため、先端開口部93cと拡張空間40aを連通させることができない。これに対して、比較的時間を掛けてゆっくりと注入部50を押圧し、注入部50を十分に押し潰す操作が行われると、被覆部材94は芯材93の外表面から離間する。物品等で注入部50の孔部50bが誤って塞がれてしまった場合においても、注入部50を十分に押し潰す操作がなされないと、拡張部40内へ不用意に空気が送り込まれないため、穿刺部位Pが必要以上に圧迫されるのを好適に防止できる。
【0094】
図6(B)に示すように、拡張部40が十分に拡張している状態においては、拡張部40内の空気は、芯材93と接触する方向の圧力を被覆部材94に付与する。これにより、先端開口部93cが被覆部材94によって塞がれるため、拡張部40内の空気は、芯材93側、ひいては注入部50側に逆流しない。また、拡張部40が十分に拡張している状態においては、拡張部40内の空気が先端開口部93cを塞ぐように被覆部材94に圧力を付与する。当該圧力は、空気の注入圧力よりも高くなる。このため、拡張部40が十分に拡張し、拡張部40の内圧が所定値になると、注入部50から拡張部40に空気を注入することができなくなる。これにより、拡張部40が十分に拡張している状態においては、必要以上に拡張部40に空気が注入され、拡張部40が過拡張して、穿刺部位Pを必要以上に圧迫するのを好適に防止することができる。
【0095】
次に、本実施形態に係る止血器具10の使用例を説明する。
【0096】
止血器具10を手首Wに装着する前は、
図2に示すように、拡張部40は、拡張していない状態となっている。
図7および
図8に示すように、右手の手首Wの橈骨動脈Rに穿刺を行う場合、穿刺部位Pは、親指側へ片寄った位置にある。通常、穿刺部位Pにはイントロデューサーシースが留置されている。このイントロデューサーシースが留置されたままの状態の手首Wに帯体20を巻き付け、拡張部40に設けられたマーカー40cが穿刺部位P上に重なるように拡張部40および帯体20を位置合わせして、面ファスナー30の各雌側31a、31bおよび雄側32を接触させて接合し、帯体20を手首Wに装着する。
【0097】
止血器具10を手首Wに装着した後、
図8に示すように、注入部50の孔部50bを手指F1で塞ぎつつ、注入部50を押し潰し、注入部50内の空気を拡張部40内に注入し、拡張部40を拡張させる。拡張部40と一体の注入部50により拡張部40の拡張が行えるため、医師や看護師は、拡張部40を拡張するための別体の専用の器具(シリンジ等)を持ち運ぶ必要がない。
【0098】
拡張部40を拡張させた後、穿刺部位Pからイントロデューサーシースを抜去する。拡張後の拡張部40は、
図9に示すように、穿刺部位Pに圧迫力を付与する。
【0099】
拡張部40を拡張させた後は、
図10に矢印で示すように、拡張部40の構成材料である熱硬化性エラストマーの特性により、穿刺部位Pに圧迫力を付与しつつ、血管閉塞を防止できる程度に、拡張部40内の気体が経時的に拡張部40の外部に排出される。このため、医師や看護師等は、止血の程度に応じて拡張部40を減圧する操作を行う手間を省くことができる。
【0100】
なお、仮に、拡張部40の拡張後、止血が十分に行われていない場合は、拡張部40に空気を再度注入して、拡張部40の内圧を上昇させてもよい。例えば、拡張部40の内圧を、拡張部40に空気を注入した時の内圧に戻したい場合は、拡張部40から排出された分の空気を注入すればよい。
【0101】
所定の時間が経過して、穿刺部位Pの止血が完了したら、止血器具10を手首Wから取り外す。止血器具10は、面ファスナー30の各雌側31a、31bおよび雄側32を剥がすことによって手首Wから取り外される。
【0102】
以上のように、本実施形態に係る止血器具10は、手首Wに巻き付けるための帯体20と、帯体20を手首Wに巻き付けた状態で固定する固定手段30と、空気を注入することにより拡張し、穿刺部位Pを圧迫する拡張部40と、空気を収容可能な収容空間50aを有し、収容空間50aに収容された空気を拡張部40に注入可能な注入部50と、帯体20に連結された支持板60と、を備えている。また、支持板60は、帯体20の長軸A1上に配置され、かつ、拡張部40が配置される第1支持板70と、帯体20の長軸A1上に配置され、かつ、第1支持板70に対して可動に連結された第2支持板80と、を備えている。また、注入部50は、当該注入部50を貫通し、かつ、収容空間50aと連通した孔部50bを備えるとともに、第2支持板80上に配置されている。
【0103】
上記のように構成した止血器具10によれば、拡張部40への空気の注入は、拡張部40に連通する注入部50によって行われる。このため、医師や看護師は、別体の専用の器具を用いなくても、拡張部40を拡張することが可能となる。また、注入部50は第2支持板80上に配置されており、手首Wと接触しにくいため、装着者が感じる不快感を低減することができる。さらに、注入部50は、拡張部40が配置される第1支持板70とは異なる位置に配置される第2支持板80に配置されており、この第2支持板80は第1支持板70に対して可動に配置されている。このため、注入部50から拡張部40に空気を送り出す際、注入部50から穿刺部位Pへの不用意な力の伝達を抑制することができる。ゆえに、本止血器具10は、止血器具10と空気の注入を行うための注入部50を一体的に設けることにより、術者の手間の軽減を図ることができるとともに、患者の穿刺部位Pに対する不用意な力の伝達を抑制することができる。
【0104】
また、注入部50は、第2支持板80上に配置される底部51と、底部51から孔部50bに向かって立ち上がる縦壁部52と、を有しており、縦壁部52の外周は、底部51から離間するにしたがって小さくなる。このため、注入部50は、注入部50を押し潰す操作がなされる際に、底部51側で折れ等の破損が生じるのを防止することができる。
【0105】
また、注入部50の縦壁部52は、第2支持板80の注入部50が配置されている領域への垂線X1と平行な断面において、テーパー形状に形成されている。このため、注入部50を押し潰す操作を行った際に、注入部50の上部53側から底部51側に向けて、さらに底部51側から拡張部40へ向けて空気を円滑に送り込むことができる。
【0106】
また、注入部50の孔部50bは、第2支持板80の注入部50が配置されている領域への垂線X1上に配置されている。このため、拡張部40へ空気を送る際に注入部50を押圧する方向は、第2支持板80の注入部50が配置されている領域への垂線X1に沿う方向(縦方向)となる。これにより、手指F1から注入部50に対して効率良く力を付与することができ、拡張部40へ円滑に空気を送り込むことができる。
【0107】
また、第1支持板70および第2支持板80は、帯体20よりも硬質な材料で形成されている。このため、第1支持板70に配置された拡張部40を拡張させた際、拡張部40の手首Wの体表面から離れる方向への拡張を抑制することができ、穿刺部位Pを好適に圧迫することができる。さらに、第2支持板80上に配置された注入部50を押圧する際に、第2支持板80が変形するのを抑制でき、第2支持板80から手首Wへ不要な押圧力が付与されるのを防止できる。
【0108】
また、第2支持板80は、注入部50が配置される第1面と、第1面と対向する第2面と、を備えており、第2面には、当該第2面から手首Wへ伝わる接触力(押圧力)を緩和する緩衝部材88を配置している。緩衝部材88は、止血器具10を手首Wに装着した状態で圧迫止血を行っている最中に、第2支持板80が手首Wに押し付けられて装着者に不快感を与えるのを防止する。
【0109】
また、止血器具10は、拡張部40と注入部50とを連通するチューブ91を有しており、第1支持板70は、第2支持板80側に設けられた第1凸部75aと、帯体20側に設けられ、第1凸部75aとの間で拡張部40を帯体20の長軸A1方向に沿って挟み込むように形成された第2凸部75bと、を有している。チューブ91は、第1凸部75aを貫通している。第1凸部75aおよび第2凸部75bは、装着者ごとの手首Wの外周の寸法の違いに依らずに拡張開始前の拡張部40と穿刺部位Pとの間の距離を所定の距離に保つことを可能にし、装着者に依らずに一定の圧迫力を付与することを可能にする。チューブ91は、第1凸部75aを貫通して拡張部40と連結されているため、止血器具10を手首Wに装着する際や手首Wから取り外す際、チューブ91に不用意に外力が付加されるのを防止でき、チューブ91に破損等が生じるのを防止することができる。
【0110】
また、第1支持板70は、第1凸部75aの第2凸部75b側に配置され、拡張した状態における拡張部40の圧迫方向を調整する補助圧迫部78を有している。拡張部40は、拡張した際、補助圧迫部78により穿刺部位Pに向うように圧迫方向が調整されるため、穿刺部位Pに対して圧迫力を効率良く付与することができる。
【0111】
また、第2支持板80は、帯体20に対して可動に連結する連結部材85を有している。連結部材85は、止血器具10を手首Wに装着する際に、帯体20と第2支持板80を連結するとともに、装着者の手首Wの外周長に応じた帯体20の長さ調整を可能にする。これにより、止血器具10は、装着者の手首Wの外周長の大小によって装着者が制限されるのを防止できる。
【0112】
次に、上述した実施形態の変形例を説明する。なお、各変形例の説明において前述した実施形態と同様の構成については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0113】
(変形例1)
図11は、変形例1に係る止血器具100の説明に供する図である。
【0114】
変形例1に係る止血器具100は、第2支持板180の構成が前述した実施形態と相違する。第2支持板180は、手首Wに帯体20を巻き付けて固定した状態において、手首Wと第2支持板180との間に空間を形成する凹部189を有している。
【0115】
第2支持板180は、第2支持板180の内面側から外面側に向かって突出するように湾曲している。これによって、第2支持板180の内面側には、第2支持板180の内面側から外面側に向かって窪んだ凹部189が形成されている。
【0116】
凹部189は、手首Wと第2支持板180との間に手指F2が挿入可能な空間を区画する程度の大きさで形成している。なお、凹部189の断面形状、大きさ等は特に限定されず、適宜変更することが可能である。
【0117】
第2支持板180において、凹部189が設けられている部分の外面側には、注入部50を取り付けている。
【0118】
止血器具100の拡張部40を拡張させる際は、まず、凹部189に手指(例えば、人差し指)F2を挿入しつつ、注入部50の上面に設けられた孔部50bを手指(例えば、親指)F1で塞ぐ。そして、手指F2によって第2支持板80を支持しながら、手指F1を第2支持板80に近づけることにより、注入部50を押し潰す。この作業により、拡張部40に空気が注入される。
【0119】
拡張部40へ空気を注入する際、凹部189内に挿入した手指F2と手首Wとの間に、両者の間で作用する摩擦を低減するための部材(例えば、潤滑性コーティングがなされたシート状の部材)を配置してもよい。また、凹部189の内面付近において手首Wと接触する可能性がある部分に緩衝部材を配置してもよい。
【0120】
以上説明したように、変形例1に係る止血器具100によれば、第2支持板180は、手首Wに帯体20を巻き付けて固定した状態において、手首Wと第2支持板180との間に空間を形成する凹部189を有している。このため、手指F2によって第2支持板180を支持しながら、手指F1によって注入部50を押し潰すことができる。これにより、手指F1が注入部50を潰す際に付与する押圧力は、穿刺部位Pにより一層伝わり難くなる。また、2本の手指F1、F2によって注入部50を摘むようにして押し潰すことができるため、空気の注入を容易かつ円滑に行うことができる。
【0121】
(変形例2)
図12は、変形例2に係る止血器具200の説明に供する図である。
【0122】
変形例2に係る止血器具200は、注入部250の縦壁部252に、空気を取り込み可能な2つの孔部250b、250cが設けられている点において、前述した実施形態と相違する。
【0123】
縦壁部252には、厚み方向(縦壁部252の立ち上がり方向と交差する方向)に縦壁部252を貫通する2つの孔部250b、250cが設けられている。2つの孔部250b、250cは、対向するように設けられている。なお、注入部250の断面形状、材質、構造等は、前述した実施形態に係る注入部50と同様に構成することができる。
【0124】
拡張部40を拡張させる際は、2本の手指F1、F2によって孔部250b、250cをそれぞれ塞いだ状態とし、手指F1と手指F2を互いに接近させる。これによって、注入部250は押し潰されて収縮し、拡張部40に空気を注入する。
【0125】
以上説明したように、変形例2に係る止血器具200によれば、孔部250b、250cは、注入部250の縦壁部252に設けられている。このため、注入部250を押し潰す押圧力は、注入部250から手首Wに向かう方向と交差する方向に作用する。したがって、拡張部40に空気を注入する注入動作によって穿刺部位Pを必要以上に圧迫してしまう事態をより一層好適に防止することができる。
【0126】
また、2つの孔部250b、250cは、互いに対向する位置に設けられている。このため、2本の手指F1、F2によって孔部250b、250cを容易に塞くことができ、簡単に空気を注入させることができる。また、一方の孔部が周辺の物品等と接触して塞がれても、他方の孔部が塞がれる可能性が低くなる。このため、注入部250は、意図せずに注入部250が押し潰されても、拡張部40に空気が注入される可能性が低くなる。
【0127】
(変形例3)
図13は、前述した実施形態の変形例3に係る止血器具300の説明に供する図である。
【0128】
変形例3に係る止血器具300は、拡張部340が第1支持板70と第1支持板70に取り付けられた膜材341とによって構成されている点において、前述した実施形態と相違する。
【0129】
膜材341の周縁部は、第1支持板70の第1凸部75aと第2凸部75bとの間に膜材341が配置されるように、第1支持板70の内面側に接合している。膜材341と第1支持板70との間の空間は、空気が注入される拡張空間340aに相当する。
【0130】
チューブ91の先端部および逆流防止機構92は、拡張空間340a内に配置されている。このため、注入部50を潰して収縮させると、拡張空間340aに空気が注入され、膜材341が手首Wに向かって突出する(すなわち拡張部340が拡張する)。これによって穿刺部位Pが圧迫される。
【0131】
マーカー40cは、穿刺部位Pと直接接触しないように、拡張部340内の内表面に設けている。
【0132】
膜材341は、例えば、前述した実施形態において説明した拡張部40の構成材料(熱硬化性エラストマーによって構成されたシート、熱硬化性エラストマーと熱可塑性材料で構成されたシート等)と同様のものを用いることが可能である。
【0133】
以上説明したように、変形例3に係る止血器具300によれば、拡張部340は、1枚の膜材341の周縁部を第1支持板70に接合することによって構成している。このため、拡張部340を構成する部材の数が比較的少なく、止血器具300の製造コストを比較的に安価にすることができる。
【0134】
(変形例4)
図14は、前述した実施形態の変形例4に係る止血器具400の説明に供する図である。
【0135】
変形例4に係る止血器具400は、拡張後の拡張部440内の空気が、拡張部440を構成する透過膜442および第1支持板470に設けられた排気孔478から経時的に排出される点において、前述した実施形態と相違する。
【0136】
拡張部440は、手首W側に配置される膜材441と、膜材441よりも気体透過性が高く、第1支持板470側に配置される透過膜442と、を備えている。
【0137】
膜材441および透過膜442は、互いに重ね合わされた状態で、周縁部同士を接合している。透過膜442は、第1支持板470の第1凸部75aと第2凸部75bとの間において、第1支持板470の内面側に貼り付けている。
【0138】
膜材441の構成材料は、可撓性を備える材料であれば特に限定されないが、例えば、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル(特に硬質ポリ塩化ビニル)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエンのようなポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアセタール、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、アイオノマー、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)のようなポリエステル、ブタジエン−スチレン共重合体、芳香族または脂肪族ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂等が挙げられる。
【0139】
透過膜442の構成材料としては、例えば、気体透過量が膜材441よりも多い素材または構造である限り特に限定されないが、例えば、シリコーンや天然ゴム等の熱硬化性エラストマーを用いた単膜、ポリエチレンやポリイミド、セルロース等を用いた非対称膜、膜内外への気体の透過性を高める微粒子が含有された粒子含有膜が挙げられる。
【0140】
マーカー40cは、穿刺部位Pと直接接触しないように、拡張部440内の内表面に設けている。
【0141】
第1支持板470において、透過膜442が貼り付けられている領域には、第1支持板470を厚み方向に貫通する複数の排気孔478が形成されている。
【0142】
以上、変形例4に係る止血器具400によれば、拡張後の拡張部440内の空気は、拡張部440を構成する透過膜442および第1支持板470に設けられた排気孔478から経時的に排出される。このため、医師や看護師が操作することなく、穿刺部位Pに作用する圧迫力を経時的に低減することが可能となり、血管閉塞等を抑制することができる。
【0143】
なお、膜材441の周縁部は、透過膜442の周縁部に接合せずに、例えば、第1支持板470に直接接合してもよい。さらに、この場合、膜材441の周縁部と透過膜442の周縁部との間は離間していてもよい。
【0144】
以上、実施形態および変形例を通じて本発明に係る止血器具を説明したが、本発明は説明した各構成のみに限定されるものでなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
【0145】
例えば、止血器具を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
【0146】
また、本発明は、手首に装着して使用する止血器具に限らず、脚等に装着して使用する止血器具にも適用することができる。
【0147】
また、実施形態の説明では、逆流防止機構が拡張部内に設けられている構成を示したが、逆流防止機構の配置位置は、拡張部の内部から注入部の間のいずれかの位置であれば、特に限定されない。また、配置位置に応じて、逆流防止機構の構成を適宜変更することができる。
【0148】
また、実施形態の説明では、拡張部の構成材料の性質に応じて拡張部から気体(空気)が経時的に排出される構成を例示したが、例えば、公知の器具(シリンジ等)や、止血器具に一体的に設けられる気体の排出機構等を利用して気体の排出を行い得るように構成してもよい。
【0149】
また、帯体と第1支持板を連結する部分の構造、帯体と第2支持板を連結する部分の構造、第1支持板と第2支持板を連結する部分の構造は、実施形態において説明した構造のみに限定されることはない。少なくとも第2支持板が第1支持板に対して可動に連結され得る限りにおいて、各部材を連結する構造は変更することが可能である。また、第1支持板と第2支持板の可動構造は、両者が回動する構造に限定されることはなく、一方の部材が他方の部材に対して相対的に可動し得るものであればよい。
【0150】
本出願は、2016年7月6日に出願された日本国特許出願第2016−134607号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。