(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1及び特許文献2に開示の発明の目的は、製品を出荷する前に、検査によって表面状態が不良な銅板を検出することである。しかし、検査でコブを検出できずに、顧客ユーザーからのクレームによって、コブのついた銅板が出荷されたことが発覚することがある。この場合、銅板自体は既に出荷されているため、メーカー側に問題の銅板が存在しない。従って、要因の検証ができない。
【0008】
また、上記特許文献1及び特許文献2の方法によって出荷する前に不良品を検出できたとしても、要因の検証を行うわけではないので、根本的な解決策となっていない。また、要因の予測精度を向上することも望まれる。
【0009】
以上の点にかんがみ、本開示では、電解精錬における金属板の表面のコブの発生要因を特定するための手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らが検討したところ、銅板に発生したコブの特徴を分析することで、いくつかの候補となる要因を特定できることを見出した。さらには、コブの特徴を分析するだけでなく、銅板が電解槽内のどの位置に存在していたかを一緒に考慮することで、要因の予測精度を向上させることができた。
【0011】
本発明は、上記知見に基づいて完成され、一側面において、以下の発明を包含する。
(発明1)
電解精錬により金属材料を製造するためのシステムであって、前記システムは、
金属板の表面を撮像するように構成された撮像部と、
前記金属板が電解槽に存在していた時の電解槽内の位置情報を取得するように構成された位置検出部と、
前記金属板の表面に発生したコブに関する特徴を、撮像データから抽出するように構成された画像処理部と、
前記位置情報と、前記コブに関する特徴とを記憶するように構成された記憶部と
を備える、該システム。
(発明2)
前記金属が、Cu、Zn、Ni、Te、Zn、Pb、及びAgから選択される発明1のシステム。
(発明3)
前記金属がCuである、発明1又は2のシステム。
(発明4)
発明1〜3いずれか1つに記載のシステムであって、
前記コブに関する特徴が、少なくとも以下のうちいずれか1つを含む、該システム:
前記金属板内でのコブの発生位置、
前記金属板内でのコブの発生数、
前記金属板内でのコブの形状、及び、
前記金属板内でのコブのサイズ。
(発明5)
発明1〜4いずれか1つに記載のシステムであって、前記システムは、情報処理部をさらに備え、
前記情報処理部は、
ユーザーからのリクエストに応じて、特定の金属板の前記電解槽内の位置情報と、前記特定の金属板のコブに関する情報とを記憶部から取得し、ユーザーインターフェース経由でユーザーに提示するように構成され、及び、
前記位置情報と特定の金属板のコブに関する情報とから、コブの発生要因の候補及び/又はコブの発生に対する対策措置の候補を提示するように構成される、
該システム。
(発明6)
発明1〜5いずれか1つに記載のシステムを用いて、金属材料を製造する方法。
【発明の効果】
【0012】
本開示の発明では、一側面において、金属板について電解槽内の位置情報及びコブに関する特徴が記憶される。これにより、コブの発生要因を検討するための情報が充実し、予測精度が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.対象金属
本開示で対象とする金属は、電解精錬の対象となる金属であれば特に限定されない。例えば、金属は、Cu、Zn、Ni、Te、Zn、Pb、及びAgから選択される金属であってもよい。特に、本開示の発明において有用となるのが、Cuである。以下では、Cuを具体例として、本開示の実施形態を説明する。以下で説明する実施形態(電気銅を製造するためのシステム、及び電気銅を製造するための方法)は、Cuに限定されず、上述した他の金属にも応用可能である。
【0015】
2. 電気銅を製造するためのシステム
一実施形態において、本開示は、電気銅を製造するためのシステムに関する。該システムは、少なくとも以下を備える。
・銅板の表面を撮像するように構成された撮像部。
・銅板が電解槽に存在していた時の電解槽内の位置情報を取得するように構成された位置検出部。
・銅板の表面に発生したコブに関する特徴を、撮像データから抽出するように構成された画像処理部。
・位置情報と、コブに関する特徴とを記憶するように構成された記憶部。
【0016】
また、上記システムに関連して、システムの内部又はシステムの外部に電解槽を更に設けてもよい。
【0017】
図1では、システムの内部に電解槽が設けられた場合を例にとって、システムの概要を表す。以降、各構成要素について詳述する。
【0018】
2−1.電解槽
電解槽内部には電解液が供給される。そして、アノード及びカソードを吊り下げて電解液に浸漬する。カソードとアノードは交互に配置する。アノードには粗銅などを配置する。一方でカソードには種銅又はステンレス板等を配置する。アノード及びカソードに電気を供給することで、カソードの両面に純度の高い銅が板状に析出する。一定量銅が板状に析出した後、カソードを電解槽から引き揚げる。そして、析出した銅板とともに、カソードが、検査工程にかけられる。
【0019】
2−2.位置検出部
引き上げられたカソード及び銅板は、検査を行うため、所定の位置に移動する。位置検出部は、銅板が電解槽に存在していた時の電解槽内の位置情報等を取得するような機能を有する。具体的には、位置検出部は、引き上げられたカソード及び銅板が、どの電解槽に存在していたのか、そして、当該電解槽内のどの位置に存在していたかの特定を行うことができる。例えば、電解液供給口の近くであるのか、それとも、電解液排出口の近くであるか等の特定を行うことができる。
【0020】
位置検出部が位置を特定する具体的な手段としては、特に限定されないが、一例として以下のようなメカニズムであってもよい。まず、各々のカソードのビーム部に、管理コードを刻印したり、QRコード(登録商標)を付したりすることができる。前記管理コード、及びQRコードは、電解槽と電解槽内の位置とを特定する情報を含むことができる。撮像装置を設けて、管理コード及びQRコードのうち少なくともいずれかを読み取ることができる。あるいは、すべてのカソードのビーム部に、管理コード、及びQRコードを設ける必要はなく、列をなしている複数カソードの先頭部分(あるいは両端部分)に存在するカソードのビーム部にだけ、管理コードを刻印したり、QRコードを付したりしてもよい。この場合には、管理コード及びQRコードを検出した後で、後続のカソードの枚数をカウントすることで、先頭のカソードから何番目の位置に存在していたかを特定することができる。
【0021】
以上のメカニズムにより、電解槽から引き上げた後のカソード(カソード上に析出した銅板についても同様)について、電解槽と電解槽内の位置とを特定することが可能となる。
【0022】
上記の例では、管理コード、QRコード、及び撮像装置を用いている。しかし、位置検出部が位置を特定する具体的な手段は、上記例に限定されるものではなく、代わりに、カソードにICタグを付しておき、当該ICタグに、電解槽及び電解槽内の位置を特定する情報(上述したように、電解槽内の位置を特定する情報は必須ではない)を含ませてもよい。そして、位置検出部は、RFID技術等を活用して、ICタグ内の情報を読み取ってもよい。
【0023】
位置検出部は、有線接続又は無線接続により、サーバーと接続されてもよい。そして、位置検出部は、上述した読み取り情報をサーバーに送信することができる。
【0024】
2−3.撮像部
撮像部は、銅板の表面を撮像する機能を有する。これにより、銅板の表面に発生したコブ等の情報を取得することができる。そして、当該コブ等の情報と、上述した電解槽及び電解槽内の位置を特定する情報とを組み合わせることにより、要因の予測精度を向上させることができる。
【0025】
撮像部を設ける位置については、特に限定されない。例えば、撮像部を設ける位置は、電解槽からカソードを引き上げた後、且つ、カソードから銅板を剥ぎとる前の間に、撮像できるような位置であればよい。なお、銅板はカソードの両面に析出するため、同時に撮像できるように撮像装置をカソードの両面側に2台設けることが好ましい。
【0026】
撮像部を設ける位置として、好ましいのは、カソードから銅板を剥ぎとる直前で撮像できるような位置である。この理由は以下のとおりである。カソードは、吊り下げた状態で移動するため揺れ動く。しかし、揺れ動くと良好に銅板を剥ぎとることができないので、カソードから銅板を剥ぎとる際には、カソードが揺れ動かないように一時的に固定される。従って、固定された瞬間であれば、撮像したときにブレを防止できる。特に、コブのサイズが小さい場合には、ブレを防止することは重要である。
【0027】
撮像する手段については、特に限定されず、当分野で公知の物を採用することができる。一例として、CCDカメラ、3Dカメラなどがあげられる。コブの高さなどを測定する点などを考慮すると、3Dカメラが特に好ましい。
【0028】
撮像部は、有線接続又は無線接続により、サーバーと接続されてもよい。そして、撮像部は、撮像データをサーバーに送信することができる。
【0029】
2−4.画像処理部
画像処理部は、銅板の表面に発生したコブに関する特徴を、撮像データから抽出する機能を有する。画像処理部は、サーバー内に設けられてもよく、又はサーバーとは別のハードウェア(例えば撮像部と同一のハードウェア)として実装されてもよい。後者の場合には、サーバーは、有線接続又は無線接続により、撮像データを画像処理部に送信することができる。
【0030】
コブに関して、画像処理部が抽出する特徴は、特に限定されないが、例えば、以下の特徴のうち少なくともいずれか1つを抽出することができる。
・銅板内でのコブの発生位置(例、中央、上端、下端、左端、右端、角部など)。
・銅板内でのコブの発生数。
・銅板内でのコブの形状。
・銅板内でのコブのサイズ(例えば、コブの体積、及び/又はコブの面積)。
【0031】
好ましい実施形態では、コブの発生位置以外の特徴については、銅板を所定の区画ごとに、抽出してもよい。例えば、3×3の区画の場合、右上部、右中央部、右下部、上中央部、中央部、下中央部、左上部、左中央部、左下部の9つの区画に分けることができる(
図2)。そして、9つの区画ごとに、コブの数を集計してもよいし、及び/又は、コブのサイズの平均値を算出してもよい。
【0032】
一実施形態において、上述した特徴のうち、特に重要なのは、銅板内でのコブの発生位置、及び銅板内でのコブの形状である。これらは、電解槽内の位置と組み合わせて考慮することで、より多くの種類のコブの発生要因を特定することができる。
【0033】
画像処理部が、撮像データから、コブに関する特徴を抽出する仕組みについては特に限定されず、当分野で公知の手法を用いることができる。例えば、コブの部分について、輪郭抽出を行ってもよい。輪郭抽出は例えばOpenCV、CloudCompare等の専用のライブラリを使用することができる。そして、輪郭抽出を行った後は、コブの数のカウント、コブのサイズの測定、コブの形状の判別等を、画像処理ソフトにより行うことができる。例えば、コブの形状の判別については、コブの高さ、コブの面積、コブの境界のコントラスト、形状の比率などのパラメータを組み合わせ、各々の境界値を設定することにより、自動判別させることができる。こうした画像処理についても、当分野で公知の画像処理ソフト及び/又はオープンソースを使用することができる。
【0034】
画像処理部は、上記処理を行った後、コブに関する特徴のデータを、記憶部に送信することができる。
【0035】
2−5.記憶部
記憶部は、位置検出部が送信した情報と、画像処理部が送信した情報とを記憶する機能を有する。
【0036】
記憶部は、サーバー内に設けられてもよく、又はサーバーとは別のハードウェアとして実装されてもよい。後者の場合には、サーバーは、有線接続又は無線接続により、所定の情報(例えば、位置検出部が送信した情報と、画像処理部が送信した情報)を記憶部に送信することができる。
【0037】
記憶部に記憶する際のデータ構造については、特に限定されない。例えば、
図3又は
図4に示す形式で保存してもよい。当該図では、テーブル形式でデータを保存している。一枚の銅板について、電解槽内の位置を特定する情報(
図3又は
図4では、電解槽コードとカソードコード)と、コブの特徴に関する情報とがペアを形成するような形式で保存することができる。これにより、出荷した銅板について、顧客から不具合が報告されたときに、要因調査に必要な情報を素早く抽出することができる。
【0038】
上記
図3に記載のテーブルでは、一行につき、一枚の銅板に関する情報が含まれる形式である。しかし、他の形式であってもよく、例えば、
図4に示すように、テーブルの形式が、一行につき一枚のカソードが対応するような形式であってもよい。この場合には、一行において、2枚の銅板に関する情報が保存される。
【0039】
上記のように、電解槽内の位置を特定する情報と、コブの特徴に関する情報とがペアを形成するような形式で保存することで、コブの発生要因の予想に活用することができる。コブの発生要因(及びこれに伴う対策措置)は多種多様である。しかし、要因を特定する際に上述した情報を活用することで要因の予測精度を向上させることができる。
【0040】
また、記憶部は、上述した情報に加えて、製造条件等の情報を一緒に記憶してもよい。例えば、製造条件等の情報として、給液量、添加剤の濃度、電解液温、電解液中の成分の濃度、フラッピング回数等があげられる。
【0041】
2−6.情報処理部
一実施形態において、上述した構成要素のほかに、システムは情報処理部を更に備えてもよい(
図5)。情報処理部は、サーバー内に設けられてもよく、又はサーバーとは別のハードウェアとして実装されてもよい。後者の場合には、サーバーは、有線接続又は無線接続により、所定の情報(例えば、記憶部が記憶した情報)を情報処理部に送信することができる。
【0042】
情報処理部は、記憶部から情報を取得し、ユーザーに、ユーザーインターフェース経由で、当該情報を提示する機能を有する。例えば、出荷した銅板について不良品(具体的には、表面にコブが発生しているなど)である旨のクレームを受けたとき、要因を特定する目的で、ユーザーは、情報処理部へアクセスし、不良品の銅板に関する情報を引き出すことができる(例えば、ロット番号を検索ワードに使用して、銅板の情報を抽出することができる)。
【0043】
情報処理部は、情報を提示する機能のほか、コブの発生要因の候補及び/又は対策措置の候補を提示する機能を有することができる。
【0044】
コブの発生要因の候補及び/又は対策措置の候補を提示するメカニズムについては、特に限定されないが、例えば、判定テーブルを利用した方法、判定フローを利用した方法、機械学習を利用した方法等があげられる。
【0045】
判定テーブル、及び判定フローの場合には、上述したコブの特徴及び/又は電解槽内でのカソードの位置の情報などを分岐条件として使用することができる。そして、判定テーブル、及び判定フローで得られる出力としては、コブの原因の候補(複数可)、及び/又は当該原因に対応する措置などがあげられる。
【0046】
また、機械学習を利用した情報の場合、あらかじめ学習用のデータを準備して学習を行わせる。学習用のデータは、入力データと正解を示すデータのセットから構成される。入力データとしては、少なくとも、コブの特徴及び/又は電解槽内でのカソードの位置の情報が含まれる。正解を示すデータとしては、コブの原因の候補(複数可)、及び/又は当該原因に対応する措置が含まれる。
【0047】
例えば、特定形状のコブが発生したこと示すデータが入力される場合には、極間距離(アノードとカソードの間の距離)に異常がある可能性があり、こうした原因の候補と、対策として、インシュレーターの交換、極間整列見直しなどの対策を出力することができる。
【0048】
また、別の例においては、別の特定の形状のコブが、電解槽内の排液側で発生したことを示すデータが入力される場合には、電解液の特定の成分(例えばニカワなど)が不足している可能性があり、こうした原因の候補と、対策として、供給量の増加などの対策を出力することができる。
【0049】
このように、電解槽内の位置を特定する情報と、コブの特徴に関する情報とを活用することで、原因特定及び対策の検討に寄与することができる。
【0050】
3. 電気銅を製造するための方法
一実施形態において、本開示は、電気銅を製造するための方法に関する。前記方法は、電気銅を製造するためのシステムを用いて電気銅を製造する方法を包含する。
【0051】
更に具体的な実施形態において、前記方法は、少なくとも以下の工程を含むことができる。
・電解槽にて電解精錬を行い、電気銅をカソードに析出させる工程。
・電気銅の電解槽内の位置情報と、電気銅の銅板の表面に発生したコブに関する特徴とを記憶部に記憶する工程。
これらの工程については、上述したシステムの各構成要素を利用して実施することができる。
【0052】
更に具体的な実施形態において、前記方法は、以下の工程を更に含むことができる。
・記憶部に記憶された、電気銅の電解槽内の位置情報と、電気銅の銅板の表面に発生したコブに関する特徴に基づいて、コブの発生要因の候補及び/又はコブの発生に対する対策措置の候補を、情報処理部が抽出する工程。
【0053】
上記の工程についても、上述したシステムの各構成要素を利用して実施することができる。
【0054】
4. データ構造、データ構造の組み合わせ
一実施形態において、本開示は、データ構造に関する。
【0055】
一例として、データ構造は、「2−5.記憶部」のところで述べたテーブル形式のデータであってもよい(すなわち、一枚の銅板について、電解槽内の位置を特定する情報と、コブの特徴に関する情報とがペアを形成するような形式)。当該形式でデータを記憶することで、コブの特徴、及び/又は電解槽内の位置に関する情報へのアクセスが容易となり、要因等の特定をスムーズに行うことができる。
【0056】
別の例として、データ構造は、例えば、「コブの発生要因の候補、及び/又は対策措置の候補」、「コブの特徴」、並びに、「電解槽内の位置を特定する情報」の項目を少なくとも設けたテーブルであってもよい。当該形式でデータを記憶することで、コブの特徴、及び/又は電解槽内の位置に基づいた要因等の特定をスムーズに行うことができる。
【0057】
一実施形態において、本開示は、データ構造の組み合わせに関する。例えば、上述した2つの種類のデータ構造の組み合わせであってもよい。
【0058】
以上、本発明の具体的な実施形態について説明してきた。上記実施形態は、本発明の具体例に過ぎず、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、上述の実施形態の1つに開示された技術的特徴は、他の実施形態に適用することができる。また、特記しない限り、特定の方法については、一部の工程を他の工程の順序と入れ替えることも可能であり、特定の2つの工程の間に更なる工程を追加してもよい。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって規定される。