特許第6936406号(P6936406)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6936406
(24)【登録日】2021年8月30日
(45)【発行日】2021年9月15日
(54)【発明の名称】改善された材料の表面改質
(51)【国際特許分類】
   B05D 3/00 20060101AFI20210906BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20210906BHJP
   B29C 65/48 20060101ALI20210906BHJP
   C08J 5/06 20060101ALI20210906BHJP
   C08J 5/12 20060101ALI20210906BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20210906BHJP
   C08J 7/04 20200101ALI20210906BHJP
【FI】
   B05D3/00 Z
   B05D7/24 301C
   B29C65/48
   C08J5/06
   C08J5/12CEZ
   C08J7/00 302
   C08J7/04 ACER
【請求項の数】14
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2021-5160(P2021-5160)
(22)【出願日】2021年1月15日
【審査請求日】2021年1月19日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】393020340
【氏名又は名称】金澤 等
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】金澤 等
【審査官】 市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/029733(WO,A1)
【文献】 特開2017−210636(JP,A)
【文献】 特開2000−351857(JP,A)
【文献】 国際公開第2020/196600(WO,A1)
【文献】 特開2019−178326(JP,A)
【文献】 特表2001−519449(JP,A)
【文献】 特開2001−233971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/00−7/26
B32B1/00−43/00
B29B11/16
15/08−15/14
C08J5/04−5/10
5/24−7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料を表面改質する方法であって、
(1)前記材料を酸化処理するステップと、
(2)酸化処理した前記材料を表面コーティングするステップと、
を含む、方法であって、前記酸化処理が、
(i)X線光電子分光法(XPS)により測定した場合に前記材料の表面の深さ10nm以内の(C−O結合)/(全炭素結合)%が酸化処理前より約1〜20%だけ増大するように実施されるか、
(ii)X線光電子分光法(XPS)により測定した場合に前記材料の表面の深さ10nm以内の(C−O結合)/(全炭素結合)%が約5〜15%となるように実施されるか、
(iii)X線光電子分光法(XPS)により測定した場合に前記材料の表面の深さ10nm以内のO/C原子数比が約0.03〜0.2となるように実施されることを特徴とし、
前記表面コーティングするステップが、酸化処理した前記材料に
(ア)親水性ビニルモノマーをグラフトすること、
(イ)親水性モノマーをグラフトし、親水性ポリマーを塗布すること、または
(ウ)ビニルエステルモノマーをグラフトし、加水分解に供すること
を含む、方法。
【請求項2】
材料を表面改質する方法であって、
(1)前記材料を酸化処理するステップと、
(2)酸化処理した前記材料を表面コーティングするステップと、
を含む、方法であって、前記酸化処理が、
(i)X線光電子分光法(XPS)により測定した場合に前記材料の表面の深さ10nm以内の(C−O結合)/(全炭素結合)%が酸化処理前より約1〜20%だけ増大するように実施されるか、
(ii)X線光電子分光法(XPS)により測定した場合に前記材料の表面の深さ10nm以内の(C−O結合)/(全炭素結合)%が約5〜15%となるように実施されるか、
(iii)X線光電子分光法(XPS)により測定した場合に前記材料の表面の深さ10nm以内のO/C原子数比が約0.03〜0.2となるように実施されることを特徴とし、
前記表面コーティングするステップによる酸化処理した前記材料の重量の増加が、約5%未満である、方法。
【請求項3】
前記材料を酸化処理するステップを、X線光電子分光法(XPS)により測定した場合に前記材料の表面の深さ10nm以内の(C−O結合)/(全炭素結合)%が酸化処理前より約1.5〜15%だけ増大するように実施する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記材料を酸化処理するステップを、X線光電子分光法(XPS)により測定した場合に前記材料の表面の深さ10nm以内の(C−O結合)/(全炭素結合)%が酸化処理前より約2〜10%だけ増大するように実施する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記材料を酸化処理するステップを、X線光電子分光法(XPS)により測定した場合に前記材料の表面の深さ10nm以内の(C−O結合)/(全炭素結合)%が約5〜15%となるように実施する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記材料を酸化処理するステップを、X線光電子分光法(XPS)により測定した場合に前記材料の表面の深さ10nm以内のO/C原子数比が約0.03〜0.2となるように実施する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか一項に記載の方法により前記材料を表面改質するステップと、
前記材料と第2材料とを界面密着または接着させるステップと
を含む、接着材料を製造する方法。
【請求項8】
前記界面密着または接着させるステップが、前記材料と第2材料との間に接着剤が存在する条件で実施される、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記材料を表面改質するステップから約1時間経過した後に、前記材料と第2材料とを界面密着または接着させるステップを実施し、ここで、「約」は示された値プラスまたはマイナス10%を指す、請求項またはに記載の方法。
【請求項10】
幅10mm、厚さ1mmの表面改質した前記材料を、接着面積が10mm×10mmとなるように厚さ0.2mmのアルミニウム板と接着した試験片について、20mm/分の速度、60mmの支持点間距離で引張試験を行った場合、前記酸化処理するステップを行わない以外は同じ条件で作製した材料から作製した接着材料と比較して、200N以上のせん断強度の向上をもたらす、請求項7〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記酸化処理するステップの前に、酸化処理する材料を洗浄するステップを含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記酸化処理するステップが、プラズマ処理、オゾン処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、高圧放電処理および化学酸化からなる群から選択される処理により酸化処理することを含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜のいずれか一項に記載の方法により製造された表面改質材料。
【請求項14】
請求項7〜12のいずれか一項に記載の方法により製造された接着材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、改善された材料の表面改質に関する。特に、本開示は、材料を表面改質する方法および材料間の接着性が改善された材料、ならびに界面密着または接着させて接着材料または複合材料を作製する方法およびそのように作製された表面改質材料、接着材料および複合材料を提供する。特に、本開示は、強固な繊維複合材料を提供する。
【背景技術】
【0002】
自動車部品、航空機部品、医療器具、電子機器など種々の製品において、異なる材料が一体となって形成された接着材料または複合材料が使用されている(国際公開第2005/075190号公報など)。接着材料または複合材料の強度は、特に異なる材料間の界面において不十分である場合があり、接着材料または複合材料の使用が制限され得る。そのため、異なる材料間の結合強度を向上させることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2005/075190号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明者は、適当な材料の表面改質条件を見出した。また、発明者は、異なる材料間を強固に結合する方法を見出した。さらに、発明者は、従来にない高強度の接着材料および複合材料を作製した。本開示は、このような知見に基づき、材料を表面改質する方法および材料間の界面密着性が改善された材料、ならびに界面密着または接着させることで接着材料または複合材料を作製する方法およびそのように作製された表面改質材料、接着材料および複合材料を提供する。
【0005】
したがって、本開示は以下を提供する。
(項目1)
材料を表面改質する方法であって、
(1)前記材料を酸化処理するステップと、
(2)酸化処理した前記材料を表面コーティングするステップと、
を含む、方法であって、前記酸化処理が、
(i)X線光電子分光法(XPS)により測定した場合に前記材料の表面の深さ10nm以内の(C−O結合)/(全炭素結合)%が酸化処理前より約1〜20%だけ増大するように実施されるか、
(ii)X線光電子分光法(XPS)により測定した場合に前記材料の表面の深さ10nm以内の(C−O結合)/(全炭素結合)%が約5〜15%となるように実施されるか、
(iii)X線光電子分光法(XPS)により測定した場合に前記材料の表面の深さ10nm以内のO/C原子数比が約0.03〜0.2となるように実施されることを特徴とする、方法。
(項目2)
前記材料を酸化処理するステップを、X線光電子分光法(XPS)により測定した場合に前記材料の表面の深さ10nm以内の(C−O結合)/(全炭素結合)%が酸化処理前より約1.5〜15%だけ増大するように実施する、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記材料を酸化処理するステップを、X線光電子分光法(XPS)により測定した場合に前記材料の表面の深さ10nm以内の(C−O結合)/(全炭素結合)%が酸化処理前より約2〜10%だけ増大するように実施する、項目11に記載の方法。
(項目4)
前記材料を酸化処理するステップを、X線光電子分光法(XPS)により測定した場合に前記材料の表面の深さ10nm以内の(C−O結合)/(全炭素結合)%が約5〜15%となるように実施する、項目1に記載の方法。
(項目5)
前記材料を酸化処理するステップを、X線光電子分光法(XPS)により測定した場合に前記材料の表面の深さ10nm以内のO/C原子数比が約0.03〜0.2となるように実施する、項目1に記載の方法。
(項目6)
項目1〜5のいずれか一項に記載の方法により前記材料を表面改質するステップと、
前記材料と第2材料とを界面密着または接着させるステップと
を含む、接着材料を製造する方法。
(項目7)
前記界面密着または接着させるステップが、前記材料と第2材料との間に接着剤が存在する条件で実施される、項目6に記載の方法。
(項目8)
前記材料を表面改質するステップから約1時間経過した後に、前記材料と第2材料とを界面密着または接着させるステップを実施する、項目6または7に記載の方法。
(項目9)
幅10mm、厚さ1mmの表面改質した前記材料を、接着面積が10mm×10mmとなるように厚さ0.2mmのアルミニウム板と接着した試験片について、20mm/分の速度、60mmの支持点間距離で引張試験を行った場合、前記酸化処理するステップを行わない以外は同じ条件で作製した材料から作製した接着材料と比較して、200N以上のせん断強度の向上をもたらす、項目6〜8のいずれか一項に記載の方法。
(項目10)
繊維材料が第2材料内に含まれている繊維複合材料を製造する方法であって、
(1)前記繊維材料および前記第2材料の少なくとも1つを酸化処理するステップと、
(2)前記酸化処理するステップの後に前記繊維材料と前記第2材料とを界面密着または接着させるステップと、
(3)前記第2材料を融解して、前記繊維複合材料を得るステップと、
を含む、方法。
(項目11)
前記第2材料が樹脂材料である、項目10に記載の方法。
(項目12)
長さ80mm、幅10mm、厚さ2mmの前記繊維複合材料の試験片について、2mm/分の速度、40mmの支持点間距離で3点曲げ試験を行った場合、前記酸化処理するステップを行わない以外は同じ条件で作製した繊維複合材料と比較して、1.2倍以上の曲げ強度をもたらす、項目10または11に記載の方法。
(項目13)
前記酸化処理が、
(i)X線光電子分光法(XPS)により測定した場合に前記材料の表面の深さ10nm以内の(C−O結合)/(全炭素結合)%が酸化処理前より約1〜20%だけ増大するように実施されるか、
(ii)X線光電子分光法(XPS)により測定した場合に前記材料の表面の深さ10nm以内の(C−O結合)/(全炭素結合)%が約5〜15%となるように実施されるか、
(iii)X線光電子分光法(XPS)により測定した場合に前記材料の表面の深さ10nm以内のO/C原子数比が約0.03〜0.2となるように実施されることを特徴とする、項目10〜12のいずれか一項に記載の方法。
(項目14)
前記繊維複合材料における繊維材料の重量割合が約30%以下である、項目10〜13のいずれか一項に記載の方法。
(項目15)
前記酸化処理するステップの前に、酸化処理する材料を洗浄するステップを含む、項目1〜14のいずれか一項に記載の方法。
(項目16)
前記酸化処理するステップが、プラズマ処理、オゾン処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、高圧放電処理および化学酸化からなる群から選択される処理により酸化処理することを含む、項目1〜15のいずれか一項に記載の方法。
(項目17)
前記表面コーティングするステップが、酸化処理した前記材料に
(ア)親水性ビニルモノマーをグラフトすること、
(イ)親水性モノマーをグラフトし、親水性ポリマーを塗布すること、または
(ウ)ビニルエステルモノマーをグラフトし、加水分解に供すること
を含む、項目1〜16のいずれか一項に記載の方法。
(項目18)
前記表面コーティングするステップによる酸化処理した前記材料の重量の増加が、約5%未満である、項目1〜17のいずれか一項に記載の方法。
(項目19)
項目1〜5のいずれか一項に記載の方法により製造された表面改質材料。
(項目20)
項目6〜18のいずれか一項に記載の方法により製造された接着材料または繊維複合材料。
(項目21)
長さ80mm、幅10mm、厚さ2mmの試験片について、2mm/分の速度、40mmの支持点間距離で3点曲げ試験によって評価した場合に、破断点において切断されない、項目20に記載の繊維複合材料。
(項目22)
第1材料と第2材料との界面密着または接着した接着材料であって、
前記第1材料と前記第2材料との間の界面に沿って前記接着材料を切断して得られる第1材料側半材料および第2材料側半材料のうちの少なくとも一方の切断表面が、X線光電子分光法(XPS)により測定した場合に材料表面の深さ10nm以内の(C−O結合)/(全炭素結合)%が約5〜15%である、接着材料。
(項目23)
長さ80mm、幅10mm、厚さ2mmの試験片について、2mm/分の速度、40mmの支持点間距離で3点曲げ試験によって評価した場合に、破断点において切断されない、繊維複合材料。
(項目24)
前記繊維複合材料における繊維材料の重量割合が約30%以下である、項目20、21または23に記載の繊維複合材料。
【0006】
本開示において、上記の1つまたは複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得ることが意図される。本開示のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0007】
本開示は、高強度の接着材料または複合材料を提供する。通常結合しない材料同士を使用した接着材料または複合材料も提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】酸化時間の異なるポリプロピレン試料のFTIR−ATRスペクトルを示す。
図2】酸化ポリプロピレン試料のFTIR−ATRスペクトルの吸光度比と酸化処理時間との関係を示す。
図3】強度に酸化した超高分子ポリエチレン試料のFTIR−ATRスペクトルを示す。
図4】ポリプロピレン試料の酸化時間とXPS測定における(A)C1sナロースペクトルおよび(B)O1sナロースペクトルとの関係を示す。
図5】ポリプロピレン試料のXPS−ナロースペクトルから求められたO1s/C1s軌道数の比と酸化処理時間との関係を示す。
図6】ポリプロピレン試料のXPS−ナロースペクトルから求められた炭素結合の種類およびその割合(%)と酸化処理時間との関係を示す。
図7】ポリプロピレン試料の酸化処理時間と結合C−O−Hの数の存在割合(%)との関係を示す。
図8】ポリプロピレン布の大気圧プラズマ放電処理時間とその試料の引張せん断強度の相対比を示す。
図9】ポリプロピレン布のオゾン処理時間と処理試料の引張せん断強度の相対強度との関係を示す。
図10】DHM処理ポリプロピレン板とアルミニウム板とを接着した試料における酸化処理時間と引張せん断強度との関係を示す。
図11】(A)ポリプロピレン(PP)繊維/エポキシ樹脂の繊維複合材料についての3点曲げ試験における加重-変位曲線を示す。(B)超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)繊維/エポキシ樹脂の繊維複合材料についての3点曲げ試験における加重-変位曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0010】
以下に本開示を、必要に応じて、添付の図面を参照して例示の実施例により説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0011】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0012】
(定義等)
本明細書において「複合材料」とは、異なる複数の材料(同じ素材であってもよい)が一体となって成形された材料を指す。例えば、複合材料は、材料間を界面密着または接着した成形品、または材料の少なくとも一部が溶解または融解され、溶解または融解された部分同士を混合し、固化した成形品などであり得る。特に、材料のうちの一つが繊維である複合材料を繊維複合材料と称し得る。また、本明細書において「接着材料」とは、材料間の接着によって作製された複合材料を指す。
【0013】
本明細書において「X線光電子分光分析」(XPSと略記され得る)とは、測定対象試料表面にX線を照射すると光電子が放出されることを利用する分析法を指し、測定対象試料の表層部の分析法として広く用いられる方法である。XPSによれば、測定対象の試料表面における分析により取得されるX線光電子分光スペクトルを用いて定性分析および定量分析を行うことができる。試料表面から分析位置までの深さ(以下、「検出深さ」とも記載する。)と光電子取り出し角との間には、一般に次の式:
検出深さ≒電子の平均自由行程×3×sinθ
(式中、検出深さは、X線光電子分光スペクトルを構成する光電子の95%が発生する深さであり、θは光電子取り出し角である)
が成立し得る。上記の式から、光電子取り出し角が小さいほど試料表面からの深さが浅い部分が分析でき、光電子取り出し角が大きいほど深い部分が分析できることが理解される。例えば、光電子取り出し角10度でのXPSによって行われる分析では、通常、試料表面から深さ数nm程度のごく表層部が分析位置になる。XPSによって行われる分析により得られるX線光電子分光スペクトル(横軸:結合エネルギー(eV)、縦軸:強度)の中で、例えば、C1sスペクトルは、炭素原子Cの1s軌道のエネルギーピークに関する情報を含んでいる。測定範囲内の材料の元素組成は、例えば、ワイドスキャン測定(スキャン範囲:0〜1000eV、エネルギー分解能:1eV/stepなど)により決定でき、例えば、各元素に対応する1sスペクトルのピーク面積から各元素の割合を算出することができる。ある特定の元素に関する結合状態は、ナロースキャン測定(スキャン範囲:その元素の1sスペクトル範囲、エネルギー分解能:0.1eVなど)により分析できる。例えば、C1sスペクトルにおいて、C−HおよびC−Cのピークは約284.6eVに位置し、C−Nのピークは約285.7eVに位置し、C−Oのピークは約286.1eVに位置し、C=Oのピークは約288eVに位置し、O−C−Oのピークは約289eVに位置する。その他の、炭素またはそれ以外の元素の結合ごとのeVピークの位置は公知であるかまたは当業者が容易に決定できる。XPS分析は、例えば、材料の0.1mmの面積の表面について実施することができる。
【0014】
本明細書において「樹脂」とは、同一の重合性化合物の重合体または異なる構造の2つ以上の重合性化合物の重合体を指し、単一重合体(ホモポリマー)および共重合体(コポリマー)を含む。
【0015】
本明細書において、用語「約」は、特に別の定義が示されない限り、示された値プラスまたはマイナス10%を指す。比率について使用する「約」は、示された比(X:Yなどと記載される)の左の値(X)のプラスまたはマイナス10%の比を指す。「約」が、温度について使用される場合、示された温度プラスまたはマイナス5℃を指す。
【0016】
(好ましい実施形態)
一つの局面において、本開示は、材料を表面改質する方法を提供し、この方法は、(1)材料の表面(例えば、10nm以内)の酸化レベルがX線光電子分光法(XPS)により測定した場合に特定の数値範囲となるように、材料を酸化処理するステップと、(2)酸化処理した材料を表面コーティングステップと、を含む。好ましい実施形態では、酸化処理するステップは、赤外線吸収スペクトルで検出可能なレベルを下回る材料の表面の酸化レベルを達成するように実施され得る。また、本開示は、表面改質した材料と第2材料とを界面密着または接着させるステップを含む、接着材料を製造する方法を提供する。本明細書において、「界面密着させる」とは、材料間を直接結合させることを意味する。本明細書において、「接着させる」とは、材料間を接着剤を介して結合させることを意味する。
【0017】
一つの局面において、本開示は、繊維材料が第2材料内に含まれている繊維複合材料を製造する方法を提供し、方法は、(1)繊維材料および第2材料の少なくとも1つを酸化処理するステップと、(2)酸化処理するステップの後に繊維材料と第2材料との界面密着または接着させるステップと、(3)第2材料を融解して、繊維複合材料を得るステップと、を含む。好ましい実施形態では、第2材料は樹脂材料(ゴムを含む)である。
【0018】
一つの局面において、本開示は、従来達成できなかったレベルの高強度の複合材料(例えば、繊維複合材料)を提供する。
【0019】
(材料)
本開示において界面密着または接着させる材料は、特に限定されないが、ポリマー素材、金属、ガラス、セラミック、シリコン、炭素素材、木材、これらの複合素材の材料などが挙げられ、任意のこれらの材料間の界面密着または接着させることが企図される。
【0020】
一つの実施形態において、ポリマー素材(例えば、樹脂(ゴムを含む))として、(1)付加重合体:オレフィン、ビニル化合物、ビニリデン化合物およびその他の炭素−炭素二重結合を有する化合物からなる群から選ばれる単量体の単独重合体または共重合体、(2)フッ素樹脂:ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン、パーフルオロエチレンープロピレン共重合体、パーフルオロエチレンプロペン共重合体、エチレンーテトラフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチン、エチレンークロロトリフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレンーパーフルオロジオキソール共重合体、ポリフッ化ビニル、(3)重縮合体:ポリエステル(ポリエチレンテレフタレートや脂肪族および全芳香族ポリエステルを含む)、ポリカーボネート、ポリベンゾエート、ポリイミド、ポリアミド(ナイロンを始めとする脂肪族ポリアミドおよび芳香族ポリアミドを含む)、(4)付加縮合体:フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、またはこれらの重合体、(5)重付加生成物:ポリウレタン、ポリ尿素など、またはこれらの重合体、(6)開環重合体:シクロプロパン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ラクトン、ラクタムなどの単独重合体または共重合体、(7)環化重合体:ジビニル化合物(例えば、1,4−ペンタジエン)、ジイン化合物(例えば、1,6−ヘプタジイン)などの単独重合体または共重合体、(8)異性化重合体:例えばエチレンとイソブテンの交互共重合体など、(9)電解重合体:ピロール、アニリン、アセチレンなどの単独重合体または共重合体、(10)ケイ素樹脂、シリコン樹脂、(11)アルデヒドまたはケトンのポリマー、(12)ポリエーテルスルホン、(13)天然ポリマー:セルロース、タンパク質、多糖類などが挙げられる。その他のポリマー素材(例えば、樹脂)として、ポリアセタール、ポリフェノール、ポリフェニレンエーテル、ポリアルキルパラオキシベンゾエート、ポリイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリ−p−フェニレンベンゾビスチアゾール、ポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンズオキサゾール、繊維ではアセテート、再生セルロース繊維(レーヨン、キュプラ、ポリノジック等)、ビニロン、ビニルアルコールと塩化ビニルの共重合体の繊維などが挙げられる。
【0021】
ポリマー素材(例えば、樹脂(ゴムを含む))を形成する単量体としてのビニル化合物、ビニリデン化合物およびその他の炭素−炭素二重結合を有する化合物として、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチル−ペンテン−1、オクテン−1、塩化ビニル、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸またはメタクリル酸のエステル、酢酸ビニル、ビニルエーテル類、ビニルカルバゾール、アクリロニトリル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、イソブチレン、無水マレイン酸、無水ピロメリット酸、1ーブテン酸、四フッ化エチレン、三フッ化塩化エチレン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどが挙げられる。具体的なポリマー素材(例えば、樹脂)の例としては、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリオレフィン、アクリル、ポリ酢酸ビニル、AS(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリアリルジグリコールカーボネート、ブタジエンを含む共重合体、合成ゴム、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、レーヨン、キュプラ、ポリスチレン(PS)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリアラミド、ポリイミド、ポリアミド(ナイロン)、ポリメチルペンテン(三井化学のTPX(登録商標))、ビニロン、木綿、麻、絹、羊毛、などが挙げられる。
【0022】
一つの実施形態において、ポリマー素材(例えば、樹脂)は、単独種のポリマーから形成されていてもよいし、複数種のポリマーの混合物から形成されていてもよい。一つの実施形態において、ポリマー素材(例えば、樹脂)は、熱可塑性であってもよいし、熱硬化性であってもよい。
【0023】
一つの実施形態において、材料は、繊維、織物、不織布、布、板、フィルム、シート、管、棒、中空容器、箱、発泡体、積層体などの形状を有し得るが、特に限定されない。
【0024】
一つの実施形態において、材料(例えば、ポリマー素材)には、酸化防止剤、安定剤、造核剤、難燃剤、充填剤、発泡剤、帯電防止剤などの添加剤が含まれていてもよい。
【0025】
(処理)
一つの実施形態において、表面改質処理の前に、材料の表面を洗浄して不純物を除去してもよい。一つの実施形態において、材料の溶解度パラメータと約0.5〜10、例えば、約0.5、約1、約1.5、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10またはこれらの値のうち任意の2つの間の範囲だけ異なるSP値を有する溶剤または溶剤の混合物で材料が洗浄され得る。例えば、ポリオレフィン、シリコン樹脂、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどはアルコールまたはトルエンで洗浄することが好ましく行われる。アセテート、ナイロン、ポリエステル、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリカーボネート、ポリウレタンなどはアルコールで洗浄するのが好ましい。レーヨン、キュプラなどのセルロース系材料は洗剤で洗浄後、アルコールで洗浄するのが好ましい。一つの実施形態において、シリコンオイルは、本明細書に記載の酸化処理するステップにおいて材料表面の酸化を阻害し得るので、除去ずることが好ましい。シリコンオイルを除去するために、例えば、溶解度パラメータ=約7〜10(例えば、約7、約8、約9、約10またはこれらの値のうち任意の2つの間の範囲など)の溶剤、イソプロピルアルコール、naxシリコンオフSP(日本ペイント)などの洗浄剤で材料の表面を洗浄してもよい。一つの実施形態において、材料は、材料の体積の約0.05〜1倍、例えば、約0.05、約0.1、約0.2、約0.3、約0.4、約0.5、約0.7、約1倍またはこれらの値のうち任意の2つの間の範囲の体積の洗浄剤で洗浄され得る。一つの実施形態において、材料は2〜5回洗浄剤で洗浄され得る。一つの実施形態において、洗浄は、材料の表面を溶解しないような溶剤および温度の組み合わせで実施され得る。
【0026】
一つの実施形態において、表面改質処理の前に、材料表面に傷をつける(やすりでこするなど)ことで粗面化処理してもよく、この処理によって界面密着または接着する面積が増え、形成される複合材料の強度が向上し得る。一つの実施形態において、表面改質処理の前に、材料(特に、ポリマー素材)を含浸処理してもよい。含浸処理とは、材料に親和性のある化合物(含浸剤)を材料の軟化点以下の温度で接触させて、含浸剤を材料表面に導入する処理である。含浸処理によって、材料が実質的に変形しないことが好ましい。含浸剤が材料の非結晶領域にしみ込んで、材料内部に隙間が形成され得る。含浸処理は、表面改質処理における酸化処理するステップ、グラフト化するステップなどを容易にし得る。材料に親和性のある任意の化合物が含浸剤として使用され得る。一つの実施形態において、含浸剤は、材料の溶解度パラメータ(SP値)より約0.5、約1、約2、約3、約4または約5だけ異なるSP値を有する溶剤または溶剤の混合物であり得る。常温で材料を溶解する溶剤であっても、低温かつ/または短時間で使用すれば含浸剤として使用され得る。含浸剤は、材料の種類に対応して選択することができ、例えば、ポリプロピレン材料には、トルエン、キシレン、デカリン、テトラリン、シクロヘキサン、ジクロロエタン1容量およびエタノール4容量の混合物などを含浸剤として使用でき、ポリエチレン材料には、トルエン、キシレン、α−クロルナフタレン、ジクロロベンゼン1容量およびメタノール1容量の混合物などを含浸剤として使用でき、ポリスチレン材料には、トルエン1容量およびメタノール10容量の混合物などを含浸剤として使用でき、ポリエチレンテレフタレート材料には、フェノール1容量およびヘキサン10容量の混合物などを含浸剤として使用でき。
【0027】
一つの実施形態において、本開示の表面改質は、材料表面を酸化処理するステップを含む。一つの実施形態において、材料の酸化処理は、XPS測定した場合に、この材料の表面の深さ10nm以内の(主要な元素と酸素との結合(例えば、C−O結合、Si−O結合など))/(全同元素(例えば、炭素、ケイ素)結合)%が、酸化処理前より約1〜20%、約1.5〜15%、または約2〜10%だけ増大するように実施され得る。一つの実施形態において、材料の酸化処理は、XPS測定した場合に、この材料の表面の深さ10nm以内の(主要な元素と酸素との結合(例えば、C−O結合、Si−O結合など))/(全同元素(例えば、炭素、ケイ素)結合)%が、約3〜25%、約4〜20%または約5〜15%となるように実施され得る。
【0028】
一つの実施形態において、材料の酸化処理は、XPS測定した場合に、この材料の表面の深さ10nm以内の水素を除く全原子中の酸素原子の割合が、酸化処理前より約1〜20%、約1.5〜15%または約2〜10%だけ増大するように実施され得る。一つの実施形態において、材料の酸化処理は、XPS測定した場合に、この材料の表面の深さ10nm以内の水素を除く全原子中の酸素原子の割合が、約3〜25%、約4〜20%または約5〜15%となるように実施され得る。
【0029】
一つの実施形態において、材料の酸化処理は、XPS測定した場合に、ブロック状のポリプロピレン素材の材料の表面の深さ10nm以内の(C−O結合)/(全炭素結合)%が、酸化処理前より約1〜20%、約1.5〜15%、または約2〜10%だけ増大するような条件で実施され得る。一つの実施形態において、材料の酸化処理は、XPS測定した場合に、ブロック状のポリプロピレン素材の材料の表面の深さ10nm以内の(C−O結合)/(全炭素結合)%が、約3〜25%、約4〜20%または約5〜15%となるような条件で実施され得る。
【0030】
一つの実施形態において、材料の酸化処理は、XPS測定した場合に、ブロック状のポリプロピレン素材の材料の表面の深さ10nm以内の水素を除く全原子中の酸素原子の割合が、酸化処理前より約1〜20%、約1.5〜15%または約2〜10%だけ増大するような条件で実施され得る。一つの実施形態において、材料の酸化処理は、XPS測定した場合に、ブロック状のポリプロピレン素材の材料の表面の深さ10nm以内の水素を除く全原子中の酸素原子の割合が、約3〜25%、約4〜20%または約5〜15%となるような条件で実施され得る。
【0031】
一つの実施形態において、材料の酸化処理は、XPS測定した場合に、ブロック状のポリプロピレン素材の材料の表面の深さ10nm以内の酸素原子/炭素原子比が、酸化処理前より約1〜20%、約1.5〜15%または約2〜10%だけ増大するような条件で実施され得る。一つの実施形態において、材料の酸化処理は、XPS測定した場合に、ブロック状のポリプロピレン素材の材料の表面の深さ10nm以内の酸素原子/炭素原子比が、約3〜25%、約4〜20%または約5〜15%となるような条件で実施され得る。
【0032】
上記のXPS測定における線源は、例えば、Cr Kα線、Al Kα線などであり得る。上記のXPS測定における入射角は、例えば、約10°、約20°、約30°、約40°、約50°、約60°、約70°、約80°または約90°であり得る。上記のXPS測定における取り出し角は、例えば、約10°、約20°、約30°、約40°、約50°、約60°、約70°、約80°または約90°であり得る。上記のXPS測定における原子数または結合数は、1sの測定結果のみから得られた値であり得る。上記のXPS測定は、酸化処理後、材料を洗浄して実施され得る。
【0033】
酸化処理による酸素の導入の程度は、赤外線吸収スペクトルでも測定でき、例えば、酸化処理した材料において導入されたカルボニル基に基づく吸収の吸光度と、未変化の結晶部分の構造に基づく吸収の吸光度との比により評価でき、例えばポリプロピレン材料の場合には、導入されたカルボニル基に基づく1710cm−1付近の吸光度と未変化の結晶部分メチル基に基づく吸収の973cm−1での吸光度の比が酸素の導入の指標となり得る。しかし、発明者らは、一般に赤外線吸収スペクトルで検出可能な程度の酸化処理は過度であり、むしろ接着材料または複合材料の強度を低下させ得ることを見出し、X線光電子分光法(XPS)により測定した場合に上記の特定の数値範囲となるような酸化処理の程度が好ましいことを見出した。特に、繊維形状またはフィルム形状の材料を使用した接着材料または複合材料において過度の酸化処理は強度の低下をもたらし得る。酸化処理の程度は、処理の時間などを調整することによって当業者が容易に設定できる。
【0034】
一つの実施形態において、本明細書に記載の方法は、繊維材料(繊維形状の材料の他にフィルム形状の材料も含み得る)の表面を酸化処理するステップを含む。繊維材料は、任意の素材であってよく、例えば、本明細書に記載のポリマー素材(例えば、樹脂)、金属、ガラス、炭素素材、またはこれらの複合素材の材料であり得る。一つの実施形態において、繊維材料の素材は、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン、アクリル、ポリ酢酸ビニル、レーヨン、キュプラ、ビニロン、ポリスチレン(PS)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリアラミド、ポリイミドまたはポリアミドであり得る。一つの実施形態において、繊維材料は、複数の繊維材料を混合した混合繊維材料であり得る。特に、高強度の繊維(炭素繊維、ガラス繊維など)と、高いじん性を有する繊維(ポリプロピレン繊維など)との混合繊維を使用して、繊維樹脂複合材料を作製することで高い強度および高いじん性の両方が達成され得る。一つの実施形態において、繊維材料は、これらに限定されないが、約10nm〜約1000μm、例えば、約10nm〜約1000μm、約100nm〜約1000μm、約1μm〜約1000μm、約10μm〜約1000μm、約100μm〜約1000μm、約10nm〜約100μm、約100nm〜約100μm、約1μm〜約100μm、約10μm〜約100μm、約10nm〜約10μm、約100nm〜約10μm、約1μm〜約10μm、約10nm〜約1μm、約100nm〜約1μmまたは約10nm〜約100nmの直径を有し得る。直径が小さいほど低い酸化処理の程度が好ましくあり得る。一つの実施形態において、繊維材料は、細い直径(例えば、約1μm〜約100μm)のフィラメントが撚り合わされてより太い直径(例えば、約100μm〜約1000μm)の繊維を形成していてもよい。
【0035】
酸化処理するステップは、プラズマ処理、オゾン処理、紫外線照射処理、高圧放電処理、化学酸化などによって実施することができる。
【0036】
オゾン処理は、材料の表面をオゾンに暴露する処理である。暴露方法は、オゾンが存在する雰囲気に材料を所定時間保持する方法、オゾン気流中に材料を所定時間暴露する方法など任意の方法であり得る。オゾンは、空気、酸素ガスまたは酸素添加空気などの酸素含有気体をオゾン発生装置に供給することによって発生させることができ、オゾン含有気体を、材料を保持してある容器などに導入して、オゾン処理を行うことができる。本明細書に記載の材料の酸化の程度となるように、オゾン含有気体中のオゾン濃度、暴露時間、暴露温度などの条件を、材料に応じて決定できる。
【0037】
プラズマ処理は、材料を、アルゴン、ネオン、ヘリウム、窒素、二酸化窒素、酸素あるいは空気等を含む容器内におき、グロー放電により生ずるプラズマに暴露する処理である。アルゴンやネオンなどの不活性ガスが低圧で存在する場合、材料表面は発生したプラズマの攻撃を受け、その表面にラジカルが発生し得る。その後、空気に暴露されることにより、ラジカルは酸素と結合して、材料表面にカルボン酸基やカルボニル基、アミノ基などが導入され得る。本明細書に記載の材料の酸化の程度となるように、グロー放電の強度、時間、ガスの種類などの条件を、材料に応じて決定できる。
【0038】
紫外線照射処理は、材料の表面に紫外線を照射する処理である。紫外線を照射する光源としては、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、キセノンランプ、メタルハライドランプなどを用いることができる。一つの実施形態において、照射前に紫外線吸収性溶剤で材料の表面を処理してもよい。本明細書に記載の材料の酸化の程度となるように、紫外線の波長、強度、照射時間などの条件を、材料に応じて決定できる。一つの実施形態において、紫外線の波長は、360nmまたはそれ以下であり得る。
【0039】
高圧放電処理は、トンネル状の処理装置内で材料を移動させながら、処理装置の内側の壁面に多数設置された電極間に数十万ボルトの高電圧を加え、空気中で放電させる処理である。本明細書に記載の材料の酸化の程度となるように、放電の強度、時間などの条件を、材料に応じて決定できる。
【0040】
コロナ放電処理は、接地された金属ロールとそれに数mmの間隔で置かれた針金状の電極との間に数千ボルトの高電圧をかけてコロナ放電を発生させ、この放電中の電極−ロール間に材料を通過させる処理である。本明細書に記載の材料の酸化の程度となるように、放電の強度、時間などの条件を、材料に応じて決定できる。
【0041】
化学酸化は、酸化能を有する化合物(酸化剤)を材料表面に適用する酸化処理である。酸化剤は、当該技術分野において任意の好適なものを当業者が適宜選択できる。
【0042】
一つの実施形態において、オゾン処理以外の材料表面を酸化処理する処理は、材料に放射することによって表面を酸化するため、不織布のような繊維集合体などの材料の形状によって影になる部分が存在する場合、オゾン処理が好ましい。
【0043】
一つの実施形態において、表面コーティングするステップは、酸化処理した材料に(ア)親水性ビニルモノマーをグラフトすること、(イ)親水性モノマーをグラフトし、親水性ポリマーを塗布すること、(ウ)親水性ポリマーを塗布すること、(エ)親水性ポリマーを塗布し、親水性モノマーをグラフトすること、または(オ)ビニルエステルモノマーをグラフトし、加水分解に供することを含む。モノマーおよびポリマーが親水性であるかどうかは、ヒドロキシル基、カルボキシル基、リン酸基またはスルホ基の存在、あるいは水に対する溶解性に基づき当業者に通常理解される。これらのモノマーおよびポリマーの具体例は、本明細書の別の箇所に記載される。
【0044】
一つの実施形態において、表面コーティングするステップは、酸化処理した材料の重量を実質的に増加させない。通常のグラフト化処理は、試料の重量を10〜20%増大させることもあり、この場合、グラフト部分が脱離することがある。他方、本開示の表面コーティングは、このような問題を生じにくいため、好ましくあり得る。一つの実施形態において、表面コーティングするステップは、酸化処理した材料の重量を、約5%未満、約2%未満、約1%未満、約0.5%未満、約0.2%未満、または約0.1%未満だけ増加させる。
【0045】
一つの実施形態において、本開示の表面改質は、材料の表面にモノマーをグラフト化するステップを含み得る。グラフト化するステップは、表面を酸化処理するステップの後に実施してもよいし、材料をポリマーで処理(塗布)するステップの後に実施してもよい。グラフト化するモノマーは、グラフト可能なものであれば制限はないが、炭素−炭素二重結合を有する化合物などを使用することができる。親水性モノマーとして、例えば、(メタ)アクリルアミド、1−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、1−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、1−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどの(アルキル)アミノアルキル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどのアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどのポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エチレングリコールアリルエーテル、エチレングリコールビニルエーテル、(メタ)アクリル酸、アミノスチレン、ヒドロキシスチレン、酢酸ビニル、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、プロピオン酸ビニル、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミド、N−(1−ヒドロキシエチル)メタクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、メタクリロイルモルホリン、N−ビニル−1−ピロリドン、N−ビニル−3ーメチル−1−ピロリドン、N−ビニル−4−メチル−1−ピロリドン、N−ビニル−5−メチル−1−ピロリドン、N−ビニル−6−メチル−1−ピロリドン、N−ビニル−3−エチル−1−ピロリドン、N−ビニル−4,5−ジメチル−1−ピロリドン、N−ビニル−5,5−ジメチル−1−ピロリドン、N−ビニル−3,3,5−トリメチル−1−ピロリドン、N−ビニル−1−ピペリドン、N−ビニル−3−メチル−1−ピペリドン、N−ビニル−4−メチル−1−ピペリドン、N−ビニル−5−メチル−1−ピペリドン、N−ビニル−6−メチル−1−ピペリドン、N−ビニル−6−エチル−1−ピペリドン、N−ビニル−3,5−ジメチル−1−ピペリドン、N−ビニル−4,4−ジメチル−1−ピペリドン、N−ビニル−1−カプロラクタム、N−ビニル−3−メチル−1−カプロラクタム、N−ビニル−4−メチル−1−カプロラクタム、N−ビニル−7−メチル−1−カプロラクタム、N−ビニル−7−エチル−1−カプロラクタム、N−ビニル−3,5−ジメチル−1−カプロラクタム、N−ビニル−4,6−ジメチル−1−カプロラクタム、N−ビニル−3,5,7−トリメチル−1−カプロラクタムなどのN−ビニルラクタム、N−ビニルホルムアミド、N−ビニル−N−メチルホルムアミド、N−ビニル−N−エチルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニル−N−メチルアセトアミド、N−ビニル−N−エチルアセトアミド、N−ビニルフタルイミド、N−ビニルアミド、ビニル酢酸、1−ブテン酸、2−ブテン酸、エチレンスルホン酸、ヒドロキシアルキルアクリレート、ヒドロキシアルキルメタクリレート、アクリルアミド、ビニルピリジン、ビニルピロリドン、ビニルカルバゾール、無水マレイン酸、無水ピロメリット酸が挙げられる。より親水性の低いモノマーとして、例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、酢酸ビニルエステル、スチレンなどのビニルモノマーが挙げられる。1種のモノマーまたは複数種のモノマーの混合物を使用してグラフト化できる。
【0046】
モノマーのグラフト化は、(1)触媒または開始剤(以下総称して「開始剤」という。)の添加、(2)開始剤の存在下または不存在下における加熱、(3)触媒または開始剤の存在下または不存在下における紫外線照射などによって実施できる。開始剤として、過酸化物(過酸化ベンゾイル、t−ブチルヒドロキシペルオキシド、ジ−t−ブチルヒドロキシペルオキシド等)、アゾ化合物(2,2’−アゾビスイソブチロニトリル)、硝酸二セリウムアンモニウム(IV)、過硫酸塩(過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなど)、酸化還元系開始剤(酸化剤:過硫酸塩、過酸化水素、ヒドロペルオキシドなどと、無機還元剤:銅塩、鉄塩、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムなど、または有機還元剤:アルコール、アミン、シュウ酸などとの組み合わせ、あるいは酸化剤:ヒドロペルオキシドなどと、無機還元剤:銅塩、鉄塩、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムなど、または有機還元剤:過酸化ジアルキル、過酸化ジアシルなどと、還元剤:第三アミン、ナフテン酸塩、メルカプタン、有機金属化合物(トリエチルアルミニウム、トリエチルホウ素など)などとの組み合わせ)、その他の公知のラジカル重合開始剤が挙げられる。紫外線照射の場合には、開始剤の他に、触媒としてベンゾフェノン、過酸化水素などの光増感剤を添加してもよい。一つの実施形態において、アミド基を有するビニルモノマーを使用し、特開平8−109228号に記載される方法よりアミド基をホフマン転移してもよい。
【0047】
モノマーのグラフト化は、一般的なグラフト化方法を使用できる。具体例を以下に示す。水溶性の開始剤の場合は水に必要量を溶解する。水不溶性の開始剤の場合は、アルコールやアセトンなどのような水と混合する有機溶剤(アセトン、メタノールなど)に溶解してから、開始剤が析出しないように水と混合する。開始剤溶液に、材料およびモノマーを添加してグラフト化を行う。一つの実施形態において、処理容器内は窒素置換される。一つの実施形態において、加熱および/または紫外線照射の下でグラフト化させる。
【0048】
一つの実施形態において、本開示の表面改質は、材料の表面をポリマーで処理(例えば、塗布)するステップを含む。このステップにおいて使用するポリマーの例として、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、エチレンービニルアルコール共重合体、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリ−α−ヒドロキシビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリ−α−ヒドロキシアクリル酸、ポリビニルピロリドン、ポリアルキレングリコール(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなど)、またこれらのスルホン化物、アルギン酸ナトリウム、デンプン、絹フィブロイン、絹セリシン、ゼラチン、各種タンパク質、多糖類などが挙げられる。
【0049】
一つの実施形態において、材料の表面をポリマーで処理するステップは、触媒もしくは開始剤の存在下で実施され得る。触媒および開始剤は、モノマーによるグラフト化における開始剤と同様のものを使用できる。一つの実施形態において、このステップは、材料にポリマーを含む溶液(例えば、水溶液)を添加することで実施される。例えば、ポリマーおよび開始剤を含む溶液に材料を入れて、10〜80℃、60〜90℃などの温度に加熱する。
【0050】
一つの実施形態において、本開示の表面改質は、表面に付着した余分なポリマーを洗浄するステップを含む。例えば、親水性ポリマーで処理した材料について、脂肪酸ナトリウム水溶液(濃度1〜10重量%)で煮沸洗浄を1〜10分間行い、その後、よく水洗してもよい。一つの実施形態において、洗浄後の親水性ポリマーで処理した材料の表面について、全反射赤外線吸収スペクトルを測定した際に、その赤外線吸収スペクトルと酸化処理だけを行った材料の赤外線吸収スペクトルとの間に違いが見られない程度に洗浄することができる。親水性の乏しい単量体またはポリマー、例えば、メタクリル酸メチルまたはそのポリマー、または酢酸ビニルまたはそのポリマーで処理した場合には、クロロホルムで40℃で10〜60分間洗浄して、さらにクロロホルムまたはアセトン、メタノールで洗浄できる。一つの実施形態において、全反射赤外線吸収スペクトル測定において、処理した材料のカルボニル基による1710cm-1付近の吸収が、酸化処理のみの材料と比べて、0〜5%程度の吸光度の増加が見られる程度まで洗浄する。一つの実施形態において、加熱したうえで、超音波洗浄器で洗浄することで、材料は効果的に洗浄され得る。一つの実施形態において、洗浄の程度および使用する洗浄剤は、接着材料または複合材料の強度を指標にして当業者が適切に設定できる。
【0051】
一つの実施形態において、本開示の方法により表面改質した材料は、第2の材料と界面密着または接着させて接着材料を形成することができる。一つの実施形態において、本開示の方法により表面改質した材料は、第2の材料と同じ素材であってもよいし、異なる素材であってもよい。一つの実施形態において、第2の材料は表面改質(例えば、本開示の方法による表面改質)されていてもよい。一つの実施形態において、第2の材料と界面密着または接着させるステップにおいて、接着剤を使用してもよいし、使用しなくてもよい。接着剤として、でんぷん、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、エポキシ樹脂系、重合性シアノアクリレートなど公知の任意の接着剤が使用され得る。一つの実施形態において、第2の材料と界面密着または接着させるステップは、本開示の方法により表面改質した材料および第2の材料の両方を溶解できる溶剤を少量塗布して、塗布部分を密着させることで実施してもよい。ポリテトラフルオロエチレンまたはポリイミドと界面密着または接着させることは比較的困難であり得るが、本開示の方法に従って、これらの材料から作製された強固な接着材料または複合材料も達成され得る。本開示の方法により表面改質した材料は、第2の材料とすぐに界面密着または接着させず、時間(例えば、約30分〜約30、約30分日、約1時間、約2時間、約5時間、約10時間、約15時間、約20時間、約1日、約2日、約5日、約10日、約15日、約20日、約25日、約30日など)が経過した後でも、第2の材料と強固に結合し得る。そのため、本開示の方法により表面改質した材料自体も、本開示の目的である。
【0052】
一つの実施形態において、本開示は、繊維材料が第2材料内に含まれている繊維複合材料を製造する方法を提供する。一つの実施形態において、この方法における繊維材料は、本明細書に記載の繊維材料の表面を酸化処理するステップにおける繊維材料の特徴を有し得る。一つの実施形態において、この方法は、(1)繊維材料および第2材料の少なくとも1つを酸化処理するステップと、(2)酸化処理するステップの後に繊維材料と第2材料との界面密着または接着させるステップと、(3)第2材料を融解して、繊維複合材料を得るステップとを含む。一つの実施形態において、第2材料は、ゴムなどの半固体材料であり得るが、このような場合の第2材料の融解とは、例えば、高温に供することにより流動性を高めることなどを指し、必ずしも固体から液体への相変化を伴う必要はない。この実施形態において、典型的には、第2材料は、熱可塑性樹脂であり、例えば、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリオレフィン、アクリル、ポリ酢酸ビニル、AS(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリアリルジグリコールカーボネート、ブタジエンを含む共重合体、合成ゴム、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、レーヨン、キュプラ、ポリスチレン(PS)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリアラミド、ポリイミド、ポリアミド(ナイロン)、ポリメチルペンテン(三井化学のTPX(登録商標))、ビニロン、シリコンなどの樹脂であり得る。一つの実施形態において、第2材料は、ゴムなどの軟材料であり得る。一つの実施形態において、ステップ(2)における結合を強固にするために、第2材料は粉末、顆粒、フィルムなどの繊維材料との接触面積が大きくなる形状であってもよい。一つの実施形態において、ステップ(2)では、材料を圧力(例えば、プレス)および/または加熱に供してもよい。一つの実施形態において、繊維材料および第2材料は両方とも酸化処理される。第2材料の融解は任意の好適な温度で実施することができ、一つの実施形態において、第2材料が変性または分解する温度未満で実施される。一つの実施形態において、この方法は、(1)繊維材料を酸化処理するステップと、(2)酸化処理するステップの後に繊維材料と硬化前の第2材料(流体)とを混合するステップと、(3)ステップ(2)の混合物を第2材料が硬化する条件に供するステップとを含む。この実施形態において、典型的には、第2材料は、熱硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂)である。この実施形態において、第2材料を硬化させる条件は、使用した第2材料に応じて当業者が適切に決定できる。
【0053】
(複合材料)
一つの局面において、本開示は、高強度の複合材料(例えば、繊維複合材料)を提供する。本開示の方法は、材料間の界面密着性を大幅に向上させることができるので、高強度の複合材料を提供し得る。一つの局面において、本開示の複合材料(例えば、繊維複合材料)は、破断点(曲げ試験または引張試験において負荷を増大させていった場合に、測定器にかかる負荷が大きく減少する点)においてまたは破断点を超えて切断されないことで特徴付けられ得る。繊維および第2材料は、それぞれ本明細書に記載の繊維複合材料を作製する方法において説明される材質、形状および/または性質を有し得る。一つの実施形態において、本開示の複合材料における繊維材料の重量割合は、約40%以下、約30%以下、約20%以下、約10%以下、または約5%以下であり得る。従来の繊維複合材料よりも少ない割合の繊維材料を使用した場合であっても、本開示の複合材料は十分な強度を有し得るため、製造上好ましくあり得、また問題となり得る炭素繊維の廃棄処理の負担も軽減し得るという利点も奏し得る。
【0054】
一つの実施形態において、本開示の複合材料は、従来では達成されなかった高強度を有し得る。一つの実施形態において、本開示の複合材料は、長さ80mm、幅10mm、厚さ2mmの前記複合材料の試験片について、2mm/分の速度、40mmの支持点間距離で3点曲げ試験または引張試験を行った場合、破断点においてまたは破断点を超えて(例えば、破断点から5%または10%増大した変位距離または負荷の点において)切断されず、少なくとも部分的に材料が繋がっている。一つの実施形態において、本開示の複合材料は、長さ80mm、幅10mm、厚さ2mmの前記複合材料の試験片について、2mm/分の速度、40mmの支持点間距離で3点曲げ試験を行った場合、酸化処理するステップを行わない以外は同じ条件で作製した複合材料と比較して、約1.1倍以上、約1.2倍以上、約1.5倍以上、約1.7倍以上または約2倍以上の曲げ強度を有する。一つの実施形態において、本開示の複合材料は、長さ80mm、幅10mm、厚さ2mmの前記複合材料の試験片について、2mm/分の速度、40mmの支持点間距離で3点曲げ試験を行った場合、酸化処理するステップを行わない以外は同じ条件で作製した複合材料と比較して、約10MPa以上、約20MPa以上、約50MPa以上、約70MPa以上または約100MPa以上の曲げ強度の向上をもたらす。
【0055】
一つの実施形態において、本開示の複合材料は、長さ80mm、幅10mm、厚さ2mmの前記複合材料の試験片について、20mm/分の引張速度、40mmの支持点間距離で引張試験を行った場合、酸化処理するステップを行わない以外は同じ条件で作製した複合材料と比較して、約1.1倍以上、約1.2倍以上、約1.5倍以上、約1.7倍以上または約2倍以上の引張せん断強度を有する。一つの実施形態において、本開示の複合材料は、長さ80mm、幅10mm、厚さ2mmの前記複合材料の試験片について、20mm/分の引張速度、40mmの支持点間距離で引張試験を行った場合、酸化処理するステップを行わない以外は同じ条件で作製した複合材料と比較して、約50kgf以上、約70kgf以上、約100kgf以上または約200kgf以上の引張せん断強度の向上をもたらす。
【0056】
一つの実施形態において、本開示の繊維と第2材料との複合材料は、長さ80mm、幅10mm、厚さ2または3mmの試験片について、2mm/分の速度、40mmの支持点間距離で3点曲げ試験によって評価した場合に、その第2材料単独の強度の約1.1倍以上、約1.2倍以上、約1.5倍以上、約1.7倍以上または約2倍以上の曲げ強度を有し得る。本開示の樹脂複合材料(例えば、繊維―樹脂複合材料)は、材料間の界面密着性が高いので、複合材料の強度を保ったまま、樹脂部分に対してさらに同種または異なる種類の樹脂を混合することができる(例えば、融解した樹脂同士を混合することで)。そのため、本開示の樹脂複合材料(例えば、繊維―樹脂複合材料)は、最終品として使用されるだけでなく、芯材料として使用することもでき、種々の成形品の作製に利用できる。
【0057】
一つの実施形態において、第1材料および第2材料を界面密着または接着させた接着材料は、第1材料と第2材料との間の界面に沿って接着材料を切断して得られる第1材料側半材料および第2材料側半材料のうちの少なくとも一方の切断表面について、X線光電子分光法(XPS)により測定した場合に材料表面の深さ10nm以内の酸素原子/炭素原子比および/または(C−O結合)/(全炭素結合)%が、本開示の酸化処理するステップによって材料表面で達成されるような値であり得る。一つの実施形態において、第1材料および第2材料の界面密着または接着させた接着材料は、第1材料と第2材料との間の界面に沿って接着材料を切断して得られる第1材料側半材料および第2材料側半材料のうちの少なくとも一方の切断表面について、X線光電子分光法(XPS)により測定した場合に材料表面の深さ10nm以内の水素を除く全原子中の酸素原子の割合および/または(C−O結合)/(全炭素結合)%を材料の中心部分の領域と比較した場合の上昇が、本開示の酸化処理するステップによって材料表面で達成されるこの割合を未処理の同じ材料と比較した場合の上昇の値であり得る。
【0058】
(表面改質材料)
一つの局面において、本開示は、本開示の方法により表面改質された材料を提供する。一つの実施形態において、この表面改質された材料は、接着材料または複合材料を提供するための接着材料として使用される。本開示の方法により表面改質した材料は、表面改質後すぐに接着材料または複合材料に成型しなくても、高強度の接着材料または複合材料を提供し得るので、材料同士を界面密着または接着させる前の表面改質材料も有用であり得る。一つの実施形態において、この表面改質された材料は、接着材料または複合材料を提供する以外の用途に使用することができ、例えば、本開示の方法は、材料の強度を損なうことなく表面改質を可能にし得るため、表面改質された材料はコーティング(例えば、親水性材料によるコーティング)に好適であり得る。また、そのようにコーティングされた表面改質材料も本開示では企図される。
【0059】
一つの実施形態において、本開示の表面改質した材料は、幅10mm、厚さ1mmの表面改質した材料を、接着面積が10mm×10mmとなるように厚さ0.2mmのアルミニウム板と接着した試験片について、20mm/分の速度、60mmの支持点間距離で引張試験を行った場合、酸化処理するステップを行わない以外は同じ条件で作製した材料から作製した接着材料と比較して、約150N以上、約200N以上、約250N以上、約300N以上、約350N以上、約400N以上または約450N以上のせん断強度の向上をもたらすように表面改質されている。
【0060】
(用途)
本開示の接着材料、複合材料または表面改質された材料は、任意の用途に使用することができ、例えば、輸送用車両(自動車、航空機など)の部品、医療器具の部品、歯科材料、建材、表面コーティング、積層物などにおいて使用することができる。また、本開示の接着材料、複合材料または表面改質された材料は、接着材料または複合材料を構成する各材料が使用されるいずれの用途においても好適に使用され得る。本開示の方法は、これらの用途の接着材料、複合材料または表面改質された材料を提供するものでもある。
【0061】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0062】
以下の実施例において、モノマー試薬に含まれる重合禁止剤は、活性炭を詰めたガラスカラムにモノマー試薬を通過させて、簡易的に吸着除去した。基本的に、グラフト化は窒素雰囲気下で行った。
【0063】
[実施例1:FTIRおよびXPS測定による酸化の評価]
酸化した材料について、FTIR測定およびXPS測定でそれぞれ評価した。
【0064】
・酸化処理
ポリプロピレン板(10mm×80mm×0.5mm)(アズワン61-6034-78)を大気中プラズマ処理することで酸化した。装置は、独自に製造した試料送り装置を接続した大気圧プラズマ装置(魁半導体(京都)卓上ダイレクト型TK-50)を使用して、出力目盛りを60Vとした(最大目盛り130)。
【0065】
・フーリエ変換赤外分光計(FTIR)による解析
酸化試料を溶剤(naxシリコンオフSP:日本ペイント)と水で洗浄して乾燥後、フーリエ変換赤外分光光度計IRPrestige−21(島津製作所(京都))により、全反射法(ATR)で測定を行った。結果を図1、2に示す。
【0066】
FTIRのATR法では、表面から約10μm深さ以内の結合状態を測定できるといわれる。図1に酸化時間の異なる6個の試料のスペクトルを示す。一般に、試料の酸化の場合、カルボニル基が生成するので、カルボニル基の吸収帯、1730cm−1付近の吸光度の変化を観察する。図1では1730cm−1付近の吸光度の顕著な違いはみられない。
【0067】
吸光度を相対的に比較するために、強い酸化処理過程でほぼ変化のない吸収ピーク1440cm−1の吸光度を分母として、吸光度の比「1730cm−1の吸光度/1440cm−1の吸光度」を求めて、酸化時間との関係を図2にプロットした。吸光度比は酸化処理時間に対して分散しており相関性がみられない。後述のXPSの結果との比較から、本表面処理に好ましい微量な酸化は、FTIR−ATRの感度では測定が困難であると判断した。
【0068】
なお、材料の破壊を無視して、強度な酸化処理を行った場合には、IR測定によって1727cm−1の吸光度の増加が観察されることが、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)試料の測定で確認された(図3)。
【0069】
・X線光電子分光法(XPS)による分析
FTIRのATR法で測定したポリプロピレン試料について、X線光電子分光分析装置(XPS)で測定した。結果を図4、5、6、7に示す。XPS測定は、表面から約10nm以内の深さの結合状態を測定できる条件であった。XPS分析のための条件は以下のとおりであった。
機器:PHI−5000VersaProbeII(アルバック・ファイ(株)、神奈川)、線源:CrKα線、AlKα線、取り出し角:90°。
【0070】
図4には酸化処理時間の異なるポリプロピレン試料のXPS測定における(A)C1sナロースペクトルおよび(B)O1sナロースペクトルを示す。スペクトルから求められたC1sの存在量(%)、O1sの存在量(%)及びO/C原子数比の関係を表1に示す。
【表1】
【0071】
表2には、C1sナロースペクトルの波形分析によって得られた炭素結合の種類およびその存在割合を示す。
【表2】
【0072】
これらの結果に基づき、表1の結果からO/C原子数比と酸化処理時間との関係を図5に、表2の結果から各結合の割合と酸化処理時間との関係を図6に示した。さらに、図7には(C−O−H結合%)/(全炭素結合%)を拡大してプロットした。
【0073】
酸化処理時間の増加に伴い、C−C結合およびC−H結合の数が減少する一方で、O/C原子数比、C−O−H結合、C=O結合、およびO=C−O結合の数がいずれも増加することが確認された。図1および図2のFTIR測定では酸化処理時間に伴う酸素結合の変化は確認できなかったが、XPS測定によって酸化状態の確認が可能であることが分かった。なお、図5、6、7から、酸化処理時間が10秒/cm以上では炭素−酸素の結合量の増加は緩やかになることがわかる。
【0074】
[実施例2:オゾン酸化ポリフェニレンサルファイド繊維のXPS測定]
ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維(トルコン(登録商標)、東レ、東京)をオゾン酸化処理してXPS測定を行った。エックス線光電子分光分析装置はサーモフィッシャーサイエンティフィック(米国)製K−Alpha(線源:AlKα線、取り出し角:90°)を用いた。
【0075】
未処理およびオゾン酸化PPS繊維のXPS表面分析結果を表3に示す。PPS繊維ではオゾン酸化処理によって、O/C原子数比が増加すること、およびC−O−H結合とO−C=O結合が増加することが確認された。
【表3】
【0076】
本実施例におけるオゾン酸化処理は、以下の手順に従って実施した。
・オゾン酸化処理
試験片を容積2Lの硬質ガラス製容器(ガスの導入口と出口付き)に入れ、オゾン発生機(日本オゾン社製ON−1−2型)により、オゾン発生量2g/h、濃度40g/mのオゾンを含む酸素を1000ml/分の流量で、試料について20分間吹き込んだ。次に、オゾンを含まない酸素を10分間吹き込んだ。オゾンの濃度はヨウ素滴定により求めた。
【0077】
ポリメチルペンテン(PMP)樹脂シートの酸化および処理試料のXPS測定の解析においても、酸化処理によって、O/C原子数比が増加すること、およびC−O−H結合とO−C=O結合が増加することが確認された。
・PMP樹脂シート:厚さ0.5mm、TPX(登録商標)樹脂(三井化学、東京)
【0078】
[実施例3:プラズマ放電酸化に伴うポリプロピレン布の強度変化]
次に、ポリプロピレンマルチフィラメント布(直径0.25mmのマイクロフィラメントを撚り合わせた糸からなる平織布:サイズ 幅100mm、長さ200mm、厚さ0.6mm、目付20g/m)をプラズマ放電により酸化処理した。1cmの面積当たりそれぞれ15秒間、30秒間、60秒間および150秒間のプラズマ放電を行った。プラズマ放電装置は実施例1と同様に行った。酸化処理後に引張り強度試験を行った。
【0079】
・引張り強度試験
試験機:万能試験機AUTOGRAPH AGS−H(島津製作所、京都)を使用、引張り速度:10mm/分、試験片支持点間:600mmで行った。
【0080】
結果を図8に示す。縦軸は未処理の材料強度を100%とした場合の材料相対強度である。酸化処理時間の増加に伴って、材料強度は低下する。この場合、試料が細い繊維であるために強度低下が著しいことがある。酸化時間10秒/cm以下のこの繊維布を複合材料の補強材料に使用した場合、材料強度を増加させる事を確認した。また、ポリプロピレン材料が厚さ0.1mm以上の板状であれば、20秒/cm以下の酸化による材料強度低下は無視できるレベルである。
【0081】
[実施例4:オゾン酸化による材料強度の低下]
ポリプロピレンマルチフィラメント布(直径0.25mmのマイクロフィラメントを撚り合わせた糸からなる平織布:サイズ 幅100mm、長さ200mm、厚さ0.6mm、目付20g/m)をオゾン酸化処理した。次に、引張強度を試験した
【0082】
・オゾン酸化処理
実施例2と同様に行った。
・引張り強度試験
実施例3と同様に行った。
【0083】
結果を図9に示す。プラズマ酸化処理と同様に、長時間の酸化処理は引張強度の低下を引き起こした。図8と比較して、図9の時間軸は分単位であるので、酸化による材料強度の低下は、行ったオゾン処理の条件では、オゾン処理の方がプラズマ処理よりも穏やかである。
【0084】
[実施例5:DHM処理と試料のXPS測定]
DHM(Durable Hydrophilic Modification)処理は酸化処理した材料について、次に表面コーティングステップを行って完成する。プラズマ酸化試料(照射時間5秒/cm)について、表面コーティングステップを行った試料についてXPS測定を行った。結果を表4に示す。プラズマ処理のみの試料に比べて、各試料は、O1s/C1s比、酸素を含む各官能基の割合が増加する事が確認された。
【表4】
【0085】
本実施例におけるDHM処理における酸化処理およびコーティングステップは、以下の手順に従って実施した。
・酸化処理
実施例1の大気圧プラズマ処理の方法で、材料について、10秒/cmの照射量で酸化した試料を、メタノール、水で洗浄した。
・コーティングステップ
体積比で、水400、メタノール100、アクリル酸1、メタクリル酸メチル0.1の反応液Aを作る。酸化処理材料を、平板型のトレイに入れて、反応液Aを処理材料の上に5mm程度の深さに覆うように加えて、厚さ0.5mmの硬質硝子板でフタをして(密閉しない)、紫外線照射を100mmの距離から20分間行った。材料を取り出して、メタノールで洗浄後、処理材料を熱水で十分に洗浄、乾燥して処理は終了した。処理後の試料の重量増加は処理前試料の重量に対して、0.1%以下であった。
紫外線照射:高圧水銀ランプ(東芝ライテック(株)製、商品名H1500L、全長360mm、発光長200mm、ランプ電圧315V、ランプ電力1500W)を試料にフィルター無しで照射する。加熱を避けるために、ランプと試料間に自家製の「送風機にスリットをつけた冷却用ファン」で強い風を送る。
【0086】
[実施例6:DHM処理に最適な酸化処理の探索のための接着強度試験]
接着性改良に有効なDHM処理の「酸化ステップの酸化時間」を知るために酸化時間の異なるDHM処理を行ったポリプロピレン(PP)板とアルミニウム板をエポキシ接着剤で接着した試料の引張りせん断強度を測定した。
【0087】
PP板(サイズ10mm×80mm、厚さ1.0mm)を、以下の手順に従う酸化処理およびコーティングステップでDHM処理した。
・酸化処理
実施例1と同様にプラズマ放電で行った。酸化処理は0〜20秒/cmであった。
・コーティングステップ
実施例5のコーティングステップを行った。
【0088】
接着および引張りせん断強度の測定は以下の手順で実施した。
・接着引張りせん断強度試験
処理PP板とアルミニウム板(厚さ0.2mm)とをエポキシ系接着剤であるボンドクイック5(コニシ、大阪)を製造者の指示に従い使用して接着した。すなわち、接着剤混合用シート上でほぼ等量のA液(主剤;エポキシ樹脂)とB液(硬化剤;ポリチオール)とを混合してから、混合物をポリプロピレン試料に、接着面積が10mm×10mmとなるように均一に塗って、その上にアルミニウム板を重ねた(接着剤量は約80mg)。この接着試料をプラスチック製の板に挟み、1kgの重りを載せて、室温下で36時間放置した。以下の条件で引張試験を行い、引張せん断強度(N)を測定した。
使用機器:卓上型荷重試験機FTN1−13A(アイコーエンジニアリング(株))、引張速度:20mm/分、保持具間の空間中にPP板4cm−接着部分1cm−アルミニウム板1cmが存在し、PP板およびアルミニウム板の両端の部分を保持具で固定して、引張試験を行った。
【0089】
結果を図10に示す。図中、四角囲み部分は接着試験中に材料破壊がみられた領域である。酸化処理3−7秒/cmの改質試料はPPの材料破壊が見られたので、接着強度が最も高いと言える。酸化処理3、4、6、7秒/cmの表面改質試料は図10中の強度の数値でPP板の材料破壊が起こった。一方、酸化処理5秒/cm2の改質試料は接着部分がはがれず、PP板が延伸して、応力425Nで測定不可能となった。酸化処理5秒/cm2の改質試料はPP板が延伸したので最も好ましい接着と言える。酸化処理3−7秒/cm2の前後の酸化時間では、改質試料の接着強度は低いが、未処理試料の接着試料よりは接着強度が高い。
【0090】
ポリプロピレンのXPS測定および接着強度試験の結果から、XPS測定した場合に、O/C原子数比が約0.03〜0.30およびC−O結合率が約3〜20%の酸化レベルの材料、あるいはXPS測定した場合に未処理の材料と比較して約0.01〜0.15のO原子数割合(水素を除く原子のうちのO原子の割合)の増大または約1〜15%のC−O−H結合率の増大を示す酸化レベルの材料が特に好適に材料の接着性改良に利用できると考えられる。材料の強度の低下は、板状の場合はほぼ0%で、細い繊維の場合は2〜3%減である。細い繊維は改質繊維を複合材料に使用する場合、その材料強度が増加する事を確認している。従って、同様の酸化レベルにおける材料強度の低下は問題視しなくてよいと言える。ポリプロピレン以外の材料においても、同様の見解は確認された。
【0091】
[実施例7:処理の耐久性]
プラズマ処理したシリコンゴムシートは処理後すぐに接着しないと接着性が失われるという。そこで、プラズマ処理したシリコンゴムシート、DHM処理したシリコンゴムシートを所定時間放置してから、アルミニウム板と接着して、その接着引っ張りせん断強度を比較した。比較のため、未処理シリコンゴムシートとアルミニウム板の接着も行った。結果は表5に示す。プラズマ処理シリコンゴムシートは約1時間以内に接着しないと接着性が失われる。また、接着強度はDHM処理試料より、かなり小さい。
【表5】
【0092】
本実施例における酸化処理およびDHM処理は、以下の手順に従って実施した。
・酸化処理
プラズマ処理;春日電機リアルプラズマAPJ−500(高周波電源AGI−B202)を用いて、空気中、大気圧下で、出力=300W、200V、試料−電極間距離=10mmとして、試料について、照射5秒/cm(試料面積1cmに対して1秒間照射)とした。酸化程度は実施例6の方法と同様の程度とした。
・DHM処理
シリコンゴムシートを上記プラズマ処理で酸化した材料について、以下のコーティングステップを行った。酸化材料を反応液に入れて、80℃で、10分間加熱した。具体的には、体積比で、水800、メタノール200、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)1、メタクリル酸メチル(MMA)0.1の溶液にアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)10mgを加えた反応液を作る。反応液に入れて、80℃で、10分間加熱した。反応混合物から材料を取り出して、メタノールで洗浄後、水で煮沸洗浄して乾燥した。
【0093】
(熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂)を母材とした繊維樹脂複合材料(FRP))
[実施例8:ポリプロピレン繊維とエポキシ樹脂の複合材料]
未処理または改質ポリプロピレン(PP)繊維/エポキシ樹脂のFRPを作製した。各試料の曲げ強度を測定した。結果は表6に示す。改質による繊維強度の少しの低下があるとしても、作製したFRPの材料強度は増加した。
【表6】
【0094】
本実施例において使用した材料は以下の通りであった。
・ポリプロピレン(PP)繊維;ポリプロピレン平織布、比重=20グラム/m、構成糸:マルチフィラメント(直径0.5mm)、モノフィラメント繊維の直径=30μm
・エポキシ樹脂;主剤:液状エポキシ樹脂、硬化剤:ジアミン系硬化剤:GM−6800(ブレニー技研、群馬)
【0095】
本実施例におけるDHM処理、FRPの製法、試験法は、以下の通りであった。
・DHM処理
実施例5のDHM処理と同様、ただし酸化時間は5秒/cm
・PP繊維/エポキシ樹脂のFRPの製法
ハンドレイアップ法:ステンレス製成形型(凹型)の中に、PP布を6枚積層して、硬化剤を混合したエポキシ樹脂を流し込んで、1日放置して固化させた。成形型の成形部分(凹型)のサイズは、長さ80mm、幅10mm;JIS規格に従って製造された。作製FRPのサイズ=10mmx80mmx2.6mm。
・材料の引張りせん断強度試験
万能試験機AUTOGRAPH AGS−H(島津製作所、京都)を使用して測定した。
・材料の3点曲げ強度試験(JIS−K7171準拠)
同上の試験器で行った。曲げ速度:5mm/分、支点間距離:40mmとした。
【0096】
[実施例9:UHMWPE繊維とエポキシ樹脂の複合材料]
未処理または改質超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)繊維/エポキシ樹脂のFRPを作製した。各試料の曲げ強度を測定した。結果は表7に示す。PP繊維/エポキシ樹脂のFRPと同様に、改質で繊維強度は少し低下しても、FRPにすると、材料強度は増加した。
【表7】
【0097】
本実施例において使用した材料は以下の通りである。
・超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)繊維;モノフィラメント(直径=30μm)からなるマルチフィラメント糸(直径0.62mm):東洋紡(株)提供、商品名ダイニーマ。
【0098】
本実施例におけるDHM処理における酸化処理およびコーティングステップ、FRPの製法は、以下の通りであった。3点曲げ強度試験は、実施例8と同様である。
・酸化処理
実施例2のオゾン酸化法とした。酸化処理時間は15分とした。
・コーティングステップ
実施例5のコーティングステップと同様に行った。
・UHMWPE繊維/エポキシ樹脂のFRPの製法
ハンドレイアップ法:JIS準拠の成形型(凹型)の中に、40本の糸を平行に入れて、硬化剤を混合したエポキシ樹脂10gを流し込んで、1日放置して固化させた。成型したFRPのサイズ=10mmx80mmx2.6mm。
【0099】
図11に、表6と表7に対応する3点曲げ強度試験における「荷重−変位曲線」を示す;(A)はPP繊維/エポキシ樹脂、(B)はUHMWPE繊維/エポキシ樹脂である。未処理PP繊維/エポキシ樹脂ならびに未処理UHMWPE繊維/エポキシ樹脂は3点曲げ試験で、材料が二つに割れたが、DHM処理PP繊維/エポキシ樹脂、DHM処理UHMWPE繊維/エポキシ樹脂は3点曲げ強度試験後に、「くの字」に曲がったままの状態で二つに分離しなかった。繊維と樹脂の界面の密着性が高い事を示す。
【0100】
(熱可塑性樹脂を母材にした複合材料)
本開示の方法に従って表面改質処理した各種材料について、種々の材料との複合材料を作製して材料試験を行った。未処理または酸化処理だけを行った繊維またはフィルムと母材樹脂とから作製した複合材料では、3点曲げ強度試験において繊維またはフィルムが樹脂から引き抜かれることで材料が破壊された。他方、DHM処理した繊維またはフィルムと各種樹脂から作製した複合材料では、繊維またはフィルムが樹脂から抜けることなく、密着性を維持したまま材料が切断されることで材料破壊が生じることが観察された。
【0101】
[実施例10:PET繊維とポリプロピレン樹脂の複合材料]
PET繊維(ポリエチレンテレフタレート;平織布(NBCメッシュテック、東京))およびポリプロピレン(PP)樹脂の組み合わせで、繊維複合材料を作製した。その後、上記と同様の3点曲げ試験を行った。結果を表8に示す。
【表8】
【0102】
本実施例における酸化処理、DHM処理、複合材料の製法は、以下の通りであった。3点曲げ強度試験は、実施例8と同様である。
・酸化処理
プラズマ処理;PET繊維およびPP樹脂について、実施例6のプラズマ処理と同様に行った。
・DHM処理
酸化材料について、実施例7のコーティングステップを行った。
・複合材料の製法
金型に離型剤をスプレーする。次にポリプロピレン樹脂とPET繊維を交互に詰める。その金型をアズワン小型熱プレス機HC300−01に固定して、240℃として、無圧状態で10分おき、さらに2MPaの圧力をかけて5分間おく。その後、室温に戻して、金型から、複合材料試料を外す。金型はJIS規格に基づいて設計した。試料サイズは、長さ60mm、幅10mm、厚さ約2mmとした。
【0103】
[実施例11:炭素繊維とポリプロピレン樹脂の複合材料]
炭素繊維とポリプロピレン(PP)樹脂から高強度の繊維複合材料を作製した。
【0104】
炭素繊維(CF)とPPフィルムから、繊維含有量の異なる繊維複合材料を作製して、繊維複合材料の3点曲げ試験を行った。炭素繊維は三菱ケミカル製品を入手した。結果を表9に示す。
【表9】
【0105】
本実施例における酸化処理、DHM処理、複合材料の製法は、以下の通りであった。3点曲げ強度試験は、実施例8と同様である。
・酸化処理
プラズマ処理;炭素繊維(樹脂付き)およびポリプロピレンフィルムについて、実施例1のプラズマ酸化と同様に行った。
・DHM処理
酸化材料について、実施例7のコーティングステップを行った。
・複合材料の製法
厚さ0.3mmのPPフィルム10枚と、炭素繊維フィラメント束を、金型に詰める。その金型をアズワン小型熱プレス機H300−01に固定して、240℃として、無圧状態で10分おき、次に2MPaの圧力をかけて5分間おく。その後、室温に戻して金型から試料を外す。
【0106】
表面改質処理を行った繊維および樹脂から作製した繊維複合材料は、高い曲げ強度を示した。表面改質処理を行った繊維および樹脂から作製した繊維複合材料は、少量の繊維含有率20%において最大の強度を示した。
【0107】
[実施例12:炭素繊維とアミド樹脂の複合材料]
炭素繊維およびアミド樹脂から高強度の繊維複合材料を作製した。
【0108】
表面改質した炭素繊維(CF)とポリアミド(PA6)樹脂との繊維複合材料を作製して、繊維複合材料の3点曲げ試験を行った。結果を表10に示す。
【表10】
【0109】
本実施例において使用した材料は以下の通りである。
・炭素繊維;三菱ケミカル製品を入手した
・ポリアミド樹脂;シグマアルドリッチ製PA11=ナイロン−11ペレット
【0110】
本実施例における酸化処理、DHM処理は、以下の通りであった。3点曲げ強度試験は、実施例8と同様である。
・酸化処理
炭素繊維(樹脂付き)およびPA6について、実施例2のオゾン処理と同様に行った。
・CFのDHM処理
酸化材料について、実施例7のコーティングステップを行った。
・PA6のDHM処理
上記の酸化処理を行った材料について次のコーティングステップを行った。体積比で、水400、メタノール400、親水性モノマー(ビニルピロリドン)の反応液Aを作る。処理材料を、平板型のトレイに入れて、反応液Aを処理材料の上に5mm程度の深さに覆うように加えて、厚さ0.5mmの硬質硝子板でフタをして(密閉にしない)、紫外線照射を100mmの距離から10分間行った。材料を取り出して、メタノールで洗浄した。次に材料に親水性ポリマー水溶液B**を塗布して乾燥後、水で煮沸洗浄した。
ビニルピロリドン;1−ビニル−2−ピロリドン、富士フイルム和光純薬(株):製品コード228-01285
**親水性ポリマー水溶液B;ポリビニルピロリドン(PVP)***とカルボキシメチルセルロース(CMC)****の混合物(混合重量比10:1)の1重量%水溶液とした。
***PVP;平均分子量4万;K30富士フイルム和光純薬株式会社:製品コード161-03105
****CMC;カルボキシメチルセルロースナトリウム(富士フィルム和光純薬(株)製品コード4987481229082)
【0111】
[実施例13:ポリイミドフィルムとポリエステル樹脂の複合材料]
ポリイミド(PI)フィルムとポリエステル樹脂から同様に複合材料を作製して、複合材料の3点曲げ試験を行った。結果を表11に示す。
【表11】
【0112】
本実施例において使用した材料は以下の通りである。
・ポリイミド(PI)フィルム;アズワン、ポリイミドフィルムカプトン(R)、型番3-1966−07。厚さ0.25mm
・ポリエステル樹脂;PROST(株)、FRP補修用不飽和ポリエステル樹脂、低収縮タイプ、硬化剤つき、一般積層用(ノンパラフィン)
【0113】
本実施例における酸化処理、DHM処理は、以下の通りであった。3点曲げ強度試験は、実施例8と同様である。
・酸化処理
PIフィルムについて、耐水研磨紙(粒度600,耐水ペーパー;ベルスター研磨材工業STARCKE社(ドイツ))で、片道のみ5回研磨した。次に実施例2のオゾン処理を行った。
・DHM処理
上記の酸化処理を行った材料について、コーティングステップを次のように行った。電子線照射後重合を以下のように行った。研磨オゾン処理した材料に対して、電子線照射装置(岩崎電気株式会社製EC90)によって、加速電圧80kV、照射線量250kGyの条件で電子線(EB)を5秒/cm(試料面積あたり)照射した。材料を取り出して、体積比で、モノマー溶液(HEMA10、MMA1、水10、メタノール4の混合溶液)を塗り、60℃で1分間加熱した。処理材料を取り出して、水洗・乾燥した。
【0114】
[実施例14:高強度繊維布と加硫黒ゴムの複合材料]
未処理または処理した高強度アラミド繊維布を硬化前の加硫黒ゴムではさんでから硬化した繊維とゴムの複合材料を作製してT型剥離試験を行った。結果を表12に示す。
【表12】
【0115】
本実施例において使用した材料は以下の通りである。
・アラミド繊維布;株式会社エスコ サイズ1.0x1.0m:ケブラー繊維100生地 EA911AV−1、厚さ0.5mm。
・加硫黒ゴム;(株)スーリエ提供品
【0116】
本実施例における酸化処理、DHM処理、複合材料の製法は、以下の通りであった。
・酸化処理
化学反応処理;次亜塩素酸ナトリウム溶液(富士フィルム和光純薬株式会社製品コード197−02206、有効塩素:5.0+%)を体積10mlとり、水100mlとの水溶液とする。ガラス容器に入れて、処理すべき材料を入れる。徐々に加熱して、酢酸を0.2ml加えて、沸騰を3分間行い、室温までさましてから、材料を取り出した。材料を水洗、自然乾燥した。材料が酸化されている事はXPS測定で確認した。
・DHM処理
上記の酸化処理を行った材料について、次のコーティングステップを行った。モノマー溶液をアクリル酸(AA)10、メタクリル酸(MA)1、水10、メタノール4の混合溶液として、実施例7の方法で行った。
・複合材料の製法
加硫剤を加えて、まだやわらかい黒ゴムで、アラミド繊維試料をはさみ、それにシリコーンゴム板を載せて、1キログラムの重りで加圧して24時間置いて作製した。繊維含有量は20%とした。
【0117】
T型剥離試験は以下のように行った。
1)繊維布試料サイズ 幅10mm、長さ100mm
2)黒ゴム2枚に布をはさみ、布の末端10mmほど出して、加熱成型する。布とゴムの接着面積は10mmx90mm。
3)黒ゴムの片方の末端(布の出ている側)を10mm程度、手ではがす。
4)剥がしたゴム末端と布のはみ出した部分をそれぞれ、引っ張り試験の治具にとめて、引っ張り速度=10mm/分で引っ張った。
【0118】
本開示の表面改質により従来にない繊維―樹脂界面の密着した高強度の複合材料が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本開示は、優れた強度の表面改質材料を提供し、高強度の複合材料を提供するので、自動車、航空機、医療器具、電子機器などの種々の産業における利益を提供する。




【要約】
【課題】改善された材料の表面改質を提供すること。
【解決手段】一つの局面において、本開示は、材料を表面改質する方法を提供し、この方法は、(1)材料の表面の酸化レベルがX線光電子分光法(XPS)により測定した場合に特定の数値範囲となるように、材料を酸化処理するステップと、(2)A.酸化処理した材料をグラフト化処理するステップ、および/またはB.酸化処理した材料を親水性高分子で処理するステップと、を含む。一つの局面において、本開示は、繊維材料が第2材料内に含まれている繊維複合材料を製造する方法を提供し、方法は、(1)繊維材料および第2材料の少なくとも1つを酸化処理するステップと、(2)酸化処理するステップの後に繊維材料と第2材料との界面密着または接着させるステップと、(3)第2材料を融解して、繊維複合材料を得るステップと、を含む。
【選択図】なし
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