特許第6936469号(P6936469)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6936469-桃紙および桃紙の製造方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6936469
(24)【登録日】2021年8月31日
(45)【発行日】2021年9月15日
(54)【発明の名称】桃紙および桃紙の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 17/02 20060101AFI20210906BHJP
   D21F 11/10 20060101ALI20210906BHJP
【FI】
   D21H17/02
   D21F11/10
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2017-112103(P2017-112103)
(22)【出願日】2017年6月6日
(65)【公開番号】特開2018-204149(P2018-204149A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2020年4月24日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)掲載年月日 2016年12月16日 掲載アドレス http://samegawa−washi.com/blog/2016/12/page/2/ (2)掲載年月日 2017年1月2日 掲載アドレス http://samegawa−washi.com/blog/2017/01/page/2/ (3)掲載年月日 2017年4月7日 掲載アドレス http://samegawa−washi.com/blog/2017/04/page/3/
(73)【特許権者】
【識別番号】518409058
【氏名又は名称】株式会社信夫和紙工房
(74)【代理人】
【識別番号】100131026
【弁理士】
【氏名又は名称】藤木 博
(74)【代理人】
【識別番号】100194124
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 まゆみ
(72)【発明者】
【氏名】齋須 寛一
【審査官】 川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第104032614(CN,A)
【文献】 WayBack Machineにより2016年12月15日に記録された西嶋和紙工業協同組合ホームページ、「原料づくり」の「処理実績、活用事例」,2016年12月15日,2021年2月19日検索、インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20161215141139/http://nishijima-washi.jp/create2.html>,2016年12月15日
【文献】 NHKテキストView、「俳句とも馴染み深い、和紙の伝統美」の「檀紙(だんし)」、2014.04.20、インターネット<URL:https://textview.jp/post/culture/13517>,2014年04月20日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 17/02
D21F 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
桃の木の植物繊維と、他の繊維とを含み、それらの割合は、桃の木の植物繊維が10質量%以上40質量%以下、他の繊維が60質量%以上90質量%以下であり、
桃の木の植物繊維は、桃の木の内樹皮の植物繊維であり、
他の繊維は、コウゾの木の植物繊維である
ことを特徴とする桃紙。
【請求項2】
桃の木の剪定した枝の内樹皮の植物繊維を含むことを特徴とする請求項1記載の桃紙。
【請求項3】
桃の木の植物繊維と、他の繊維とを、桃の木の植物繊維が10質量%以上40質量%以下、他の繊維が60質量%以上90質量%以下の割合で混合して用い、
桃の木の植物繊維は、桃の木の内樹皮の植物繊維であり、
他の繊維は、コウゾの木の植物繊維である
ことを特徴とする桃紙の製造方法。
【請求項4】
桃の木の剪定した枝の内樹皮をアルカリ性水溶液に入れて加熱して得た桃の木の植物繊維原料と、コウゾの木の樹皮をアルカリ性水溶液に入れて加熱して得たコウゾの木の植物繊維原料とを含む混合原料を叩いたのち、漉くことを特徴とする請求項3記載の桃紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、桃の木を原料に用いた桃紙およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
古くから日本古来の紙として和紙が知られている。和紙は、例えば、コウゾの木を原料とし、漉いて作られる。近年では、豆類の皮を原料に用いたものも提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−213680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、紙の原料として用いられる植物繊維は限られており、桃の木の植物繊維は用いられてこなかった。なお、桃の果実の生産においては、成長した枝を放置しておくと木の幹に光が当たらず、株が弱ってしまうので、剪定が行われている。剪定した枝は産業廃棄物として廃棄されており、これを利用することができれば好ましい。
【0005】
本発明は、このような問題に基づきなされたものであり、桃の木を原料に用いた新しい桃紙及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の桃紙は、桃の木の植物繊維を含むものである。
【0007】
本発明の桃紙の製造方法は、桃の木の植物繊維を用いるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、桃の木の植物繊維を用いるようにしたので、縦長の桃の木の植物繊維を含む独特の風合いを有する薄い桃色の桃紙を得ることができる。
【0009】
また、桃の木の植物繊維と、他の繊維とを用い、それらの割合は、桃の木の植物繊維が10質量%以上40質量%以下、他の繊維が60質量%以上90質量%以下とするようにすれば、柔らかい桃の木の植物繊維を用いて、容易に桃紙を製造することができる。
【0010】
更に、剪定した枝を用いるようにすれば、産業廃棄物を利用することができ、環境に優しい桃紙を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施の形態に係る桃紙の製造方法における工程を表す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
本発明の一実施の形態に係る桃紙は、桃の木の植物繊維を含むものであり、縦長の桃の木の植物繊維を含む独特の風合いを有する薄い桃色の紙である。桃の木の植物繊維は、長さの短いものから長いものまであり、長いものは2cm程度の長さのものも存在する。桃の木は、剪定した枝を用いることが好ましく、植物繊維は例えば内樹皮からとることができる。また、桃紙は、桃の木の植物繊維と、他の繊維とを含むことが好ましく、それらの割合は、桃の木の植物繊維が10質量%以上40質量%以下、他の繊維が60質量%以上90質量%以下であることが好ましい。桃の木の植物繊維は柔らかいので、他の繊維を混合することにより容易に桃紙を製造することができるからである。
【0014】
他の繊維としては、例えば、コウゾの木の植物繊維が好ましい。コウゾの木を用いた和紙の風合いに、桃の木の風合いが加わり、新しい紙の風合いが得られるからである。上述したように、桃の木の植物繊維には縦長のものが含まれるので、コウゾの木の植物繊維及び短い桃の木の植物繊維の中に、それよりも長く薄桃色の桃の木の植物繊維が存在するようになる。よって、全体的に薄桃色の中に、長い薄桃色の植物繊維が模様のように存在する新しい風合が得られる。なお、他の繊維としては、コウゾの木の植物繊維に加えて、リンゴの木の植物繊維や、梨の木の植物繊維を含んでいてもよい。
【0015】
図1は本発明の一実施の形態に係る桃紙の製造方法の工程を表すものである。この桃紙の製造方法は、桃の木の植物繊維を用いたものであり、桃の木の植物繊維と、他の繊維とを混合して用いることが好ましい。
【0016】
まず、桃の木の植物繊維原料を次のようにして作製する(桃の木の植物繊維原料製造工程;ステップS110)。なお、桃の木の植物繊維原料というのは、紙漉きの原料として用いる桃の木から取り出した植物繊維のことである。桃の木の植物繊維原料製造工程では、まず、桃の木を適当な大きさに切断し、例えば、1時間から3時間程度の時間をかけて蒸す(蒸工程;ステップS111)。桃の木には、剪定した枝を用いることが好ましい。次いで、桃の木の樹皮を剥き、内樹皮を削ぎ取る(皮剥ぎ工程;ステップS112)。続いて、内樹皮をアルカリ性水溶液に入れ、例えば、2時間から3時間程度の時間をかけて加熱し、不純物を取り除くと共に繊維を柔らかくする(煮工程;ステップS113)。アルカリ性水溶液には、ソーダ灰の水溶液を用いることが好ましい。桃の木の植物繊維は柔らかいからである。次に、水洗いをする(水洗い工程;ステップS114)。
【0017】
桃の木の植物繊維原料を作製したのち、この桃の木の植物繊維原料に、他の繊維原料を混合して混合原料とし、叩く(こう解工程;ステップS120)。なお、他の繊維原料というのは、紙漉きの原料として用いる他の繊維のことである。混合原料における桃の木の植物繊維と、他の繊維との混合割合は、桃の木の植物繊維が10質量%以上40質量%以下、他の繊維が60質量%以上90質量%以下とすることが好ましい。また、他の繊維原料としては、コウゾの木の植物繊維原料を用いることが好ましく、コウゾの木の植物繊維原料に加えて、リンゴの木の植物繊維原料や、梨の木の植物繊維原料を含んでいてもよい。なお、コウゾの木の植物繊維原料は、例えば、コウゾの木を適当な大きさに切断して蒸し、樹皮を剥き、アルカリ性水溶液に入れて加熱し、水洗いすることにより作製する。樹皮は内樹皮のみを用いてもよいが、内樹皮と外樹皮を用いるようにしてもよい。アルカリ性水溶液は、例えば、苛性ソーダの水溶液を用いる。また、必要に応じて、色を白くしたいときには、コウゾの木の植物繊維を漂白してもよい。
【0018】
混合原料を叩いたのち、この混合原料に、トロロアオイ等のねりの原料を入れて混ぜ、紙液を作製する(ねり工程:ステップS130)。次いで、紙液を漉き(漉き工程;ステップS140)、脱水、乾燥する(脱水・乾燥工程;ステップS150)。これにより桃紙が得られる。
【0019】
このように本実施の形態によれば、桃の木の植物繊維を用いるようにしたので、縦長の桃の木の植物繊維を含む独特の風合いを有する薄い桃色の桃紙を得ることができる。
【0020】
また、桃の木の植物繊維と、他の繊維とを用い、それらの割合は、桃の木の植物繊維が10質量%以上40質量%以下、他の繊維が60質量%以上90質量%以下とするようにすれば、柔らかい桃の木の植物繊維を用いて、容易に桃紙を製造することができる。
【0021】
更に、剪定した枝を用いるようにすれば、産業廃棄物を利用することができ、環境に優しい桃紙を得ることができる。
【実施例】
【0022】
桃の木の剪定した枝を用意し、30cmから40cm程度の長さに切断し、1時間から3時間程度の時間をかけて蒸した(蒸工程;ステップS111)。次いで、桃の木の樹皮を剥き、内樹皮を削ぎ取った(皮剥ぎ工程;ステップS112)。続いて、内樹皮をソーダ灰の水溶液に入れ、2時間から3時間程度の時間をかけて沸騰させた状態で煮た(煮工程;ステップS113)のち、水洗いをした(水洗い工程;ステップS114)。
【0023】
これにより得た桃の木の植物繊維原料に、コウゾの木の植物繊維原料を混合して混合原料とし、ビーターにより叩いた(こう解工程;ステップS120)。混合原料における桃の木の植物繊維と、コウゾの木の植物繊維との混合割合は、桃の木の植物繊維が10質量%以上40質量%以下、他の繊維が60質量%以上90質量%以下の範囲内で変化させた。なお、コウゾの木の植物繊維原料は、コウゾの木を75cm程度の大きさに切断して蒸し、樹皮を剥き、内樹皮及び外樹皮を苛性ソーダの水溶液に入れて煮たのち、水洗いすることにより得た。そののち、桃の木の植物繊維原料とコウゾの木の植物繊維原料との混合原料に、トロロアオイ等のねりの原料を入れて混ぜ(ねり工程:ステップS130)、漉き(漉き工程;ステップS140)、脱水、乾燥した(脱水・乾燥工程;ステップS150)。
【0024】
上記範囲内で桃の木の植物繊維を加えた場合、いずれも、縦長の桃の木の植物繊維を含む独特の風合いを有する薄桃色の桃紙が得られた。桃紙の特徴は、桃の木の植物繊維の割合を大きくした方が強く表れた。一方、桃の木の植物繊維の割合を大きくすると、桃紙の強度が弱くなる傾向が見られた。すなわち、桃の木の植物繊維と他の繊維との割合は、桃の木の植物繊維が10質量%以上40質量%以下、他の繊維が60質量%以上90質量%以下の範囲内とすることが好ましいことが分かった。
【0025】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態では、発明の構成要素について具体的に説明したが、全ての構成要素を含んでいなくてもよく、また、他の構成要素を含んでいてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0026】
紙に用いることができる。
図1