(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1方向へ水平に延びる第1レールと、前記第1方向と直交する第2方向へ水平に延びる第2レールと、前記第1レール及び前記第2レールの間に設置され前記第1レール又は前記第2レールに沿って滑動する可動部と、を備えた免震支承が、上部構造体と下部構造体の間に複数配置されると共に、
前記上部構造体の下面に前記第1レールが固定され前記下部構造体の上面に前記第2レールが固定された前記免震支承と、前記上部構造体の下面に前記第2レールが固定され前記下部構造体の上面に前記第1レールが固定された前記免震支承と、が、前記第1方向及び前記第2方向において交互に配置されている、
免震構造物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の免震装置では、地震発生時に横方向の力が加わると、上部構造体のすべり板がスライダーの上を滑動し、上部構造体が支持柱等に対して横方向へ移動する。これにより、上部構造体のすべり板には、スライダーから受ける力により偏心曲げが発生する。上部構造体は、この偏心曲げによるせん断力に対抗するために部材の断面寸法を大きくしたり鉄筋などで補強する必要がある。
【0005】
一方、支持柱にはスライダーが固定されておりすべり板から上部構造体の荷重が入力される入力位置は変わらないため、上部構造体のようなせん断力は生じない。このため、地震時においては上部構造体と支持柱(下部構造体)に生じるせん断力にばらつきが生じ、上部構造体にせん断力が集中するため構造バランスが悪い。
【0006】
本発明は上記事実を考慮して、上部構造体及び下部構造体に生じるせん断力を平準化できる免震構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の免震構造物は、第1方向へ水平に延びる第1レールと、前記第1方向と直交する第2方向へ水平に延びる第2レールと、前記第1レール及び前記第2レールの間に設置され前記第1レール又は前記第2レールに沿って滑動する可動部と、を備えた免震支承が、上部構造体と下部構造体の間に複数配置されると共に、前記上部構造体の下面に前記第1レールが固定され前記下部構造体の上面に前記第2レールが固定された前記免震支承と、前記上部構造体の下面に前記第2レールが固定され前記下部構造体の上面に前記第1レールが固定された前記免震支承と、
が、前記第1方向及び前記第2方向において交互に配置されている。
【0008】
請求項1の免震構造物では、地震発生時に第1方向の力が作用すると、免震支承の可動部が下部構造体又は上部構造体に配置された第1レールに沿って滑動する。このとき可動部は、上部構造体又は下部構造体に配置された第2レールに対しては移動しない。
【0009】
このとき、上部構造体又は下部構造体から第1レール及び可動部を介して下部構造体又は上部構造体に作用する力の入力位置は変わらないが、この力を受ける第1レール上の入力位置が変わるので、下部構造体又は上部構造体において第1レールを配置した部分には偏心曲げが発生する。
【0010】
しかし、下部構造体と上部構造体のそれぞれに、第1レールと第2レールとが固定されているため、下部構造体と上部構造体に発生する偏心曲げは分散される。
【0011】
すなわち、例えば上部構造体に第1レールのみが配置され下部構造体に第2レールのみが配置され、地震時における第1方向の力に対しては上部構造体にせん断力が集中する免震構造物と比較して、本態様では下部構造体と上部構造体の双方にせん断力が分散され平準化される。
【0012】
これにより地震時に上部構造体に作用するせん断力が低減されるため、上部構造体における躯体の断面寸法を小さくしたり、せん断補強筋量を減らすことができる。また、上部構造体において低減されたせん断力は下部構造体に作用するが、下部構造体における長期荷重(固定荷重及び積載荷重)に対する耐力を、短期荷重(地震荷重)に対する耐力として活用することができる。すなわち、上部構造体に作用する短期荷重のピーク値を、下部構造体の長期荷重に対する許容応力度分だけ減少させ、上部構造体の構造を軽微にできる。なお、地震発生時に第2方向の力が作用した場合についても同様である。
請求項2の免震構造物は、前記第1レール又は前記第2レールが固定される前記上部構造体の下面は、前記上部構造体の基礎梁の下面であり、前記第1レール又は前記第2レールが固定される前記下部構造体の上面は、前記下部構造体の基礎梁の上面である。
【0013】
請求項3の免震構造物は、滑り面を備えた滑り板と、前記滑り面を滑る滑り材を備えた支承部と、を備えた免震支承が、上部構造体と下部構造体の間に複数配置されると共に、前記上部構造体の下面に前記滑り板が固定され前記下部構造体の上面に前記支承部が固定された前記免震支承と、前記上部構造体の下面に前記支承部が固定され前記下部構造体の上面に前記滑り板が固定された前記免震支承と、
が、第1方向及び前記第1方向と直交する第2方向において交互に配置されている。
【0014】
請求項3の免震構造物では、地震発生時に水平方向の力が作用すると、上部構造体又は下部構造体に固定された支承部の滑り材が、下部構造体又は上部構造体に配置された滑り板の滑り面を滑り、上部構造体と下部構造体が水平方向に相対移動する。
【0015】
このとき、上部構造体又は下部構造体から支承部の滑り材を介して下部構造体又は上部構造体に作用する力の入力位置は変わらないが、この力を受ける滑り板における滑り面上の入力位置が変わるので、下部構造体又は上部構造体において滑り板を配置した部分には偏心曲げが発生する。
【0016】
しかし、下部構造体と上部構造体のそれぞれに、滑り板と支承部の滑り材とが固定されているため、下部構造体と上部構造体に発生する偏心曲げは分散される。
【0017】
すなわち、例えば上部構造体に支承部の滑り材が固定され下部構造体に滑り板が固定され、地震時の揺れに対して下部構造体にせん断力が集中する免震構造物と比較して、本態様では下部構造体と上部構造体の双方にせん断力が分散され平準化される。
【0018】
これにより、地震時に下部構造体に作用するせん断力が低減されるため、下部構造体における躯体の断面寸法を小さくしたり、せん断補強筋量を減らすことができる。また、下部構造体において低減されたせん断力は上部構造体に作用するが、上部構造体における長期荷重(固定荷重及び積載荷重)に対する耐力を、短期荷重(地震荷重)に対する耐力として活用することができる。すなわち、下部構造体に作用する短期荷重のピーク値を、上部構造体の長期荷重に対する許容応力度分だけ減少させ、下部構造体の構造を軽微にできる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る免震構造によると、上部構造体及び下部構造体に生じるせん断力を平準化できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1実施形態]
(免震支承)
第1実施形態に係る免震構造物10(
図2参照)に適用される免震支承20は、
図1(A)に示すように、X方向へ水平に延びると共にフランジプレート24に固定された第1レール22と、X方向と直交するY方向へ水平に延びる共にフランジプレート28に固定された第2レール26と、第1レール及び第2レールの間に設置され、第1レール又は第2レールに沿って滑動する可動ブロック25と、を備えた直動転がり支承である。
【0022】
なお、本実施形態における「X方向、Y方向」はそれぞれ水平面上において互いに直交する任意の2方向を示しており、東西南北等の特定の方向を示すものではない。また、「直交する」とは90°で交わる場合だけではなく、僅かに90°よりも広い(又は狭い)角度で交わる場合を含む。さらに、第1レール22が「X方向へ水平に延びる」とは、第1レール22がX方向に沿って略水平に延設されている状態を示し、施工誤差などにより僅かに傾斜している状態を含むものとする。「Y方向へ水平に延びる」についても同様である。
【0023】
可動ブロック25は、第1レール22と対向する端面にX方向に沿った係合溝25Xが形成されており、この係合溝25Xに第1レール22が嵌め込まれている。さらに、係合溝25Xの両溝壁にはガイド突条25XGが形成されており、このガイド突条25XGは、第1レール22のX方向に沿った両側面に形成されたガイド溝22Gに係合されている。
【0024】
また可動ブロック25は、第2レール26と対向する端面にY方向に沿った係合溝25Yが形成されており、この係合溝25Yに第2レール26が嵌め込まれている。さらに、係合溝25Yの両溝壁にはガイド突条25YGが形成されており、このガイド突条25YGは、第2レール26のY方向に沿った両側面に形成されたガイド溝26Gに係合されている。
【0025】
フランジプレート24、フランジプレート28には図示しない取付孔が上下方向を貫通するように形成されており、取付け対象に対してボルト固定できる。
【0026】
以上の構成により、免震支承20の可動ブロック25は、第1レール22に沿ってX方向に滑動できる。これによりフランジプレート24とフランジプレート28とがX方向に相対移動できる。また可動ブロック25は、第2レール26に沿ってY方向に滑動できる。これによりフランジプレート24とフランジプレート28とがY方向に相対移動できる。すなわち、フランジプレート24とフランジプレート28とは、X方向及びY方向に相対移動できる。
【0027】
このため、例えば後述する下部構造体12(
図2参照)の上面にフランジプレート24が固定され上部構造体14(
図2参照)の下面にフランジプレート28が固定されている場合と、下部構造体12の上面にフランジプレート28が固定され上部構造体14(
図2参照)の下面にフランジプレート24が固定されている場合と、の双方において、下部構造体12と上部構造体14とは、X方向及びY方向に相対移動できる。
【0028】
なお、
図1(A)においては第1レール22が下方に、第2レール26が上方に配置されているが、第1レール22と第2レール26とは上下を逆にして配置することができる。すなわち、
図1(B)に示すように第1レール22を上方に、第2レール26を下方に配置してもよい。
【0029】
以下の説明においては、
図1(A)に示される第1レール22が下方に配置された免震支承20を免震支承20Aとして、
図1(B)に示される第1レール22が上方に配置された免震支承20を免震支承20Bとして説明する。
【0030】
(免震構造物)
図2に示すように、第1実施形態に係る免震構造物10は、下部構造体12と、下部構造体12と隙間を開けて配置された上部構造体14とを備える建物であり、下部構造体12の上面と上部構造体14の下面との間に複数の免震支承20(免震支承20A、20B)が配置されている。
【0031】
下部構造体12は、フーチング12Fに、X方向へ水平に延びる下基礎梁12Xと、Y方向へ水平に延びる下基礎梁12Yとが接合された鉄筋コンクリート造の基礎躯体である。フーチング12Fの下部には、基礎杭16が軸線CL1に沿って埋設されている。
【0032】
上部構造体14は、X方向へ水平に延びる上基礎梁14Xと、Y方向へ水平に延びる上基礎梁14Yとが互いに接合された仕口部14Jの上部に柱14Cが軸線CL1に沿って立設された鉄筋コンクリート造の建物本体である。すなわち免震構造物10は、基礎躯体と建物本体との間に免震支承20が配置された基礎免震構造の建物とされている。
【0033】
上部構造体14は、仕口部14J及び柱14Cが下部構造体12におけるフーチング12Fの上方に位置するように配置され、免震支承20が仕口部14Jとフーチング12Fに挟まれる位置に配置される。これにより、上部構造体14の柱14Cの軸力(軸線CL1に沿った軸力)が、免震支承20を介してフーチング12F、基礎杭16へ伝達される。
【0034】
また、
図2において第1レール22が下方に配置された(下部構造体12に固定された)免震支承20Aと、第1レール22が上方に配置された(上部構造体14に固定された)免震支承20Bとが左右に(X方向に)隣接して配置されているが、このように免震支承20Aと免震支承20Bとは、X方向に沿って1つずつ交互に配置されており、さらに
図3に示すように、免震支承20Aと免震支承20Bとは、Y方向に沿って1つずつ交互に配置されている。これにより免震支承20Aと免震支承20Bとは、下部構造体12と上部構造体14との間にほぼ同数配置される。
【0035】
なお、免震支承20Aにおいては、第1レール22がフランジプレート24を介して下部構造体12の上面に固定され、第2レール26がフランジプレート28を介して上部構造体14の下面に固定されているが、フランジプレート24、28は省略することもできる。
【0036】
すなわち免震支承20Aにおいては、第1レール22が下部構造体12の上面に対して動かないように固定され、第2レール26が上部構造体14の下面に対して動かないように固定されていればよい。免震支承20Bについても同様に、第2レール26が下部構造体12の上面に対して動かないように固定され、第1レール22が上部構造体14の下面に対して動かないように固定されていればよい。
【0037】
(作用・効果)
図4、
図5に示すように、第1実施形態の免震構造物10では、地震時にX方向に沿った外力Pが作用した際、免震支承20Aにおいては、可動ブロック25が下部構造体12に固定された第1レール22に沿ってX方向へ滑動する。このとき可動ブロック25は、上部構造体14に固定された第2レール26に対しては移動しないため、上部構造体14は可動ブロック25と一体的にX方向へ移動する。
【0038】
これにより、
図4に示すように、上部構造体14の柱14Cから可動ブロック25を介して下部構造体12に作用する軸力N1の入力位置が、第1レール22に沿ってX方向へ移動する(移動距離L)。このため、第1レール22が固定されたフーチング12F又は下基礎梁12Xにおいて、上部構造体14の軸力N1の入力位置(軸線CL1)と、軸力N1に対する反力N2の入力位置(基礎杭16の軸線CL2)とが偏心する。したがって、フーチング12F又は下基礎梁12Xには偏心曲げが発生し、せん断力が作用する。
【0039】
なお、フーチング12F「又は」下基礎梁12Xに偏心曲げが発生するとしたのは、上部構造体14の移動距離Lの大小により偏心曲げが発生する位置が異なるためである。つまり、上部構造体14の移動距離Lが大きい場合、柱14Cはフーチング14Fの上方から下基礎梁12Xの上方へ移動するため、下基礎梁12Xに偏心曲げが発生する。一方、上部構造体14の移動距離Lが小さい場合、柱14Cはフーチング14Fの上方に留まるため、偏心曲げはフーチング12Fに発生するが下基礎梁12Xに発生する偏心曲げは抑制される。
【0040】
また、
図4、
図5に示すように、免震支承20Bにおいては、上部構造体14に固定された第1レール22が可動ブロック25上をX方向へ滑動する。このとき可動ブロック25は、下部構造体12に固定された第2レール26に対しては移動しないため、上部構造体14は下部構造体12に対してX方向へ移動する。
【0041】
これにより、
図4に示すように、上部構造体14の柱14Cから下部構造体12に作用する軸力N1の入力位置が、第1レール22に沿ってX方向へ移動する(移動距離L)。このため、第1レール22が固定された仕口部14J又は上基礎梁14Xにおいて、上部構造体14の軸力N1の入力位置(軸線CL1)と、軸力N1に対する反力N2の入力位置(基礎杭16及び可動ブロック25の軸線CL2)とが偏心する。したがって、仕口部14J又は上基礎梁14Xには偏心曲げが発生し、せん断力が作用する。
【0042】
なお、仕口部14J「又は」上基礎梁14Xに偏心曲げが発生するとしたのは、上部構造体14の移動距離Lの大小により偏心曲げが発生する位置が異なるためである。つまり、上部構造体14の移動距離Lが大きい場合、可動ブロック25が第1レール22と接する位置が、仕口部14Jの下方から上基礎梁14Xの下方へ移動するため、上基礎梁14Xに偏心曲げが発生する。一方、上部構造体14の移動距離Lが小さい場合、可動ブロック25が第1レール22と接する位置は仕口部14Jの下方に留まるため偏心曲げは仕口部14Jに発生するが、上基礎梁14Xに発生する偏心曲げは抑制される。
【0043】
第1実施形態の免震構造物10では、免震支承20Aと免震支承20Bは、X方向に沿って1つずつ交互に配置されている。したがって地震時には、上部構造体14の上基礎梁14X及び下部構造体12の下基礎梁12Xへ偏心曲げが分散され、上基礎梁14X及び下基礎梁12Xのそれぞれに生じるせん断力を平準化できる(
図8(A)におけるせん断力T1)。
【0044】
また、第1実施形態においては
図3に示すように、免震支承20Aと免震支承20Bは、Y方向に沿って1つずつ交互に配置されている。したがって地震時に免震構造物10に対してY方向に沿った外力が作用した際も、X方向に沿った外力Pが作用した際と同様に、
図2に示した免震支承20Aにおいては、上部構造体14に固定された第2レール26が可動ブロック25上をY方向(
図2において紙面手前又は奥方向)へ滑動する。また、免震支承20Bにおいては、可動ブロック25が下部構造体12に固定された第2レール26に沿ってY方向へ滑動する。
【0045】
これにより、上部構造体14の上基礎梁14Y及び下部構造体12の下基礎梁12Yへ偏心曲げが分散され、上基礎梁14Y及び下基礎梁12Yのそれぞれに生じるせん断力を平準化できる(
図8(A)におけるせん断力T2)。
【0046】
なお、免震構造物10に対してX方向及びY方向以外の方向の外力が作用した場合、上部構造体14はX方向において
図4に示された位置へ動くと共に、Y方向において
図4における紙面手前又は奥方向の位置へ動く。
【0047】
すなわち、免震支承20Aにおいては、可動ブロック25が下部構造体12に固定された第1レール22に沿ってX方向へ滑動し(
図4の状態)、同時に上部構造体14に固定された第2レール26が可動ブロック25上をY方向(
図4において紙面手前又は奥方向)へ滑動する。
【0048】
また、免震支承20Bにおいては、上部構造体14に固定された第1レール22が可動ブロック25上をX方向へ滑動し(
図4の状態)、同時に可動ブロック25が下部構造体12に固定された第2レール26に沿ってY方向(
図4において紙面手前又は奥方向)へ滑動する。
【0049】
これにより、X方向においては上部構造体14の上基礎梁14X及び下部構造体12の下基礎梁12Xへ偏心曲げが分散され、上基礎梁14X及び下基礎梁12Xのそれぞれに生じるせん断力を平準化できる。さらにY方向においては上部構造体14の上基礎梁14Y及び下部構造体12の下基礎梁12Yへ偏心曲げが分散され、上基礎梁14Y及び下基礎梁12Yのそれぞれに生じるせん断力を平準化できる(
図8(A)におけるせん断力T3)。
【0050】
(比較例)
図6には比較例に係る免震構造物100が示されている。免震構造物100における下部構造体12、上部構造体14の構成は第1実施形態の免震構造物10と同様とされており、免震構造物100は免震構造物10と、免震支承20の配置のみが異なっている。
【0051】
具体的には、免震構造物100に設置される免震支承20は全て、X方向に沿う第1レール22が上部構造体14に固定された免震支承20Bとされている。
【0052】
このため
図7に示すように、免震構造物100では、地震時にX方向に沿った外力Pが作用した際、第1レール22が固定された仕口部14J又は上基礎梁14Xにおいて、上部構造体14の軸力N1の入力位置(軸線CL1)と、軸力N1に対する反力N2の入力位置(基礎杭16及び可動ブロック25の軸線CL2)とが偏心する。したがって、仕口部14J又は上基礎梁14Xには偏心曲げが発生し、せん断力が作用する。
【0053】
免震構造物100における免震支承20は、全て免震支承20Bとされているため、X方向に沿った外力Pが作用した際、せん断力は上基礎梁14Xに集中して作用し、下基礎梁12Xには作用しにくい(
図8(B)におけるせん断力T4)。このため、第1実施形態の免震構造物10のように、上基礎梁14Y及び下基礎梁12Yのそれぞれに生じるせん断力を平準化することが難しい。
【0054】
同様に、Y方向に沿った外力が作用した際、せん断力は下基礎梁12Yに集中して作用し、上基礎梁14Yには作用しにくい(
図8(B)におけるせん断力T5)。このため、第1実施形態の免震構造物10のように、上基礎梁14Y及び下基礎梁12Yのそれぞれに生じるせん断力を平準化することが難しい。
【0055】
さらに、X方向及びY方向以外の方向の外力が作用した際、外力のX方向の分力に対してはせん断力が上基礎梁14Xに集中して作用し、下基礎梁12Xには作用しにくい。また、外力のY方向の分力に対しては下基礎梁12Yに集中して作用し、上基礎梁14Yには作用しにくい(
図8(B)におけるせん断力T6)。このため、上基礎梁14X、下基礎梁12X、上基礎梁14Y及び下基礎梁12Yに生じるせん断力を平準化することが難しい。
【0056】
[第2実施形態]
(免震構造物)
第2実施形態の免震構造物11は、
図9に示すように下部構造体12、上部構造体14の構成は第1実施形態の免震構造物10と同様とされており、免震構造物11と免震構造物10とは、下部構造体12と上部構造体14との間に配置される免震支承の構成が異なっている。
【0057】
第2実施形態の免震支承30は、フランジプレート34に固定され表面が平滑な滑り面32Aを備えた滑り板32と、フランジプレート38に固定され滑り面32Aを滑る滑り材36Aを備えた支承部36と、を有する滑り支承である。
【0058】
免震支承30においては、免震支承20のようなレール(第1レール22、第2レール26)を備えていないため、支承部36は地震時に加わる外力の方向(任意の方向)に沿って滑り板32の上を滑動できる。
【0059】
免震支承30は、
図9の紙面左側に示すように滑り板32を支承部36の下方に配置することができ、紙面右側に示すように滑り板32を支承部36の上方に配置することもできる。以下の説明においては、滑り板32を支承部36の下方に配置した免震支承30を免震支承30Aとして、滑り板32を支承部36の上方に配置した免震支承30を免震支承30Bとして説明する。
【0060】
免震支承30Aと免震支承30Bとは、X方向に沿って1つずつ交互に配置されており、さらに、免震支承30Aと免震支承30Bとは、Y方向に沿って1つずつ交互に配置されている。すなわち、第1実施形態における免震支承20A、20Bのそれぞれに対応する位置に、免震支承30A、30Bが配置されている。
【0061】
(作用・効果)
図10に示すように、第2実施形態の免震構造物11では、例えば地震時にX方向に沿った外力Pが作用した際、免震支承30Aにおいては、支承部36の滑り材36Aが下部構造体12に固定された滑り板32の滑り面32Aの上を、X方向へ滑動する。
【0062】
これにより、
図4に示すように、上部構造体14の柱14Cから支承部36の滑り材36Aを介して下部構造体12に作用する軸力N1の入力位置が、X方向へ移動する(移動距離L)。このため、滑り板32が固定されたフーチング12F又は下基礎梁12Xにおいて、上部構造体14の軸力N1の入力位置(軸線CL1)と、軸力N1に対する反力N2の入力位置(基礎杭16の軸線CL2)とが偏心する。したがって、フーチング12F又は下基礎梁12Xには偏心曲げが発生し、せん断力が作用する。
【0063】
また、免震支承30Bにおいては、上部構造体14に固定された滑り板32の滑り面32Aが支承部36の滑り材36A上をX方向へ滑動する。
【0064】
これにより、
図4に示すように、上部構造体14の柱14Cから下部構造体12に作用する軸力N1の入力位置が、X方向へ移動する(移動距離L)。このため、滑り板32が固定された仕口部14J又は上基礎梁14Xにおいて、上部構造体14の軸力N1の入力位置(軸線CL1)と、軸力N1に対する反力N2の入力位置(基礎杭16及び支承部36の軸線CL2)とが偏心する。したがって、仕口部14J又は上基礎梁14Xには偏心曲げが発生し、せん断力が作用する。
【0065】
第2実施形態の免震構造物11では、免震支承30Aと免震支承30Bは、X方向に沿って1つずつ交互に配置されている。したがって地震時には、上部構造体14の上基礎梁14X及び下部構造体12の下基礎梁12Xへ偏心曲げが分散され、上基礎梁14X及び下基礎梁12Xのそれぞれに生じるせん断力を平準化できる。
【0066】
なお、ここでは地震時にX方向に沿った外力Pが作用した場合について説明したが、支承部36は任意の方向に沿って滑り板32の上を滑動できるため、任意の方向に沿った外力に対して、上部構造体14及び下部構造体12に生じるせん断力を平準化できる。
【0067】
なお、第1実施形態における免震構造物10においては、免震支承20A、20BがX方向、Y方向の双方に沿って1つずつ交互に配置された構成としたが、本発明の実施形態はこれに限らない。
【0068】
例えば免震支承20A、20B何れかを、X方向、Y方向の少なくとも一方に「複数連続して」配置してもよい。一例として、部分的に
図6、
図7のように免震支承20BがX方向へ連続した構成とすれば、第1レール22は下部構造体12の下基礎梁12Xに配置されないため、下基礎梁12Xに発生するせん断力を抑制し、上部構造体14にせん断力を集中できる。
【0069】
このように、せん断力を発生させたくない部分がある場合は、その部分に免震支承20A、20Bの第1レール22又は第2レールが配置されないようにすれば、当該部分に発生するせん断力を抑制することができる。なお、第2実施形態における免震構造物11においても、免震支承30A、30Bを「複数連続して」配置できる。
【0070】
また、免震支承20A、20Bの配列方向は、X方向及びY方向に沿っていなくてもよい。一例として、下部構造体12及び上部構造体14の最下部をマットスラブで形成した場合、下部構造体12の上面及び上部構造体14の下面は平坦に形成されるため、免震支承20A、20Bを任意の場所に配置することができる。
【0071】
このようにすれば、例えば上部構造体14において積載荷重又は自重が大きい部分に、免震支承20A、20Bを配列する方向を考慮せずに、集約して配置することができる。なお、第2実施形態における免震構造物11においても、免震支承30A、30Bを任意の場所に配置できる。また、ここで説明したように、下部構造体12、上部構造体14の最下部はマットスラブで構成してもよい。
【0072】
また、第1実施形態において免震支承20A、20Bはほぼ同数配置されているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば、免震支承20Aを1つだけ配置して、その他は全て免震支承20Bを配置してもよい。
【0073】
このようにすることでも、免震支承20Aを配置した部分においては、地震時のせん断力を下部構造体12、上部構造体14へ分散できる。同様に、免震支承20Bを1つだけ配置して、その他は全て免震支承20Aを配置してもよい。すなわち、免震支承20A、20Bのそれぞれが少なくとも1つずつある構成であればよい。第2実施形態における免震構造物11においても、免震支承30A、30Bのそれぞれが少なくとも1つずつある構成であればよい。
【0074】
また、第1実施形態及び第2実施形態において、下部構造体12には基礎杭16が設けられているが、本発明の実施形態はこれに限らず、基礎杭16は省略することができる。また、下部構造体12は基礎躯体とされているが、建物本体の躯体とすることができる。すなわち、免震構造物10、11は、それぞれ中間層免震の建物にすることができる。
【0075】
また、第1実施形態及び第2実施形態において、下部構造体12及び上部構造体14は鉄筋コンクリート造とされているが、本発明の実施形態はこれに限らず、鉄骨鉄筋コンクリート造や鉄骨造としてもよい。
【0076】
また、第1実施形態及び第2実施形態における免震構造物10、11は、新築の構造物に限らず既存建物とすることができる。すなわち、既存建物を免震改修する際に、既存建物を下部構造体12と上部構造体14とに分割し、その間に免震支承20、30を挟んで免震構造物10、11にすることができる。
【0077】
このようにすれば、基礎梁などを構成する部材寸法及び耐力が予め決まっている既存の建物に対して、地震時に作用するせん断力がそれぞれの部材の許容応力度を上回らないように、該せん断力を下部構造体12と上部構造体14とに分散させることができる。これにより、改修時の部材補強を低減したり省略することができる。このように、本発明の免震構造物10、11は様々な態様で実施することができる。