特許第6936612号(P6936612)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6936612内燃エンジン用のスカート部を有するピストン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6936612
(24)【登録日】2021年8月31日
(45)【発行日】2021年9月15日
(54)【発明の名称】内燃エンジン用のスカート部を有するピストン
(51)【国際特許分類】
   F02F 3/10 20060101AFI20210906BHJP
   F02F 3/00 20060101ALI20210906BHJP
   F16J 1/01 20060101ALI20210906BHJP
【FI】
   F02F3/10 B
   F02F3/00 L
   F02F3/00 G
   F16J1/01
【請求項の数】10
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-81096(P2017-81096)
(22)【出願日】2017年4月17日
(65)【公開番号】特開2017-201165(P2017-201165A)
(43)【公開日】2017年11月9日
【審査請求日】2020年4月10日
(31)【優先権主張番号】10 2016 207 592.6
(32)【優先日】2016年5月3日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】506292974
【氏名又は名称】マーレ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】MAHLE International GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ドブア セドリック
(72)【発明者】
【氏名】カラ ゼイネプ
【審査官】 松永 謙一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−149622(JP,A)
【文献】 特開2010−216362(JP,A)
【文献】 特表2009−529097(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/034177(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 3/10
F02F 3/00
F16J 1/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃エンジン(2)のためのスカート部(3)を有するピストン(1)であって、
内層(5)と外層(6)とからなる二層の被覆(4)が前記スカート部(3)に付着させられ、
前記内層(5)は、有機バインダと固体潤滑剤とを有し、
前記内層(5)は、二硫化タングステン(WS2)、炭化タングステン(WC)、炭化ケイ素(SiC)及び/又は酸化アルミニウム(Al2O3)の硬質材料粒子を含み、
前記外層(6)は、無機バインダを有し、空気中で硬化され、かつ前記内層(5)よりも低い耐摩耗性を備えることを特徴とするピストン。
【請求項2】
請求項1記載のピストンにおいて、
前記内層(5)の前記有機バインダは、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、シリコーンエポキサイド、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、又はPAIとシリコーン樹脂との混合物、又はPAI系との更なる混合物の中から選択されたものであることを特徴とするピストン。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のピストンにおいて、
前記固体潤滑剤は、二硫化モリブデン(MoS)及び/又はグラファイトであることを特徴とするピストン。
【請求項4】
請求項3記載のピストンにおいて、
前記固体潤滑剤は、0.5μm≦D≦5μmを満たす直径Dを持つ粒子を含むことを特徴とするピストン。
【請求項5】
請求項1〜4のうちいずれか1項に記載のピストンにおいて、
前記硬質材料粒子は、500nmから1,000nmまでの粒子サイズを持つことを特徴とするピストン。
【請求項6】
請求項1〜5のうちいずれか1項に記載のピストンにおいて、
前記外層(6)は、潤滑剤、特に二硫化モリブデン(MoS)及び/又はグラファイトを含む固体潤滑剤を有することを特徴とするピストン。
【請求項7】
請求項1〜6のうちいずれか1項に記載のピストンにおいて、
前記被覆(4)の厚みdは、5μmと30μmとの間、特に約15μmであることを特徴とするピストン。
【請求項8】
請求項1〜7のうちいずれか1項に記載のピストンにおいて、
前記外層(6)は、−180℃から+450℃までの温度範囲にて耐熱性を備えたことを特徴とするピストン。
【請求項9】
請求項1〜8のうちいずれか1項に記載のピストン(1)を少なくとも1つ備えた内燃エンジン(2)。
【請求項10】
請求項1〜8のうちいずれか1項に記載のピストン(1)のスカート部(3)に被覆(4)を付着させる方法であって、
前記ピストン(1)の前記スカート部(3)に前記内層(5)を付着させ、
液体状で、かつ溶射により、塗布により、又はパッド印刷法により、前記ピストン(1)の前記スカート部(3)に前記外層(6)を付着させ、かつ、
前記外層(6)を空気中で硬化させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部に従った、内燃エンジン用のスカート部を有するピストンに関する。また本発明は、そのようなピストンを少なくとも1つ備えた内燃エンジンと、そのようなピストンのスカート部に被覆を付着させる方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、慣らし運転及び緊急時の動作特性を保証するように機能性の漸進構造を持つ被覆が知られており、そのような被覆の組成は、摩擦最小化特性と耐摩耗特性とを両立させなければならない。この理由から、コネクティングロッドのような高い耐摩耗性が要求される部品は、例えば大きい表面粗さ値を有する、特に炭素繊維で強化された被覆を持つが、これはプロセスモニタリングの点で不利である。加えて、そのような硬質の炭素繊維は、アルミニウム対向面に対する研削効果を持つので、好ましくない研磨効果や、溝の形成を引き起こすことがある。
【0003】
ある先行技術は、セラミック粒子、アラミド繊維及び/又は炭素繊維を分散させたポリマーマトリックスからなる耐摩耗性の内層と、固体潤滑剤を分散させたポリマーマトリックスからなる外層とを備えたスカート被覆を持つ、内燃エンジン用の一般的なピストンを開示する(特許文献1参照)。その目的は、ピストンの表面に直接付着させられた機能性の内層とともに、慣らし運転の挙動と特に耐擦り傷性とが改善された耐摩耗性の外層(基体層)とを提供することにある。摩擦最小化被覆はまた、内燃エンジン動作中の燃料消費の低減及びCO放出の低減を可能にすることを意図している。
【0004】
二層のスカート被覆を持つ、他の一般的なピストンも知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2012/041769号
【特許文献2】欧州特許出願公開第1894987号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記先行技術から公知のピストンは、被覆の形成が比較的にエネルギ集約的であるという欠点を有する。
【0007】
したがって、本発明は、より経済的に製造できる点によって特徴付けられた、一般的なタイプのピストンに対する改良された、又は少なくとも代替可能な実施形態を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、本発明に従って独立請求項1の主題により解決される。有利な実施形態は、従属請求項の主題である。
【0009】
本発明は、内燃エンジンのピストンのスカート部に内層と外層とからなる二層の被覆を付着させるという一般的概念に基づいている。ここに、外層は、例えば溶射により、又は塗布により、すなわち液体状で内層に付着させられ、空気中で乾燥し、又は硬化し得るように構成されるので、従来技術から公知の被覆と比較して大幅なエネルギ節約を可能にする。加えて、外層は、内層と比較して大幅に低減された耐摩耗性を示し、たったの6時間という非常に短期間の慣らし運転段階の後に高応力領域にてクリアランスの達成を、ひいては摩擦損失の大幅な低減を可能にする。本発明による二層の被覆のうちの内層は、二硫化タングステン(WS)、炭化タングステン(WC)、炭化ケイ素(SiC)及び/又は酸化アルミニウム(Al)の硬質材料粒子とともに、有機バインダと固体潤滑剤とを有する。これと対照的に、外層は、無機バインダを有し、かつ内層と比較して大幅に高い摩耗傾向のゆえに、ピストンの迅速な慣らし運転を可能にするのに適している。特に、無機バインダを有する外層の構成が空気中での乾燥を可能にするので、本発明によるピストンの製造コストがかなり低減される。慣らし運転段階の後、本発明による二層の被覆は、容易に摩耗する外層が特に高応力領域にて少なくとも部分的に摩耗して、表面にて又は内層とのインターフェイスに向かってより平滑になる結果、ピストンスカート部とシリンダとの間に実現する接触面がより大きくなるという点でも利点を有する。
【0010】
本発明による解決策の有利な改良によれば、内層の有機バインダは、ポリアミド(PAI)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)及び/又はポリアリールエーテルケトン(PAEK)、シリコーンエポキサイド、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、又はPAIとシリコーン樹脂との混合物、又はPAI系との更なる混合物の中から選択されたものである。ポリアミドの例は、主鎖に沿って一様に繰り返すアミド結合を持つ線状ポリマーである。これらは、特に高強度、高剛性及び強靱性によって特徴付けられ、化学的に好ましい安定性と、良好な加工性とを示す。ポリアミドは、水分に反応して、可逆的に水分を吸収し、又は放出する。ポリエーテルケトンは、分子骨格の中に置換したケトン及びエーテルの官能基が存在するポリマーである。最も一般的なタイプは、高い耐熱性を有する熱可塑性樹脂であるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)及びポリアリールエーテルケトン(PAEK)である。PEK、PEEK及びPAEKは、有機化学的にも、また無機化学的にも高い耐性を有する。
【0011】
本発明による解決策の有利な改良によれば、内層の固体潤滑剤は、二硫化モリブデン(MoS)及び/又はグラファイトを含む。二硫化モリブデンは、化学元素モリブデンの灰黒色の結晶性硫化物であって、0.5μm〜5μmの粒子直径を持ち、かつ乾式潤滑剤として特に技術的に適したものである。特に、そのような乾式潤滑剤は、潤滑油の供給が途絶えた場合にピストンの緊急時動作特性を改善する。グラファイトもまた、そのような乾式潤滑剤特性を提供するので、当該被覆を備えたピストンの緊急時動作特性を保証する。もちろん、純粋に理論的には、そのような固体潤滑剤を有する外層が、内層よりも高い摩耗傾向を有し、二硫化モリブデン及び/又はグラファイトを含んでもよい。
【0012】
本発明による解決策の他の有利な実施形態によれば、外層は、−180℃から+450℃までの温度範囲にて耐熱性を備える。この実施形態によれば、外層が、特に慣らし運転中に、又は慣らし運転段階にて、生じた温度によって思わしくない影響を受けないことを保証することを可能にする。更に、内燃エンジンの運転中にピストンスカート部上の被覆の領域に生じる温度は450℃を上回らないので、この領域に思わしくない影響が生じることはない。
【0013】
本発明は、ピストンのスカート部に上記二層の被覆を付着させる方法を提供するという一般概念にも基づく。この方法によれば、例えば、特にシルクスクリーン印刷法のような共通の標準的方法により、まずピストンのスカート部に内層が付着させられる。次に、液体状で、特に溶射により、塗布により、又はパッド印刷法により、ピストンのスカート部に外層が付着させられる。外層中の無機バインダのため、この層は空気中で乾燥し得るので、被覆の製造に必要なエネルギに関してかなり大きな利点が得られる。例えば熱又は赤外線の照射により、エネルギ集約的態様で被覆の第2層が硬化させられる必要はない。
【0014】
本発明の他の重要な特徴及び利点は、下位請求項、図面、及び図面を参照した以下の説明の中に示されている。
【0015】
上記特徴及び以下に説明する特徴は、本発明の範囲から逸脱しない限り、説明した各々の組み合わせに限らず、他の組み合わせ又は単独でも利用可能であると、理解されるべきである。
【0016】
本発明の好ましい例示的な実施形態が図面に示され、かつ以下更に詳細に説明される。ここで、同一の符号は、同一の又は機能的に同一の部品を参照するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明による二層の被覆をスカート部に備えた、本発明によるピストンの側面図である。
図2】内層を付着させた後の、被覆の領域におけるピストンの断面図である。
図3】外層を付着させた後の、図2と同様の図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1図3によれば、本発明による内燃エンジン2用のピストン1は、スカート部3を有する。本発明によれば、内層5と外層6とからなる二層の被覆4(図3も参照)が、スカート部3に付着させられている。内層5は、有機バインダと、二硫化モリブデン(MoS2)及び/又はグラファイトのような固体潤滑剤との双方を有し、信頼動作に必要とされる乾式潤滑特性を備えることで、潤滑剤供給システムが途絶えた場合の少なくとも一定期間における緊急時の動作特性を保証する。更に、内層5は、例えば、二硫化タングステン(WS2)、炭化タングステン(WC)、炭化ケイ素(SiC)及び/又は酸化アルミニウム(Al2O3)の硬質材料粒子をも含むことで、内層5の耐摩耗性が大幅に強化される。二硫化タングステンは、タングステン化合物かつ硫化物の群に属する化学化合物である。炭化タングステンは、非酸化物セラミック、又はタングステン元素及び炭素元素からなる中間結晶相である。この場合、炭化タングステンは、特に高応力部品用に使用されるが、被覆、ここでは内層5の耐摩耗性を大幅に改善するため、粒子形状でも使用され得る。外層6は、無機バインダを有し、空気中で硬化され、かつ内層5と比較して大幅に低減された耐摩耗性を示し、内燃エンジン2におけるピストン1の慣らし運転段階を、たったの6時間まで大幅に短縮することを可能にする。この慣らし運転段階にて、スカート部3とシリンダ壁との間で特に高応力領域にて大幅に拡大された接触面を提供するという程度まで、外層6が既に摩耗する。これにより、特に性能劣化の大幅な低減が抑制される。
【0019】
この場合、内層5の有機バインダは、ポリアミド(PAI)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)及び/又はポリアリールエーテルケトン(PAEK)、シリコーンエポキサイド、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、又はPAIとシリコーン樹脂との混合物、又はPAI系との更なる混合物の中から選択され得る。この完全には網羅されていないリストでさえ、これらが高強度、強靱性及び高耐性を有する限りは、内層5の有機バインダ用の技術思想の広範囲の可能性を提供する。
【0020】
固体潤滑剤は、二硫化モリブデン粒子又はグラファイト粒子のような、0.5μm〜5μmの直径を持つ粒子を含む。固体潤滑剤の超微粒子により、特に、乾式潤滑特性及び緊急時の動作特性が大幅に向上し得る。これと対照的に、内層5の硬質材料粒子は、500nm〜1,000nmの粒子サイズを持ち、固体潤滑剤の粒子よりもかなり小さい。硬質材料粒子の小さい粒子サイズは、内層5の強度特性と耐摩耗性との大幅な改善を可能にする。
【0021】
被覆4は、以下のようにして製造される。
【0022】
まず、例えばシルクスクリーン印刷法により、ピストン1のスカート部3に内層5を付着させる。続いて、対流式オーブンの中で、又は赤外線照射により硬化させる。その後、初期の液体状で、特に溶射により、又は塗布により、又はパッド印刷法により、ピストン1のスカート部3に外層6を付着させる。この工程が、最も魅力的な解決策を構成するのである。外層6の特別な構成により、この層は、余分なエネルギの入力を必要とせずに、空気中で硬化し得る。特に空気中で硬化された外層6は、製造コストの実質的な低減を可能にする。
【0023】
内燃エンジン2の引き続く慣らし運転動作にて、外層6は、その低い耐摩耗性により比較的急速に摩耗する。これにより、一方でスカート部3と、他方でシリンダ壁との間にクリアランスを形成することが可能になる。これは、摩擦による性能劣化に積極的な効果をもたらす。外層6の少なくとも部分的な摩耗の後、内層5は、その中に含められた、二硫化モリブデン又はグラファイトのような固体潤滑剤により、耐摩耗性を増強し、かつ緊急時の動作特性を保証するという課題を引き継ぐ。この場合、被覆4の厚みdは、通常は5μm〜30μmであり、好ましくは約15μmである。
【0024】
本発明による二層の被覆4は、所要のエネルギを大幅に低減させ、コスト低減かつ資源節約の態様で、耐摩耗性の層をより穏やかに付着させることを可能にする。
【符号の説明】
【0025】
1 ピストン
2 内燃エンジン
3 スカート部
4 (二層の)被覆
5 内層
6 外層
図1
図2
図3