(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
繊維径0.1〜3μmのポリフェニレンサルファイド微細繊維層と、繊維径7〜50μmのポリフェニレンサルファイド長繊維層とが少なくとも積層されてなるポリフェニレンサルファイド繊維不織布であって、前記不織布の結晶化度と剛直非晶度との和が3%以上35%未満であり、結晶化度が5%以上30%未満であり、かつ前記不織布の150℃での引張伸度が50%以上200%以下であることを特徴とする前記不織布。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」ともいう。)について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本発明は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)を主成分とする繊維から構成される不織布であって、PPS本来の特性である耐熱性、耐薬品性、難燃性を保持し、かつ、成型性を大幅に改善したPPS不織布である。
尚、PPS繊維を主成分とするPPS繊維とはPPS繊維を50質量%以上含む繊維をいう。又、PPS不織布にはPPS不織布以外の不織布を含んでいてもよい。
【0011】
本実施形態に係るPPS不織布は、繊維径が0.1〜3μmのポリフェニレンサルファイド微細繊維(PPS微細繊維)からなる層と、繊維径7〜50μmのポリフェニレンサルファイド長繊維層とが少なくとも積層されてなるポリフェニレンサルファイド繊維不織布(PPS不織布)であって、該PPS不織布の結晶化度と剛直非晶度との和が35%未満であり、かつ該PPS不織布の150℃での引張伸度が50%以上である。
PPS不織布は、上記のごとく結晶化度と剛直非晶度との和が35%未満であり、好ましくは、3〜30%、特に好ましくは、7〜28%である。
PPS不織布の結晶化度と剛直非晶度との和が35%未満であると、PPS不織布の生産工程において、該不織布が熱接着ロールに巻きついて、不織布が破断してしまうことを防止できる。
尚、本実施形態における結晶化度及び剛直非晶度とは、実施例で後述するように示差走査熱量計(DSC)による測定から求められるものである。
【0012】
本発明における剛直非晶度とは、次式:
剛直非晶度[%]=100[%]−結晶化度[%]−可動非晶度[%]
に示すとおり、繊維を形成する結晶・非晶の全体(100%)から結晶化度[%]、可動非晶度[%]を差し引いた残りである。
ここで、本発明で言う可動非晶度とは、実施例で後述するように温度変調DSCによる測定から求められるものである。
【0013】
本発明者らは、所望するような熱時伸度(後掲する150℃での引張伸度)を発現するためには、繊維の結晶構造以外にも剛直非晶構造が大きく影響していることを見出している。すなわち、剛直非晶は非晶でありながら熱に対する微細構造の動きやすさに関しては、結晶と類似した役割を果たしているものと考えられる。
【0014】
本実施形態に係るPPS不織布は、結晶化度が30%未満である。好ましくは、23%未満、特に好ましくは、5〜15%である。PPS不織布の結晶化度が30%未満であると、該不織布が生産工程中に熱接着ロールに巻き付いて破断してしまうことを防止でき、且つ150℃での熱時伸度が50%以上あるため、優れた成型性能を有する。
【0015】
本実施形態に係るPPS不織布中に少なくとも一層含まれる、繊維径が0.1〜3μmのポリフェニレンサルファイド微細繊維(PPS微細繊維)からなる層の結晶化度は10%以上50%以下であることが好ましい。
さらに、本実施形態に係るPPS不織布に少なくとも一層含まれる、繊維径が7〜50μmのポリフェニレンサルファイド長繊維(PPS長繊維)からなる層の結晶化度と剛直非晶度との和は30%未満であることが好ましい。
PPS微細繊維層の結晶化度及びPPS長繊維層の結晶化度と剛直非晶度との和がそれぞれ上記のような範囲にあると、不織布の生産工程において、不織布が熱ロールへ巻き付いて不織布が破断してしまうことを防止できるので好ましい。
尚、PPS微細繊維からなる層の結晶化度、並びにPPS長繊維からなる層の結晶化度及び剛直非晶度は、上記のPPS不織布の結晶化度及び剛直非晶度を求めた方法と同じようにして求められる。
【0016】
上記のように、PPS不織布の結晶構造と非晶構造が制御されたPPS不織布の150℃における伸度(熱伸度)は50%以上であり、そのため優れた成型性能を有する。熱伸度は60%以上であることがより好ましく、80%以上であるとさらに好ましい。上限は特に限定されないが、実質的には200%以下である。
【0017】
本発明のPPS不織布の好ましい態様としては、
繊維径が0.1〜3μmで結晶化度が10〜50%のポリフェニレンサルファイド微細繊維(PPS微細繊維)からなる層(ウェブ)と、結晶化度と剛直非晶度との和が30%未満であるPPS繊維からなるポリフェニレンサルファイド長繊維(PPS長繊維)層(ウェブ)とが少なくとも積層されて一体化された多層構造不織布であって、該多層構造不織布の結晶化度と剛直非晶度との和が35%未満であり、かつ該多層構造不織布の150℃での引張伸度が50%以上の多層構造不織布である。
ここで言う層とは後掲のウェブ層のことをいう。
もう一つの好ましい態様としては、該PPS長繊維からなるウェブを上下層に用いて、上記したPPS微細繊維からなるウエブ層を中間層として積層一体化された多層構造不織布であり、該多層構造不織布の結晶化度と剛直非晶度との和が35%未満であり、かつ該多層構造不織布の150℃での引張伸度が50%以上の多層構造不織布である。
このような多層構造不織布は成型性、フィルター性能などの面から好ましい。
【0018】
多層構造不織布のより具体的な実施形態としては、以下のようなものが挙げられる。
(i)少なくとも1層以上の繊維径が7〜50μmで、該層の結晶化度と剛直非晶との和が30%未満であるPPS長繊維からなる層(ウェブ)と、少なくとも1層以上の繊維径が0.1〜3μmで結晶化度10〜50%であるPPS微細繊維からなる層(ウェブ)が積層一体化されている多層構造不織布であり、該不織布の結晶化度と剛直非晶度との和が35%未満であり、かつ該多層構造不織布の150℃での引張伸度が50%以上の多層構造不織布である。
【0019】
(ii)上下ウェブ層として、繊維径7〜50μmで、該層の結晶化度と剛直非晶との和が30%未満であるPPS長繊維からなる層を有し、中間層として、繊維径が0.1〜3μmで、該層の結晶化度が10〜50%であるPPS微細繊維からなる層を有し、かつ、上下層と中間層が積層一体化されている多層構造不織布であり、該不織布の結晶化度と剛直非晶度との和が35%未満であり、かつ該多層構造不織布の150℃での引張伸度が50%以上の多層構造不織布である。
【0020】
積層させる該PPS微細繊維層及び該PPS長繊維層は、それぞれ単層でも良いし、複数層を積層することもできる。
また、該PPS微細繊維層と該PPS長繊維層を積層する順序については、特に限定されず、PPS微細繊維層とPPS長繊維層とを交互に積層しても良いし、複数層のPPS微細繊維層又はPPS長繊維層を積層したあとで他の層を積層してもよいし、各層をランダムに積層しても構わない。
尚、上記のPPS長繊維又はPPS微細繊維からなる層とは後掲のウェブ層のことを言う。
【0021】
多層構造不織布において、PPS長繊維の繊維径は、上記のごとく7〜50μmであり、結晶化度と剛直非晶との和が30%未満である。
また、多層構造不織布において、PPS微細繊維の繊維径は0.1〜3μmであり、好ましく0.2〜3μm、より好ましくは0.3〜3μmである。
多層構造不織布において、PPS微細繊維の繊維径は、上記の範囲内で、基材となる不織布の繊維径、不織布の用途によって適宜選択されるが、繊維径が0.1〜3μmであると、成型後も良好なフィルター性能バリヤー性能を維持することができる。
【0022】
本実施形態に係るPPS不織布の結晶化度と剛直非晶度の和を特定範囲にコントロールするためには、ポリマー条件、紡糸段階での紡糸速度、加熱、冷却、延伸条件を適正化することが重要である。特に、紡速と紡糸部での糸の冷却プロファイルをコントロールすることで、所望する結晶化度と剛直非晶度の和を得ることができる。
このコントロール方法は、本発明者らにより見出されたものであり、以下に詳細を記述する。
【0023】
本実施形態において、PPS長繊維の紡糸速度は、3000〜6000m/minが好ましく、より好ましくは3500〜5000m/minであり、特に好ましくは3500〜4000m/minである。紡糸速度が上記の範囲であると、熱時伸度の高い不織布が得られる。
【0024】
また、本実施形態において、糸の冷却プロファイルのコントロールは、紡糸温度と吐出されたポリマーを冷却する冷風の風速で行われる。紡糸温度を比較的高温度である305℃以上、または冷風風速を0.5m/s以下の遅い速度に設定すると配向結晶化が進み難く、結晶化度の低い、熱時伸度の高い不織布を得ることができる。さらに、吐出直後は、徐冷で糸を細化し、細化完了後に急冷することで剛直非晶度を抑制することができ、結晶化度と剛直非晶度との和の小さい不織布を得ることができる。
【0025】
本実施形態に係るPPS不織布は、その構造に特に限定はないが、スパンボンド不織布、SM積層不織布、SMS積層不織布、4層以上の多層構造不織布、短繊維不織布が挙げられる。なかでも、生産効率、高機能化の面から、スパンボンド不織布、SM積層不織布、SMS積層不織布、3層以上の多層構造不織布が好ましい。なお、Sはスパンボンド、Mはメルトブローを意味する。
【0026】
本実施形態に係るPPS不織布は、繊維径が0.1〜3μmのポリフェニレンサルファイド微細繊維からなる層を少なくとも一層含むことで、適度な通気度を有する。上記のようにPPS不織布を多層構造不織布にすることにより、所望するような通気度が得られる。
【0027】
例えば、本実施形態に係るPPS不織布をろ過布として使用した場合の通気度は、1〜100cc/cm
2/secであることが好ましく、より好ましくは5〜80cc/cm
2/sec、さらに好ましくは10〜50cc/cm
2/secである。1cc/cm
2/sec未満では、ろ過布の初期圧力損失が高くなるので好ましくなく、一方、100cc/cm
2/secを超えると捕集性の低下や、ろ過布内への粉体の侵入が多く、圧力損失の上昇が激しくなり目詰まりが発生するので好ましくない。
【0028】
本実施形態に係るPPS不織布において、後掲のウエブ同士の接合方式としては、熱接着方式、水流交絡法、ニードルパンチ法などが挙げられるが、生産効率の面から、熱接着方式が好ましい。また、熱接着は全面であっても部分的であってもよい。
本発明における熱接着は、1回のみ実施されることが、生産効率上、好ましい。ただし、熱時伸度の高い不織布を得るため、場合によっては、後加工により接着温度を段階的に変えて処理することもでき、このようなPPS不織布も本発明の範囲内である。
【0029】
本発明の不織布の目付としては、10〜1000g/m
2が好ましい。目付を10g/m
2以上、より好ましくは100g/m
2以上、さらに好ましくは200g/m
2以上とすることにより、実用に供し得る機械的強度の不織布を得ることができる。一方、フィルター等で使用する場合には、目付を1000g/m
2以下、より好ましくは700g/m
2以下、さらに好ましくは500g/m
2以下とすることにより、適度な通気性を有し、高圧損となることを抑制することができる。
【0030】
本実施形態に係るPPS不織布は、空気中、210℃の温度で1500時間の耐熱暴露試験におけるたて引張強力保持率が80%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。たて引張強力保持率が80%以上であると、高温下で長期間使用される耐熱性フィルター等の使用にも耐えうることができる。
【0031】
次に、本発明のPPS不織布を製造する方法の1態様として、本発明のPPS不織布において、スパンボンド法とメルトブロー法にて多層構造不織布を製造するプロセスの1例を以下に説明する。
【0032】
スパンボンド法に用いるPPSポリマーの粘度は、荷重5kgおよび温度315.6℃の条件でASTM−D1238−82法で測定した溶融流れ(MFR)が、10〜700(g/10min)の範囲のものが好ましく、より好ましくは50〜500(g/10min)の範囲である。また、PPSポリマーは線状であることが好ましい。
【0033】
積層させるPPS微細繊維の繊維径と結晶化度を所定の範囲に調整するためには、例えば、荷重5kgおよび温度315.6℃の条件で、ASTM−D1238−82法により測定した溶融流れ量(MFR)が100〜1000(g/10min)のポリマーを用いることにより、一般的なメルトブロー紡糸条件で調整可能である。
【0034】
MFRが上記の範囲であると、紡糸工程での繊維形成における変形追随性が良好で、糸切れが少なく、また、PPSポリマーの分子量が十分に高い為、実用上十分な強度の繊維が得られる。また、本発明の効果を阻害しない範囲で、PPSポリマーへ、原着や、酸化チタン、紫外線吸収剤や、熱安定剤、酸化防止剤等の任意の添加剤が添加されても良い。
【0035】
紡糸工程の1例を挙げると、PPSポリマーを、通常の押出機で溶融した後、該溶融物を、計量ポンプを経て、温度が300〜380℃である多数の細孔を有する紡糸口金に送り込み、溶融押出しして糸状物とし、その後、牽引装置(例えば、エジェクター装置)で延伸することにより、該糸状物が重なり合い層状となるPPSスパンボンド繊維ウェブが得られる。その上からメルトブロー法により、PPS微細繊維を直接吹き付けて積層すると、長繊維層へ微細繊維が進入するという効果によって、層間の剥離が防止され、さらには、長繊維層が強化されるため、高強度の不織布が得られるので好ましい。このPPS繊維積層ウェブを、熱圧着ロールを用いて、連続的に熱接着によって、上記PPS長繊維ウェブ層とPPS微細繊維ウェブ層とを一体化接合することにより、本発明のPPS不織布を得ることができる。
【0036】
溶融紡糸する際の紡糸温度は、290〜380℃が好ましく、より好ましくは300〜370℃であり、特に好ましくは305〜340℃である。紡糸温度が上記の範囲であると、安定した溶融状態で、斑および着色がなく満足し得る強度の繊維が得られる。用いる紡口口金の形状については特に制限はなく、円形、三角、多角形、扁平等のものを用いることが出来、通常は、ノズル直径が0.1〜1.0mm程度の円形が好ましい。
【0037】
所定の紡糸温度でノズルから押し出された溶融ポリマーは、エジェクター装置の出口から空気流と共に噴出されて、延伸フィラメント群となり、更に、その下方に設けられた移動式の多孔性の受器(例えば、金属製あるいは樹脂製の定速走行している網状物等)の上にウェブとして捕集される。
【0038】
ここで、エジェクター装置とは、加圧空気による高速空気流を推進力として、溶融紡糸されたフィラメントを高速で引き取り、細化し、かつ該高速空気流にフィラメントを随伴させる機能を有する装置を言う。エジェクターから押し出されるフィラメントの速度、すなわち紡糸速度は、フィラメント単糸の細化結晶化の指標であり、低速に抑えることで結晶化を抑制し、熱時伸度の高い繊維が得られる。
【0039】
スパンボンド繊維の紡糸速度は、3000〜6000m/minが好ましく、より好ましくは3500〜5000m/minであり、特に好ましくは3500〜4000m/minである。紡糸速度が上記の範囲であると、熱時伸度の高い不織布が得られる。
【0040】
この時、エジェクターから噴出されるフィラメント群が、固まりやすくかつ捕集されたウェブの広がりが狭く、シートとしての均一性および品位に欠けるような傾向にあるときには、フィラメントが相互に離れた状態で噴出されて捕集されるような工夫をすることが特に有効である。
【0041】
このためには、例えば、エジェクターの下方に衝突部材を設け、衝突部材にフィラメントを衝突させて、フィラメントに摩擦帯電を起こさせて開繊させる方法、あるいは、エジェクターの下方で、コロナ放電により該フィラメントに強制帯電させて開繊させる方法などを用いることができる。
【0042】
ウェブの捕集に際しては、フィラメント群に随伴した空気流が受器に当たるために、一旦堆積したウェブが吹き流されて乱れたものになる場合があり、この現象を防ぐためには、受器の下方から空気を吸引する手段を採用することが好ましい。このような手段は、PPS微細繊維層又はPPS長繊維層からなるウェブ単層又は複数層に対して適用できる。
【0043】
上記のようにして得られた積層ウェブを、連続的に熱接着して一体化接合することにより、本発明のPPS不織布を得ることができる。熱接着の条件は、130〜250℃の加熱下で圧着面積率が3%以上で行うことが好ましく、熱接着により繊維相互間の良好な接着とともにウェブ同士の良好な接着が行われる。この場合の熱接着は短時間の瞬間的な熱付与であり、PPS微細繊維又はPPS長繊維の結晶構造に変化を生じさせるものではない。
【0044】
熱接着の方法としては、加熱した平板を用いて熱圧着することが可能であるが、一対のカレンダーロール間に積層ウェブを通して熱圧着させる方法が生産性に優れているため好ましい。カレンダーロールの温度および圧力は、供給されるウェブの目付、速度等の条件によって適宜選択されるべきものであり、一概には定められない点もあるが、より好ましい温度は130〜250℃、圧着面積率は3%以上、圧力は少なくとも線圧が50N/cm以上であることが、得られる不織布の強度向上を図る上で好ましい。
【0045】
カレンダーロールとしては、その表面が平滑なものや模様が彫刻されたもの(例えば、長方形型、ピンポイント型、織目柄、Y柄、ドンゴロス柄、ヘリンボン柄、四角形柄、横菱柄絣、斜絣柄)の使用、あるいは、これらの同種ローラーの組み合わせ、異種ローラーの組み合わせによる複数の回転ローラーの使用も可能である。熱圧着部の面積は、不織布の全面積に対して3%以上とすることが不織布の強度を良好に発揮させる上で好ましい。
【0046】
本発明においての熱接着は、1回のみ実施されることが、生産効率上、好ましい。ただし、熱時伸度の高い不織布を得るため、場合によっては、低温結晶化温度以下で仮接着した後、定張熱セットのような後加工により低温結晶化温度以上で処理することもでき、このようにして得られたPPS不織布も本発明の範囲内である。仮接着の温度は、100〜120℃が好ましく、熱セットの温度は、120℃〜250℃が好ましい。
【0047】
一方、ニードルパンチで機械的に交絡する場合は、針形状や単位面積当たりの針本数等を適宜選択、調整して実施される。特に単位面積当たりの針本数としては、強度や形態保持の点から少なくとも100本/cm
2以上とすることが好ましい。またニードルパンチ前の不織ウェブにシリコーン系の油剤を噴霧し、針で繊維が切断されることを防止し、繊維同士の交絡性を向上させることが好ましい。
【0048】
また機械的交絡をウォータージェットパンチで実施する場合、水は柱状流の状態で行うことが好ましい。柱状流を得るには、通常、直径0.05〜3.0mmのノズルから圧力1〜60MPaで噴出させる方法が好適に用いられる。複数の不織ウェブ同士を効率的に交絡し、一体化させるための圧力としては、少なくとも1回は10MPa以上の圧力で処理することが好ましく、15MPa以上がより好ましい。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。尚、測定方法、評価方法等は下記の通りである。
(1)溶融流れ量(MFR)
荷重5kg、315.6℃の条件にて、ASTM−D1238−82法に準じて測定した。単位はg/10minである。
(2)繊維径
試料の任意の10ヶ所をマイクロスコープの倍率2500倍にて撮影して、50点の繊維の直径を測定し、それらの平均値を求めた。
(3)平均単繊維繊度(dtex)
ネット上に捕集した不織ウェブからランダムに小片サンプル10個を採取し、マイクロスコープで500〜1000倍の表面写真を撮影し、各サンプルから10本ずつ計100本の繊維の幅を測定し、平均値を算出した。単繊維の幅平均値を、丸形断面形状を有する繊維の平均直径とみなし、使用する樹脂の固形密度から長さ10,000m当たりの質量を平均単繊維繊度として、小数点以下第三位を四捨五入して算出した。
【0050】
(4)紡糸速度(m/min)
繊維の平均単繊維繊度(dtex)と各条件で設定した紡糸口金単孔から吐出される樹脂の吐出量(g/min)(以下、単孔吐出量と略記する。)から、次の式:
紡糸速度=(10000×単孔吐出量)/平均単繊維繊度
に基づき、紡糸速度を算出した。
【0051】
(5)結晶化度(%)
製造後の不織布からランダムに試料3点を採取し、示差走査熱量計(TA Instruments社製、Q1000)を用いて、下記の条件下で、以下の式:
結晶化度={〔(融解による吸熱量[J/g])−(冷結晶化による発熱量[J/g])〕/146.2[J/g]}×100
で表される結晶化度を算出し、平均値を算出した。上記の「冷結晶化による発熱量」とは冷結晶化に由来する発熱ピーク面積であり、「融解による吸熱量」とは融解に由来する吸熱ピーク面積である。熱量(ピーク面積)算出時のベースラインは、非晶のガラス転移後の液体状態と結晶の融解後の液体状態の熱量を直線で結んだものとし、このベースラインとDSC曲線の交点を境界として、発熱側と吸熱側を切り分けた。また、完全結晶時の融解熱量を146.2J/gとした。
(測定条件)
・測定雰囲気:窒素流(50ml/分)
・温度範囲 :0〜350℃
・昇温速度 :10℃/分
・試料量 :5mg
【0052】
(6)可動非晶度(%)
製造後の不織布からランダムに試料3点を採取し、温度変調DSC(TA Instruments社製、Q1000)を用いて、下記の条件下で、以下の式:
可動非晶度[%]=(ガラス転移温度前後の比熱変化量[J/g℃])/0.2699[J/g℃]×100
で表される可動非晶度を算出し、平均値を算出した。また、完全非晶時の比熱量を0.2699J/g℃とした。
(測定条件)
・測定雰囲気:窒素流(50ml/分)
・温度範囲 :60〜200℃
・昇温速度 :2℃/分
・試料量 :5mg
【0053】
(7)剛直非晶度(%)
上記(5)で求めた結晶化度と上記(6)で求めた可動非晶度から、次式:
剛直非晶度[%]=100[%]−結晶化度[%]−可動非晶度[%]
にて剛直非晶度を算出した。
(8)不織布の目付(g/m
2)
JIS L−1906に準じて測定した。
(9)不織布の引張強力
JIS L 1913:2010「一般不織布試験方法」の、6.3「引張強さ及び伸び率(ISO法)」の6.3.1「標準時」に準じ、サンプルサイズ5cm×30cm、つかみ間隔20cm、引張速度10cm/分の条件でたて方向3点の引張試験を行い、サンプルが破断した時の強力をたて引張強力(N/5cm)とし、それらの平均値の小数点以下第三位を四捨五入して算出した。
【0054】
(10)通気度(cc/cm
2/sec)
JIS−L1906に規定の方法に従い、経15cm×緯15cmの試験片を資料の幅1m当たり3箇所採取して、フラジール法により試験片を通過する空気量を測定し、その平均値を求めた。
【0055】
(11)耐熱暴露試験とたて引張強力保持率
熱風オーブン(エスペック株式会社製、TABAI HIGH−TEMP OVEN PHH−200)を用い、長さ30cm、幅5cmのたて方向のサンプルを必要数オーブン内に投入し、熱風空気雰囲気下、210℃×1500時間、曝露させた。耐熱暴露試験前後のサンプルについて、上記(9)に記載の方法で引張強力を測定し、下記式:
たて引張強力保持率(%)={耐熱暴露試験後たて引張強力(N/5cm)/耐熱暴露試験前たて引張強力(N/5cm)}×100
を用いて、たて引張強力保持率を算出した。
【0056】
(12)成型における展開比及び成型性の評価
20cm×20cmの不織布の布帛試料片を成型機にセットし、熱風温度150℃で予熱して、直径12cmの成型金型で熱プレスを実施した時の成型体の深さを測定し、下記の式:
展開比=(成型体の深さ)/(成型前シートの直径)
で展開比を算出した。
成型性の評価は、展開比0.2での成型性により評価した。
○:破れがなく、成型性良好
△:糸の無い微小穴状部位が発生し、成型性不良
×:破れが発生し、成型性不良
【0057】
[実施例1]
溶融流れ量(MFR)が70g/10minである線状PPSポリマー(ポリプラスチックス社製:フォートロン)を305℃で溶融し、ノズル径0.25mmの紡糸口金から押出し、風速0.5m/sの冷風にて線状ポリマーを冷却し、エジェクターで吸引しながら紡糸速度4000m/minで延伸し、移動する多孔質帯状体の上に捕集・堆積させて、目付が90g/m
2の層状のPPS長繊維ウェブを作製した。
次いで、溶融流れ量(MFR)が670g/10minである線状PPSポリマー(ポリプラスチックス社製:フォートロン)を、紡糸温度340℃、加熱空気温度390℃の条件下でメルトブロー法により紡糸し、平均繊維径1μmの微細繊維を目付20g/m
2のランダムウェブとして、上記で作製したPPS長繊維ウェブに向けて垂直に噴出させ、PPS長繊維層からなるウェブ層の上にPPS微細繊維層からなるウェブ層が積層された積層ウェブを得た。なお、メルトブローノズルからPPS長繊維ウェブの上面までの距離は、100mmとした。
【0058】
得られたPPS積層ウェブのPPS微細繊維の層上に、更に、PPS長繊維ウェブを、上記と同様にして開繊し、PPS長繊維の層/PPS微細繊維の層/PPS長繊維の層からなる三層積層ウェブを調製した。
【0059】
この三層PPS積層ウェブを、180℃に加熱した織目柄エンボス(圧着面積率14.4%)ロールとフラットロール間で線圧300N/cmにて部分熱圧着し、多層構造のPPS不織布を作製した。この不織布を構成する繊維及び不織布の特性を表1に示す。
【0060】
[実施例2、3、及び4]
実施例1において、紡糸速度を5000m/min(実施例2)、3500m/min(実施例3)、6000m/min(実施例4)にしたこと以外は、実施例1と同様にして、PPS不織布を作製した。得られた不織布を構成する繊維及び不織布の特性を表1に示す。
【0061】
[実施例5]
実施例1において、得られた三層PPS積層ウェブを、100℃に加熱した織目柄エンボス(圧着面積率14.4%)ロールとフラットロール間で線圧300N/cmにて仮接着したこと以外は、実施例1と同様にして紡糸し、不織ウェブ化を行った。
引き続き、上記不織ウェブに、油剤(SM7060:東レ・ダウコーニング シリコーン株式会社製)を繊維質量に対し2質量%付与し、バーブ数1、バーブ深さ0.06mmのニードルを用いて、ニードルパンチを300本/cm
2の交絡処理を施して、PPS不織布を作製した。この不織布を構成する繊維及び不織布の特性を表1に示す。
【0062】
[実施例6]
実施例1において、得られた三層PPS積層ウェブを、100℃に加熱した織目柄エンボス(圧着面積率14.4%)ロールとフラットロール間で線圧300N/cmにて仮接着したこと以外は、実施例1と同様にして紡糸し、不織ウェブ化を行った。
引き続き、上記不織ウェブを、ノズルが孔径0.2mm、ピッチ0.2mmであるウォータージェットパンチを用い、表裏を交互に15MPaの圧力で交絡処理を施し、その後、設定温度を100℃とした熱風乾燥機で乾燥させることで、PPS不織布を作製した。この不織布を構成する繊維及び不織布の特性を表1に示す。
【0063】
[比較例1、及び2]
実施例1において、紡糸速度を7500m/min(比較例1)、6500m/min(比較例2)にしたこと以外は、実施例1と同様にして、PPS不織布を作製した。得られた不織布を構成する繊維及び不織布の特性を表1に示す。しかし、満足する熱時伸度が得られず、成型性に優れた不織布を得ることができなかった。
[比較例3]
比較例1において、得られた三層PPS積層ウェブを、250℃に加熱した織目柄エンボス(圧着面積率14.4%)ロールとフラットロール間で線圧300N/cmにて仮接着したこと以外は、比較例1と同様にして紡糸し、不織ウェブ化を行った。得られた不織布を構成する繊維及び不織布の特性を表1に示す。しかし、満足する熱時伸度が得られず、成型性に優れた不織布を得ることができなかった。
【0064】
[比較例4]
実施例4において、300℃で溶融し、風速1.0m/sの冷風にて線状ポリマーを冷却したこと以外は、実施例4と同様にして紡糸し、不織ウェブ化を行った。得られた不織布を構成する繊維及び不織布の特性を表1に示す。しかし、満足する熱時伸度が得られず、成型性に優れた不織布を得ることができなかった。
[比較例5]
実施例1において、極細繊維層を除いたこと以外は、実施例1と同様にして、PPS不織布を作製した。得られた不織布を構成する繊維及び不織布の特性を表1に示す。しかし、満足する通気度が得られず、フィルター性能に優れた不織布を得ることができなかった。
【0065】
[比較例6]
溶融流れ量(MFR)が50g/10minであるPETポリマーを290℃で溶融し、ノズル径0.25mmの紡糸口金から押出し、風速0.5m/sの冷風にて線状ポリマーを冷却し、エジェクターで吸引しながら紡糸速度2500m/minで延伸し、移動する多孔質帯状体の上に捕集・堆積させてPPS長繊維ウェブを作成した。
【0066】
得られたウェブを、70℃に加熱した織目柄エンボス(圧着面積率14.4%)ロールとフラットロール間で線圧300N/cmにて部分的に仮接着し、その後、フェルトカレンダーによる130℃の定張熱セットにてPET不織布を作製した。この不織布を構成する繊維及び不織布の特性を表1に示す。しかし、満足する通気度が得られず、フィルター性能に優れた不織布を得ることができなかった。また、耐熱暴露試験後の引張強度低下率が大きく、満足する耐熱性を持つ不織布を得ることができなかった。
【0067】
【表1】