(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第一実施形態)
本発明の第一実施形態に係る構造物について、図面を用いて説明する。
図1は、本発明の第一実施形態に係る構造物を(a)模式的に示した立面図であり、(b)模式的に示した平面図である。
図1に示すように、本実施形態の構造物100は、第一建物1と、第一建物1に隣接配置された第二建物2と、を備えている。第一建物1と第二建物2とは制震装置3で水平方向に連結されている。
【0021】
第一建物1は、積層ゴム支承11と、積層ゴム支承11に支持された第一建物本体(第一対象物)12と、を有している。第二建物2は、滑り支承21と、滑り支承21に支持された第二建物本体(第二対象物)22と、を有している。第二建物2を支持する免震装置は、滑り支承21の他、CLBや弾性滑り支承、転がり支承であってもよい。なお、滑り支承21の摩擦係数μは、0.005〜0.10程度であることが好ましい。
【0022】
制震装置3は、ばね要素31と減衰要素32と備える機構である。あるいは、制震装置3は、少なくともばね要素31を備えていればよい。本実施形態では、制震装置3は、鉛直方向に離間して2箇所に設置されている。
【0023】
このように構成された構造物100では、第二建物2は滑り支承21又は転がり支承に支持されて、応答加速度が一定の大きさで打ち切られるため、第二建物2の応答加速度の増加を抑制しながら応答変位を大きく低減することができる。第一建物1は復元機能を有する積層ゴム支承11で支持されているため、地震時に変形して、地震後には元の位置に戻り、残留変位を生じさせない。したがって、互いに制震装置3で連結された第一建物1及び第二建物2は共に、加速度の増加を抑制しながら応答変位を低減しつつ、地震後に残留変位を生じさせることがない。
【0024】
また、積層ゴムのもつ復元力と履歴減衰により、共振時の振幅の大きい応答に対して加振力に対する反力を効率よく低減させることができる。
【0025】
また、隣り合って配置された第一建物1と第二建物2とを、制震装置3で水平方向に連結することができる。
【0026】
(第二実施形態)
次に、本発明の第二実施形態について、主に
図2を用いて説明する。
以下の実施形態及び変形例において、前述した実施形態で用いた部材と同一の部材には同一の符号を付して、その説明を省略する。
図2は、本発明の第二実施形態に係る構造物を(a)模式的に示した図であり、(b)模式的に示した平面図である。
図2に示すように、本実施形態では、コア部4と、コア部4を囲繞するように配置された建物主要部5と、を備えている。
【0027】
コア部4は、コア側基礎免震層41と、コア側基礎免震層41に支持されたコア部本体(第二対象物、コア体)42と、を有している。コア側基礎免震層41は、滑り支承で構成されていて、弾性滑り支承が好ましい。コア部本体42は、平面視正方形状をなし、最下層から最上層まで上下方向に連続的に延びている。コア部本体42は、例えば鉄筋コンクリート造の連層耐震壁からなる高剛性のコアウォールで構成されている。なお、コア部本体42は、本実施形態では平面視正方形状をなしているが、形状は限定されることなく、長方形状や円状等であってもよい。
【0028】
建物主要部5は、主要側基礎免震層51と、主要側基礎免震層51に支持された下部層(第一対象物)52と、下部建物の上方に配置された上部層(第二対象物、コア周辺体)53と、下部層52と上部層53とを上下方向に連結する中間免震層54と、を備えている。主要側基礎免震層51及び中間免震層54は、積層ゴム支承で構成されている。
【0029】
コア部4のコア部本体42の上部(コア部本体42において建物主要部5の中間免震層54よりも上方の部分)と建物主要部5の上部層53とは、一体形成されている。コア部本体42の下部(コア部本体42において建物主要部5の中間免震層54よりも下方の部分)と建物主要部5の下部層52とは、水平方向に離間して配置されている。具体的には、建物主要部5の下部層52は、コア部本体42の下部と4方に離間して配置されている。
【0030】
コア部4のコア部本体42の下部と建物主要部5の下部層52とは、制震装置3で水平方向に連結されている。本実施形態では、制震装置3は、鉛直方向に離間して2箇所、且つコア部本体42の4方に設置されている。
【0031】
このように構成された構造物101では、平面視で建物主要部5はコア部4を囲繞するよう配置することができるため、建築計画の自由度を広げることができる。
【0032】
また、コア部4は滑り支承又は転がり支承に支持されているため、コア部4の応答加速度の増加を抑制しながら応答変位を大きく低減することができる。主要側基礎免震層51及び中間免震層54の積層ゴム支承の復元力により、建物全体で、地震後に残留変位を生じさせることがない。
【0033】
また、建物主要部5の上部層53とコア部4の上部とは一体形成されているため、建築計画の自由度を広げることができる。
【0034】
また、コア側基礎免震層41と中間免震層54とを有する複層免震構造としたことで、固有周期の超長周期化を実現することができる。
【0035】
また、剛強なコア部4を建物全層にわたって貫通させ、構造的、機能的な心棒とし、さらに中間免震層54よりも下層の建物主要部5の下部層52(基壇架構)とコア部4とを接続した連結制震構造としたことによって、応答制御を効率的に行うことが可能になる。
【0036】
また、コア部4をコア側基礎免震層41で支持することで、地震時にコア側基礎免震層41を積極的に変形させてエネルギー吸収の効率化をすることができる。
【0037】
中間免震層54の位置は、用途の境界等の建築計画的な観点から決定することができる。
【0038】
ここで、第一実施形態に係る構造物の応答低減効果を検証するために、本実施形態の構造物の解析モデルを用いて時刻歴応答解析による検討(シミュレーション)を行った。解析モデルは滑り支承の復元機能の有無による応答の比較のため、Case1〜Case3を用意した。
【0039】
図3は、時刻歴応答解析で用いた解析モデルを示す図である。
解析モデルは
図3に示し通りであり、1質点系連結モデルを用いた。以下の説明において、建物1は上記に示す実施形態の第一建物本体(第一建物)に相当し、建物2は上記に示す実施形態の第二建物本体(第二建物)に相当する。建物1は、積層ゴムで支持された構造であり、建物2は傾斜滑り支承で支持された構造である。建物1と建物2とは、ばね要素k
3と減衰要素c
3とによって連結されている。
【0040】
上記の解析で使用した諸元を表1に示す。なお、解析諸元は一例である。
【0042】
建物1は質量10,000t、免震周期4秒、減衰定数20%の免震建物であり、積層ゴムは線形の天然ゴムとしてモデル化した。建物2は建物1の半分の質量として傾斜滑り支承によって支持されている。傾斜滑り支承の摩擦係数は0.05とし、傾斜角度は1/70と設定した。
【0043】
Case1は、建物1のみの場合である。Case2は、建物1と建物2をばね要素と減衰要素で接続し、さらに建物2に傾斜滑り支承を併用した場合である。Case3は、Case2における傾斜滑り支承の傾斜角をなくし、単純な剛滑り支承とした場合である。
【0044】
時刻歴応答解析に使用した入力地震動一覧を表2に示す。
【0046】
図4は、時刻歴応答解析で用いた入力地震動の応答スペクトルを示す図である。減衰20%時で、各地震動の加速度応答スペクトルと変位応答スペクトルとを示す。EL CENTROと八戸とは50cm/s(Lv.2相当)に基準化して入力した。
【0047】
表3にCase1〜Case3の建物1の最大変位と最大加速度を示し、さらにCase3のCase1に対する応答比率及びCase2のCase1に対する応答比率を示す。
【0049】
図5(a)は時刻歴応答解析で用いた解析モデルCase3の解析モデルCase1に対する応答比率を示し、(b)は時刻歴応答解析で用いた解析モデルCase2の解析モデルCase1に対する応答比率を示す。
【0050】
さらに、表4は、Case3及びCase2において、建物2の応答変位と応答加速度、残留変形、建物1との相対変形を示す。
【0052】
まず、Case1とCase3とを比較することにより、通常の滑り支承を適用した場合の本発明の架構の効果について考察する。
建物1について、表3と
図5(a)より、Case1とCase3とを比較すると、EL CENTROを入力した場合は応答加速度が13%増加しているものの、その他の地震動においては本発明の機構により加速度の増加を抑制しながら変位を低減できている。特に八戸については、加速度と変位の両方を低減可能となった。また、表7より、建物2の応答を見ると、Case3では滑り支承により建物2に伝達される力が小さくなり、全ての地震において一般的な免震建物の応答目標とされる200(cm/s
2)以下に抑えることができている。さらに免震部材に復元機能がない場合でも、残留変形は2cm程度であり、特に問題が無いことがわかる。
【0053】
次に、傾斜角を付けた傾斜滑り支承を採用した場合(Case2)の応答について考察する。
建物1の応答は、表3と
図5(b)より、Case2のCase1に対する応答比をみると、傾斜角がある分Case3よりも加速度が数%増加する地震動はあるものの、変位の低減効果はほぼ同じである。建物2の応答加速度は、傾斜がある場合においても全ての地震波に対して200(cm/s
2)以下となっている。また、表4より、残留変形はほとんど生じていない。建物1と建物2の相対変形については、全ての地震動でCase2とCase3とを比較して大きな差はみられない。
【0054】
次に、第二実施形態に係る構造物の効果について、等価せん断型の多質点系解析モデルを用いて示す。
図6は、時刻歴応答解析で用いた解析モデルの対象となる(a)従来の免震構造を示す図であり、(b)第二実施形態に係る構造物を示す図である。
図7は、時刻歴応答解析で用いた解析モデルの対象となる従来の免震構造及び第二実施形態に係る構造物をそれぞれモデル化した図である。
図6(a)に示す従来の免震構造及び
図6(b)に示す本発明システムについて、それぞれ
図7に示すようにモデル化を行い、時刻歴応答解析を実施して効果を比較した。
【0055】
従来の免震構造の復元力は鉛プラグ入り積層ゴムまたは鋼材系ダンパーと天然ゴム系積層ゴムを併用したバイリニア型の復元力特性とし、免震層歪200%時に1次周期が5秒となるようにした。また、構造減衰として免震層を除く各層に剛性比例で2%の減衰を付与し、等価線形化して得られる履歴減衰を含めた1次の減衰定数がおよそ12%となるように設定した。本発明の復元力は天然ゴム系積層ゴムのみとし、減衰量は下記の式(1)〜(3)のように設定した。
【0058】
【数3】
なお、上記において、k
1は主要側基礎免震層51の免震層剛性であり、k
2は中間免震層54の免震層剛性である。主要側基礎免震層51の剛性に比して一般部の層剛性は桁違いに大きいので、上部・下部とも層剛性を∞の剛体とする。また、c
1は主要側基礎免震層51部分に設置する減衰であり、c
2は中間免震層54部分のみでなく、コアウォール(コア部)と下部構造物(第一対象物B)とを連結する制震装置3の減衰も含み、c
3はコア側基礎免震層41部分に設置する減衰である。1次固有円振動数ω
1,2次固有円振動数ω
2は、固有振動数f
1f
2を用いて下記の式(4),(5)に示す通りである。
【0061】
表5に各モデルの諸元を示し、表6に設置した弾性滑り支承の諸元を示す。
【0062】
【表5】
なお、表5で、通常免震の免震層剛性k5は、200%歪時の固有周期が5秒となるように、降伏荷重、初期剛性および降伏後剛性を与えている。表中の網掛け部分は免震層の諸元を示している。表中のハッチング部分に表6に示す弾性滑り支承の水平剛性をケースごとに設定した。
【0064】
図8は、入力波の時刻歴加速度波形を示す図である。入力加速度の大きさは全てLv.2に基準化して用いた。なお、入力地震動はエルセントロNS、タフトEW、告示神戸NS、告示ランダム波を用いた。
【0065】
表7に、各モデルのコアウォール下免震層の残留変位を示す。
【0067】
摩擦係数が小さくなるほど残留変位は生じにくくなっているが、μ=0.1の場合でも30mm以下の残留変位であるため、どのモデルでも問題ない範囲であった。
【0068】
図9は、応答加速度について従来の免震構造と摩擦係数を変えた弾性滑り支承を設置した第二実施形態の応答を比較して示す図であり、(a)エルセントロNS、(b)タフトEW、(c)告示神戸NS、(d)告示ランダムを示している。
図10は、免震層変形について従来の免震構造と摩擦係数を変えた弾性滑り支承を設置した第二実施形態の応答を比較して示す図であり、(a)上部免震層の変形、(b)下部免震層の変形、(d)コア下免震層の変形を示している。
図9,10より、摩擦係数が0.01,0.03の場合はいずれの地震動でも、従来の免震構造に対して本実施形態(本発明システム)は大きく応答低減している。摩擦係数が0.1と高くなると従来の免震構造よりも応答加速度が大きくなってしまう。しかし、
図10の免震層変位を比較した場合、従来の免震構造よりも最大で50%も低減できているため、免震層変形を積極的に抑えたい場合には有効である。
【0069】
図11は、コアウォール下の免震層に弾性滑り支承(μ=0.01)と剛滑り支承(μ=0.01)を設置した場合において、(a)エルセントロNS、(b)タフトEW、(c)告示神戸NS、(d)告示ランダムを示している。
図12は、免震層変形について従来の免震構造と摩擦係数を変えた弾性滑り支承を設置した第二実施形態の応答を比較して示す図であり、(a)上部免震層の変形、(b)下部免震層の変形、(d)コア下免震層の変形を示している。
表8には、弾性滑り支承と剛滑り支承の残留変位を示している。
【0071】
弾性滑り支承を用いた場合より、低層階の応答加速度が大きくなるが、高層階の応答加速度値はほぼ変わらずに低減できている。表8の結果からは、剛滑りの方が弾性滑り支承の場合よりも残留変位が生じていることがわかる。これらの結果より、滑り支承(摩擦係数μが0.005〜0.1)をコアウォール下の免震層に設置することにより、建物応答に対しては以下に示す効果があることがわかった。
(1)摩擦係数が0.005〜0.1の範囲内の滑り支承であれば、他の免震層に設置した積層ゴムなどの復元力により残留変形が生じにくい。弾性滑り支承の方が、剛滑り支承よりも残留変位を小さくできる。
(2)摩擦係数が0.005〜0.03程度であれば、従来の免震構造よりも大幅に応答加速度と免震層変形を低減することが可能となる。
(3)摩擦係数が0.1程度の高摩擦タイプを使用することで、応答加速度は従来の免震構造よりも増加するが、免震層変形を最大で50%程度低減可能である。
【0072】
また、コア側基礎免震層41及び主要側基礎免震層51の免震装置を任意とすると、地震時にコア部本体42の直下のコア側基礎免震層41の変形が他の免震層(主要側基礎免震層51及び中間免震層54)と比較して約2倍程度変位する可能性がある。そのため、長周期成分を多く含んだ巨大地震が発生した場合、コア側基礎免震層41の変位は1m程度に達する可能性がある。既存の積層ゴムでも1mの変位を許容可能な製品はあるが、応答低減効果を期待した諸元の適用範囲内では積層ゴムを単独で使用すると水平剛性が高くなりすぎてしまう。そこで、滑り支承(弾性滑り支承が望ましい)をコア側基礎免震層41に設置し、他の免震層(主要側基礎免震層51及び中間免震層54)に積層ゴムなどの復元力を有する免震装置を設置することで、滑り支承のみで支持されたコア部本体42は、1m程度の変形に追従可能である。
【0073】
なお、上述した実施の形態において示した組立手順、あるいは各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0074】
例えば、上記に示す実施形態の変形例について
図13を用いて説明する。
(変形例1)
図13(a)に示すように、第二建物本体22を囲繞するように第一建物本体12が配置され、第一建物本体12と第二建物本体22とは独立していて(一体で形成されていなくて)もよい。
【0075】
(変形例2)
また、
図13(b)に示すように、第二建物本体22は、第一建物本体12に隣り合って配置された第二下部層23と、第二下部層23から上方に延びる第二上部層24と、第二上部層24から第一建物本体12の上方に延びる第二直上層25と、を備えていてもよい。制震装置3は、第一建物本体12の上部と第二直上層25の下部とを鉛直方向に連結している。
【0076】
このように構成された構造物では、隣り合って配置された第一建物本体12及び第二建物本体22において、第一建物本体12の上部と第二建物本体22のうち第一建物本体12の上方に配置された第二直上層25とを、制震装置3で鉛直方向に連結することができる。
【0077】
また、上記に示す第二実施形態では、中央コアとして示しているが、偏心コアや両端コアであってもよい。
【0078】
また、上記に示す実施形態等では、制震装置が連結する対象物(第一対象物、第二対象物)は建築物または建築物の一部であるが、本発明はこれに限れられない。例えば、対象物が装置や設備であってもよい。