特許第6936658号(P6936658)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6936658
(24)【登録日】2021年8月31日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】車両の運転支援装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/12 20200101AFI20210909BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20210909BHJP
   B60W 50/04 20060101ALI20210909BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20210909BHJP
   G08G 1/0969 20060101ALI20210909BHJP
【FI】
   B60W30/12
   B62D6/00
   B60W50/04
   G08G1/16 C
   G08G1/0969
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-159331(P2017-159331)
(22)【出願日】2017年8月22日
(65)【公開番号】特開2019-38289(P2019-38289A)
(43)【公開日】2019年3月14日
【審査請求日】2020年7月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】特許業務法人イトーシン国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076233
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 進
(74)【代理人】
【識別番号】100101661
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100135932
【弁理士】
【氏名又は名称】篠浦 治
(72)【発明者】
【氏名】溝口 雅人
【審査官】 平井 功
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−178675(JP,A)
【文献】 特開2015−99406(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00−10/30
B60W 30/00−60/00
G08G 1/00−99/00
B62D 6/00− 6/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の車速を検出する車速検出手段と、
自車両が走行している走行車線の車線情報を取得する複数のセンシングデバイスと、
前記各センシングデバイスで取得した前記車線情報の整合性を判定する整合性判定手段とを有し、
前記整合性判定手段は、
1つの前記センシングデバイスで取得した前記車線情報に基づき前記自車両の前記走行車線の車線中央からの横位置ずれ幅を算出する横位置算出手段と、
前記各センシングデバイスで取得した前記各車線情報に基づいて前記センシングデバイス毎に道路曲率を求める道路曲率演算手段と
を備え、前記道路曲率演算手段で求めた前記センシングデバイス毎の前記各道路曲率の差分に基づいて前記各道路曲率の整合性を判定する車両の運転支援装置において、
前記整合性判定手段は、更に、
前記道路曲率演算手段で求めた前記センシングデバイス毎の前記各道路曲率の差分により生じる角度から推定ヨー角偏差を算出する推定ヨー角偏差演算手段と、
前記推定ヨー角偏差演算手段で求めた前記推定ヨー角偏差に基づいて前記自車両の推定横位置偏差を求める推定横位置偏差演算手段と、
前記横位置算出手段で算出した前記横位置ずれ幅に前記推定横位置偏差演算手段で求めた前記推定横位置偏差を誤差として加算して横位置許容幅を算出する横位置許容幅演算手段と、
1つの前記センシングデバイスで求めた前記走行車線の車線幅と前記横位置ずれ幅と前記自車両の車幅とに基づいて前記自車両の車線逸脱を判定する左逸脱判定閾値及び右逸脱判定閾値を算出する左右逸脱判定閾値算出手段と、
前記横位置許容幅演算手段で算出した前記横位置許容幅と前記左右逸脱判定閾値算出手段で算出した前記左逸脱判定閾値及び前記右逸脱判定閾値とを比較し、横位置許容幅が前記各逸脱判定閾値の一方の絶対値を超えている場合、車線逸脱の可能性ありと判定する車線逸脱予測判定手段と
を備えることを特徴とする車両の運転支援装置。
【請求項2】
運転者に警報を報知する警報手段を有し、
前記整合性判定手段は、前記車線逸脱予測判定手段で車線逸脱の可能性ありと判定した場合、前記警報手段に対して逸脱予告警報指令を出力する逸脱警報手段を更に有する
ことを特徴とする請求項1記載の車両の運転支援装置。
【請求項3】
前記整合性判定手段は、前記逸脱警報手段が前記警報手段に逸脱予告警報指令を出力した後、所定時間経過後、運転支援をキャンセルさせる制御キャンセル手段を更に有する ことを特徴とする請求項2記載の車両の運転支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のセンシングデバイスで検出した位置情報に基づいて車線維持制御を行うに際し、各位置情報の不整合を検出した場合、車線維持制御をキャンセルするようにした車両の運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の車両には、走行中における運転者の運転負荷を軽減するため、様々な運転支援装置が搭載されており、代表的なものとして、自車両を走行車線に沿って走行させる車線維持(Lane Keep Assist)制御が知られている。
【0003】
このような運転支援装置では、自車両を走行車線に沿って正しく走行させるために、道路形状を車載カメラにより撮像した画像データ、及びナビゲーション装置に設けられている地図情報等から取得し、この画像データと地図情報とを照合して、道路形状が整合しているか否かを常時監視する必要がある。例えば、特許文献1(特開2017−61265号公報)には、車載カメラで撮像した画像情報に基づいて第1の車線情報(道路曲率等)を取得し、ナビゲーション装置の地図情報から第2の車線情報(道路曲率等)を取得し、この両車線情報を比較して、ほぼ整合していると判定した場合は、第1の車線情報に基づいて現在の車線情報を設定し、両車線情報が整合していない場合は、前回設定した車線情報と第2の車線情報とに基づいて、今回の車線情報を設定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017−61265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した文献に開示されている技術では、第1、第2の両車線情報が整合しない場合は前回の車線情報と第2の車線情報とに基づいて現在の車線情報を設定するようにしている。
【0006】
しかし、ナビゲーション装置から得られる自車両の位置情報は、例えば、トンネル走行ではジャイロセンサにより自車位置を特定して、対応する地図情報を取得するため、車載カメラからの画像データに基づいて設定した第1の車線情報の方が正確である可能性が高い。又、GPS(GNSS)データの誤差が大きい場合等も間違った第2の車線情報が出力してしまう可能性がある。更に、ナビゲーションの装置の地図情報が古い場合も同様である。
【0007】
従って、第1の車線情報と第2の車線情報とが整合しない場合、何れの車線情報が正しいか判定することが困難で、この場合、第2の車線情報を基準に現在の車線情報を設定した場合、誤った車線情報が出力してしまう可能性がある。又、第1の車線情報と第2の車線情報とが整合しない場合、直ちに車線維持制御をキャンセルすることも考えられるが、自動運転において車線維持制御が頻繁にキャンセルされ易くなり、不便を来たしてしまう不都合がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、複数のセンシングデバイスにより取得した各車線情報が整合しない場合であっても、直ちに運転支援制御をキャンセルすることなく、その不整合による各車線情報の乖離を適切に検出して、所定乖離状態に達するまで運転支援を継続させることで、高い利便性を得ることのできる車両の運転支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、自車両の車速を検出する車速検出手段と、自車両が走行している走行車線の車線情報を取得する複数のセンシングデバイスと、前記各センシングデバイスで取得した前記車線情報の整合性を判定する整合性判定手段とを有し、前記整合性判定手段は、1つの前記センシングデバイスで取得した前記車線情報に基づき前記自車両の前記走行車線の車線中央からの横位置ずれ幅を算出する横位置算出手段と、前記各センシングデバイスで取得した前記各車線情報に基づいて前記センシングデバイス毎に道路曲率を求める道路曲率演算手段とを備え、前記道路曲率演算手段で求めた前記センシングデバイス毎の前記各道路曲率の差分に基づいて前記各道路曲率の整合性を判定する車両の運転支援装置において、前記整合性判定手段は、更に、前記道路曲率演算手段で求めた前記センシングデバイス毎の前記各道路曲率の差分により生じる角度から推定ヨー角偏差を算出する推定ヨー角偏差演算手段と、前記推定ヨー角偏差演算手段で求めた前記推定ヨー角偏差に基づいて前記自車両の推定横位置偏差を求める推定横位置偏差演算手段と、前記横位置算出手段で算出した前記横位置ずれ幅に前記推定横位置偏差演算手段で求めた前記推定横位置偏差を誤差として加算して横位置許容幅を算出する横位置許容幅演算手段と、1つの前記センシングデバイスで求めた前記走行車線の車線幅と前記横位置ずれ幅と前記自車両の車幅とに基づいて前記自車両の車線逸脱を判定する左逸脱判定閾値及び右逸脱判定閾値を算出する左右逸脱判定閾値算出手段と、前記横位置許容幅演算手段で算出した前記横位置許容幅と前記左右逸脱判定閾値算出手段で算出した前記左逸脱判定閾値及び前記右逸脱判定閾値とを比較し、横位置許容幅が前記各逸脱判定閾値の一方の絶対値を超えている場合、車線逸脱の可能性ありと判定する車線逸脱予測判定手段とを備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複数のセンシングデバイスで取得した各道路曲率の差分により生じる角度から推定ヨー角偏差を算出し、この推定ヨー角偏差に基づいて自車両の推定横位置偏差を求め、1つのセンシングデバイスで取得した車線情報に基づき算出した自車両の走行車線の車線中央からの横位置ずれ幅に、推定横位置偏差を誤差として加算して横位置許容幅を算出し、1つのセンシングデバイスで求めた走行車線の車線幅と横位置ずれ幅と自車両の車幅とに基づいて自車両の車線逸脱を判定する左逸脱判定閾値及び右逸脱判定閾値を算出し、横位置許容幅と左逸脱判定閾値及び右逸脱判定閾値とを比較し、横位置許容幅が各逸脱判定閾値の一方の絶対値を超えている場合、車線逸脱の可能性ありと判定するようにしたので、複数のセンシングデバイスにより取得した各車線情報が整合しない場合であっても、直ちに運転支援制御をキャンセルすることなく、その不整合による各車線情報の乖離を適切に検出することができる。その結果、各車線情報が乖離している場合であっても、所定乖離状態に達するまでは運転支援を継続させることができ、高い利便性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】運転支援装置の全体概略構成図
図2】画像・地図整合性判定ルーチンを示すフローチャート(その1)
図3】画像・地図整合性判定ルーチンを示すフローチャート(その2)
図4】車載カメラと地図情報とからそれぞれ得られた自車横位置と道路曲率とを示す説明図
図5】車載カメラと地図情報とからそれぞれ得られた道路曲率の差分に基づいて算出した推定横位置偏差となるまでの時間(判定時間)を車速と道路曲率差分とに基づいて表した図表
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。図1において、自車両Mに搭載されている運転支援装置1は、自動運転時の操舵制御を行う操舵制御手段としての操舵制御部11を有している。この操舵制御部11は、CPU、ROM、RAMを含む周知のマイクロコンピュータを主体に構成されており、ROMにはCPUで実行する自動運転のための制御プログラムや固定データ等が記憶されている。
【0013】
又、この操舵制御部11の入力側に、操舵制御を行う際に必要とするパラメータを取得する手段として、ナビゲーションシステム14、自車両Mの車速(自車速)Vを検出する車速検出手段手としての車速センサ15、カメラユニット16、自動運転をON/OFFさせる自動運転スイッチ17が接続されている。尚、本実施形態では、ナビゲーションシステム14とカメラユニット16とが、本発明のセンシングデバイスに対応している。
【0014】
カメラユニット16は、メインカメラ16aとサブカメラ16bからなるステレオカメラと、画像処理ユニット(IPU)16cとを有し、両カメラ16a,16bで撮像した自車両M前方の走行環境情報をIPU16cにて所定に画像処理して、操舵制御部11へ送信する。
【0015】
ナビゲーションシステム14は、GPS(Global Positioning System)を含むGNSS(Global Navigation Satellite System )等の測位衛星からの位置信号を受信する受信機を有している。又、このナビゲーションシステム14に高精度道路地図データベース14aが接続されている。この高精度道路地図データベース14aはHDD等の大容量記憶手段に設けられており、高精度な道路地図情報(ダイナミックマップ)が記憶されている。尚、この道路地図情報には、ノード(交差点、連結点等)を示すノード情報、各ノードを結ぶリンク(道路区間)を示すリンク情報が登録されており、このノード情報、リンク情報としては、車線(車線幅、車線数)、停止線、横断歩道、道路形状(道路曲率等)、縦断勾配(カント角)、標高値、サグ情報等、自動運転を行う際に必要とする種々の情報が記憶されている。
【0016】
ナビゲーションシステム14は、受信機で受信した測位衛星からの位置信号に基づき、自車両Mの位置情報(緯度、経度等の座標)を取得し、運転者が設定した目的地までの誘導路を高精度道路地図データベース14aに格納されている道路地図情報上に表示させると共に、取得した車両位置の座標上に自車両Mの現在位置を重ねる。
【0017】
又、操舵制御部11の出力側に、報知部18、電動パワーステアリング(EPS)を駆動させるEPS駆動部19が接続されている。報知部18は、運転者に自動運転の開始、中断などを点滅表示、文字表示、音声等で報知するもので、表示ランプ、モニタ、スピーカ等で構成されている。
【0018】
操舵制御部11は、道路地図上に自車両Mが進行する目標進行路を設定する目標進行路設定部11a、自車両Mが目標進行路に沿って走行させるための目標操舵角を求める操舵角演算部11b、及び、道路地図上で特定した自車両Mの現在位置に基づいて設定した車線情報(地図車線情報)がカメラユニット16からの画像に基づいて取得した自車進行路の車線情報(カメラ車線情報)と整合しているか否かを判定する、整合性判定手段としての画像・地図整合性判定部11cを備えている。
【0019】
目標進行路設定部11aは、ナビゲーションシステム14で求めた現在の自車両Mの位置情報(自車位置情報)に基づいて地図車線情報を取得する。この地図車線情報は、高精度道路地図データベース14aに格納されている道路地図情報から読込んだ、自車進行路上の車線幅データ、及び車線中央の道路曲率RMPU等である。目標進行路設定部11aは、自車両Mの現在位置を道路地図上にマップマッチングして、車線維持制御等における自車両Mが進むべき進行路(目標進行路)を車線中央に設定する。
【0020】
操舵角演算部11bは、車線中央に設定した目標進行路と自車位置情報とに基づき、横位置の差分を求め、この差分が0となるような目標操舵角を求め、この目標操舵角に対応する駆動トルクをEPS駆動部19へ出力する。EPS駆動部19は、操舵制御部11で求めた駆動トルクでEPSモータを駆動させてEPSを操舵し、自車両Mが目標進行路に沿って走行するように操舵角制御を行う。
【0021】
ところで、測位衛星からの位置信号に基づいて求めた自車位置情報(緯度、経度等の座標)には測位誤差が含まれており、更に、ナビゲーションシステム14による測位精度が低下する場合もある。従って、実際の自車位置と道路地図上にマップマッチングした位置とが一致しているかどうかを常時監視する必要がある。上述した画像・地図整合性判定部11cでは、カメラユニット16から取得するカメラ車線情報に基づき、ナビゲーションシステム14で取得した道路情報が適正かどうかを判定するようにしている。
【0022】
このカメラユニット16から取得するカメラ車線情報は、自車進行路の左右区画する左右区画線Ll,Lrの中央(車線中央)の道路曲率RCAM、及び車線中央を基準とする自車両Mの横位置ずれ幅(自車横位置)X等がある。尚、車線中央の道路曲率RCAMは、例えば、カメラユニット16で撮像した自車両前方の画像に基づき走行車線の左右を区画する左右区画線Ll.Lrを認識し、この左右区画線Ll,Lrの曲率を各々求め、この各曲率に基づき、車線中央LCAMの道路曲率RCAMを算出する(図4参照)。
【0023】
画像・地図整合性判定部11cは、カメラユニット16からの画像に基づいて求めた道路曲率RCAMと、目標進行路設定部11aで設定した道路地図上の車線中央LMPUの道路曲率RMPUと比較し、整合しているか否かを判定する。この場合、カメラユニット16からの画像も、悪天候、雪路、左右区間線Ll,Lrのかすれなどによる誤検出等の影響で車線中央LCAMの道路曲率RCAMを正確に求めることができない場合がある。
【0024】
従って、画像・地図整合性判定部11cは、両道路曲率RCAM,RMPUが整合しない場合、信頼性が低いと判定し、何れのデータも採用せず、自動運転による車線維持制御をキャンセルする。上述した画像・地図整合性判定部11cで実行する整合性の判定は、具体的には、図2図3に示す画像・地図整合性判定ルーチンに従って実行される。
【0025】
このルーチンでは、先ず、ステップS1でカメラユニット16から取得した自車両M前方の走行環境情報を読込む。そして、ステップS2で、この走行環境情報に基づき自車進行路の左右区画線Ll,Lr(図4参照)を検出し、この左右区画線Ll,Lr間の車線幅Xwidthを算出する。
【0026】
次いで、ステップS3へ進み、左右区画線Ll,Lrの曲率を求め、この両曲率と車線幅Xwidthとに基づき、目標進行路として設定する車線中央LCAMの道路曲率RCAM[1/m]を求める(図4参照)。尚、道路曲率RCAMの求め方については、本出願人が先に提出した特開2017−61265号公報に詳述されているため、ここでの説明は省略する。
【0027】
その後、ステップS4へ進むと、カメラユニット16から取得した走行環境情報に基づき、車線中央LCAMを基準とする自車横位置(横位置ずれ幅)X[m]を求める(図4参照)。尚、このステップでの処理が、本発明の横位置算出手段に対応している。
【0028】
本実施形態では、車線中央LCAMを基準として、左区画線Ll側を正値(+)、右区画線Lr側を負値(−)として表す。従って、左右区画線Ll,Lrと自車横位置Xとの間の距離は、左側が、
(Xwidth/2)−X
右側が、
(−Xwidth/2)−X
となる。ところで、道路地図情報からも現在の走行車線の車線中央LMPUを取得し、自車位置情報に基づき自車横位置を求めることができるが、自車両Mの直近の位置精度は道路地図情報よりもカメラユニット16から取得した情報の方が高いため、本実施形態では自車横位置Xをカメラユニット16から取得した情報に基づいて設定している。勿論、カメラユニット16で取得した情報の精度も、走行環境、気象条件、フロントガラスの汚れ等で低下する場合がある。そのため、自車横位置をナビゲーションシステム14から取得するようにしても良い。
【0029】
次いで、ステップS5へ進み、ナビゲーションシステム14からの自車位置情報に基づき道路地図上の自車位置を特定し、特定した自車位置に最も近い前方の車線中央LMPUに記憶されている道路曲率RMPU[1/m]の情報を取得する。尚、上述したステップS3、及びステップS5での処理が、本発明の道路曲率演算手段に対応している。
【0030】
そして、ステップS6で、両道路曲率RCAM,RMPUの差分(曲率差分)により生じる角度、すなわち、両道路曲率RCAM,RMPUによる自車両Mの向きの偏差から、次式に基づき推定ヨー角偏差Yawdiff [rad](図4参照)を算出する。
【0031】
Yawdiff←∫V・Ts・(RCAM−RMPU)dt …(1)
ここで、Vは車速センサ15で検出した自車速[m/s]、Tsはサンプリング周期(演算周期)である。尚、このステップS6での処理が、本発明の推定ヨー角偏差演算手段に対応している。
【0032】
その後、ステップS7へ進み、推定ヨー角偏差Yawdiffに基づき、推定横位置偏差±Xdiff[m]、すなわち、両道路曲率RCAM,RMPUの差分により生じる自車両Mの横位置の誤差を、
±Xdiff←∫V・Ts・sin(Yawdiff)dt …(2)
から算出する。この推定横位置偏差±Xdiffは、自車横位置Xの最大誤差を示すものである。参考として、図5に、自車速Vと曲率差分(RCAM−RMPU)とに基づき、推定横位偏差置±Xdiff[m]が0.5[m]となる判定時間[sec]を例示する。尚、このステップS7での処理が、本発明の推定横位置偏差演算手段 に対応している。
【0033】
次いで、ステップS8へ進み、自車横位置Xと所定重み付けゲインκ[%]を乗算された推定横位置偏差±Xdiffとを加算して、横位置許容幅Xestimationを算出する(Xestimation←X+(±Xdiff・κ))。尚、このステップでの処理が、本発明の横位置許容幅演算手段に対応している。
【0034】
上述した重み付けゲインκはカメラユニット16による道路曲率RCAM,RMPUの何れの信頼度が高いかを設定するゲインであり、κ=50[%]を中心値として、100〜0[%]の範囲で任意に設定される。すなわち、道路地図情報の信頼度が高い場合は、その信頼度に応じてκ=100〜50[%]の範囲で設定し、一方、カメラユニット16の信頼度が高い場合は、その信頼度に応じて、κ=50〜0[%]の範囲で設定する。その結果、道路地図情報の信頼度が高い場合は、推定横位置偏差±Xdiffの幅が広くなり、カメラユニット16の信頼度が高い場合は、推定横位置偏差±Xdiffの幅は狭くなる。
【0035】
因みに、道路地図情報とカメラユニット16との信頼度が同程度の場合は、κ=50[%]に設定する。この信頼度(重み付けゲインκ)は、出荷時において固定値として設定しても良いが、走行環境、気象条件によって走行時に可変させるようにしても良い。走行環境、気象条件によって可変させる場合、例えば、カメラユニット16による視認が困難な環境(悪天候、見通しが悪い)では道路地図情報の信頼度を高くし、又、好天で見通しが良い場合はカメラユニット16の信頼度を高くする。更に、市街地走行ではカメラユニット16を優先させる。その際、どの程度の信頼度に設定(重み付け)するかは、走行環境、気象条件に応じて設定する個々の評価値(ポイント)の総和で決定するようにしても良い。
【0036】
次いで、ステップS9へ進み、自車両Mの左側面の車線逸脱を判定する逸脱判定閾値(左逸脱判定閾値)XLslを、
XLsl←(Xwidth/2)−X+(−XWcar/2) …(3)
から算出する。ここで、XWcarは自車両Mの車幅である。
【0037】
その後、ステップS10へ進み、自車両Mの右側面の車線逸脱を判定する逸脱判定閾値(右逸脱判定閾値)XRslを、
XRsl←(−Xwidth/2)−X+(XWcar/2) …(4)
から算出する。尚、このステップS9,S10での処理が、本発明の左右逸脱判定閾値算出手段に対応している。
【0038】
そして、ステップS11,S12で、各逸脱判定閾値XLsl,XRslと横位置許容幅Xestimationとを比較して、逸脱予測判定を行う。そして、Xestimation>XLsl、或いはXestimation<XRslの場合、左逸脱判定閾値XLsl、或いは右逸脱判定閾値XRslは、自車横位置Xの推定横位置偏差±Xdiffの範囲を超えていると判定する。この場合、右逸脱判定閾値XRslと横位置許容幅Xestimationとを絶対値で表せば、|Xestimation|>|XRsl|となる。
【0039】
このことは、カメラユニット16による道路曲率RCAMと道路地図情報からの道路曲率RMPUとが、大きく乖離して、整合していないことを意味しており、少なくとも何れかの道路曲率RCAM、RMPUが間違っており、車線維持制御を継続させると、自車両Mが左区画線Ll、或いは右区画線Lrから逸脱する可能性があると判定し、ステップS13へ進む。
【0040】
例えば、自車横位置Xを0.3[m]、推定横位置偏差±Xdiffを±0.6、重み付けゲインκを50[%]、車線幅Xwidthを3.5[m]、車幅XWcarを2.0[m]とした場合、横位置許容幅Xestimationは、
Xestimation=0.3+(±0.6×0.5)=0.6,0 …(5)
となる。又、左逸脱判定閾値XLslは、
XLsl=3.5/2−0.3−2/2=0.45 …(6)
となり、右逸脱判定閾値XRslは、
XRsl=−3.5/2−0.3+2/2=−1.05 …(7)
となる。
【0041】
横位置許容幅Xestimationは、左側の最大誤差が、
Xestimation=0.3+0.6×0.5=0.6 …(8)
右側の最大誤差が、
Xestimation=0.3−0.6×0.5=0 …(9)
であるため、自車両Mは左側が、(6),(8)式から、
0.6>0.45
隣、右側が、(7),(9)式から、
0>−1.05
となる。その結果、道路曲率RMPU,RCAMの乖離が大きく、その誤差を含めた場合、自車両Mは左側が左区画線Llから逸脱する可能性があると判定される。
【0042】
一方、Xestimation≦XLsl、及びXestimation≧XRslの場合、自車両Mは、たとえ、カメラユニット16で検出した車線中央LCAMから自車横位置Xだけ偏倚していたとしても、走行車線内を車線維持した状態で走行していると判定し、ルーチンを抜ける。尚、このステップS11,S12での処理が、本発明の車線逸脱予測判定手段に対応している。
【0043】
又、自車両Mが左右区画線Ll,Lrの何れかから逸脱する可能性があると判定されて、ステップS11、或いはステップS12からステップS13へ進むと、画像・地図整合性判定部11cは、逸脱予告警報指令を報知部18に出力し、表示ランプ、モニタ、スピーカ等を駆動して、運転者に、自車両Mが車線を逸脱する可能性があるため、自動運転を中断する旨を報知する。尚、このステップS13での処理が、本発明の逸脱警報手段に対応している。
【0044】
そして、ステップS14へ進み、運転者に運転を引き継がせるために設定した時間(例えば、5[sec])経過後、自動運転による車線維持制御をキャンセルしてルーチンを終了する。尚、運転者が自動運転による車線維持制御を再開させようとする場合は、自動運転スイッチ17を再度ONさせる。又、このステップS14での処理が、本発明の制御キャンセル手段に対応している。
【0045】
このように、本実施形態によれば、自車横位置Xの誤差である推定横位置偏差±Xdiffをカメラユニット16による道路曲率RCAMと道路地図情報からの道路曲率RMPUとの差分から求め、自車横位置Xに推定横位置偏差±Xdiffを加えた最大誤差の範囲である横位置許容幅Xestimationから、自車両Mの左右逸脱判定閾値XLsl,XRslが外れるまでは、自動運転による車線維持制御を継続させ、横位置許容幅Xestimationから左右逸脱判定閾値XLsl,XRslが外れたとき、車線逸脱の可能性ありと判定して、車線維持制御をキャンセルするようにしたので、カメラユニット16からのカメラ車線情報と道路地図情報からの地図車線情報とが整合しない場合であっても、その不整合による道路情報の乖離状態による車線維持制御をキャンセルするタイミングを適切に判定することができる。
【0046】
その結果、カメラ車線情報と地図車線情報とが乖離している場合であっても、所定乖離状態に達するまでは車線維持制御を継続させることができ、高い利便性を得ることができる。
【0047】
尚、本発明は、上述した実施形態に限るものではなく、例えばセンシングデバイスは、ナビゲーションシステム14、及びカメラユニット16に、左右区画線を認識することのできる他のセンシングデバイスを加え、3種類以上のセンシングデバイスで各車線情報の乖離の程度を検出するようにしても良い。
【符号の説明】
【0048】
1…運転支援装置、
11…操舵制御部、
11a…目標進行路設定部、
11b…操舵角演算部、
11c…画像・地図整合性判定部、
14…ナビゲーションシステム、
14a…高精度道路地図データベース、
15…車速センサ
16…カメラユニット、
16a…メインカメラ、
16b…サブカメラ、
17…自動運転スイッチ、
18…報知部、
19…EPS駆動部、
LCAM…車線中央、
Ll…左区画線、
LMPU…車線中央、
Lr…右区画線、
M…自車両、
RCAM,RMPU…道路曲率、
Ts…サンプリング周期、
V…自車速、
X…自車横位置、
XWcar…車幅、
Xestimation…横位置許容幅、
XLsl…左逸脱判定閾値、
XRsl…右逸脱判定閾値、
Xwidth…車線幅、
Yawdiff…推定ヨー角偏差、
κ…重み付けゲイン
図1
図2
図3
図4
図5