特許第6936706号(P6936706)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6936706防錆コーティング用水性樹脂組成物の製造方法及び防錆コーティング用水性樹脂組成物、並びに防錆処理方法及び防錆処理金属材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6936706
(24)【登録日】2021年8月31日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】防錆コーティング用水性樹脂組成物の製造方法及び防錆コーティング用水性樹脂組成物、並びに防錆処理方法及び防錆処理金属材
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/08 20060101AFI20210909BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20210909BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20210909BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20210909BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20210909BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20210909BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20210909BHJP
【FI】
   C09D201/08
   C09D5/08
   C09D7/61
   C09D7/63
   B05D7/14 A
   B05D7/24 301H
   C09D5/02
   B05D7/24 301F
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-218456(P2017-218456)
(22)【出願日】2017年11月13日
(65)【公開番号】特開2019-89906(P2019-89906A)
(43)【公開日】2019年6月13日
【審査請求日】2020年9月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】315006377
【氏名又は名称】日本ペイント・サーフケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】中村 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】三浦 裕佑
(72)【発明者】
【氏名】山根 健輔
【審査官】 藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4510196(JP,B1)
【文献】 特開2017−179602(JP,A)
【文献】 特開2003−155453(JP,A)
【文献】 特開2014−125599(JP,A)
【文献】 特開2005−199673(JP,A)
【文献】 特開2006−272767(JP,A)
【文献】 特開2005−178213(JP,A)
【文献】 特開2013−170312(JP,A)
【文献】 特開2010−65211(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/073401(WO,A1)
【文献】 特開平7−252433(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00− 10/00
101/00−201/10
B05D 1/00− 7/26
C23C 22/00− 22/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を有する水性樹脂を含有する水性樹脂組成物を50℃以上かつ前記水性樹脂組成物の沸点未満の温度に加熱する工程と、
加熱後の水性樹脂組成物に、エポキシ系シランカップリング剤及びその加水分解縮合物から選択される少なくとも1種を添加して反応させる工程と、
反応後の水性樹脂組成物を50℃未満の温度に冷却した後、水分散性シリカを添加する工程と、
を含む防錆コーティング用水性樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記水分散性シリカが金属イオンにより安定化されている請求項1に記載の防錆コーティング用水性樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記水分散性シリカの粒子径が50nm以下である請求項1又は2に記載の防錆コーティング用水性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法により得られる防錆コーティング用水性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の防錆コーティング用水性樹脂組成物を金属材に付与する工程と、
前記金属材に付与された防錆コーティング用水性樹脂組成物を乾燥して乾燥皮膜を形成する工程と、
を含む防錆処理方法。
【請求項6】
前記金属材が亜鉛めっき鋼材である請求項4又は5に記載の防錆処理方法。
【請求項7】
請求項4に記載の防錆コーティング用水性樹脂組成物の乾燥皮膜を有する防錆処理金属材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防錆コーティング用水性樹脂組成物の製造方法及び防錆コーティング用水性樹脂組成物、並びに防錆処理方法及び防錆処理金属材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属の表面処理剤には、クロメート処理剤、リン酸クロメート処理剤等のクロム系表面処理剤が適用されてきており、現在でも広く使用されている。しかし、近年の環境規制の動向からすると、クロムの有する毒性、特に発ガン性のために将来的に使用が制限される可能性がある。
【0003】
そこで、クロム系表面処理剤と同等の防錆性を示すノンクロム系表面処理剤が種々開発されている。
例えば、特許文献1には、カルボキシル基を有する水性樹脂組成物1L中に10〜500gの水分散性シリカを配合し、撹拌混合しながら50℃以上かつ水性樹脂組成物の沸点以下の温度に昇温し、次いで0.02〜20gの特定のシランカップリング剤及び/又はその加水分解縮合物を添加し、上記温度で反応させる防錆コーティング用水性樹脂組成物の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4510106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の防錆コーティング用水性樹脂組成物は、金属材、特に亜鉛めっき鋼材に好適であり、塗装した金属に優れた防錆性を付与することができ、かつ、貯蔵安定性に優れるとされている。しかし、本発明者らがさらに検討を進めたところ、経時により防錆コーティング用水性樹脂組成物の性能が低下することが判明した。より具体的には、防錆コーティング用水性樹脂組成物を塗装して得られる皮膜の耐酸性等が低下することが判明した。
【0006】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、防錆コーティング用水性樹脂組成物の経時による性能低下を抑えることが可能な防錆コーティング用水性樹脂組成物の製造方法、及びその製造方法で製造される防錆コーティング用水性樹脂組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、その防錆コーティング用水性樹脂組成物を用いた防錆処理方法、及び防錆処理が施された防錆処理金属材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、カルボキシル基を有する水性樹脂を含有する水性樹脂組成物を50℃以上かつ前記水性樹脂組成物の沸点未満の温度に加熱する工程と、加熱後の水性樹脂組成物に、エポキシ系シランカップリング剤及びその加水分解縮合物から選択される少なくとも1種を添加して反応させる工程と、反応後の水性樹脂組成物を50℃未満の温度に冷却した後、水分散性シリカを添加する工程と、を含む防錆コーティング用水性樹脂組成物の製造方法に関する。
【0008】
前記水分散性シリカは、金属イオンにより安定化されていることが好ましい。
また、前記水分散性シリカの粒子径は、50nm以下であることが好ましい。
【0009】
また、本発明は、本発明に係る製造方法により得られる防錆コーティング用水性樹脂組成物に関する。
【0010】
また、本発明は、本発明に係る防錆コーティング用水性樹脂組成物を金属材に付与する工程と、前記金属材に付与された防錆コーティング用水性樹脂組成物を乾燥して乾燥皮膜を形成する工程と、を含む防錆処理方法に関する。
【0011】
前記金属材は、亜鉛めっき鋼材であることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、本発明に係る防錆コーティング用水性樹脂組成物の乾燥皮膜を有する防錆処理金属材に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、防錆コーティング用水性樹脂組成物の経時による性能低下を抑えることが可能な防錆コーティング用水性樹脂組成物の製造方法、及びその製造方法で製造される防錆コーティング用水性樹脂組成物を提供することができる。また、本発明によれば、その防錆コーティング用水性樹脂組成物を用いた防錆処理方法、及び防錆処理が施された防錆処理金属材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施形態に係る防錆コーティング用水性樹脂組成物の製造方法及び防錆コーティング用水性樹脂組成物、並びに防錆処理方法及び防錆処理金属材について詳細に説明する。
【0015】
<防錆コーティング用水性樹脂組成物の製造方法>
本実施形態に係る防錆コーティング用水性樹脂組成物の製造方法(以下、単に「本実施形態に係る製造方法」ともいう。)は、カルボキシル基を有する水性樹脂を含有する水性樹脂組成物を50℃以上かつ水性樹脂組成物の沸点未満の温度に加熱する工程(以下、「加熱工程」ともいう。)と、加熱後の水性樹脂組成物に、エポキシ系シランカップリング剤及びその加水分解縮合物から選択される少なくとも1種を添加して反応させる工程(以下、「反応工程」ともいう。)と、反応後の水性樹脂組成物を50℃未満の温度に冷却した後、水分散性シリカを添加する工程(以下、「添加工程」ともいう。)と、を含む。
【0016】
(加熱工程)
加熱工程では、カルボキシル基を有する水性樹脂を含有する水性樹脂組成物を50℃以上かつ水性樹脂組成物の沸点未満の温度に加熱する。
【0017】
加熱対象となる水性樹脂組成物は、水性樹脂と溶剤としての水とを含んでいる。水性樹脂組成物は、水溶性樹脂が水に溶解した水溶液の形態であってもよく、水不溶性樹脂が水に微分散したエマルジョン又はサスペンションの形態であってもよい。
【0018】
カルボキシル基を有する水性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の水性樹脂のうち、カルボキシル基を有するものが挙げられる。カルボキシル基を有する水性樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
これらの中でも、カルボキシル基を有するポリオレフィン樹脂と、カルボキシル基を有する他の1種以上の水性樹脂とを混合して用いることが好ましく、カルボキシル基を有するポリオレフィン樹脂と、カルボキシル基を有するウレタン樹脂とを混合して用いることがより好ましい。
このとき、カルボキシル基を有するポリオレフィン樹脂と、カルボキシル基を有する他の1種以上の水性樹脂(好ましくは、カルボキシル基を有するウレタン樹脂)との質量比は、3:7〜9:1であることが好ましく、5:5〜9:1であることがより好ましく、6:4〜8:2であることがさらに好ましい。上記範囲とすることで、例えば、他の水性樹脂としてカルボキシル基を有するウレタン樹脂を用いた場合には、カルボキシル基とウレタン結合との相互作用により造膜性が向上する傾向にある。
【0020】
加熱対象となる水性樹脂組成物は、カルボキシル基を有する水性樹脂のほかに、ポリビニルアルコール樹脂等のカルボキシル基を有しない水性樹脂をさらに含有していてもよい。ただし、カルボキシル基を有する水性樹脂の割合は、水性樹脂の合計100質量部中、70質量部以上であることが好ましく、80質量部以上であることがより好ましく、90質量部以上であることがさらに好ましく、100質量部であることが特に好ましい。
【0021】
水性樹脂組成物は、水性樹脂と水との合計100質量部中、水性樹脂が固形分で1〜80質量部、水が99〜20質量部であることが好ましい。水性樹脂を1質量部以上とすることで、得られる皮膜の防錆性、上塗り塗装密着性、耐酸性等が向上する傾向にある。また、水性樹脂を80質量部以下とすることで、水性樹脂組成物のゲル化が抑えられる傾向にある。
【0022】
加熱工程における加熱温度は、50℃以上かつ水性樹脂組成物の沸点未満の温度であれば特に制限されない。加熱温度を50℃以上とすることで、後段の反応工程において、カルボキシル基を有する水性樹脂とエポキシ系シランカップリング剤とが十分に反応する傾向にある。また、加熱温度を水性樹脂組成物の沸点未満(例えば、100℃未満)とすることで、水分の蒸発が抑えられる傾向にある。加熱工程における加熱温度は、60℃以上かつ水性樹脂組成物の沸点未満の温度であることが好ましい。
【0023】
(反応工程)
反応工程では、加熱後の水性樹脂組成物に、エポキシ系シランカップリング剤及びその加水分解縮合物から選択される少なくとも1種を添加して反応させる。エポキシ系シランカップリング剤の加水分解縮合物とは、エポキシ系シランカップリング剤を加水分解縮合して得られるオリゴマーを意味する。
【0024】
エポキシ系シランカップリング剤としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。エポキシ系シランカップリング剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
エポキシ系シランカップリング剤及びその加水分解縮合物から選択される少なくとも1種の添加量は、カルボキシル基を有する水性樹脂100質量部に対して、0.1〜10質量部であることが好ましく、0.5〜3質量部であることがより好ましい。添加量を0.1質量部以上とすることで、得られる皮膜の防錆性、上塗り塗装密着性、耐酸性等が向上する傾向にある。また、添加量を10質量部以下とすることで、防錆コーティング用水性樹脂組成物の貯蔵安定性の低下が抑えられる傾向にある。
【0026】
反応工程においては、加熱後の水性樹脂組成物を撹拌混合しながら、エポキシ系シランカップリング剤及びその加水分解縮合物から選択される少なくとも1種を0.1〜10g/分の滴下速度で滴下した後、同温度で1〜8時間反応させることが好ましい。
【0027】
(添加工程)
添加工程では、反応後の水性樹脂組成物を50℃未満の温度に冷却した後、水分散性シリカを添加する。
【0028】
添加工程における冷却温度は、50℃未満の温度であれば特に制限されない。冷却温度を50℃未満とすることで、得られる皮膜の耐酸性等の低下が抑えられる傾向にある。冷却工程における冷却温度は、40℃以下であることが好ましい。冷却温度の下限値は特に制限されず、例えば、20℃以上であってもよい。
【0029】
水分散性シリカとしては、コロイダルシリカ、シリカゲル等が挙げられ、市販品を用いることができる。水分散性シリカの市販品としては、「スノーテックス30」、「スノーテックス40」、「スノーテックス50」、「スノーテックス20L」、「スノーテックスZL」、「スノーテックスUP」(以上、日産化学工業株式会社製)、「アデライトAT−20A」(株式会社ADEKA製)等のNaイオンにより安定化されている水分散性シリカ;「スノーテックスC」(日産化学工業株式会社製)、「アデライトAT−20N」(株式会社ADEKA製)等のAlイオンにより安定化されている水分散性シリカ;「スノーテックスN」(日産化学工業株式会社製)等のアンモニウムイオンにより安定化されている水分散性シリカ;などが挙げられる。水分散性シリカは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
これらの中でも、得られる皮膜の防錆性、耐酸性等の観点から、金属イオン(Naイオン、Alイオン等)により安定化されている水分散性シリカが好ましく、Naイオンにより安定化されている水分散性シリカがより好ましい。
【0031】
水分散性シリカの粒子径は、得られる皮膜の防錆性、上塗り塗装密着性、耐酸性等の観点から、50nm以下であることが好ましく、5〜30nmであることがより好ましい。
【0032】
水分散性シリカの添加量は、カルボキシル基を有する水性樹脂100質量部に対して、10〜50質量部であることが好ましく、20〜40質量部であることがより好ましい。添加量を10質量部以上とすることで、得られる皮膜の防錆性が向上する傾向にある。また、添加量を50質量部以下とすることで、防錆コーティング用水性樹脂組成物の貯蔵安定性の低下が抑えられる傾向にある。
【0033】
なお、添加工程では、得られる皮膜の防錆性をより向上させるため、チオカルボニル基含有化合物及びリン酸化合物から選択される少なくとも1種をさらに添加してもよい。チオカルボニル基含有化合物及びリン酸化合物としては、例えば、特許第4190686号公報に記載されている化合物を用いることができる。
【0034】
また、添加工程では、防錆コーティング用水性樹脂組成物の成膜性をより向上させるため、有機溶剤をさらに添加してもよい。有機溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤等の塗料に一般的に用いられている有機溶剤が挙げられる。
【0035】
また、添加工程では、得られる皮膜の摩擦性、成型加工性をより向上させるため、ポリオレフィンワックスをさらに添加してもよい。ポリオレフィンワックスとしては、パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、及びそれらの誘導体(塩素化ポリオレフィン等)などが挙げられる。
【0036】
本実施形態に係る製造方法によれば、以上の各工程を経て、防錆コーティング用水性樹脂組成物を製造することができる。
防錆コーティング用水性樹脂組成物のpHは、7以上であることが好ましく、8〜12であることがより好ましい。防錆コーティング用水性樹脂組成物のpHを7.0以上とすることで、貯蔵安定性がより向上する傾向にある。
【0037】
<防錆コーティング用水性樹脂組成物>
本実施形態に係る防錆コーティング用水性樹脂組成物は、上述した本実施形態に係る製造方法により製造される。
【0038】
従来、防錆コーティング用水性樹脂組成物の製造方法としては、カルボキシル基を有する水性樹脂を含有する水性樹脂組成物中に水分散性シリカを添加した後、50℃以上かつ水性樹脂組成物の沸点以下の温度に昇温し、次いで、特定のエポキシ系シランカップリング剤及びその加水分解縮合物から選択される少なくとも1種を添加し、同温度で反応させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0039】
しかし、本発明者らが特許文献1に記載の製造方法についてさらに検討を進めたところ、経時により防錆コーティング用水性樹脂組成物の性能が低下することが判明した。より具体的には、防錆コーティング用水性樹脂組成物を塗装して得られる皮膜の耐酸性等が低下することが判明した。
【0040】
この点、上述した本実施形態に係る製造方法によれば、カルボキシル基を有する水性樹脂とエポキシ系シランカップリング剤及びその加水分解縮合物から選択される少なくとも1種とを予め反応させ、反応後の水性樹脂組成物を50℃未満の温度に冷却した後、水分散性シリカを添加することにより、防錆コーティング用水性樹脂組成物の経時による性能低下を抑えることができる。
【0041】
なお、このような効果の違いは、カルボキシル基を有する水性樹脂、エポキシ系シランカップリング剤及びその加水分解縮合物、並びに水分散性シリカの反応状態の違いによるものと推測されるが、この反応状態の違いを文言により一概に特定することは非実際的又は不可能である。
【0042】
<防錆処理方法>
本実施形態に係る防錆処理方法は、上述した本実施形態に係る防錆コーティング用水性樹脂組成物を金属材に付与する工程(以下、「付与工程」ともいう。)と、金属材に付与された防錆コーティング用水性樹脂組成物を乾燥して乾燥皮膜を形成する工程(以下、「乾燥工程」ともいう。)と、を含む。
【0043】
付与工程では、上述した本実施形態に係る防錆コーティング用水性樹脂組成物を金属材に付与する。
【0044】
金属材としては、溶融亜鉛めっき鋼材、電気亜鉛めっき鋼材、アルミニウム亜鉛合金めっき鋼材、アルミニウム材、ステンレス鋼材等が挙げられ、亜鉛めっき鋼材(溶融亜鉛めっき鋼材又は電気亜鉛めっき鋼材)が好ましい。
防錆コーティング用水性樹脂組成物を金属材に付与する方法は特に制限されず、ロールコーター塗装、刷毛塗り塗装、ローラー塗装、バーコーター塗装、流し塗り塗装等の方法が挙げられる。
【0045】
乾燥工程では、金属材に付与された防錆コーティング用水性樹脂組成物を乾燥して乾燥皮膜を形成する。
【0046】
乾燥温度は、例えば、50〜250℃であることが好ましく、70〜200℃であることがより好ましく、100〜200℃であることがさらに好ましい。
【0047】
なお、付与工程と乾燥工程とは、同時並行的に行ってもよい。例えば、予め加熱しておいた金属材に対して防錆コーティング用水性樹脂組成物を付与し、余熱を利用して防錆コーティング用水性樹脂組成物を乾燥させてもよい。
【0048】
乾燥皮膜の付着量は、例えば、0.1〜7.0g/mであることが好ましく、0.5〜3.0g/mであることがより好ましい。付着量を0.1g/m以上とすることで、防錆性がより向上する傾向にある。また、付着量を7.0g/m以下とすることで、乾燥皮膜の形成がより容易になる傾向にある。
【0049】
<防錆処理金属材>
本実施形態に係る防錆処理金属材は、上述した本実施形態に係る防錆コーティング用水性樹脂組成物の乾燥皮膜を有する。本実施形態に係る防錆処理金属材は、上述した本実施形態に係る防錆処理方法により得ることができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0051】
<防錆コーティング用水性樹脂組成物の調製>
[実施例1〜44、46〜55]
滴下漏斗、温度計、加熱装置、及び撹拌装置を備えた反応容器に、表1、2に示す水性樹脂850gと純水150gとを配合して1Lの水性樹脂組成物を調製し、撹拌混合しながら80℃に加熱した。次いで、水性樹脂組成物を撹拌混合しながら、表1、2に示す種類及び量(単位:g)のシランカップリング剤を1g/分の滴下速度で滴下し、3時間加熱して反応させた。次いで、反応後の溶液を40℃以下に放冷した後、表1、2に示す種類及び量(単位:g)の水分散性シリカと、ポリエチレンワックス(東邦化学工業株式会社製、「ハイテックE−6000S」)22gとを添加して撹拌混合することにより、実施例1〜44、46〜55の防錆コーティング用水性樹脂組成物を得た。
【0052】
[実施例45]
水性樹脂組成物の加熱温度を80℃から50℃に変更した以外は実施例1〜44、46〜55と同様にして、実施例45の防錆コーティング用水性樹脂組成物を得た。
【0053】
[比較例1〜3]
滴下漏斗、温度計、加熱装置、及び撹拌装置を備えた反応容器に、表2に示す水性樹脂850gと純水150gとを配合して1Lの水性樹脂組成物を調製し、撹拌混合しながら80℃に加熱した。次いで、水性樹脂組成物を撹拌混合しながら、表2に示す種類及び量(単位:g)のシランカップリング剤を1g/分の滴下速度で滴下し、3時間加熱して反応させた。次いで、反応後の溶液を40℃以下に放冷した後、表2に示す種類及び量(単位:g)の水分散性シリカと、ポリエチレンワックス(東邦化学工業株式会社製、「ハイテックE−6000S」)22gとを添加して撹拌混合することにより、比較例1〜3の防錆コーティング用水性樹脂組成物を得た。
【0054】
[比較例4]
滴下漏斗、温度計、加熱装置、及び撹拌装置を備えた反応容器に、表2に示す水性樹脂850gと純水150gとを配合して1Lの水性樹脂組成物を調製し、撹拌混合しながら80℃に昇温し、3時間加熱した。次いで、反応後の溶液を40℃以下に放冷した後、表2に示す種類及び量(単位:g)の水分散性シリカと、ポリエチレンワックス(東邦化学工業株式会社製、「ハイテックE−6000S」)15gとを添加して撹拌混合することにより、比較例4の防錆コーティング用水性樹脂組成物を得た。
【0055】
[比較例5]
水分散性シリカの代わりに、表2に示す種類及び量(単位:g)のヒュームドシリカを添加した以外は比較例1〜3と同様にして、比較例5の防錆コーティング用水性樹脂組成物を得た。
【0056】
[比較例6]
滴下漏斗、温度計、加熱装置、及び撹拌装置を備えた反応容器に、表2に示す水性樹脂850gと純水150gとを配合して1Lの水性樹脂組成物を調製し、撹拌混合しながら80℃に加熱した。次いで、水性樹脂組成物を撹拌混合しながら、表2に示す種類及び量(単位:g)のシランカップリング剤を1g/分の滴下速度で滴下し、3時間加熱して反応させた。次いで、反応後の溶液を40℃以下に放冷し、ポリエチレンワックス(東邦化学工業株式会社製、「ハイテックE−6000S」)27gを添加して撹拌混合することにより、比較例6の防錆コーティング用水性樹脂組成物を得た。
【0057】
[比較例7]
水性樹脂組成物の加熱温度を80℃から40℃に変更した以外は比較例1〜3と同様にして、比較例7の防錆コーティング用水性樹脂組成物を得た。
【0058】
[比較例8]
滴下漏斗、温度計、加熱装置、及び撹拌装置を備えた反応容器に、表2に示す水性樹脂850gと純水150gと水分散性シリカ500gとを配合して1Lの水性樹脂組成物を調製し、撹拌混合しながら80℃に加熱した。次いで、水性樹脂組成物を撹拌混合しながら、表2に示す種類及び量(単位:g)のシランカップリング剤を1g/分の滴下速度で滴下し、3時間加熱して反応させた。次いで、反応後の溶液を40℃以下に放冷し、ポリエチレンワックス(三井化学株式会社製、「ケミパールW401」)35gを添加して撹拌混合することにより、比較例8の防錆コーティング用水性樹脂組成物を得た。
【0059】
<評価>
実施例1〜55、比較例1〜8の防錆コーティング用水性樹脂組成物を用いて、以下のように、一次防錆性、上塗り塗装密着性、耐酸性、及び貯蔵安定性を評価した。結果を表1、2に示す。
【0060】
[試験板の作製]
表1、2に示す鋼板を、アルカリ脱脂剤(日本ペイント・サーフケミカルズ株式会社製、「サーフクリーナー155」)を用いて60℃で1分間スプレー処理することにより脱脂した。脱脂した鋼板は、水洗した後、乾燥させた。次いで、鋼板の表面に、乾燥皮膜の付着量が表1、2に示す値となるように、実施例1〜55、比較例1〜8の防錆コーティング用水性樹脂組成物をバーコーターにより塗布し、鋼板の到達温度が150℃になるまで焼き付け乾燥し、試験板1を得た。
【0061】
また、実施例1〜55、比較例1〜8の防錆コーティング用水性樹脂組成物を40℃の恒温装置に3ヶ月間貯蔵した後、同様にして試験板2を作製した。
【0062】
[一次防錆性]
試験板1の乾燥皮膜表面に35℃の5w/v%食塩水を噴霧した。食塩水の噴霧から120時間後に、白錆が発生している面積の割合(%)を目視にて確認することにより、一次防錆性を評価した。評価は、平面部と、エリクセンで7mmまで押出加工した加工部との両方について行った。
評価基準は下記のとおりである。この評価基準で3点以上であれば合格とした。
−評価基準−
4点:白錆発生なし
3点:白錆が発生している面積が10%未満
2点:白錆が発生している面積が10%以上30%未満
1点:白錆が発生している面積が30%以上
【0063】
[上塗り塗装密着性]
a)上塗り密着試験板の作製
試験板1の乾燥皮膜表面に、市販のアクリルメラミン塗料(日本ペイントインダストリアルコーティングス株式会社製、「オルガネオ」)を乾燥膜厚が20μmとなるようにバーコーターにより塗布し、150℃で20分間乾燥させて上塗り密着試験板を作製した。
【0064】
b)一次密着試験
上塗り密着試験板に対して碁盤目1mmのカットを入れた部分をエクリセンで7mmまで押出加工した。加工部分にテープを貼った後、これを剥がし、上塗り塗装が剥がれている面積の割合(%)を目視にて確認することにより、密着性を評価した。
評価基準は下記のとおりである。この評価基準で3点以上であれば合格とした。
−評価基準−
4点:剥離なし
3点:剥離している面積が10%未満
2点:剥離している面積が10%以上25%未満
1点:剥離している面積が25%以上
【0065】
c)二次密着試験
上塗り密着試験板を沸水中に30分間浸漬した後、一次密着試験と同様の試験及び評価を実施した。
【0066】
[耐酸性]
a)初期液評価試験
試験板1を25℃の5w/v%塩酸水溶液に1時間浸漬し、試験前後の色調変化(ΔE)を測定することにより、耐酸性を評価した。
評価基準は下記のとおりである。この評価基準で3点以上であれば合格とした。
−評価基準−
4点:試験前後の色調変化(ΔE)が1未満
3点:試験前後の色調変化(ΔE)が1以上3未満
2点:試験前後の色調変化(ΔE)が3以上7未満
1点:試験前後の色調変化(ΔE)が7以上
【0067】
b)経時液評価試験
試験板1の代わりに試験板2を用いること以外は初期液評価試験と同様にして、耐酸性を評価した。
【0068】
[貯蔵安定性]
実施例1〜55、比較例1〜8の防錆コーティング用水性樹脂組成物を40℃の恒温装置内に3ヶ月間貯蔵し、ゲル化及び沈殿の状態を目視にて観察することにより、貯蔵安定性を評価した。
評価基準は下記のとおりである。この評価基準で2点であれば合格とした。
−評価基準−
2点:ゲル化及び沈殿が認められない
1点:ゲル化又は沈殿が認められる
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
なお、表1、2における略号は以下のとおりである。
(水性樹脂)
A1:カルボキシル基を有するポリオレフィン樹脂(日本ペイント株式会社製、「PC2230」)
A2:カルボキシル基を有するウレタン樹脂(株式会社ADEKA製、「HUX−1025」)
A3:ポリアクリル酸(東亜合成株式会社製、「ジュリマーAC−10L」)
A4:カルボキシル基を有するポリエステル樹脂(東亜合成株式会社製、「アロンメルトPES−1000」)
A5:カルボキシル基を有するウレタン樹脂(三洋化成工業株式会社製、「ユーコートUX−485」)
A6:ポリビニルアルコール樹脂(日本合成化学工業株式会社製、「ゴーセノールGH−20」)
【0072】
(シランカップリング剤)
B1:3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、「KBM−403」)
B2:3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製、「KBE−403」)
B3:3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、「KBM−402」)
B4:3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン(信越化学工業株式会社製、「KBE−402」)
B5:2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、「KBM−303」)
B6:ビニルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、「KBM−1003」)
B7:3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、「KBM−903」)
【0073】
(シリカ)
C1:Naイオンにより安定化されている水分散性シリカ(株式会社ADEKA製、「アデライトAT−20A」、粒子径:10〜20nm)
C2:Naイオンにより安定化されている水分散性シリカ(日産化学工業株式会社製、「スノーテックス30」、粒子径:10〜15nm)
C3:Alイオンにより安定化されている水分散性シリカ(日産化学工業株式会社製、「スノーテックスC」、粒子径:10〜15nm)
C4:アンモニウムイオンにより安定化されている水分散性シリカ(日産化学工業株式会社製、「スノーテックスN」、粒子径:10〜15nm)
C5:Naイオンにより安定化されている水分散性シリカ(日産化学工業株式会社製、「スノーテックス50」、粒子径:20〜25nm)
C6:Naイオンにより安定化されている水分散性シリカ(日産化学工業株式会社製、「スノーテックス20L」、粒子径:40〜50nm)
C7:Naイオンにより安定化されている水分散性シリカ(日産化学工業株式会社製、「スノーテックスZL」、粒子径:70〜100nm)
C8:ヒュームドシリカ(日本アエロジル株式会社製、「アエロジル200」)
【0074】
(鋼板)
GI:溶融亜鉛めっき鋼板
GL:アルミニウム亜鉛合金めっき鋼板(Al:55質量%)
GF:アルミニウム亜鉛合金めっき鋼板(Al:5質量%)
EG:電気亜鉛めっき鋼板
AL:アルミニウム板
SUS:ステンレス鋼板
【0075】
表1、2に示すとおり、水分散性シリカの添加前に水性樹脂組成物を50℃未満の温度に冷却した実施例1〜55は、水分散性シリカの添加後に水性樹脂組成物を加熱した比較例8に比べて、経時後の防錆コーティング用水性樹脂組成物を用いて得られる乾燥皮膜の耐酸性に優れていた。このことから、水分散性シリカの添加前に水性樹脂組成物を50℃未満の温度に冷却することで、防錆コーティング用水性樹脂組成物の経時による性能低下が抑えられることが分かる。
【0076】
なお、カルボキシル基を有する水性樹脂、エポキシ系シランカップリング剤、及び水分散性シリカのいずれかを用いていない比較例1〜6は、一次防錆性、上塗り塗膜密着性、耐酸性、及び貯蔵安定性の少なくとも1つの評価が、実施例1〜55よりも劣っていた。
また、カルボキシル基を有する水性樹脂及びエポキシ系シランカップリング剤を含有する水性樹脂組成物を40℃に加熱した比較例7は、実施例1〜55に比べて、経時後の防錆コーティング用水性樹脂組成物を用いて得られる乾燥皮膜の耐酸性が劣っていた。