特許第6936713号(P6936713)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6936713
(24)【登録日】2021年8月31日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】ロボット用の保護ジャケット
(51)【国際特許分類】
   B25J 19/00 20060101AFI20210909BHJP
【FI】
   B25J19/00 H
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-226787(P2017-226787)
(22)【出願日】2017年11月27日
(65)【公開番号】特開2019-93514(P2019-93514A)
(43)【公開日】2019年6月20日
【審査請求日】2020年9月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】501428545
【氏名又は名称】株式会社デンソーウェーブ
(73)【特許権者】
【識別番号】596179944
【氏名又は名称】株式会社ワコウ
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】特許業務法人 サトー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】町田 聖二
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】上原 慎也
(72)【発明者】
【氏名】松田 兼一
【審査官】 松浦 陽
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−064449(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0202009(US,A1)
【文献】 独国特許出願公開第102012008535(DE,A1)
【文献】 特開平01−199788(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2011−0057108(KR,A)
【文献】 特表2009−509653(JP,A)
【文献】 特表2017−512528(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/122717(WO,A1)
【文献】 特開平02−083192(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0292707(US,A1)
【文献】 特開2010−274373(JP,A)
【文献】 特開2010−125546(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 − 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアームを有するロボットに装着するロボット用の保護ジャケットであって、
前記ロボットの先端部から設置部側までを覆う筒状のシート状部材と、
前記シート状部材の内面側に設けられ、前記シート状部材を前記ロボット側に連結する内面バンドと、を備え、
前記シート状部材は、前記ロボットの先端部から設置部への向きを長手方向とすると、長手方向の複数の連結位置において前記ロボット側に連結されて前記ロボットに装着されるとともに、長手方向の途中に、前記シート状部材を長手方向に折り重ねることにより当該シート状部材の周方向の全域に渡る袋状に形成され、当該保護ジャケットの長手方向における見かけ上の長さを可変とする伸縮部が形成され、
前記内面バンドは、前記伸縮部の前記シート状部材側の位置において、前記シート状部材を前記ロボット側に連結することを特徴とするロボット用の保護ジャケット。
【請求項2】
前記内面バンドは、前記ロボットが有する複数のアームのうち、長手方向における前段側または後段側の他のアームに対する角度が変化するアームに対して前記シート状部材を連結することを特徴とする請求項1記載のロボット用の保護ジャケット。
【請求項3】
前記シート状部材の表面に設けられ、前記伸縮部の表面と、当該伸縮部によって覆われる前記連結位置よりも長手方向において後段側に位置する前記シート状部材の表面との間を連結する伸縮性の外面バンドを備えることを特徴とする請求項1または2記載のロボット用の保護ジャケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のアームを有するロボットに装着するロボット用の保護ジャケットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロボットを保護すること等を目的として、ロボットに保護ジャケットを装着することがある。このとき、ロボットの可動範囲を制限しないようにするために、ジャバラ構造のものや、例えば特許文献1のように関節部分で分離させた構造のものを採用することがある。以下、関節部分で分離させた構造のものを、便宜的に分離構造と称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−274373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ジャバラ構造のものは、比較的高コストになる傾向があり、また、蛇腹部分が折りたたまれた際には外形が大きくなることから、ロボットの可動範囲を逆に制限してしまうおそれがある。一方、分離構造のものは、分離している部分から保護ジャケット内部に異物が侵入するおそれや、保護ジャケット内部から異物が放出されるおそれがあり、ロボットの設置環境によっては採用できないおそれがある。
【0005】
さらに、例えば食品工場等の清潔さが求められる現場では、一般的に定期清掃が毎日行われるものの、ジャバラ構造では表面に多くの凹凸が形成されること、また、分離構造では関節部分が狭く奥行きが深い溝状になることから、拭き残し等が発生するおそれが高くなるとともに、ロボットが動作した際に拭き残された異物が放出されるおそれがある。
そこで、ロボットの可動範囲を制限することなく、清掃が容易であって異物の侵入や放出を抑制することができるロボット用の保護ジャケットを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載した発明では、ロボット用の保護ジャケットは、ロボットの先端部から 設置部側までを覆う筒状のシート状部材と、シート状部材の内面側に設けられ、シ ート状部材をロボット側に連結する内面バンドと、を備え、シート状部材は、ロボ ットの先端部から設置部への向きを長手方向とすると、長手方向の複数の連結位置 においてロボット側に連結されてロボットに装着されるとともに、長手方向の途中 に、シート状部材を長手方向に折り重ねることにより当該シート状部材の周方向の 全域に渡る袋状に形成され、当該保護ジャケットの長手方向における見かけ上の長 さを可変とする伸縮部が形成されている。そして、内面バンドは、伸縮部のシート 状部材側の位置において、シート状部材をロボット側に連結する。
【0007】
保護ジャケットを利用する目的に鑑みれば、シート状部材は、ロボットがどのような姿勢を取ったとしてもその表面を覆うことが求められる。その一方で、実際にロボットが動作する際には極端な姿勢を取ることは少ないと考えられること、また、ロボットの関節の内側つまりはアームの角度が鋭角になる側においてはアーム間の距離が相対的に短くなることから、シート状部材の長さが余剰となって弛んでしまうことが予想される。
【0008】
そして、弛んだ部位は、アームの回転を制限しないために必要な部位ではあるものの、その部位が垂れ下がってしまうと、ワークや周辺設備に接触する可能性があることから、ロボットの可動範囲を逆に制限してしまうおそれがある。
【0009】
そこで、シート状部材の一部を折り重ねた伸縮部を形成する。より平易に言えば、シート状部材の一部に潜頚亜目の亀の首のような構造を設けている。これにより、ロボットの姿勢が変化する際には、保護ジャケットの長手方向の見かけ上の長さが足りない場合には、伸縮部が相対的に小さくなることによって、つまり、折り重なった部位の長さが短くなることによって、足りない長さを補填することが可能になる。一方、保護ジャケットの長手方向の見かけ上の長さが余剰となる場合には、伸縮部が相対的に大きくなることによって、つまりは、折り重なった部位の長さが長くなることによって、余剰の長さを吸収することができる。
【0010】
このとき、伸縮部は折り重ねられた部位の長さが変化する構造になっていることから、余剰の長さを吸収して相対的に大きくなった場合であっても、保護ジャケット全体としてみた場合の外縁が外側に大きく広がることは抑制されることになる。
【0011】
また、見かけ上シート状部材の表面から外側に延びるように形成されている伸縮部は、その根元側つまりはシート状部材側の位置において、内面バンドによってロボット側に連結されている。そのため、伸縮部は、後段側のシート状部材の表面との間には、根元を頂点として下方に開口する空間が形成される。このため、仮にその空間に異物が侵入したとしても直ぐに落下することから、保護ジャケットに異物が滞留することを防止することができる。
【0012】
また、伸縮部は、伸縮性を有する外面バンドによって後段の部位に連結されていることから、大きさが変化した場合であっても保護ジャケットの表面側に張り付いた状態で保持され、外側に広がることが制限される。そのため、例えばアームが横方向に延びた状態になったとしても下方に垂れ下がることがないことから、ワークや周辺設備に接触することが抑制される。
【0013】
また、ロボットが待機姿勢を取った際に自重で下方に下がろうとする場合であっても、内面バンドによって吊られた状態になることから、折り重ねた部位が無くなって保護ジャケットの長さを調整できずにアームの回転を阻害してしまうことを防止できる。
【0014】
また、保護ジャケットは、ロボットの全体を一体に覆っていることから、保護ジャケットの内部に異物が侵入したり内部から異物が放出されたりすることがない。さらに、保護ジャケットは、ロボットの動作中に表面に凹凸やシワが生じても、ロボットの姿勢が変化した際には内面バンドおよび外面バンドにより表面が引っ張られてピンと張った状態に復帰することから、保護ジャケットの表面に異物が付着したまま残留したり、残留した異物が作業中にワークや周囲環境に飛散したりすることを防止でき、例えば食品に接する工程で衛生面に悪影響を及ぼすことを防止できる。
【0015】
したがって、ロボットの可動範囲の確保と清潔さとを両立させることができる。すなわち、ロボットの可動範囲を制限することなく保護することができるとともに、清掃が容易であって異物の侵入や放出を抑制することができる。
【0016】
請求項2に記載した発明では、内面バンドは、ロボットが有する複数のアームのうち、長手方向における前段側または後段側の他のアームに対する角度が変化するアームに対してシート状部材を連結することを特徴とする。
【0017】
前段側または後段側の他のアームに対して角度が変化するアームの場合、間接の内側においてはシート状部材が弛みやすくなることから、保護ジャケットが外側に膨らむおそれが高くなると考えられる。
【0018】
そこで、他のアームに対して角度が変化するアームに内面バンドでシート状部材を連結することにより、弛みが生じやすい部位をロボット側に引きつけることができる。これにより、アーム間の角度が大きく変化する可能性がある部位、つまりは、長さが余剰になり易い部位において、保護ジャケットが全体的に弛んで可動範囲を制限してしまうおそれを低減することができる。
【0019】
請求項3に記載した発明では、シート状部材の表面に設けられ、伸縮部の表面と、当該伸縮部によって覆われる連結位置よりも長手方向において後段側に位置するシート状部材の表面との間を連結する伸縮性の外面バンドを備える。
【0020】
長手方向において前段側の外面バンドの伸縮性が相対的に低い場合、後段側の方がより延びることになるため、伸縮部が前段側に引っ張られて外側に広がってしまう可能性がある。そこで、後段側に位置する外面バンドの伸縮性を相対的に低くすることにより、伸縮部が外側に広がることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施形態の保護ジャケットを模式的に示す図
図2】固定部材の一例を模式的に示す図
図3】姿勢が変化した際の保護ジャケットの状態を模式的に示す図その1
図4】姿勢が変化した際の保護ジャケットの状態を模式的に示す図その2
図5】姿勢が変化した際の保護ジャケットの状態を模式的に示す図その3
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、本実施形態では、ロボット1として複数のアームを有するいわゆる垂直多関節型ロボットを想定している。このロボット1は、例えば床面等の設置面2に設置された状態で、制御装置である図示しないコントローラに接続されて各種の作業を実行する。
【0023】
ロボット1は、設置部に相当するベース1a上に、鉛直方向の軸心を持つ第1軸を介してショルダ1bが水平方向に回転可能に連結されている。ショルダ1bには、第1軸に直交する回転軸である第2軸を介して、下アーム1cが回転可能に連結されている。この下アーム1cの先端側には、第2軸に平行な回転軸である第3軸を介して第一上アーム1dが、下アーム1cに対して回転可能に連結されている。第一上アーム1dの先端側には、第3軸に直交する回転軸である第4軸を介して第二上アーム1eが、第一上アーム1dと同軸で捻り回転可能に連結されている。
【0024】
第二上アーム1eの先端側には、第4軸に直交する回転軸である第5軸を介して手首1fが回転可能に連結されている。そして、手首1fには、第5軸に直交する回転軸である第6軸を介して、先端部としてのフランジ1gが、手首1fと同軸で捻り回転可能に連結されている。これら第1軸〜第6軸は、ロボット1の関節軸に相当する。
【0025】
フランジ1gには、図2に示すように、保護ジャケット3をロボット1側に固定するための固定部材4が、フランジ1gに共に回転可能な状態で取り付けられている。この固定部材4は、円柱状に形成されており、一方の面側でフランジ1gに取り付けられるとともに、フランジ1gとは反対側の面側に図示しないエンドエフェクタを装着可能な構造となっている。また、固定部材4の外周面には、保護ジャケット3を固定するためのネジ穴が複数設けられている。なお、図2に示す固定部材4の構造は一例であり、エンドエフェクタをフランジ1gに直接的に取り付け可能なように円筒状の構造とすることもできる。
【0026】
保護ジャケット3は、ロボット1の全体を覆っており、ロボット1の先端部であるフランジ1g側から設置部であるベース1a側までを覆う筒状のシート状部材3a、シート状部材3aの内面側に設けられ、シート状部材3aをロボット1側に接続する内面バンド5、および、シート状部材3aの表面に設けられている外面バンド7を備えている。
【0027】
シート状部材3aは、ロボット1の先端部から設置部への向きを長手方向とすると、長手方向の複数の連結位置3cにおいてロボット1側に連結されている。具体的には、シート状部材3aは、連結位置3cであるロボット1の先端側の端部が、固定部材4に直接的に連結されることで固定されている。また、シート状部材3aは、内面側に設けられている内面バンド5を介して間接的に、連結位置3cにおいてロボット側に設けられている固定部材4に連結されている。また、シート状部材3aのベース1a側の端部は、例えば床面に密に固定されている。
【0028】
連結位置3cは、伸縮部3bの根元側、つまり、シート状部材3aの表面から外側に延びているように見える伸縮部3bのシート状部材3aの表面側となる位置に形成されている。このため、伸縮部3bは、長手方向後段側のシート状部材3aの表面との間に、長手方向の途中に設けられている連結位置3cを頂点として下方に開口する空間を形成する。なお、図1では、説明の簡略化のために、シート状部材3aは、長手方向に沿った断面を示している。また、連結位置3cの数は一例であり、図1に示したものに限定されない。
【0029】
また、シート状部材3aには、長手方向の途中に、シート状部材3aを長手方向に折り重ねることにより当該シート状部材3aの周方向の全域に渡る袋状に形成され、保護ジャケット3の長手方向における見かけ上の長さを可変とする伸縮部3bが形成されている。より具体的には、伸縮部3bは、シート状部材3aの一部を弛ませて断面視にてS字状になるように長手方向に折り重ねた潜頚亜目の亀の首のような構造であり、連結位置3cの近傍においてシート状部材3aの外周側の全域に渡る袋状に形成されている。
【0030】
このように、筒状のシート状部材3aは、その内径が各アームの直径よりも大きく形成されているとともに、長手方向の長さが、ロボット1の姿勢によらず、ロボット1の先端部から設置部までのアーム表面に沿った長さよりも長くなるように形成されている。また、シート状部材3aは、本実施形態では、耐水性と、例えば次亜塩素酸系の洗浄液等により洗浄することができるように耐薬品性とを有するものを採用している。
【0031】
ただし、シート状部材3aは、伸縮性はごく小さいものであり、延び縮みし難いものとなっている。また、シート状部材3aは、ロボット1が繰り返し同じ作業をする場合でも破損したりせずに耐えることができる強度を有する材料で構成されており、ある程度の厚みと重量とを有している。
【0032】
また、シート状部材3aの大きさ特にはロボット1を収納する空間を形成する内径は、ロボット1のアームの形状等に応じて適宜設計することができる。また、シート状部材3aは、必ずしも長手方向において同一の内径とする必要はなく、例えばフランジ1g側の内径をベース1a側の内径より小さくしたり、フランジ1g側の端部を絞り込んだ筒状とした立体的な形状に形成したりすることもできる。
【0033】
また、シート状部材3aは、その表面に設けられ、伸縮部3bの表面と、当該伸縮部3bによって覆われる連結位置3cよりも長手方向において後段側に位置するシート状部材3aの表面、特には、後段側に他の伸縮部3bを設けられている場合にはその伸縮部3bの表面との間を連結する伸縮性の外面バンド7を備えている。
【0034】
この外面バンド7および上記した内面バンド5は、長手方向の複数の位置において、それぞれロボット1のアームを囲うように周方向に設けられている。より具体的には、外面バンド7および内面バンド5は、アームを囲う周方向における4箇所に等間隔となるように設けられている。このとき、周方向における内面バンド5の位置と外面バンド7の位置とは、互いに同じ位置になるように配置されている。
【0035】
また、内面バンド5および外面バンド7は、本実施形態では、例えばショルダ1bのように長手方向における前段側または後段側の他のアームに対する角度が変化するアームに対してシート状部材3aを連結するとともに、連結するアームの回転方向、例えば図1であれば図示時計回り方向と反時計回り方向の位置に設けられている。
【0036】
次に、上記した構成の作用について説明する。
ロボット1を保護するためのジャケットを装着することは従来から提案されているものの、前述のように従来のジャバラ構造のものや分離型のジャケットの場合には、コストが高くなったり、ロボット1の可動範囲を制限してしまったり、ジャケット内部に異物が侵入したり、ジャケット内部から異物が放出されたりするおそれがある。
【0037】
また、例えば食品工場等の清潔さが求められる現場では一般的に定期清掃が毎日行われるものの、ジャバラ構造では表面に多くの凹凸が形成されること、また、分離構造では関節部分が狭く奥行きが深い溝状になることから、拭き残し等が発生するおそれが高くなるとともに、ロボット1が動作した際に拭き残された異物や放出されたり、洗浄液が残留したりするおそれがある。
【0038】
また、ロボット1の可動範囲を確保するために生地を大きくすると、アームを回転させた際に関節の内側となる部分が大きく弛むことから、弛んだ部分がめくれ上がると、つまりは、弛んだ部分が保護ジャケット3の表面から離間するように移動すると、ワークに接触するおそれが高くなることから、ロボット1の可動範囲を制限するおそれがある。
そこで、本実施形態では、ロボット1の可動範囲を過度に制限することなく、清掃が容易であって異物の侵入や放出を抑制することができるようにしている。
【0039】
まず、保護ジャケット3を利用する目的に鑑みれば、シート状部材3aは、ロボット1がどのような姿勢を取ったとしてもその表面を覆うことが求められる。例えばロボット1であれば、シート状部材3aは、各アームを最大に折り曲げ、フランジ1gを最大に回転させ、第二上アーム1eを最大限に捻った状態において、アーム表面に沿った長さが最も長い状態でもロボット1を覆うことができる長さに形成する必要がある。
【0040】
その一方で、実際にロボット1が動作する際には上記したような極端な姿勢を取ることは少ないと考えられることから、また、ロボット1の関節の内側つまりはアームの角度が鋭角になる側においてアーム間の距離が相対的に短くなることから、長さが余剰となって伸縮部3bの大きさが相対的に大きくなると考えられる。
【0041】
つまり、伸縮部3bは、アームの回転を制限しないために必要な構造ではあるものの、垂れ下がってしまうとワークや周辺設備に接触する可能性がある部位であり、ロボット1全体としての可動範囲を逆に制限してしまうおそれがある部位でもある。
【0042】
そこで、本実施形態の保護ジャケット3では、伸縮部3bを亀の首のような構造とすることにより、まず、ロボット1の姿勢が変化する際のアームの回転を制限しないようにしている。つまり、アームが回転し、保護ジャケット3の長手方向の長さが足りない場合には伸縮部3bが小さくなって長手方向の長さを確保するとともに、長手方向の長さが余剰となる場合には伸縮部3bが大きさくなって余剰部分を吸収するようになる。
【0043】
このとき、伸縮部3bは、根元側の位置において内面バンド5によってロボット1側に連結されているため、伸縮部3bが自重によって垂れ下がった場合には、保護ジャケット3の表面との間に形成される空間は、下方に開口することになる。そのため、その空間に異物が侵入したとしても直ぐに落下することから、保護ジャケット3に異物が滞留することを防止することができる。
【0044】
また、伸縮部3bは、外面バンド7によって後段の部位に連結されていることから、大きさが大きくなっても保護ジャケット3の表面側に引っ張られた状態になる。この場合、伸縮部3bは、外面バンド7によって外側に広がることが制限されることから、下方に垂れ下がることがない。これにより、伸縮部3bがワークや周辺設備に接触することが抑制され、ロボット1の可動範囲を制限することがない。
【0045】
より具体的には、図3に示すように、ロボット1の姿勢が姿勢Aから姿勢Bに変化したとする。また、説明のために、図示左方側に位置する1つを伸縮部3b1と称し、図示右方側に位置する1つを伸縮部3b2と称する。なお、姿勢Aは、各アームを真っ直ぐ鉛直に伸ばした状態であり、関節に掛かる負荷が小さくなることから、ロボット1を使用しない状態でよく取られる姿勢であり、待機姿勢とも称される。
【0046】
この姿勢Aでは、保護ジャケット3は、自重により下方に引っ張られることで、ワークに近い先端部側がピンと張った状態になる。これにより、保護ジャケット3の先端側には凹凸が生じなくなり、異物の付着や飛散を抑制できるとともに、清掃時に拭きの腰が発生するおそれも小さくなる。これは、先端側だけで無く、長手方向の途中や設置部側の部位についても同様である。
【0047】
姿勢Aから若干姿勢が変化した姿勢Bでは、間接の内側となる伸縮部3b1が相対的に大きくなるとともに、関節の外側となる伸縮部3b2が相対的に小さくなることで、アームの回転を可能にしている。このとき、伸縮部3b1は、相対的に大きくなっているものの、外面バンド7によって引っ張られることから、外側に広がることがない。
【0048】
姿勢Bからさらに姿勢が変化して、図4に示すようにアームの角度が急になった姿勢Cになった場合、伸縮部3b1はさらに大きくなるものの、外面バンド7によって引っ張られることから外側に広がることがない。また、さらにアームの角度が急になった姿勢Cになった場合でも、伸縮部3b1は外面バンド7によって引っ張られることから外側に広がることがない。
【0049】
さて、さらに姿勢が変化して、図5に示すようにアームの角度がさらに急になった姿勢Dになった場合、伸縮部3b2は、最大限に広がってアームの表面に沿った状態になる。この姿勢Eから姿勢Fのようにアームの角度が緩くなると、伸縮部3b2に相当する部位に弛みが生じることになる。このとき、外面バンド7を設けないと、伸縮部3b2に相当する部位弛んで、例えば上方に開口する状態となったり、凹凸つまりはシワが生じた状態になったりするおそれがある。
【0050】
しかし、外面バンド7を設けていることにより、姿勢Fになって伸縮部3b1に相当する部位が弛んだとしても、伸縮部3b2に相当する部位が外面バンド7によって後段側に引っ張られることで、また、伸縮部3b2の根元側の部位が内面バンド5により引きつけられることで、伸縮部3b2は、後段側つまりは姿勢Fでいえば下方に開口する空間を形成することになる。
【0051】
つまり、保護ジャケット3は、内面バンド5および外面バンド7を設けたことにより、ロボット1の姿勢が変化して姿勢Eのように伸縮部3bが見かけ上無くなった状態からであっても、姿勢D等に示した状態に復帰することができる。なお、図示は省略するが、各アームが最大に回転した状態からであっても、同様に元の状態つまり姿勢A〜姿勢Dのような状態に復帰することもできる。
【0052】
これにより、保護ジャケット3は、ロボット1の様々な姿勢の変化に追従してロボット1を保護することができるとともに、伸縮部3bが垂れ下がることを防止できることから可動範囲を制限することも無く、保護ジャケット3の表面を張った状態にできることから凹凸が形成されることを抑制できるとともに、伸縮部3bと保護ジャケット3の表面との間に形成される空間が下方に開口する状態を維持できるようになる。
【0053】
以上説明した保護ジャケット3によれば、次のような効果を得ることができる。
保護ジャケット3は、ロボット1の先端部から設置部側までを覆う筒状のシート状部材3aと、シート状部材3aの内面側に設けられ、シート状部材3aをロボット1側に連結する内面バンド5と、を備えている。
【0054】
そして、シート状部材3aには、長手方向の複数の連結位置3cにおいてロボット1側に設けられている固定部材4あるいは固定部材6に直接的あるいは内面バンド5を介して間接的に連結されるとともに、長手方向の途中に、シート状部材3aを長手方向に折り重ねることにより当該シート状部材3aの周方向の全域に渡る袋状に形成され、当該保護ジャケット3の長手方向における見かけ上の長さを可変とする伸縮部3bが形成されている。
【0055】
これにより、ロボット1の姿勢が変化した場合には伸縮部3bの大きさが変化することにより、アームが回転できるだけの長さを確保でき、ロボット1の姿勢の変化を妨げることがない。また、1つの伸縮部3bでは吸収できない姿勢の変化が生じた場合であっても、内面バンド5が伸縮性を有していることから、他の伸縮部3bの大きさの変化をも利用できるようになり、保護ジャケット3の全体としてロボット1を覆った状態を維持することができる。
【0056】
また、ロボット1の動作中に表面に凹凸が生じたり、伸縮部3bが最大に広がった状態になったりしたとしても、例えばアームの回転角度が緩くなったり待機姿勢になったときには伸縮部3bが内面バンド5の位置を頂点として保護ジャケット3との間の空間が後段側つまり実施形態でいえば下方に開口した状態に戻すことが可能になる。これにより、保護ジャケット3の表面に異物が付着したまま残留したり、残留した異物が作業中にワークや周囲環境に飛散したりすることを防止できる。また、洗浄液が残留することも抑制できるため、例えば食品に接する工程で衛生面に悪影響を及ぼすことを防止できる。
【0057】
また、シート状部材3aはロボット1の先端側から設置部側までを一体に覆っているため、保護ジャケット3の内部に異物が侵入するおそれや、保護ジャケット3の内部から異物が放出されるおそれも低減することができる。
したがって、可動範囲の確保と清潔さとを両立させることができる。換言すると、ロボット1の可動範囲を制限することなく保護することができるとともに、清掃が容易であって異物の侵入や放出を抑制することができる保護ジャケット3を提供することができる。
【0058】
また、シート状部材3aは、長手方向の長さが、ロボット1の姿勢によらず、ロボット1の先端部から設置部までのアーム表面に沿った長さよりも長くなるように形成されていることから、ロボット1がどのような姿勢を取ったとしても、ロボット1の表面が露出することがない。これにより、好適にロボット1を保護することができる。
【0059】
保護ジャケット3では、内面バンド5は、ロボット1が有する複数のアームのうち、長手方向における前段側または後段側の他のアームに対する角度が変化するアームに対してシート状部材3aを連結する。これは、実施形態で言えば、例えばショルダ1bと下アーム1c等が相当する。これにより、アーム間の角度が大きく変化する可能性がある部位、つまりは、長さが余剰になり易い部位において、シート状部材3aをロボット1側に引きつけることが可能となり、保護ジャケット3が全体的に弛んで可動範囲を制限してしまうおそれを低減することができる。
【0060】
保護ジャケット3は、シート状部材3aの表面に設けられ、伸縮部3bの表面と、当該伸縮部3bによって覆われる連結位置3cよりも長手方向において後段側に位置するシート状部材3aの表面との間を連結する伸縮性の外面バンド7を備えている。また、外面バンド7は、実施形態のように2つの伸縮部3bの間を連結するものも含んでいる。
【0061】
この場合、伸縮部3bは、保護ジャケット3の表面において周方向つまりはロボット1の周囲を囲う環状に形成されていることから、例えばアームを横方向に延ばすような姿勢を取った場合であっても、外面バンド7により伸縮部3bの表面が後段の保護ジャケット3の表面に引き寄せられることから、伸縮部3bが垂れ下がってワークや周辺設備へ接触するおそれを低減することができる。そのため、ロボット1の可動範囲を制限してしまうことが防止される。
【0062】
このとき、外面バンド7を長手方向の複数の位置に設ける場合には、長手方向において後段側に位置するものほど伸縮性が相対的に低くなる構成とすることができる。これは、長手方向において前段側の外面バンド7の伸縮性が相対的に低い場合、後段側の方がより延びることから伸縮部3bが前段側に引っ張られ、外側に広がってしまう可能性があるためである。換言すると、後段側に位置する外面バンド7の伸縮性を相対的に低くすることにより、伸縮部3bが外側に広がることを防止でき、ロボット1の可動範囲を制限しないようにすることができる。
【0063】
また、フランジ1gが回転するとそれに伴ってシート状部材3aも周方向に捩れることになるが、伸縮部3bは保護ジャケット3の周方向に渡って形成されているため、ある程度の捻れを吸収することができ、長手方向に対してシワが発生することを抑制できる。
【0064】
また、実施形態では、ロボット1の先端側から設置部側までを覆うとだけ説明したが、シート状部材3aは、1枚物のシートを用いる構成とすることもできるが、必ずしも1枚物である必要は無く、長手方向や周方向に分割された複数のシートを筒状に貼り合わせ又は縫い合わせた構成とすることもできる。
【0065】
また、実施形態では単に筒状と称したが、シート状部材3aは、断面が円形のものに限らず、断面が四角形等の多角形状のものや楕円形状のものを採用することができる。つまり、本明細書で言う筒状とは、ロボット1の周囲を覆うことができる任意の形状を含んでいる。
【符号の説明】
【0066】
図面中、1はロボット、1a〜1fはアーム、3は保護ジャケット、3aはシート状部材、3bは伸縮部、3cは連結位置、4は固定部材、5は内面バンド、6は固定部材、7は外面バンドを示す。
図1
図2
図3
図4
図5