(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6936735
(24)【登録日】2021年8月31日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】切削工具のプルアウトを決定する方法、および、切削工具のための回転可能な工具ホルダー
(51)【国際特許分類】
B23Q 17/00 20060101AFI20210909BHJP
B23B 31/00 20060101ALI20210909BHJP
G01B 7/00 20060101ALI20210909BHJP
【FI】
B23Q17/00 B
B23B31/00 D
G01B7/00 101E
【請求項の数】23
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-558385(P2017-558385)
(86)(22)【出願日】2016年5月3日
(65)【公表番号】特表2018-519170(P2018-519170A)
(43)【公表日】2018年7月19日
(86)【国際出願番号】EP2016059826
(87)【国際公開番号】WO2016180666
(87)【国際公開日】20161117
【審査請求日】2019年3月4日
(31)【優先権主張番号】15166983.5
(32)【優先日】2015年5月8日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】エクベック, ヨーアン
(72)【発明者】
【氏名】エリクソン, ペーター
【審査官】
永田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭59−53108(JP,A)
【文献】
実開昭58−103305(JP,U)
【文献】
特開2012−112751(JP,A)
【文献】
特開平5−50359(JP,A)
【文献】
実開昭61−154649(JP,U)
【文献】
特開2010−167557(JP,A)
【文献】
独国特許出願公開第19959778(DE,A1)
【文献】
特開2007−175804(JP,A)
【文献】
特開昭59−53107(JP,A)
【文献】
特開2004−268205(JP,A)
【文献】
特開2005−186254(JP,A)
【文献】
実開昭61−154648(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 17/00−17/24,
B23B 31/00−31/42,
G01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能な工具ホルダーの中に装着された切削工具のプルアウトを決定する方法であって、
前記工具ホルダー、ひいては、前記切削工具を回転させることと、
回転している前記切削工具によってワークピースを機械加工することと、を含み、
前記工具ホルダーの中の位置センサーによって、機械加工の間に前記工具ホルダーの中の前記切削工具の軸線方向の位置を測定すること(401)と、
測定された前記軸線方向の位置によって、前記切削工具の初期位置からの軸線方向の変位を計算すること(402)と、
前記軸線方向の変位が閾値を超えたときに、前記切削工具のプルアウトを決定すること(403)とを含み、
前記位置センサーは、インダクティブ位置センサーであり、
前記回転可能な工具ホルダーは、電気伝導性材料を含み、前記センサーは、電磁コイル(4)を含み、前記電磁コイル(4)は、前記切削工具が前記軸線方向のスペースの中で変位させられるときに、電流が前記コイルの中に誘導されるように配置されており、
前記電磁コイルは、コアを含み、前記コアは、前記工具ホルダーの中に保持されたねじ山付きのセットスクリュー(8)として形成されており、前記セットスクリューが、前記軸線方向のスペースの中の前記切削工具のための軸線方向に調節可能なストップを画定するようになっていることを特徴とする、方法。
【請求項2】
機械加工の間の軸線方向の位置データを含む出力信号を送信することと、前記軸線方向の変位の計算のために前記出力信号を受信することとを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
機械加工の間の軸線方向の変位データを含む出力信号を送信することと、前記切削工具のプルアウトを決定するために前記出力信号を受信することとを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
プルアウトが決定されたときに、プルアウト信号を含む出力信号を送信することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記出力信号は、少なくとも1Hzの周波数で間欠的に送信される、請求項2から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記出力信号は、前記回転可能な工具ホルダーからワイヤレスで送信される、請求項2から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記切削工具の前記プルアウトを補償するために、前記ワークピースから離れるように軸線方向に所定の距離にわたって前記工具ホルダーを変位させること(404)を含み、前記距離は、前記切削工具の前記軸線方向の変位に対応している、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記切削工具のプルアウトが決定されたときに、前記工具ホルダーの前記回転、ひいては、前記切削工具の前記回転を停止させること(404)を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記切削工具のプルアウトが決定されたときに、前記工具ホルダーの中の前記切削工具を解放すること、および、前記工具ホルダーの前記回転を停止させること(404)を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記切削工具によるフライス加工の間に実施される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
コンピューティングデバイスまたはシステムによって実行されたときに、前記コンピューティングデバイスまたはシステムに請求項1から10のいずれか一項に記載の方法を実行させる命令を有する、コンピュータープログラム。
【請求項12】
ワークピースを機械加工する切削工具のための回転可能な工具ホルダー(1)であって、
切削工具(3)の端部部分を受け入れるための軸線方向のスペース(2)と、
前記軸線方向のスペースの中に切削工具の前記端部部分を保持するための保持手段(10)と
を含み、
前記工具ホルダーは、前記軸線方向のスペースの中の前記切削工具の軸線方向の位置を測定するように構成されている、前記回転可能な工具ホルダーの中の位置センサー(22)と、前記軸線方向のスペースの中の前記切削工具の前記軸線方向の位置に基づいて、前記切削工具による機械加工の間に前記工具ホルダーから出力信号を送信するための送信器(7)と、を含み、
前記位置センサー(22)は、インダクティブ位置センサーであり、
前記回転可能な工具ホルダーは、電気伝導性材料を含み、前記センサーは、電磁コイル(4)を含み、前記電磁コイル(4)は、前記切削工具が前記軸線方向のスペースの中で変位させられるときに、電流が前記コイルの中に誘導されるように配置されており、
前記電磁コイルは、コアを含み、前記コアは、前記工具ホルダーの中に保持されたねじ山付きのセットスクリュー(8)として形成されており、前記セットスクリューが、前記軸線方向のスペースの中の前記切削工具のための軸線方向に調節可能なストップを画定するようになっていることを特徴とする、回転可能な工具ホルダー(1)。
【請求項13】
前記出力信号は、軸線方向の位置データを含む、請求項12に記載の回転可能な工具ホルダー。
【請求項14】
測定された前記軸線方向の位置によって、前記切削工具の初期位置からの軸線方向の変位を計算するように構成された処理ユニット(21)を含む、請求項12に記載の回転可能な工具ホルダー。
【請求項15】
前記出力信号は、軸線方向の変位データを含む、請求項14に記載の回転可能な工具ホルダー。
【請求項16】
前記処理ユニットは、前記軸線方向の変位が閾値を超えたときに、前記切削工具のプルアウトを決定するように構成されており、前記出力信号は、プルアウト信号を含む、請求項14に記載の回転可能な工具ホルダー。
【請求項17】
前記軸線方向のスペースの中の前記切削工具の前記軸線方向の位置を測定するために、前記電磁コイルの等価並列共振インピーダンスを測定するように構成された測定回路(5)をさらに含む、請求項12に記載の回転可能な工具ホルダー。
【請求項18】
請求項12から17のいずれか一項に記載の回転可能な工具ホルダー(1)を備えた工作機械(301)と、
前記回転可能な工具ホルダーから前記出力信号を受信するための受信器(302)と、
前記出力信号に基づいて、前記回転可能な工具ホルダーを備えた前記工作機械を制御するためのコントローラー(304)と
を含む、工作機械システム。
【請求項19】
前記コントローラーは、切削工具のプルアウトを補償するために、前記ワークピースから離れるように軸線方向に所定の距離にわたって前記工具ホルダーを変位させるように構成されており、前記距離は、前記切削工具の前記軸線方向の変位に対応している、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
前記コントローラーは、前記切削工具のプルアウトが決定されたときに、前記工具ホルダーの前記回転、ひいては、前記切削工具の前記回転を停止させるように構成されている、請求項18に記載のシステム。
【請求項21】
前記コントローラーは、前記切削工具のプルアウトが決定されたときに、前記工具ホルダーの中の前記切削工具を解放する、および、前記工具ホルダーの前記回転を停止させるように構成されている、請求項18に記載のシステム。
【請求項22】
前記コントローラーは、前記切削工具のプルアウトが決定されたときに、プルアウト警告信号をマシンオペレーターに送信するように構成されている、請求項18から21のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項23】
請求項12から17のいずれか一項に記載の回転可能な工具ホルダー、または、前記切削工具によるフライス加工の間に切削工具のプルアウトを検出するための請求項18から22のいずれか一項に記載のシステムの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転可能な工具ホルダーの中の切削工具のプルアウトを決定する方法、切削工具のための回転可能な工具ホルダー、工作機械システム、および、回転可能な工具ホルダーの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
フライス工具、ドリリング工具などのような、切削工具が、金属ワークピースの切屑除去機械加工のために使用され得る。そのような工具は、回転可能な工具ホルダーによって保持されており、ワークピースの中へ切り込むように回転させられる。工具の動作の間に、高い機械加工品質を維持するために、および、ワークピースに損傷を与えないために、工具が工具ホルダーによって正しく保持されることが重要である。
【0003】
機械加工の間に、たとえば、フライスの用途において、回転している工具の軸線方向に、力が工具に作用することとなる。工具は、摩擦力によって工具ホルダーの中に保持され得るが、これらの摩擦力が、工具に作用する軸線方向の力によって負かされる場合には、工具がホルダーから外へ引き抜かれ得る。これは、「プルアウト」または「工具スリップ」と呼ばれる。プルアウトの結果として、機械加工されたワークピースについて特定の公差を維持することが困難である可能性があり、それは、最悪のケースでは、スクラップにされることが必要になることとなる。そのうえ、工具破損のリスクが存在しており、また、マシンスピンドルの損傷のリスクが存在している。
【0004】
プルアウトに伴う問題は、たとえば、工具が工具ホルダーからスリップするリスクをさらに低減させるために、工具ホルダーのグリッピング機能に関連する改良によって対処されてきた。しかし、たとえば、プルアウトの間に、工具ホルダーの中の切削工具の実際の変位が存在する場合には、これを検出する方式は未だ存在していない。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、先行技術の欠点を軽減すること、および、機械加工の間の切削工具のプルアウトの有害な影響を低減させることである。
【0006】
したがって、本発明は、回転可能な工具ホルダーの中に装着された切削工具のプルアウトを決定する方法に関する。方法は、工具ホルダー、ひいては、切削工具を回転させることと、回転している切削工具によってワークピースを機械加工することとを含む。機械加工の間に、工具ホルダーの中の切削工具の軸線方向の位置が、工具ホルダーの中の位置センサーによって測定される。切削工具の初期位置からの軸線方向の変位が、測定された軸線方向の位置によって計算される。軸線方向の変位が閾値を超えるときに、切削工具のプルアウトが決定される。
【0007】
この方法によって、工具ホルダーの中の切削工具の軸線方向の変位が、工具ホルダーの中の切削工具の軸線方向の位置の測定から、機械加工の間に決定され得る。したがって、切削工具が機械加工の間に工具ホルダーの中でスリップし始める場合には(プルアウトとも呼ばれる)、マシン、または、マシンのオペレーターは、スリップの結果が有害になる前にアクションをとることが可能である。プルアウトを検出するための軸線方向の変位閾値は、切削工具または工具ホルダーの寸法に関連して設定され得、たとえば、5mm、2mm、1mm、0.5mm、または、それ以下であることが可能である。
【0008】
方法は、軸線方向のスペースの中の切削工具の軸線方向の位置に基づいて、切削工具による機械加工の間に、工具ホルダーから出力信号を送信することを含むことが可能である。たとえば、方法は、機械加工の間の軸線方向の位置データを含む出力信号を送信することと、軸線方向の変位の計算のために出力信号を受信することとを含むことが可能である。出力信号は、回転可能な工具ホルダーから送信され得、外部ユニットによって受信され得、外部ユニットにおいて、軸線方向の変位が計算される。
【0009】
したがって、軸線方向の位置データを含む出力信号は、回転可能な工具ホルダーの外部のユニットによって受信されて処理され得、軸線方向の変位を計算し、切削工具のプルアウトを決定する。
【0010】
軸線方向の変位を計算するステップは、回転可能な工具ホルダーの中のユニットによって実施され得る。方法は、機械加工の間の軸線方向の変位データを含む出力信号を送信することと、切削工具のプルアウトを決定するために出力信号を受信することとをさらに含むことが可能である。出力信号は、回転可能な工具ホルダーから送信され得、外部ユニットによって受信され得、外部ユニットにおいて、プルアウトを決定するステップ
が実施される。
【0011】
したがって、軸線方向の変位データを含む出力信号は、回転可能な工具ホルダーの外部のユニットによって受信されて処理され得、切削工具のプルアウトを決定する。
【0012】
切削工具のプルアウトを決定するステップは、回転可能な工具ホルダーの中のユニットによって実施され得る。方法は、プルアウトが決定されたときに、プルアウト信号を含む出力信号を送信することをさらに含むことが可能である。
【0013】
したがって、プルアウトを決定するために必要とされる処理は、回転可能な工具ホルダーの中で実施され得、出力信号は、マシンのオペレーターまたは外部制御ユニットに送信されるデジタルプルアウト信号(すなわち、プルアウトなし/プルアウトあり)であることが可能である。
【0014】
出力信号は、少なくとも1Hz、少なくとも100Hz、または少なくとも1kHzの周波数で、間欠的に送信され得る。代替的に、出力信号は、たとえば、アナログ位置もしくは変位データ信号の形態で、または、デジタルプルアウト信号(すなわち、プルアウトなし/プルアウトあり)の形態で、連続的に送信され得る。
【0015】
出力信号は、回転可能な工具ホルダーからワイヤレスに送信され得る。ワイヤレス送信は、たとえば、光学式のまたは無線式の(たとえば、Wi−FiまたはBluetooth)送信技術を含む。したがって、回転可能なパーツと静止パーツとの間でワイヤーによって出力信号を送信する必要はない。代替的に、出力は、たとえば、スリップリングインターフェースなどのような回転式の電気的なインターフェースを介して、ワイヤーの上を送信され得る。
【0016】
方法は、切削工具のプルアウトを補償するために、ワークピースから離れるように軸線方向に所定の距離にわたって工具ホルダーを変位させることを含み、その距離は、切削工具の軸線方向の変位に対応している。
【0017】
したがって、切削工具のより小さい変位は、ワークピースの特定の公差を維持するように補償され得る。変位は、プルアウトを決定するための閾値よりも小さいことが可能である。
【0018】
方法は、切削工具のプルアウトが決定されたときに、工具ホルダーの回転、ひいては、切削工具の回転を停止させることを含むことが可能である。
【0019】
したがって、切削工具のプルアウトが決定された場合には、切削は中止させられ得、ワークピース、切削工具、またはマシンの損傷のリスクを低減させる。
【0020】
方法は、工具ホルダーの中の切削工具を解放することと、切削工具のプルアウトが決定されたときに、工具ホルダーの回転を停止させることとを含むことが可能である。
【0021】
したがって、切削工具の回転は、停止させられる必要がある回転慣性質量を低減させることによって、急速に停止させられ得る。また、解放された切削工具は、より急速に回転することを停止することが可能である。
【0022】
方法は、切削工具によるフライス加工の間に実施され得る。切削工具に作用する軸線方向の力は、ワークピースからの反作用力によってバランスされないので、フライスの間のプルアウトを検出することに対する大きな必要性が存在している。代替的に、方法は、たとえば、ドリリング動作の間に実施され得る。
【0023】
本発明は、さらに、切削工具の端部部分を受け入れるための軸線方向のスペースを含む、切削工具のための回転可能な工具ホルダーに関する。保持手段が、軸線方向のスペースの中に切削工具の端部部分を保持するために配置されている。位置センサーが、回転可能な工具ホルダーの中に構成されており、軸線方向のスペースの中の切削工具の軸線方向の位置を測定するように構成されている。工具ホルダーは、軸線方向のスペースの中の切削工具の軸線方向の位置に基づいて、切削工具による機械加工の間に工具ホルダーから出力信号を送信するための送信器をさらに含む。
【0024】
位置センサーによって測定される軸線方向のスペースの中の切削工具の軸線方向の位置は、切削工具の初期位置からの軸線方向の変位を計算するために使用されることとなり、また、切削工具による機械加工の間に、軸線方向の変位が閾値を超えるときに、切削工具のプルアウトを決定するために使用されることとなる。
【0025】
したがって、機械加工の間に、軸線方向のスペースの中に受け入れられ、保持手段によって保持されている、切削工具のプルアウトを検出することを可能にする、切削工具のための回転可能な工具ホルダーが提供される。工具ホルダーの中の切削工具の軸線方向の変位は、工具ホルダーの中の位置センサーによる切削工具の軸線方向の位置の測定から、機械加工の間に決定され得る。したがって、切削工具が、機械加工の間に、工具ホルダーの中でスリップし始める場合には、マシン、または、マシンのオペレーターは、スリップの結果が有害になる前にアクションをとることが可能である。
【0026】
出力信号は、軸線方向の位置データを含むことが可能である。したがって、軸線方向の位置データを含む出力信号は、回転可能な工具ホルダーの外部のユニットによって受信されて処理され得、軸線方向の変位を計算し、切削工具のプルアウトを決定する。
【0027】
回転可能な工具ホルダーは、測定された軸線方向の位置によって、切削工具の初期位置からの軸線方向の変位を計算するように構成された処理ユニットを含むことが可能である。したがって、出力信号は、軸線方向の変位データを含むことが可能である。軸線方向の変位データを含む出力信号は、回転可能な工具ホルダーの外部のユニットによって受信されて処理され得、切削工具のプルアウトを決定する。
【0028】
処理ユニットは、軸線方向の変位が閾値を超えるときに、切削工具のプルアウトを決定するように構成され得、出力信号は、プルアウト信号を含む。したがって、プルアウトを決定するために必要とされる処理は、回転可能な工具ホルダーの中で実施され得、出力信号は、マシンのオペレーターまたは外部制御ユニットに送信されるデジタルプルアウト信号(すなわち、プルアウトなし/プルアウトあり)であることが可能である。
【0029】
センサーは、インダクティブ位置センサーであることが可能である。したがって、位置は、工具ホルダーの中に一体化され得るセンサーによって、正確に測定され得る。代替的に、センサーは、容量式の、機械式の、または光学式の位置センサーであることが可能である。
【0030】
回転可能な工具ホルダーは、電気伝導性材料を含む切削工具のためのものであることが可能であり、センサーは、電磁コイルを含むことが可能であり、電磁コイルは、切削工具が軸線方向のスペースの中で変位させられるときに、電流がコイルの中に誘導されるように配置されている。したがって、位置は、比較的に安価なコンポーネントによって高精度に測定され得る。
【0031】
電磁コイルは、コアを含むことが可能であり、コアは、工具ホルダーの中に保持されたねじ山付きのセットスクリューとして形成され得、セットスクリューが、軸線方向のスペースの中の切削工具のための軸線方向に調節可能なストップを画定するようになっている。したがって、軸線方向のスペースの中の切削工具のデフォルト位置は、セットスクリューによって画定され得、したがって、このデフォルト位置は調節可能であり得る。
【0032】
回転可能な工具ホルダーは、軸線方向のスペースの中の切削工具の軸線方向の位置を測定するために、電磁コイルの等価並列共振インピーダンスを測定するように構成された測定回路をさらに含むことが可能である。したがって、位置は、比較的に安価なコンポーネントによって高精度に測定され得る。
【0033】
回転可能な工具ホルダーは、軸線方向のスペースの中に受け入れられた端部部分を有する切削工具を含むことが可能であり、それは、保持手段によって保持されている。切削工具は、導電性の材料を含むことが可能である。
【0034】
本発明は、さらに、本明細書で開示されているような回転可能な工具ホルダーを備えた工作機械と、回転可能な工具ホルダーから出力信号を受信するための受信器と、出力信号に基づいて、回転可能な工具ホルダーを備えたマシンを制御するためのコントローラーとを含む、工作機械システムに関する。
【0035】
したがって、マシン、回転可能な工具ホルダー、および、それによって、工作機械システムの中で使用される切削工具の移動は、工具ホルダーの中の切削工具の軸線方向の位置についての測定によって制御され得る。したがって、切削工具が機械加工の間に工具ホルダーの中でスリップし始める場合には、コントローラーは、スリップの結果が有害になる前にアクションをとることが可能である。
【0036】
コントローラーは、切削工具のプルアウトを補償するために、ワークピースから離れるように軸線方向に所定の距離にわたって工具ホルダーを変位させるように構成され得、距離は、切削工具の軸線方向の変位に対応している。
【0037】
したがって、切削工具のより小さい変位は、ワークピースの特定の公差を維持するように補償され得る。変位は、プルアウトを決定するための閾値よりも小さいことが可能である。
【0038】
コントローラーは、切削工具のプルアウトが決定されたときに、工具ホルダーの回転、ひいては、切削工具の回転を停止させるように構成され得る。
【0039】
したがって、切削工具のプルアウトが決定された場合には、切削は中止させられ得、ワークピース、切削工具、またはマシンの損傷のリスクを低減させる。
【0040】
コントローラーは、工具ホルダーの中の切削工具を解放するように構成され得、切削工具のプルアウトが決定されたときに、工具ホルダーの回転を停止させる。
【0041】
したがって、切削工具の回転は、停止させられる必要がある回転慣性質量を低減させることによって、急速に停止させられ得る。また、解放された切削工具は、より急速に回転することを停止することが可能である。
【0042】
コントローラーは、切削工具のプルアウトが決定されたときに、プルアウト警告信号をマシンオペレーターに送信するように構成され得る。したがって、オペレーターは、切削工具のプルアウトによって注意を向けられ、必要なアクションをとることが可能である。
【0043】
本発明は、さらに、切削工具によるフライス加工の間に切削工具のプルアウトを検出するための、本明細書で開示されているような回転可能な工具ホルダーまたはシステムの使用に関する。
【0044】
本明細書で説明されている方法およびシステムは、コンピュータープログラムまたは複数のコンピュータープログラムによって具現化され得る。したがって、本発明のコンピュータープログラムは、インストラクションを有することが可能であり、インストラクションは、コンピューティングデバイスまたはシステムによって実行されたときに、コンピューティングデバイスまたはシステムに説明されている方法を実行させる。システムは、本発明において説明されているような種類のものであることが可能である。
【0045】
コンピュータープログラムは、単一のコンピューターシステムの中に、または、複数のコンピューターシステムにわたって、アクティブおよびインアクティブの両方のさまざまな形態で存在することが可能である。たとえば、コンピュータープログラムは、ステップのうちのいくつかを実施するための、ソースコード、オブジェクトコード実行可能コード、または、他のフォーマットのプログラムインストラクションから構成されたソフトウェアプログラムとして存在することが可能である。これらのうちのいずれかは、コンピューター可読媒体の上に具現化され得、コンピューター可読媒体は、ストレージデバイス、および、圧縮された形態または圧縮されていない形態の信号を含む。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】切削工具のための回転可能な工具ホルダーの例を示す図である。
【
図2】工具ホルダーの電気回路の例を示す図である。
【
図3】回転可能な工具ホルダーを備えた工作機械と、マシンを制御するためのコントローラーとを含む工作機械システムを示す図である。
【
図4】回転可能な工具ホルダーの中に装着されている切削工具のプルアウトを決定する方法のステップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
切削工具3のための回転可能な工具ホルダー1の1つの例が、
図1に示されている。この例は、フライス工具などのような切削工具のための工具ホルダー、このケースでは、チャックを示している。工具ホルダーは、回転可能であり、回転軸線Xを有している。工具ホルダーは、工具ホルダー本体部11を含み、工具ホルダー本体部11は、前方部分15および後方部分16を有しており、軸線Xに沿って延在している。工具ホルダーの前方部分は、ホルダー部分17を含み、ホルダー部分17は、切削工具3の端部部分を受け入れるための軸線方向のスペース2を形成している。軸線方向のスペースは、切削工具の円形円筒状の端部部分を受け入れるための概して円形円筒状の形状を有している。切削工具は、油圧液体によって加圧され得るキャビティーをカバーする環状の膜の形態の油圧保持手段10によって、工具ホルダーの中に保持される。それによって、環状の膜は、加圧された油圧液体によって変形させられ、ホルダーの中に切削工具を保持する。保持手段は、たとえば、保持手段および切削工具のインターロッキング形態などのような、別の適切なタイプのものであることが可能である。
【0048】
工具ホルダー本体部11の後方部分16は、工具ホルダーをマシンのスピンドルに接続するためのカップリングインターフェース18を含む。カップリングインターフェースは、テーパー付きの多角形円錐形状(polygon conical)の部分およびフランジ部分19を含むことが可能であり、それは、たとえば、Sandvik Coromant Capto(登録商標)カップリング、HSKカップリング、またはISOカップリングであることが可能である。
【0049】
切削工具3は、電気伝導性であり、すなわち、少なくとも切削工具の端部部分において、電気伝導性材料から作製されており、または、電気伝導性材料を含む。電気伝導性材料は、たとえば、高速度鋼または超硬合金(タングステン)であることが可能である。代替的に、導電性のピースの材料が、切削工具の端部部分に取り付けられている。
【0050】
工具ホルダーは、ねじ山付きのセットスクリュー8を含み、セットスクリュー8は、工具ホルダーの軸線方向のスペースの中の切削工具の軸線方向の端部位置を画定するように調節可能である。典型的に、端部部分は、軸線方向のスペースの中に挿入され、セットスクリュー8に当接する。したがって、機械加工の間の工具ホルダーの中の切削工具
のこの完全に挿入された初期位置からの任意の軸線方向の移動、すなわち、工具ホルダーからの切削工具のプルアウトを検出することが望ましい。
【0051】
工具ホルダーは、位置センサー22を含み、位置センサー22は、電磁コイル4を備えた電磁コイル回路、および測定回路5を含む。コイル回路は、インダクター、コンデンサーなどのような、他のコンポーネントを含むことが可能である。コイル回路は、たとえば、インダクティブコンポーネントおよび容量性コンポーネントを含むことが可能であり、それらは、並列に接続されており、したがって、共振回路を形成している。電磁コイル4は、工具ホルダーの軸線方向Xに延在するヘリカルコイルの形態になっている。代替的に、コイルは、平坦な渦巻コイル、または、別の形状のコイルであることが可能である。示されている例では、コイルは、切削工具と軸線方向に整合させられており、切削工具の端部部分の軸線方向外側に配置されている。セットスクリュー8は、コイル4の内側がねじ山付きになっており、電磁コイルのコアの部分を形成するために電気伝導性である。代替的に、切削工具の端部部分は、円筒形状のヘリカルコイルの内側に延在している。
【0052】
測定回路5は、たとえば、Texas Instruments LDC1000インダクタンスコンバーターを含むことが可能である。したがって、測定回路は、工具ホルダーの軸線方向のスペースの中の切削工具の軸線方向の位置を測定するために、コイル回路の等価並列共振インピーダンスを測定するように構成され得る。
【0053】
工具ホルダーは、測定回路5からの軸線方向の位置データを受信するための、および、切削工具の測定された軸線方向の位置のデータによって、切削工具の初期位置からの軸線方向の変位を計算するための、処理ユニット21をさらに含む。
【0054】
工具ホルダーは、工具ホルダーからの出力信号のワイヤレス送信のための送信器6をさらに含む。送信器は、工具ホルダーからのデータの送信のために、工具ホルダーの外側に位置したアンテナ20に接続されている。工具ホルダーの中に一体化された電子回路は、たとえば、バッテリーの形態の、工具ホルダーの中の一体化された電源7によって給電される。
【0055】
工具ホルダーの電気回路が、
図2にさらに図示されている。この図では、位置センサー22は、コイル回路12および測定回路5とともに示されている。コイル回路12は、電磁コイル4、コイルと並列接続しているコンデンサー13、および、固有のまたは追加された抵抗コンポーネント14とともに、概略的に示されている。コイル回路は、測定回路5に接続されており、測定回路5は、切削工具の位置を測定するように、位置センサーとして構成されている。
【0056】
位置センサー22の動作の間に、コイル回路は、測定回路5によって励起され、コイルの交番磁界を提供する。コイル4と並列のコンデンサー13を備えた共振コイル回路を提供することによって、エネルギー消費は、低く保持され得る。電磁コイル4の励起された磁界は、電気伝導性切削工具3の中に渦電流を誘発させる。これらの渦電流は、それら自身の磁界を発生させ、それは、電磁コイルのオリジナルの磁界と反対になっている。それによって、切削工具は、コイル回路の電磁コイルに誘導連結されている。この連結は、たとえば、工具ホルダーの電磁コイルと切削工具自身との間の距離に依存している。したがって、誘導連結された切削工具は、コイル回路12の距離依存性の寄生直列抵抗14およびインダクタンス4として見られ得る。コイル回路の等価並列共振インピーダンスを測定することによって、電磁コイル4に対する切削工具3の軸線方向の位置が測定され得、工具ホルダーのスペースの中への、または、工具ホルダーのスペースから外への、切削工具の軸線方向の変位を計算するようになっている。
【0057】
送信回路は、工具ホルダーの中の切削工具の軸線方向の位置に関するデータを、連続的にまたは間欠的に送信するように構成され得る。代替的に、機械加工動作の間に切削工具のプルアウトが決定された場合には、送信回路は、プルアウトアラートメッセージを送信するように構成され得る。データまたはアラートメッセージは、制御ユニットによって受信され得、制御ユニットは、工具ホルダーを駆動する機械加工システムに接続されている。それによって、動作の間の工具ホルダーからの切削工具のプルアウトの検出のときに、機械加工動作は、ワークピース、工具、および/またはマシン自身を救うために中断され得る。
【0058】
図3では、工作機械システムは、本明細書で開示されているような回転可能な工具ホルダー1を備えた工作機械301を含むように示されている。システムは、外部ユニット302を含み、外部ユニット302は、回転可能な工具ホルダーからの出力信号を受信するための受信器303を含み、受信器303は、受信された出力信号に基づいて、回転可能な工具ホルダーを備えたマシンを制御するためのコントローラー304に接続されている。システムは、本明細書で開示されている方法を実施するように構成されている。この目的のために、システムは、コンピュータープログラムを含むことが可能であり、コンピュータープログラムは、実行されたときに、本明細書で開示されている方法をシステムが実施することを引き起こす。
【0059】
回転可能な工具ホルダーの中に装着された切削工具のプルアウトを決定する方法が、
図4に関連して説明されている。工具ホルダー、ひいては、切削工具を回転させている間に、および、回転している切削工具によってワークピースを機械加工している間に、方法は実施される。
【0060】
機械加工の間に、工具ホルダーの中の切削工具の軸線方向の位置が、工具ホルダーの中の位置センサーによって測定される401。
【0061】
測定された軸線方向の位置によって、切削工具の初期位置からの軸線方向の変位が計算される402。初期位置は、たとえば、切削工具のデフォルト位置であることが可能であり、切削工具は、工具ホルダーの中に完全に挿入され、典型的に、工具ホルダーの中のセッティングスクリューに接触している。
【0062】
次いで、軸線方向の変位が閾値を超えるときに、切削工具のプルアウトが決定される403。閾値は、切削工具または工具ホルダーの寸法に関連して設定され得る。プルアウトを決定するための軸線方向の変位閾値は、切削工具または工具ホルダーの寸法に関連して設定され得、たとえば、5mm、2mm、1mm、0.5mm、または、それ以下であることが可能である。
【0063】
軸線方向の位置を測定するステップ、軸線方向の変位を計算するステップ、および、切削工具のプルアウトを決定するステップは、工具ホルダーの中で実施され得、工具ホルダーは、これらの計算するステップを実施するための処理ユニットを含む。次いで、プルアウトが決定されたときに、プルアウトアラート信号の形態の出力信号が、工具ホルダーから送信され得る。
【0064】
代替的に、軸線方向の変位を計算するステップは、工具ホルダーの中で実施され得、軸線方向の変位データは、出力信号として工具ホルダーから送信され得る。次いで、これらのデータは、受信器を含む外部ユニット、たとえば、工具ホルダーを含むマシンのためのコントローラーによって受信され得る。次いで、プルアウトを決定するステップが、外部ユニットの中で実施され得る。
【0065】
さらなる代替例として、工具ホルダーの中の切削工具の軸線方向の位置についてのデータが、出力信号として工具ホルダーから送信され、外部ユニットの中に受信され得る。次いで、切削工具の軸線方向の変位を計算するステップ、および、プルアウトを決定するステップが、外部ユニットの中で実施され得る。
【0066】
したがって、データは、軸線方向の位置データとして、計算された軸線方向の変位データとして、または、切削工具のプルアウトが決定されたというアラートとして、工具ホルダーから出力信号として送信され得る。出力信号は、好ましくは、ワイヤレス送信によって、少なくとも1Hzの周波数で、工具ホルダーから間欠的に送信され得る。
【0067】
その後に、軸線方向の変位を計算するステップ、および、プルアウトを決定するステップに基づいて、さまざまなアクション404がとられ得る。第1の代替例として、工具ホルダーは、切削工具のプルアウトを補償するために、ワークピースから離れるように軸線方向に所定の距離にわたって変位させられ得、その距離は、切削工具の軸線方向の変位に対応している。これは、代替的に、軸線方向の変位閾値が到達される前にすでに実施され、切削工具のより小さい軸線方向の変位を補償することが可能である。それによって、小さい程度の工具スリップが存在するとしても、ワークピースの公差が維持され得る。
【0068】
プルアウトが決定された場合には、工具ホルダーの回転、ひいては、切削工具の回転が、停止させられ得る。それによって、機械加工プロセスは、休止され得、切削工具のプルアウトを伴う問題が、たとえば、オペレーターによって、または、マシンによって、取り扱われ得る。ワークピース、切削工具、および/またはマシンに任意の有害な損傷が生じる前に、これが行われ得る。
【0069】
代替的に、切削工具は、
切削工具のプルアウトが決定されたときに、工具ホルダーの中で解放され、および、工具ホルダーの回転が停止させられ得る。切削工具を解放することによって、ワークピースに損傷を引き起こし得る回転エネルギーの量がかなり低減させられ、切削工具の回転が、非常に急速に停止させられる。
【0070】
典型的に、本明細書で説明されている方法は、切削工具によるフライス加工の間に実施される。代替的に、方法は、たとえば、切削工具によるドリリングの間に実施され得る。