(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
パロノセトロンを有効成分とする注射用溶液製剤において、パロノセトロン又はその塩をパロノセトロン換算で0.2mg/mLより高く1.0mg/mL未満で含み、酒石酸又はその塩を酒石酸換算で2.0mg/mL以上で20mg/mL以下で含む溶液である、パロノセトロンを含有する注射用溶液製剤。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、パロノセトロンを有効成分とする注射用溶液製剤において、パロノセトロン又はその塩をパロノセトロン換算で0.2mg/mLより高濃度で含有し、酒石酸又はその塩を酒石酸換算で2.0mg/mL以上で含む処方とすることで、有効成分であるパロノセトロンの分解を抑制し、長期保存を可能とした高濃度のパロノセトロンを含む注射用溶液製剤である。以下にその詳細について説明する。
【0009】
本発明におけるパロノセトロンは、制吐剤の有効成分として用いられている、化学名で(3aS)−2−[(3S)−Quinuclidin−3−yl]−2,3,3a,4,5,6−hexahydro−1H−benzo[de]−isoquinolin−1−oneであり、その薬学的に許容できるその塩である。前記薬学的に許容できる塩とは、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、メシル酸塩、トシル酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、トリメチルアンモニウム塩、トリエチルアンモニウム塩、モノエタノールアンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩、ピリジニウム塩、置換ピリジニウム塩などの医薬的に許容し得るアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩および置換アンモニウム塩などが挙げられる。塩酸塩を用いることが好ましい。すなわち、本発明において、パロノセトロン塩酸塩を用いることが好ましい。
本発明におけるパロノセトロンの濃度は、パロノセトロン換算で0.2mg/mLより高濃度の溶液である。すなわち、パロノセトロン換算で0.2mg/mLより高濃度の溶液であり1.0mg/mL未満である。好ましくはパロノセトロン換算濃度で0.25mg/mL以上0.5mg/mL以下であり、さらに好ましくは、0.25mg/mLより高濃度であり0.4mg/mL以下である。
【0010】
本発明は、酒石酸又は酒石酸塩を含有する。酒石酸塩とは、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、アンモニウム塩、アミン塩、ピリジニウム塩等の薬学的に許容できる塩で用いることができる。本発明の溶液製剤を調製する場合ためには、酒石酸又は酒石酸ナトリウム塩を用いることが好ましい。
酒石酸は2.0mg/mL以上で用いる必要があり、上限は20mg/mL以下で用いられる。酒石酸の濃度とは、酒石酸又はその塩の添加量から、酒石酸換算とした濃度を示す。酒石酸濃度が2.0mg/mL未満である場合、保存期間中における十分なパロノセトロンの類縁物質の抑制効果が得られない可能性がある。好ましくは、酒石酸換算濃度として2.0mg/mL以上で15.0mg/mL以下の濃度である。さらに好ましくは、2.5mg/mL以上で12.0mg/mL以下の濃度である。
【0011】
本発明の注射用溶液製剤において、酒石酸又はその塩以外の他の製剤用添加剤を、パロノセトロンの安定性を維持する範囲において用いても良い。他の製剤用添加剤としては、通常の医薬製剤に用いられるpH調整剤、等張化剤、キレート剤、抗酸化剤、安定化剤等を添加しても良い。
pH調節剤としては、医薬製剤において一般的に使用されているものであり、本発明の注射用溶液製剤の安定性に悪影響を及ぼさない範囲で用いることが好ましい。例えば、塩酸、リン酸、ホウ酸、炭酸等の無機酸、アスコルビン酸、乳酸及び酢酸等の有機酸、といった酸性剤が挙げられる。また、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、リン酸二水素ナトリウム、リン酸一水素二ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機酸のアルカリ土類金属塩等といったアルカリ性剤を挙げることができる。また、前記酸性剤及びアルカリ性剤を混合してpH調整した緩衝剤を用いても良い。緩衝剤としては、リン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、乳酸緩衝剤、コハク酸緩衝剤、TRIS緩衝剤、グリシン緩衝剤及びヒスチジン緩衝剤等が挙げられる。これらのpH調整剤は単独で用いても良く、また二種以上を組み合わせて用いても良い。
本発明においてpH調整剤は、好ましくは塩酸、リン酸又はその塩(リン酸二水素ナトリウム、リン酸一水素二ナトリウム等)及び水酸化ナトリウムである。
なお、例えば特表2006−516583号公報等に記載の公知のパロノセトロンを有効成分とする注射用溶液製剤は、pH調整剤として塩酸、水酸化ナトリウム、並びにクエン酸及びクエン酸ナトリウムが用いられている。しかしながら、本発明者らはクエン酸又はその塩が、パロノセトロン溶液の安定性に悪影響を及ぼすことを見出した。したがって、本発明はクエン酸又はその塩を添加する場合は、10mg/mL以下とするべきである。好ましくは、クエン酸又はその塩を添加する場合は5.0mg/mL以下であり、より好ましくはクエン酸又はその塩を実質的に含まない注射用溶液製剤である。
【0012】
pH調整剤は、当該注射用溶液製剤を調製する際に、溶液のpHを目的のpHに調整することができればよく、適量で使用される。本発明の医薬組成物の製造に使用されるpH調整剤の配合量は、pHを適当な範囲に調整できれば特に限定されない。
本発明の注射用溶液製剤は、pHを調節することによってパロノセトロンの安定性を向上させることができる。本発明では、pHは4.0〜7.0の範囲とすることでパロノセトロンの分解をより抑制することができる。さらに好ましいのは、pHが4.5〜6.0である。
【0013】
本発明では、キレート剤を添加することで、パロノセトロン溶液製剤の安定性を向上することができる。キレート剤としては、エデト酸二ナトリウム(EDTA)があげられる。パロノセトロンの類縁物質の生成が抑制されるEDTAの濃度は、0.005mg/mL以上2.0mg/mL以下であり、より好ましくは0.3mg/mL以上1.5mg/mL以下であり、さらに好ましくは、0.8mg/mL以上1.2mg/mL以下である。
【0014】
本発明の注射用溶液製剤は末梢血管の静脈に直接投与するため、溶液製剤の浸透圧は投与時の血管痛等の抑制の観点から、血漿の浸透圧と同等程度に調節されている方が好ましい。溶液製剤の浸透圧は、150〜450mosm/Lが好ましく、より好ましくは200〜400mosm/Lであり、さらに好ましくは250mosm/L〜350mosm/Lである。
浸透圧は、等張化剤を添加することで調整することができる。等張化剤としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、グリセリン、果糖、キシリトール、ソルビトール、トレハロース、ニコチンアミド、ブドウ糖、精製白糖、マンニトールなどがあげられる。特に塩化ナトリウム、マンニトールが好ましい。
【0015】
本発明において、マンニトールを添加することで、当該溶液製剤の浸透圧を調整することできると共に、パロノセトロンの安定性を向上することができることから好ましい。マンニトールの処方濃度は、10mg/mL以上80mg/mL以下であることが好ましく、より好ましくは20mg/mL以上60mg/mL以下であり、さらに好ましくは、25mg/mL以上45mg/mL以下である。
【0016】
本発明において、塩化ナトリウムを添加することで、当該溶液製剤の浸透圧を調整することできると共に、パロノセトロンの安定性を向上することができることから好ましい。塩化ナトリウムの処方濃度は、1.0mg/mL以上20mg/mL以下であり、より好ましくは2.0mg/mL以上15mg/mL以下であり、さらに好ましくは、5.0mg/mL以上10mg/mL以下である。
【0017】
抗酸化剤としては、例えば、アスコルビン酸、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、チオグリコール酸ナトリウム、αチオグリセリン、エデト酸ナトリウム、メチオニン、アセチルシステインなどがあげられる。
安定化剤としては、例えば、アセチルトリプトファン、アラニン、アルブミン、安息香酸やその塩、イノシトール、果糖、カルジアミドナトリウム、カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム、クレアチニン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、シスチン、臭化カルシウム、ゼラチン、ソルビトール、チオシアン酸カリウム、デキストラン、糖酸カルシウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルホシレート、乳糖、尿素、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸メチル、ベンザルコニウム、ベンゼトニウム、マルトース、ピロリン酸ナトリウム、マレイン酸、メグルミン、メタスルホ安息香酸ナトリウム、硫酸マグネシウムなどがあげられる。
但し、これらの添加剤は、必須としない任意成分である。
【0018】
本発明の注射用溶液製剤は、パロノセトロン又はその塩をパロノセトロン換算で0.2mg/mLより高濃度で含み、酒石酸又はその塩を酒石酸換算で2.0mg/mL以上で含み、水を主たる成分とする溶媒に溶解させた溶液を、アンプルやバイアル又はシリンジ等の医薬製剤用容器に滅菌されて充填された医薬製剤の態様である。該溶液製剤は、従来のパロノセトロン製剤より有効成分が高濃度の処方であることから、1単位製剤当りの溶液充填量は従来品のものより少量であることを特徴とする。すなわち、投与時の患者の負担が軽減された製剤として、当該溶液製剤の溶液は、1単位製剤当り1.5mL以上4.0mL以下の液量であることが好ましい。より好ましくは1.5mL以上3.5mL以下の液量が充填された単位製剤である。
なお、当該注射用溶液製剤は水を主たる成分とする溶媒を用いた溶液である。水以外の、用いることができる溶媒としては、例えば、エタノール、ポリソルベート80、マクロゴール類、グリセリン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などが挙げられ、これらの単独溶媒、若しくは2種以上の混合溶媒を水と混合して用いても良い。溶媒としては、非経口投与可能な品質であることが好ましい。特に好ましい溶媒としては、水のみを用いる態様であっても良い。
【0019】
本発明の注射用溶液製剤は、バイアル状等の単位製剤用の容器に無菌的に充填され、気密性のゴム栓で封止した密封充填製剤として調製された単位製剤であることが好ましい。
使用される容器としては、ゴム栓等で密封可能であれば、バイアル状、シリンジ状等の形状は特に限定されないが、バイアル状の容器が好ましい。
容器の材質としては、例えばソーダライムガラス製、ホウケイ酸ガラス製、環状ポリオレフィンポリマー製、環状ポリオレフィンコポリマー製があげられる。当該容器からはガラスや樹脂等の容器成分の溶出が抑制されたバイアルを使用することが好ましい。ガラス製で容器成分の溶出が抑制されたガラスバイアルとしては、ガラス成分の溶出抑制等の目的に応じて表面処理された容器を用いることが好ましい。特に、シリカで内面処理したホウケイ酸ガラスバイアルを用いることが好ましい。シリカで内面処理されたバイアルの例として、シリコートバイアル(不二硝子(株)製)が挙げられる。その他ガラス成分の溶出が抑制されるバイアルとしてVISTバイアル(大和特殊硝子(株)製)、VIALEX(ニプロ(株)製)、type1 plus(SCHOTT(株)製)などが挙げられる。
さらに気密性のゴム栓で封止することにより、注射用溶液製剤を調製することができる。ゴム栓の材質としては、ブチルゴム製のもの、さらにフッ素樹脂によりラミネートされたブチルゴム製のゴム栓を使用するのが好ましい。
これらの封止可能な容器は、容器及びゴム栓共に適当な方法により滅菌処理を施した包材であることが好ましい。
【0020】
本発明の注射用溶液製剤は、室温にて保存される。また、遮光下で保存することが好ましい。
【0021】
本発明のパロノセトロンを含む注射用溶液製剤は以下の工程に示すように、注射用溶液製剤の製造時に一般的に用いられる工程により製造することができる。ただし、本発明が以下の製造方法に限定されるものではない。
工程(a)パロノセトロン又は薬学的に許容できるその塩、酒石酸又はその塩、並びに必要に応じて製薬上許容可能な添加剤を、製薬上許容可能な水を主たる成分とする溶媒に溶解させる。
工程(b)必要に応じて前記混合物質に製薬上許容可能なpH調節剤を添加する。
工程(c)必要に応じて工程(b)の混合物に製薬上許容可能な溶媒を補って最終容積を満たす。
工程(d)工程(c)の混合物をろ過する。
工程(e)工程(d)により得られた混合物を、製薬上許容可能な容器に充填する。
工程(f)必要に応じて製薬上許容可能な不活性ガスにより容器内をパージする。
工程(g)ゴム栓で容器に栓を行い、必要に応じてアルミキャップにより密封する。
工程(h)必要に応じて製薬上許容可能な最終滅菌を行う。
以上の工程により、本発明に係る注射用溶液製剤を製造することができる。
【実施例】
【0022】
以下に、本発明を実施例により更に説明する。ただし、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0023】
[実施例1]
D−マンニトール2076mgを適量の注射用水に溶かし、酒石酸ナトリウム2水和物200.0mg(酒石酸に換算して130.5mg)およびパロノセトロン塩酸塩16.8mg(パロノセトロンに換算して15.0mg)を加え、適量の塩酸溶液および適量の水酸化ナトリウム溶液でpH5.0に調整し、注射用水を加えて全量を50mLとした。
この溶液を、孔径0.22μmのメンブランフィルターを用いて無菌ろ過を行い、容量10mL、口内径12.5mmのホウケイ酸ガラス製のバイアル(不二硝子(株)製)にろ過した液を3mL充填し、大協精工(株)製のフッ素樹脂によりラミネートされたD21−7塩素化ブチルゴム栓で打栓した。その後、アルミキャップにて巻締めを行い、実施例1の注射用溶液製剤を調製した。
【0024】
[実施例2]
D−マンニトール2076mgを適量の注射用水に溶かし、酒石酸ナトリウム2水和物400.0mg(酒石酸に換算して260.9mg)およびパロノセトロン塩酸塩16.8mg(パロノセトロンに換算して15.0mg)を加え、適量の塩酸溶液および適量の水酸化ナトリウム溶液でpH5.0に調整し、注射用水を加えて全量を50mLとした。
この溶液を、孔径0.22μmのメンブランフィルターを用いて無菌ろ過を行い、容量10mL、口内径12.5mmのホウケイ酸ガラス製のバイアル(不二硝子(株)製)にろ過した液を3mL充填し、大協精工(株)製のフッ素樹脂によりラミネートされたD21−7塩素化ブチルゴム栓で打栓した。その後、アルミキャップにて巻締めを行い、実施例2の注射用溶液製剤を調製した。
【0025】
[実施例3]
D−マンニトール2076mgを適量の注射用水に溶かし、酒石酸ナトリウム2水和物800.0mg(酒石酸に換算して521.9mg)およびパロノセトロン塩酸塩16.8mg(パロノセトロンに換算して15.0mg)を加え、適量の塩酸溶液および適量の水酸化ナトリウム溶液でpH5.0に調整し、注射用水を加えて全量を50mLとした。
この溶液を、孔径0.22μmのメンブランフィルターを用いて無菌ろ過を行い、容量10mL、口内径12.5mmのホウケイ酸ガラス製のバイアル(不二硝子(株)製)にろ過した液を3mL充填し、大協精工(株)製のフッ素樹脂によりラミネートされたD21−7塩素化ブチルゴム栓で打栓した。その後、アルミキャップにて巻締めを行い、実施例3の注射用溶液製剤を調製した。
【0026】
[実施例4]
D−マンニトール9000mgを適量の注射用水に溶かし、酒石酸ナトリウム2水和物2700.0mg(酒石酸に換算して1761.3mg)、酒石酸120mg、EDTA300mgおよびパロノセトロン塩酸塩100.8mg(パロノセトロンに換算して90.0mg)を加え、適量の塩酸溶液および適量の水酸化ナトリウム溶液でpH5.0に調整し、注射用水を加えて全量を300mLとした。
この溶液を、孔径0.22μmのメンブランフィルターを用いて無菌ろ過を行い、容量10mL、口内径12.5mmのホウケイ酸ガラス製のバイアル(不二硝子(株)製)にろ過した液を3mL充填し、大協精工(株)製のフッ素樹脂によりラミネートされたD21−7塩素化ブチルゴム栓で打栓した。その後、アルミキャップにて巻締めを行い、実施例4の注射用溶液製剤を調製した。
【0027】
[比較例1]
D−マンニトール2076mgを適量の注射用水に溶かし、クエン酸ナトリウム2水和物186.0mg,クエン酸1水和物78.0mgおよびパロノセトロン塩酸塩16.8mg(パロノセトロンに換算して15.0mg)を加え、適量の塩酸溶液および適量の水酸化ナトリウム溶液でpH5.0に調整し、注射用水を加えて全量を50mLとした。
この溶液を、孔径0.22μmのメンブランフィルターを用いて無菌ろ過を行い、容量10mL、口内径12.5mmのホウケイ酸ガラス製のバイアル(不二硝子(株)製)にろ過した液を3mL充填し、大協精工(株)製のフッ素樹脂によりラミネートされたD21−7塩素化ブチルゴム栓で打栓した。その後、アルミキャップにて巻締めを行い、比較例1の注射用溶液製剤を調製した。
【0028】
[比較例2]
D−マンニトール2076mgを適量の注射用水に溶かし、クエン酸ナトリウム2水和物186.0mg,クエン酸1水和物78.0mg、酒石酸ナトリウム2水和物20.0mg(酒石酸に換算して13.0mg)およびパロノセトロン塩酸塩16.8mg(パロノセトロンに換算して15.0mg)を加え、適量の塩酸溶液および適量の水酸化ナトリウム溶液でpH5.0に調整し、注射用水を加えて全量を50mLとした。
この溶液を、孔径0.22μmのメンブランフィルターを用いて無菌ろ過を行い、容量10mL、口内径12.5mmのホウケイ酸ガラス製のバイアル(不二硝子(株)製)にろ過した液を3mL充填し、大協精工(株)製のフッ素樹脂によりラミネートされたD21−7塩素化ブチルゴム栓で打栓した。その後、アルミキャップにて巻締めを行い、比較例2の注射用溶液製剤を調製した。
【0029】
[比較例3]
D−マンニトール2076mgを適量の注射用水に溶かし、クエン酸ナトリウム2水和物186.0mg,クエン酸1水和物78.0mg、酒石酸ナトリウム2水和物100.0mg(酒石酸に換算して65.2mg)およびパロノセトロン塩酸塩16.8mg(パロノセトロンに換算して15.0mg)を加え、適量の塩酸溶液および適量の水酸化ナトリウム溶液でpH5.0に調整し、注射用水を加えて全量を50mLとした。
この溶液を、孔径0.22μmのメンブランフィルターを用いて無菌ろ過を行い、容量10mL、口内径12.5mmのホウケイ酸ガラス製のバイアル(不二硝子(株)製)にろ過した液を3mL充填し、大協精工(株)製のフッ素樹脂によりラミネートされたD21−7塩素化ブチルゴム栓で打栓した。その後、アルミキャップにて巻締めを行い、比較例3の注射用溶液製剤を調製した。
【0030】
ここで、実施例1〜4及び比較例1〜3におけるパロノセトロン、添加剤の各濃度及びpHを表1に示す。
【0031】
[表1]
【0032】
[パロノセトロン類縁物質の分析条件]
実施例及び比較例のパロノセトロン分解由来の類縁物質を、以下の液体クロマトグラフィー(HPLC)条件にて分析した。
カラム:Cosmosil πNap,4.6mm×250mm,5μm(ナカライテスク社製)
カラム温度:35℃
移動相A: 15mMトリエチルアミン/リン酸塩緩衝液(pH2.5)
移動相B:アセトニトリル
送液量:1.0mL/min.
波長:210nm
移動相の送液:表2に示す条件で送液した。
【0033】
[表2]
【0034】
[試験例1]60℃保存安定性試験
実施例1〜4及び比較例1〜3の注射用溶液製剤を、60℃の条件下にて8週間まで保存した。各製剤について、パロノセトロン由来の類縁物質を評価した。評価結果を表2に示す。
【0035】
[表3]
【0036】
[試験例2]40℃保存安定性試験
実施例1〜4及び比較例1〜3の注射用溶液製剤を、40℃の条件下にて3か月間まで保存した。各製剤について、パロノセトロン由来の類縁物質を評価した。評価結果を表3に示す。
【0037】
[表4]
【0038】
酒石酸塩濃度が酒石酸に換算して2mg/mL以上である実施例1〜4は、酒石酸塩濃度がより薄い、もしくは酒石酸塩を含まない比較例1〜3と比較して、40℃、60℃の両保存条件において類縁物質の増加が大きく抑制されていた。ここから、酒石酸塩濃度を酒石酸に換算して2mg/mL以上とすることでパロノセトロンを高濃度としてもパロノセトロンの分解物である類縁物質の生成を抑制することができ、パロノセトロンの効能および安全性を長期に亘って保持することができることが明らかとなった。