(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6936758
(24)【登録日】2021年8月31日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】燃料電池発電設備の劣化診断方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04664 20160101AFI20210909BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20210909BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20210909BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20210909BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20210909BHJP
【FI】
H01M8/04664
H01M8/04 Z
H01M8/04537
!H01M8/10 101
!H01M8/12 101
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-65373(P2018-65373)
(22)【出願日】2018年3月29日
(65)【公開番号】特開2019-175798(P2019-175798A)
(43)【公開日】2019年10月10日
【審査請求日】2020年6月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000221834
【氏名又は名称】東邦瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】村山 雄紀
【審査官】
橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−125316(JP,A)
【文献】
国際公開第2016/152448(WO,A1)
【文献】
特開2018−045977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00−8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガスと酸化剤ガスとの反応により電力を発生させる燃料電池スタックと、
前記燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段と、前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給手段と、
前記燃料ガス供給手段と前記酸化剤ガス供給手段とを制御するガス流量制御手段と、
発生した前記電力の電圧を測定する出力電圧測定手段と、
前記電圧の値を含む運転データを常時記憶する記憶手段と、
該記憶手段から情報を取り出す、情報取り出し手段と、を備えた燃料電池発電設備から、
前記情報取り出し手段によって取り出された複数の前記運転データを取り出し、
外部に備えられた計算装置に、複数の前記燃料電池発電設備より得られた前記運転データが収集され、
他の燃料電池発電設備からの前記運転データを含んだ運転データ群のうち、所定時間、定格出力運転している領域を抽出し、経過時間と出力電圧との関係で比較し、その中央値より所定の乖離度から外れた位置に閾値を決定し、
該閾値以下のデータに該当する前記燃料電池発電設備を特定し、劣化状態を診断すること、
を特徴とする燃料電池発電設備の劣化診断方法。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池発電設備の劣化診断方法において、
前記情報取り出し手段が、燃料電池発電設備に備えられる無線通信手段であり、
該無線通信手段により前記運転データが外部端末に持ち出され、
該外部端末より、前記計算装置に入力されること、
を特徴とする燃料電池発電設備の劣化診断方法。
【請求項3】
請求項1に記載の燃料電池発電設備の劣化診断方法において、
前記情報取り出し手段が、有線通信網に接続して前記計算装置と通信する有線通信手段であり、
該有線通信手段より、前記計算装置に入力されること、
を特徴とする燃料電池発電設備の劣化診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池発電設備の劣化診断方法に関し、詳しくは燃料電池設備の機器の劣化診断をより正確に行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池発電設備の改良が進み、家庭で用いる電力の供給や給湯を実現できるようになってきている。燃料電池発電設備は、補充可能な何らかの負極活物質と、正極活物質となる空気中の酸素などを常温又は高温環境で供給し化学反応させることにより継続的に電力を取り出すことができる発電装置である。例えば、低温型の固体高分子型(PEFC)、リン酸型(PAFC)、アルカリ型(AFC)、高温型の融解炭酸塩型(MCFC)、固体酸化物型(SOFC)など、電解質となる物質によってタイプは異なるが、これらの電解質を利用して供給される燃料ガスや酸化剤ガスを用いて燃料電池発電設備は発電を行う。
【0003】
ただし、こうした電界質を含めた燃料電池発電設備に備えられる機器は、運転を続ける事で、或いは経年劣化をするため、燃料電池発電設備の出力電圧は低下する傾向にある。このために、燃料電池発電設備の運転を定期的に停止して、各構成部材の劣化状態を点検する必要がある。点検を行わずに運転を続けると、場合によっては燃料電池発電設備の損傷を招くリスクもあるためである。しかし、そうした出力電圧の低下や、機器の定期点検を必要とする事実は、燃料電池発電設備による効率的な発電を妨げる事となり、これに対応する為に、様々な技術が検討されている。
【0004】
特許文献1には、燃料電池発電設備及び制御プログラム並びに制御方法に関する技術が開示されている。燃料電池発電設備が外部負荷に応じて燃料ガス及び酸化剤ガスの流量を制御する第1のモードと、少なくとも燃料ガスの流量が略一定となるように制御された状態で、引き出す電流を略一定にした時の出力電圧を測定する第2のモードとが選択的に構成され、制御部にガス流量制御手段により、少なくとも燃料ガスの流量が略一定となるように制御された状態で、引き出す電流を略一定にした時の出力電圧を測定する出力電圧測定手段を備える。そして、出力電圧測定手段により測定された過去の出力電圧を記憶する記憶手段と、出力電圧測定手段により測定された現在の出力電圧と、記憶手段に記憶された過去の出力電圧とを比較する。そして、その比較結果に基づいて燃料電池発電設備の劣化状態を診断する劣化診断手段を備え、第2のモードが選択されたとき、燃料電池発電設備の運転中に燃料電池発電設備の劣化状態を診断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5099991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されるような技術は、燃料電池発電設備本体に備える記憶装置に燃料電池発電設備自身の電圧の測定結果を保存することで、自身の過去のデータと比較し、劣化診断を行うことが前提である。そして、劣化診断を行う為には、燃料ガスの流量が略一定となるように制御する第2のモードで一定時間運転してデータを採取する必要がある。この場合、燃料電池発電設備の運転中にしか劣化判断ができないことを意味すると考えられる。
【0007】
また、劣化診断を行う第2のモードでは、その間は効率的な発電を行うことができないことを意味すると考えられる。これは、発電出力を略一定に固定して一定時間運転しなければならないからである。そして、第2のモードでの運転は定期的に行い、データ収集をする必要がある点も問題となる。第2のモードでの運転は、第1のモードでの運転と比較して発電効率が悪いと考えられ、結果的に利用者に対する利便性を損ねると考えられるからである。
【0008】
また、こうした第2のモードを利用した、自己劣化診断は、燃料電池発電設備の個体差を加味した設計基準から算出した閾値を、劣化診断に用いる必要がある。この為、基準値を下げざるを得ないといった問題もある。こうした問題は、利用者に対する利便性を損なうと考えられる。
【0009】
そこで、本発明はこの様な課題を解決する為に、機器の劣化診断をより正確に行うことが可能な燃料電池発電設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の一態様による燃料電池発電設備は、以下のような特徴を有する。
【0011】
(1)燃料ガスと酸化剤ガスとの反応により電力を発生させる燃料電池スタックと、前記燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段と、前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給手段と、前記燃料ガス供給手段と前記酸化剤ガス供給手段とを制御するガス流量制御手段と、発生した前記電力の電圧を測定する出力電圧測定手段と、前記電圧の値を含む運転データを常時記憶する記憶手段と、該記憶手段から情報を取り出す、情報取り出し手段と、を備えた燃料電池発電設備から、前記情報取り出し手段によって取り出された複数の前記運転データを取り出し、外部に備えられた計算装置に、複数の前記燃料電池発電設備より得られた前記運転データが収集され、前記運転データのうち、所定時間、定格出力運転している領域を抽出し、経過時間と出力電圧との関係で比較し、その中央値より所定の乖離度から外れた位置に閾値を決定し、該閾値以下のデータに該当する前記燃料電池発電設備を特定し、劣化状態を診断すること、を特徴とする。
【0012】
上記(1)に記載の態様により、複数の燃料電池発電設備の運転データを用いて、その中央値より閾値を算出して燃料電池発電設備の劣化状態を診断するので、より正確な劣化診断が可能となる。これは、燃料電池発電設備単体で劣化診断をする場合に比べて、市場に出回って稼働している別の燃料電池発電設備の情報を加味し、その中央値を利用して閾値を求めることができるからである。
【0013】
燃料電池発電設備から運転データを取り出して、複数の燃料電池発電設備からの運転データを収集し、その運転データのうち、定格出力運転している領域を切り出し、これらの運転データを外部にある計算機で集計している。このデータを用いて、経過時間と出力電圧との関係を示すグラフにプロットした上で、中央値を求めて閾値を決定し、その閾値を超えたデータに該当する燃料電池発電設備を特定する。このため、市場に出回って稼働している別の燃料電池発電設備の水準よりも外れた設備は、劣化診断によっていち早く発見され、未然に運転機能を停止するようなトラブルを防ぐことが可能となる。
【0014】
(2)(1)に記載の燃料電池発電設備の劣化診断方法において、前記情報取り出し手段が、燃料電池発電設備に備えられる無線通信手段であり、前記無線通信手段により前記運転データが外部端末に持ち出され、前記外部端末より、前記計算装置に入力されること、
が好ましい。
【0015】
上記(2)に記載の態様により、無線通信手段から外部端末と通信して、各燃料電池発電設備の運転データを集計できるため、より簡単にデータの収集が可能となる。例えば、ガス使用量の検針を行う場合など、家庭に設置された燃料電池発電設備は比較的、運転データの収集をし易い環境にある。このため、無線通信手段を燃料電池発電設備に組み合わせる事で、より簡便にデータ収集が行え、データの精度を向上させることができる。
【0016】
(3)(1)に記載の燃料電池発電設備の劣化診断方法において、前記情報取り出し手段が、有線通信網に接続して前記計算装置と通信する有線通信手段であり、前記有線通信手段より、前記計算装置に入力されること、が好ましい。
【0017】
上記(3)に記載の態様により、インターネットなどの有線通信網を利用してデータを収集するので、データ収集の手間を省くことが可能となる。スマートメーターなど、インターネットに接続してデータの収集を行う技術が発達しているため、こうしたネットワーク接続を利用してデータの収集を行うことで、より効率的な情報の共有が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態の、燃料電池発電設備のブロック図である。
【
図2】本実施形態の、出力電圧(V)と経過時間(h)の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず、本発明の実施形態について図面を用いて説明を行う。
図1に、本実施形態の、燃料電池発電設備100を備えるシステムに関するブロック図を示す。燃料電池発電設備100は、脱硫器101と、改質器102と、燃料電池スタック103と、排ガス熱交換器104と、イオン交換樹脂105と、インバーター106と、制御装置107と、通信装置108とを有する。この他に図示しない貯湯槽と連携して排ガス熱交換器104より温水を取り出して排熱利用を行うケースがあるが、本実施形態ではその説明は省略する。
【0020】
燃料電池発電設備100はネットワーク10に接続されて、通信装置108を用いて外部と通信可能になっており、ネットワーク10には、他の燃料電池発電設備200、燃料電池発電設備300などが接続され、サーバ20と接続されている。ネットワーク10に接続される燃料電池発電設備200及び燃料電池発電設備300については、その構成が燃料電池発電設備100と同じ同型機であるものとする。
【0021】
燃料電池発電設備100には、酸化剤ガスとして取り入れられる空気を供給する第1ラインL1と、燃料ガスである都市ガスを供給する第2ラインL2が接続されている。都市ガスは、脱硫器101、改質器102を介して燃料電池スタック103に供給され、燃料電池スタック103にて酸化剤ガスと燃料ガスとを用いて直流電力を発生する。発生した直流電力はインバーター106で交流電力に変換して外部負荷に供給する。燃料電池スタック103で発生した熱は排ガス熱交換器104にて熱を取り出された後、排気される一方で、ここで取り出された水分がイオン交換樹脂105を介して改質器102に戻される。
【0022】
これらの制御を行い運転時のデータの収集を行うのが制御装置107である。制御装置107では、出力電圧値と時刻のデータを運転データとして記憶する。出力電圧値のデータは常時収集し続け、定期的に通信装置108よりネットワーク10を介してサーバ20にデータを送信している。なお、ネットワーク10への接続は、光通信回線などに代表される有線回線である事が望ましいが、例えば通信装置108が無線通信を行う機能を備え、ガスメーターの検針員が専用の外部端末を持って、データ収集を行う形でも良い。この場合は、外部端末と燃料電池発電設備100が無線通信を行い、データ収集をした上で、サーバ20にデータをアップすると言うような手順が考えられる。
【0023】
同様にして、燃料電池発電設備200及び燃料電池発電設備300からも運転データを収集し、サーバ20でのデータの集計を行う。
図2に、出力電圧(V)と経過時間(h)の関係をグラフに示す。燃料電池発電設備100、200、300など複数の機器から得られたデータのうち、所定時間、定格出力運転している領域を抽出して比較データとする。例えば、10分間、連続して定格出力運転をしている領域を選んで、出力電圧の平均値データを算出する。そして、
図2に示すような点をプロットする。出力電圧は、時間経過にしたがって低下する傾向にあるので、
図2に示すように全体的に右肩下がりのグラフとなる。
【0024】
ここで、中央値medを算出して、そこから乖離度が例えば95%の辺りを閾値として定めて、閾値TL1を設定する。閾値TL1は中央値medと平行な直線となり、これ以下の
図2に示す領域Aに含まれた3つのデータを発電出力の低下の予兆として判断する。こうした判断されたデータは、該当する燃料電池発電設備100を特定するのに用いる。そして、特定された燃料電池発電設備100は、何らかの異常があるものと判断されて、使用者に対して「出力電力の傾向が見られるので、メンテナンスを行って下さい」といった通知を行い、或いは技術者を派遣して、燃料電池発電設備100のメンテナンスを行う。
【0025】
本実施形態の燃料電池発電設備100の劣化診断方法は上記構成であるので、下記に説明する作用・効果を奏する。
【0026】
まず、効果として、より精度の高い劣化診断を行うことが可能になる点が挙げられる。これは本実施形態の燃料電池発電設備100の劣化診断方法が、次のような構成であるためである。すなわち、燃料ガスと酸化剤ガスとの反応により電力を発生させる燃料電池スタック103と、燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段(脱硫器101及び改質器102、第2ラインL2を含む)と、酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給手段(第1ラインL1を含む)と、燃料ガス供給手段と酸化剤ガス供給手段とを制御するガス流量制御手段に相当する制御装置107と、発生した電力の電圧を測定する出力電圧測定手段と、電圧値を含む運転データを常時記憶する記憶手段と、記憶手段から情報を取り出す、情報取り出し手段に相当する通信装置108と、を備えた燃料電池発電設備100から、通信装置108によって取り出された複数の運転データを取り出し、外部に備えられた計算装置に相当するサーバ20に、複数の燃料電池発電設備100、200、300より得られた運転データが収集され、運転データのうち、所定時間、定格出力運転している領域を抽出し、経過時間と出力電圧との関係で比較し、その中央値medより所定の乖離度から外れた位置に閾値TL1を決定し、閾値TL1以下のデータに該当する燃料電池発電設備を特定し、劣化状態を診断することを特徴とする。
【0027】
従来は、
図2に示すような設計想定閾値TL2を用いて、劣化判断を診断していた。これは、燃料電池発電設備100の設計時点において、製造におけるばらつきを想定した数値から設定されている。しかしながら、市場に出回っている他の燃料電池発電設備200や燃料電池発電設備300(いわゆる市場機)などの同型機の平均的な運転データを比べて、些か外れた能力であったとしても設計想定閾値TL2では、問題なしという判定になってしまう可能性はある。これは、自身の過去のデータとの比較を行う方式である特許文献1でも同じような事が言える。燃料電池発電設備100の有する機器の劣化が多少他の市場機と比べて早い傾向にあったとしても、大きく性能劣化が無いと、チェックすることは困難であるからだ。
【0028】
しかしながら、多数の市場機における運転実績から外れた数値であっても問題なしという判断がなされてしまうことは、使用者にとって不利益となる。そこで、本実施形態のように多数の市場機(燃料電池発電設備100、200、300を含む)からのデータを収集して、その中央値medを求め、閾値TL1を設定することで、例えば
図2に示す領域Aに含まれるデータも、劣化が早いと判断してメンテナンスを勧めることが可能となる。閾値TL1は設定された乖離度にて決定されるため、機器の稼働状態や出力状態にも影響を受けずに判断できる点も、メリットとしてあげられる。
【0029】
以上、本発明に係る燃料電池発電設備100の劣化診断方法の実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されるわけではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0030】
10 ネットワーク
20 サーバ
100、200、300 燃料電池発電設備
101 脱硫器
102 改質器
103 燃料電池スタック
104 排ガス熱交換器
105 イオン交換樹脂
106 インバーター
107 制御装置
108 通信装置