特許第6937012号(P6937012)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6937012
(24)【登録日】2021年9月1日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】電子透かし装置および方法
(51)【国際特許分類】
   H04N 1/387 20060101AFI20210909BHJP
   G06T 1/00 20060101ALI20210909BHJP
【FI】
   H04N1/387
   G06T1/00 500B
【請求項の数】2
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-108987(P2017-108987)
(22)【出願日】2017年6月1日
(65)【公開番号】特開2018-207247(P2018-207247A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2020年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】711001893
【氏名又は名称】河村 尚登
(72)【発明者】
【氏名】河村尚登
【審査官】 橘 高志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/040951(WO,A1)
【文献】 特開2001−119562(JP,A)
【文献】 特開2001−024875(JP,A)
【文献】 特開2005−026848(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 1/387
G06T 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デジタル画像データi(x,y)に著作権情報などを埋め込む電子透かし法において、
透かし情報の埋め込みは、デジタル画像データをR画素×R画素 のブロックに分割し、それぞれのブロックに対して埋め込む透かし情報のビット情報(0あるいは1)に対応して、フーリエスペクトルが低周波域で低減したブルーノイズ特性を示す複数の異なるドットパターンpi(x,y)(i=0,1,2,…)を用いて、透かし埋め込み画像 w(x,y)=i(x,y)+gain・pi(x,y) を生成し(ただし、gainは埋め込み強度で,gain<<1)、
透かし情報の抽出は、受信あるいは読み取った画像データをブロックに分割し、それぞれのブロックのフーリエスペクトルの分布と抽出用のマスクとのマスク処理により、埋め込みビット情報を抽出し、
透かしの情報の除去は,透かしの埋め込まれた画像w(x,y)に対して、埋め込み時のドットパターンpi(x,y),埋め込みのgainおよび埋め込み情報のセットを秘密鍵として得ることにより、埋め込み前の画像 i(x,y)=w(x,y)-gain・pi(x,y) を復元できるものであって,
前記透かし情報の埋め込みは,画像毎に異なる初期値(乱数のSeed値)により生成されたドットパターンを用い、
前記透かし情報の除去は、かかる画像毎に異なるドットパターンを内蔵する鍵を用いて透かしの除去を行い、かつ、この鍵を用いて新たな情報を埋め込むことが可能であり、
前記透かし情報の抽出は、異なる画像に対して鍵が異なっても共通のソフトウェアを用いることができる、
ことを特徴とする電子透かし方法
【請求項2】
前記電子透かしの抽出用のマスクは、埋め込みドットパターンのスペクトル特性P0,P1に対応したマスクM0,M1があり、前記マスク処理は、マスクとブロックの抽出スペクトル分布との積分輝度値Q0,Q1で、
Q0>Q1 の時, 抽出ビット=0
Q1>Q0 の時, 抽出ビット=1
であり、また,信頼度
信頼度=|Q0-Q1|
として求め、透かし情報を重複して埋め込んだ場合,重複したビットから、かかる信頼度が最も高いものを選択して,透かし情報を抽出することを特徴とする請求項に記載の電子透かし方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,デジタル画像データに著作権情報などを埋め込む電子透かし法で,特に高画質な不可視の電子透かし装置および方法に関するものである.
【背景技術】
【0002】
現在のデジタル情報社会において,情報の複製により多くの人が情報を共有することが可能となり,社会が大きく発展してきた.しかし,その利便性が,個人の著作物を違法に複製し流通させることにより,著作権侵害などの事件が起こるようになった.画像においては,近年のデジタルカメラやプリンタの高画質化により,原画と寸分も違わぬ複製が容易に得られるようになり,著作権を侵害した違反コピーだけでなく,紙幣や有価証券等の偽造行為という悪質な犯罪行為を助長させる結果となっている.
【0003】
そのような状況の中で,画像情報の中に別の情報,例えば,著作者情報等を埋め込み,著作権を保護する電子透かし(Digital Watermark)技術が発展してきた.この電子透かし技術は,著作物の中に著作権者の名前や連絡先,取り扱い事項などを埋め込み,利用者に注意を喚起するのみならず,不正利用の追跡ができることなど,著作権の管理・保護,ならびにセキュリティー対策として広く使われ始めている.電子透かし技術は,安全性および信頼性確保のため,第三者からの削除のための攻撃を想定して,攻撃に対する強い耐性が要求される.
【0004】
デジタルデータとしての電子透かしは,そのまま複製される限りは劣化や消失を生じない.しかし,画像編集や加工を行ったり,画像圧縮を行ったりした場合,画像データに種々の演算や変換が行われるために,埋め込まれた情報が消失しやすい.このため編集加工に耐えるためには埋め込むデータの強度を大きくし深層に埋め込み,耐性を向上させなければならない.
【0005】
一般に,耐性の強さと画像品質はトレードオフの関係にある.強く埋め込み耐性を強くすれば画質は劣化し,逆に画質を優先すれば,耐性は弱い.したがって,耐性と画質を同時に満足させることは大変困難である.
【0006】
これまで画像データに対する耐性のある電子透かし技術として,多くの方法が提案されてきた.その一例としてパッチワーク法がある.パッチワーク手法による情報埋め込みは,統計量を利用するアプローチであるため,局所的な攻撃に対して強い耐性を示す.
この手法は,実空間(画素空間)において多数の画素ペアにわずかな偏差を与え透かし情報として埋め込む.まず,ランダムに画素のペアを選び,一方の輝度値をδ だけ上げ,他方のの輝度度値をδだけ下げる.この操作を繰り返すことにより分布の期待値に偏りが生じる.この偏りを統計的に求めることにより透かし情報を抽出することが可能となる.
しかしながら,この手法は耐性を高めるためには埋め込みデータ値δを大きくする必要があり,実空間(画素空間)で埋め込むため,埋め込み領域(パッチ)が視覚的に目につくようになる.また、埋め込める情報量は極端に少ない.
【0007】
別の方法として周波数空間で透かし情報を埋め込む方法がある.画像全体をDCT(Discrete cosine transformation)やフーリエ変換およびWavelet変換を行い,ある特定の中間周波数帯に埋め込む方法である.埋め込まれた情報は実空間では画像全体に分散するため,視覚的に目立ち難いという特徴がある.しかしながら,埋め込み強度を強くすると,周期的パターンが発生し,画像の平たん部で目につきやすなり,画像とのモアレ縞が発生するなどして画質低下をもたらす.
【0008】
一方,グリーンノイズノイズ法特性を示すドットプロファイルを用いた手法を特許文献1(特開2016-163197) において提案した.かかる発明は高域と低域の周波数応答性が低下するグリーンノイズノイズ特性のあるドットプロファイルを用いて印刷耐性のある電子透かし法を実現したものである.前述の電子透かし法に比べ,印刷耐性は高く,印刷画像においても人間の視覚特性によるローパス効果から明視の距離において観察する限りは画質の劣化を感じさせない.しかしながら,ディスプレイなどで観察する場合は拡大して見る時も多く、高域の空間周波数が低下しているため画質が十分ではない.
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2016-163197公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】W.Blender, D.Gruhl, N.Morimoto; “Techniques for data hiding”, Proceedings of SPIE, Vol.2020, pp.2420-2440 (1995).
【非特許文献2】水本匡,松井甲子雄;”DCTを用いた電子透かしの印刷取り込み耐性の検討”, 電子情報通信学会誌A, Vol J85-A, No.4, pp.451-459 (2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このため,透かしの入った画像をディスプレイで表示した場合,モアレや画質の劣化が少なく,かつ拡大表示しても画質劣化の少ない電子透かし法を得ることが課題である.かつ外部から透かし情報を除去しようとする様々な攻撃に対して耐性を有すことが必要である.
【0012】
さらに,画像編集や加工を行うためには、高画質化を維持するためには、一旦鍵を用いて透かしを除去できることも課題である.編集加工後,新たな透かし情報、例えば、第2著作権の情報などを、この鍵を用いて書き込むことも必要となる.このとき,用途によっては、配布時に印刷耐性のある透かし埋め込みが必要となる場合があり、除去後に別の電子透かし法を使用することを可能とする.
【0013】
一方,鍵の紛失に対して,被害が広範囲に広がらないような鍵の安全性を確保することも課題である.さらに,普及するためにアルゴリズムを公開しても安全性が保たれること等を満たすことも課題である.
【0014】
さらに,元画像(透かしを入れる前の画像データ)を編集加工し切り抜いたりして使用される例が多く,透かし抽出を困難にする原因となっている.透かし抽出を高精度に行うためには,少なくとも元画像がどのような編集加工をされたかという情報を得ることにより抽出精度を高めることができる.すなわち,埋め込まれた画像データから原画像のサイズや方向などを推定できることも課題である.
【課題を解決するための手段】
【0015】
以上の課題を解決するために,本発明は,周波数空間において帯域制限を与えたランダムなドットパターンを原画像に重畳し埋め込むことにより,高画質でありながら耐性のある電子透かしを実現する装置および方法を提供するものである.
【0016】
埋め込みに用いられるランダムなドットパターンは,低域で強度が低下したスペクトル特性を示す.ランダムであるがゆえに原画像とのモアレも生じない.また,きわめて細かなドットパターンのため,また人の視覚特性からは認識されにくいことが特徴である.このためディスプレイで拡大表示しても画質劣化を感じない.また、強く埋め込むことにより印刷耐性も高くすることが可能である.
【0017】
また,外部からの攻撃に対して耐性が高く,必要に応じて透かしを除去できる鍵を有す.鍵は埋め込む透かし情報のドットパターンを含み,かかるパターンはランダムで多数のドットから構成されるため逆解析が困難であり,さらに,画像データごとにパターン構成を変更することにより,仮に,一つの画像の透かし情報が解読されたとしても,この情報で他の画像の透かし除去をすることはほぼ不可能である.
【0018】
かかる課題を解決するために,本発明は,ブルーノイズ特性を示すドットパターンを使用して原画像に埋め込む.このブルーノイズパターンを空間周波数空間でみた場合,0周波数近傍はスペクトルが存在しない.一方,画像データは0周波数近傍に分布するため,両者のスペクトルの重なりは少ない.このため,それぞれのスペクトルを分離することにより埋め込まれた情報を抽出する際,分離性がよく抽出できるという特性がある.かつ,ドットのパターンは分散型で粒状性が低く,視覚的に目立たないため原画像の高品質を維持することが可能である.逆の言い方をすれば,埋め込みの強度(gain)を大きくしても画質劣化は感じられないため,耐性向上が得られる.
【0019】
透かし情報の埋め込みは,デジタル画像データをR画素×R画素 のブロックに分割し,それぞれのブロックに対して埋め込む透かし情報のビット情報(0あるいは1)に対応して,フーリエスペクトルが低周波域で低減したブルーノイズ特性を示す複数の異なるドットパターンを用いて,透かし埋め込みを行う.透かし情報の抽出は,受信あるいは読み取った画像データを補正した後,ブロックに分割し,それぞれのブロックのフーリエスペクトルの分布を求め,そのスペクトル分布をコントラスト改善した後,分布のパターン認識により埋め込みの情報を抽出する.
【0020】
さらに,透かし情報を抽出する際,信頼度を計算し,信頼度の高い透かし情報を選択することにより精度の高い透かし情報の抽出が可能となる.
【発明の効果】
【0021】
本発明により,高画質性を保持し,強靭な透かし埋め込みが可能となる.さらに,画像の編集や加工で施されたAffine変換の係数(拡大縮小率や回転角)をこのドットパターンから探知することができる.そして,この係数から補正画像を求めることにより,精度の高い透かし抽出を行うことができる.
【0022】
さらに,透かしの埋め込まれた画像に対して,鍵を得ることにより,埋め込み前の画像(原画)に戻すことが可能である.鍵は配信画像ごとに異なり,他の画像には無力である.その鍵を用いて新たな二次著作権情報を電子透かしとして埋め込むことも可能である.
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の電子透かしの埋め込みおよび抽出の装置の図
図2】透かし入り画像のインターネットでの配信を示した図
図3】埋め込みに用いたドットプロファイルを得るための処理フローを示した図
図4】ドットパターンとそのスペクトルを表した図で,(a)は縦長楕円のスペクトル特性を有すもの,(b)はそれを90度回転したもの,(c)はAffine係数検出用,(d)はヘッダー検出用
図5】実際に埋め込んだ図で,(a)は埋め込まれた画像,(b)は抽出したスペクトル画像
図6】拡大したスペクトル画像の図
図7】gain を変えて埋め込んだ画像と拡大図
図8】透かし埋め込みのフローを示す図
図9】透かし埋め込み時のgain自動調整処理フローを表す図
図10】透かし抽出時の補正画像を取得するフローを表す図
図11】透かし抽出の処理フローを表す図
図12】透かし抽出のマスクパターンの図
図13】透かし抽出のマスク処理を示す図
図14】透かし抽出のマスク処理で信頼度向上を示す図
図15】同一スペクトルで異なるドットパターンを示した図
【発明を実施するための形態】
【0024】
本電子透かしは,著作権を保護したい画像に埋め込まれ,主にネット配信における著作権の追跡と保護を行う.著作権者はインターネットによりかかる透かし情報の入った画像を公開するが,透かしがあるため不正利用を追跡することが可能である.また,購入者は,透かし解除と再書き込みを,鍵を用いることにより可能となり,新たな著作者情報を埋め込むことが可能である.
【0025】
違法な複製や利用は,透かし抽出ソフトウェアにより監視できる.この透かし抽出ソフトウェアには秘密性はなく,例えば,著作権者のホームページなどから自由にダウンロードできるようにして広く公開しだれでも使用できる.第三者はこれにより画像の所有者や著作権情報,連絡先などを知ることができるため,不正使用の警告にもなる.
【0026】
かかる電子透かしを実施する為,本発明においては,原画像に埋め込むための異なる複数のドットパターンを用いる.かかるドットパターンはブルーノイズ特性を呈し,埋め込むビット情報の0,1やヘッダー情報(文字列の先頭)に応じて,埋め込みパターンを選択する.また,Affine変換の係数を解析するパターンやヘッダー用のパターンを含む.
【0027】
かかるドットパターンは,疑似乱数から生成したランダムなドットパターンから繰り返し演算にて得られたブルーノイズパターンである.これらのパターンを用いて,例えば,著作権者の名前やメールアドレス,URLなどの文字列をビット情報に変換し,画像データに埋め込む.また,埋め込まれた情報を除去し,元の画像に戻すための“鍵”の一部としても用いられる.かかる鍵は,ドットパターン情報,埋め込み強度(gain)情報,埋め込まれた文字情報などから構成される.かかる鍵情報は,生成されるドットパターンの乱数の初期値をかえることにより異なるドットパターンとなる.このため鍵情報はドットパターンごとに異なる.しかし、透かしの抽出ソフトウェアは変更はいらない.
【実施例】
【0028】
以下,実施例に沿って詳しく説明する.
図1は本発明の情報埋め込みと抽出のための電子透かしシステムの構成図である.著作権保有者のコンピュータ3 には,著作権を有す画像データが,例えばハードディスクなどのデータメモリ7に保管されている.画像データは,プログラムメモリ6にある画像処理プログラムにより,CPU11,ROM 4,RAM5などを用いて画像処理され,モニター8に表示される.コンピュータ3にはスキャナー1,プリンタ2が接続され,処理された画像はモニター8に表示されたりプリンタから出力されたりし,またスキャナー1から画像読み取りができる.かかる画像処理は負荷の高い処理が多いため,GPUなどの高速化を図るための処理ボードが入っている場合もある.
【0029】
図2は,インターネット配信の処理手順を示すものである.透かし情報を埋め込まれた画像は,著作権者16のコンピュータからインターネット12により公開される(13).それを見た購入希望者17は,購入希望を配信者に連絡する(14).所定の手続き後,著作権者は透かしの埋め込みと除去のための秘密鍵を配信する(15).購入者は,著作権者との契約に基づき,送付された画像の埋め込まれた電子透かしを除去し,画像の編集加工を行う.
【0030】
さらに購入者は,編集加工された画像データを,2次著作権者として自己の著作情報やURLなどの情報をこの秘密鍵を用いて埋め込むことができる.これらの透かし情報を埋め込まれた画像は,市場に流通し様々な利用がなされる.
【0031】
違法な複製や利用の監視には,透かし抽出ソフトウェアにより画像から透かし情報を抽出し,自己の著作物であることを確認できる.この透かし抽出ソフトウェアには秘密性はなく,例えば,著作権者のホームページなどから自由にダウンロードできるようにして広く公開しだれでも使用できる.第三者はこれにより画像の所有者や著作権情報,連絡先などを知ることができるため,不正使用の警告にもなる.
【0032】
秘密鍵は埋め込む画像ごとに1対1で対応する.このため,著作権者は悪用されないように画像ごとに異なる鍵を用いる.このためこの鍵を用いて他の画像の透かしを除去することはできない.また後述の様に結託攻撃に対しても耐性がある.このとき,透かし読み出しのソフトウェアは,前述の様に,鍵が異なっても共通に使える.
【0033】
ここで,まず本発明に用いられるドットプロファイル作成アルゴリズムを図3に沿って説明する.
今,求めるドットプロファイルのサイズをR×R ( R=2^m,^はべき乗を表す)として,まず,疑似乱数発生器により,R^2/2個のランダムドット(初期状態はホワイトノイズ)を重ならないようにして発生させ,p(i,j)とする.この時,疑似乱数発生器のSEED値を変えることにより初期状態のドットプロファイルを変更可能である.
STEP1:p(i,j)ドットプロファイルの二次元フーリエ変換を行い,P(u,v)を得る.
STEP2:P(u,v)にフィルタD(u,v)を掛けて,新たなP'(u,v)を得る.ここで,D(u,v)は低域が0となるフィルタである.
STEP3:P'(u,v)に逆フーリエ変換を行い,多値の点プロファイルp'(i,j)を得る.
STEP4: 誤差関数e(i,j)=p'(i,j)-p(i,j)を求め,各画素位置での誤差の大きい順に白,黒反転する.
STEP5: 上記操作を誤差が許容量以内になるまで繰り返す.
以上の操作を行い最終的に目的とするブルーノイズ特性を示すドットプロファイルを得る.
【0034】
次に,フィルタD(u,v)について説明する.D(u,v)は異方性を持たせるため,u軸方向とv軸方向で異なるフィルタとする.これは楕円であっても矩形であってもよい.U軸方向のカットオフ周波数(fmin)をfu とし,f0=(1/2)^(1/2)・fn としたとき,
b=(fu-f0)/fn
とすると,Rに非依存のドットプロファイルが得られる.ここで,fnはナイキスト周波数を示す.v軸方向はu軸方向のβ倍であるとする.
【0035】
一例として,R=64で,b=-1/16 ,β=1.5の時の楕円フィルタで求めたドットプロファイルを図4に示す.かかるドットプロファイルp0(i,j)とし,そのパターンとスペクトル特性P0を図3(a)に示す.β=1.5とは,フィルタD(u,v)がy軸方向に1.5倍に拡大されていることを意味する.スペクトル分布がu軸,v軸に対して対象であるため,p0(i,j)の虚数部は0となる.同図(b)のドットパターンp1(i,j)はp0(i,j)を90°回転したもので,スペクトルも同様に90°回転したものとなる.同図(c),(d)はそれぞれAffine係数検出パターンとヘッダー用パターンで後述する.
【0036】
続いて,多値画像データへの透かし埋め込みアルゴリズムについて説明する.
透かし情報の埋め込みは,カラー画像データをY,Cb,Crに変換し,輝度Yに透かし情報を埋め込む.Blue(印刷時はイエロー)に埋め込むのがもっとも理想的である.ただし,精度よく色分離することが必要である.
【0037】
今,周波数空間においてブロック単位で異種のスペクトルパターンを埋め込むこととして,異なるスペクトルパターンをPi (u,v) (i=0,・・・,n)とする.Piはそのスペクトルが前述のブルーノイズ特性を示す.ブルーノイズのカットオフ周波数fminは埋め込まれる画像の最大周波数よりも大きい周波数を選ぶことが理想的である.画像のスペクトルをブルーノイズスペクトルの0領域(低域部)に押し込めることができるため、分離が容易であるからである.
画像ブロックの周波数スペクトルをI(u,v)とすると,埋め込まれたスペクトルW(u,v)は,
W(u,v)=I(u,v)+gain・Pi (u,v) ---------- (1)
となる.ここで,不可視となるためには,gain≪1でなければならない.透かし情報Pi (u,v)が精度よく抽出されるためには,前述のようにI(u,v)とPi (u,v)の重なりを少なくすることが望ましい.
【0038】
実際の透かし情報の埋め込み作業は実空間で行う.前式を実空間(画素空間)に変換する(小文字で表す)と,
w(x,y)=i(x,y)+gain・pi (x,y) ---------- (2)
となる.透かし情報として、0,1の1ビットのデータを埋め込むとして,2つの異なるブルーノイズ特性を示すドットパターンpi(x,y)(i=1,2)を用意する。そのうえで、埋め込むビット情報(0,1)に対して,
埋め込みビット=0の時 → p0(x,y))
埋め込みビット=1の時 → p1(x,y)
として埋め込む.ここで,p0およびp1は(1,0)の二値であるが,平均輝度を保存するため(1/2,-1/2)とする.
もし、2ビットの多値データを埋め込む場合には、4つのドットパターンを用意すればよい。
【0039】
p0およびp1のドットパターンが透かし情報に応じて並置されるが、ランダムなドットであるため,両者の境界は目立たない.また,ブルーノイズ特性を示すハーフトーンスクリーンは,プリンタのFMスクリーンとしてよく用いられ,分散性ドットで均一性にすぐれているため人の視覚にも一様で粒状性も感じさせない.しかしながら、ドットの異方性を大きくすると目につくようになるため、βが1.5以内にする必要がある。
【0040】
図4の(c)および(d)は,矩形フィルタを用いてブルーノイズパターンを求めたものである.(c)はb=-3/16 の矩形フィルタからの生成パターンである.また,(d)は,b=0の矩形バンドフィルタから生成されたドットパターンである.(c)のパターンは後述のAffine変換係数の探索に,(d)のパターンは文字列の先頭におかれ,繰り返しの区切りパターンとして用いられる.
【0041】
原画像への埋め込み可能なデータ量(最大ビット数)Nは,画像サイズをW画素×H画素の画像データに対して,
N=int(W/R)×int(H/R) ---------- (3)
で与えられる.ここで,int()は少数以下切り捨てを表す.埋め込み可能文字数は,ASCII文字の場合は,int(N/8)となる.通常,著作権保護希望の対象画像はHDサイズ(1980画素×1024画素)以上の画像であり,HD画像では,N=480ビット=60バイトとなり,著作権情報の埋め込みとしては十分である.しかしながら,小さいサイズの画像で十分な情報量を必要とする場合には,R=32として埋め込めば,例えば,512画素×512画素の場合,N=256ビット=32バイトの情報量が埋め込み可能である.
【0042】
図5は1024画素×576画素の画像にR=64のドットパターンを埋め込んだものである.
したがって,この画像は,
N=int(1024/64)×int (576/64)= 16×9=144ビット=18バイト
となり,最大18バイト(ASCIIの場合)までの文字情報が埋め込み可能である.同図(a)は埋め込まれた画像を示す.埋め込みのgainは0.0625で,ある.すなわち,原画に±8 のドットパターンを合成したものである.同図(b)は後述の抽出結果で正答が得られている.図6図5(b)の一部を拡大したものである,画像のスペクトルは楕円型のスペクトルの内部に包含されている.このため,両者のスペクトルを分離することが容易であることが分かる.
【0043】
埋め込み画像はgain を大きくすることにより,印刷耐性を高めることが可能である.しかしながら,gainを大きくするとドットパターンが見えるようになる.図7はgainを変えて埋め込んだ場合の画像を示す.同図(a)のgain=0.125の場合,埋め込みは視覚的にほとんどわからないが,gainが増大するにつれ拡大画像でドット構造が目につくようになる.しかしながら,ブルーノイズ特性のため、拡大率が極端に大きくなければ,人の視覚特性によりほとんど目立たない.
【0044】
図8は透かし埋め込み処理フローを示す.まず,埋め込むための透かし情報ビット列wm(i,j)を用意する(20).ここでiは埋め込む文字のi番目を,jはそのjビット目を表す(MSBを0ビット目とする).ASCII文字の場合,8ビット/文字 であるので,j=0,1,…7である.また,iは,1≦i≦N/8である.ただしNは式(3)で示された埋め込み最大ビット数である.続いて,画像データをR×Rのブロックに分割し(21),ブロック単位でドットパターンを合成していくが,文字列の先頭であるか否か(22)で,先頭の場合はヘッダーパターン(pHeadder)を埋め込む.さらに,文字のMSB(Most Significant Bit)であるか否か(23)で,MSBの場合は,後述のAffine検出用のパターン(pAffine)を埋め込む.そのどちらでもない場合は,埋め込みビットが0の場合はp0, 埋め込みビットが1の場合はp1のパターンを埋め込む(24).全ブロックに埋め込みが終わった段階で終了する.ただし、Affine検出用パターンはヘッダーパターンで兼用される場合は必ずしも必要でない。
【0045】
埋め込んだ透かし情報が,埋め込みのgainが小さいために抽出できない場合がある.原画像の該当するブロックの空間周波数が高いとそのようなことが生じる.図9はgainの自動調整を行うフローを示したもので,まず,gain=g として透かし情報wm(i,j)を画像の全ブロックに埋め込む(31).全ブロックを埋め込んだら,次に透かし読み取りを行う(32).ここでは,抽出した透かし情報wm’(i,j)と,埋め込む前の透かし情報 wm(i,j)を比較し一致するか否かを判定する.それと同時に,後述の抽出ビットの信頼度wmrel’(i,j)が,ある一定の閾値以上か判定する(33).透かし情報が一致しない場合や,一致していても信頼度が閾値以下の場合は,gainに一定値Δgを足して(34),再び透かしの埋め込みを行う.信頼度の定量化が可能なため,以上のようにして最適な透かし強度での埋め込みを自動で行うことができる.
【0046】
透かし情報の抽出は,読み取った画像の大きさ,傾きを補正後,ブロック単位でスペクトル画像を求める.式(2)をフーリエ変換して,
F{w(x,y)}=F{i(x,y)} + gain・F{pi (x,y)} ---------- (4)
となる.ただし,F{ }はフーリエ変換を表す.通常,F{i(x,y)}は原画像のスペクトルで,0周波数付近に局在し,F{pi (x,y)}はそれを取り巻くスペクトルとなる.このため,両者の重なりは少なく,両者を分離することは容易である.
【0047】
図10は補正画像の処理フローを示したものである.まず,画像の中から対象画像を切り出し(36),R×Rのウィンドウに該当する部分にFFTを施し矩形パターンを探す(37).印刷画像が縮小や拡大されているため,場合によっては一辺が R/2^n (nは整数)のウィンドウサイズで行ってもよい.矩形パターンが見つかると,Affine係数を求めることができる(38).その後,逆Affine変換を行い元の画像サイズと方向に戻す(39).続いてエッジ強調を画像に施し(40),補正画像を得る.
【0048】
Affine係数は以下のようにして求める.今,埋め込み画像w(x,y)がa倍に拡大されたとすると,そのフーリエ変換は,変倍前のフーリエスペクトルをP(fx,fy )とすると,
F{w(x/a,y/a)}=F{i(x/a,y/a)}+gain・F{p(x/a,y/a) }
=F{i(x/a,y/a) }+gain・|a|・P(au,av)
となり,スペクトル空間で1/aに縮小される.また,画像をθ回転させたものは,フーリエスペクトルでもθ回転する.したがって,埋め込まれた画像のスペクトルの分布を計測することにより施されたAffine係数を求めることができる.検出用の窓サイズは小さくてもかまわない.例えば,レジストレーション考慮をせずに40画素×40画素の窓サイズで抽出を試みる場合,余白を設けて64画素×64画素にしてFFT(高速フーリエ変換)を施しても,検出は可能である.
【0049】
図11に透かし抽出の処理フローを示す.まず補正画像をR×Rのブロックに分割し(41),最初のブロックにFFTを行う(42).続いて得られたスペクトル画像にヒストグラムイコライゼーションを施す(43).これはスペクトルパターンのコントラストを向上させると同時に,後述の信頼度の定量化での規格化を図るためである.続いて後述のマスク処理を行い(44),透かし情報wm’(i,j) および信頼度wmrel’(i,j)を得る.すべてのブロックが終了したか否かを判断し(46),終了しなければ次のブロックへ行き,再び同様の処理を行う.
【0050】
図12はフーリエ変換後のスペクトル分布からパターン認識により透かし情報の抽出を行う識別器としてのマスクパターンを示す.縦長および横長の楕円形状のマスクで,埋め込み用のドットパターンのスペクトル特性に対応したものである.図中黒の領域は値が0,白部分は値が1であるとする.透かしの入ったスペクトルにこのマスクを重ね,重なり部分の積分輝度値の差分から,ビットが0か1かを判断する.すなわち,図13において,ブロックのスペクトルパターンW(i,j)に対して,以下の積分輝度値の出力Q0 ,Q1 を得る(40).
Q0=M0◎W=(1/Z)ΣM0(i,j)・W(i,j)
Q1=M1◎W=(1/Z)ΣM1(i,j)・W(i,j) ---------- (5)
ここで◎はマスク演算を,Zはマスクの値が1の画素数を表す.かかる出力から,
Q0>Q1 の時, 抽出ビット=wm’(i,j)=0
Q1>Q0 の時, 抽出ビット=wm’(i,j)=1
となる(41).同時に,以下のように信頼度を得る(42).
wmrel’(i,j)=|Q0-Q1|
かかる信頼度はその値が大きいほど抽出ビットの信頼度が高い.
【0051】
図14に透かし情報の精度および信頼性の向上策について説明する.画像のサイズにより式(3)から埋め込み最大ビット数Nが与えられる.今埋め込みたいビット数がnで n<N であるとすると,重複してビット列を埋め込むことができる.図10の透かし情報の抽出では,ビット数にかかわらず(文字列の繰り返しを考慮せずに)Nまでの連続した透かし情報wm’ と信頼度wmrel’ を得た.この連続した文字列から信頼度の高いものを選択してnまでの透かし情報を求めていく.
【0052】
まず,iを埋め込んだ文字列のi番目の文字番号(0<i≦N),jをビット番号(0≦j≦7)としたとき,nを法としてその剰余kは,k=i mod n で表され(50),(i,j)番目の信頼度wmrel’が
wmrel’(i,j)>wmrel(k,j) の時信頼度が高いため,
wm(k,j)=wm’(i,j)
wmrel(k,j)=wmrel’(i,j) ---------- (6)
として(52),透かし情報を置き換える.これを全ビット及び全ブロックで,iがNまで,すなわち埋め込みビット数Nが終了するまで行う.
【0053】
上記操作により埋め込みビット列の,最も信頼度の高い透かし情報が選ばれ,埋め込まれた文字の信頼度が高くなり,正しく抽出される.この方法は多数決で決める手法に比べて精度が高い.
【0054】
以上のようにして透かしの抽出が行われるが,前述の図5の(b)は抽出時のスペクトル分布を示す.埋め込みはASCII文字で“kawamura” の8文字を埋め込んだものである.各文字をビットに展開し,図3で説明したように,”0“に対してp0を,”1“に対してはp1のパターンを埋め込む.またASCII文字の先頭ビット(MSB)はすべて0であるため,これをAffine変換係数検出用のパターン,文字列の最初の文字の先頭ビットを文字列区切り用のヘッダーパターンを用いた.図からわかるように,直交する2つの楕円スペクトルパターンと大小2つの矩形パターンが検出される.大きな矩形パターンは文字列のヘッダーパターンで,小さな矩形パターンはAffine検出用である.埋め込み可能文字数は18バイトで,8文字の文字列が2回と2文字が埋め込み可能であるため,信頼度の高いものを選ぶことにより抽出結果の精度を向上させることができると同時に,各文字の信頼度を定量化できる.
【0055】
透かし情報は埋め込みパターンを知ることにより,除去し原画像を得ることができる.すなわち式(2)より,
i(x,y)=w(x,y) - gain・pi (x,y)
となり,埋め込みパターンpi (x,y),およびgainを“鍵”として受け取ることにより原画像に戻すことができる.完全に元の画像に戻すためには,埋め込み画像のオーバーフロー,アンダーフローを避けるため,あらかじめダイナミックレンジを制限しておく必要がある.
画像データが8ビットの場合、画像データDataに対して、
Data'=Data+gain(128-Data) ----------(7)
なる変換で、ダイナミックレンジをリニアに圧縮し、出力データData'を得る。透かし除去後はこの逆変換することにより完全に元の画像に戻すことができる。すなわち、
Data=(Data'-128・gain)/(1-gain) ----------(8)
かかる変換は、gain を与えることで自動的に行うことができる。通常、gain≪1 であるので、画質に与える影響は少ない。
【0056】
透かしの除去は,画像を編集加工する際に必要である.強度の弱い透かしの場合,埋め込まれた状態で行ってもよいが,高品質な画像を必要とする場合は,いったん除去して行う.
編集後の最終データは,2次著作権情報を透かし情報を新たに埋め込むことが可能である.その場合,透かし埋め込みのソフトウェアを使い,鍵に含まれる埋め込みパターンを利用する.
【0057】
さらに,公開する画像に別の電子透かし情報を埋め込んでもよい.例えば,印刷耐性を高めたグリーンノイズパターンを埋め込む電子透かしなどである.このように,ユーザビリティーに応じたシステムを適宜構成することが可能となる.
【0058】
次に本手法の攻撃耐性について説明する.電子透かしに対する攻撃としては,例えば信号の強調(シャープネス調整),ノイズの付加,フィルタリング(線形,非線形),非可逆圧縮(JPEG,MPEG),変形(回転,拡大縮小)などがある.これらの攻撃は輝度情報への攻撃であり,本手法の様に分散ドットの集合による埋め込みは,解像度方向への攻撃(例えば,強いローパスフィルタなど)がない限りは保持でき,一般に強靭であるといえる.さらに,gainを大きくすることにより,耐性を高めることができる.
【0059】
また,透かしの埋め込まれていない原画像や,複数の埋め込み画像から,透かしパターンを特定するような,結託攻撃(collusion attack)に対しては,画像ごとに埋め込みパターンを変更することにより回避できる.同じスペクトル特性を有す多数のドットパターンが存在する。このため,画像ごとに埋め込みパターンを変えれば、同一の鍵により他の画像の埋め込まれた透かしデータを除去することはできない.
【0060】
図15は,ドットパターン作成時の初期値(乱数のSEED値)を変えて異なったクラスタードットパターンp0を生成したものである.スペクトル分布は同一であり,抽出ソフトウェアは共通であるが,ドットプロファイルは異なる.R=64の場合,異なるパターン数は,(4096)C(2048) 個だけ可能であり(CはCombination を表す),同じパターンとなる確率は極めて低いため,安全性は高い.スペクトルの分布は同じため透かしの抽出ソフトウェアの変更は必要ない.したがって,画像ごとにドットパターンのプロファイルを変えることにより結託攻撃を回避することができる.著作権者は購入者に対してそれぞれ異なる乱数から求めたドットプロファイルを”秘密鍵”として提供する.購入者ごとにこの鍵は異なるため,他の購入者の画像から透かしを除去することはできない.
【0061】
さらに,90°回転したドットパターンp1を異なる乱数パターンから新規に作成することにより,安全性はさらに高まる.この場合,鍵パターンは2つ必要となり,両方の鍵がそろって,初めて透かしの除去が可能となる.
【0062】
通常の電子透かしは,原画と照らし合わせることで透かしの埋め込みアルゴリズムが概略推測できる.例えば周波数空間に埋め込んだものは,原画と差分を取った後,あらゆる直交変換を試してみれば大体の推測はできる.時間はかかるがアルゴリズムは解明される.このため,透かしアルゴリズムはセキュリティ上、原則非公開である.
一方,本アルゴリズムはアルゴリズムを公開しても,逆解析により透かし情報を解読するには多大の労力を要す。さらに、透かしを除去する鍵は原則,1枚の画像に対して1つであるため,仮に鍵情報を解読できても,他の画像にその鍵を使って透かしを除去することはできない.
【0063】
また、画像は、透かしをそのまま除去せずに用いることも可能である.埋め込まれた画像はブルーノイズ特性の高周波数ドットパターンで,視覚系のローパス特性からパターンは殆ど認識されないため、高画質を保持できる。輝度変換に関わる編集加工処理であれば、元の透かし情報は保持できる。
【0064】
また,ドットの空間分布から情報を抽出するため,濃度ムラや照明ムラに影響を受けにくい.埋め込む情報量を増やすためには,埋め込みブロックサイズを小さく,例えば,32画素×32画素にすればよい.このとき埋め込む情報量は64画素×64画素のときの4倍になる。しかしながら、ブロックサイズを小さくすると含まれるドットの数が減少し、母集団が減るため統計的な意味での精度が低下するので注意を要する。
【0065】
本透かしの埋め込みは,ブロック単位の埋め込みでディザ法による二値化と同様,高速に処理可能である.抽出はやや複雑で演算負荷が高いが,ブロック単位で独立であるため,並列処理を行うことにより,並列数に逆比例して演算時間が減少するため,大きなサイズの画像に対して有効である.
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上,本発明の電子透かし法について説明したが,本手法は実空間でブルーノイズ特性を示すドットパターンを埋め込むため,埋め込まれた画像の画質劣化が少なく,高画質を保持できるものである.また,鍵情報により原画像に復元すること,再埋め込みすることが可能であるなどの特徴がある.このため、画像配信や公開で元の画像品質を保ったまま提示できる。また、違法コピーや不正使用に対しては監視ができ、著作権の保護に貢献できるものである。
【0067】
また,透かしアルゴリズム,および抽出ソフトウェアは公開しても構わない.このため、本手法を用いたシステムや装置の開発を阻害する要因とはならない。
【符号の説明】
【0068】
1はスキャナー,2はプリンタ,3はコンピュータシステム,4はROM, 5はRAM,6はプログラムメモリ,7はデータメモリ,8はモニター,9はキーボード,10は通信機能,11はCPU,12はインターネット, 13は画像データの配信,14は購入希望の連絡,15は秘密鍵の送付,
16は著作権者のコンピュータ,17は購入者のコンピュータを表す.
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15