(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記粉末が、水酸化カルシウム、水酸化ドロマイト又はこれらの混合物を90質量%以上含有する粉末である、請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の災害用し尿処理キット。
前記吸水性の担体が、おが屑、もみ殻、米糠、稲わら、麦わら、樹皮、落葉、バガス、コーンコブ及び泥炭からなる群より選択される一種以上の担体である、請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の災害用し尿処理キット。
さらに、前記生分解性の袋体の中に、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリカルボン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ゼラチン、ペクチン、カラギナン、キサンタンガム、グァーガム、カードラン、タマリンドガム、ローカストビーンガムからなる群から選択される少なくとも一種の生分解性の増粘剤を更に含む、請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の災害用し尿処理キット。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の携帯トイレセットは、排泄物処理袋に直接用を足すため、排泄時の反射音が大きく、使用者が気恥ずかしい思いをするという問題がある。加えて、使用者は、用を足した後、袋の中を覗き込みながら、し尿に対して消臭凝固剤を振り掛ける必要があるため、使用に抵抗感及び不快感を生じる。
また、特許文献1に記載の携帯トイレセットを使用する場合、用を足した後、袋の口を閉じて、自宅で保管するか又は所定の保管場所に運搬して保管し、そして交通或いはごみ収集等の機能が復旧した後に、生ごみ又は家庭ごみとして処理されることになる。しかし、災害時避難所等では多くの排泄物処理袋が出されるため、保管場所や処理方法が問題になる。また、排泄物処理袋を運搬したり、積み上げて保管したりする際に袋が破れたりして、臭気や内容物が漏れるおそれがある。この場合、菌の繁殖による感染症が発生するおそれもある。
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされた物であって、排泄時の反射音を低減でき、用を足した後にそのまま袋体の口を閉じるだけで排泄物及びその臭気が漏れるのを防止でき、そして単に土壌中に埋めることにより堆肥化できる、災害用し尿処理キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、災害用し尿処理キットを検討した結果、災害用し尿処理キットとして、微生物が着床した吸水性の担体を投入した生分解性を有する袋体を使用することで、排泄物の臭いの発生を抑制でき、且つ土中で袋体及びし尿が分解され堆肥化することを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の[1]から[6]の発明に関する。
[1]排泄後のし尿を入れる災害用し尿処理キットであって、生分解性を有する高分子化合物を含有する樹脂組成物からなる生分解性の袋体、並びに該袋体の中に、し尿中の有機物を分解可能な微生物が着床した吸水性の担体と、水酸化カルシウム、及び水酸化ドロマイトからなる群より選択される少なくとも一種を含有する粉末とを備える、災害用し尿処理キット。
[2]前記生分解性を有する高分子化合物が、堆肥化可能な生分解性を有する高分子化合
物である、[1]に記載の災害用し尿処理キット。
[3]前記堆肥化可能な生分解性を有する高分子化合物が、ポリブチレンスクシネートである、[2]に記載の災害用し尿処理キット。
[4]前記粉末が、水酸化カルシウム、水酸化ドロマイト又はこれらの混合物を90質量%以上含有する粉末である、[1]乃至[3]の何れか一つに記載の災害用し尿処理キット。
[5]前記吸水性の担体が、おが屑、もみ殻、米糠、稲わら、麦わら、樹皮、落葉、バガス、コーンコブ及び泥炭からなる群より選択される一種以上の担体である、[1]乃至[4]の何れか一つに記載の災害用し尿処理キット。
[6]さらに、前記生分解性の袋体の中に、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリカルボン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ゼラチン、ペクチン、カラギナン、キサンタンガム、グァーガム、カードラン、タマリンドガム、ローカストビーンガムからなる群から選択される少なくとも一種の生分解性の増粘剤を更に含む、[1]乃至[5]の何れか一つに記載の災害用し尿処理キット。
[7]さらに、前記生分解性の袋体の中に投入するための水を含む、[1]乃至[6]の何れか一つに記載の災害用し尿処理キット。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、洋式若しくは和式トイレ、バケツ、段ボール等の容器又は土壌に設けた穴等に設置して使用することができ、用を足す前に生分解性の袋体の中に吸水性の担体、水酸化カルシウム、及び水酸化ドロマイトからなる群より選択される少なくとも一種を含有する粉末及び必要により増粘剤、水を備える、災害用し尿処理キットを提供できる。吸水性の担体からの尿の反射音は、袋体からの尿の反射音よりも小さいので、本発明によれば、排泄時の反射音を低減できる災害用し尿処理キットを提供できる。また本発明によれば、用を足した後は、従来の排泄物処理袋のように、袋の中を覗き込みながら消臭凝固剤等を投入する必要が無く、使用後にそのまま口を閉じるだけで排泄物からアンモニア臭等の悪臭が発生することを防止することができる、災害用し尿処理キットを提供できる。また、本発明によれば、袋体、吸水性担体及び粉体が、生分解性材料又は環境に悪影響を与えない成分で構成されているので、使用後、そのまま土壌中に埋めることで分解して堆肥化可能な、災害用し尿処理キットを提供できる。
また、本発明の災害用し尿処理キットは、家庭の生ごみ、吐瀉物等の悪臭を発する有機物を収納し、土壌中に埋めて堆肥化するために用いることもできる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の災害用し尿処理キットは、排泄後のし尿を入れる災害用し尿処理キットであって、生分解性を有する高分子化合物を含有する樹脂組成物からなる生分解性の袋体、並びに該袋体の中に、し尿中の有機物を分解可能な微生物が着床した吸水性の担体と、水酸化カルシウム、及び水酸化ドロマイトからなる群より選択される少なくとも一種を含有する粉末とを備える、災害用し尿処理キットである。
以下、各構成要素を詳しく説明する。
【0010】
[生分解性を有する高分子化合物]
本発明の生分解性の袋体を形成するための樹脂組成物には、生分解性の高分子化合物が使用される。生分解性の高分子化合物から製造された袋体は、土壌や堆肥中に埋設すると、微生物、水分、温度の相乗作用で加水分解及び/又は生分解して、最終的には水と二酸化炭素になり、有害物質が発生せず、環境を害することがない。
【0011】
生分解性の高分子化合物としては、生分解性を有するものであれば特に限定されない。例えば、ポリグリコール酸(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリエチレンサクシネート(PES)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリエチレンテレフタレートサクシネート(PETS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリヒドロキシブチレート/ヒドロキシヘキサノエート(PHBH)、ポリヒドロキシバレレート(PHV)、ポリエステルカーボネート、ポリジオキサノン(PDS)、ポリ乳酸(PLA)、ポリ(乳酸−グリコール酸)、ポリ(乳酸−ε−カプロラクトン)、ポリ(グリコール酸−トリメチレンカーボネート)、又はこれらの共重合体等、セルロース、プルラン、ポリヒドロキシアルカン酸(例えば、ポリグルタミン酸、ポリグリコ一ル酸、ポリ乳酸、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ吉草酸、ポリアスパラギン酸、ポリカプロラクトン又はこれらの共重合体等、でんぷん、セルロース、アミロース、キチン、キトサン、デキストラン、プルラン等の多糖類及びその修飾物、コラーゲン、カゼイン、フィブリン、ゼラチン等のペプチド、ポリアミノ酸等が挙げられる。土壌環境、或いはコンポスト(高温高湿)環境での分解のされやすさの観点から、好ましくは、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペートが挙げられる。環境問題の観点から、石油由来の生分解性高分子より、植物由来の生分解性高分子化合物が好ましい。特に好ましくは、植物由来のポリブチレンサクシネート(例えば、三菱ケミカル株式会社製のBioPBS等)が挙げられる。
これらの生分解性の高分子化合物は、単独で用いてもよいし、二種以上の複数の高分子化合物を混合して用いてもよいし、二種以上の共重合体を用いてもよい。
【0012】
上記した各生分解性の高分子化合物は、それぞれ生分解性能が異なり、形状崩壊速度(成形した後の形状が崩れ始めるまでの経過時間。形状崩壊期間とも言う。)が異なる。本発明では、それ自身の形状崩壊速度が異なる各種の生分解性の高分子化合物と、後述する水酸化カルシウム、及び水酸化ドロマイトからなる群から選択される少なくとも一種を含有する粉末とを組み合わせることにより、その粉末が持つ塩基性触媒効果により、生分解性の高分子化合物の生分解期間を早めることができ、また土壌の酸性化の抑制にも寄与する。
【0013】
本発明の災害用し尿処理キットの袋体に使用される樹脂組成物は、袋又は容器などの成形物にして使用する場合に、実質的に十分な機械物性を示すものであれば、特に制限されない。一般的には樹脂組成物に含まれる生分解性を有する高分子化合物の分子量として、例えば1,000乃至100万、例えば5,000乃至75万、例えば5,000乃至50万、例えば1万乃至30万、例えば1万乃至20万、である。この範囲の分子量の高分子を使用することで、十分な機械的強度及び生分解性を有する。
【0014】
[袋体]
本発明の袋体は、例えば洋式便器等に装着して、し尿を収容できる容量を有する袋体であって、使用時に十分開口し、且つ、使用後に排泄物を密封できる形状であればよく、従来の非常時用の携帯トイレに使用されているものと同じ形状のものを使用できる。
例えば、一辺が開口しているフィルムからなる袋体又は底面を有する袋体であり、開口部を閉じて結ぶ或いは数回ねじってから結ぶことにより袋体を密封することができる。ま
た、袋体の開口縁部内側に設けた、線状凸部と、この線状凸部を挿入保持する線状凹部とからなる、袋体を密閉及び解放可能なファスナを用いて密封することができる。ファスナは、使用者が指で押圧して線状凹部に線状凸部を挿入することにより、袋体の開口部を容易に密閉できる。フィルムには、単層フィルム又は積層フィルムのいずれも使用することができる。
また、袋体は使用後の排泄物が見えない様に、黒色、緑色等の濃色であることが好ましい。
【0015】
袋体を構成するフィルムの製造は、特に限定されず、ホットプレス成型、溶融押出成型等の公知の方法を使用できる。本発明の袋体の膜厚は、使用する高分子の特性(柔軟性、伸び性、破断強度等)によって調製でき、使用後に土壌に埋めるか又は家庭ごみとして廃棄処理されるまで臭気を漏らさず且つ破れない厚さであれば特に限定されない。分解速度を高めるために薄く成形することが好ましいが、使用時に破壊されない強度を有する必要がある。袋体の厚さとてしては、例えば2μm乃至1.0mm、例えば5μm乃至300μm、例えば5μm乃至200μm、例えば10μm乃至100μmである。
【0016】
本発明では袋体のフィルムには、生分解性樹脂に、環境を損なわない量で、炭酸カルシウム等の無機粉末、染料、顔料、可塑剤、安定剤、滑剤、防黴剤、酸化チタン等を使用することができる。
【0017】
[吸水性の担体]
本発明の災害用し尿処理キットは、生分解性の袋体の中に、し尿中の有機物を分解可能な微生物が着床した吸水性の担体を有する。
微生物としては、し尿中の有機物を分解可能であればよく、例えば、枯草菌、放線菌及び糸状菌等の菌が挙げられる。
担体としては、微生物を着床させることができるものであれば特に限定されないが、微生物が増殖しやすいものが好ましい。微生物が着床しており、且つ、増殖しやすい木材又は植物等もしくはそれらの廃棄材を使用することが好ましい。木材又は植物等の廃棄材としては、例えばおが屑、もみ殻、米糠、稲わら、麦わら、樹皮、落葉、バガス、コーンコブ、泥炭等があげられる。特に、おが屑は、低比重で軽くて吸水性に優れ、し尿中の有機物を分解可能な微生物を有しており、且つ、空隙率が高い(約85〜90%)ので、後述するし尿中の有機物を微生物が分解可能な好気性条件を作り出しやすく、吸水性の担体として好ましい。木材又は植物等の廃棄材は、土壌中の菌(例えば、白色腐朽菌、褐色腐朽菌、軟腐朽菌等)によって腐朽・分解されて土壌に還元される。
また、例えば、下記の吸水性の増粘剤に微生物を着床させたものを使用してもよい。例えば、微生物を着床させた球状のポリビニルアルコールゲル担体((株)クラレ製、クラゲール(登録商標))等を使用できる。
【0018】
吸水性の担体の使用量は、その種類及び形状により適宜調整でき、少なくとも尿を吸収できる量であればよく、好ましくは尿を吸収し、且つ、糞便の表面全体に乾燥した吸水性の担体が付着できる量であることが好ましい。また、後述する増粘剤を使用する場合には、増粘剤と併せて尿を吸収でき、且つ、吸水性の担体が糞便の表面全体に付着できる量であればよい。例えば、成人一回あたりの尿の量は、200〜300mLであるので、300mL以上、例えば300〜1000mL、好ましくは400〜800mLの量の水分を吸収する量を使用できる。吸水性の担体の量が少ないと、し尿の水分を吸収できない或いは糞便の外側全体に乾燥した吸水性の担体が付着できない可能性がある。また吸水性の担体の量が多いと、広い保管場所が必要となるという問題を生じる。
【0019】
例えば、吸水性の担体として吸水量が1gあたり3g程度のおが屑を使用する場合、例えば100g以上、例えば150g乃至500g、例えば200g乃至300gである。
また、後述する増粘剤を使用する場合には、例えば50g以上、例えば100g〜200gを使用できる。
【0020】
本発明の災害用し尿処理キットを使用した場合、尿は吸水性の担体に吸収され、糞便は自重で吸水性の担体中に入り込むか又は袋を取り出すときに吸水性の担体中に入り込むので、使用中及び使用直後の悪臭を抑制することができる。また、袋の口を閉じ、全体を軽く振って混ぜることで、糞便が細かくなり、夫々吸水性の担体に覆われるので、悪臭の発生を抑制でき、且つ、糞便の分解にかかる時間を短くできる。
また、し尿から発生する悪臭の原因であるアンモニア臭は、糞便に含まれる嫌気性細菌の繁殖により生じるウリアーゼにより、尿中の尿素が分解することにより生じる。本発明の災害用し尿処理キットを使用した場合、尿は吸水性の担体に吸収され、そして糞便の表面には尿ではなく吸水性の担体が存在するので、糞便の周囲は好気性条件が保持され、嫌気性細菌の繁殖が抑制される。したがって、ウリアーゼの生成は抑制されるので、アンモニアの生成が低くなる。そして、尿中には嫌気性細菌は存在せず、また糞便中にアンモニアの元となる尿素はほとんど存在しないので、本発明の災害用し尿処理キットを使用した場合、し尿から悪臭の原因となるアンモニアの発生がほとんど無く、無臭若しくは非常に低い臭気で保管可能である。
特に、おが屑等の木材系の担体を使用した場合、アンモニアは、おが屑中に存在する酸性官能基(リグニン、タンニン、フェノール酸などのフェノール性ヒドロキシ基、ペクチンのカルボキシル基等)と結合してアンモニウム塩を作り、アンモニアが揮発することを防止できる。つまり、袋内部に悪臭ガスが充満し、袋から悪臭が漏れたりすることを防止することができる。
さらに、糞便中の有機物が好気性細菌により分解されて生じるフミン質には、フェノール性ヒドロキシ基及びカルボキシル基が存在する。そのため、アンモニアがわずかに生じたとしても、フミン質中の酸がアンモニアと反応してアンモニウム塩を作ることで、土壌中に埋めた災害用し尿処理キットから悪臭(アンモニア臭)が生じるのを防止することができる。
【0021】
おが屑としては、特に木材の種類に制限はなく、モミ、ツガ、シラベ、マツ、スギ、ヒノキ等の針葉樹、並びにカバ、ハンノキ、ドロ、サクラ、ケヤキ、ブナ、アカシア、ユーカリ、マングローブ等の広葉樹を使用することができ、種類の異なる木材のおが屑を混合して使用することもできる。特に針葉樹は、広葉樹に比べてテルペノイド、フラボノイド等のフィトンチッドが多く含まれ、適度な殺菌力及び芳香性(消臭効果)を有しているので、悪臭が生じるのを抑制することができる。
また、木材を加工するときに生じる目の細かい木屑のうち、直径(長径)が数mm以下のものがおが屑、5mm程度のものがチップダスト、10mm程度のものがプレーナー屑と呼ばれるが、本発明においては、これらをまとめておが屑と定義される。本発明では、吸水性及び保水率が高く、また袋内を好気的状態に保つための空隙率の高い、直径(長径)が数mm以下のおが屑を使用することが好ましい。また、おが屑は、様々な長径のおが屑の混合体であり、篩等により大きさを揃えずに使用できる。大きさの異なるおが屑の混合体を使用することにより、おが屑間に隙間が生じるので、好気的雰囲気をより保ちやすい。
【0022】
また、吸水性の担体として無機粉体を含有させてもよい。無機粉体を含有させることで、排泄物中の水分を吸収することができ、より好気性発酵の維持に作用する。例えば、無機粉体としては、土壌中に埋めても環境に悪影響を与えない鉱物の粉末、例えばシリカ、タルク、酸化チタン、カオリン、珪藻土、ゼオライト等を挙げることができる。これらは複数の種類を組み合わせてもよい。
【0023】
本発明の吸収性の担体は、生分解性の袋体の中に入れた状態で保管することもできるが
、保管時に袋体が破れたりするのを防止するために袋体と吸水性の担体とを分けて保管し、使用前に袋体の中に投入することが好ましい。
本発明の吸水性の担体は、複数回分をまとめた形態でもよいが、一回分毎の個包装の形態で使用することが好ましい。包装材として、通常のフィルム又は紙の他、水溶性フィルム又は水溶性紙を使用することができる。水溶性フィルム又は水溶性紙で包装した吸水性の担体を使用する場合、包装材ごと袋体に投入するだけでいいので簡便で不要な廃棄物が生じず、また、袋体に吸水性の担体を入れる際に、担体が舞い上がったり、こぼれたりすることを防止することができる。用を足した時に、し尿中の水分で水溶性フィルム又は水溶性紙が容易に崩壊して、し尿が吸水性の担体に吸収され、糞便の表面に吸水の担体が付着することができる。
【0024】
[粉末]
本発明の災害用し尿処理キットは、生分解性の袋体の中に、水酸化カルシウム、及び水酸化ドロマイトからなる群から選択される少なくとも一種を含有する粉末を備える。該粉末は、保管中に袋体の加水分解を促進するおそれがあるので、袋体と粉末とを分けて保管し、使用前に袋体の中に投入することが好ましい。
水酸化カルシウム、及び水酸化ドロマイトからなる群から選択される少なくとも一種を含有する粉末には、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化カルシウム、炭酸カルシウム及びドロマイトを含有することができる。水への溶解性及び水溶液の塩基性(アルカリ性)の観点から、水酸化カルシウムを含有する粉末が好ましい。
粉末中の各成分比は特に限定されないが、例えば、粉末中の水酸化カルシウム及び水酸化ドロマイトの含有量が粉末全体の質量に対して例えば90質量%以上である。
【0025】
粉末の調製方法は公知の方法を使用でき、例えば、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、(軽焼)ドロマイト、水酸化ドロマイト、及び炭酸カルシウムの一種以上を混合して調製する方法、炭酸カルシウム或いは炭酸カルシウム含有物を焼成して得られた酸化カルシウム、(軽焼)ドロマイト、又はそれらの混合物に加水処理をして調製する方法等を使用できる。なお、炭酸カルシウムは、工業的に生産されたものでもよいし、天然物由来のものでもよい。
例えば、炭酸カルシウム含有物である石灰石、ドロマイト、貝殻又は卵殻を焼成して調製した酸化カルシウム含有粉末を加水処理して得られた水酸化カルシウム又は水酸化ドロマイト含有粉末を使用することができる。
貝殻としては、天然又は養殖の貝殻を使用でき、例えば、ホタテ貝、アワビ貝、サザエ貝、ホッキ貝、ウニ貝等の貝類の貝殻や、珊瑚殻等を用いることが可能である。好ましくは、抗菌性・除菌性を有し、且つ、食品添加物等への使用が認められる安全性の高い、ホタテの貝殻を使用できる。
【0026】
焼成は、例えば600℃以上、例えば800℃乃至1500℃、例えば850℃乃至1200℃の温度で行う。例えば、材料として用いる石灰石、ドロマイト、貝殻又は卵殻を粉砕して粉末または粒状物とした後、焼成により、不要な有機物を熱分解によって除去する。焼成は、焼成と再焼成等のように焼成を二段階以上の複数行うことにより、焼成物中の酸化カルシウムの含有量を容易に向上させることができる。そして、焼成が終了した後、得られた酸化カルシウム含有粉末に水を添加して水和させて、90質量%以上の水酸化カルシウム、水酸化ドロマイト又はこれらの混合物を含有する粉末を製造することができる。
【0027】
なお、焼成は、空気中、窒素等の不活性ガス、或いは炭酸ガス等の酸化性ガスの雰囲気下で行うことができる。石灰石、(軽焼)ドロマイト、貝殻又は卵殻の炭酸カルシウム等の成分をより酸化しやすい、炭酸ガス等の酸化性ガスを使用することが好ましい。また、焼成時間は、焼成温度等によって適宜設定されるが、雰囲気温度が所定の焼成温度に到達
した時点から、例えば10分乃至120分、例えば15分乃至90分である。
また、焼成または水和の過程で、必要に応じてさらに粉砕を行い、最終的には、平均粒子径を、0.1μm乃至500μmの範囲内、例えば0.5乃至100μm、例えば0.5乃至40μm、例えば0.5乃至10μmの範囲の微粉末とする。このように、微粒子の粒径をより細かくすることにより、し尿中の水分或いは土壌中の湿気とより反応しやすくなり、生分解性の袋体の分解を促進することが可能となる。
【0028】
水酸化カルシウム及び水酸化ドロマイトからなる群から選択される一種を含有する粉末は、各成分の含有量の異なる一種又は二種以上の粉末を併用することができる。二種以上の粉末を使用する場合は、少なくとも一種の粉末が水酸化カルシウム、水酸化ドロマイト又はこれらの混合物を90質量%以上含有するものであることが好ましい。
【0029】
本発明の袋体の中に備えられる水酸化カルシウム及び水酸化ドロマイトからなる群から選択される少なくとも一種を含有する粉末は、袋体に使用される生分解性高分子の種類、使用後の災害用し尿処理キットを土壌に埋めるまでの保管期間、土壌に埋めた災害用し尿処理キットの袋体の形状崩壊期間に応じて、適宜調整できる。粉末の配合量としては、吸水性の担体100質量部に対して、粉末を例えば0.01乃至20質量部、例えば0.05乃至15質量部、例えば0.1乃至10質量部、例えば0.5質量部乃至5質量部である。
この範囲内で粉末を使用することにより、土壌に埋めた災害用し尿処理キットの袋体の形状崩壊期間を促進することができる。袋体の形状崩壊期間を早めるためには、粉末の配合量を増やせばよく、また袋体の形状崩壊期間を遅くするためには、粉末の配合量を減らせばよい。つまり、本発明の災害用し尿処理キットは、粉末の配合量を調整することにより、土壌に埋めた生分解性の袋体の形状崩壊期間を制御することができる。ただし、吸水性の担体100質量部に対して粉末を20質量部より多く配合すると、使用後の災害用し尿処理キットを高温高湿雰囲気下で6ヶ月以上の長期間保管した場合に、土壌に埋める前に細孔や亀裂(クラック)が生じる可能性がある。
【0030】
また、本発明の生分解性の袋体に含まれる高分子化合物に、加水分解又は生分解により酸を生じるものが含まれている場合でも、粉末に含まれる水酸化カルシウム又は水酸化ドロマイトにより中和することができ、袋体の分解により土壌が酸性化することを抑制できる。また、農作物を育てた田んぼ或いは畑等の土壌は徐々に酸性化するが、本発明の使用後の災害用し尿処理キットを埋めることで、粉末に含まれる水酸化カルシウム又は水酸化ドロマイトにより土壌の中性化を図ることができる。また、酸性雨等で酸化した土壌も、本発明の使用後の災害用し尿処理キットを埋めることで、土壌の中性化を行うことができる。
【0031】
[増粘剤]
また、本発明の災害用し尿処理キットは、本発明の効果を損なわない範囲で、袋体の中に水を吸収してゲル又はゾルを形成する増粘剤を有することができる。増粘剤を使用することで、吸水性の担体に保水されなかった水分、又は吸水性の担体から排出された水分を速やかに吸収し増粘することができるので、袋体内が嫌気性条件下になることを抑制することができる。また、増粘剤により、袋体内の水分が増粘又はゲル化して、袋体内の内容物が凝固して一塊になるので、使用済みの災害用し尿処理キットを積載しても荷崩れすることがなく安定し、運搬及び保管がより容易になる。また、運搬の際に、袋体にわずかに細孔やクラックが生じたとしても、内容物がこぼれることなく運搬を行うことができる。
増粘剤としては、土壌に埋めても環境に悪い影響を与えることのないものであればよく、特に生分解性を有するものが好ましい。生分解性の増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリカルボン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ゼラチン、ペクチン、カラギナン、キサンタンガム、グァー
ガム、カードラン、タマリンドガム、ローカストビーンガム、及びその塩からなる群から選択される増粘剤が挙げられ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリカルボン酸、アルギン酸及びそれらの塩が特に好ましい。
【0032】
増粘剤は単独でも又は二種以上を組み合わせて使用してもよい。増粘剤の使用量は、増粘剤の種類や形状により適宜調製可能であるが、吸水性の担体100質量部に対して、例えば20質量部以下、例えば0.1乃至15質量部、例えば1乃至10質量部である。
【0033】
増粘剤は、災害用し尿処理キットの袋体に吸水性の担体及び水酸化カルシウム又は水酸化ドロマイト含有粉末と共に保管し、小分け投入してもよいが、吸水性の担体及び水酸化カルシウム又は水酸化ドロマイト含有粉末と共に水溶性フィルム又は水溶性紙で包袋したものを使用することができる。
【0034】
[水]
また、本発明の災害用し尿処理キットは、本発明の効果を損なわない範囲で、袋体の中に投入する水を有することができる。使用後に短い保管期間で或いは保管することなく土壌に埋める場合は、使用後の災害用し尿処理キットに水を投入することが好ましい。使用後の災害用し尿処理キットに水を投入してから土壌に埋めることで、袋体内の湿度が高まるので、土壌環境がコンポスト環境に近くなり、袋体の分解がより促進される。
水としては、特に制限がないが、滅菌水、精製水、雨水、水道水、水道水を沸騰させて冷ましたもの等を使用できる。例えば、生分解性のプラスチック容器等に入れた滅菌水又は精製水等の水を準備しておけば、使用後に容器ごと土壌に埋めることができる。また、災害用し尿処理キットの使用直前に、雨水又は水道水を準備することもできる。
【0035】
[使用方法]
本発明の災害用し尿処理キットは、袋体の開口部を開き、空気を入れる様に袋体を拡げて、袋体を容器に設置して、袋体の中に吸水性の担体、水酸化カルシウム又は水酸化ドロマイト含有粉末及び必要により増粘剤を投入し、袋体の中に用を足し、袋体を密閉して保管し、そして、袋体を土壌中に埋めて堆肥化するか又は家庭ごみとして焼却処理することができる。保管期間が短い場合は、使用後に袋体に水を投入してもよい。また、密閉した袋体は全体を軽く振って混ぜることで、糞便が乾いたおが屑に包まれるので、より確実に保管時の悪臭の発生を抑制できる。
以下に図面を参照して、本発明の災害用し尿処理キットの使用方法の例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
袋体を洋式便器1に設置する場合、袋体3の底部を洋式便器内に挿入し、袋体3の側面を洋式便器1の内面にフィットさせ、袋体3の開口部周縁を袋体3の外側に広げて洋式便器1の上端周縁に覆い被せる(
図1(a)参照)。また、本発明の災害用し尿処理キットは、和式便器、ダンボール箱、ポリバケツ等の容器、又は地面等に設けた穴に袋体を設置して使用してもよい。
【0036】
設置した袋体3の中に、吸水性の担体5、水酸化カルシウム又は水酸化ドロマイトを含有する粉末6及び必要により増粘剤7の混合物4を投入し、袋体3の開口部周縁を洋式便器1の上面と洋式便器の便座2の下面とで挟持して、災害用し尿処理キットを洋式便器1内に設置する(
図1(b)参照)。これら吸水性の担体5、粉末6及び増粘剤7は、夫々添加してもよいし、混合物4として投入してもよい。また、吸水性の担体5、粉末6及び増粘剤7を水溶性フィルム又は水溶性紙で包んだ包装体をそのまま投入することができる。
【0037】
設置した災害用し尿処理キットの袋体3の中に用を足す(
図1(c)参照)。し尿の水分は、吸水性の担体5及び増粘剤7に吸水されるので、袋体3から漏れることはない。ま
た、糞便は吸水性の担体5の中に入り込み糞便の表面は吸水性の担体5で包まれるので臭気を抑制できる。また、糞便は好気性条件下で保管されるので、ウリアーゼの増殖を抑制でき、悪臭の原因となるアンモニアの発生を抑制できる。
また、使用したトイレットペーパー又は水溶性ティッシュも生分解性物質であるので、袋体3の中に廃棄し、土壌中に埋設することができる。トイレットペーパー又は水溶性ティッシュも災害用し尿処理キットに含むことができる。
【0038】
また、用を足した後、袋体3に水を投入することができる。例えば、使用後のトイレットペーパー又は水溶性ティッシュは、水をかけて湿らすことで周囲に吸水性の担体が付着するので、ふき取ったし尿から悪臭が発生するのを防止することができる。また、吸水性の担体5が水分を保持することで、水酸化カルシウム、及び水酸化ドロマイトからなる群より選択される少なくとも一種を含有する粉末6が溶解しやすくなり、袋体3の加水分解をより促進することができる。また、使用後の災害用し尿処理キットに水を投入してから土壌に埋めることで、土壌環境がコンポスト環境に近くなり、袋体3の分解がより促進される。
投入する水の量は、尿の量により調製することができるが、吸水性の担体100質量部に対して、例えば200質量部以下、例えば10乃至100質量部、例えば20質量部乃至80質量部、例えば40質量部乃至60質量部である。水を200質量部以上投入すると、袋体3内に吸水性の担体5が吸収できない水分がたまってしまい、保管や運搬時に袋体が破けて汚水が漏れるおそれがある。
【0039】
使用後、洋式便器1内で、又は洋式便器1から袋体3を取り出し、袋体3の開口部をそのまま若しくは何度かねじってから結び、袋体3の開口部を閉じて密封する(
図1(d)、
図2(a)参照)。ファスナ8付き袋体3の場合は、ファスナ8を閉じるだけで密封できる(
図2(b)参照)。
袋体3の開口部を閉じて密封した後、全体を軽く振って混ぜることが好ましい。これにより、吸水性の担体が糞便の表面全体に確実に付着でき、悪臭の発生をより確実に防止することができる。また、軽く振ることで、糞便が砕片となるので、糞便の分解に係る時間を短縮することができる。
【0040】
本発明の災害用し尿処理キットは、用を足す前に、袋体の中に吸水性の担体、水酸化カルシウム又は水酸化ドロマイト含有粉末及び増粘剤が投入されているので、用を足した時の吸水性の担体からの反射音は、袋体からの反射音よりも小さく、従来の排泄物処理袋よりも使用者が気恥ずかしい思いをしない。さらに、従来の排泄物処理袋のように、用を足した後に、袋体の中を覗き込んで消臭凝固剤等を投入する必要はなく、極めて快適かつ衛生的に使用できる。
【0041】
また、使用後の密閉した災害用し尿処理キットは、通気性の良い場所、例えば室内又は雨露をしのげる屋外に保管することが好ましい。高温高湿の環境下に6ヶ月以上放置した場合、水酸化カルシウム又は水酸化ドロマイト含有粉末が溶解し塩基性触媒として作用し、袋体に細孔或いは亀裂が生じ、中身が漏れる可能性がある。そのため、使用した災害用し尿処理キットは、例えば3ヶ月以内、例えば2ヶ月以内、好ましくは1ヶ月以内、より好ましくは1週間以内に土壌中に埋めるか又は家庭ごみとして燃焼することが好ましい。
【0042】
土壌中に埋められた災害用し尿処理キットでは、糞便中の有機物が、担体に着床されている微生物(枯草菌、放線菌及び糸状菌等の菌)により分解・発酵が始まり、土壌の温度が上昇することで、分解・発酵がさらに進行する。そして、生分解性の袋体が崩壊し始めると、更に土中の微生物による分解・発酵も生じるので、おが屑中の糞便よりも、土壌及びおが屑中の糞便の方がより有機物の分解・発酵が進行する。そのため、災害用し尿処理キットの袋体の中の糞便は、土壌中に埋めてから、例えば6ヶ月以内、例えば3ヶ月以内
、例えば2ヶ月、例えば1ヶ月程度で、少なくとも一部、好ましくは完全に分解することができる。
【0043】
また、土壌中に埋められた災害用し尿処理キットの袋体は、加水分解により分解が始まり、そして水酸化カルシウム又は水酸化ドロマイトにより生じる塩基の作用によって分解がより進行し、更に土中の微生物により水及び二酸化炭素への分解が進行する。また、有機物の分解により土壌の温度が上昇すると、塩基性触媒の作用が向上し、生分解性の袋体の崩壊は加速する。そのため、袋体は、使用する生分解性を有する高分子化合物の種類や袋体の厚みにもよるが、土壌中に埋めた後、例えば1年以内、例えば6ヶ月以内、例えば3ヶ月以内に、少なくとも一部、例えば半分以上、好ましくは全て分解することができる。
【0044】
また、土壌中に埋められた吸水性の担体及び増粘剤は、土壌中に埋められることで土壌中の微生物(例えば、白色腐朽菌、褐色腐朽菌、軟腐朽菌)によって腐朽・分解されて土壌に還元される。例えば、吸水性の担体として、おが屑を使用した場合は、例えば3年以内、例えば2年以内、例えば1年以内に、少なくとも一部、例えば半分以上、好ましくは全て分解することができる。
【0045】
また、使用済みの災害用し尿処理キットを土壌に埋めた場合、発酵熱及び土壌の保温効果により、土壌の温度は50℃以上、例えば60℃程度に達し、一定期間その温度を維持できる。これにより、排便中の大腸菌は死滅し、感染の原因となりにくい。
そして、し尿中の有機物は、担体及び土壌中の微生物により分解されて、窒素、リン及びカリウム等の栄養塩類やフミン質が土壌に残るので、災害用し尿処理キットを分解した土壌は、有機肥料や土壌改良剤として使用することができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を以下の実験例により、さらに詳しく説明する。なお、本発明の範囲は、以下の実験例の内容のみに限定されない。
【0048】
[吸水性を有する担体の吸水量試験]
市販のヒノキのおが屑((株)島田小割製材所製)5gを、ナイロン製のメッシュ袋に収容し、100mLの水を入れた紙コップにいれて、室温(約23℃)で72時間浸漬させた。次いで、水中から取り出したおが屑を、70%以上の高湿度の密閉容器内の網上に置いて水きりし、水きり後のおが屑の湿潤時質量を測定した。
次いで、おが屑を定温乾燥機(アズワン(株)製 ETTAS EO−300V)を用いて60℃で24時間、次いで80℃で4時間乾燥させ、おが屑の乾燥時質量を測定した。
下記の式から、市販品のおが屑の含水率、及び市販品のおが屑の吸水率A、乾燥したおが屑の吸水率Bを求めた。
含水率(%)=[(5−乾燥時質量)/乾燥時質量]×100
吸水率A(%)=[(湿潤時質量−5)/5]×100
吸水率B(%)=[(湿潤時質量−乾燥時質量)/乾燥時質量]×100
【0049】
市販のヒノキのおが屑を、ヒバのおが屑、スギのおが屑、サクラのおが屑、混合おが屑
(細粒)、混合おが屑(粗粒)(いずれも、(株)島田小割製材所製)、及びもみ殻に代えた以外は、ヒノキのおが屑と同様に各種おが屑及びもみ殻の含水率、吸水率A及び吸水率Bを求めた。
各おが屑及びもみ殻の製品の質量(正味量)、湿潤時質量、乾燥時質量、吸水量(湿潤時質量−乾燥時質量)、含水率、吸水率A及び吸水率Bを表1に示す。
【表1】
【0050】
表1より、市販品のおが屑及びもみ殻は、十分な吸水率を有することが示された。また、単品種のおが屑及び混合おが屑(細粒)は、正味量に対して200%以上の吸水率を示すので、優れた吸水性担体として使用できることが示された。
【0051】
[袋体の加水分解性試験]
BioPBS(三菱ケミカル株式会社製、植物由来のポリブチレンサクシネート)を主材料とするコンポスト用ごみ袋(中興化成工業(株)製、幅450mm、長さ600mm、厚さ約30μm、乳白色)を切断し、約80mm×30mm(約0.1g)の試験片Aを準備した。また、比較対象として、コーンスターチ由来の生分解性樹脂PSM材料を主材料とするコンポスト用ごみ袋(Trash Bags Biodegradable,4−6 Gallon Trash bags、INWAYSIN社より入手、PSM(プラスターチ材料)製、厚さ約12μm、黄緑色)の約90mm×70mm(約0.1g)の試験片Bを準備した。
試験片A及びBの夫々を、石灰水(飽和水酸化カルシウム水溶液)又は水(沸騰させて室温まで冷ました水)30mLを入れた中栓付き50mL広口ガラス瓶に投入し、中栓及び蓋を閉めて、40℃の恒温槽に静置した。0日(試験片投入前)、13日後、20日後、50日後、64日後及び102日後の水溶液のpHを測定した。経過日数及び水溶液のpHを表2に示す。
また、石灰水中で貯蔵された試験片Aは、50日後からフィルムの色が貯蔵前の乳白色よりも透明な乳白色になり、フィルムの厚みが薄くなり表面から一部崩れていく様子が観測されたが、水中に投入した試験片A、石灰水又は水中に投入した試験片Bは、外観の変化は観察されなかった。
石灰水中で貯蔵された試験片Aの外観変化は、フィルムの加水分解が進行し、フィルムの厚さが薄くなったものと考えられる。
【表2】
【0052】
表2より、試験片Aを投入した石灰水のpHが低下(中性化)しているのが理解できる。このことからも、塩基(水酸化カルシウム)の存在下で、試験片を構成するポリブチレンサクシネートが加水分解してコハク酸が生じ、このコハク酸と石灰水中の水酸化カルシウムとの中和反応が起きて、石灰水のpHが低下したものと考えられる。
【0053】
[土壌埋設試験]
[実施例1]
洋式便器にBioPBS(三菱ケミカル(株)製)を主原料とする生ごみ専用のコンポスト用ごみ袋(中興化成工業(株)より入手、口幅45cm、深さ60cm、厚さ約30μm)を設置し、袋体中に、混合おが屑((株)島田小割製材所より入手)200g、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na、八宝食品(株)より入手)10g及び水酸化カルシウム粉末(Ca(OH)
2、栗本薬品工業(株)より入手)2gの混合物を投入し、次いで成人男性一人分の糞尿及び拭き取った使用済みのトイレットペーパーを入れ、さらにトイレットペーパーの周囲に水100gを投入し袋体の開口部を止め結びで閉じて、糞便及びトイレットペーパーが外側から見えなくなるように袋を軽く振り、使用済みし尿処理キット10を作成した。
屋根のない屋外で、地面11に、幅120cm、長さ50cm、深さ40cm程度の穴12を設け(
図3(a)参照)、穴に蓋無で側面及び底面に十分な通気孔を有するポリプロピレン製のかご13を設置し(
図3(b)参照)、かご13の底面が隠れる様に土を被せ、その上に使用済みし尿処理キット10をおいて、さらに上から土を被せて使用済みし尿処理キット10を埋設した(
図3(c)参照)。
100日経過後に、土壌中から使用済みし尿処理キット10を入れたかご13を掘り出して使用済みし尿処理キット10周囲の土を除いたところ、袋体のフィルムは孔及び亀裂が生じて形状崩壊しており、破断した袋体のフィルム片及びおが屑が確認できた。また、袋体のフィルムを指でつまんで持ち上げただけでフィルムが破れるほど袋体のフィルムの機械強度(破断強度及び破断伸度)は著しく低下していた。そして、おが屑を広げたが、おが屑の中に糞便及びトイレットペーパーは確認できなかった。また、作業中、アンモニア臭等の悪臭は感じられなかった。
【0054】
[参考例1]
コンポスト用ごみ袋(中興化成工業(株)より入手)の袋体中に、混合おが屑((株)島田小割製材所より入手)200g、カルボキシメチルセルロースナトリウム(八宝食品(株)より入手)10g及び水酸化カルシウム粉末(栗本薬品工業(株)より入手)2gの混合物を投入し、続いて使用を想定して広げた二枚重ねのポケットティッシュペーパー(大王製紙(株)製、製品名:エリエールオーデュス)三組を入れて、さらに水100gを投入し、袋体の開口部を止め結びで閉じて、軽く振り、し尿処理キットAを作成した。
実施例1と同様に、し尿処理キットの土壌埋設試験を行った。
100日経過後に、土壌中からし尿処理キットAを入れたかごを掘り出してし尿処理キット10周囲の土を除いたところ、袋体の形状は残っていたが、袋体のフィルムに孔や亀裂が生じていて、おが屑が袋体の外にこぼれ落ちているのが観察された。また、袋体のフィルムを指でつまんで引っ張ると、元のフィルムよりもフィルムが伸びず、弱い力で破れたことから袋体のフィルムの脆弱化が進行し、袋体の形状崩壊の予兆が見られた。そして、おが屑を広げたところ、おが屑の中にポケットティッシュペーパーの白い破片は存在していたが、手でよるとティッシュペーパーの繊維がばらばらに崩壊した。
【0055】
実施例1の結果より、本発明の災害用し尿処理キットは、し尿及びアンモニアの臭気を生じさせずにし尿を徐々に堆肥化することができることが示された。
また、実施例1及び参考例1の結果より、本発明の災害用し尿処理キットは袋体にし尿を入れることで袋体のフィルムを構成する高分子化合物が短期間で分解されるので、本発
明の災害用し尿処理キットの堆肥化の進行が促進されることが理解できる。
【0056】
以上、実施例の結果に示すように、その中に、し尿中の有機物を分解可能な微生物が着床した吸水性の担体と、水酸化カルシウムを含有する粉末とを備える生分解性の袋体を使用することで、異臭の発生を抑制でき、土壌に埋めることで、全て分解して堆肥化可能な災害用し尿処理キットを得ることができる。
【課題】用を足した後にし尿を確認することなく袋体の口を閉じるだけで排泄物及びその臭気が漏れるのを防止でき、そして単に土壌中に埋めることにより堆肥化可能な災害用し尿処理キットを提供する。
【解決手段】排泄後のし尿を入れる災害用し尿処理キットであって、生分解性を有する高分子化合物を含有する樹脂組成物からなる生分解性の袋体3、並びに袋体3の中に、し尿中の有機物を分解可能な微生物が着床した吸水性の担体及び水酸化カルシウム又は水酸化ドロマイトを含有する粉末の混合物4を投入し、袋体3を洋式便器1の内面にセットして使用する。使用後は土壌中に埋設することができる。