(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
効果的かつ安全・安価な間質性肺炎の治療が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行い、ビタミンCを間質性肺炎患者に投与したところ、症状が改善あるいは進行が抑制されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
したがって、本発明は以下のものを提供する:
(1)ビタミンCおよび/またはその誘導体を含む、間質性肺炎を治療するための医薬組成物。
(2)1回量25g以上のビタミンCおよび/またはその誘導体を含み、2週に1回以上投与される、(1)記載の医薬組成物。
(3)アルカリ化療法と組み合わせて用いられる、(1)または(2)記載の医薬組成物。
(4)ビタミンCおよび/またはその誘導体を含む、間質性肺炎治療の補助剤。
(5)1回量25g以上のビタミンCおよび/またはその誘導体を含み、2週に1回以上投与される、(4)記載の剤。
(6)アルカリ化療法と組み合わせて用いられる、(4)または(5)記載の剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、効果的に間質性肺炎を治療することができる。本発明によれば、効果的に間質性肺炎の治療の補助を行うこともできる。本発明の医薬組成物および治療補助剤に用いられるビタミンCは食品原料や食品添加物として使用されている安全性の高い物質である。しかもビタミンCは安価である。したがって、本発明の医薬組成物および治療補助剤は間質性肺炎の治療に優れた効果を発揮するだけでなく、安全かつ安価である。さらに、本発明の医薬組成物および治療補助剤は、従来の間質性肺炎の治療の副作用を低減するという効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、1の態様において、ビタミンCおよび/またはその誘導体を含む、間質性肺炎を治療するための医薬組成物を提供する。
【0010】
ビタミンCは遊離の形態であってもよく、ナトリウム塩のような塩の形態であってもよい。ビタミンC誘導体の例としては、アスコルビン酸リン酸ナトリウム、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸2−グルコシド、3−O−エチルアスコルビン酸、テトラへキシルデカン酸アスコルビル、パルミチン酸アスコルビルなどが挙げられるがこれらに限定されない。
【0011】
間質性肺炎には、原因がわからない特発性間質性肺炎と、原因がわかっている二次性間質性肺炎がある。特発性間質性肺炎は、主要な特発性間質性肺炎、希少な特発性間質性肺炎、および分類不能型特発性間質性肺炎に分けられる。主要な特発性間質性肺炎は、特発性肺線維症、特発性非特異性間質性肺炎、呼吸細気管支炎間質性肺疾患、剥離性間質性肺炎、特発性器質化肺炎、および急性間質性肺炎に分けられる。希少な特発性間質性肺炎は、特発性リンパ球性間質性肺炎および特発性上葉肺線維症に分けられる。二次性間質性肺炎の原因としては、限定するものではないが、膠原病、無機粉塵、有機粉塵、薬剤、放射線治療などが挙げられる。本明細書において、間質性肺炎という場合は、上記いずれのタイプの間質性肺炎であってもよい。本発明の医薬組成物は、上記いずれのタイプの間質性肺炎に対しても治療効果を有する。
【0012】
本明細書において、間質性肺炎の治療は、間質性肺炎の消失、改善、および進行抑制を包含する。さらに、間質性肺炎の治療は、間質性肺炎の予防を包含する。間質性肺炎の予防は、間質性肺炎を発生させないこと、発生を抑制または遅延させることを包含する。
【0013】
本発明の医薬組成物は公知の手段・方法を用いて製造することができる。
【0014】
本発明の医薬組成物の投与経路は特に限定されないが、好ましくは静脈内投与または腹腔内投与であり、より好ましくは静脈内投与である。静脈内投与用製剤および腹腔内投与用製剤は公知である。静脈内投与用剤形としては、注射剤、輸液剤などが挙げられる。通常は、これらの製剤は担体を含む。これらの製剤に適した担体は公知であり、適宜選択して用いることができる。担体の例としては、注射用水、生理食塩水、ブドウ糖液、これらの混合液、リンゲル液などが挙げられるが、これらに限定されない。典型的には、本発明の医薬組成物は輸液により静脈内投与される。
【0015】
本発明の医薬組成物によるビタミンCまたはその誘導体の投与量は、体重70kgの成人に点滴する場合、1回あたり約2g〜約200g、好ましくは約20g〜約100g、より好ましくは約25g〜約50gである。本発明の医薬組成物を、例えば、1〜2週間に1〜2回点滴にて投与してもよい。本発明の医薬組成物は、通常、1日1回投与される。本発明の医薬組成物によるビタミンCまたはその誘導体の投与量、投与頻度、および投与期間は、間質性肺炎の重篤度および進行度(例えばX線写真、CT画像、あるいはKL−6、SP−Dなどのマーカー値などによって判定してもよい)、組み合わされる他の間質性肺炎の治療、患者の体重や年齢、患者の健康状態、既往症およびその治療等を考慮して適宜決定・変更することができる。好ましいビタミンCまたはその誘導体の投与の典型例は、1回量25g以上(例えば25g〜50g、約25g〜約100g、約25g〜約200gなど)とし、2週に1回以上の頻度にて(例えば2週間に1回、2週間に2回、2週間に3回、2週間に4回、1週間に1回、1週間に2回など)投与することが挙げられる。
【0016】
本発明の医薬組成物を他の間質性肺炎の治療と併用してもよい。間質性肺炎の治療としては、ステロイド剤、免疫抑制剤、あるいは抗線維化薬(例:ピルフェニドン、ニンテダニブ)を用いる薬物療法;酸素療法;呼吸器リハビリテーション;肺移植などが挙げられるが、これらの治療に限定されない。二次性間質性肺炎の場合は、その原因を除去する治療も行われ、本発明の医薬組成物をこのような治療と併用してもよい。
【0017】
本発明の医薬組成物を用いる治療の期間と他の間質性肺炎の治療の期間は重複していてもよく、重複していなくてもよいが、重複しているのが好ましい。
【0018】
本発明の医薬組成物をアルカリ化療法と組み合わせて用いてもよい。本明細書において、アルカリ化療法は、尿のpHを上昇させることをいう。
【0019】
尿のpHを上昇させる薬剤は公知であり、その例としては、限定するものではないが、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム等が挙げられる。尿のpHを上昇させる典型的な製剤としてウラリット(登録商標)が挙げられる。これらの薬剤の種類、投与経路、および投与量等は、医師が適宜選択し、決定することができる。
【0020】
本発明において、アルカリ化療法によって、アルカリ化療法開始前と比べて患者の尿のpHを1以上上昇させることが好ましく、1.2以上上昇させることがより好ましく、1.5以上上昇させることがさらに好ましい。アルカリ化療法による尿のpHの上昇を、アルカリ化療法開始から一定期間後(例えば1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後または1年後など)の尿のpHと、アルカリ化療法開始前の尿のpHを比較することによって評価してもよい。尿のpHの値は、例えば数日間または数週間の尿のpHの平均値であってもよい。
【0021】
本発明の医薬組成物をアルカリ化療法と組み合わせは以下のようなものであってもよい。本発明の医薬組成物の投与期間と、アルカリ化療法の期間が重複していることが好ましい。例えば、本発明の医薬組成物の投与期間が1年である場合、アルカリ化療法の期間は1年、1年以上、または1年以下であってもよい。本発明の医薬組成物の投与期間中、アルカリ化療法を継続して行うことが好ましい。本発明の医薬組成物が尿のpHを上昇させる薬剤を含んでいてもよい。
【0022】
本発明は、もう1の態様において、ビタミンCおよび/またはその誘導体を含む、間質性肺炎治療の補助剤を提供する。本明細書において、間質性肺炎の治療補助とは、間質性肺炎の治療剤の効果を増強すること、および/または間質性肺炎の治療剤の効果にビタミンCによる間質性肺炎の治療効果を付加することをいう。間質性肺炎の治療効果の判定は公知の方法にて行うことができ、例えばX線写真、CT画像、KL−6やSP−Dなどのマーカーを調べることによって判定してもよい。
【0023】
本発明の治療補助剤に含まれてもよいビタミンC誘導体としては、本発明の医薬組成物に含まれてもよいビタミンC誘導体と同じものが例示される。本発明の治療補助剤の投与量、投与経路、投与期間、投与頻度、製造、処方等は本発明の医薬組成物に準ずるものであってもよく、間質性肺炎の治療の種類に応じて決定してもよい。
【0024】
本発明の治療補助剤は公知の手段・方法を用いて製造することができる。典型的には、本発明の治療補助剤は、本発明の医薬組成物について説明したのと同様の公知の担体とともに処方される。
【0025】
本発明の治療補助剤は、いずれのタイプの間質性肺炎の治療であっても補助することができる。間質性肺炎の治療としては、ステロイド剤を用いる治療、免疫抑制剤を用いる治療、抗線維化薬(例:ピルフェニドン、ニンテダニブ)を用いる治療などの薬物療法;酸素療法;呼吸器リハビリテーション;肺移植などが挙げられるが、これらの治療に限定されない。二次性間質性肺炎の場合は、その原因を除去する治療を補助するために本発明の治療補助剤を使用してもよい。
【0026】
本発明の治療補助剤を用いる治療の補助期間と間質性肺炎の治療の期間は重複していてもよく、重複していなくてもよいが、重複しているのが好ましい。
【0027】
本発明の治療補助剤をアルカリ化療法と組み合わせて用いてもよい。アルカリ化療法、およびアルカリ化療法との組み合わせについては上で説明したとおりである。
【0028】
本発明の医薬組成物を他の間質性肺炎の治療と併用することによって、あるいは本発明の治療補助剤を用いて間質性肺炎の治療を補助することによって、治療成績を向上させることができ、他の間質性肺炎の治療の副作用を軽減することができる。
【0029】
本発明は、さらなる態様において、間質性肺炎の治療のためのビタミンCまたはその誘導体の使用を提供する。該使用は、アルカリ化療法と組み合わされてもよい。
【0030】
本発明は、さらなる態様において、間質性肺炎の治療を補助するためのビタミンCまたはその誘導体の使用を提供する。該使用は、アルカリ化療法と組み合わされてもよい。
【0031】
本発明は、さらなる態様において、間質性肺炎の治療用医薬の製造におけるビタミンCまたはその誘導体の使用を提供する。該医薬は、アルカリ化療法と組み合わせて用いられてもよい。
【0032】
本発明は、さらなる態様において、間質性肺炎の治療補助剤の製造におけるビタミンCまたはその誘導体の使用を提供する。該治療補助剤は、アルカリ化療法と組み合わせて用いられてもよい。
【0033】
本発明は、さらなる態様において、間質性肺炎の治療を要する対象における間質性肺炎の治療方法であって、ビタミンCまたはその誘導体を該対象に投与することを特徴とする方法を提供する。該治療方法は、アルカリ化療法と組み合わせて実施されてもよい。
【0034】
本発明は、さらなる態様において、間質性肺炎の治療の補助を要する対象における間質性肺炎の治療の補助方法であって、ビタミンCまたはその誘導体を該対象に投与することを特徴とする方法を提供する。該治療補助は、アルカリ化療法と組み合わせて実施されてもよい。
【0035】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、実施例は本発明の
範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0036】
間質性肺炎患者(女性、60代)
患者は、1998年に肺がん手術を受けた。2005年に再発を指摘され、手術を受けた。2006年に再発を指摘されたが手術を拒否した。2006年から2015年1月までイレッサ内服、その後2020年6月までタルセバ服用、その後ジオトリフを服用している。
患者は、2011年5月ごろ間質性肺炎と診断された。
2011年からビタミンC25gを月1回点滴していたが、2019年1月頃にKL−6が上昇してからビタミンC25gを週1回点滴に増量したところ、KL−6が低下し、間質性肺炎の改善が示された(
図1)。
【実施例2】
【0037】
間質性肺炎患者(男性、60代)
2015年ごろに間質性肺炎と診断された。2020年4月からピルフェニドン(ピレスパ)服用開始。2020年2月、間質性肺炎のフォローアップ中に原発性肺がんが疑われ、2020年5月に手術を受けた。病理結果にて、肺腺がんpstage I、肺小細胞がんpstage Iと診断された。
2020年3月11日からアルカリ化療法(アルカリ化食、重曹、およびウラリット)を開始し、同年3月12日から週1回のビタミンC(25g/回)の点滴を開始した。
ビタミンC点滴開始後約1ヶ月でKL−6が低下し、その後も低下を続けている(
図2)。SP−DもビタミンC点滴開始後から低下傾向を示している(
図2)。これらの結果から、間質性肺炎の改善が示された(
図2)。
【実施例3】
【0038】
間質性肺炎患者(女性、80代)
間質性肺炎の診断時期は不明であるが、虫垂がんの診断時から間質影があった。その後経過観察のみを行っていた。2015年9月に虫垂がんと診断され、9月30日に手術を受けた。
2015年11月30日からアルカリ化療法(アルカリ化食および重曹)を開始し、2017年1月からビタミンC点滴(25g/回を月に1〜2回)を開始し、いずれも継続中。
2020年10月22日〜11月17日のKL−6およびSP−Dの推移を
図3に示す。いずれも低下しており、間質性肺炎の改善が示された。また、アルカリ化療法およびビタミンC点滴開始後、尿pHは上昇し、その後7〜8を維持している(データ示さず)。N/L比もアルカリ化療法およびビタミンC点滴開始後低下し、2018年11月ごろに一時的な上昇が見られたものの、ほぼ3〜4の間で推移している(データ示さず)。ビタミンC点滴開始前後において経時的に撮った胸部CT写真を
図4に示す。2017年1月のビタミンC点滴開始後、間質性肺炎がほとんど進行していないことが
図4からわかる。
【実施例4】
【0039】
間質性肺炎患者(男性、80代)
2011年8月25日からCDDP+GEM療法を行い、2012年1月18日から放射線療法(30回)を行った。2014年1月からビタミンC点滴を行った(頻度、継続については不明)。2018年10月気胸で入院、間質性肺炎と診断された。その後、MRSA肺炎を発症した。2019年3月〜2020年4月の間に腰椎の手術を受けた。その際純酸素吸入がある程度長時間行われたため間質性肺炎の増悪が生じたと考えられた。2020年8月3日からビタミンC点滴(35グラム/週)を再開し、継続している。
ビタミンC点滴再開後のKL−6およびSP−Dの推移(2020年8月20日〜2020年10月20日)を
図5に示す。KL−6、SP−Dともに減少し、間質性肺炎の改善が示された。
ビタミンC点滴再開前後の胸部X線写真を
図6に示す。ビタミンC点滴後に間質影の消失が見られた。ビタミンC点滴再開前後の胸部CT写真を
図7に示す。ビタミンC点滴後に蜂の巣状の陰影の消失が見られた。これらの写真から、ビタミンCによる間質性肺炎の治療効果が確認された。
【解決手段】ビタミンCおよび/またはその誘導体を含む、間質性肺炎を治療するための医薬組成物、ならびにビタミンCおよび/またはその誘導体を含む、間質性肺炎治療の補助剤。