(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記本体部の断面2次モーメントが、前記支持部の屈曲時の自然状態に戻る際の回復速度が、前記軟性材のみで形成された支持部の屈曲時の自然状態に戻る際の回復速度と前記弾性材のみで形成された支持部の屈曲時の自然状態に戻る際の回復速度の間の回復速度となるような断面2次モーメントである、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の眼内レンズ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の説明は、本発明の技術範囲は、以下の実施形態に限られない。
【0015】
眼内レンズは、患者の眼球の症例に合わせて様々な種類が存在し、大まかにワンピース型とマルチピース型の2種類の眼内レンズに分類できる。光学部と支持部が一体化された眼内レンズをワンピース型、光学部とは異なる素材の支持部が取り付けられた眼内レンズをマルチピース型と呼ぶ。ワンピース型の眼内レンズは、光学部と支持部が一体化されていることから、マルチピース型の眼内レンズと比較して以下の長所と短所がある。
【0016】
(ワンピース型の眼内レンズの長所)
・1種類の素材で製造できる。
・いわゆるモールド製法による生産を実現しやすい。
・支持部を後工程で取り付ける必要がないため、製造工程の簡素化が可能であり生産コストを下げやすい。
・光学部および支持部の厚みが薄い眼内レンズを設計しやすいため、小切開の創口に挿入しやすい。
・支持部の柔軟性が高いため、支持部が眼組織を傷つける懸念が小さい。
・支持部が幅広であるため、眼内レンズを眼球に挿入したときの、眼内レンズと水晶体嚢との接触面積が大きく、嚢内で眼内レンズの位置がずれにくい。
(ワンピース型の眼内レンズの短所)
・支持部の弾性が低く、支持部が屈曲する際の反発力によって眼組織を押す力が小さいため、眼内において眼内レンズの位置を固定する力が弱い。
・支持部によって光学部を後嚢に押し付ける力が弱いため、光学部のエッジの後嚢に対する密着性が低くなり、後発白内障を抑制する効果が低くなる。
・支持部の粘着性が高いため、眼内レンズを眼内に挿入した後にダイアリングなどによる整復が行いにくい(ダイアリングとは、眼内レンズを眼内に挿入した後に、眼内レンズの眼内での安定性を高めるとともに、緩衝材として眼内に注入された粘弾性物質を効率よく除去するために、眼内レンズを光学部の光軸周りに回転させることをいう。)。
・後嚢に亀裂が存在する場合は、支持部により眼内レンズを眼内で安定させることができないため、採用できない。
・支持部が破断する可能性があるため、縫着固定しにくい場合がある。
・水晶体が大きい場合、支持部の屈曲が不十分となり眼内レンズを眼内に十分に固定できない可能性がある。
・眼内レンズを眼内に挿入する際の折り畳み状態からの回復が遅く、術者にストレスを与える場合がある。
・手術中に支持部と水晶体嚢との接触が不十分なり、眼内で眼内レンズが予期せず回転する可能性がある。
【0017】
一方、マルチピース型の眼内レンズは、ワンピース型の眼内レンズと比較して以下の長所と短所がある。なお、ここでマルチピース型の眼内レンズは、1つの光学部に2本の支持部が接続された眼内レンズを指す。
【0018】
(マルチピース型の眼内レンズの長所)
・支持部の弾性が高いため、支持部の圧縮時の応力が大きい。
・支持部の粘着性が低い。
・支持部を細径に形成することができる。
・眼内において眼内レンズが水晶体嚢に張り付く懸念が小さいため、ダイアリングなどによる整復が行いやすい。
・支持部が光学部を後嚢に押し付ける力が大きいため、後発白内障の抑制効果が高い。
・後嚢に亀裂がある場合や、水晶体嚢やチン小帯が脆い場合でも、支持部と眼組織を縫着する必要なく眼内に挿入することができる。
・支持部が破断するリスクが低く、縫着固定しやすい。
・水晶体が大きくても、支持部が少し屈曲するだけで大きな反発力が得られるため、眼内において眼内レンズを固定することができる。
(マルチピース型の眼内レンズの短所)
・製造時に支持部を光学部に取り付ける部分の厚さを確保する必要があるため、小切開の創口に挿入する眼内レンズとしては不向きである可能性がある、
・支持部の光学部への取り付けには熟練した作業者による作業が必要な場合がある。
・支持部を光学部に取り付けるための装置が必要となる場合がある。
・眼内レンズを眼内に挿入する際に、折り畳まれた支持部が不意に回復することがあるため、不慣れな術者が眼内レンズを扱う際に患者の眼組織への負担が大きくなる懸念がある。
・水晶体嚢との密着性とが低いため、乱視低減用のいわゆるトーリック眼内レンズの場合、眼内レンズを眼内で位置合わせする際に、回転して位置がずれてしまいやすい。
【0019】
以上のように、ワンピース型の眼内レンズとマルチピース型の眼内レンズには、それぞれ長所と短所がある。例えば、できるだけ小切開の創口に眼内レンズを挿入することを求める場合や手術の経験が少ない術者が手術を行う場合はワンピース型の眼内レンズを採用し、眼内レンズの眼内での安定性を求める場合や上記の短所の観点から水晶体嚢の状態が懸念される場合には、マルチピース型の眼内レンズを採用するといったように、患者の眼球の状態や手術の状況によって眼内レンズを選択する必要がある。
【0020】
そこで、本実施形態では、上記のワンピース型の眼内レンズの長所とマルチピース型の眼内レンズの長所を兼ね備えた、すなわち弾性と柔軟性が共に高い眼内レンズを提供する。
【0021】
図1は、本実施形態における眼内レンズ10の一例を示す模式図である。
図1(a)は、眼内レンズ1を光学部11の光軸AXに平行な方向で見た図であり、
図1(b)は、眼内レンズ1を光学部11の光軸AXに垂直な方向で見た図である。
【0022】
眼内レンズ10は、所定の屈折力を有する光学部11と光学部11を眼球内で保持するための長尺平板状の2本の支持部12を有する。さらに、支持部12は、光学部11と一体的に接続されている本体部121を有する。また、支持部12は、本体部121に覆われた軸部122を有する。光学部11および支持部12とは、接合部13を介して互いに接続されている。軸部122は、支持部12が水晶体嚢に当接するなど圧縮荷重を受けて屈曲したときに最も屈曲する領域を含んで、支持部12の先端側と接合部13側に延伸している。
【0023】
一例として、
図1(a)において、支持部12が圧縮荷重を受けて屈曲したときに最も屈曲する領域14を点線の円で示す。眼内において、支持部12に加わる外力は局所的ではなく、力点を中心とした同心円状に同等の力がかかると考えられる。このように考えると、支持部12において、外力が加わる以前から最も屈曲している領域が最も曲がりやすい領域であるといえる。なお、支持部12において最も曲がりやすい領域は、支持部12を構成する軟性材(詳細は後述)の断面積が最も小さくなる領域と考えることもできる。
【0024】
光学部11および支持部12の本体部121の素材としては、軟性材が用いられる。ここで、軟性材とは、柔軟性が高く、変形しても容易に回復しない素材を指す。一例として、軟性材は、疎水性アクリル系素材、親水性アクリル系素材、シリコン素材が挙げられる。また、軸部122の素材としては、弾性材が用いられる。ここで、弾性材とは、容易に
変形するが、変形時に生じる反発力が大きく、形状記憶性が高い素材を指す。一例として、弾性材は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)素材、ゴム素材、ポリイミド素材が挙げられる。
【0025】
本実施形態における眼内レンズ10において、軸部122の端部123が光学部11から離間して設けられている。なお、軸部122の端部123が光学部11から離間していれば、光学部11の周辺部、すなわち光学部11と支持部12との連結部分である接合部13に軸部122が延在しないように設けてもよいし、軸部122の一部が接合部13に延在するように設けてもよい。従来のマルチピース型の眼内レンズにおいては、支持部を光学部に接続するため、光学部と支持部の接合部(本実施形態の接合部13に相当)の厚みを確保する、すなわち光軸AX方向からみた断面積を大きく確保する必要がある。一方、本実施形態における眼内レンズ10によれば、軸部122を光学部11に接続する必要がないため、接合部13は光学部11と本体部121との接続が確保されるだけの厚みを有すればよい。したがって、本実施形態における眼内レンズ10によれば、従来のマルチピース型の眼内レンズの接合部に比べてより薄型の接合部を実現することができる。これにより、眼内レンズ10は、従来のマルチピース型の眼内レンズに比べてより小切開の創口に挿入することが可能な眼内レンズであるといえる。
【0026】
次に、眼内レンズ10の支持部12の圧縮時の応力について説明する。眼内レンズを眼内において固定するには、眼内レンズが眼組織を押す力を十分に確保する必要がある。眼内レンズは自律的に移動することはできないため、外力を受けて生じる力、すなわち支持部が屈曲する際に生じる支持部の弾性力や支持部の圧縮時の応力である支持部の反発力を利用して、眼内レンズを眼内において固定する。
【0027】
図2に、眼内レンズ10を眼内において固定する際に生じる力について模式的に示す。眼内において、眼内レンズ10の支持部12が屈曲した状態で眼組織(水晶体嚢など)に当接する。このとき、支持部12には眼組織から圧縮荷重が加わる。支持部12には圧縮荷重に対する応力が生じるとともに、屈曲することによる弾性力が生じる。そして、支持部12から眼組織に対しては、これらの応力や弾性力が支持部12の反発力として生じる。また、一般的な眼内レンズと同様、眼内において眼内レンズ10の支持部12は光学部11より角膜側に突出している。そのため、眼内レンズ10の支持部12が径方向、すなわち光学部11の光軸に垂直な方向に圧縮されると、上記の支持部12の反発力によって光学部11が後嚢方向に付勢される力が生じる。そして、光学部11は支持部12の反発力によって後嚢側に付勢されることで眼内レンズ10が眼内に固定される。
【0028】
このように、眼内レンズ10が眼内において固定しやすい眼内レンズであるか否かは、支持部12の弾性力や圧縮時の応力の大きさによって左右されるといえる。一般に、支持部の弾性力や圧縮時の応力の大きさは、ワンピース型の眼内レンズよりもマルチピース型の眼内レンズの方が大きい。本実施形態の眼内レンズ10によれば、支持部12が本体部121と軸部122を有する構成となっているため、支持部12の圧縮時の応力が、支持部12を本体部121のみで構成した場合における支持部の圧縮時の応力よりも大きく、支持部12を軸部122のみで構成し、軸部122を光学部に直接接続した場合における支持部の圧縮時の応力よりも小さいものとすることができる。すなわち、本実施形態の眼内レンズ10によれば、従来のワンピース型の眼内レンズの支持部による圧縮時の応力よりも大きく、従来のマルチピース型の眼内レンズの支持部による圧縮時の応力よりも小さいものとすることができる。
【0029】
図3に、上記のように支持部12が本体部121と軸部122を有する眼内レンズ10を試作したサンプルにおける支持部12と、従来のワンピース型の眼内レンズのサンプルにおける支持部と、従来のマルチピース型の眼内レンズのサンプルにおける支持部とで、
圧縮時の圧縮荷重を比較したグラフの一例を示す。また、
図4(a)、(b)に、
図3のグラフを作成するために用いた測定方法の一例を模式的に示す。本実施形態では、ISO11979−3の圧縮荷重試験に準拠して測定する。本測定では、眼内レンズ20の2本の支持部21を測定器30に当接させ、眼内レンズ20を測定器30に対して位置決めする。
図4(b)に示すように、測定器30は、一般的な眼内の水晶体嚢を模した円弧状の面31を有し、眼内レンズ20の支持部21の一部が面31に当接する。また、測定器30の本体部32は眼内レンズ20の光軸CXに垂直な方向に移動することができる。本体部32が移動することで、本体部32の変位に応じた圧縮荷重が面31から支持部21に加わる。本体部32は例えばロードセルなどに接続されており、本体部32の変位に応じて支持部21が変形することによって生じる支持部21からの応力を測定できる。そして、測定した応力から
図3に例示するグラフが得られる。なお、以下の説明では、支持部が外力を受けた際に生じる反発力を圧縮荷重と称する。
【0030】
図3のグラフ中、横軸の数字はサンプルの番号を示し、サンプル番号A1〜A5は本実施例である軸部122を有するサンプルを、C1〜C3は同様の製法にて作製した軸部122を有さない試作品を、サンプル番号「1P」は従来のワンピース型の眼内レンズのサンプルを、サンプル番号「3P」は従来のマルチピース型の眼内レンズのサンプルをそれぞれ示す。また、グラフ中、縦軸は圧縮荷重の測定値(mN)を示す。なお、眼内レンズ10を試作したサンプルにおける形状は、光学部11のレンズ厚さは0.7mm〜0.9mm、支持部および光学部を含む全長は13.0mm、支持部の厚みは0.35mm、支持部の幅は0.3mm〜0.8mmであり、従来のワンピース型の眼内レンズと同等であるため、従来のワンピース型の眼内レンズを挿入する場合と同等の大きさの切開創に本実施形態の眼内レンズを挿入できると考えられる。
【0031】
図3に示すグラフから、サンプル番号がA1〜A5である本実施形態における眼内レンズ10のサンプルに係る支持部12によれば、従来のワンピース型の眼内レンズ(サンプル番号「1P」)の支持部より圧縮荷重の数値が大きくなっている。また、サンプル番号がA1〜A5であるサンプルに係る支持部12によれば、従来のマルチピース型の眼内レンズの支持部よりは圧縮荷重の数値が小さくなっている。すなわち、本実施形態の眼内レンズ10の支持部12の圧縮荷重は、従来のワンピース型の眼内レンズの支持部とマルチピース型の眼内レンズの支持部の中間の圧縮荷重となっている。このことから、本実施形態における軸部を有する眼内レンズは、従来のワンピース型の眼内レンズと同じ外形であるが、圧縮荷重が大きく、眼内での固定が向上すると考えられる。さらに、従来のマルチピース型の眼内レンズのように弾性が強すぎて扱いにくいという点も改善されている。
【0032】
また、本実施形態においては、支持部12の本体部121を形成する軟性材の断面2次モーメントの観点から見ると、従来のワンピース型の眼内レンズの支持部に比べて十分な断面2次モーメントを有するように本体部121が形成されているといえる。ここで、断面2次モーメントとは、いわゆるはり部材などの部材において、曲げモーメントに対する変形のしにくさを表す量である。部材の断面が変化すると断面2次モーメントの値も変化する。一方、同様の製造方法にて作製したサンプルC1〜C3は従来のワンピース型の眼内レンズと同等の圧縮荷重であり、本実施形態で採用する製法でも軸部がなければ従来のワンピース型の眼内レンズと同様な眼内レンズを作製することができる。
【0033】
また、上記の本実施形態における眼内レンズの各サンプルの支持部を実際の手術時のように折り畳んだ状態から自然状態に回復するまでの時間を目視で確認したところ、従来のワンピース型の眼内レンズの支持部よりも短く、従来のマルチピース型の眼内レンズの支持部より長いことが確認できた。
【0034】
さらに、本実施形態における眼内レンズの各サンプルの支持部の回復速度は、手術中で
も術者の施術に支障をきたす懸念がないと考えられる速度であった。また、本実施形態における眼内レンズの各サンプルの支持部が自然状態に回復しない現象を確認できなかった。従来のワンピース型の眼内レンズでは、支持部が有する粘着性が原因で自然状態に回復しない可能性がある点を踏まえると、本実施形態における眼内レンズの眼内での安定性は、従来のワンピース型の眼内レンズより高いと考えられる。さらに、本実施形態における眼内レンズの各サンプルにおける眼内レンズ全体の体積は、従来のワンピース型の眼内レンズと同等であることから、従来のワンピース型の眼内レンズ用の挿入器具に、本実施形態における眼内レンズも用いることができると考えられる。
【0035】
次に、
図5(a)〜(c)を参照しながら、本実施形態における眼内レンズ10の製造方法の一例について説明する。本製造方法においては、2枚の透明な平面ガラス板、シムリング(厚み:0.1mm〜0.3mm)、弾性材として上記した素材、従来のワンピース型の眼内レンズの製造に用いられる樹脂型、軟性材として上記した素材のモノマーを用いる。
【0036】
まず、1枚の平面ガラスの上にシムリングを載置し、シムリングの開口内に弾性体を載置する。なお、シムリングの厚さは、弾性材の厚さより大きく、眼内レンズの製造が完了する際における支持部の厚さの3分の2以下の厚さであることが望ましい。また、シムリングは磁性体で形成されていてもよい。
【0037】
次に、軟性材のモノマーをシムリングの開口内に注入し、もう1枚の平面ガラスを、平面ガラスでシムリングを挟むように載置する。このとき、モノマーに気泡が生じないようにする。また、弾性材がシムリングに接触しないようにする。なお、シムリングが磁性体で形成されている場合は、平面ガラスの上から磁石でシムリングを移動させて位置合わせすることもできる。
【0038】
次に、軟性材のモノマーが重合を開始する温度環境下に保管し、モノマーを重合させる。
図5(a)に、モノマーを重合させる際の上記の各部材の状態の一例を示す。
図5(a)に示すように、2枚の平面ガラス100、110の間に、シムリング200、軟性材のモノマー300、弾性材により形成された軸部400がそれぞれ挟まれている。なお、弾性材により形成された軸部400が、眼内レンズの製造完了時において上記の支持部12の軸部122となる。このとき、2枚の平面ガラス100、110を磁石で挟んで固定させることで、モノマーの重合をより確実に行うことができる。
【0039】
モノマーの重合が完了した後、軸部を含む重合したモノマーのシートを適当な形に切り出す。一例として、
図5(b)に示すように、重合が完了したモノマー300から点線で示す形状で軸部400を含むシート410を切り出す。そして、切り出したシート410を、樹脂型の下型内に載置する。樹脂型内には眼内レンズの支持部用に設けられた領域があり、当該領域にシート410を載置する。ここで、載置するシート410の上下については、支持部が表面に暴露している面が上になるようにシート410を載置する。これにより、次の工程で軟性材のモノマーを注入することで、弾性材全体を軟性材で覆うことができる。なお、シート410の上下を逆にして載置してもよく、この場合、弾性材が軟性材に覆われていない部分が下となるため、次の工程で軟性材のモノマーを注入しても、弾性材は軟性材に覆われていない部分が残ったままとなる。シート410の上下をどのようにするかは適宜選択すればよい。
【0040】
図5(c)に樹脂型500に弾性材400、401を含むシート410、411を載置した状態の一例を示す。なお、弾性材401とシート411は、弾性材400とシート410と同様に作製する。
図5(c)に示すように、眼内レンズの光学部の作製領域510を挟むように弾性材400を含むシート410が載置される。なお、樹脂型には、シート
410を載置する際の位置合わせを支援するために、眼内レンズを構成しない部分に突起や土手が設けられていてもよい。さらに、眼内レンズの外形を加工する際に加工位置が分かるように、例えば樹脂型のフランジ領域に目印となるマークが付されていてもよい。
【0041】
次に、軟性材のモノマーを樹脂型内部に注入し、樹脂型の上型をかぶせて密閉する。このとき、モノマーに気泡が生じないようにする。また、上記で載置した弾性材のシートの位置がモノマーに押されてずれないようにする。そして、軟性材のモノマーが重合する温度環境下に保管し、重合を完了させる。
【0042】
モノマーの重合が完了した後、樹脂型から眼内レンズの形状に合わせて切り出す。このとき、弾性材が支持部に含まれるように位置合わせを行う。この位置合わせは、上記の位置合わせ用の目印が樹脂型にあると、より容易に行うことができる。切り出した眼内レンズは、従来のワンピース型の眼内レンズの作製工程を経て、本実施形態の眼内レンズが完成する。
【0043】
次に、
図6(a)〜(c)を参照しながら、本実施形態における眼内レンズの製造方法の一例について説明する。本製造方法においては、本実施形態の眼内レンズの製造に用意された樹脂型(上型、下型)、弾性材として上記した素材、軟性材として上記した素材のモノマーを用いる。さらに、樹脂型の下型には各素材の位置合わせのための印が付されている。また、樹脂型の上型には、支持部を形成する弾性材の位置決めに用いられるガイドが設けられている。
【0044】
まず、樹脂型の下型に、弾性材の位置決め用のガイドを軟性材のモノマーを重合することで形成する。上型には、下型に注入されるモノマーをガイドの形状に重合させるように型が形成されている。ガイドの形状は、後で行う軟性材のモノマーの重合がしやすく、弾性体の位置を限定できる形状とする。また、ガイドは下型内の支持部の作製領域に設けられる。また、ガイドの載置面からの高さは、弾性材の厚さより高く、製造する眼内レンズの本体部の厚さより低くなるように設定する。さらに、弾性材を載置する領域には、重合する軟性材の厚さが例えば0.1mm以上となるようにガイドを形成する。なお、ガイド用のモノマーを重合する際に、下型内の光学部の作製領域内に軟性材が存在していてもよい。なぜならば、ガイド用に重合したモノマーも、後で行う軟性材のモノマーの重合の際にモノマーを覆う別の上型の表面を鏡面とすることで、最終的に得られる光学部の透明性を確保することができるためである。次に、樹脂型の下型に、ガイドの型が形成された上型を重ね合わせ、モノマーの重合が完了してガイドが形成されたら、上型を下型から外して、ガイドを用いて弾性体を下型に載置する。
【0045】
図6(a)に、上記の樹脂型の下型900に軟性材によって形成されたガイド600〜603、下型900に載置された弾性材700、701、光学部を形成する軟性材800を示す。
図6(a)に示すように、下型の上面視においてガイド600〜603の間に挟まれるように弾性材700、701が載置されており、弾性材700、701がガイド600〜603によって位置決めされる。弾性材700、701は、眼内レンズ10の軸部122となり、光学部11を形成する軟性材800から離れた位置に載置されているため、製造後の眼内レンズ10において軸部122が光学部11から離間して設けられる構成が実現される。
【0046】
次いで、軟性材のモノマーを注入し、別の上型で下型を覆い、モノマーの重合を行う。
図6(b)に、下型900において、当該モノマーの重合が完了した状態の一例を示す。
図6(a)において形成されたガイド600〜603は、その周囲にモノマーが注入されるため、この段階では消失している。モノマーの重合が完了した後、眼内レンズを切り出すための位置合わせをしてから眼内レンズの外形を切り出す。
図6(c)に、下型900
から切り出される眼内レンズの一例を示す。
図6(c)に示すように、下型900からは、重合によって形成された弾性材700、701および光学部を形成する軟性材800を含む領域のモノマーが切り出される。また、弾性材700、701を囲む領域は、支持部12および接合部13が形成されるだけの余裕を持って切り出される。切り出した眼内レンズは、従来のワンピース型の眼内レンズの作製工程を経て、本実施形態の眼内レンズが完成する。
【0047】
上記の製造方法によって得られる眼内レンズ10の支持部12は、弾性材によって形成された軸部122と軟性材800によって形成された本体部121とを有し、本体部121は軸部122を覆うように設けられるとともに、支持部12と光学部11との接合部13には、軸部122が光学部11から離間して設けられる構成となっているため、支持部12が屈曲する際に生じる反発力は、従来のワンピース型の眼内レンズの支持部の反発力と従来のマルチピース型の眼内レンズの支持部の反発力との間の大きさの反発力となる。この結果、上記に例示する短所を踏まえると従来のワンピース型の眼内レンズあるいは従来のマルチピース型の眼内レンズの採用が難しい場合でも、支持部の弾性力や圧縮時の応力などの観点から、本実施形態の眼内レンズ10を患者の眼球の条件により適合する眼内レンズとして採用することができるといえる。
【0048】
以上が本実施形態に関する説明であるが、上記の眼内レンズの構成は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想と同一性を失わない範囲内において種々の変更が可能である。以下に、上記の実施形態の製造方法の変形例について
図7(a)、(b)を参照しながら説明する。
【0049】
図7(a)、(b)に、下型の上面視および側面視における図を模式的に示すように、本変形例では、上記のガイド600〜603の代わりに、支持部12の軸部122となる弾性材を支える架橋部1300〜1303が下型1200設けられている。架橋部1300〜1303は、例えばガイド600〜603と同様に軟性材のモノマーを重合する手法で形成することができる。そして、架橋部1300、1301に弾性材1000が載置され、架橋部1302、1303に弾性材1001が載置される。このように弾性材1000、1001が架橋部1300〜1303に載置された状態で、上記と同様に軟性材のモノマーを注入および重合することで、眼内レンズを製造することができる。
【0050】
図8(a)、(b)に、本変形例において製造された眼内レンズ1500の一例を示す。なお、上記の実施形態と同様の構成については同一の番号を付し、詳細な説明は省略する。本変形例では、弾性材1000、1001の架橋部1300〜1303に当接する部分には、軟性材が注入されないため、製造後の眼内レンズ1500の支持部1400には、軸部122が本体部121に覆われていない部分1401〜1404を有する。本変形例では、軸部122の一部に設けられる本体部121に覆われていない部分の数や大きさを変更することで、支持部1400の圧縮時の応力などの反発力を変更することができる。
【0051】
また、軸部122の本体部121に覆われていない部分1401〜1404は、支持部1400が屈曲する際に最も屈曲する部分以外に設けられている。
【0052】
上記の説明においては、光学面をモールド製法で形成する例を示したが、重合後に光学面を加工することにより光学面を形成してもよい。