(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
(全固体二次電池の構成)
まず、一般的な全固体二次電池について説明する。
図1は、一般的な全固体二次電池1の断面図を示している。全固体二次電池1は、正極集電体2と、正極層3と、固体電解質層4と、負極層5と、負極集電体6とを備えている。固体電解質層4は、正極層3と負極層5との間に配置されている。これら正極層3、固体電解質層4および負極層5は、正極集電体2と負極集電体6との間に配置されている。正極層3の固体電解質層4とは反対側の表面には正極集電体2が配置されている。負極層5の固体電解質層4とは反対側の表面には負極集電体6が配置されている。
【0011】
正極層3は、粉末状の正極活物質を成膜することによって得られる。正極活物質としては、例えば、酸化物系のコバルト酸リチウム(LiCoO
2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2)、マンガン酸リチウム(LiMnO
2)、または、LiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2等が用いられる。また、正極層3は、粉末状の正極活物質と粉末状の固体電解質とを混合したものを成膜することによっても得られる。固体電解質としては、リチウムイオン電導性の有機化合物、無機化合物、または有機・無機両化合物が用いられ、例えば、硫化物無機固体電解質であって、その中でもLi
2S(80mol%)−P
2S
5(20mol%)等が用いられる。これら正極活物質対固体電解質の混合比率は、95対5〜30対70の範囲であることが好ましく、例えば70対30である。
【0012】
負極層5は、粉末状の負極活物質を成膜することによって得られる。負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛炭素繊維、樹脂焼成炭素等の炭素材料、シリコン、錫、または、リチウム等が用いられる。また、負極層5は、粉末状の負極活物質と粉末状の固体電解質とを混合したものを成膜することによっても得られる。固体電解質としては、上記正極層3の場合と同様に、例えば、硫化物無機固体電解質等が用いられる。これら負極活物質対固体電解質の混合比率は95対5〜30対70の範囲であることが好ましく、例えば60対40である。
【0013】
固体電解質層4は、粉末状の固体電解質を成膜することによって得られる。固体電解質としては、前述した場合と同様に、例えば、硫化物無機固体電解質等が用いられる。
【0014】
正極集電体2としては、例えば、厚さ20μmのエッチドアルミニウム(表面電解処理アルミ箔ともいう)が用いられる。このエッチドアルミニウムは、その両面に粗化処理が施されたものである。負極集電体6としては、例えば、厚さ18μm程度の薄い板状の銅が用いられる。この薄い板状の銅は、両面に粗化処理が施されたものである。
【0015】
以下、「正極活物質」とは、正極活物質単独で用いられるものと、正極活物質と固体電解質とを混ぜ合わせて用いられるものとを含むものとする。また、「負極活物質」とは、負極活物質単独で用いられるものと、負極活物質と固体電解質とを混ぜ合わせて用いられるものとを含むものとする。
【0016】
(全固体二次電池の製造方法)
このような全固体二次電池1を製造する方法としてはさまざまな方法がある。以下、その一例を説明する。まず、
図2に示すように、正極集電体2の表面に粉末状の正極活物質を成膜して、正極集電体2の表面上に正極層3を形成(積層)する。正極活物質の成膜方法としては、静電スクリーン法や静電スプレー法が挙げられ、その他粉体を塗布可能な方法であれば特に限定されない。その後、
図3に示すように、正極集電体2と正極層3とで構成された積層体を上下1対のプレスピン7等で押圧することによって正極層3を加圧成形する。
【0017】
また、
図4に示すように、負極集電体6の表面には、粉末状の負極活物質を成膜して、負極集電体6の表面上に負極層5を形成(積層)する。負極活物質の成膜方法としては、正極活物質の成膜方法と同様に、粉体を成膜可能な方法であれば特に限定されない。その後、
図5に示すように、負極集電体6と負極層5とで構成された積層体を上下1対のプレスピン7等で押圧することによって負極層5を加圧成形する。
【0018】
そして、
図6に示すように、正極層3と負極層5とを向かい合わせた状態で、これらの間で固体電解質を成膜して固体電解質層4を形成(積層)する。固体電解質の成膜方法としては、正極活物質や負極活物質の成膜方法と同様に、粉体を成膜可能な方法であれば特に限定されない。その後、
図7に示すように、上下1対のプレスピン7等によって、正極集電体2と、正極層3と、固体電解質層4と、負極層5と、負極集電体6とで構成された積層体を押圧して固体電解質層4を加圧成形する。これにより、全固体二次電池1を得ることができる。
【0019】
(湾曲発生のメカニズム)
次に、本発明の実施の形態の詳細を説明する前に、全固体二次電池の湾曲が発生するメカニズムについて、従来の全固体二次電池の製造方法とともに説明する。
図8は、正極集電体2の表面に正極層3を形成(積層)した状態を示す。
図9は、上下1対のプレスピン7によって正極集電体2と正極層3とで構成された積層体を押圧して、正極層3を加圧成形する(成形圧力Pを加える)工程が行われている状態を示す。
【0020】
成形圧力Pの大きさは、特に限定されないが、例えば100MPa〜1000MPa程度である。
図9の二点破線部分は加圧成型工程の前の正極層3を示し、実線部分は加圧成型中の正極層3を示す。正極層3に成型圧力Pを加えて圧縮すると、その押圧の方向(以下、単に押圧方向と称する。)の圧縮応力a(内部応力)、及びその押圧方向に対して垂直な方向(以下、単に垂直方向と称する。)の圧縮応力b(内部応力)が発生する。このとき、正極層3は、正極集電体2から摩擦力Fを受けることとなる。加圧成型中において、押圧方向の圧縮応力aは成型圧力Pと相殺し、垂直方向の圧縮応力bは摩擦力Fと相殺する。
【0021】
図10は、加圧成形工程が終了して成形圧力P(
図9参照)を解除した状態を示す。成形圧力Pが解除されることにより、押圧方向の圧縮応力a(
図9参照)は緩和される。また、成形圧力Pが解除されると、同時に摩擦力F(
図9参照)も解除される。これにより、垂直方向の圧縮応力bは時間をかけて徐々に緩和される。押圧方向の圧縮応力a及び垂直方向の圧縮応力bが緩和されることによって、正極層3は押圧方向及び垂直方向に伸びることとなる。
【0022】
ここで、押圧方向の伸びは、正極層3の厚みが数百μm程度と小さいため、特に問題とならないのに対して、垂直方向の伸びは、正極層3の長さが約100mm程度と大きいため無視できない。そのため、正極層3は、圧縮応力bが緩和されることによって正極集電体2の表面(正極層3が形成された表面)を垂直方向に引き伸ばしながら伸びてゆく。これにより、
図11に示すように、正極集電体2は、正極層3が形成された表面側に膨らむように湾曲する。正極集電体2が湾曲することにより、最終的に製造された全固体二次電池全体としても湾曲することとなる。
【0023】
(本発明の実施の形態に係る全固体二次電池の製造方法)
次に、本発明の実施の形態に係る全固体二次電池の製造方法の詳細について説明する。本発明の実施の形態に係る全固体二次電池の製造方法では、
図12、13に示すように、正極層3に引張力Tを垂直方向へ加えながら加圧成形を行う。
【0024】
図12に示すように、正極層3に対して垂直方向に引張力Tを加えると、この引張力Tの方向と反対の方向に引張応力c(内部応力)が発生する。この状態で、
図13に示すように、正極層3に成形圧力Pを加えて圧縮すると、上記の垂直方向の圧縮応力bが発生しようとするが、この圧縮応力bは引張応力cによって打ち消される。圧縮応力bが打ち消されることによって、成形圧力Pを解除した際における正極層3の垂直方向の伸び量を低減することができる。したがって、
図14に示すように、正極集電体2の湾曲を抑制することができ、全固体二次電池全体としての湾曲量を抑制することが可能となる。
【0025】
ここで、湾曲量とは、湾曲した際の全固体二次電池1の高さt2(
図19参照)と全固体二次電池1の厚さt1(
図1参照)との差として定義される。以下、従来の方法(
図8〜11)と本実施の形態に係る方法とで、全固体二次電池の湾曲量を比較した実験結果について説明する。
【0026】
実験条件としては、従来および本実施の形態のいずれの場合も、正極層3、固体電解質層4および負極層5の面積は、約100mm×100mmとし、これら各層の厚さは、それぞれ正極層3を約100μmとし,固体電解質層4を約200μmとし,負極層5を約100μmとした。また、いずれの場合も、正極層3としては、LiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2対Li
2S(80mol%)−P
2S
5(20mol%)の混合比率が70対30のものを用い、固体電解質層4としては、Li
2S(80mol%)−P
2S
5(20mol%)を用い、負極層5としては、グラファイト対Li
2S(80mol%)−P
2S
5(20mol%)の混合比率が60対40のものを用いた。加圧成形の成形圧力Pの大きさは、いずれの場合も500MPaとした。本実施の形態においては、加圧成形中に大きさ1N/cmの引張力Tを正極層3に加えた。
【0027】
従来の全固体電池の製造方法においては、湾曲量は13mmであった。これに対して、本実施の形態に係る全固体二次電池の製造方法においては、湾曲量は7mmとなり、従来の方法と比較して、湾曲量を半分以下に抑制することができた。
【0028】
正極層3に対して引張力Tを加えるためには、例えば、
図13や15に示すように、正極集電体2の両端を下側のプレスピン7とバー8との間で挟んだ状態で、このバー8を垂直方向に移動させる方法がある。
図15は、上側のプレスピン7を省略したうえで、
図13を上側から見たときの図(平面図)である。正極集電体2が垂直方向に引っ張られることにより、それに引きずられて正極集電体2の表面の正極層3に引張力Tが加えられる。
図15に示す方法に代えて、
図16に示すように、正極集電体2の四方をバー8で挟んだ状態で、4方向に正極集電体2を引っ張るようにしてもよい。
【0029】
なお、本実施の形態に係る全固体二次電池の製造方法は、正極層3に引張力Tを加える方向が垂直方向である態様であるが、本発明はこの態様に限られない。引張力を加える方向が、押圧方向と交差する方向であれば、その引張力は垂直方向の成分を有する。そのため、その垂直方向の成分が、圧縮応力bを打ち消す方向に引張応力cを発生させることができるため、これによって、正極集電体2の湾曲を抑制することが可能となる。
【0030】
以上、正極集電体2の湾曲について述べたが、負極集電体6も同様に湾曲する。そのため、負極集電体6の表面に形成された負極層5の加圧成形を行う際にも、その負極層5に引張力を加えながら行うことが好ましい。なお、特許請求の範囲において、「電極層」とは、正極層または負極層を意味し、「電極集電体」とは、正極集電体または負極集電体を意味するものとする。
【0031】
また、本実施の形態に係る全固体二次電池の製造方法は、
図2〜7に示すように、まず正極集電体2の表面で正極層3を加圧成形するとともに負極集電体6の表面で負極層5を加圧成形し、これらを正極層3と負極層5とを向かい合わせた状態で間に固体電解質層4を介在させた状態でさらに固体電解質を加圧成形する態様である。しかしながら、本発明の全固体二次電池の製造方法は、この態様に限られるものではない。
【0032】
例えば、
図17に示すように、正極集電体2の表面に正極層3、固体電解質層4、および負極層5をこの順番で積層し、
図18に示すように、この積層体を押圧することによって正極層3、固体電解質層4、および負極層5をまとめて加圧成形した後に、
図7に示すように、負極層5側に負極集電体6を配置してさらに押圧することによっても全固体二次電池1を製造することができる。この場合、押圧の回数は2回となり、
図2〜7に示す工程の押圧の回数が3回であることと比較して、製造工程を単純化することが可能となる。
【0033】
また、これらの全固体二次電池の製造方法に代えて、正極集電体2の表面に正極層3、固体電解質層4、および負極層5をこの順番で積層し、さらに、負極層5側に負極集電体6を配置した状態で、
図7に示すように、この積層体を押圧することによっても全固体二次電池1を製造することができる。この場合、押圧の回数が1回となり、さらに製造工程を単純化することが可能となる。
【0034】
ただし、上記の全固体二次電池の製造方法においては、正極層3と負極層5に対して同時に引張力を加えることが困難な場合がある。このような場合は、正極層3及び負極層5(すなわち、1対の電極層)のうち、伸び量が小さい方の電極層に引張力を加えることが好ましい。なお、電極層の伸び量とは、[内部応力が緩和されて湾曲した状態における電極層の長さ]から[加圧成形前の湾曲していない電極層の長さ]を差し引いた値を意味するものとする。以下、好ましい理由を説明する。
【0035】
加圧成形後において、正極集電体2は、正極層3の内部応力が緩和されることによって負極集電体6側(
図19の紙面上側)に膨らむように湾曲しようとする。一方で、負極集電体6は、負極層5の内部応力が緩和されることによって正極集電体2側(
図19の紙面下側)に膨らむように湾曲しようとする。
図19においては、負極集電体6側に湾曲しようとする力が、正極集電体2側に湾曲しようとする力を上回り、これによって、全固体二次電池1全体としても負極集電体6側に湾曲している。
【0036】
全固体二次電池1がいずれの方向に膨らむように湾曲するかは、電極集電体と電極層との密着性、および、電極層の伸び率に依存する。例えば、正極集電体2と正極層3との密着性が、負極集電体6と負極層5との密着性を上回る場合は、正極層3は、その内部応力が緩和されることによって正極集電体2の表面を引き伸ばしながら伸びてゆく一方で、負極層5は、内部応力が緩和されることで負極集電体6の表面を滑りながら伸びてゆく。これにより、負極集電体6側に膨らむように湾曲しようとする力が、正極集電体2側に膨らむように湾曲しようとする力を上回り、全固体二次電池1は、
図19に示すように、負極集電体6側に膨らむように湾曲しようとする。
【0037】
反対に、負極層5と負極集電体5との密着性が、正極層3と正極集電体2との密着性よりも高い場合は、正極集電体2側に膨らむように湾曲しようとする力が、負極集電体6側に膨らむように湾曲しようとする力を上回り、全固体二次電池1全体が正極集電体2側に膨らむように湾曲しようとする。
【0038】
また、電極層の伸び率とは、その電極層の材質や、その電極層を構成する粉体の粒径に依存するものである。正極層3の伸び率が負極層5の伸び率よりも高い場合、内部応力が緩和されることによって、正極層3は正極集電体2の表面を大きな力で引き伸ばそうとする一方で、負極層5はそれよりも小さな力で負極集電体6の表面を引き伸ばそうとする。これにより、負極集電体6側に膨らむように湾曲しようとする力が、正極集電体2側に膨らむように湾曲しようとする力を上回り、全固体二次電池1は、
図19に示すように、負極集電体6側に膨らむように湾曲しようとする。
【0039】
反対に、負極層5の伸び率が正極層3の伸び率よりも高い場合は、正極集電体2側に膨らむように湾曲しようとする力が、負極集電体6側に膨らむように湾曲しようとする力を上回り、全固体二次電池1全体が正極集電体2側に膨らむように湾曲しようとする。
【0040】
従って、全固体二次電池1がいずれの方向に膨らむように湾曲するかは、電極集電体と電極層との密着性、および、電極層の伸び率に依存する。すなわち、電極層との密着性が低い方の電極集電体側に向かって膨らむように湾曲しやすく、また、電極層の伸び率が低い方の電極集電体側に向かって膨らむように湾曲しやすくなる。
【0041】
ここで、電極層の伸び量については、例えば
図19に示すように、全固体二次電池1が負極集電体6側に膨らむように湾曲する場合は、正極層3の伸び量よりも負極層5の伸び量の方が大きい。これは、正極層3が負極層5よりも大きく湾曲するため、湾曲した状態における負極層5の曲率半径が、正極層3の曲率半径よりも大きくなるからである。従って、全固体二次電池全体として大きく湾曲することを防止するために、伸び量が小さい方の正極層3に引張力を加えることが好ましい。ただし、正極層3の伸び量が負極層5の伸び率よりも大きい場合は、当然に負極層5に引張力を加えることが好ましい。
【0042】
ところで、本実施の形態において、正極層、負極層、および固体電解質層の形成に用いられる固体電解質として硫化物無機固体電解質を用いる態様が例示されている。固体電解質として硫化物無機固体電解質を用いる場合、硫化物無機固体電解質は、高い結着力を有するため、加圧成形を行うことによって各層同士の密着性や各層と電極集電体との密着性に優れたものとなる。一方で、硫化物無機固体電解質は、押圧を解除したときの伸び率も高いため、全固体二次電池の湾曲に大きく寄与してしまう。
【0043】
本実施の形態に係る全固体二次電池の製造方法は、前述したように、全固体二次電池の湾曲を抑制することができるものであるため、固体電解質として硫化物無機固体電解質を用いたとしても、全固体二次電池が大きく湾曲することを防止できる。したがって、本実施の形態に係る全固体二次電池の製造方法は、固体電解質として硫化物無機固体電解質を用いた場合に特に有用である。ただし、固体電解質として硫化物無機固体電解質以外の固体電解質を用いる場合であっても同様に湾曲は発生するため、このような場合であっても、当然に本実施の形態に係る全固体二次電池の製造方法は有用である。