特許第6937128号(P6937128)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6937128
(24)【登録日】2021年9月1日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】磁気エンコーダおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/245 20060101AFI20210909BHJP
【FI】
   G01D5/245 110M
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-17322(P2017-17322)
(22)【出願日】2017年2月2日
(65)【公開番号】特開2018-124190(P2018-124190A)
(43)【公開日】2018年8月9日
【審査請求日】2020年1月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】小池 孝誌
(72)【発明者】
【氏名】福島 靖之
(72)【発明者】
【氏名】山口 裕也
【審査官】 榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−21741(JP,A)
【文献】 特開2010−186794(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第1353151(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/00− 5/252
G01D 5/39− 5/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラック形成面部の縁から折れ曲がって続く折り曲げ板部を有する環状の芯金と、この芯金の前記トラック形成面部に設けられた磁性部材にそれぞれN極とS極が交互に着磁された2列以上の隣合って並ぶ磁気トラックと備え、前記2列以上の磁気トラックとして、着磁極数が最も多く角度算出に使用される主トラックと、それらの位相差を算出するための副トラックとがあり、前記主トラックが前記副トラックよりも前記折り曲げ板部に近い側に位置することで精度向上された磁気エンコーダ。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気エンコーダにおいて、前記芯金は、外周面が前記トラック形成面部となる円筒状部と、この円筒状部から内径側に折れ曲がった前記折り曲げ板部と、この折り曲げ板部の内径側縁から前記円筒状部と反対側に同心で続く円筒状の取付部とを有する磁気エンコーダ。
【請求項3】
請求項1に記載の磁気エンコーダにおいて、前記芯金は、平板の環状で片面が前記トラック形成面部となる平板部と、この平板部の内径側縁から前記トラック形成面部と反対側に折れ曲がって続き円筒状の取付部となる前記折り曲げ板部とを有する磁気エンコーダ。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の磁気エンコーダにおいて、前記主トラックの方が前記副トラックよりも磁極のピッチの精度が高い磁気エンコーダ。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の磁気エンコーダを製造する方法であって、前記芯金の外周に前記磁性部材が設けられた未着磁の磁気エンコーダを製造した後、各列の磁気トラックを順次着磁し、この着磁の過程で、現在着磁を行わない磁気トラックまたは磁気トラックとなる部分を磁気シールド部材で遮蔽しながら、N極とS極とを1極ずつ交互に着磁する磁気エンコーダの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の磁気エンコーダの製造方法において、前記副トラックを着磁した後、前記主トラックを着磁する磁気エンコーダの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転速度あるいは回転位置の検出に使用する磁気エンコーダおよびその製造方法に関し、特に絶対角検出で使用する複列の磁気トラックを有する磁気エンコーダおよびその製造方法に適用される技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、磁気エンコーダを複列の磁気エンコーダトラックで着磁する際に、磁気シールドを使って、着磁対象以外の磁気エンコーダトラック列への磁束の流れを遮蔽するものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5973278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の磁気エンコーダでは、それぞれの磁気トラックに1極対の差を設けることで、絶対角を検出する用途で使用することが可能であるが、角度検出の基準となる側の磁気トラック(主トラック)の着磁精度の要求は高い。
たとえば、32極対と31極対で着磁した2列の磁気トラックを用いて絶対角度を検出する場合、32極対側の1極対当たりの角度は11.25度(360/32)となる。どの位相位置にあるかを判別するには0.35度(11.25/32)以下の着磁精度、例えば安全を見て±0.1度以下の着磁精度が要求される。着磁極数が64極対と63極対のように極数が増えると、要求精度は更に高くなり、たとえば、±0.04度以下が要求される。そのため、要求精度を満たす磁気エンコーダを製造することが難しい。
【0005】
そこで、この発明は、複列の磁気トラックを有し絶対角を検出可能な磁気エンコーダを、より高精度に、かつ簡易に製造することができる磁気エンコーダおよびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の磁気エンコーダは、トラック形成面部の縁から折れ曲がって続く折り曲げ板部を有する環状の芯金と、この芯金の前記トラック形成面部に設けられた磁性部材にそれぞれN極とS極が交互に着磁された2列以上の隣合って並ぶ磁気トラックと備え、前記2列以上の磁気トラックとして、着磁極数が最も多く角度算出に使用される主トラックと、それらの位相差を算出するための副トラックとがあり、前記主トラックが前記副トラックよりも前記折り曲げ板部に近い側に位置する。前記磁性部材は、前記主トラックと副トラックとに共通に使用される一体のものであっても、また個々の磁気トラック毎に別々に設けられたものであっても良い。
【0007】
前記芯金のトラック形成面部における、前記折り曲げ板部に近い部分は、芯金の折り曲げによって、剛性が高く回転振れが小さい部分となっている。この回転振れが小さい部分に、高精度が要求されかつ磁極数が多い磁気トラックである主トラックが配置されているため、検出角度の精度の向上と安定化が期待される。また、製造についても、主トラックと副トラックとの配置の工夫だけで済むため、精度向上を図りながら簡易に製造することができる。
【0008】
この発明の磁気エンコーダにおいて、前記芯金は、外周面が前記トラック形成面部となる円筒状部と、この円筒状部から内径側に折れ曲がった前記折り曲げ板部と、この折り曲げ板部の内径側縁から前記円筒状部と反対側に同心で続く円筒状の取付部とを有するようにしても良い。すなわち、ラジアル型としても良い。
このようにラジアル型とした場合にも、精度向上を図りながら簡易に製造することができる。また、前記折り曲げ板部が、前記トラック形成面部と取付部とを繋ぐ部分であり、剛性向上の目的で設けられる部分ではないため、剛性向上のために芯金の構成が複雑化することがない。
【0009】
この発明の磁気エンコーダにおいて、前記芯金は、平板の環状で片面が前記トラック形成面部となる平板部と、この平板部の内径側縁から前記トラック形成面部と反対側に折れ曲がって続き円筒状の取付部となる前記折り曲げ板部とを有するようにしても良い。すなわち、アキシアル型としても良い。
このようにアキシアル型とした場合にも、精度向上を図りながら簡易に製造することができる。また、前記折り曲げ板部が、軸等への取付部とを繋ぐ部分であり、剛性向上の目的で設けられる部分ではないため、剛性向上のために芯金の構成が複雑化することがない。
【0010】
この発明の磁気エンコーダにおいて、前記主トラックの方が前記副トラックよりも磁極のピッチの精度が高いものであっても良い。ここで言う精度は、実際のピッチと理論ピッチとの差である。一例として、32極対で着磁された磁気トラックを考えると、1極対当たりの角度は、理論的には、11.25度となる。そして、実際には、ある1極対の角度が、11.3度となっていた場合には、理論ピッチは、11.25度、実際のピッチは、11.3度となる。
磁気エンコーダは、一般的に未着磁の磁気エンコーダを製造しておいて、後に着磁が成される。この場合に、各磁気トラックは順次着磁が行われるが、先に着磁した磁気トラックは後で着磁する磁気トラックの着磁を行う際に、その磁束漏れによる精度低下の影響が想定される。そのため、隣合って並ぶ全ての磁気エンコーダを高精度に着磁することが難しい。
そこで、この発明の磁気エンコーダは、磁極ピッチの精度が低くなることが想定される磁気トラックを副トラックとしている。副トラックは主トラックとの位相差の算出に使用される磁気トラックであるため、着磁ピッチの精度の影響が比較的に少なく、磁極数が多く角度算出に使用される主トラックのピッチの精度を副トラックよりも高くすることで、限られた製造上の精度の範囲内で、高精度で絶対角を検出することができる磁気エンコーダとなる。
なお、この磁気エンコーダは、磁気トラック毎の着磁順が前後する磁気エンコーダに限らず、磁気トラック間で精度に差が生じる磁気エンコーダ一般に適用できる。
【0011】
この発明の磁気エンコーダの製造方法は、この発明の上記いずれかの構成の磁気エンコーダを製造する方法であって、前記芯金の外周に前記磁性部材が設けられた未着磁の磁気エンコーダを製造した後、各列の磁気トラックを順次着磁し、この着磁の過程で、現在着磁を行わない磁気トラックまたは磁気トラックとなる部分を磁気シールド部材で遮蔽しながら、N極とS極とを1極ずつ交互に着磁する。
このように1極ずつ交互に着磁し、かつ現在着磁しない側の磁気トラックとなる部分を磁気シールドで遮蔽しながら着磁することで、磁束漏れによる影響をできるだけ小さくし、比較的に高精度な着磁が行える。そのため、この発明における芯金の剛性が高い部分に主トラックが形成されて絶対角を高精度に検出可能な磁気エンコーダを、より高精度に製造することができる。
【0012】
この発明の磁気エンコーダの製造方法において、前記副トラックを着磁した後、前記主トラックを着磁しても良い。
上記のように、磁気トラックの着磁作業において磁束漏れによる精度劣化が生じるが、角度精度に影響する着磁極対数の多い主トラックを最後に着磁することで、主トラックの精度劣化を抑制し、高精度で絶対角を検出することができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明の磁気エンコーダは、トラック形成面部の縁から折れ曲がって続く折り曲げ板部を有する環状の芯金と、この芯金の前記トラック形成面部に設けられた磁性部材にそれぞれN極とS極が交互に着磁された2列以上の隣合って並ぶ磁気トラックと備え、前記2列以上の磁気トラックとして、着磁極数が最も多く角度算出に使用される主トラックと、それらの位相差を算出するための副トラックとがあり、前記主トラックが前記副トラックよりも前記折り曲げ板部に近い側に位置するため、絶対角をより高精度に検出でき、かつ簡易に製造することができる。
【0014】
この発明の磁気エンコーダの製造方法は、この発明の磁気エンコーダを製造する方法であって、前記芯金の外周に前記磁性部材が設けられた未着磁の磁気エンコーダを製造した後、各列の磁気トラックを順次着磁し、この着磁の過程で、現在着磁を行わない磁気トラックまたは磁気トラックとなる部分を磁気シールド部材で遮蔽しながら、N極とS極とを1極ずつ交互に着磁するため、この発明における芯金の剛性が高い部分に主トラックが形成されて絶対角を高精度に検出可能な磁気エンコーダを、より高精度に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この発明の第1の実施形態に係る磁気エンコーダの断面図である。
図2】(a)同磁気エンコーダの磁極の並びを示す展開図、(b),(c)および(d)は同磁気エンコーダから得られる2つの信号、および両信号の位相差の波形図である。
図3】同磁気エンコーダを製造する製造装置の一例の断面図である。
図4図3のIV-IV 線断面図である。
図5】同製造装置による磁気エンコーダの各着磁過程を示す断面図である
図6】同磁気エンコーダの各列の磁極の並びを示す説明図である。
図7】この発明の他の実施形態に係る磁気エンコーダの断面図である。
図8】同磁気エンコーダの磁極の並びを示す正面図である。
図9】同磁気エンコーダの磁気遮蔽を行って着磁する過程の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明の第1の実施形態を図1ないし図6と共に説明する。この実施形態は、ラジアル型の磁気エンコーダに適用した例である。図1に磁気エンコーダの断面図を示す。図2(a)に磁気トラックの着磁パターンを円周方向に展開した図を示す。図2(b)、(c)は、これら磁気パターンの着磁極対に対する検出信号を表し、図2(d)はそれらの位相差を示す。
【0017】
磁気エンコーダ1は、金属環からなる芯金2の外周面に磁性粉を混練したゴム材料を、芯金2とともに金型に入れて加硫接着したもの、あるいはプラスチック材料と磁性粉をまぜたものと芯金2を一体成形して円環状の磁性部材3を形成した後、未着磁の磁性部材3の表面に着磁極対数の異なる複列の磁気トラック4が形成される。
【0018】
芯金2は、鉄系の圧延鋼板をプレス成形したものであり、外周面がトラック形成面部2Aaとなる円筒状部2Aと、この円筒状部2Aから内径側に折れ曲がった折り曲げ板部2Bと、この折り曲げ板部2Bの内径側縁から前記円筒状部2Aと反対側に同心で続く円筒状の取付部2Cとを有する。取付部2Cに、図示しない回転軸を圧入などで固定する。
【0019】
折り曲げ板部2Bに近い側の磁気トラック4を主トラック5として、前記磁性部材3に例えば32極対で着磁し、折り曲げ板部2Bから遠い側の磁気トラック4を副トラック6として例えば31極対で着磁する。この磁気エンコーダ1では、1回転で1極対の差が発生することを利用して回転軸の絶対角の検出に用いられる。
【0020】
たとえば、磁気エンコーダ1に、絶対角検出用の磁気センサとして、主トラック5および副トラック6に対向する磁気センサ31,32を対向配置し、磁気エンコーダ1をその円環中心O回りに回転させた場合、主トラック5からは図2(b)に示す検出信号が出力され、副トラック6からは図2(c)に示す検出信号が出力される。それぞれの検出信号は、N極S極の1極対で0から360度の位相信号であり、それら検出信号の差を取ると、図2(c)に示すように、磁気エンコーダ1の回転に伴い、直線的に変化する位相差信号が得られる。この場合、磁気エンコーダ1が1回転で位相差信号は0から360度で変化する。
【0021】
この磁気エンコーダ1による絶対角の検出では、主トラック5を元にして角度を高精度に算出し、主トラック5と副トラック6との位相差から、主トラックの位置を把握して絶対角を検出することができる。なお、前記磁気エンコーダ1と、前記磁気センサ31,32と、この磁気センサ31,32の検出信号から前記絶対角の算出を行う電子回路等の演算手段(図示せず)とで、絶対角の検出装置が構成される。
【0022】
着磁方法として、たとえばN極、S極を1極ずつ交互に着磁するインデックス着磁装置を用いて、磁気エンコーダ1を回転させながら、各磁気トラック4(5、6)を順に着磁する方法と、両方の磁気トラック4(5、6)の着磁を同時に行う一発着磁がとあり、いずれを用いてもよい。しかし、一発着磁は着磁ヨーク構造が複雑になり、着磁時に双方の磁気トラック4(5、6)の磁気干渉があって、精度良く着磁するのが難しい。そのため、複列の磁気トラック4を有する場合にはインデックス着磁の方がより好ましい。
【0023】
たとえば、32極対と31極対で着磁した2列の磁気トラック4(5,6)を用いて絶対角度を検出する場合、32極対側(主トラック5)の1極対当たりの角度は11.25度(360/32)となる。どの位相位置にあるかを判別するにはその32分の一に相当する0.35度(11.25/32)以下の着磁精度、例えば安全を見て±0.1度以下の着磁精度が要求される。着磁極数が64極対と63極対のように極数が増えると、要求精度は更に厳しくなり、たとえば、±0.04度以下が要求される。
【0024】
角度精度に影響する主トラック5の精度を向上するには、磁気エンコーダ1の回転振れを抑えるとともに、剛性を高く維持するのが好ましい。そこで、この実施形態では、芯金2の磁気トラック形成面部2Aaのうち、芯金2を折り曲げた折り曲げ板部2Bが続くことで剛性が高くなっている折り曲げ板部2Bに近い側の磁気トラック4を主トラック5にしており、これにより角度精度の向上が期待される。
【0025】
また、角度算出に使用する着磁極対数の多い主トラック5を最初に着磁した場合、その後で副トラック6を着磁した際に、その磁束漏れによる主トラック5の精度、たとえば磁極のピッチ精度や累積ピッチ精度への影響が想定され、この場合、角度精度が低下する。
ここで、ピッチ誤差および累積ピッチ誤差とは、何れも着磁されたトラックの精度を示す指標である。一例として、32極対で着磁された磁気トラックを考えると、1極対当たりの角度は、理論的には、11.25度となる。ここで、実際には、ある1極対の角度が、11.3度となっていた場合には、当該極対のピッチ誤差は、+0.05度となる。また、累積ピッチ誤差とは、ピッチ誤差を、全ての極対に対して積算し、その最大値(振幅)を用いて表される。
【0026】
そのため角度精度に影響する着磁極対数の多い主トラック5を最後に着磁しており、これにより主トラック5の精度劣化を抑制し、高精度で絶対角を検出することができる。すなわち、前記着磁順とすることで、前記精度劣化が抑制される分だけ、主トラック5の方が副トラック6よりも磁極のピッチ精度および累積ピッチ精度が高く形成されている。
この場合、主トラック5を着磁した際に、初めに着磁した副トラック6の精度に影響することも想定されるが、副トラック6は主トラック5との位相関係を把握するために用いるものであり、精度はそれほど考慮しなくてもよい。
【0027】
図3に着磁装置を示す。図4に、図3のIV-IV 断面矢視図を示す。
この磁気エンコーダの着磁装置7は、着磁対象となる未着磁の磁気エンコーダ1を保持するチャック8を回転させるスピンドル9と、これを回転させるモータ10と、着磁ヨーク11と、着磁ヨーク11を3軸方向に位置決めする位置決め手段12と、着磁電源13と、制御手段14とを備える。モータ10は、回転角度を検出する検出装置である高精度のエンコーダ装置24を有する。また、チャック8に保持された磁気エンコーダ1の着磁が終了した段階で着磁精度を測定するための磁気センサ15が設けられ、3軸方向に位置決め可能な位置決め手段16に固定されている。前記モータ10と、着磁ヨーク11の前記位置決め手段12とで、前記未着磁の前記磁気エンコーダ1に対して前記着磁ヨーク11の先端部19を相対的に位置決めする位置決め装置29が構成される。
【0028】
前記制御手段14は、コンピュータ等からなり、前記未着磁の磁気エンコーダ1に、個々の磁気トラック4毎に順次着磁を行い、この着磁の順として、前記主トラック5を前記副トラック6よりも後に着磁するように、かつNSの磁極が交互に並ぶように、前記位置決め装置29の位置決め手段12とモータ10と着磁電源13とを数値制御等により制御する。
【0029】
着磁ヨーク11は、磁気ギャップを介して磁気的に対向する一対の対向端部19,20を有しこれら対向端部19,20に対して定められた位置,姿勢に配置される未着磁の前記磁気エンコーダ1の前記磁気トラック4を着磁する。着磁ヨーク11は、具体的には、U字状の着磁ヨーク本体17と励磁コイル18と、前記着磁ヨーク本体17の一端および他端にそれぞれに設けられた第1の先端部19および第2の先端部20からなる。励磁コイル18は着磁ヨーク本体17の外周に巻かれている。着磁ヨーク11は、着磁のための磁束を磁気エンコーダ1に貫通させるものであり、着磁ヨーク11の第1の先端部19は先端が尖った構造とされ、着磁時には磁気エンコーダ1の表面と対向させる。第2の先端部20はチャック8に隙間を持って対向し、第1の先端部19から磁気エンコーダ1、チャック8を経由して第2の先端部20に渡る磁気ループが形成される。なお、第2の先端部20は省略してあっても良い。
【0030】
磁気シールド部材21には断面テーパ状の角形状の孔22が形成され、孔22の上下それぞれに隙間を開けて第1の先端部19が配置される。磁気エンコーダ1と対向する磁気シールド部材21と第1の先端部19は、未着磁の磁気トラック4と一定の隙間、たとえば0.1mm程度を保持して位置決めされる。
【0031】
磁気シールド部材21は、着磁ヨーク本体17の第2の先端部20寄りの位置で固定される支持台23の端部に固定される。第1の先端部19から発生する磁束の内、着磁しない他方の磁気トラック4に影響を与える磁束を磁気シールド部材21に誘導し、磁気エンコーダ1に対向する第1の先端部19とは反対側の第2の先端部20側に逃がす構成とされる。磁気シールド部材21と支持台23には、磁性体、たとえば低炭素の鉄鋼材を用いる。
複列の磁気エンコーダ1の着磁において、磁気シールド部材21を、着磁対象以外の磁気トラック列への磁束の流れを遮蔽するように磁気トラック4と対峙させて着磁することが可能になる。
【0032】
図5は、未着磁の磁気エンコーダ1の磁性部材3に2列の磁気トラック4(5,6)を着磁する場合の着磁ヨーク11の第1の先端部19の配置位置を示す。また、図6には、2列に着磁した磁気エンコーダ1の着磁パターンの例を示す。
【0033】
図5(a)は、磁気エンコーダ1の磁性部材3の上半分を副トラック6となる磁気トラックとして着磁する場合の着磁ヨーク11の第1の先端部19と磁気シールド部材21の配置を示す。このとき、他方の磁気トラック4(主トラック5)が形成される磁性部材3の表面は、磁気シールド部材21で覆って、第1の先端部19から流れる磁束が他方の磁気トラック4(主トラック5)に流れるのを防止する。
【0034】
図5(b)は、磁気エンコーダ1の磁性部材3の下半分を主トラック5となる磁気トラック4として着磁する場合の着磁ヨーク11の第1の先端部19と磁気シールド部材21の配置を示す。このとき、初めに着磁した副トラック6となる磁気トラック4が形成された磁性部材3の表面は、磁気シールド部材21で覆って、第1の先端部19から流れる磁束が磁気トラック4((副トラック6)に流れるのを防止する。
【0035】
図5(a)に示す工程で副トラック6(磁気トラック4)を形成し、最後に図5(b)に示す工程で主トラック5(磁気トラック4)を形成する順番で着磁を行うと、主トラック5の精度劣化を抑制し、高精度で絶対角を検出することができる。
【0036】
この実施形態によると、上記のように、芯金2を折り曲げて剛性が高く回転振れが小さい折り曲げ板部2Bに近い側の磁気トラック4を、高精度を要求されかつ着磁極対数の多い主トラック5としたため、角度精度の向上,安定に寄与する。
さらに、複列の磁気エンコーダ1を着磁する場合、角度を算出する磁気トラック4である主トラック5を最後に着磁することで、主トラック5の精度劣化を抑制し、高精度で絶対角を検出することができる。
【0037】
図7図9は、この発明の他の実施形態を示す。この実施形態は、アキシアル型の磁気エンコーダ1に適用した例である。この実施形態において、特に説明した事項の他は、図1図6と共に説明した第1の実施形態と同様である。この例では、芯金2は、平板の円環状で片面がトラック形成面部2Daとなる平板部2Dと、この平板部2Dの内径側縁から前記トラック形成面部2Daと反対側に折れ曲がって続き円筒状の取付部となる折り曲げ板部2Eとを有する。
【0038】
前記トラック形成面部2Daに磁性部材3が設けられ、この磁性部材3に複列に磁気トラック4が設けられる。この場合に、折り曲げ板部2Eに近い最内周側の磁気トラック4が主トラック5とされ、他の磁気トラック4が副トラック6とされる。また、主トラック5および副トラック6は、未着磁の磁気エンコーダ1に順次着磁されるが、副トラック6が先に着磁され、主トラック5が最後に着磁される。
【0039】
前記着磁に用いられる装置は、図3の着磁装置と基本的には同様であるが、磁気エンコーダ1における磁気トラック4の向く方向がアキシアル方向かラジアル方向かで変わっているため、この違いに応じて、図9のように、着磁ヨーク11の先端部19および磁気シールド部材21の向く方向が、磁気エンコーダ1の軸方向となっている。また、着磁する磁気トラック4を切り換えるための着磁ヨーク11および磁気シールド部材21と磁気エンコーダ1とが相対移動する方向が、同図(a),(b)に各位置決め状態を示すように、磁気エンコーダ1の半径方向となる。
【0040】
この構成の場合も、芯金2を折り曲げて剛性が高く回転振れが小さい折り曲げ板部2Eに近い側の磁気トラック4を、高精度を要求されかつ着磁極対数の多い主トラック5としたため、角度精度の向上,安定に寄与する。
さらに、複列の磁気エンコーダ1を着磁する場合、角度を算出する磁気トラック4である主トラック5を最後に着磁することで、主トラック5の精度劣化を抑制し、高精度で絶対角を検出することができる。
【0041】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0042】
1…磁気エンコーダ
2…芯金
2A…円筒状部
2Aa…トラック形成面部
2B…折り曲げ板部
2C…取付部
2D…平板部
2Da…トラック形成面部
2E…折り曲げ板部
3…磁性部材
4…磁気トラック
5…主トラック
6…副トラック
7…磁気エンコーダの着磁装置
8…チャック
10…モータ
11…着磁ヨーク
12…位置決め手段
13…着磁電源
14…制御手段
19…先端部
21…シールド部材
29…位置決め装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9