特許第6937132号(P6937132)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6937132-超音波振動回転切断装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6937132
(24)【登録日】2021年9月1日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】超音波振動回転切断装置
(51)【国際特許分類】
   B28D 1/24 20060101AFI20210909BHJP
   B28D 5/02 20060101ALI20210909BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20210909BHJP
   B24B 1/04 20060101ALI20210909BHJP
   B24B 27/06 20060101ALI20210909BHJP
【FI】
   B28D1/24
   B28D5/02 A
   H01L21/78 F
   B24B1/04 C
   B24B27/06 M
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-22975(P2017-22975)
(22)【出願日】2017年2月10日
(65)【公開番号】特開2018-126967(P2018-126967A)
(43)【公開日】2018年8月16日
【審査請求日】2020年1月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000143455
【氏名又は名称】株式会社高田工業所
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100127155
【弁理士】
【氏名又は名称】来田 義弘
(72)【発明者】
【氏名】四元 敬一
(72)【発明者】
【氏名】松山 裕宣
【審査官】 永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−210928(JP,A)
【文献】 特開2004−025667(JP,A)
【文献】 特開昭55−131463(JP,A)
【文献】 特開2014−108471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28D 1/24
B28D 5/02
H01L 21/301
B24B 1/04
B24B 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転刃を取付ける円盤状の超音波ホーンの両側にそれぞれ第1、第2のブースターが同軸かつ解除可能に連結された超音波共振体を回転支持手段を用いて回転可能かつ水平に両持ち支持し、前記超音波ホーンの前記回転刃の取付け位置が第1のノードとなる超音波振動の定在波が存在する前記超音波共振体を回転させて、半径方向に超音波振動を行いながら回転する前記回転刃で切断を行なう超音波振動回転切断装置において、
前記第1、第2のブースターの外径を超音波振動の縦波波長の1/4以下にして、前記超音波共振体内に安定した超音波振動の定在波を形成することを可能とし、かつ前記回転刃に加わる反力が大きくなっても、前記超音波共振体が振れる現象の発生を防止し、
前記回転支持手段は、前記超音波共振体の第1、第2のブースターのそれぞれを同心に内部に固定し、該超音波共振体と共に回転する第1、第2の回転内殻と、
フレームに取付けられて、前記第1、第2の回転内殻をそれぞれ内部に収容し、第1、第2の気体軸受機構を介して回転可能に支持する第1、第2の固定外殻とを備え、
しかも、前記第1、第2の気体軸受機構はそれぞれラジアル軸受部を、前記第1の気体軸受機構はスラスト軸受部を有し、
前記第1、第2のブースターは前記第1のノードの両隣にある第2、第3のノード位置にそれぞれ幅中心を合わせて設けられ径方向の振動を吸収する第1、第2の緩衝部材を有し、該第1、第2の緩衝部材の半径方向外側がそれぞれ前記第1、第2の回転内殻の内側の拡径部の奥位置に該拡径部に螺合する締結用円筒で固定されて、前記超音波共振体が前記第1、第2の回転内殻に固定され、
更に、前記第1の回転内殻の端部に、前記超音波共振体を回転させる回転駆動源が、異なる磁極が非接触で対向して配置される非接触式磁気継手を介して連結されていることを特徴とする超音波振動回転切断装置。
【請求項2】
請求項記載の超音波振動回転切断装置において、前記超音波共振体の長さは、前記超音波振動の波長の1.5倍であることを特徴とする超音波振動回転切断装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の超音波振動回転切断装置において、前記第1、第2の回転内殻の外径又は長さを大きくすることで、前記第1、第2の固定外殻に設けられる前記第1、第2の気体軸受機構の軸受剛性を調整することを特徴とする超音波振動回転切断装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の超音波振動回転切断装置において、前記第1のブースターの自由端面に振動源が取付けられており、前記第1の回転内殻の回転軸方向の長さが前記第2の回転内殻の回転軸方向の長さより長く、前記第1の回転内殻には中空回転軸部材が取付けられ、該中空回転軸部材にはスリップリングと前記非接触式磁気継手の従動側磁力部が取付けられていることを特徴とする超音波振動回転切断装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の超音波振動回転切断装置において、前記第2の固定外殻を回転軸方向にスライド可能に前記フレームに取付けたことを特徴とする超音波振動回転切断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハー等の硬脆性材料のダイシングに用いる超音波振動回転切断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程では、例えば、半導体ウエハーを効率よく切断するために、環状の薄い回転刃が取付けられた円盤状の超音波ホーンと、超音波ホーンに超音波振動を伝えるブースターとを備えた超音波共振体を高速回転させ、半径方向に超音波振動する回転刃で切断を行なう超音波振動回転切断装置(超音波振動切断装置ともいう)が用いられている。
このとき、薄い回転刃をより高速で回転(例えば、30000〜40000rpm)させて、回転刃のコンプライアンスを低くし回転刃を保護すると共に切断品質を向上させ、また、超音波振動の系外への伝播による超音波共振体の回転支持機構に対する影響を少なくするため、回転支持機構の軸受には、例えば、空気軸受が使用されてきている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一般に、空気軸受では、回転軸と空気軸受との間に空気層を形成するための隙間が存在している。このため、半導体ウエハー(被切断物の一例)を高速切断する場合、切断開始時(回転刃が半導体ウエハーに切り込む瞬間)には回転刃に半導体ウエハーから大きな切断反力が加わるため、回転刃の回転軸が傾き易いという問題がある。このため、特許文献1の超音波振動切断装置のように、基台部(超音波ホーン)の片側にスピンドル及びロータを同軸で直列に連結した構成の超音波共振体をラジアルエアベアリング(空気軸受)を用いて支持する構成では、切断ブレード(回転刃)の交換の利便性は向上されるが、超音波共振体がラジアルエアベアリングで片持ち支持されることになって、切断ブレードに半導体ウエハーから大きな切断反力が加わると超音波共振体の回転軸の傾きが顕著となり易い。このため、超音波共振体が静圧空気軸受で片持ち支持される場合、切断位置のずれ、回転刃の欠け、回転刃の刃先の偏摩耗等の発生により、切断品質に異常が起こり易いという問題が生じる。
【0004】
なお、特許文献2に開示された流体静圧軸受超音波振動主軸の構造を援用すると、即ち、超音波共振体を主軸筒内に同心状に固定して主軸筒を空気軸受で支持すると、空気の受圧面積を大きくすることができ、主軸筒(超音波共振体)に対する支持力の向上が可能になると考えられる。しかし、半導体ウエハーの高速切断時に受ける大きな切断反力に対して回転軸の傾きを確実に防止しようとすると、従来の超音波振動切断装置の超音波共振体の外径に比べて主軸筒の外径を非常に大きくする必要があり、超音波振動切断装置が大型化するという問題がある。
【0005】
そこで、半導体ウエハーからの切断反力が回転刃に加わっても回転軸に傾きが生じないように、例えば、特許文献3に開示されている超音波ロータリーエアースピンドル加工機のように、回転刃が取付けられる円盤状の超音波ホーンの両側に同軸で円柱状のブースターを取付けた構成の超音波共振体を空気軸受で両側から(両持ち)支持する構成が望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−318981号公報
【特許文献2】特開2006−247808号公報
【特許文献3】特開昭60−127968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、半導体電子基板や半導体ウエハーの材料として、シリコンに代わっていわゆる難切材と呼ばれるSiCやサファイア等の硬脆性材料が用いられるようになってきた。そして、硬脆性材料の電子基板やウエハー(以下、硬脆性ウエハーという)の切断時に回転刃が硬脆性ウエハーから受ける切断反力は、従来のシリコンウエハーの切断時に受ける切断反力より大きくなっている。このため、硬脆性ウエハーの切断を行なう場合、空気軸受を使用した従来の回転支持機構では超音波共振体の支持力が不足し、超音波共振体と空気軸受の間隔が不安定となり、超音波共振体が振れる等の現象が発生している。即ち、超音波ホーンに取付けられた環状の回転刃が揺れて、硬脆性ウエハー切断部でチッピングという欠けが発生したり、切断溝幅が大きくなったり、切断品質に異常が発生したりしている。
【0008】
切断反力に対する空気軸受の支持力(又は軸受剛性)を向上するためには、空気軸受の供給空気圧を大きくするか、若しくは回転軸となる超音波共振体を長くしたり、超音波共振体を太くして空気軸受から受ける空気の受圧面積を大きくすることが考えられる。
しかしながら、一般的に半導体工場等で使用される駆動用空気の圧力は0.5MPa程度の一定圧力であり、空気軸受に供給する空気圧を大きくするには、昇圧のための機器を新たに設置する必要があり、設備コストのアップになると共にランニングコストのアップにもなるという問題がある。
【0009】
空気軸受の支持力を向上するために超音波共振体を長くしようとすると、超音波共振体内に超音波振動の定在波を安定的に維持するためには、超音波共振体の長さを使用する超音波の半波長の整数倍で長くする必要がある。このため、超音波の効率が低下する(超音波の振幅が減衰する)と共に、装置をコンパクトにできなという問題がある。
【0010】
一方、空気軸受の支持力を向上するために超音波共振体の軸径を大きくしようとすると、超音波共振体内に安定した超音波振動の定在波を生成するために、例えば、特許文献3の超音波ロータリーエアースピンドル加工機の超音波ホーンのようにステップ状の段付きホーンでは、設計に際して、ホーンの太端面径は寄生振動の影響を受けないように、使用する超音波の縦波波長の1/4以下にするのが好ましく、超音波共振体のブースターの外径を縦波波長の1/4以下にしなければならないという制約を満足させる必要がある。このため、空気軸受の支持力を向上させるための超音波共振体の軸径と、超音波振動の定在波を安定して存在させるための超音波共振体の軸径を整合させることは困難であるという問題がある。
【0011】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、取付けた回転刃を半径方向に超音波振動させながら回転させる超音波共振体を回転可能に支持する気体軸受機構を備えた回転支持手段の支持力を向上させて、安定した切断品質で硬脆性材料の切断が可能な超音波振動回転切断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的に沿う本発明に係る超音波振動回転切断装置は、回転刃を取付ける円盤状の超音波ホーンの両側にそれぞれ第1、第2のブースターが同軸かつ解除可能に連結された超音波共振体を回転支持手段を用いて回転可能かつ水平に両持ち支持し、前記超音波ホーンの前記回転刃の取付け位置が第1のノードとなる超音波振動の定在波が存在する前記超音波共振体を回転させて、半径方向に超音波振動を行いながら回転する前記回転刃で切断を行なう超音波振動回転切断装置において、
前記第1、第2のブースターの外径を超音波振動の縦波波長の1/4以下にして、前記超音波共振体内に安定した超音波振動の定在波を形成することを可能とし、かつ前記回転刃に加わる反力が大きくなっても、前記超音波共振体が振れる現象の発生を防止し、
前記回転支持手段は、前記超音波共振体の第1、第2のブースターのそれぞれを同心に内部に固定し、該超音波共振体と共に回転する第1、第2の回転内殻と、
フレームに取付けられて、前記第1、第2の回転内殻をそれぞれ内部に収容し、第1、第2の気体軸受機構を介して回転可能に支持する第1、第2の固定外殻とを備え、
しかも、前記第1、第2の気体軸受機構はそれぞれラジアル軸受部を、前記第1の気体軸受機構はスラスト軸受部を有し、
前記第1、第2のブースターは前記第1のノードの両隣にある第2、第3のノード位置にそれぞれ幅中心を合わせて設けられ径方向の振動を吸収する第1、第2の緩衝部材を有し、該第1、第2の緩衝部材の半径方向外側がそれぞれ前記第1、第2の回転内殻の内側の拡径部の奥位置に該拡径部に螺合する締結用円筒で固定されて、前記超音波共振体が前記第1、第2の回転内殻に固定され、
更に、前記第1の回転内殻の端部に、前記超音波共振体を回転させる回転駆動源が、異なる磁極が非接触で対向して配置される非接触式磁気継手を介して連結されている
【0013】
本発明に係る超音波振動回転切断装置において、前記第1、第2のブースターのいずれか一方の自由端面には前記超音波振動の振動源が取付けられていることが好ましい。ここで、振動源としては、電歪振動子、磁歪振動子が考えられる。
これによって、超音波共振体が回転しても、超音波共振体に超音波振動を効率的に供給することができる。
また、第1のブースターと第2のブースターを異なる材質にすると、各ブースター内を伝わる超音波の波長が変わるので、安定した定在波を得るために第1のブースターと第2のブースターの回転軸方向の長さや外径を変える場合であっても、第1、第2の回転内殻の外径や長さ及び第1、第2の固定外殻の長さや径を変えることができ、超音波共振体の安定した定在波の条件を維持したまま切断時における第1のブースターと第2のブースターの変位量を同一にできる(即ち、第1、第2の固定外殻に設けられた第1、第2の気体軸受機構の軸受剛性を同一にできる)。これにより、回転刃が切断時に被切断物から反力を受けても回転刃が傾き難く、回転刃が傾いたまま切断されることがなくなり、回転刃の刃先の偏摩耗を防止することができる。
【0014】
本発明に係る超音波振動回転切断装置において、前記第1のブースターの前記自由端面に前記振動源が取付けられ、前記第1のブースターを固定する前記第1の回転内殻の前記振動源側の端部に前記超音波共振体を回転させる回転駆動源がフレキシブル継手又は非接触継手を介して連結されている構成とすることができる。
このような構成とすることにより、超音波ホーンと第2のブースターとの連結を解除すると、超音波ホーンから第2のブースターと第2の回転内殻を一体として分離することができる。これにより、超音波ホーンを第1のブースターから分離することができ、回転刃の交換を行なうことが可能になる。また、第2の固定外殻を回転軸方向にスライド可能にフレームに取付ける構成とすれば、第2のブースターと第2の回転内殻並びに第2の固定外殻を一体として超音波ホーンから分離できるので、第1の回転内殻と同様に第2の回転内殻にスラスト軸受部を設けることも可能となる。
更に、第1の回転内殻の振動源側の端部に回転駆動源がフレキシブル継手又は非接触継手を介して連結されているので、切断時に超音波共振体の回転軸の軸心位置が、回転駆動源の回転軸の軸心位置とずれることがあっても、互いに干渉することなくスムーズな回転状態を維持することができる。
【0015】
本発明に係る超音波振動回転切断装置において、前記第2のブースターの前記自由端面に前記振動源が取付けられ、前記第1のブースターを固定する前記第1の回転内殻の該第1のブースターの自由端面側の端部に前記超音波共振体を回転させる回転駆動源がフレキシブル継手又は非接触継手を介して連結されている構成とすることもできる。
このような構成とすることにより、超音波ホーンと第1のブースターとの連結を解除すると、超音波ホーンから第1のブースターと第1の回転内殻を一体として分離することができる。これにより、超音波ホーンを第2のブースターから分離することができ、回転刃の交換を行なうことが可能になる。
更に、第1の回転内殻の第1のブースターの自由端面側の端部に回転駆動源がフレキシブル継手又は非接触継手を介して連結されているので、切断時に超音波共振体の回転軸の軸心位置が、回転駆動源の回転軸の軸心位置とずれることがあっても、互いに干渉することなくスムーズな回転状態を維持することができる。
【0016】
本発明に係る超音波振動回転切断装置において、前記超音波共振体の長さは、前記超音波振動の縦波波長の1.5倍であって、前記超音波共振体には前記定在波のノードが三つ存在することが好ましい。即ち、前記第1、第2のブースター及び前記超音波ホーンを組み合わせた回転軸方向の全長には前記定在波のノードが三つ存在し、前記第1、第2のブースター及び前記超音波ホーンを組み合わせた回転軸方向の全長は、使用する超音波の縦波波長の1.5倍となっていることが好ましい。
最小長さの超音波共振体を構成するので、超音波振動の減衰が少なくなって、定在波を効率的に形成することができると共に、コンパクトな超音波振動回転切断装置を作製することができる。
【0017】
そして、第1の回転内殻内には第1のブースターが、第1のブースターに設けられて径方向の振動を吸収する第1の緩衝部材を介して固定されているのが好ましい。また、第2の回転内殻内には第2のブースターが、第2のブースターに設けられて径方向の振動を吸収する第2の緩衝部材を介して固定されているのが好ましい。第1、第2のブースターがそれぞれ、第1、第2の緩衝部材を介して第1、第2の回転内殻に固定されているので、超音波振動により第1、第2のブースターの軸径が変化しても第1、第2の回転内殻に伝達されず、第1、第2の回転内殻の外形は変化しない。その結果、第1、第2の固定外殻に設けられた第1、第2の気体軸受機構の気体層の圧力変動が発生せず、第1、第2の回転内殻を安定して支持することができる。
【0018】
ここで、第1の緩衝部材は、第1のブースターの外周部の定在波のノードに対応する部位に設けられ、第2の緩衝部材は、第2のブースターの外周部の定在波のノードに対応する部位に設けられていることが好ましい。これにより、定在波の減衰を少なくすることができ、超音波共振体内に発生する定在波を効率的に利用して回転刃を半径方向に超音波振動させることができると共に、超音波振動の超音波共振体外への伝播による回転支持手段への悪影響を少なくすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る超音波振動回転切断装置は、超音波共振体の両側がそれぞれ内蔵されて固定された第1、第2の回転内殻を、第1、第2の気体軸受機構を備えた第1、第2の固定外殻により回転可能にそれぞれ支持するので、超音波共振体の両側がそれぞれ第1、第2の回転内殻に内蔵されて固定されるという条件が満たされれば、超音波共振体の第1、第2のブースターの外径と、第1、第2の回転内殻の外径及び回転軸方向の長さはそれぞれ独立に決めることができる。
【0020】
超音波共振体の第1、第2のブースターの外径を、超音波振動の縦波波長の1/4以下にして、超音波共振体内に安定した超音波振動の定在波を形成することが可能になると共に、回転刃に加わる反力が大きくなっても、超音波共振体が振れる等の現象の発生が防止できるように第1、第2の回転内殻の外径及び回転軸方向の長さを大きくして、第1、第2の気体軸受機構をそれぞれ備えた第1、第2の固定外殻により第1、第2の回転内殻を安定して支持する(第1、第2の気体軸受機構の支持力(軸受剛性)を向上する)ことができ、回転刃を安定して保持することが可能になる。その結果、例えば、硬脆性ウエハーの切削において安定した切断品質を得ることが可能になると共に、回転刃の寿命延長及び破損防止を図ることも可能になる。
また、第1のブースターと第2のブースターを異なる材質にすると、各ブースター内を伝わる超音波の波長が変わるので、安定した定在波を得るために第1のブースターと第2のブースターの回転軸方向の長さや外径を変える場合や、片方のブースターの自由端面に振動源を取付ける場合に、超音波ホーンを中心として超音波共振体の両側で重さにアンバランスが発生する。このようなときでも超音波共振体の安定した定在波の条件を維持したまま第1、第2の回転内殻の外径や長さ及びそれに合わせて第1、第2の固定外殻の長さや径を変えることができるので、第1、第2の固定外殻に設けられた第1、第2の気体軸受機構の軸受剛性を同一にすることで切断時における第1のブースターと第2のブースターの変位量を同一にできる。
これにより、回転刃が切断時に被切断物から反力を受けても、超音波共振体が振れたり、傾いたりせずに切断できるので、切断品質が向上できる。
【0021】
第1、第2の気体軸受機構をそれぞれ備えた第1、第2の固定外殻により第1、第2の回転内殻が支持されているので、第1、第2の回転内殻の支持に必要であった転がり軸受が不要になり、メンテナンスの負担を軽減することが可能になる。
また、第1、第2のブースターのいずれか一方の自由端面に超音波振動の振動源を取付ける場合、使用する超音波の振動数に基づいて超音波共振体の長さ(超音波ホーンと第1、第2のブースターの長さ)を調節することにより、定在波を容易に存在させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施の形態に係る超音波振動回転切断装置の要部の概略説明図である。
図2】同超音波振動回転切断装置の超音波共振体内に発生した定在波の状態を示す説明図である。
図3】(A)は図1のP−P矢視図であって、非接触式磁気継手の駆動側磁力部を示し、(B)は図1のQ−Q矢視図であって、非接触式磁気継手の従動側磁力部を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る超音波振動回転切断装置10は、半径方向に超音波振動を行いながら回転する回転刃11で,例えば、SiCウエハー等の硬脆性ウエハー(図示せず、被切断物である硬脆性材料の一例)の切断を行なう装置である。以下、詳細に説明する。
【0024】
回転刃11が取付けられる円盤状の超音波ホーン12の両側に、例えば、超音波ホーン12の一方側には円柱状の第1のブースター13が、他方側には円柱状の第2のブースター14がそれぞれ同軸に連結されて超音波共振体15が構成され、超音波共振体15の両側は回転支持手段16を用いて回転可能に両持ち支持されている。そして、超音波共振体15を回転させることにより、回転刃11を回転させている。また、回転刃11を半径方向に超音波振動させるためには、図2に示すように、超音波ホーン12の回転刃11の取付け位置がノードNodeとなる超音波振動の定在波SWを超音波共振体15内に存在させている。
【0025】
回転支持手段16は、超音波共振体15の第1、第2のブースター13、14のそれぞれを同心状に内部に固定し、超音波共振体15と共に回転する第1、第2の回転内殻17、18と、超音波振動回転切断装置10のフレーム19に取付けられて、第1、第2の回転内殻17、18をそれぞれ内部に収容し、第1、第2の気体軸受機構20、21を介して回転可能に支持する第1、第2の固定外殻22、23とを有している。
【0026】
第1のブースター13は、第1のブースター13に設けられて第1のブースター13の径方向の超音波振動を吸収する第1の緩衝部材24を介して第1の回転内殻17に同心状に固定されている。また、第2のブースター14は、第2のブースター14に設けられて第2のブースター14の径方向の超音波振動を吸収する第2の緩衝部材25を介して第2の回転内殻18に同心状に固定されている。
【0027】
ここで、第1、第2の緩衝部材24、25はそれぞれ、第1、第2のブースター13、14の外周部の定在波SWのノードNodeに対応する部位に、半径方向外側に向けて突出して設けられた鍔状部材であって、第1、第2のブースター13、14と一体で構成されている。なお、第1、第2の緩衝部材を半径方向に沿って伸縮可能な部材、例えば、蛇腹
状部材とすることもできる。
【0028】
図1に示すように、第1、第2のブースター13、14のいずれか一方、例えば、第1のブースター13の自由端面26には超音波振動の振動源27(例えば、電歪振動子)が取付けられている。このため、図2に示すように、第1のブースター13の自由端面26は定在波SWのアンチノードANとなる。また、超音波共振体15内に存在する定在波SWにより回転刃11に半径方向の超音波振動を効率的に発生させるために、超音波ホーン12の回転刃11の取付け位置が定在波SWのノードNodeとなる必要がある。更に、第1、第2のブースター13、14にはそれぞれ、第1、第2の緩衝部材24、25を設けるためにノードNodeが一つ存在する必要がある。
【0029】
従って、超音波共振体15の第1のブースター13の自由端面26から超音波振動を供給して、超音波共振体15内に供給した超音波振動の定在波SWが存在するためには、超音波共振体15の長さは最短でも超音波振動の波長の1.5倍とする必要がある。そして、超音波共振体15の長さを超音波振動の波長の1.5倍とすることにより、超音波共振体15内での超音波振動の減衰を少なくして、定在波SWを効率的に形成することができると共に、コンパクトな超音波振動回転切断装置を作製することができる。
なお、超音波共振体15の長さが超音波振動の波長の1.5倍である場合、超音波共振体15の第2のブースター14の自由端面28はアンチノードANとなる。
【0030】
第1の回転内殻17は、自由端面26に振動源27が取付けられた第1のブースター13を収容可能な有底の円筒体形状であって、第1の回転内殻17の開口側には、第1のブースター13に設けた第1の緩衝部材24の嵌入が可能な拡径部29が形成され、第1の緩衝部材24を拡径部29に嵌入することにより、第1のブースター13を第1の回転内殻17内に同心状に収容することができる。そして、拡径部29に嵌入された第1の緩衝部材24は拡径部29の底部30に掛止されるため、第1の緩衝部材24を拡径部29に嵌入した後に拡径部29の内周面側と螺合可能な締結用円筒31を拡径部29に挿入して第1の緩衝部材24を拡径部29の底部30に押圧することにより、第1のブースター13を第1の回転内殻17内に固定することができる。
【0031】
第2の回転内殻18は、第2のブースター14を収容可能な円筒体形状であって、第2の回転内殻18の一方側(第2の回転内殻18内に第2のブースター14を同心状に固定した際、超音波ホーン12に対向する側)には、第2のブースター14に設けた第2の緩衝部材25の嵌入が可能な拡径部32が形成され、第2の緩衝部材25を拡径部32に嵌入することにより、第2のブースター14を第2の回転内殻18内に同心状に収容することができる。そして、拡径部32に嵌入された第2の緩衝部材25は拡径部32の底部33に掛止されるため、第2の緩衝部材25を拡径部32に嵌入した後に拡径部32の内周面側と螺合可能な締結用円筒34を拡径部32に挿入して第2の緩衝部材25を拡径部32の底部33に押圧することにより、第2のブースター14を第2の回転内殻18内に固定することができる。
【0032】
第1の回転内殻17の円形底板部35の中央部には、中空回転軸部材36の回転軸が第1の回転内殻17(超音波共振体15)の回転軸と同軸となるように、かつ、第1の回転内殻17と中空回転軸部材36が連通状態となるように連結されている。中空回転軸部材36の長手方向の中間位置にはスリップリング37が設けられ、スリップリング37を介して高周波発振器38からの駆動用信号が第1のブースター13の自由端面26に取付けられた振動源27に入力される構成となっている。なお、符号38aは、スリップリング37を介して受入れた駆動用信号を振動源27に入力する信号線である。
【0033】
更に、中空回転軸部材36の自由端には、第1、第2の回転内殻17、18と共に超音波共振体15(第2のブースター14、超音波ホーン12、及び第1のブースター13の直列連結体)を回転させる回転駆動源39(例えば、電動機)の回転軸40が非接触継手の一例である非接触式磁気継手41を介して連結されている。これにより、第1のブースター13を固定する第1の回転内殻17の振動源側の端部、即ち、円形底板部35に超音波共振体15を回転させる回転駆動源39からの回転動力を非接触式磁気継手41を介して伝達することができる。
【0034】
ここで、非接触式磁気継手41は、例えば、図1に示すように、回転駆動源39の回転軸40に取付けられる駆動側磁力部42と、中空回転軸部材36の自由端に駆動側磁力部42と対向するように取付けられる従動側磁力部43とを備えている。そして、駆動側磁力部42と従動側磁力部43には、図3(A)、(B)に示すように、同数(ここでは4個)の永久磁石44、45が、互いに異なる磁極面同士が対向するように配置されている。これにより、駆動側磁力部42と従動側磁力部43の対向する磁石間に発生する引力を介して駆動側磁力部42と従動側磁力部43が非接触で連結することになって、回転駆動源39の回転力が第1の回転内殻17に伝達され、超音波ホーン12、第1のブースター13、第2のブースター14の直列連結体である超音波共振体15が回転する。
【0035】
図1に示すように、第1の気体軸受機構20は、第1の回転内殻17を第1の回転内殻17の径方向に沿って支持するラジアル軸受部46と、第1の回転内殻17を第1の回転内殻17の回転軸方向に沿って支持するスラスト軸受部47とを有している。一方、第2の気体軸受機構21は、第2の回転内殻18を第2の回転内殻18の径方向に沿って支持するラジアル軸受部48を有している。ここで、第2の回転内殻にもスラスト軸受を設けてもよい。
【0036】
超音波ホーン12、第1、第2のブースター13、14は、超音波の伝搬性を同一にするために、同一材質で作製することが好ましく、第1のブースター13と第2のブースター14の長さが等しいと、超音波ホーン12の両側で第1のブースター13と第2のブースター14の質量は等しくなる。しかしながら、第1のブースター13の自由端面26に振動源27が取付けられているため、第1の回転内殻17の回転軸方向の長さが第2の回転内殻18の回転軸方向の長さより長く、第1の回転内殻17には中空回転軸部材36が取付けられ、中空回転軸部材36にはスリップリング37と従動側磁力部43が取付けられているので、超音波ホーン12を中心として回転軸方向の一方側と他方側の質量は異なる。このため、第1、第2の回転内殻17、18の長さや径を変えて、超音波ホーン12の一方側と他方側の質量をバランスさせる。
【0037】
第1、第2の回転内殻17、18の重さを変えることで、超音波共振体15の安定した定在波SWの条件を維持したまま切断時における第1のブースター13と第2のブースター14の変位量を同一にできる(即ち、第1、第2の固定外殻17、18に設けられた第1、第2の気体軸受機構20、21の軸受剛性を同一にできる)。これにより、超音波ホーン12に取付けられた回転刃11が切断時に硬脆性ウエハーから反力を受けたとしても、第1、第2の回転内殻17、18と共に超音波共振体15が並進移動(径方向に移動)するため回転刃11が傾くことがなく(回転刃11が傾いたまま切断されることがなく)、回転刃11の刃先の偏摩耗を防止することができる。
【0038】
続いて、本発明の一実施の形態に係る超音波振動回転切断装置10の作用について説明する。
図1に示すように、超音波振動回転切断装置10は、超音波共振体15の両側、即ち、第1、第2のブースター13、14がそれぞれ内蔵されて固定された第1、第2の回転内殻17、18を、第1、第2の気体軸受機構20、21を備えた第1、第2の固定外殻22、23により回転可能にそれぞれ支持するので、超音波共振体15の両側がそれぞれ第1、第2の回転内殻17、18に内蔵されて固定されるという条件が満たされれば、超音波共振体15の第1、第2のブースター17、18の外径と、第1、第2の回転内殻17、18の外径及び回転軸方向の長さはそれぞれ独立に決めることができる。
【0039】
このため、超音波共振体15の第1、第2のブースター17、18の外径を、超音波振動の縦波波長の1/4以下にして、超音波共振体15内に安定した超音波振動の定在波SWを形成することが可能になると共に、回転刃11に加わる反力が大きくなっても、超音波共振体15が振れる等の現象の発生が防止できるように第1、第2の回転内殻17、18の外径及び回転軸方向の長さを大きくして、第1、第2の気体軸受機構20、21をそれぞれ備えた第1、第2の固定外殻22、23により第1、第2の回転内殻17、18を安定して支持する(第1、第2の気体軸受機構21の支持力(軸受剛性)を向上する)ことができ、回転刃11を安定して保持することが可能になる。その結果、例えば、SiCやサファイア等の硬脆性材料の切削において安定した切断品質を得ることが可能になると共に、回転刃11の寿命延長及び破損防止を図ることも可能になる。
【0040】
そして、第1、第2のブースター13、14がそれぞれ、第1、第2の緩衝部材24、25を介して第1、第2の回転内殻17、18に固定されているので、超音波振動による第1、第2のブースター13、14の軸径が変化しても第1、第2の回転内殻17、18に伝達されず、第1、第2の回転内殻17、18の外形は変化しない。これにより、第1、第2の固定外殻22、23に設けられた第1、第2の気体軸受機構20、21の気体層の圧力変動が発生せず(超音波振動の超音波共振体15外への伝播による回転支持手段16への悪影響を少なくすることができ)、第1、第2の回転内殻17、18を安定して支持することができる。
【0041】
なお、第1の緩衝部材24は、第1のブースター13の外周部の定在波SWのノードNodeに対応する部位に、第2の緩衝部材25は、第2のブースター14の外周部の定在波SWのノードNodeに対応する部位にそれぞれ設けられているので、定在波SWの減衰を少なくすることができ、超音波共振体15内に発生する定在波SWを効率的に利用して回転刃11を半径方向に超音波振動させることができる。
【0042】
第1、第2の気体軸受機構20、21をそれぞれ備えた第1、第2の固定外殻22、23により第1、第2の回転内殻17、18が支持されているので、第1、第2の回転内殻17、18の支持に必要であった転がり軸受が不要になり、メンテナンスの負担を軽減することが可能になる。
【0043】
超音波共振体15の第1のブースター13の自由端面26に超音波振動の振動源27を取付けるので、使用する超音波の振動数に基づいて超音波共振体15の長さ(超音波ホーン12の厚さと第1、第2のブースター13、14の長さの和)を調節することにより、定在波SWを容易に存在させることができる。
第1のブースター13を固定する第1の回転内殻17の振動源27側の端部に超音波共振体15を回転させる回転駆動源39が非接触式磁気継手41を介して連結されているので、切断時に超音波共振体15の回転軸の軸心位置が、回転駆動源39の回転軸40の軸心位置とずれることがあっても、互いに干渉することなくスムーズな回転状態を維持することができる。
【0044】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載した構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。
更に、本実施の形態とその他の実施の形態や変形例にそれぞれ含まれる構成要素を組合わせたものも、本発明に含まれる。
例えば、本実施の形態では、超音波共振体を非接触継手の一例である非接触式磁気継手を介して回転駆動源と連結したが、超音波共振体をフレキシブル継手を介して回転駆動源と連結することもできる。
また、第2のブースターの自由端面に振動源を取付け、第2のブースターを固定する第2の回転内殻の振動源側の端部に超音波共振体を回転させる回転駆動源がフレキシブル継手又は非接触継手を介して連結される構成とすることもできる。
【符号の説明】
【0045】
10:超音波振動回転切断装置、11:回転刃、12:超音波ホーン、13:第1のブースター、14:第2のブースター、15:超音波共振体、16:回転支持手段、17:第1の回転内殻、18:第2の回転内殻、19:フレーム、20:第1の気体軸受機構、21:第2の気体軸受機構、22:第1の固定外殻、23:第2の固定外殻、24:第1の緩衝部材、25:第2の緩衝部材、26:自由端面、27:振動源、28:自由端面、29:拡径部、30:底部、31:締結用円筒、32:拡径部、33:底部、34:締結用円筒、35:円形底板部、36:中空回転軸部材、37:スリップリング、38:高周波発振器、38a:信号線、39:回転駆動源、40:回転軸、41:非接触式磁気継手、42:駆動側磁力部、43:従動側磁力部、44、45:永久磁石、46:ラジアル軸受部、47:スラスト軸受部、48:ラジアル軸受部
図1
図2
図3