特許第6937144号(P6937144)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6937144
(24)【登録日】2021年9月1日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】乗員保護装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/08 20060101AFI20210909BHJP
【FI】
   B60R21/08 B
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-60284(P2017-60284)
(22)【出願日】2017年3月27日
(65)【公開番号】特開2018-161967(P2018-161967A)
(43)【公開日】2018年10月18日
【審査請求日】2020年1月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人 エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長澤 勇
【審査官】 神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭48−011729(JP,A)
【文献】 特開2010−052620(JP,A)
【文献】 特開2009−154709(JP,A)
【文献】 特開2013−071704(JP,A)
【文献】 特表2002−508273(JP,A)
【文献】 特開2013−082418(JP,A)
【文献】 特開2012−046164(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0133797(US,A1)
【文献】 特開2014−184856(JP,A)
【文献】 米国特許第04536008(US,A)
【文献】 特開昭63−064851(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16 − 21/33
B60R 21/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられたシートの左右幅に対応する幅で前記シートに着座した乗員の肩部より上側から下へ向かって展開するシート幅展開部、および前記シート幅展開部についての左側部および右側部のうちの少なくとも一方の端部に設けられたバッグ係合部、を有する上下エアバッグと、
前記車両に設けられて前記シートに着座した乗員の腿部より下側において前記バッグ係合部と係合する係合部材と、
を有し、
前記上下エアバッグが展開前には、前記バッグ係合部と前記係合部材とは係合されておらず、
前記上下エアバッグが展開時において、前記シート幅展開部が展開すると、前記バッグ係合部が前記係合部材と係合する
乗員保護装置。
【請求項2】
前記シート幅展開部は、前記バッグ係合部が前記係合部材と係合した状態において前記シートに着座した乗員の腿部と接する、
請求項1記載の乗員保護装置。
【請求項3】
前記バッグ係合部は、前記シート幅展開部についての左側部および右側部の双方から下へ向かって突出する複数の突出部であり、
前記係合部材は、前記シートの左右両側において複数で設けられ、前記突出部が挿入される係合孔を有する、
請求項1または2記載の乗員保護装置。
【請求項4】
前記シート幅展開部は、前記シートに着座した乗員の腰部の前へ向かって展開する、
請求項1から3のいずれか一項記載の乗員保護装置。
【請求項5】
前記係合部材は、前記シートの座面より下側となる高さ位置に設けられ、前記シートの座面より下側において前記バッグ係合部と係合する、
請求項1から3のいずれか一項記載の乗員保護装置。
【請求項6】
前記係合部材は、前記バッグ係合部を係合箇所まで案内する案内部、を有する、
請求項1から5のいずれか一項記載の乗員保護装置。
【請求項7】
前記上下エアバッグは、前記車両の天井から前記シートに着座した乗員の両肩部の前へ向かって展開する右肩前展開部および左肩前展開部、を有し、
前記シート幅展開部は、前記右肩展開部の下端および前記左肩展開部の下端に連結され、前記シートに着座した乗員の胸部の前に展開し、
前記右肩前展開部および前記左肩前展開部は、前記シート幅展開部より変形し易い状態に展開する、
請求項1から6のいずれか一項記載の乗員保護装置。
【請求項8】
前記上下エアバッグは、
前記シート幅展開部の上側であって前記右肩前展開部と前記左肩前展開部との間となる部分に、頭部受け展開部を有し、
前記頭部受け展開部は、前記シート幅展開部より変形し易い状態に展開する、
請求項7記載の乗員保護装置。
【請求項9】
車両に設けられたシートの左右幅に対応する幅で前記シートに着座した乗員の肩部より上側から下へ向かって展開するシート幅展開部、および前記シート幅展開部についての左側部および右側部のうちの少なくとも一方の端部に設けられたバッグ係合部、を有する上下エアバッグと、
前記車両に設けられて前記シートに着座した乗員の腿部より下側において前記バッグ係合部と係合する係合部材と、
を有し、
前記バッグ係合部は、前記シート幅展開部についての左側部および右側部の双方から下へ向かって突出する複数の突出部であり、
前記係合部材は、前記シートの左右両側において複数で設けられ、前記突出部が挿入される係合孔を有し、
前記シート幅展開部が展開すると、前記バッグ係合部が前記係合部材と係合する
乗員保護装置。
【請求項10】
車両に設けられたシートの左右幅に対応する幅で前記シートに着座した乗員の肩部より上側から下へ向かって展開するシート幅展開部、および前記シート幅展開部についての左側部および右側部のうちの少なくとも一方の端部に設けられたバッグ係合部、を有する上下エアバッグと、
前記車両に設けられて前記シートに着座した乗員の腿部より下側において前記バッグ係合部と係合する係合部材と、
を有し、
前記上下エアバッグは、前記車両の天井から前記シートに着座した乗員の両肩部の前へ向かって展開する右肩前展開部および左肩前展開部、を有し、
前記シート幅展開部が展開すると、前記バッグ係合部が前記係合部材と係合
前記シート幅展開部は、前記右肩前展開部の下端および前記左肩前展開部の下端に連結され、前記シートに着座した乗員の胸部の前に展開し、
前記右肩前展開部および前記左肩前展開部は、前記シート幅展開部より変形し易い状態に展開する、
乗員保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車においてシートに着座した乗員を保護する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車においてシートに着座した乗員を保護する装置には、シートベルトやフロントエアバッグを用いるものがある(特許文献1)。
シートベルトは、一般的に三点式であり、シートに着座した乗員の腰周りのラップ部、および上体前にたすき掛けされるショルダ部を有する。そして、衝突前にリトラクタでシートベルトを巻き取って弛みを減らし、衝突時にシートベルトの送り出しを規制する。これにより、衝突時にシートから前へ移動しようとする乗員の身体をシートに着座した状態に保持するように作動できる。
フロントエアバッグは、乗員室においてシートの前に設けられるハンドルまたはダッシュボードに設けられ、シートへ向かって後向きに展開する。そして、衝突時に前へ倒れ込む乗員の上体を、展開したフロントエアバッグで支えて衝撃を吸収する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−235009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような乗員保護装置を用いても、すべての衝突形態において適切に保護できる訳ではない。
たとえば前面衝突においても、衝突の衝撃によりシートに着座した乗員が前へ移動する可能性がある。そして、乗員の腰部がシートの着座位置から前へ滑って移動してしまうと、腰部を軸としてその周りで前へ倒れ込もうとする上体は、フロントエアバッグに近づいた状態から前へ倒れ込むことになる。この場合、フロントエアバッグと上体との接触状態は、腰部がシートの着座位置にある場合に想定していたものとは異なる。
また、車体におけるシートの前後の調整位置、シートに着座している乗員の体形、乗員の着座姿勢などによっても、衝突の際の乗員の挙動は変化する。
【0005】
このように、乗員保護装置では、乗員保護性能についての更なる改善が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る乗員保護装置は、車両に設けられたシートの左右幅に対応する幅で前記シートに着座した乗員の肩部より上側から下へ向かって展開するシート幅展開部、および前記シート幅展開部についての左側部および右側部のうちの少なくとも一方の端部に設けられたバッグ係合部、を有する上下エアバッグと、前記車両に設けられて前記シートに着座した乗員の腿部より下側において前記バッグ係合部と係合する係合部材と、を有し、前記上下エアバッグが展開前には、前記バッグ係合部と前記係合部材とは係合されておらず、前記上下エアバッグが展開時において、前記シート幅展開部が展開すると、前記バッグ係合部が前記係合部材と係合する
【0007】
好適には、前記シート幅展開部は、前記バッグ係合部が前記係合部材と係合した状態において前記シートに着座した乗員の腿部と接する、とよい。
【0008】
好適には、前記バッグ係合部は、前記シート幅展開部についての左側部および右側部の双方から下へ向かって突出する複数の突出部であり、前記係合部材は、前記シートの左右両側において複数で設けられ、前記突出部が挿入される係合孔を有する、とよい。
【0009】
好適には、前記シート幅展開部は、前記シートに着座した乗員の腰部の前へ向かって展開する、とよい。
【0010】
好適には、前記係合部材は、前記シートの座面より下側となる高さ位置に設けられ、前記シートの座面より下側において前記バッグ係合部と係合する、とよい。
【0011】
好適には、前記係合部材は、前記バッグ係合部を係合箇所まで案内する案内部、を有する、とよい。
【0012】
好適には、前記上下エアバッグは、前記車両の天井から前記シートに着座した乗員の両肩部の前へ向かって展開する右肩前展開部および左肩前展開部、を有し、前記シート幅展開部は、前記右肩展開部の下端および前記左肩展開部の下端に連結され、前記シートに着座した乗員の胸部の前に展開し、前記右肩前展開部および前記左肩前展開部は、前記シート幅展開部より変形し易い状態に展開する、とよい。
【0013】
好適には、前記上下エアバッグは、前記シート幅展開部の上側であって前記右肩前展開部と前記左肩前展開部との間となる部分に、頭部受け展開部を有し、前記頭部受け展開部は、前記シート幅展開部より変形し易い状態に展開する、とよい。
また、本発明に係る乗員保護装置は、車両に設けられたシートの左右幅に対応する幅で前記シートに着座した乗員の肩部より上側から下へ向かって展開するシート幅展開部、および前記シート幅展開部についての左側部および右側部のうちの少なくとも一方の端部に設けられたバッグ係合部、を有する上下エアバッグと、前記車両に設けられて前記シートに着座した乗員の腿部より下側において前記バッグ係合部と係合する係合部材と、を有し、前記バッグ係合部は、前記シート幅展開部についての左側部および右側部の双方から下へ向かって突出する複数の突出部であり、前記係合部材は、前記シートの左右両側において複数で設けられ、前記突出部が挿入される係合孔を有し、前記シート幅展開部が展開すると、前記バッグ係合部が前記係合部材と係合する、ようにしてもよい。
さらに、本発明に係る乗員保護装置は、車両に設けられたシートの左右幅に対応する幅で前記シートに着座した乗員の肩部より上側から下へ向かって展開するシート幅展開部、および前記シート幅展開部についての左側部および右側部のうちの少なくとも一方の端部に設けられたバッグ係合部、を有する上下エアバッグと、前記車両に設けられて前記シートに着座した乗員の腿部より下側において前記バッグ係合部と係合する係合部材と、を有し、前記上下エアバッグは、前記車両の天井から前記シートに着座した乗員の両肩部の前へ向かって展開する右肩前展開部および左肩前展開部、を有し、前記シート幅展開部が展開すると、前記バッグ係合部が前記係合部材と係合、前記シート幅展開部は、前記右肩前展開部の下端および前記左肩前展開部の下端に連結され、前記シートに着座した乗員の胸部の前に展開し、前記右肩前展開部および前記左肩前展開部は、前記シート幅展開部より変形し易い状態に展開する、ようにしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明において乗員保護装置は、上下エアバッグと、係合部材とを有する。そして、上下エアバッグでは、シート幅展開部がシートの左右幅に対応する幅でシートに着座した乗員の肩部より上側から下へ向かって展開し、バッグ係合部がシート幅展開部についての左側部および右側部のうちの少なくとも一方の端部に設けられる。また、バッグ係合部は、車両に設けられてシートに着座した乗員の腿部より下側において係合部材と係合する。これにより、上下エアバッグのシート幅展開部は、シートに着座した乗員の上体の前に展開してこれを好適に支持することができる。
しかも、シートの左右幅に対応する幅で展開するシート幅展開部は、バッグ係合部が係合部材と係合した状態において、シートの上で、シートの左右幅に対応する幅で展開する。よって、シート幅展開部は、シートに着座した乗員のたとえば腿部を、シートの座面との間に挟んで押圧する。車体におけるシートの前後の調整位置、展開前におけるシート上の着座位置および姿勢、乗員の体形にかかわらず、シートに着座した状態に乗員を押さえることができる。
その結果、乗員の腰部は、上下エアバッグとシートとの間にたとえば腿部が挟まれることにより、衝突の際にシートの着座位置から前などへ移動し難くなる。そして、たとえば前面衝突の際に乗員の上体は着座位置に安定した腰部の周りで前側へ倒れることができ、衝突の際の乗員の上体の挙動は所望のものに近づく。そして、着座位置にある腰部の周りで前などへ倒れる上体、上下エアバッグにより支えて、衝撃を吸収することができる。
【0015】
特に、バッグ係合部として、シート幅展開部についての左側部および右側部の双方から下へ向かって突出するように展開する複数の突出部を設け、シートの左右両側に設けられた複数の係合部材の係合孔とシートの左右両側において係合させる。これにより、シートに着座した乗員の左右両方のたとえば腿部の全体を、シート幅展開部とシートの座面との間に挟んで押さえることができる。その結果、乗員の腰部は、シートに着座した位置から前などへすべって移動し難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の実施形態に係る乗員保護装置が適用可能な自動車の説明図である。
図2図2は、フルラップ正面衝突における乗員の挙動の一例の説明図である。
図3図3は、乗員の腰部がシートの着座位置にあるままで上体が倒れ込んだ状態の一例の説明図である。
図4図4は、第1実施形態に係る乗員保護装置の説明図である。
図5図5は、図4の上下エアバッグが展開した状態を説明する前面図である。
図6図6は、図4の上下エアバッグが展開した状態を説明する側面図および上面図である。
図7図7は、図4の上下エアバッグの展開経過の説明図である。
図8図8は、第2実施形態に係る乗員保護装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0018】
[第1実施形態]
図1は、本発明の実施形態に係る乗員保護装置10が適用可能な自動車1の説明図である。
【0019】
自動車1は、車両の一例である。自動車1は、乗員室2が形成された車体3を有する。乗員室2には、乗員室2において前向きに設けられて乗員が着座する2つのフロントシート4、リアシート4が設けられる。乗員室2についての左右両側には、乗員が乗降するために開閉されるドア5が設けられる。フロントシート4の前には、乗員室2の左右幅に対応する長さのダッシュボード6が設けられる。2つのフロントシート4の間には、センターコンソール7が設けられる。
【0020】
ところで、このような自動車1では、他の自動車などと衝突した際に、シート4に着座した乗員を保護する装置が設けられる。
図1には、シートベルト19、フロントエアバッグ16が図示されている。
シートベルト19は、一般的に三点式である。三点式のシートベルト19は、シート4に着座した乗員の腰周りのラップ部、および上体前にたすき掛けされるショルダ部を有する。そして、衝突前に図示外のリトラクタでシートベルト19を巻き取ってたるみを減らし、さらに衝突時にシートベルト19の送り出しを規制する。これにより、衝突時にシート4から前へ移動しようとする乗員の身体をシート4に着座した状態に保持するように作動できる。
フロントエアバッグ16は、乗員室2においてシート4の前に設けられるハンドルまたはダッシュボード6に設けられ、シート4へ向かって後向きに展開する。そして、衝突時に前へ倒れ込む乗員の上体を、展開したフロントエアバッグ16で支えて衝撃を吸収できる。
しかしながら、このような乗員保護装置10を用いても、すべての衝突形態において乗員を適切に保護できる訳ではない。たとえば正面衝突であっても、少なくともフルラップ衝突、オフセット衝突、オブリーク衝突の衝突形態がある。そして、衝突の形態が違えば、衝突の際の車体3および乗員の身体に作用する衝撃力の大きさや向きが異なり、車体3や乗員の挙動も異なる。
【0021】
たとえば図2は、フルラップ正面衝突における乗員の挙動の一例の説明図である。
乗員がシート4に着座した状態で正面衝突が起きると、図2(A)に示すように、衝突の衝撃によりシート4に着座した乗員には相対的に前へ移動しようとする力が作用する。
この際に乗員がシートベルト19により押さえられていないとすると、図2(B)に示すように、乗員の腰部はシート4の着座位置から前へ滑って移動する。
そして、乗員の腰部はたとえば膝頭がダッシュボード6に当たった状態で止まり、乗員の上体は、図2(C)に示すように、その位置の腰部を軸としてその周りで前へ倒れ込むことになる。
【0022】
これに対し、図3は、乗員の腰部がシート4の着座位置にあるままで乗員の上体が倒れ込んだ状態の一例の説明図である。
図2(C)でのフロントエアバッグ16に対する上体の接触状態は、図3と比較すれば明らかなように腰部が着座位置にある場合において想定したものとは異なる。乗員の上体は、フロントエアバッグ16に近づいた位置において前へ倒れ込む。展開したフロントエアバッグ16と上体との接触状態は、腰部がシート4の着座位置にあると想定した場合のものとは異なる。この場合、展開したフロントエアバッグ16により、適切に倒れ込んだ上体を支持して衝撃を吸収することができない可能性がある。
また、上体は腰部の移動が止まった後に短時間で急に前へ倒れることになる。
【0023】
また、車体3におけるシート4の前後の調整位置、シート4に着座している乗員の体形、乗員の着座姿勢などによっても、衝突の際の乗員の挙動は変化する。
【0024】
このように、乗員保護装置10では、乗員保護性能を更に改善することが求められている。
【0025】
図4は、第1実施形態に係る乗員保護装置10の説明図である。
【0026】
図4には、乗員保護装置10とともに、自動運転制御装置40が図示されている。自動運転制御装置40は、車外撮像センサ41、自動運転制御部42、操舵アクチュエータ43、ブレーキアクチュエータ44、動力源45、を有する。
車外撮像センサ41は、たとえば車体3の前方を撮像する。これにより、たとえば走行中の車体3に対して前から近づく他の車体を画像として撮像することができる。
操舵アクチュエータ43は、ハンドルの替わりに、自動車1の操舵装置を駆動する。
ブレーキアクチュエータ44は、ブレーキペダルの替わりに、自動車1の制動装置を駆動する。
動力源45は、たとえばガソリンエンジン、電気モータである。
自動運転制御部42は、自動車1の走行を自動制御する。自動運転制御部42は、たとえば目的地までの走行経路情報にしたがって、操舵アクチュエータ43、ブレーキアクチュエータ44、および動力源45を制御する。また、自動運転制御部42は、車外撮像センサ41の画像に基づいて接近物を特定し、接近物との衝突を予想する。そして、接近物との衝突を予想した場合には、自動運転制御部42は、その衝突を回避するように操舵アクチュエータ43、ブレーキアクチュエータ44、および動力源45を制御する。
【0027】
図4の乗員保護装置10は、乗員位置センサ11、Gセンサ12、タイマ13、乗員保護制御部14、フロントエアバッグ装置15、三点式シートベルト装置18、上下エアバッグ装置20、を有する。
【0028】
乗員位置センサ11は、シート4に着座した乗員の頭部の位置または上体の位置を検出する。たとえば乗員位置センサ11は、シート4に背を付けた着座位置を基準として、前方への移動量または左右方向への移動量を検出する。
【0029】
Gセンサ12は、自動車1に作用する加速度を検出する。検出する加速度の方向は、前後方向、左右方向、上下方向でよい。
【0030】
タイマ13は、時刻または時間を計測する。
【0031】
フロントエアバッグ装置15は、シート4に着座した乗員の前に設けられる。フロントエアバッグ装置15は、たとえばダッシュボード6、ハンドルに設けられる。フロントエアバッグ装置15は、フロントエアバッグ16、インフレータ17、を有する。点火信号が入力されることにより、インフレータ17は、フロントエアバッグ16内へガスを放出する。これにより、フロントエアバッグ16は、シート4に着座した乗員へ向けて後方へ展開する。乗員の上体の前にフロントエアバッグ16が展開される。
【0032】
三点式シートベルト装置18は、シートベルト19を有する。シートベルト19は、図示外のタングがバックルと係合することにより、シート4に着座した乗員についての腰部の周りに対して設けられるラップ部と、上体についての一方の肩部から腰部の内側部分にかけてたすき掛けされるショルダ部と、を形成する。そして、プリテンション信号や支持信号が入力されることにより、図示外のリトラクタは、シートベルト19を巻き取る。たとえば、衝突前にシートベルト19を巻き取って弛みを減らし、衝突時にシートベルト19の送り出しを規制する。これにより、衝突時にシート4から前へ移動しようとする乗員の身体をシート4に着座した状態に保持することができる。
【0033】
乗員保護制御部14には、車外撮像センサ41、自動運転制御部42、乗員位置センサ11、Gセンサ12、タイマ13、フロントエアバッグ装置15、三点式シートベルト装置18、上下エアバッグ装置20、が接続される。
乗員保護制御部14は、センサの情報から衝突の可能性を判断する。そして、衝突の可能性がある場合、乗員保護制御部14は、プリクラッシュ制御を実行する。プリクラッシュ制御では、乗員保護制御部14は、たとえばシートベルト19を巻き取るプリテンション制御を実行する。
また、乗員保護制御部14は、センサの情報から衝突を検出すると、乗員保護制御を実行する。乗員保護制御では、乗員保護制御部14は、シートベルト19の送り出しを規制し、フロントエアバッグ16を展開させる。
【0034】
図5は、図4の上下エアバッグ23が展開した状態を説明する前面図である。
図6は、図4の上下エアバッグ23が展開した状態を説明する側面図および上面図である。
上下エアバッグ装置20は、インフレータ21が配置される本体22、インフレータ21の発生ガスにより本体22から展開する上下エアバッグ23、係合部材31、を有する。
【0035】
本体22は、自動車1の天井においてシート4より後側となる位置に配置される。本体22は、シート4の左右幅に対応する幅で設けられてよい。
【0036】
上下エアバッグ23は、自動車1の天井に設けられた本体22から前下へ向かって展開する。上下エアバッグ23は、シート4に着座した乗員の肩部より上側から下へ向かって乗員の腰部の前に達する長さで展開する。
上下エアバッグ23は、図6に示すように、右肩前展開部24、左肩前展開部25、シート幅展開部としての胸前展開部26、および頭部受け展開部28、を有する。
右肩前展開部24は、シート4の右端部分の上方において、自動車1の天井に設けられた本体22から下へ向かって、シート4に着座した乗員の右肩部の高さまで展開する部分である。右肩前展開部24は、シート4に着座した乗員の右肩部の前に展開する。
左肩前展開部25は、シート4の左端部分の上方において、自動車1の天井に設けられた本体22から下へ向かって、シート4に着座した乗員の肩部の高さまで展開する部分である。左肩前展開部25は、シート4に着座した乗員の左肩部の前に展開する。
胸前展開部26は、右肩前展開部24の下端および左肩前展開部25の下端に連結され、シート4の左右幅に対応する幅で、シート4に着座した乗員の胸部の前に展開する部分である。胸前展開部26は、展開方向の下縁が、シート4の座面より下側に達する高さを有する。上下エアバッグ23の上下方向の展開長さは、自動車1の天井からシート4の座面までの高さより長く形成される。
頭部受け展開部28は、胸前展開部26の上側であって右肩前展開部24と左肩前展開部25との間となる部分に展開する部分である。頭部受け展開部28は、乗員の顎部に対応する凹曲形状を有する。
そして、右肩前展開部24および左肩前展開部25は、胸前展開部26より変形し易い状態に展開する。右肩前展開部24および左肩前展開部25より変形し易い状態に展開する。たとえば展開圧力を低くしたり、展開袋体を伸縮性が高い材料としたりすることにより、展開部は変形し易くなる。なお、右肩前展開部24、左肩前展開部25、胸前展開部26、および頭部受け展開部28は、互いに連通した一つの気室として構成されてよい。この場合でも展開部の間に圧力開閉弁などを設けることにより、各部を異なる圧力で展開させることができる。
【0037】
また、上下エアバッグ23には、左右一対のバッグ係合部29が設けられる。左右一対のバッグ係合部29は、シート4の左右幅に対応する幅で形成された胸前展開部26の左側部および右側部の双方に設けられる。
バッグ係合部29は、胸前展開部26の下縁より下へ突出する。
なお、バッグ係合部29は、上下エアバッグ23の他の部分と同様に展開する部分として形成されてよい。
【0038】
係合部材31は、シート4の左右両側において複数で設けられる。複数の係合部材31は、シート4の座部とドア5との間と、シート4の座部とセンターコンソール7との間とに設けられる。
係合部材31は、シート4の座面より下側となる高さ位置に設けられる。
そして、係合部材31の上面には、バッグ係合部29が挿入される係合孔32が形成される。
【0039】
図7は、図4の上下エアバッグ23の展開経過の説明図である。
【0040】
図7(A)の衝突前では、乗員保護制御部14は、衝突の可能性を判断する。そして、衝突の可能性がある場合、乗員保護制御部14は、上下エアバッグ装置20を展開させる。
上下エアバッグ23は、図7(B)に示すように、自動車1のシート4に着座した乗員の肩部より上に位置する自動車1の天井から、前下へ向かって展開を開始する。上下エアバッグ23の胸前展開部26は、シート4に着座した乗員の上体の前において腰部へ向かって展開する。
そして、図7(C)に示すように、胸前展開部26の下縁より下へ突出する左右一対のバッグ係合部29は、シート4の左右に設けられた一対の係合孔32に入る。これにより、左右一対のバッグ係合部29は、シート4の座面より下側において左右一対の係合孔32と係合する。シート4に着座した乗員の腿部より下側において互いに係合する。胸前展開部26の下端部がシート4に着座した乗員の左右両側の大腿部に向かって突き当たるように接触する。腰部またはその近傍の前に向かって突き当たる。これにより、シート4に着座した乗員の腰部は、衝突前にシート4の着座位置に押さえられる。
また、シート4の左右幅に対応する幅で展開する胸前展開部26は、バッグ係合部29と係合部材31とが係合した状態において乗員の腿部の上面に上から接する。
その後、実際に衝突が生じると、シート4に着座した乗員の上体は、腰部がシート4の着座位置に押さえられた状態で前へ倒れる。上体は、上下エアバッグ23へ倒れ込む。
なお、上下エアバッグ23の展開タイミングは、実際の衝突を検出したタイミングであってもよい。この場合でも、上下エアバッグ23は、衝突の際に、シート4に着座した乗員の腰部が前などへ滑らないように押さえ、しかも衝突の衝撃により倒れる上体を支持することができる。
【0041】
以上のように、本実施形態において乗員保護装置10は、上下エアバッグ23と、係合部材31とを有する。そして、上下エアバッグ23では、胸前展開部26がシート4の左右幅に対応する幅でシート4に着座した乗員の肩部より上側から下へ向かって展開し、バッグ係合部29が胸前展開部26についての左側部および右側部のうちの少なくとも一方の端部に設けられる。また、バッグ係合部29は、自動車1においてシート4に着座した乗員の腿部より下側となる高さ位置に設けられて腿部より下側において係合部材31と係合する。これにより、上下エアバッグ23の胸前展開部26は、シート4に着座した乗員の上体の前に展開してこれを好適に支持することができる。
しかも、シート4の左右幅に対応する幅で展開する胸前展開部26は、バッグ係合部29が係合部材31と係合した状態において乗員の腿部と接する。よって、シート4に着座した乗員の腿部は、胸前展開部26とシート4の座面との間に挟んで押圧される。車体3におけるシート4の前後の調整位置、展開前におけるシート4上の着座位置および姿勢、乗員の体形にかかわらず、シート4に着座した状態に乗員を押さえることができる。
その結果、乗員の腰部は、上下エアバッグ23とシート4との間に腿部が挟まれることにより、衝突の際にシート4の着座位置から前などへ移動し難くなる。そして、たとえば前面衝突の際に乗員の上体は着座位置に安定した腰部の周りで前側へ倒れることができ、衝突の際の乗員の上体の挙動は所望のものに近づく。そして、着座位置にある腰部の周りで前などへ倒れる上体、上下エアバッグ23により支えて、衝撃を吸収することができる。
【0042】
特に、バッグ係合部29として、胸前展開部26についての左側部および右側部の双方から下へ向かって突出するように展開する複数の突出部を設け、シート4の左右両側に設けられた複数の係合部材31の係合孔32とシート4の左右両側において係合させる。これにより、シート4に着座した乗員の左右両方の腿部の全体を、胸前展開部26とシート4の座面との間に挟んで押さえることができる。その結果、乗員の腰部は、シート4に着座した位置から前などへすべって移動し難くなる。
【0043】
上記実施形態では、バッグ係合部29は、胸前展開部26についての左側部または右側部から下へ向かって突出するように展開する突出部であり、係合部材31の係合孔32と係合させている。この他にもたとえば、バッグ係合部29および係合部材31は、ベルクロテープ(登録商標)により構成されてもよい。また、バッグ係合部29と係合部材31とが瞬間的に溶着するようにしてもよい。
【0044】
本実施形態では、胸前展開部26は、シート4に着座した乗員の腰部の前へ向かって展開する。よって、シート4に着座した乗員の腰部は、着座していた位置から前などへ滑って移動し難くなる。
【0045】
本実施形態では、係合部材31は、シート4の座面より下側となる高さ位置に設けられる。そして、係合部材31とバッグ係合部29とは、シート4の座面より下側において係合する。よって、胸前展開部26とシート4の座面との間に、シート4に着座した乗員の左右両方の腿部を挟むことができる。
【0046】
本実施形態では、右肩前展開部24および左肩前展開部25は、胸前展開部26より変形し易い状態に展開する。よって、胸前展開部26において上体の衝撃を吸収する状況において右肩前展開部24および左肩前展開部25が変形することができる。その結果、衝撃吸収中の胸前展開部26の変形を抑制でき、胸前展開部26が変形することによって上体に対して湾曲させる力が作用し難くなる。
【0047】
本実施形態では、胸前展開部26の上側に、胸前展開部26より変形し易い状態に展開する頭部受け展開部28が設けられる。よって、乗員の頭部の衝撃を、頭部受け展開部28により吸収することができる。
【0048】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係る乗員保護装置10について説明する。
以下の説明では、第1実施形態と同様の構成については第1実施形態と同じ符号を使用し、主に第1実施形態との相違点について説明する。
【0049】
図8は、第2実施形態に係る乗員保護装置10の説明図である。図8(A)は展開途中の状態、図8(B)は展開した状態を示している。
図8において、係合部材31には、係合孔32の周囲となる上面に、テーパ状の案内面33が形成されている。
そして、上から下へ展開する上下エアバッグ23のバッグ係合部29は、展開途中においてテーパ状の案内面33に当たり、さらに下へ展開することにより係合孔32へ導かれ、係合孔32と係合できる。
【0050】
以上のように、上下エアバッグ23のバッグ係合部29は、上下エアバッグ23の展開方向が微妙にたとえば前後に傾いたとしても、展開途中においてテーパ状の案内面33により案内されて、係合部材31と係合することができる。たとえばシート4に着座した乗員の体形に推されて上下エアバッグ23の展開方向が微妙に前へずれたとしても、係合部材31と係合することができる。
【0051】
以上の実施形態は、本発明の好適な実施形態の例であるが、本発明は、これに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形または変更が可能である。
【符号の説明】
【0052】
1…自動車(車両)、2…乗員室、3…車体、4…シート、5…ドア、6…ダッシュボード、7…センターコンソール、10…乗員保護装置、11…乗員位置センサ、12…Gセンサ、13…タイマ、14…乗員保護制御部、15…フロントエアバッグ装置、16…フロントエアバッグ、17…インフレータ、18…三点式シートベルト装置、19…シートベルト、20…上下エアバッグ装置、21…インフレータ、22…本体、23…上下エアバッグ、24…右肩前展開部、25…左肩前展開部、26…胸前展開部(シート幅展開部)、28…頭部受け展開部、29…バッグ係合部、31…係合部材、32…係合孔、33…案内面、40…自動運転制御装置、41…車外撮像センサ、42…自動運転制御部、43…操舵アクチュエータ、44…ブレーキアクチュエータ、45…動力源。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8