(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように患部摘出に伴う乳房の形状変化は小さくなってきたものの、患者にとっては乳房の形状がどの程度変化するのか分かり難いため、手術に不安を感じることがある。また医師にとっても患者への具体的な説明が難しく、負担を抱えている。
【0005】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、患部摘出に伴う乳房の形状変化を予測するための乳房形状変化予測方法、乳房形状変化予測システム、及び乳房形状変化予測プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、患部摘出に伴う乳房の形状変化を予測するための乳房形状変化予測方法であって、
乳房部分と胸部分とを含む乳房モデルと、該乳房モデルに含まれる患部モデルとを特定する乳房モデル・患部モデル特定ステップと、
前記乳房モデルの外表面を複数の領域に区画して、前記乳房部分における該領域の境界に動作点を設定する一方、前記乳房部分と前記胸部分との境界に二以上の固定点を設定する動作点・固定点設定ステップと、
前記患部モデルの重心を算出する重心算出ステップと、
前記重心と前記固定点のそれぞれとを結ぶ二以上の固定ベクトルを算出するとともにこれらの固定ベクトルの合成ベクトルである移動方向ベクトルを算出する固定ベクトル・移動方向ベクトル算出ステップと、
前記重心を通って前記移動方向ベクトルに平行な直線である移動方向線と前記患部モデルの境界との交点を作用点と設定する作用点設定ステップと、
前記動作点と前記作用点とを直線で結んだ張力線の長さである張力線全長を算出するとともに、該張力線と前記患部モデルの境界との交点から該作用点に至る長さである張力線部分長を算出する張力線全長・張力線部分長算出ステップと、
前記張力線全長に対する前記張力線部分長の割合に応じて前記動作点を前記張力線に沿って移動させる動作点移動ステップとを備える乳房形状変化予測方法である。
【0007】
上記発明にあっては、移動後の前記動作点を相互につないだ領域によって形成される外表面を、患部が摘出された後の乳房モデルの外表面として特定する外表面特定ステップを備えることが好ましい。
【0008】
また上記発明において、前記乳房モデル・患部モデル特定ステップでは、前記患部モデルを複数特定し、
それぞれの患部モデル毎に前記重心算出ステップ、前記固定ベクトル・移動方向ベクトル算出ステップ、前記作用点設定ステップ、前記張力線全長・張力線部分長算出ステップを実行し、
前記動作点移動ステップでは、それぞれの患部モデル毎に、前記張力線全長に対する前記張力線部分長の割合に応じた大きさであって前記張力線に沿う向きの張力線ベクトルを算出し、更にこれら張力線ベクトルの合成ベクトルである合成張力線ベクトルを算出して、該合成張力線ベクトルに基づいて前記動作点を移動させることが好ましい。
【0009】
また本発明は、患部摘出に伴う乳房の形状変化を予測するための乳房形状変化予測システムであって、
乳房部分と胸部分とを含む乳房モデルと、該乳房モデルに含まれる患部モデルとを特定する乳房モデル・患部モデル特定手段と、
前記乳房モデルの外表面を複数の領域に区画して、前記乳房部分における該領域の境界に動作点を設定する一方、前記乳房部分と前記胸部分との境界に二以上の固定点を設定する動作点・固定点設定手段と、
前記患部モデルの重心を算出する重心算出手段と、
前記重心と前記固定点のそれぞれとを結ぶ二以上の固定ベクトルを算出するとともにこれらの固定ベクトルの合成ベクトルである移動方向ベクトルを算出する固定ベクトル・移動方向ベクトル算出手段と、
前記重心を通って前記移動方向ベクトルに平行な直線である移動方向線と前記患部モデルの境界との交点を作用点と設定する作用点設定手段と、
前記動作点と前記作用点とを直線で結んだ張力線の長さである張力線全長を算出するとともに、該張力線と前記患部モデルの境界との交点から該作用点に至る長さである張力線部分長を算出する張力線全長・張力線部分長算出手段と、
前記張力線全長に対する前記張力線部分長の割合に応じて前記動作点を前記張力線に沿って移動させる動作点移動手段とを備える乳房形状変化予測システムである。
【0010】
上記発明にあっては、移動後の前記動作点を相互につないだ領域によって形成される外表面を、患部が摘出された後の乳房モデルの外表面として特定する外表面特定手段を備えることが好ましい。
【0011】
また本発明は、患部摘出に伴う乳房の形状変化を予測するための乳房形状変化予測プログラムであって、
コンピュータに、
乳房部分と胸部分とを含む乳房モデルと、該乳房モデルに含まれる患部モデルとを特定する乳房モデル・患部モデル特定ステップと、
前記乳房モデルの外表面を複数の領域に区画して、前記乳房部分における該領域の境界に動作点を設定する一方、前記乳房部分と前記胸部分との境界に二以上の固定点を設定する動作点・固定点設定ステップと、
前記患部モデルの重心を算出する重心算出ステップと、
前記重心と前記固定点のそれぞれとを結ぶ二以上の固定ベクトルを算出するとともにこれらの固定ベクトルの合成ベクトルである移動方向ベクトルを算出する固定ベクトル・移動方向ベクトル算出ステップと、
前記重心を通って前記移動方向ベクトルに平行な直線である移動方向線と前記患部モデルの境界との交点を作用点と設定する作用点設定ステップと、
前記動作点と前記作用点とを直線で結んだ張力線の長さである張力線全長を算出するとともに、該張力線と前記患部モデルの境界との交点から該作用点に至る長さである張力線部分長を算出する張力線全長・張力線部分長算出ステップと、
前記張力線全長に対する前記張力線部分長の割合に応じて前記動作点を前記張力線に沿って移動させる動作点移動ステップとを実行させる乳房形状変化予測プログラムである。
【0012】
上記発明にあっては、移動後の前記動作点を相互につないだ領域によって形成される外表面を、患部が摘出された後の乳房モデルの外表面として特定する外表面特定ステップを実行させることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、患部摘出後の乳房の形状を予測することができるため、手術を控えた患者の不安を取り除くことができ、また医師にとっても患者へ分かりやすく説明することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に従う乳房形状変化予測システムの一実施形態を示すブロック図である。
【
図2】本発明に従う乳房形状変化予測方法の一実施形態を示すフロー図である。
【
図3】乳房モデルと患部モデルの一例を示す図である。
【
図4】
図3(c)の拡大図であって、動作点と固定点を示す図である。
【
図6】固定ベクトルと移動方向ベクトルを示す図である。
【
図8】(a)は張力線、及び張力線と患部モデルとの交点を示す図であり、(b)はその拡大図である。
【
図9】張力線全長と張力線部分長について説明する図である。
【
図10】移動後の動作点と乳房モデルの外表面とを示す図である。
【
図14】重心と固定点を結ぶ固定ベクトルについて示す図である。
【
図17】患部が摘出された後の乳房モデルの外表面を示す図である。
【
図18】患者の乳房部分及び胸部分を計測して得られる一の乳房モデルを用いた実施形態について説明する図である。
【
図19】患者の乳房部分及び胸部分を計測して得られる他の乳房モデルを用いた実施形態について説明する図である。
【
図20】複数の患部モデルを設定した状態での動作点と固定点を示す図である。
【
図21】複数の患部モデルを設定した状態での患部モデルの重心を示す図である。
【
図22】複数の患部モデルを設定した状態での固定ベクトルと移動方向ベクトルを示す図である。
【
図23】複数の患部モデルを設定した状態での移動方向線と作用点を示す図である。
【
図24】複数の患部モデルを設定した状態での張力線、及び張力線と患部モデルとの交点を示す図である。
【
図25】
図24の拡大図であって、(a)は第1患部モデル周辺を示した図であり、(b)は第2患部モデル周辺を示した図である。
【
図26】張力線ベクトルと合成張力線ベクトルを示した図である。
【
図27】複数の患部モデルを設定した状態での移動後の動作点と乳房モデルの外表面とを示す図である。
【
図28】複数の患部モデルを設定するにあたってより好ましい状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
【0016】
図1は、本発明に従う乳房形状変化予測システムの一実施形態につき、その概略構成を示すブロック図である。乳房形状変化予測システム1は、例えばコンピュータを用いて構成することが可能である。本実施形態の乳房形状変化予測システム1は、制御部2、記憶部3、入力部4、表示部5、及びこれらを接続するバス6を備えている。
【0017】
制御部2は、例えばコンピュータ内部の中央演算処理装置(CPU)によって実現することができる。
【0018】
記憶部3は、コンピュータ内部(又は外部)のハードディスクやROM又はRAMを用いて実現することができる。記憶部3では、乳房形状変化予測プログラムを含む各種のプログラムを記憶している。また、患部摘出前の乳房モデルを示すデータや患部モデルを示すデータも記憶している。乳房モデルや患部モデルのデータとしては、乳房や患部の簡易的な形状を示すデータや、複数の人の平均的な形状を示すデータ、或いは患者固有の形状を示すデータなどを用いることができる。
【0019】
入力部4は、マウスやキーボードなどを用いて実現することができる。また、図示しないデータベースとの通信によって情報を入力する通信インターフェースを用いて実現することができる。更に、乳房モデルや患部モデルのデータを入力して記憶部3に記憶させるべく、CTやMRI、三次元計測器などの装置に接続するためのインターフェースを用いて実現することもできる。
【0020】
表示部5は、モニタなどの表示装置を用いて実現することができる。また、図示しないデータベースに情報を出力するべく、上述した通信インターフェースを用いて実現することができる。更に、レーザープリンタなどの印刷装置や3Dプリンタなどの造形装置に接続するためのインターフェースを用いて実現することもできる。
【0021】
乳房形状変化予測システム1は、入力部4から取得した乳房モデルや患部モデルのデータを、乳房形状変化予測プログラムとともに記憶部3に記憶させておき、この乳房形状変化予測プログラムを制御部2によって実行して、乳房形状変化予測方法を実現するものである。以下、
図1〜
図9を参照しながら、乳房形状変化予測システム1を用いた乳房形状変化予測方法について説明する。
【0022】
まず
図1に示す制御部2は、記憶部3に記憶した乳房形状変化予測プログラム、並びに乳房モデル及び患部モデルのデータに基づいて、
図2に示すように乳房部分と胸部分とを含む乳房モデルと、乳房モデルに含まれる患部モデルとを特定する(ステップS1、乳房モデル・患部モデル特定ステップ)。
【0023】
続いて、乳房モデルの外表面を複数の領域に区画する。更に乳房部分におけるこれらの領域の境界に二以上の動作点を設定し、また乳房部分と胸部分との境界に二以上の固定点を設定する(ステップS2、動作点・固定点設定ステップ)。
【0024】
これらステップS1、S2について、
図3を参照しながらより詳細に説明する。
図3において、符号11は乳房モデルの一例を示していて、符号12は乳房モデル11に含まれる患部モデルの一例を示している。なお、
図3(a)、
図3(b)は平面図(人が立位姿勢をとる時の正面視での図)である。また
図3(c)は、
図3(b)に示すA−Aに沿う断面図であり、
図3(d)は、
図3(b)に示すB−Bに沿う断面図である。またx軸は、立位姿勢の人を基準とした場合での左右方向、y軸は上下方向、z軸は前後方向を示す。ここで乳房モデル11は、半球状の乳房部分11aと平面状の胸部分11bとを組み合わせたものであり、患部モデル12は球状をなすものである。なお、これらのモデルを特定するにあたっては、例えば複数の人の平均的な形状を示すデータを用いてもよく、また患者固有の形状を示すデータを用いてもよい。また実際の乳房は、主に多数に枝分かれした乳腺と乳腺の周りを囲む脂肪で構成されているが、乳房モデル11及び患部モデル12は、ともに均等な中実状であるとする。
【0025】
また
図3(a)は、乳房モデル11の外表面を複数の領域に区画した状態を示している。本実施形態では、x軸、y軸に平行になるようにして矩形状に区画している。なおこれらの領域に区画するに当たっては、後述する患部モデル12の重心を中心に据えて行うことが好ましい。そして乳房部分11aにおいては、区画した領域の境界において動作点を設定する。本実施形態では、矩形状をなす領域の角部に動作点を設定している。また、乳房部分11aと胸部分11bとの境界には固定点を設定する。
【0026】
図4は、
図3(d)の拡大図を示している。ここで符号m1〜m11は、上述したように矩形状をなす領域の角部に設けられる動作点であり、符号f1〜f2は、乳房部分11aと胸部分11bとの境界に設けられる固定点である。なお以降の乳房モデル11と患部モデル12の説明は、
図4に示す如き2次元断面図を用いて行う。
【0027】
ステップS2を行った後は、
図2に示すように、患部モデルの重心を算出する(ステップS3、重心算出ステップ)。
図5に示す2次元断面図においては、円形をなす患部モデル12の中心が重心12aになる。
【0028】
その後、
図2に示すように、重心と固定点のそれぞれとを結ぶ二以上の固定ベクトルを算出するとともにこれらの固定ベクトルの合成ベクトルである移動方向ベクトルを算出する(ステップS4、固定ベクトル・移動方向ベクトル算出ステップ)。本実施形態においては、
図6に示すように、重心12aと固定点f1とを結ぶ固定ベクトルV1と重心12aと固定点f2とを結ぶ固定ベクトルV2とを算出することにより、これらの合成ベクトルである移動方向ベクトルV3を導くことができる。
【0029】
次に、
図2に示すように、重心を通って移動方向ベクトルに平行な直線である移動方向線と患部モデルの境界との交点を、作用点として設定する(ステップS5、作用点設定ステップ)。
図7において符号Tは、重心12aを通り、
図6で説明した移動方向ベクトルV3に平行となる移動方向線を示す。また符号eは、移動方向線Tと患部モデル12の境界との交点である作用点を示す。
【0030】
その後、
図2に示すように、動作点と作用点とを直線で結んだ張力線の長さである張力線全長を算出するとともに、張力線と患部モデルの境界との交点から作用点に至る長さである張力線部分長を算出する(ステップS6、張力線全長・張力線部分長算出ステップ)。
図8においては、各動作点m1〜m11と作用点eとを結ぶ張力線L1〜L11を求める。なお、各動作点m1〜m11は、患部を摘出することによってそれぞれ張力線L1〜L11上を移動すると想定しているが、患部モデル12と交差しない張力線L1〜L11上の動作点は、患部を摘出した際にもほとんど移動しないものと考えられる。このため、
図8(b)に示すように患部モデル12と交差する張力線L5〜L11を採用し、張力線L5〜L11と患部モデル12の境界との交点p5〜p11を求めることとする。そして
図9に示すように、それぞれの張力線L5〜L11について、各動作点m5〜m11から作用点eに至る張力線全長をそれぞれ算出するとともに、各交点p5〜p11から作用点eに至る張力線部分長をそれぞれ算出する。
【0031】
そして、
図2に示すように、張力線全長に対する張力線部分長の割合に応じて、動作点を張力線に沿って移動させる(ステップS7、動作点移動ステップ)。例えば、張力線L5における張力線全長に対する張力線部分長の割合が10%であり、張力線L9における割合が50%である場合は、動作点m9が動作点m9’へ移動する距離は、動作点m5が動作点m5’へ移動する距離の5倍になる。なお、動作点を移動させる際には、算出した各割合に対して、例えば乳房の大きさや年齢などを考慮した係数を掛けて全体的に補正を行ってもよい。
【0032】
本実施形態では更に、
図2に示すように、移動後の動作点を相互につないだ領域によって形成される外表面を、患部が摘出された後の乳房モデルの外表面として特定する(ステップS8、外表面特定ステップ)。
図10では、移動後の動作点m5’〜 m11’を相互につないだ線を描くことによって、患部が摘出された後の乳房モデルの外表面として特定している。
【0033】
その後は、
図10のようにして描いた図を、
図1に示した表示部5に表示させる。このように本実施形態では、移動後の動作点、及び移動後の動作点を相互につないだ線を表示させることができるため、患部を摘出した後の乳房の形状を患者に対して視覚で認識させることができる。
【0034】
なお、これまでに説明したステップは、外表面を複数の領域に区画した乳房モデル11のうち、
図3(b)に示すB−Bに沿う領域での2次元断面図についてのものであるが、これを乳房モデル11の全ての領域に展開することによって、患部を摘出した後の乳房の形状を3次元的に表示することができる。
【0035】
図11〜
図17は、3次元の乳房モデルを用いて上述したステップS1〜S8を示した図である。なお、
図11に示すように本実施形態の乳房部分11aは半球状であって、胸部分11bは平面状である。また患部モデル12は円柱状である。そしてX軸、Y軸、Z軸は、先に説明したx軸、y軸、z軸と同様に、立位姿勢の人を基準とした場合において、それぞれ左右方向、上下方向、前後方向を示している。
【0036】
本実施形態においても乳房形状変化予測システム1は、
図11〜
図13に示すように乳房部分11aと胸部分11bとを含む乳房モデルと、乳房モデルに含まれる患部モデル12とを特定する(ステップS1、乳房モデル・患部モデル特定ステップ)。そして乳房モデルの外表面を複数の領域に区画し(本実施形態では三角形状)、更に乳房部分11aにおけるこれらの領域の境界に二以上の動作点mを設定し(
図15参照)、乳房部分11aと胸部分11bとの境界に二以上の固定点fを設定する(
図13、
図14参照。ステップS2、動作点・固定点設定ステップ)。また、
図12に示すように患部モデル12の重心12aを算出し(ステップS3、重心算出ステップ)、重心12aと固定点fのそれぞれとを結ぶ二以上の固定ベクトルVを算出し(
図14参照)、更にこれらの固定ベクトルVの合成ベクトルである移動方向ベクトルを算出し(不図示。ステップS4、固定ベクトル・移動方向ベクトル算出ステップ)、
図16に示すように、重心12aを通って移動方向ベクトルに平行な直線である移動方向線Tと患部モデル12の境界との交点を、作用点eとして設定する(ステップS5、作用点設定ステップ)。
【0037】
その後は、動作点mと作用点eとを直線で結んだ張力線の長さである張力線全長を算出するとともに、張力線と患部モデル12の境界との交点から作用点eに至る長さである張力線部分長を算出し(不図示。ステップS6、張力線全長・張力線部分長算出ステップ)、張力線全長に対する張力線部分長の割合に応じて、動作点mを張力線に沿って移動させ(ステップS7、動作点移動ステップ)、移動後の動作点を相互につないだ領域によって形成される外表面を、患部が摘出された後の乳房モデルの外表面として特定する(
図17参照。ステップS8、外表面特定ステップ)。このようにして、患部摘出に伴う乳房の形状変化を3次元的にも示すことができる。
【0038】
そして、例えば三次元計測器によって患者の乳房部分及び胸部分を計測し、これを乳房モデルに使用することも可能である。
図18(a)及び
図19(a)は、三次元計測器を用いて得られた乳房モデルに関し、患部を摘出する前の状態を示す図であって、
図18(b)及び
図19(b)は、患部を摘出した後の状態を示す図である。
【0039】
ここで、乳房形状変化予測システム1で得られる乳房の形状と実際に患部を摘出した乳房の形状との比較を行ったところ、高い相関関係が認められた。すなわち本発明によれば、患部を摘出した後の乳房の形状を高い精度で予測することが可能である。
【0040】
上述した実施形態では、患部モデルを1つ特定して乳房の形状変化を予測したが、患部モデルを複数特定して実際に取り出す患部の形状に近づけることによって、更に高い精度で乳房の形状変化を予測することができる。以下、前述の
図4〜
図8、
図10に対応する図を用いて、患部モデルを複数特定した場合について説明する。
【0041】
図20に示すように本実施形態では、
図4で示した実施形態と同様にして乳房モデルを特定するとともに、第1患部モデルAと第2患部モデルBの2つの患部モデルを特定するものとする(ステップS1、乳房モデル・患部モデル特定ステップ)。また、
図4で示した実施形態と同様にして動作点m1〜m11と固定点f1〜f2を設定するものとする(ステップS2、動作点・固定点設定ステップ)。
【0042】
続いて、
図21に示すように、第1患部モデルAの重心Aaと第2患部モデルBの重心Baを算出し(ステップS3、重心算出ステップ)、更に、第1患部モデルA、第2患部モデルB毎に、固定ベクトルと移動方向ベクトルを算出する(ステップS4、固定ベクトル・移動方向ベクトル算出ステップ)。具体的には
図22に示すように、第1患部モデルAの重心Aaについては、重心Aaと固定点f1とを結ぶ固定ベクトルVA1と重心Aaと固定点f2とを結ぶ固定ベクトルVA2とを算出することにより、これらの合成ベクトルである移動方向ベクトルVA3を導くこととする。同様にして第2患部モデルBの重心Baについても、固定ベクトルVB1と固定ベクトルVB2から移動方向ベクトルVB3を導くこととする。
【0043】
次に、第1患部モデルA、第2患部モデルB毎に、それぞれの重心を通って移動方向ベクトルに平行な直線である移動方向線と患部モデルの境界との交点を、作用点として設定する(ステップS5、作用点設定ステップ)。
図23に示すように本実施形態においては、第1患部モデルAについては移動方向線TAと作用点eAを設定し、第2患部モデルBについては移動方向線TBと作用点eBを設定するものとする。
【0044】
その後、第1患部モデルA、第2患部モデルB毎に、動作点と作用点とを直線で結んだ張力線の長さである張力線全長を算出するとともに、張力線と患部モデルの境界との交点から作用点に至る長さである張力線部分長を算出する(ステップS6、張力線全長・張力線部分長算出ステップ)。本実施形態においては、
図24に示すように、第1患部モデルAについては、各動作点m1〜m11と作用点eAとを結ぶ張力線LA1〜LA11を求め、第1患部モデルAと交差する張力線上の動作点が患部を摘出した際に実質的に移動するものであるとして、
図25(a)に示すように張力線LA5〜LA11と第1患部モデルAの境界との交点pA5〜pA11を求めることとする。そして、
図9を参照しながら説明した前述の実施形態のように、それぞれの張力線LA5〜LA11について、各動作点m5〜m11から作用点eAに至る張力線全長をそれぞれ算出するとともに、各交点pA5〜pA11から作用点eAに至る張力線部分長をそれぞれ算出する。同様にして、第2患部モデルBについては、
図24に示すように各動作点m1〜m11と作用点eBとを結ぶ張力線LB1〜LB11を求め、更に、
図25(b)に示すように張力線LB1〜LB10と第2患部モデルBの境界との交点pB1〜pB10を求めた後、張力線LB1〜LB10について、張力線全長と張力線部分長をそれぞれ算出する。
【0045】
そして、第1患部モデルA、第2患部モデルB毎に、張力線全長に対する張力線部分長の割合に応じた大きさであって張力線に沿う向きの張力線ベクトルを算出し、更にこれら張力線ベクトルの合成ベクトルである合成張力線ベクトルを算出して、合成張力線ベクトルに基づいて動作点を移動させる(ステップS7、動作点移動ステップ)。例えば、動作点m7に対し、第1患部モデルAについては張力線LA7における張力線全長に対する張力線部分長の割合が30%であって、第2患部モデルBについては、張力線LB7における張力線全長に対する張力線部分長の割合が60%であったとする。この場合は
図26に示すように、第1患部モデルAについては、張力線全長に対する張力線部分長の割合が30%分の大きさであって張力線LA7に沿う向きの張力線ベクトルTVA7を算出し、第2患部モデルBについては、張力線全長に対する張力線部分長の割合が60%分の大きさであって張力線LB7に沿う向きの張力線ベクトルTVB7を算出する。そして、張力線ベクトルTVA7と張力線ベクトルTVB7の合成ベクトルである合成張力線ベクトルTV7を算出して、合成張力線ベクトルTV7に基づいて動作点m7をm7’へ移動させる。なお、合成張力線ベクトルに基づいて動作点を移動させる際には、例えば乳房の大きさや年齢などを考慮した係数を掛けて全体的に補正を行ってもよいし、患部モデルの数に従う平均化(本実施形態では患部モデルは2つなので合成張力線ベクトルの長さを1/2にする)を行ってもよい。このようにして、その他の動作点についても合成張力線ベクトルに基づいて移動させるものとする。
【0046】
その後は、移動後の動作点を相互につないだ領域によって形成される外表面を、患部が摘出された後の乳房モデルの外表面として特定する(ステップS8、外表面特定ステップ)。本実施形態では、
図27に示すように、移動後の動作点m1’〜 m11’を相互につないだ線を描くことによって、患部が摘出された後の乳房モデルの外表面として特定している。そして、
図27のようにして描いた図を、
図1に示した表示部5に表示させることによって、患部を摘出した後の乳房の形状を患者に対して視覚で認識させることができる。
【0047】
なお、患部モデルを複数設定するにあたっては、上述した実施形態のように2つに限られるものではなく、更に数を増やしてもよい。また、本実施形態では複数の患部モデルを設定した場合について2次元のモデルで説明したが、3次元のモデルでも適用可能である。ところで、本願発明者が様々な乳房モデルと患部モデルを用いて検討を重ねたところ、3次元モデルに対して患部モデルを複数設定するにあたっては、それぞれが球状になる患部モデルを数珠つなぎに3つ連ねて実際の患部を模した場合は、乳房形状変化予測システム1で使用するコンピュータにおいてそれ程高い性能のものを必要とすることなく、患部を摘出した後の乳房の形状を特に高い精度で予測できることを見出した。なお、患部モデルを数珠つなぎに3つ連ねるにあたっては、
図28(a)のように同一形状の患部モデルA、B、Cが直列状に連なるものに限られず、
図28(b)のように、患部モデルA、B、Cの半径がそれぞれ異なっていてもよく、また、途中で屈曲するように連なっていてもよい。
【0048】
以上、具体例を挙げて本発明の実施形態を説明したが、本発明の特許請求の範囲から逸脱しない限りにおいて、あらゆる変形や変更が可能であることは当業者に明らかである。例えば、乳房モデルの外表面を複数の領域に区画するにあたっては、外表面に対して平行になるように分割して基本的に領域の面積が全て等しくなるように設定してもよい。また領域の形状は矩形状や三角形状に限られず、他の多角形状であってもよい。