特許第6937192号(P6937192)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6937192燃料タンクの断熱カバーおよび断熱カバーの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6937192
(24)【登録日】2021年9月1日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】燃料タンクの断熱カバーおよび断熱カバーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60K 15/03 20060101AFI20210909BHJP
   B29C 51/10 20060101ALI20210909BHJP
   B29C 51/26 20060101ALI20210909BHJP
   F16L 59/02 20060101ALI20210909BHJP
   F16L 59/07 20060101ALI20210909BHJP
   F16L 59/10 20060101ALI20210909BHJP
【FI】
   B60K15/03 B
   B29C51/10
   B29C51/26
   F16L59/02
   F16L59/07
   F16L59/10
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-162806(P2017-162806)
(22)【出願日】2017年8月25日
(65)【公開番号】特開2019-38428(P2019-38428A)
(43)【公開日】2019年3月14日
【審査請求日】2020年5月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100076048
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 喜幾
(74)【代理人】
【識別番号】100141645
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 健司
(72)【発明者】
【氏名】白石 輝男
【審査官】 田中 成彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−002858(JP,A)
【文献】 特開2009−067223(JP,A)
【文献】 特開2016−124434(JP,A)
【文献】 特開2006−123210(JP,A)
【文献】 特開2017−088059(JP,A)
【文献】 特開2015−202713(JP,A)
【文献】 特開2013−060079(JP,A)
【文献】 特開2001−246946(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 15/03
B29C 51/10
B29C 51/26
F16L 59/02
F16L 59/07
F16L 59/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンクの下部を覆う断熱カバーであって、
2熱可塑性樹脂発泡シートを素材とし、前記燃料タンクの下部を覆い得る凹部を形成した内側成形体と、
第1熱可塑性樹脂発泡シートを素材とし、前記内側成形体の外側に位置して該内側成形体との間に空間を画成する外側成形体とを有すると共に、
前記内側成形体の周縁と前記外側成形体の周縁とを接合したフランジを有しており、
前記フランジの前記内側成形体側に、当該フランジの外縁まで達する陥凹状の第1係合部が複数形成されている
ことを特徴とする燃料タンクの断熱カバー。
【請求項2】
記外側成形体の外面に配設されて前記断熱カバーを防護するプロテクタの周縁部に前記第1係合部と対応して複数の弾力性を有する爪状の第2係合部が形成されており、
前記フランジの第1係合部と前記プロテクタの第2係合部とを係合させることで、前記断熱カバーへの該プロテクタの取付けがなされる請求項1記載の燃料タンクの断熱カバー。
【請求項3】
前記陥凹状の第1係合部の深さは、前記プロテクタを取付けた際に、前記フランジの厚み方向において前記第2係合部が第1係合部より突出しないように設定されている請求項2記載の燃料タンクの断熱カバー。
【請求項4】
外側成形体の素材をなす第1熱可塑性樹脂発泡シートおよび内側成形体の素材をなす第2熱可塑性樹脂発泡シートを加熱して軟化させる加熱工程と、
前記外側成形体の外部輪郭を画成する凹型部を有する第1真空成形型と、前記内側成形体の内部輪郭を画成し、かつ成形型閉成時に前記第1真空成形型の凹型部へ侵入して、前記第1熱可塑性樹脂発泡シートと第2熱可塑性樹脂発泡シートとの間に空間を形成し得る寸法に設定した凸型部を有する第2真空成形型との間に、前記加熱工程で軟化した第1熱可塑性樹脂発泡シートおよび第2熱可塑性樹脂発泡シートを移送する工程と、
軟化している第1熱可塑性樹脂発泡シートに前記第1真空成形型を接触させるとともに空気の吸引を行って、該第1熱可塑性樹脂発泡シートに第1真空成形型の凹型部に倣った前記外側成形体を賦形する工程と、
軟化している第2熱可塑性樹脂発泡シートに前記第2真空成形型を接触させるとともに空気の吸引を行って、該第2熱可塑性樹脂発泡シートに第2真空成形型の凸型部に倣った前記内側成形体を賦形する工程と、
前記凹型部に外側成形体が賦形されている第1真空成形型および前記凸型部に内側成形体が賦形されている第2真空成形型を閉じることで、前記外側成形体と内側成形体との周縁を接合してフランジを形成すると共に、両成形体の間に空間を形成する工程とを有し、
前記第1真空成形型および前記第2真空成形型を閉じることで、前記第2真空成形型に設けた押圧片により前記フランジにおいて前記内側成形体側に陥凹状の複数の第1係合部を形成して、当該第1係合部がフランジの外縁まで達するようにする
ことを特徴とする燃料タンクの断熱カバーの製造方法。
【請求項5】
外側成形体の素材をなす第1熱可塑性樹脂発泡シートおよび内側成形体の素材をなす第2熱可塑性樹脂発泡シートを加熱して軟化させる加熱工程と、
前記外側成形体の外部輪郭を画成する凹型部を有する第1真空成形型と、前記内側成形体の内部輪郭を画成し、かつ成形型閉成時に前記第1真空成形型の凹型部へ侵入して、前記第1熱可塑性樹脂発泡シートと第2熱可塑性樹脂発泡シートとの間に空間を形成し得る寸法に設定した凸型部を有する第2成形型との間に、前記加熱工程で軟化した第1熱可塑性樹脂発泡シートおよび第2熱可塑性樹脂発泡シートを移送する工程と、
軟化している第1熱可塑性樹脂発泡シートに前記第1真空成形型を接触させるとともに空気の吸引を行って、該第1熱可塑性樹脂発泡シートに第1真空成形型の凹型部に倣った前記外側成形体を賦形する工程と、
軟化している第2熱可塑性樹脂発泡シートに対し前記第2成形型を相対的に移動させて、該第2熱可塑性樹脂発泡シートを第1真空成形型の凹型部へ侵入させることで前記内側成形体を賦形すると共に、前記外側成形体と内側成形体との周縁を接合してフランジを成形すると共に、両成形体の間に空間を形成する工程とを有し、
前記第1真空成形型および前記第2成形型を閉じることで、前記第2成形型に設けた押圧片により前記フランジにおいて前記内側成形体側に陥凹状の複数の第1係合部を形成して、当該第1係合部がフランジの外縁まで達するようにする
ことを特徴とする燃料タンクの断熱カバーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料タンクの断熱カバーおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両用の燃料タンクは車両本体の底部に配置されることが多い。このため、外気温が高くなると道路の照り返しによる輻射熱を受けて燃料タンクの温度が上昇し、温度影響を受けたタンクの内圧が上がって、揮発した燃料成分がリリーフ弁から大気中へ放出される。これは環境問題を悪化させる一因になっており、また燃料タンクの燃料が減少することで燃費にも影響を及ぼしている。
【0003】
そこで、燃料タンクが地面側に露出するのを抑えて熱影響を回避するべく、断熱材により燃料タンクを被覆することが一般に行われている。図5は、実用化されている断熱カバーと、その製造方法とを示す説明図である。すなわち図5(a)に示すように、例えば30倍発泡で厚み12mmの熱可塑性樹脂発泡シート10を、適宜の構造のクランプ56で挟んで水平に展張し、該熱可塑性樹脂発泡シート10の上下に配置した電熱ヒータ12により加熱して軟化させる。軟化した熱可塑性樹脂発泡シート10は、図5(b)に示す真空成形型14の上方へ移送して真空成形を行う。この真空成形型14は、図5(c)に示す燃料タンク16の下部輪郭形状に合わせた外部輪郭の凸型部を有しており、該凸型部に多数の空気吸引孔18が開口している。このため図5(b)において、前記真空成形型14の空気吸引孔18から空気の吸引を行うと、前記加熱工程で軟化している熱可塑性樹脂発泡シート10は真空成形型14の凸型部に吸引され、該凸型部の輪郭に倣った凹部を有する断熱カバー20が賦形される。そして、前記真空成形型14から脱型した断熱カバー20には、図5(c)に示すように、断面において凹部が形成されているので、この断熱カバー20の凹部を前記燃料タンク16の下部に嵌め込むことにより、該燃料タンク16を覆って断熱することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−124434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
先に述べた断熱カバー20の素材となる熱可塑性樹脂発泡シート10は、発泡倍率が高く、かつ厚みが充分ある方が、高い断熱性能が得られる。ところで、図5(a)で使用した熱可塑性樹脂発泡シート10の厚みは12mmであったが、真空成形した後の断熱カバー20の厚みは圧縮され10mm程度になってしまうため、断熱性能が低下することがある。従って、前記断熱カバー20の断熱性能を高めるには、熱可塑性樹脂発泡シート10の厚みが大きい程好ましいが、これに伴い素材シートのコストが上昇する欠点や、真空成形時の形状追従性が低下する等の欠点が浮上する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決し、所期の目的を達成するため第1の発明は、
燃料タンクの下部を覆う断熱カバーであって、
前記断熱カバーは、
第2熱可塑性樹脂発泡シートを素材とし、前記燃料タンクの下部を覆い得る凹部を形成した内側成形体と、
第1熱可塑性樹脂発泡シートを素材とし、前記内側成形体の外側に位置して該内側成形体との間に空間を画成する外側成形体とから構成したことを要旨とする。
この発明によれば、厚みの薄い熱可塑性樹脂発泡シートを使っても、2重の熱可塑性樹脂発泡シートの中間に空間が介在するために、充分な断熱性能が得られる。また、真空成形型等による形状追従性も良好であり、素材コストも併せて低く抑えることができる。
【0007】
第2の発明では、前記内側成形体と外側成形体との接合部となるフランジに陥凹状をなす複数の第1係合部が形成されると共に、前記外側成形体の外面に配設されて前記断熱カバーを防護するプロテクタの周縁部に前記第1係合部と対応して複数の第2係合部が形成されており、
前記フランジの第1係合部と前記プロテクタの第2係合部とを係合させることで、前記断熱カバーへの該プロテクタの取付けがなされることを要旨とする。
この発明によれば、断熱カバーに保護用のプロテクタを取付ける際に、該断熱カバーの成形時に陥凹状の第1係合部を併せて付与しておくことで、前記プロテクタに設けた第2係合部に係合させた際に、前記フランジの厚み方向へは第2係合部が突出しないという係合を可能とする。このため、断熱カバーとプロテクタとの取付けを極めて容易に達成するとともに、フランジによるシール性を向上させることができる。
【0008】
前記課題を解決し、所期の目的を達成するため第3の発明は、
外側成形体の素材をなす第1熱可塑性樹脂発泡シートおよび内側成形体の素材をなす第2熱可塑性樹脂発泡シートを対向配置し、これら第1熱可塑性樹脂発泡シートおよび第2熱可塑性樹脂発泡シートを加熱して軟化させる加熱工程と、
前記外側成形体の外部輪郭を画成する凹型部を有する第1真空成形型と、前記内側成形体の内部輪郭を画成し、かつ成形型閉成時に前記第1真空成形型の凹型部へ侵入して、前記第1熱可塑性樹脂発泡シートと第2熱可塑性樹脂発泡シートとの間に空間を形成し得る寸法に設定した凸型部を有する第2真空成形型との間に、前記加熱工程で軟化した第1熱可塑性樹脂発泡シートおよび第2熱可塑性樹脂発泡シートを移送する工程と、
軟化している第1熱可塑性樹脂発泡シートに前記第1真空成形型を接触させるとともに空気の吸引を行って、該第1熱可塑性樹脂発泡シートに第1真空成形型の凹型部に倣った前記外側成形体を賦形する工程と、
軟化している第2熱可塑性樹脂発泡シートに前記第2真空成形型を接触させるとともに空気の吸引を行って、該第2熱可塑性樹脂発泡シートに第2真空成形型の凸型部に倣った前記内側成形体を賦形する工程と、
前記凹型部に外側成形体が賦形されている第1真空成形型および前記凸型部に内側成形体が賦形されている第2真空成形型を閉じることで、前記外側成形体と内側成形体との周縁を接合して、両成形体の間に空間を形成する工程とからなることを要旨とする。
この発明によれば、中間に空間を設けた2枚の熱可塑性樹脂の発泡シートからなる断熱カバーを、2つの真空成形型を使用することで簡単に製造することができる。
【0009】
第4の発明では、前記外側成形体と内側成形体との周縁を接合して得られるフランジに、前記接合と同時に陥凹状をなす複数の第1係合部を形成することで、断熱カバーを防護するプロテクタの周縁部に形成した複数の第2係合部に対応的に係合可能としたことを要旨とする。
【0010】
前記課題を解決し、所期の目的を達成するため第5の発明は、
外側成形体の素材をなす第1熱可塑性樹脂発泡シートおよび内側成形体の素材をなす第2熱可塑性樹脂発泡シートを対向配置し、これら第1熱可塑性樹脂発泡シートおよび第2熱可塑性樹脂発泡シートを加熱して軟化させる加熱工程と、
前記外側成形体の外部輪郭を画成する凹型部を有する第1真空成形型と、
前記内側成形体の内部輪郭を画成し、かつ成形型閉成時に前記第1真空成形型の凹型部へ侵入して、前記第1熱可塑性樹脂発泡シートと第2熱可塑性樹脂発泡シートとの間に空間を形成し得る寸法に設定した凸型部を有する第2成形型との間に、前記加熱工程で軟化した第1熱可塑性樹脂発泡シートおよび第2熱可塑性樹脂発泡シートを移送する工程と、
軟化している第1熱可塑性樹脂発泡シートに前記第1真空成形型を接触させるとともに空気の吸引を行って、該第1熱可塑性樹脂発泡シートに第1真空成形型の凹型部に倣った前記外側成形体を賦形する工程と、
軟化している第2熱可塑性樹脂発泡シートに対し前記第2成形型を相対的に移動させて、該第2熱可塑性樹脂発泡シートを第1真空成形型の凹型部へ侵入させることで前記内側成形体を賦形すると共に、前記外側成形体と内側成形体との周縁を接合して両成形体の間に空間を形成する工程とからなることを要旨とする。
この発明によれば、中間に空間を設けた2枚の熱可塑性樹脂の発泡シートからなる断熱カバーを、真空成形型と通常の成形型とを使用することで簡単に製造することができる。
【0011】
第6の発明では、前記外側成形体と内側成形体との周縁を接合して得られるフランジに、前記接合と同時に陥凹状をなす複数の第1係合部を形成することで、断熱カバーを防護するプロテクタの周縁部に形成した複数の第2係合部に対応的に係合可能としたことを要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る燃料タンクの断熱カバーは、該燃料タンクを覆う熱可塑性樹脂発泡シートを2重にすると共に、中間に空間を介在させるようにしたので、厚みの大きな熱可塑性樹脂発泡シートを使用しなくても、断熱性能が高い断熱カバーが得られる。しかも、成形型による成形時の形状追従性も良く、素材コストを低く抑えることができる。
【0013】
また、燃料タンクの断熱カバーの製造方法によれば、2枚の熱可塑性樹脂発泡シートの間に空間を介在させた構成の断熱カバーを一連の成形工程で一挙に製造することができて、高い製造効率を低廉なコストで実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施例に係る断熱カバーを、これに取付けられるプロテクタおよび燃料タンクとの関係で示す断面説明図である。
図2】本発明の実施例に係る断熱カバーに、保護用のプロテクタを取付ける係合手段の概略構造を示す説明図である。
図3】実施例に係る断熱カバーの製造方法を示す工程図である。
図4図3の製造方法とは異なる製造方法を示す工程図である。
図5】従来技術に係る燃料タンクの断熱カバーと、該断熱カバーを製造する工程とを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明に係る燃料タンクの断熱カバーおよびその製造方法につき、好適な実施例を挙げて添付図面を参照しながら説明する。本発明の断熱カバーは、主として各種車両の燃料タンクの下部を覆って断熱を行うものを云うが、用途は必ずしも車両向けに限るものではない。
【0016】
本発明の実施例に係る断熱カバーを、図1に示す。図1の断熱カバー24は、車両用の燃料タンク38の下部をそっくり覆うことのできる凹部26を形成した内側成形体28と、この内側成形体28の外側に位置して該内側成形体28との間に空間30を画成する外側成形体32とから構成される。前記内側成形体28は、図3および図4に関して後述する如く、例えば発泡ポリエチレン(PE)からなる第2熱可塑性樹脂発泡シート36を素材としている。また前記外側成形体32も、同じく発泡ポリエチレン(PE)からなる第1熱可塑性樹脂発泡シート34を素材としている。但し、第1および第2熱可塑性樹脂発泡シート34,36は同じ材質のものである必要はなく、必要に応じて夫々別の素材としてもよい。そして、一例として厚みが5mmの熱可塑性樹脂発泡シートを2枚使用した場合、両シート34,36の間の空間30を3mmとすれば、出来上がった断熱カバー24の全厚みは約13mmとなる。また4mm厚のシートを採用した場合は、断熱カバー24の全厚みは約11mmとなる。このように全体としての厚みが薄くても、中間に例えば3mmの空間が介在しているので、得られた断熱カバー24は充分に高い断熱性能を有している。
【0017】
図1に示した断熱カバー24は、熱可塑性樹脂の発泡シートを素材としているため剛性がなく柔軟であり、前記燃料タンク38に被着されるまでは外力により容易に変形する可能性がある。そこで図1に示すように、断熱カバー24における外側成形体32の外面に取付けて、該断熱カバー24を防護するプロテクタ40が実用化されている。このプロテクタ40は、硬質の熱可塑性樹脂をカップ状に立体成形したものである。
【0018】
ところで、このプロテクタを断熱カバーに取り付けるには、例えば特開2016−124434号公報に開示される如く、スリットと係止突起とを組み合せる必要があり、その加工が複雑で取り付けの手間も要していた。そこで実施例に係る断熱カバー24は、図2(c)に示すように、内側成形体28の周縁と外側成形体32の周縁とを加圧して溶着接合することで得られるフランジ42に、予め複数の陥凹部からなる第1係合部44を形成しておく。この第1係合部44の形成は、後述する図3(b)の第2真空成形型50のキャビテイ60に押圧片62を設けておくことで実施可能である。また、前記プロテクタ40の周縁部には、前記第1係合部44と係合可能な弾力性のある爪状の第2係合部46を対応的に形成しておく。そして、図2(b)の拡大図に示すように、前記フランジ42に形成した複数の第1係合部44に、前記プロテクタ40の周縁に対応的に形成した複数の第2係合部46を係合させることで、簡単に前記断熱カバー24へ前記プロテクタ40を取り付けることができる。また、第1係合部44の陥凹寸法内に第2係合部46の突出寸法を抑えることで、前記フランジ42の厚み方向に該第2係合部46が突出しないため、該フランジ42の部位で相手物とシールする場合にシール性を向上させることができる。
【0019】
(断熱カバーの製造方法について)
次に、図1に示した実施例に係る断熱カバーを製造する方法について説明する。この製造方法には、図3に示す工程を経て製造する場合と、図4に示す工程を経て製造する場合とがある。すなわち図3の製造方法では、外側成形体32を成形する成形型および内側成形体28を成形する成形型には、何れも真空成形型を使用している。これに対し図4の製造方法では、外側成形体32の成形には真空成形型を使用するが、内側成形体28の成形には所要の凸型部を設けた成形型(真空成形型ではない)が使用される。
【0020】
(断熱カバーの製造方法1)
本発明の実施例に係る製造方法は、図3(a)〜図3(d)に示すように、(1)熱可塑性樹脂発泡シートを軟化させる加熱工程と、(2)第1および第2の熱可塑性樹脂発泡シートを2つの真空成形型の間に移送する工程と、(3)第1熱可塑性樹脂発泡シートに外側成形体を賦形する工程と、(4)第2熱可塑性樹脂発泡シートに内側成形体を賦形する工程と、(5)外側成形体と内側成形体とを接合して、中間に空間を有する断熱カバーを形成する工程とから構成される。また、断熱カバーに使用されるシートの材質としては、発泡ポリエチレンのような熱可塑性樹脂の発泡シートが好適に採用され、該発泡シートとしては、例えば30倍発泡で厚み4mmのものが使用される。
【0021】
(加熱工程について)
図3(a)に示すように、第1熱可塑性樹脂発泡シート34および第2熱可塑性樹脂発泡シート36が所要の間隔を保持して、水平に対向配置されている。ここで第1熱可塑性樹脂発泡シート34は、図1に示した断熱カバー24の外側成形体32になるものであり、また第2熱可塑性樹脂発泡シート36は、前記断熱カバー24における内側成形体28になるものである。そして前記第1熱可塑性樹脂発泡シート34および第2熱可塑性樹脂発泡シート36は、両シートの上下に配設した電熱ヒータ54により加熱され軟化するようになっている。なお、両熱可塑性樹脂発泡シート34,36の中間に電熱ヒータ54を近接配置してもよい。また、夫々の熱可塑性樹脂発泡シート34,36は、左右の両端部をクランプ56で把持され、水平方向へ引っ張られて展張状態になっている。
【0022】
図3(a)に示す状態で各電熱ヒータ54に通電すると、夫々の熱可塑性樹脂発泡シートは加熱されて軟化するに至る。この軟化温度は、前記熱可塑性樹脂発泡シートにおける樹脂材質や厚みにより異なるが、後述する図3(c),(d)や図4(c),(d)の工程で、真空成形や型締め成形を行うのに適した温度域が予め選定される。すなわち、熱可塑性樹脂の発泡シートは、その材質により成形型での成形に適した軟化温度は変化するので、各材質に応じて最適な温度を選ぶことが重要である。
【0023】
(移送工程について)
図3(a)の加熱工程で成形可能な温度にまで軟化した第1熱可塑性樹脂発泡シート34および第2熱可塑性樹脂発泡シート36は、図3(b)に示すように、上下に開放している第1真空成形型48および第2真空成形型50の間へ移送される。この第1および第2の真空成形型48,50は、多数の空気吸引孔58を有する真空成形型であるが、夫々の型形状は次の如く相違している。すなわち、第1熱可塑性樹脂発泡シート34に近接する側の第1真空成形型48は、図3(c)に示す外側成形体32の外部輪郭を画成する凹型部48aを有している。また、第2熱可塑性樹脂発泡シート36に近接する側の第2真空成形型50は、図3(d)に示す如く両真空成形型48,50を型締めした際に、前記第1真空成形型48をそっくり収納し得る内容量のキャビテイ60を有しており、このキャビテイ60の中央に凸型部50aが上方へ突出して設けられている。また、前記キャビテイ60の適所、すなわち後述の型締め時に両シート34,36の周縁部が溶着されてフランジ42となる部位と対応した位置に、図2(c)で述べた第1係合部44を形成するための押圧片62が設けられている。前記凸型部50aは、図3(c)に示す前記内側成形体28の内部輪郭を画成し得る外部輪郭を有すると共に、図3(d)に示すように両真空成形型48,50を閉成した際に、前記第1真空成形型48における凹型部48aの内部へ周囲に所要の間隔を保持して侵入し、前記第1熱可塑性樹脂発泡シート34と第2熱可塑性樹脂発泡シート36との間に前記空間30を形成可能な寸法に予め設定されている。
【0024】
(外側成形体の賦形工程)
図3(b)に示す状態から、前記第1真空成形型48を所要距離だけ下降させると、該第1真空成形型48の下端面が軟化している第1熱可塑性樹脂発泡シート34に接触する。このとき図3(c)に示すように、第1真空成形型48の空気吸引孔58から空気を吸引すると、第1熱可塑性樹脂発泡シート34は第1真空成形型48の前記凹型部48aに吸着されて、該凹型部48aの内面に倣った外部輪郭を有する外側成形体32が賦形される。空気吸引孔58から空気を吸引するタイミングとしては、第1真空成形型48の下端面が第1熱可塑性樹脂発泡シート34に接触した後に空気吸引を開始してもよいし、接触する前から空気吸引を開始しているようにしてもよい。
【0025】
(内側成形体の賦形工程)
同じく、図3(b)に示す状態から、第2真空成形型50を第2熱可塑性樹脂発泡シート36に向けて所要距離だけ上昇させると、該第2真空成形型50の上端面が軟化している第2熱可塑性樹脂発泡シート36に接触する。このとき図3(c)に示すように、第2真空成形型50の空気吸引孔58から空気を吸引すると、第2熱可塑性樹脂発泡シート36は第2真空成形型50の前記凸型部50aに吸着されて、該凸型部50aの外面に倣った内部輪郭を有する内側成形体28が賦形される。前述した外側成形体32の賦形工程と同様に、空気吸引孔58から空気を吸引するタイミングとしては、第2真空成形型50の上端面が第2熱可塑性樹脂発泡シート36に接触した後に空気吸引を開始してもよいし、接触する前から空気吸引を開始しているようにしてもよい。また、前記第2真空成形型50に設けた押圧片62の存在により、賦形された内側成形体28には第1係合部44の形成位置に凹形状が形成される。なお、外側成形体32の賦形工程および内側成形体28の賦形工程は、前述した順番でも、逆の順番でも、または同時に行ってもよい。
【0026】
(断熱空間の形成工程)
前述したように、図3(c)の工程が終わると、第1真空成形型48の凹型部48aに倣った形状の外側成形体32と、第2真空成形型50の凸型部50aに倣った形状の内側成形体28とが成形されている。次いで図3(d)に示すように、外側成形体32が成形されている第1真空成形型48を、内側成形体28が成形されている第2真空成形型50に向け下降させて型締めする。先に述べたように、第1真空成形型48の凹型部48aと第2真空成形型50の凸型部50aとの寸法は、前者が後者よりも充分大きくなるよう設定されて、凹型部48aと凸型部50aとの間には所要の間隙が形成されるようになっている。従って、図3(d)に示すように、外側成形体32と内側成形体28とは周縁が溶着されてフランジ42が形成されると共に、両成形体32,28の間に前記空間30が形成される。また、フランジ42には、前記押圧片62によって圧縮された陥凹状の第1係合部44が同時に形成される。そして、両成形型48,50を開放して脱型すれば、得られた断熱カバー24には、図1に示すように、熱可塑性樹脂発泡シート34,36の間に空間30が形成されるため、断熱性能を向上させることができる。更に、脱型した断熱カバー24の前記フランジ42には、図2(c)で述べた陥凹状の第1係合部44が併せて成形されている。
【0027】
(断熱カバーの製造方法2)
図4(a)〜(d)は、図3で説明した製造方法と異なる断熱カバーの製造方法を示すものである。但し、図4(a)〜(c)までの工程は、図3で説明した工程と殆ど同じであるので、相違点について説明する。なお、図4に示す第1真空成形型48は真空成形型であって、先に図3で使用した第1真空成形型48と同じである。しかし、図4に示す第2成形型52は、図3で使用した第2真空成形型50と異なり真空成形型でなく、該第2成形型52を第1真空成形型48に対し相対的に移動させて型締めすることで、第2熱可塑性樹脂発泡シート36を押圧して前記内側成形体28を賦形する押圧型である。
【0028】
図4(c)および図4(d)において、外側成形体32が賦形されている第1真空成形型48に向けて第2成形型52を移動させると、先ず該第2成形型52の凸型部50aが軟化している第2熱可塑性樹脂発泡シート36に当接する。第2成形型52を更に第1真空成形型48に向けて移動させると、軟化した第2熱可塑性樹脂発泡シート36は前記第2成形型52の凸型部50aに倣った形状に変化して行く。そして最終的には、図4(d)に示す如く、第1真空成形型48に成形されている外側成形体32の内側へ入り込んで、前記第2成形型52の凸型部50aに倣った輪郭形状の内側成形体28が賦形される。すなわち、図4(d)に示すように、外側成形体32の内側において、前記内側成形体28が賦形される。
【0029】
そして、外側成形体32と内側成形体28との周縁が溶着されて前記フランジ42が形成されると共に、両成形体28,32の間に空間30を有する断熱カバー24が得られる。なお、図4(d)では、第2成形型52を第1真空成形型48に向け移動させて型締めする場合を示したが、この型締めは相対的なものであるので、逆に第1真空成形型48を第2成形型52へ向けて移動させるようにしても良い。
【0030】
図3および図4の何れの断熱カバーの製造方法であっても、第1および第2成形型を型締めした際に、外側成形体32と内側成形体28とを溶着してできるフランジ42に、同時に図2(c)に示す陥凹状の第1係合部44が併せて形成される。この第1係合部44を複数形成しておくことで、図2(c)で説明したように、前記プロテクタ40の周縁部に形成した複数の第2係合部46と対応的に係合させることができる。
【符号の説明】
【0031】
24 断熱カバー,28 内側成形体,30 空間,32 外側成形体,
34 第1熱可塑性樹脂発泡シート,36 第2熱可塑性樹脂発泡シート,
38 燃料タンク,40 プロテクタ,42 フランジ,44 第1係合部,
46 第2係合部,48 第1真空成形型,48a 凹型部,50 第2真空成形型,
50a 凸型部,52 第2成形型
図1
図2
図3
図4
図5