(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一体的な焼結体で、正極用の電極活物質と固体電解質を含む正極層、固体電解質を含む固体電解質層、および負極用の電極活物質と固体電解質を含む負極層がこの順に積層されてなる積層電極体を備えた全固体電池の製造方法であって、
0<x≦1として、一般式Li1+xAlxGe2−x(PO4)3を前記固体電解質として、非晶質状態の前記固体電解質と前記正極用の電極活物質とを混合した正極材料と、非晶質状態の前記固体電解質と前記負極用の電極活物質とを混合した負極材料を作製する電極材料作製ステップと、
層状の前記正極材料と層状の前記負極材料との間に、前記固体電解質を含んだ層状の固体電解質材料を挟持してなる積層体を焼成することで前記積層電極体を作製する焼成ステップと、
を含み、
前記電極材料作製ステップでは、
GeO2と複数の水溶性化合物とを原料とした固体電解質を溶液法により作製する固体電解質作製ステップと、
前記固体電解質作製ステップにより前記固体電解質を作製する過程で前記原料に粉体状の電極活物質を混合する活物質混合ステップと、
を実行し、
前記固体電解質作製ステップは、
前記GeO2を水に混合する第1混合ステップと、
前記第1混合ステップにて得た混合液にアンモニアを加えて液中の前記GeO2を溶解させて第1の溶液を得るとともに、当該第1の溶液のアンモニア濃度を調整するアンモニア濃度調整ステップと、
前記第1の溶液に前記複数の水溶性化合物を混合して第2の溶液を得る第2混合ステップと、
前記第2の溶液に硝酸を加えて第3の溶液を得る酸性化ステップと、
前記第3の溶液にアンモニア水を加えて当該第3の溶液のpHを調整するpH調整ステップと、
前記第3の溶液を前記固体電解質が結晶化する焼成温度よりも低い温度で熱処理して非晶質の固体電解質を得るガラス化ステップと、
を含み、
前記アンモニア濃度調整ステップでは、全ての前記水溶性化合物が前記第1の溶液に対して溶解性を示すようにアンモニア濃度を調整し、
前記酸性化ステップと前記pH調整ステップとにより、前記第3の溶液における前記固体電解質の全ての原料を溶解させ、
前記pH調整ステップでは、前記第3の溶液を、前記焼成ステップによって前記電極活物質と前記固体電解質との反応に起因する異相が発生しないpHに調整し、
前記活物質混合ステップを前記第2混合ステップと前記ガラス化ステップとの間に実行する、
ことを特徴とする全固体電池の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
全固体電池の基本構成である積層電極体は、固体電解質層を正極層と負極層で挟持した構造の焼結体からなる。上述したように、固体電解質は、固体電解質層だけではなく電極層にも含まれている。そして、電極層のイオン伝導性を高めるためには電極活物質の粒子間に固体電解質の粒子を介在させるのではなく、電極活物質の粒子表面に固体電解質の被膜を形成することがより好ましい。LAGPは、焼成によって結晶化することでイオン伝導度を発現することから、電極活物質の粒子表面にLAGPの被膜を形成するためには、焼成前の電極層中の粉体材料(以下、電極材料とも言う)にLAGPを非晶質の状態で含ませる必要がある。
【0009】
しかし、固相法を用いてLAGPの被膜を電極活物質の粒子表面に形成する場合、粉体状の非晶質のLAGPと粉体状の電極活物質とを混合した電極材料を焼成することになるため、異なる粉体材料同士を極めて均一に混合することが難しい。異なる粉体材料同士が均一に混合されなければ、電極層中のイオン伝導度に偏りが生じる可能性がある。
【0010】
一方、ゾルゲル法では、原料となる金属アルコキシドを含んだゾルと電極活物質を混合した上でゾルをゲル化し、さらに熱処理によって生成させた非晶質のLAGPを焼成するという手順でLAGPの結晶を得る。そして、ゾルゲル法を用いて電極活物質の粒子表面にLAGPの被膜を形成する場合、非晶質のLAGPが生成される以前にLAGPの原料と電極活物質を混合することができる。そのため、金属活物質の粒子表面に非晶質のLAGPの被膜を効果的に形成することができる。
【0011】
しかしながら、ゾルゲル法を用いてLAGPを作製する場合、原料に高価な金属アルコキシドを用いるため原料コストが増大する。また、金属アルコキシドが水と反応することから、その反応を抑制するために乾燥雰囲気内で被膜層となる化合物を作製する必要がある。したがって、ゾルゲル法によってLAGPを製造したり、LAGPの被膜を電極活物質の粒子表面に形成したりするためには、その製造設備に掛かるコストも増大する。もちろん、電極活物質の粒子表面に被膜を形成するためのものに限らず、LAGPをより低コストで作製することも必要である。
【0012】
そこで本発明は、固体電解質、電極活物質の粒子表面にLAGPからなる固体電解質の被膜が形成されてなる全固体電池用電極材料、および全固体電池を、簡素な手順でより安価に製造するための方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、0<x≦1として、一般式Li
1+xAl
xGe
2−x(PO
4)
3で表される固体電解質の製造方法であって、
GeO
2と、複数の水溶性化合物とを原料とし、
前記GeO
2を水に混合する第1混合ステップと、
前記第1混合ステップにて得た混合液にアンモニアを加えて液中の前記GeO
2を溶解させて第1の溶液を得るとともに、当該第1の溶液のアンモニア濃度を調整するアンモニア濃度調整ステップと、
前記第1の溶液に前記複数の水溶性化合物を混合して第2の溶液を得る第2混合ステップと、
前記第2の溶液に硝酸を加えて第3の溶液を得る酸性化ステップと、
前記第3の溶液にアンモニア水を加えて当該第3の溶液のpHを調整するpH調整ステップと、
前記第3の溶液を熱処理して非晶質の前記固体電解質を得るガラス化ステップと、
非晶質の
前記固体電解質を焼成して
前記固体電解質の結晶を得る焼成ステップと、
を含み、
前記アンモニア濃度調整ステップでは、全ての前記水溶性化合物が前記第1の溶液に対して溶解性を示すようにアンモニア濃度を調整し、
前記酸性化ステップと前記pH調整ステップとにより、前記第3の溶液中の前記固体電解質の全ての原料を溶解させる、
ことを特徴とする
固体電解質の製造方法としている。
【0014】
前記複数の水溶性化合物は、CH
3COOLi・2H
2O、Al(NO
3)
3・9H
2O、NH
4H
2PO
4であり、
前記アンモニア濃度調整ステップでは、前記第1の溶液のアンモニア濃度を0.2M以上1.35M以下に調整し、
前記酸性化ステップでは、前記第3の溶液がpH≦1となるように調整し、
前記pH調整ステップでは、前記第3の溶液がpH≧4.5となるように調整する、
ことを特徴とする固体電解質の製造方法とすることもできる。
【0015】
さらに、前記酸性化ステップに続いて前記pH調整ステップを実行する一連の手順を複数回繰り返す
固体電解質の製造方法とすればより好ましい。
【0016】
本発明のその他の態様は、全固体電池用の電極活物質の粒子表面に、0<x≦1として、一般式Li
1+xAl
xGe
2−x(PO
4)
3で表される固体電解質が被膜されてなる電極材料の製造方法であって、
GeO
2と、複数の水溶性化合物とを前記固体電解質の原料とし、
前記GeO
2を水に混合する第1混合ステップと、
前記第1混合ステップにて得た混合液にアンモニアを加えて液中の前記GeO
2を溶解させて第1の溶液を得るとともに、当該第1の溶液のアンモニア濃度を調整するアンモニア濃度調整ステップと、
前記第1の溶液に前記複数の水溶性化合物を混合して第2の溶液を得る第2混合ステップと、
前記第2の溶液に硝酸を加えて第3の溶液を得る酸性化ステップと、
前記第3の溶液にアンモニア水を加えて当該第3の溶液のpHを調整するpH調整ステップと、
粉体状の前記電極活物質を前記pH調整ステップを経た前記第3の溶液に混合する活物質混合ステップと、
前記活物質混合ステップにて得た混合液を前記固体電解質が結晶化する焼成温度よりも低い温度で熱処理して非晶質の前記固体電解質を得るガラス化ステップと、
を含み、
前記アンモニア濃度調整ステップでは、全ての前記水溶性化合物が前記第1の溶液に対して溶解性を示すようにアンモニア濃度を調整し、
前記酸性化ステップと前記pH調整ステップとにより、前記第3の溶液における前記固体電解質の全ての原料を溶解させ、
前記pH調整ステップでは、前記第3の溶液を、前記固体電解質が結晶化する温度での熱処理によって前記電極活物質と前記固体電解質との反応に起因する異相が発生しないpHに調整する、
ことを特徴とする全固体電池用電極材料の製造方法としている。
【0017】
また、本発明の一態様には、一体的な焼結体で、正極用の電極活物質と固体電解質を含む正極層、固体電解質を含む固体電解質層、および負極用の電極活物質と固体電解質を含む負極層がこの順に積層されてなる積層電極体を備えた全固体電池の製造方法も含まれ、当該全固体電池の製造方法は、
0<x≦1として、一般式Li
1+xAl
xGe
2−x(PO
4)
3を前記固体電解質として、非晶質状態の前記固体電解質と前記正極用の電極活物質とを混合した正極材料と、非晶質状態の前記固体電解質と前記負極用の電極活物質とを混合した負極材料を作製する電極材料作製ステップと、
層状の前記正極材料と層状の前記負極材料との間に、前記固体電解質を含んだ層状の固体電解質材料を挟持してなる積層体を焼成することで前記積層電極体を作製する焼成ステップと、
を含み、
前記電極材料作製ステップでは、
GeO
2と複数の水溶性化合物とを原料とした固体電解質を溶液法により作製する固体電解質作製ステップと、
前記固体電解質作製ステップにより前記固体電解質を作製する過程で前記原料に粉体状の電極活物質を混合する活物質混合ステップと、
を実行し、
前記固体電解質作製ステップは、
前記GeO
2を水に混合する第1混合ステップと、
前記第1混合ステップにて得た混合液にアンモニアを加えて液中の前記GeO
2を溶解させて第1の溶液を得るとともに、当該第1の溶液のアンモニア濃度を調整するアンモニア濃度調整ステップと、
前記第1の溶液に前記複数の水溶性化合物を混合して第2の溶液を得る第2混合ステップと、
前記第2の溶液に硝酸を加えて第3の溶液を得る酸性化ステップと、
前記第3の溶液にアンモニア水を加えて当該第3の溶液のpHを調整するpH調整ステップと、
前記第3の溶液を前記固体電解質が結晶化する焼成温度よりも低い温度で熱処理して非晶質の固体電解質を得るガラス化ステップと、
を含み、
前記アンモニア濃度調整ステップでは、全ての前記水溶性化合物が前記第1の溶液に対して溶解性を示すようにアンモニア濃度を調整し、
前記酸性化ステップと前記pH調整ステップとにより、前記第3の溶液における前記固体電解質の全ての原料を溶解させ、
前記pH調整ステップでは、前記第3の溶液を、前記焼成ステップによって前記電極活物質と前記固体電解質との反応に起因する異相が発生しないpHに調整し、
前記活物質混合ステップを前記第2混合ステップと前記ガラス化ステップとの間に実行する、
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、固体電解質、電極活物質の粒子表面にLAGPからなる固体電解質の被膜が形成されてなる全固体電池用電極材料、および全固体電池を、簡素な手順でより安価に製造するための方法が提供される。なお、その他の効果については以下の記載で明らかにする。
【発明を実施するための形態】
【0020】
===実施例の概略===
実用的な全固体電池を実現させるためには、LAGPをより簡素な方法でより安価に作製する必要がある。また、そのLAGPは電極活物質の粒子表面の被膜として用いるのに適したものであることも要求されている。そこで、本発明の実施例では、これらの要求に対し、LAGPを溶液法あるいは液相法と呼ばれる方法(以下、溶液法と総称することがある)を用いて作製することとしている。以下に示す本発明の各実施例では、当初の溶媒として水を用いながら、原料を溶媒に混合する順番や、その混合過程にて溶媒を改質させている。それによって、原料の溶媒に対する難易性を抑制している。具体的には、アンモニア濃度が所定の数値範囲に調製された溶媒にLAGPの原料を溶解させている。
【0021】
また、LAGPの原料アンモニア水を溶媒として、LAGPの原料が溶解しているアルカリ性溶液を、硝酸を用いて強酸性にした上で再度アンモニア水を用いて溶液のpHを調整している。それによって、LAGPの原料に酸性とアルカリ性の一方に難易性を示すものがあったり、原料を溶媒に溶解させていく途上で生成された不溶性の結晶成分が残留したりしても、LAGPの全原料の成分を完全に溶媒に溶解させることができる。さらに、焼成によってLAGPを結晶化させる際の異相の出現や電極活物質との不要な反応を抑制している。
【0022】
そして、以下では、LAGPの原料に、二酸化ゲルマニウム(GeO
2:株式会社高純度化学研究所製)、酢酸リチウム(CH
3COOLi・2H
2O:和光純薬工業株式会社製)、硝酸アルミニウム(Al(NO
3)
3・9H
2O:関東化学工業株式会社製)、リン酸二水素アンモニウム(NH
4H
2PO
4:関東化学工業株式会社製)の各化合物を用いた固体電解質(以下、LAGPとも言う)の製造方法、そのLAGPの製造方法を応用した電極材料の製造方法、および当該電極材料の製造方法により作製された電極材料を用いた全固体電池の製造方法を本発明の実施例として挙げる。
【0023】
===原料の水溶性について===
本発明の全ての実施例では、溶液法によってLAGPを作製することを前提にしている。したがって、LAGPの原料を確実に溶媒に溶解させる必要がある。そこで、まず、LAGPの原料の水に対する溶解性を調べ、各化合物の水や各種溶媒に対する溶解性に基づいて化合物を溶媒に混合する順番を決定した。なお、各原料における水などの溶媒に対する溶解性の有無については目視により判定した。化合物が溶媒に溶解すると、無色透明の溶液となるが、溶解しない場合は化合物が沈殿して溶媒が白濁する。そして、上記原料のうち、GeO
2のみ、水溶性がなく、水に対して難溶性であった。また、GeO
2を含めたLAGPの原料は、全て、アルカリ性の溶媒に溶解性を示す水溶性であることが分かった。
【0024】
そこで、本発明の実施例では、最初にGeO
2を水に混合し、その水をアルカリ性に改質してGeO
2を溶解させ、その上で他の化合物を改質後の水に溶解させることとした。ここでは、アンモニア水に各原料を溶解させた。アンモニア水は、当初の溶媒である水にアンモニアを溶解させたり、高濃度のアンモニア水を水に混合したりして所定のアンモニア濃度に容易に調整することができる。また、アンモニアやアンモニア水は入手しやすく安価でもある。以上により、本発明の実施例に係るLAGPの製造方法では、最初に水にGeO
2を混合するとともに、その水をアンモニア水にしてGeO
2を溶解させ、その上で他のLAGPの原料をアンモニア水に溶解させるという手順を基本としつつ、その基本手順に全ての原料を確実に溶解させるための追加手順として、溶液に硝酸を加えて強酸性にし、その上でアンモニアを加えて溶液のpHを調整している。そして、この追加手順を実行した後の溶液を熱処理してLAGPを結晶化させている。
【0025】
===溶媒のアンモニア濃度について===
上述した基本手順を規定するために、まず、各原料のアンモニア水に対する溶解性について検討したところ、全ての原料が、0.2mol/L(以下、M)のアンモニア濃度のアンモニア水に溶解した。次に、0.2M以上でアンモニア濃度が異なる各種アンモニア水を作製し、各アンモニア水に各原料を溶解させて、各原料のアンモニア水に対する溶解性を調べた。
【0026】
以下の表1にLAGPの原料のアンモニア水に対する溶解性を示した。
【0027】
【表1】
表1に示したように、各原料を、アンモニア濃度が0Mの水と、アンモニア濃度が0.255M〜7.2Mのアンモニア水に溶解させてみた。水に溶解しなかったのはGeO
2のみであり、他の化合物は水に溶解した。GeO
2とCH
3COOLi・2H
2Oは、7.2Mの高濃度のアンモニア水に溶解し、Al(NO
3)
3・9H
2Oは、1.35Mの濃度のアンモニア水に溶解し、それよりも高い濃度のアンモニア水には溶解しなかった。また、NH
4H
2PO
4は、1.8Mよりも濃度が高いアンモニア水には溶解しなかった。
【0028】
以上の水、およびアンモニア水に対する溶解性の検討結果より、上記原料を用いて溶液法でLAGPを作製するためには、水にGeO
2を混合した後、その水に高濃度のアンモニア水を加えるなどして、アンモニア濃度が0.2M以上1.35M以下に調整されたアンモニア水にGeO
2以外の原料を混合して溶解させることになる。すなわち、追加手順は、アンモニア濃度が0.2M以上1.35M以下に調整されている溶液に対して行うこととなる。さらに、ここでは、追加手順を実行して得たLAGPの特性をより向上させるために、上記アンモニア濃度の範囲内から、アンモニア濃度の最適値を規定することとする。そして、その最適値を見いだすために、アンモニア濃度が異なる各種溶媒にLAGPの原料を溶解させた溶液を作製し、その溶液を熱処理して作製したLAGPの結晶をサンプルとして作製した。
【0029】
図1に各サンプルの製造方法の手順を示した。溶媒として水の入った容器を用意し(s1)、その水にGeO
2を混合する(s2)。なお、この工程(以下、第1混合工程とも言う)ではGeO
2は溶媒である水に溶解しない。次に、GeO
2と水との混合液にアンモニアを加え、溶媒が各サンプルに応じたアンモニア濃度となるように調製する(s3)。ここでは28Mの高濃度アンモニア水を水に加えることで溶媒のアンモニア濃度を調製した。GeO
2は、このアンモニア濃度調整工程(s3)によって溶解する。アンモニア濃度が異なるGeO
2のアンモニア水溶液のそれぞれに、GeO
2以外のLAGPの原料を混合する(s4)。なお、図中では、GeO
2のアンモニア水溶液に、CH
3COOLi・2H
2O、Al(NO
3)
3・9H
2O、NH
4H
2PO
4をこの順で混合しているが、GeO
2以外の各原料を混合する順番は、アンモニア濃度調整工程(s3)より後であれば、互いに前後していてもよい。
【0030】
以上のようにしてLAGPの全ての原料を第1の溶液に混合する工程(以下、第2混合工程(s4)とも言う)を実行したならば、その混合液を熱処理して最終的にLAGPの結晶を得る工程に移行する。ここでは、まず、100℃の温度のホットプレート上に容器を置いて混合液を攪拌しながら溶媒を蒸発させる溶媒除去工程(s5)を行った上で、容器内に残存している材料をオーブンなどを用いて乾燥させる(s6)。ここでは、260℃の温度で4時間掛けて乾燥させた。この乾燥工程(s6)によって得た容器内の材料を450℃の温度で2時間、窒素雰囲気で仮焼成し(s7)、この仮焼成工程(s7)により得られた粉体材料を所定形状のペレットに成形する(s8)。ペレットは、例えば、200kgf/cm
2の圧力でφ20mmの円板状となるようにプレス成形した。そして、ペレットを600℃の温度で2時間、窒素雰囲気で焼成する焼成工程(s9)によって結晶化したLAGPからなる円板状の焼結体をサンプルとして得た。最後に、各サンプルのイオン伝導度を調べるために、円板状の焼結体の両面に電極を形成した(s10)。ここでは、厚さ0.1μmのAu薄膜を電極として形成した。
【0031】
なお、上記手順において、仮焼成工程(s7)は、非晶質のLAGPを得るための工程であり、ここでは、LAGPの被膜を電極活物質の粒子表面に形成することを想定した条件でこの仮焼成工程(s7)を実行している。すなわち、仮焼成工程(s7)では、非晶質のLAGPを粉体状の電極活物質の粒子表面に付着させ、その上で焼成工程(s9)によってLAGPを結晶化させることを想定している。しかし、全固体電池用の電極活物質として知られているリン酸バナジウムリチウム(Li
3V
2(PO
4)
3)、リン酸コバルトリチウム(LiCoPO
4)、二酸化チタン(TiO
2)は、700℃以上の温度でLAGPと反応してしまう。そのため、実際にLAGPの被膜を電極活物質の粒子表面に形成する際には、仮焼成工程(s7)で焼成温度よりも低い温度で熱処理してLAGPを非晶質の状態で電極活物質の粒子表面に付着させ、焼成工程(s9)で700℃の温度よりも低い温度でLAGPを結晶化させる必要がある。そして、上述したように、仮焼成工程(s7)と焼成工程(s9)では、それぞれ、熱処理の温度を450℃と600℃としている。
【0032】
図2は、アンモニア濃度調整工程において、溶媒のアンモニア濃度を変えて作製した各種サンプルのイオン伝導度σ(S/cm)を示している。
図2では、アンモニア濃度(M)を横軸とし、イオン伝導度σ(S/cm)を縦軸としたグラフを示した。なお、縦軸は対数目盛になっている。
図2に示したように、アンモニア濃度が0.45M以上の溶媒に原料を溶解させて作成したサンプルでは、アンモニア濃度とイオン伝導度が、ほぼ、傾きが負となる比例関係にあることが確認できた。すなわちアンモニア濃度の増大に伴ってイオン伝導度σが低下した。そして、アンモニア濃度が1.35M以下であれば、1×10
−6(S/cm
2)以上の実用可能なイオン伝導度σが得られた。そして、0.45Mのアンモニア濃度の溶媒を用いて作製したサンプルでは、1×10
−5(S/cm
2)程度の高いイオン伝導度σが得られた。なお、アンモニア濃度が0.45M未満のサンプルでも1×10
−6(S/cm
2)と同等かそれ以上のイオン伝導度σが得られているが、アンモニア濃度とイオン伝導度σとの関係が上記の比例関係から外れていた。また、アンモニア濃度が同じサンプル同士でイオン伝導度σにバラツキが見られた。これは、溶媒のアンモニア濃度が低いと、GeO
2の溶媒に対する溶解性にバラツキが生じ、サンプル間でのLAGPの結晶構造に個体差があったためと思われる。
【0033】
そして以下では、アンモニア濃度調整工程(s3)において、溶媒のアンモニア濃度を0.45Mとしたサンプルが最も高いイオン伝導度σを示したことから、本発明の第1の実施例に係る固体電解質(以下、LAGPとも言う)の製造方法として、
図1に示した手順において、アンモニア濃度調整工程(s3)にて溶媒のアンモニア濃度を0.45Mに調整しつつ、第2混合工程(s4)と溶媒除去工程(s5)との間に上述した追加手順を挿入してLAGPを製造する方法を挙げる。また、第1の実施例に係るLAGPの製造方法の変形例を第2の実施例として挙げる。さらに、そのLAGPの製造方法を応用して電極材料、および全固体電池を製造する方法について説明する。
【0034】
===第1の実施例===
第1の実施例に係る方法で作製したLAGPの特性を評価するために、LAGPの製造手順や製造条件が異なるLAGPや、最終的に得られる結晶化したLAGPを製造する途上で取り出した生成物をサンプルとして作製した。
図3に各種サンプルの作製手順を示した。
図3において、当初の溶媒である水を準備する工程(s1)から第2混合工程(s4)までの手順は、
図1に示した基本手順と同様である。なお、アンモニア濃度調整工程(s3)では、溶媒のアンモニア濃度を0.45Mに調整している。第1の実施例に係るLAGPの製造方法では、第2混合工程(s4)によって得られた溶液に硝酸を加える酸性化工程(s21)を実行し、溶液を強酸性にしている。ここでは、pH=0.2となるように硝酸を加えた。さらに、強酸性の溶液に再度アンモニアを加えて溶液のpHを調整した(s22)。このpHを調整する工程(以下、pH調整工程(s22))では、pHが異なる幾つかの溶液を作製した。ここでは、pH=4.21、5.28、6.28、7.72、8.87、および9.52の6種類の溶液を用いた。なお、以下では、pH調整工程(s22)において、pH=4.21、5.28、6.28、7.72、8.87、および9.52のそれぞれの溶液を起源として作製されたサンプルを、取り出した時期やpH調整工程(s22)以降の作製手順によらず、それぞれ、サンプル1、2、3、4、5、および6と称することとする。そして種々のサンプルに対し、イオン伝導度σと、X線回折装置による測定(以下、XRD測定とも言う)による結晶構造とを調べた。
【0035】
イオン伝導度σを調べるためのサンプルは、pH調整工程(s22)の後に、
図1における溶媒除去工程(s5)から電極形成工程(s10)までを順番に行って作製した(s6→s23→s7→s24→s25→s8〜s10)。また、結晶構造を調べるためのサンプルとして、乾燥工程(s6)によって析出した材料と、仮焼成工程(s7)の後の非晶質の状態にあるLAGPと、焼成工程(s9)を経て結晶化したLAGPとを作製した。すなわち、乾燥工程(s6)まで実行した時点での生成物の一部をサンプルとして取り出した(s6→s23→終わり)。さらに、溶媒除去工程(s5)から仮焼成工程(s7)までを実行した後、その仮焼成工程(s7)によって得られる粉体材料の一部を非晶質のLAGPの結晶構造を調べるためのサンプルとした(s23→s7→s24→終わり)。そして、
図3に示した手順において、ペレットの成形工程(s8)と電極形成工程(s10)とを省略して仮焼成工程(s7)の後に焼成工程(s9)を実行して得た粉体材料を結晶化したLAGPの結晶構造を調べるためのサンプルとした(s7→s24→s25→s9→終わり)。なお、本発明の第1の実施例に係るLAGPの製造方法は、結晶化したLAGPの結晶構造を調べるためのサンプルを作製する手順に基づいたものとなる。
【0036】
図4に仮焼成工程(s7)の後に取り出したサンプル1〜6に対するXRD測定の結果を示した。
図4に示したように、pH=4.21の溶液を起源として作製されたサンプル1では、LAGPの原料であるGeO
2が溶解せずに残存していることに起因するピークが確認でき、pH調整工程(s22)の後の溶液のpHが4.21よりも大きかったサンプル2〜6では、ピークが見当たらず、一様な非晶質になっていることが確認できた。また、pH調整工程(s22)の後の溶液のpHが4.5以上であれば、一様な非晶質になっていることが追試により確認された。すなわち、LAGPの原料となる上述した各化合物のうち、GeO
2は強酸性の溶媒に対して溶解しにくく、GeO
2以外の化合物は強酸性の溶媒に対して完全に溶解する。なお、GeO
2以外の化合物は、pH≦1以下の溶媒中で完全に溶解することも確認している。そして、酸性化工程(s21)の後にpH調整工程(s22)を実行して溶液のpHを4.5以上に調整すれば、GeO
2も完全に溶解し、その各原料が完全に溶解した状態にある溶液に対し、熱処理(s5、s6)、仮焼成工程(s7)、および焼成工程(s9)の各工程を実行すれば、異相のない単相のLAGPが得られる可能性が高い。
【0037】
次に、
図1に示した手順に基づいて作製したサンプルを第1の比較例として用意し、その第1の比較例に係るサンプルの結晶構造と、
図3に示した手順に基づいて作製したサンプル6の結晶構造とを比較した。なお、第1の比較例に係るサンプルは、
図1に示した手順において、乾燥工程(s6)の実行後に取り出したものと、焼成工程(s9)の後の結晶化した粉体状のLAGPからなるものとを用意した。また、第1の比較例に係るサンプルの作製に際し、
図1に示したアンモニア濃度調整工程(s3)では溶媒のアンモニア濃度を0.45Mに調整した。また、結晶化したLAGPについては、成形工程(s8)と電極形成工程(s10)を省略して作製した。
【0038】
図5に、第1の比較例に係るサンプルとサンプル6のXRD測定結果を示した。
図5(A)は、乾燥工程(s6)の後に取り出した各サンプルのXRD測定結果であり、
図5(B)は、焼成工程(s9)の後に取り出した各サンプルのXRD測定結果である。
図5(A)に示したように、第1の比較例に係るサンプルは、図中黒丸で示したように、乾燥工程(s6)の後にLAGPの原料由来と考えられる結晶のピークが確認された。一方、サンプル6では、結晶ピークが確認されず、酸性化工程(s21)とpH調整工程(s22)とにより、LAGPの原料が完全に溶解していることが確認された。
【0039】
また、
図5(B)に示したように、焼成工程(s9)後では、第1の比較例に係るサンプルでは、僅かではあるが、図中黒丸で示したLAGP以外の異相のピークが確認され、サンプル6では、異相に対応するピークがなく単相のLAGPが生成されていることが確認できた。なお、サンプル2〜5についても乾燥工程(s6)の後、および焼成工程(s9)の後に結晶構造を調べてみたが、当然のことながら、サンプル6と同様に原料由来あるいは異相に対応する結晶ピークが確認されなかった。すなわち、先に
図4で示したXRD測定結果からも容易に予想されるように、仮焼成工程(s7)後のサンプル2〜5は、サンプル6と同様に異相のない非晶質のLAGPであり、その異相のない非晶質のLAGPを焼成すれば、異相のない結晶化したLAGPが得られる。
【0040】
次に、サンプル2〜6のイオン伝導度σを調べてみた。
図6にサンプル2、5、6、および第1の比較例に係るサンプルのイオン伝導度σを示した。
図6において、サンプル2、5、6のイオン伝導度σを比較すると、pH調整工程(s22)の後の溶液のpHが小さいほどイオン伝導度σが高くなることが分かった。なお、第1の比較例に係るサンプルでは、
図1におけるアンモニア濃度調整工程(s3)によって得られた溶液のpHが11.3であった。そして、第1の比較例に係るサンプルのイオン伝導度σが1×10
-5(S/cm)を少し下回る7.7×10
-6(S/cm)であったのに対し、サンプル2、5、6では、その第1の比較例よりもイオン伝導度σがさらに向上し、pH調整工程(s22)によってpH=9.52に調整されたサンプル6では1.7×10
-5(S/cm)の高いイオン伝導度σが得られた。
【0041】
次に、サンプル2、4、5、6について、複数の個体を作製し、各個体のイオン伝導度σを調べた。また、第1の比較例と同様に、
図1に示した基本的な手順に基づいて作製したサンプルを第2の比較例として用意した。第2の比較例に係るサンプルは、アンモニア濃度調整(s2)による溶媒のアンモニア濃度を、0.45Mを中心に若干幅を持たせて溶媒のpHを11〜12程度の範囲で調整して作製したものである。
図7に、各サンプルのpHとイオン伝導度σとの関係を示した。
図7に示したように、第2の比較例に係るサンプルはpHの僅かなずれによってイオン伝導度σが大きく変化している。また、pHが同じであっても個体間のバラツキも大きかった。これは、LAGPの原料の溶媒に対する溶解性が個体間でばらつくためであると考えることができる。一方、第1の実施例の方法で作製したLAGPは、広いpHの範囲で1×10
−5(S/cm)以上のイオン伝導度σが得られ、個体間のバラツキも小さかった。このように、第1の実施例に係るLAGPの製造方法では、酸性化工程とpH調整工程によりLAGPの原料を完全に溶媒に溶解させることができ、高いイオン伝導度σを有するLAGPを再現性よく製造することが可能となる。もちろん、溶液法に基づく第1の実施例に係るLAGPの製造方法では、LAGPをより安価に製造することができる。
【0042】
===第2の実施例===
第1の実施例に係るLAGPの製造方法によれば、実用的なイオン伝導度σを有して異相がないLAGPを再現性よく安価に作製することができる。しかし、第1の実施例に係る方法で作製されたLAGPは、固相法によって作製されたLAGPのイオン伝導度σに届いていない。そして、LAGPは結晶化することでイオン伝導性が発現することから、イオン伝導度σをさらに向上させるためには、焼成後に残存する非晶質のLAGPをより少なくすることが必要となる。すなわち、LAGPの結晶性を高めることが必要となる。そこで、本発明の第2の実施例として、高い結晶性を有するLAGPを製造するための方法を挙げる。
【0043】
図8に第2の実施例に係るLAGPの製造方法の手順を示した。基本的な手順は第1の実施例と同様であるが、
図8に示したように、酸性化工程(s21)とpH調整工程(s22)を複数回(N回)繰り返して実行させることとしている(s31)。そして、その実行回数Nに達するまで酸性化工程(s21)とpH調整工程(s22)を繰り返させ(s32、s33、s21、s22、s34→s33)、実行回数Nに達したならば溶媒除去工程s5以後の工程に移行させている(s34→s5)。なお、
図8には、第2の実施例の方法で作製したLAGPのイオン伝導度σと結晶構造とを測定するために、仮焼成工程(s7)の後にペレットの成形工程(s8)とそのペレットを焼成して得た焼結体に電極を形成する工程(s10)を含む手順(s7→s25→s8)と、これらの工程(s8、s10)を実行せずに仮焼成工程(s7)の後に焼成工程(s9)を実行する手順(s7→s25→s9)の双方が含まれている。
【0044】
以上の手順に従って作製したLAGPについて、まず、結晶構造を調べてみた。
図9に、焼成工程(s9)まで実行して得た上記第1の比較例、第1の実施例の方法で作製した上記サンプル6、および第2の実施例の方法で作製したLAGP(以下、サンプル7と称する)のXRD測定結果を示した。
図9(A)は、10゜≦2θ≦40゜のX線回折角度範囲におけるXRD測定結果であり、
図9(B)は、20゜≦2θ≦30゜のX線回折角度範囲におけるXRD測定結果である。なお、第2の実施例の方法で作製したサンプル7は、
図8に示した手順においてN=3に設定して作製したLAGPであり、酸性化工程(s21)とpH調整工程(s22)を3回実行している。なお、サンプル7を作製する際には、サンプル6と同様に、pH調整工程(s22)の実行機会ごとに溶液のpHを9.52に調整した。
【0045】
図9(A)に示したように、サンプル7は、サンプル6と同様に異相のない単相のLAGPであり、
図9(B)に拡大して示したように、LAGPのピーク強度がサンプル6や第1の比較例に対して大きく増大し、極めて高い結晶性を有していることが確認できた。なお、第1の比較例は、LAGPの結晶性については、サンプル6よりも若干高かったものの、異相が存在し、先に
図6や
図7に示したようにイオン伝導度σがサンプル6よりも劣っている。また、サンプル7についてイオン伝導度σを調べたところ、3.0×10
−5(S/cm)の高いイオン伝導度σを示した。このイオン伝導度σは固相法で作製されるLAGPと同等である。そのため、第2の実施例に係る方法でLAGPを作製しつつ、そのLAGPの被膜を電極活物質の粒子表面に形成すれば、全固体電池における電極層が固体電解質層に対して抵抗層にならず、全固体電池の性能を飛躍的に向上させることが可能となる。もちろん、簡素な溶液法を用いつつ、固相法と同等のイオン伝導度σが得られることから、全固体電池を構成する全ての固体電解質を、本発明の第2の実施例に係る方法で作製することも可能となる。
【0046】
===全固体電池用電極材料の製造方法===
第1および第2の実施例に係るLAGPの製造方法では、溶液法を用いてLAGPを作製していた。そして、これらの実施例に係るLAGPの製造方法を応用すれば、粉体状の電極活物質を液状のLAGPの原料に混合することができ、LAGPの被膜を電極活物質の粒子表面に効果的に形成することができる。そして、第1および第2の実施例に係るLAGPの製造方法を応用した電極材料の製造方法では、
図3や
図8に示したLAGPの作製手順において、pH調整工程(s22)によって得られた溶液に電極活物質を混合する工程を実行し、その上で溶媒除去工程(s5)から仮焼成工程(s7)を実行すればよい。そして、仮焼成工程(s7)によって得られる粉体状の材料を電極材料とすればよい。
【0047】
ところで、第1および第2の実施例に係るLAGPの製造方法を全固体電池の負極層用電極活物質として用いられるTiO
2に適用して電極材料を製造し、その電極材料を第1および第2の実施例と同様の焼成工程(s9)によって焼成したところ、pH調整工程(s22)によって得られる溶液のpHが12以上であると、焼成時にTiO
2とLAGPとが反応し、焼成後に異相となるLi
1.4(Al
0.4Ge
0.2Ti
1.4(PO)
4)
3が生成されることが分かった。したがって、電極活物質にTiO
2を用いる場合ではpH調整工程(s22)では、溶液のpHを 4.5以上12以下に調整することが望ましい。もちろん、電極活物質が異なれば、LAGPと反応するpHも異なる。いずれにしても、pH調整工程(s22)では、焼成工程(s9)において電極活物質とLAGPとが反応することに起因する異相が生成されないように溶液のpHを調整すればよい。
【0048】
===全固体電池の製造方法===
全固体電池を構成する積層電極体は、上述した圧縮成形法やグリーンシート法により、シート状の正極材料、固体電解質、および負極材料をこの順に積層した積層体を作製し、その積層体に対して焼成を行うことで作製される。そしてLAGPを固体電解質として用いた全固体電池では、積層体を焼成する工程によって非晶質のLAGPを結晶化させることになる。すなわち、
図3、
図8における焼成工程(s9)は、積層体を焼成することを想定した工程であり、第1および第2の実施例に係るLAGPの製造方法を用いて全固体電池を作製する場合には、第1および第2の実施例に係る方法、あるいは固相法によって作製したLAGPを用いてシート状の固体電解質を作製するとともに、上述した電極材料の製造方法によって作製した負極および正極の電極材料をそれぞれシート状に成形する。次いで、シート状の正極材料、固体電解質、および負極材料をこの順に積層した積層体を作製する。そして、その積層体を
図3や
図8に示した焼成工程(s9)と同様の条件で焼成して焼結体からなる積層電極体を作製し、その積層電極体の最上層と最下層に集電体として、例えば、電極形成工程(s10)と同様の条件で作製した電極を形成すればよい。===その他の実施例===
LAGPの原料のうち、GeO
2以外の水溶性化合物からなる原料は、上記第1および第2の実施例にて用いたものに限定されない。そして、
図3や
図8におけるアンモニア濃度調整工程(s3)では、原料が異なれば、当然のことながら溶媒に対して可溶性を示すアンモニア濃度が異なる。また、酸性化工程(s21)やpH調整工程(s22)におけるpHの適正範囲も異なる。いずれにしても、アンモニア濃度調整工程(s3)では、溶媒がGeO
2を含む全てのLAGPの原料に対して溶解性を示すアンモニア濃度に調整し、酸性化工程(s21)とpH調整工程(s22)の実行後にLAGPの原料が完全に溶解するように、それぞれの工程(s21、s22)における溶液のpHを調整すればよい。
【0049】
上記第1、第2の実施例に係るLAGPの製造方法では、LAGPをLVP、LCPO、TiO
2など、700℃以上の温度で焼成するとLAGPと反応してしまう可能性がある電極活物質にLAGPの被膜を形成することを想定した手順を採用していた。もちろん、電極活物質は、これらの化合物に限定されない。そして、その他の電極活物質では、より高い温度でLAGPとともに熱処理が可能なものもあるかもしれない。しかしながら、上記各実施例で想定しているLVP、LCPO、TiO
2などは、全固体電池用の電極活物質として周知のものであり、全固体電池を早期に実用化させるためには、これらの電極活物質を使用することが現実的であると言える。そのために、本発明の実施例では、焼成温度の上限を700℃より100℃も低い600℃とした。そして上記各実施例では、この600℃の焼成温度でも単相のLAGPを結晶化させることができた。
【0050】
上記電極材料の製造方法は、正極層と負極層のそれぞれに含ませる電極活物質の粒子表面に被膜を効果的に形成することができる。もちろん、全固体電池を作製する際には、上記の電極材料の製造方法によって、正極層と負極層の両方の電極材料を作製してもよいし、正負いずれかの電極材料を作製してもよい。