特許第6937207号(P6937207)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6937207
(24)【登録日】2021年9月1日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】同軸フラットケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/08 20060101AFI20210909BHJP
   H01B 11/00 20060101ALI20210909BHJP
   H01B 11/18 20060101ALI20210909BHJP
   H01B 11/20 20060101ALI20210909BHJP
【FI】
   H01B7/08
   H01B11/00 G
   H01B11/18 D
   H01B11/20
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-188811(P2017-188811)
(22)【出願日】2017年9月28日
(65)【公開番号】特開2019-67518(P2019-67518A)
(43)【公開日】2019年4月25日
【審査請求日】2020年8月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003414
【氏名又は名称】東京特殊電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117226
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】中山 順盟
(72)【発明者】
【氏名】中山 毅安
(72)【発明者】
【氏名】山崎 哲
(72)【発明者】
【氏名】今村 博人
(72)【発明者】
【氏名】坂口 穂高
【審査官】 北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/086404(WO,A1)
【文献】 特開2007−335393(JP,A)
【文献】 特開2008−181755(JP,A)
【文献】 特開2015−133187(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/08
H01B 11/00
H01B 11/18
H01B 11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定の間隔で並列に配された複数本の同軸ケーブルと、前記複数本の同軸ケーブルの少なくとも端末部を両面から一体化する固定テープとを有する同軸フラットケーブルにおいて、
前記同軸ケーブルは、内部導体と、該内部導体の外周に設けられた、長手方向に連続する空隙部を有する誘電体層と、該誘電体層の外周に設けられた外部導体と、該外部導体の外周に設けられた絶縁層とを少なくとも備え
前記誘電体層が、内環状部、外環状部及びこれらを連結する連結部で構成された中空構造体であり、該中空構造体がフッ素系樹脂で構成されており、
前記絶縁層が、片面に接着剤層を設けたポリエステルテープの螺旋巻であり、
前記内部導体は、1本の素線又は2本以上の素線を撚り合わせたものであり、該内部導体の外径が0.1mm以上0.4mm以下の範囲内であり、前記個々の同軸ケーブルは、前記内部導体の外径の2.5倍以上10倍以下の範囲内である、ことを特徴とする同軸フラットケーブル。
【請求項2】
前記固定テープが、片面に接着剤層を備えたポリエステルフィルムである、請求項に記載の同軸フラットケーブル。
【請求項3】
前記固定テープの厚さが、0.03mm以上0.1mm以下の範囲内である、請求項1又は2に記載の同軸フラットケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同軸フラットケーブルに関し、さらに詳しくは、液晶テレビやサーバ等の電子機器内又は電子機器間で用いられ、高周波信号の伝搬に好適な同軸ケーブルを用いたフラットケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
フラットケーブルは、加工性及び可撓性に優れ、電子機器の内部配線材や外部配線材として広く用いられている。特に高周波信号の伝搬に好適なフラットケーブルとして、複数の同軸ケーブルを利用したフラットケーブルが提案されている。例えば、特許文献1には、外径が0.15〜0.35mmの複数本の同軸ケーブルが平行に並べられてラミネートシートに固定されたフラットケーブルが提案されている。このフラットケーブルは、直径0.016mm〜0.025mmの極細線を7本撚り合わせた中心導体を有する極細同軸ケーブルを使用している。
【0003】
一方、特許文献2に記載のように、近年では、電子機器内で扱われる情報が増大しているため、これらの情報を電気信号として伝搬する同軸ケーブルの更なる大容量化及び高速化が要求され、電気信号の高周波化が加速している。しかし、電気信号の周波数が高くなるにしたがって内部導体(特許文献1では複数本の極細線が撚り合わされたもの)の表面に電流が集中(表皮効果という。)し、内部導体の実効断面積が減少する。そのため、電気信号の周波数の上昇と共に電気抵抗(交流抵抗)が高くなり、導体損失が増加してしまう。また、同軸ケーブルの線路長を長尺化することも要求されており、この長尺化によっても電気抵抗(導体抵抗)が高くなるため、導体損失が増加してしまう。これらの電気抵抗の上昇を抑えて導体損失の増加を防止する方法として、内部導体の外径を大きくした同軸ケーブルが考えられているが、同軸ケーブルの外径が大きくなり、コネクタの規定ピッチを超えてしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−222059号公報
【特許文献2】特開2015−138750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、特許文献1のような極細同軸ケーブルでは導体損失が大きすぎる問題がある。また、内部導体の外径を大きくした同軸ケーブルは、外径が大きくなるため、所望のコネクタのピッチを超えてしまうという問題がある。
【0006】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであって、その目的は、内部導体径が大きく、且つ仕上がり外径が小さく、安定した高周波特性を示す同軸ケーブルを用いた同軸フラットケーブルを提供することにある。特に、製造時(例えばヒートシール等の加熱圧迫時等)や配線作業時等に潰れにくく、内部導体と外部導体との距離の変化を抑制して、特性インピーダンスが安定して高周波特性を安定なものとした同軸フラットケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係る同軸フラットケーブルは、一定の間隔で並列に配された複数本の同軸ケーブルと、前記複数本の同軸ケーブルの少なくとも端末部を片面又は両面から一体化する固定テープとを有する同軸フラットケーブルにおいて、前記同軸ケーブルは、内部導体と、該内部導体の外周に設けられた、長手方向に連続する空隙部を有する誘電体層と、該誘電体層の外周に設けられた外部導体と、該外部導体の外周に設けられた絶縁層とを少なくとも備えることを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、誘電体層は長手方向に連続する空隙部を有するので、その空隙部の存在により誘電率を小さくすることができる。その結果、同軸ケーブルの外径を大きくすることなく内部導体の外径を増すことができ、内部導体の実効断面積を増して高周波抵抗(交流抵抗)の増大を抑制することができる。さらに、長手方向に連続する空隙部を有する誘電体層は、長手方向に連続しない発泡層からなる誘電体層に比べて製造時(例えばヒートシール等の加圧時等)や配線作業時等に潰れにくく、内部導体と外部導体との距離が変化しないので、特性インピーダンスが安定して高周波特性を安定なものとすることができる。
【0009】
(2)本発明に係る同軸フラットケーブルにおいて、前記誘電体層が、内環状部、外環状部及びこれらを連結する連結部で構成された中空構造体であり、該中空構造体がフッ素系樹脂で構成されていることが好ましい。
【0010】
この発明によれば、上記中空構造体は側圧強度に優れるので、製造時や配線作業時等に潰れにくく、高周波特性を安定なものとすることができる。また、例えばPFA(ε2.1)等のフッ素系樹脂は、ポリエチレン(ε2.2〜2.6)等よりも誘電率が小さいので、高周波伝送特性をさらに向上させることができ、さらに前記中空構造体の空隙率に応じて誘電率を小さくすることができる。
【0011】
(3)本発明に係る同軸フラットケーブルにおいて、前記内部導体は、1本の素線又は2本以上の素線を撚り合わせたものであり、該内部導体の外径が0.1mm以上0.4mm以下の範囲内であり、前記個々の同軸ケーブルは、前記内部導体の外径の2.5倍以上10倍以下の範囲内とすることが好ましい。
【0012】
この発明によれば、内部導体の外径を上記範囲で大きくしても、個々の同軸ケーブルの外径を上記範囲で制限できるので、所望のコネクタのピッチを超えてしまうことがなく、安定で優れた高周波特性を示す同軸フラットケーブルを既存のコネクタを変更することなく利用することができる。
【0013】
(4)本発明に係る同軸フラットケーブルにおいて、前記絶縁層が、片面に接着剤層を設けたポリエステルテープの螺旋巻であることが好ましい。
【0014】
この発明によれば、絶縁層が片面に接着剤層を設けたポリエステルテープの螺旋巻であるので、仕上がり外径を小さくすることができる。
【0015】
(5)本発明に係る同軸フラットケーブルにおいて、前記固定テープが、片面に接着剤層を備えたポリエステルフィルムであることが好ましい。
【0016】
この発明において、ポリエステルフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましく、接着剤層としては、ポリエステル系熱可塑性接着剤層が好ましい。また、固定テープの厚さを例えば0.03mm以上0.1mm以下程度の十分に厚いものを用いることにより、熱接着時の熱影響を受けにくくすることができ、その結果、収縮が発生しにくくなり、安定したピッチの同軸ケーブルとすることができる。こうした固定テープは、前記複数の同軸ケーブルの長手方向の全てに貼り合わされていてもよいし、長手方向の両端末部のみに貼り合わされていてもよい。固定テープを例えば両端末のみに貼り合わせることで、端末部以外の非一体部分は変形させることができ、電子機器内の配線時における自由度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、内部導体径が大きく、且つ仕上がり外径が小さく、安定した高周波特性を示す同軸ケーブルを用いた同軸フラットケーブルを提供することができる。特に、製造時(例えばヒートシール等の加熱圧迫時等)や配線作業時等に潰れにくく、内部導体と外部導体との距離の変化を抑制して、特性インピーダンスが安定して高周波特性を安定なものとした同軸フラットケーブルを提供することができる。
【0018】
すなわち、内部導体を大きくすることで導体損失が小さくなり、電気信号の周波数の上昇と内部配線の線路長の長尺化に対応可能な同軸フラットケーブルを提供できる。また、誘電体層を中空構造体にすることで、加熱ロールに通した際の誘電体層の潰れがなく、特性インピーダンスの変化のない安定した高周波特性を示す同軸フラットケーブルが得られ、例えば10GHz〜25GHz等の高周波での使用も可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る同軸フラットケーブルの一例を示す断面図である。
図2】同軸ケーブルの一例を示す断面図である。
図3】同軸フラットケーブルの全体斜視図であり、(A)は同軸ケーブルの両面を固定テープで一体化した形態であり、(B)は同軸ケーブルの端末部の両面を固定テープで一体化した形態である。
図4】実施例1の同軸フラットケーブルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る同軸フラットケーブルの実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態及び図面に記載した形態と同じ技術的思想の発明を含むものであり、本発明の技術的範囲は実施形態の記載や図面の記載のみに限定されるものでない。
【0021】
本発明に係る同軸フラットケーブル20は、図1図3に示すように、一定の間隔Pで並列に配された複数本の同軸ケーブル10と、複数本の同軸ケーブル10の少なくとも端末部21を片面又は両面から一体化する固定テープ11とを有するものである。そして、同軸ケーブル10は、内部導体1と、内部導体1の外周に設けられた、長手方向Yに連続する空隙部2Aを有する誘電体層2と、誘電体層2の外周に設けられた外部導体3と、外部導体3の外周に設けられた絶縁層4とを少なくとも備えている。
【0022】
この同軸フラットケーブル20は、誘電体層2が長手方向Yに連続する空隙部2Aを有するので、その空隙部2Aの存在により誘電率を小さくすることができる。その結果、同軸ケーブル10の外径を大きくすることなく内部導体1の外径を増すことができ、内部導体1の実効断面積を増して高周波抵抗(交流抵抗)の増大を抑制することができる。さらに、長手方向Yに連続する空隙部2Aを有する誘電体層2は、長手方向Yに連続しない発泡層からなる誘電体層に比べて製造時(例えばヒートシール等の加圧時等)や配線作業時等に潰れにくく、内部導体1と外部導体3との距離が変化しないので、特性インピーダンスが安定して高周波特性を安定なものとすることができる。こうした結果、内部導体径が大きく、且つ仕上がり外径が小さく、安定した高周波特性を示す同軸ケーブル10を用いた同軸フラットケーブル20を提供することができる。
【0023】
以下、同軸フラットケーブルの各構成要素を説明する。
【0024】
(内部導体)
内部導体1は、図1及び図2に示すように、同軸ケーブル10の長手方向Yに延びる1本の素線で構成されるもの、又は複数本の素線を撚り合わせて構成されるものであり、同軸ケーブル10の中心導体を構成している。素線は、良導電性金属からなるものであればその種類は特に限定されないが、銅線、銅合金線、アルミニウム線、アルミニウム合金線、銅アルミニウム複合線等の良導電性の金属導体、又はそれらの表面にめっき層が施されたものを好ましく挙げることができる。高周波用の観点からは、銅線、銅合金線が特に好ましい。めっき層としては、はんだめっき層、錫めっき層、金めっき層、銀めっき層、ニッケルめっき層等が好ましい。素線の断面形状も特に限定されないが、断面形状が円形又は略円形であってもよいし、角形形状であってもよい。
【0025】
内部導体1の断面形状も特に限定されないが、円形(楕円形を含む。)であってもよいし、矩形(四角形、五角形、六角形、八角形等を含む)であってもよい。内部導体1の外径は、電気抵抗(交流抵抗、導体抵抗)が小さくなるように、できるだけ大きいことが望ましく、例えば、0.1mm〜0.4mm程度を挙げることができる。具体的には、AWG28〜36(7/0.127〜7/0.05)程度であればよく、AWG32 7/0.08(外径:約0.24mm)等を好ましく挙げることができる。
【0026】
内部導体1の表面には、必要に応じて絶縁皮膜(図示しない)が設けられていてもよい。絶縁皮膜の種類と厚さは特に限定されないが、はんだ付け時に良好に分解するものが好ましく、例えば熱硬化性ポリウレタン皮膜等を好ましく用いることができる。なお、AWG(American Wire Gauge)は、導体の寸法規格として公知の記号であり、B&S(Brown and Sharp)Gaugeとも呼ばれているものである。
【0027】
(誘電体層)
誘電体層2は、図1図3に示すように、内部導体1の外周に設けられており、長手方向Yに連続する空隙部2Aを有している。空隙部2Aは、誘電体層2の中に連続して設けられているが、その形態は、丸形でも矩形でもよく特に限定されない。特に、内環状部2B、外環状部2C及びこれらを連結する連結部2Dで構成された中空構造体2(誘電体層と同じ符号2を用いることがある。)は、空隙部2Aが内環状部2B、外環状部2C及び連結部2Dで囲まれた断面形態になっており、側圧強度に優れるので好ましい。こうした中空構造体2は、同軸ケーブル10及び同軸フラットケーブル20の製造時や同軸フラットケーブル20の配線作業時等に潰れにくく、高周波特性を安定なものとすることができる。なお、中空構造体2は、押出ダイを走行する内部導体1の外周に、例えばPFA樹脂を押出しして成形することができる。なお、PFAは、テトラフルオロエチレンとペルフルオロエーテルの共重合体である。内環状部2B、外環状部2C及び連結部2Dのそれぞれの厚さは特に限定されないが、例えば0.01mm〜0.05mm程度の範囲内であり、形成された中空構造体2(誘電体層2)の外径は、例えば0.4mm〜1.0mm程度の範囲内である。
【0028】
誘電体層2は、例えばPFA(誘電率ε:2.1)等のフッ素系樹脂で形成されていることが好ましい。フッ素系樹脂は、ポリエチレン(誘電率ε:2.2〜2.6)等のポリオレフィン樹脂よりも誘電率が小さいので、高周波伝送特性をさらに向上させることができる。さらに、上記した中空構造体2の空隙率に応じて、誘電率を小さくすることができ、一例として、中空構造体2の外径を例えば0.58mmとし、空隙部2Aの割合(空隙率という。)を35%とした場合の誘電率εは1.5〜1.65程度と小さくすることが可能になる。なお、空隙部2Aの空隙率は、誘電体層全体(中空構造体全体)の面積に対し、20%〜60%の範囲内であることが好ましい。
【0029】
こうした誘電体層2では、誘電率を下げることができる空隙部2Aを有し且つ側圧強度を高めて潰れを抑制できる中空構造体を採用することが好ましく、さらにヒートシール等の加熱圧迫に耐えられるフッ素系樹脂を選択することが好ましい。こうした構造の誘電体層2は誘電率を下げることができるので、同軸ケーブル10の外径を大きくすることなく内部導体1の外径を増すことができ、内部導体1の実効断面積を増して高周波抵抗(交流抵抗)の増大を抑制することができる。さらに、長手方向Yに連続する空隙部2Aを有する誘電体層2は、長手方向Yに連続しない発泡層からなる誘電体層に比べて製造時(例えばヒートシール等の加圧時等)や配線作業時等に潰れにくく、内部導体1と外部導体3との距離が変化しないので、特性インピーダンスが安定して高周波特性を安定なものとすることができる。
【0030】
(外部導体)
外部導体3は、誘電体層2の外周に設けられており、細線を編組としたものや横巻きしたものであってもよいし、金属層付絶縁テープ(例えば銅層付きのポリエチレンテレフタレートフィルム等)であってもよいし、それらの両方を組み合わせたものであってもよい。図2の例では、誘電体層2の外周に細線横巻3Aを設け、さらにそれを覆うように金属層付き絶縁テープ3Bを設けているが、こうした構成に限定されない。外部導体3の厚さは特に限定されないが、例えば0.01mm〜0.15mm程度の範囲内である。
【0031】
(絶縁層)
絶縁層4は、外部導体3の外周に設けられており、絶縁性があればその材質は特に限定されない。好ましくは、図2に例示するように、片面に接着剤層4Bを設けた絶縁テープ4Aを螺旋巻きして構成することができるが、この形態に限定されない。接着剤層4Bとしては、同軸ケーブル10に適用されている種々のものを使用することができ、例えばポリエステル系の熱可塑性接着性樹脂等を好ましく挙げることができ、絶縁テープ4Aとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム等のポリエステルフィルムを好ましく挙げることができる。特に、後述する固定テープ11との接着性の良い材料を選択することが好ましく、例えば固定テープ11を構成する接着剤層がポリエステル系熱可塑性接着剤層である場合は、絶縁層4もポリエステルフィルムであることが好ましい。
【0032】
接着剤層4Bの厚さは、例えば0.001mm〜0.005mm程度の範囲内であり、絶縁テープ4Aの厚さは、例えば0.004mm〜0.01mm程度の範囲内である。こうした絶縁層4を設けることにより、同軸ケーブル10の仕上がり外径を例えば0.4mm〜1.0mm程度に小さくすることができる。
【0033】
(同軸フラットケーブル)
同軸フラットケーブル20は、図1図3に示すように、一定の間隔Pで並列に配された複数本の同軸ケーブル10と、その同軸ケーブル10を片面又は両面から一体化する固定テープ11とを有するように構成されている。個々の同軸ケーブル10は、内部導体1の外径(例えば、0.1mm〜0.4mm)の2.5倍以上10倍以下の範囲内とすることが好ましい。この範囲内とすることにより、内部導体1を上記外径範囲で太くしても、個々の同軸ケーブル10の外径を上記範囲で制限することができる。その結果、所望のコネクタのピッチを超えてしまうことがなく、安定で優れた高周波特性を示す同軸フラットケーブル20を既存のコネクタを変更することなく利用することができる。なお、同軸ケーブル10については既に説明したとおりである。
【0034】
固定テープ11は、図1及び図3に示すように、複数本の同軸ケーブル10の少なくとも端末部21を片面又は両面から一体化するものである。図3(A)は同軸ケーブル10の両面を2枚の固定テープ11で挟んで一体化した形態であり、図3(B)は同軸ケーブル10の端末部21の両面を2枚の固定テープ11で挟んで一体化した形態である。このように、固定テープ11は、複数の同軸ケーブル10の長手方向Yの全てに貼り合わされていてもよいし、長手方向の両側の端末部21のみに貼り合わされていてもよい。固定テープ11を例えば両側の端末部21のみに貼り合わせることで、両側の端末部以外の中間部22を非一体部分として変形させることができ、電子機器内の配線時における自由度を向上させることができる。なお、図3の例では2枚の固定テープ11で両面から挟んで貼り合わせて一体化しているが、1枚の固定テープ11を折り返して両面から挟んで貼り合わせて一体化したものであってもよいし、1枚の固定テープ11を片側だけに貼り合わせて一体化したものであってもよい。
【0035】
固定テープ11は、通常、基材11Aと、基材11Aの片面に設けられた接着剤層11Bとで構成されている。基材11Aは特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルムを好ましく用いることができる。剥きやすさの観点からは、1軸延伸したフィルムであることが好ましい。基材11Aの厚さは、0.025mm〜0.1mm程度の範囲内のものが任意に選択される。接着剤層11Bも特に限定されないが、貼り合わせ対象の絶縁層4に接着性よく貼り合わせることができる材質であることが望ましく、例えばポリエステル系熱可塑性接着性樹脂層等を好ましく挙げることができる。絶縁層4に接着しやすい材質とすることにより、固定テープ11を複数の同軸ケーブル10を挟むように貼り合わせる熱圧着工程において、熱と圧力条件を緩和することができ、同軸ケーブル10への負荷外力を少なくすることができ、その結果、空隙部2Aを有する誘電体層2の変形や潰れをより一層抑制することができるという利点がある。接着剤層の厚さは、0.02mm〜0.035mm程度の範囲内のものが任意に選択される。
【0036】
固定テープ11の合計厚さを例えば0.03mm〜0.1mm程度の十分に厚いものを用いることにより、ヒートシール工程等での熱接着時の熱影響を受けにくくすることができ、その結果、収縮が発生しにくくなり、安定した同軸ケーブル10のピッチを確保することができる。
【0037】
こうして得られた同軸フラットケーブル20は、同軸ケーブル10の外径を大きくすることなく内部導体1の外径を増すことができ、内部導体1の実効断面積を増して高周波抵抗(交流抵抗)の増大を抑制することができる。さらに、製造時(例えばヒートシール等の加圧時等)や配線作業時等に潰れにくく、内部導体1と外部導体3との距離が変化しないので、特性インピーダンスが安定して高周波特性を安定なものとすることができる。
【0038】
なお、同軸ケーブル10に要求される代表的な電気的特性は以下のようになる。
【0039】
伝搬遅延時間(Td)=√ε/0.3(nS/m)
相対伝送速度(V)=100/√ε(%)
特性インピーダンス(Zo)=60/√ε・LnD/d(Ω)
静電容量(C)=55.63ε/LnD/d(PF/m)
ただし、ε:絶縁体(誘電体層2)の比誘電率、D:絶縁体(誘電体層2)の外径(外部導体3の内径)、d:導体外径(内部導体1の外径)とする。
【0040】
このことから、同軸ケーブル10の伝送特性には、誘電体層2の比誘電率、内部導体1の外径及び誘電体層2の外径が関与し、比誘電率に関しては、その値が小さい程、伝送特性が向上し、内部導体1の外径及び誘電体層2の外径に関しては、その比率とバラツキが大きく関与することが理解できる。特に、特性インピーダンスと静電容量については、誘電体層2の比誘電率が小さく、且つそのバラツキが少ないことと、内部導体1の外径と誘電体層2の外径(外部導体3の内径)等のバラツキが少なく、且つそれらの形状がより真円円筒体状に形成されることが理想であることが理解できる。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
[実施例1]
図4に例示した同軸フラットケーブル20を作製した。内部導体1として、直径0.08mmの銀めっき軟銅線を7本撚りしたAWG32(外径約0.24mm)を用いた。誘電体層2は、中空構造体用ダイスニップルにて350℃でPFA樹脂(デュポン社製)を押出しして、空隙部2Aが内環状部2B、外環状部2C及び連結部2Dで囲まれた断面形態の中空構造体を形成した。この中空構造体において、内環状部2Bの厚さは0.05mm、外環状部2Cの厚さは0.05mm、連結部2Dの厚さは0.05mmであり、中空構造体(誘電体層2)の外径は0.60mmであり、空隙部2Aの空隙率は誘電体層全体(中空構造体全体)の面積に対して30%であった。誘電率εは約1.6であった。
【0043】
外部導体3は、直径0.05mmの錫めっき軟銅線38本を用い、横巻きシールド機を用いて12mmピッチで誘電体層2の外周に巻き付けて横巻の細線横巻3Aとした。さらに、厚さ0.008mmの銅層が形成された厚さ0.004mmのポリエチレンテレフタレートフィルム(金属層付き絶縁テープ3B)を幅2.5mmに切断し、テープ巻き機を用いて銅層を横巻の細線横巻3A側にして1/3.5ラップで巻き付けた。次に、厚さ0.001mmのポリエステル熱可塑性樹脂(接着剤層4B)が片面に設けられた厚さ0.004mmのポリエステルテープ(絶縁テープ4A)を幅3.0mmに切断し、テープ巻き機を用いて接着剤層4Bを外部導体側にして1/3ラップで巻き付けた。
【0044】
得られた同軸ケーブル10を16本準備し、1mmの一定間隔Pで並列に配した後、固定テープ11で両面から全面を貼り合わせて一体化した。固定テープ11は、厚さ0.035mmのポリエステル熱可塑性樹脂(接着剤層)が片面に設けられた厚さ0.060mmのポリエチレンテレフタレートフィルム基材を幅25mmに切断したものを用いた。
【0045】
[実施例2]
空隙率を55%にした他は、実施例1と同様にして同軸フラットケーブルを作製した。なお、空隙率55%の中空構造体は、内環状部2Bの厚さを0.03mmとし、外環状部2Cの厚さを0.03mmとし、連結部2Dの厚さを0.03mmとし、中空構造体(誘電体層2)の外径は実施例1と同じ0.60mmとしたものである。誘電率εは約1.39であった。
【0046】
[比較例1]
誘電体層2を微小な空気層を有する発泡層とした他は、実施例1と同様にして同軸フラットケーブルを作製した。なお、発泡層は、発泡剤入りポリエチレンコンパウンドを押出成形にて形成し、発泡層の空隙率は30%であり、誘電率εは約1.80であった。
【0047】
[比較例2]
誘電体層2を空隙部を有しない中実層とした他は、実施例1と同様にして同軸フラットケーブルを作製した。なお、中実層は、PFAを押出成形にて形成し、誘電率εは約2.05であった。
【0048】
[測定と結果]
(加工作業時や配線時の潰れの有無と高周波特性)
加工作業時には、同軸ケーブル10を固定テープ11でヒートシールする際の加熱(約170℃)と圧力(約0.2MPa)が加わるが、こうした加工作業が同軸ケーブル10の断面形態を変形させて伝搬遅延時間を変動させるか否かを調べた。
【0049】
同軸フラットケーブルの伝搬遅延時間の評価方法は、同軸フラットケーブルを一定長さ(例えば1m)に切断したものをサンプルとし、TDR法にて、測定機に接続したサンプルのインピーダンスと伝搬遅延時間を測定した。得られた伝搬遅延時間のばらつき(SKEW)から潰れ等の変形の有無を推測した。なお、測定機は、Tektronix DCA8200サンプリングオシロスコープ(TDRモジュール:80E04)を用いた。
【0050】
【表1】
【0051】
表1の結果に示すように、実施例1,2は特性インピーダンスが安定し、遅延時間差(SKEW)も小さかった。一方、比較例1は遅延時間がばらついており、SKEWも大きくなっていた。比較例2は特性インピーダンスの調整ができず、遅延時間も大きくなって高周波特性が悪化していた。
【0052】
以上の結果より、同軸フラットケーブル20は、内部導体径が大きく且つ仕上がり外径が小さく、安定した高周波特性を示すものであり、さらに、製造時(例えばヒートシール等の加熱圧迫時等)や配線作業時等に潰れにくく、内部導体1と外部導体3との距離の変化を抑制して、特性インピーダンスが安定して高周波特性を安定なものとすることができた。
【符号の説明】
【0053】
1 内部導体
2 誘電体層(中空構造体)
2A 空隙部
2B 内環状部
2C 外環状部
2D 連結部
3 外部導体
3A 細線横巻
3B 金属層付絶縁テープ
4 絶縁層
4A 絶縁テープ
4B 接着剤層
10 同軸ケーブル
11 固定テープ
11A 基材
11B 接着剤層
20 同軸フラットケーブル
21 端末部
22 中間部(端末部以外の部分)
P ピッチ(間隔)
Y 長手方向
図1
図2
図3
図4