(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項2に記載の積層型圧電素子において、n≧3であり、上下方向で分極パターン面同士が対面する二つの単層型圧電素子は、前記分極用信号電極が薄膜で形成されているとともに、当該二つの単層型圧電素子の一方の分極パターン面の表層に薄膜による前記A相信号電極と前記B相信号電極が形成されていることを特徴とする超音波モーター用積層型圧電素子。
請求項2〜4のいずれかに記載の積層型圧電素子において、前記側面電極は、銀ペーストを焼き付けてなる焼き付け銀であることを特徴とする超音波モーター用積層型圧電素子。
請求項7に記載の超音波モーターにおいて、前記積層型圧電素子と前記ステーターとが導電性を有するフィラーが添加された接着剤によって接着されていることを特徴とする超音波モーター。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、積層型圧電素子を用いた超音波モーターは、低電圧での駆動が可能となる。ところで、積層型圧電素子の各層を構成する単層型圧電素子は、表裏の一方の面に進行波を発生するための駆動信号が印加される信号電極が形成され、他方の面に接地電極が形成されている。ここで、単層型圧電素子の法線方向を上下方向とすると、1層分の圧電体を上下方向に複数層分積層させてなる積層型圧電素子では、複数の単層型圧電素子のそれぞれに形成されている信号電極同士、および接地電極同士を上下方向で接続することになる。積層型圧電素子の内層側にある電極については、外部回路に直接接続することができないことから、積層圧電素子の表層まで何らかの配線を形成する必要がある。従来の積層型圧電素子では、各単層型圧電素子の接地電極や信号電極が、圧電体の表面の周縁まで形成されているとともに、平板状の圧電体の端面に金属ペースト(銀ペーストなど)が塗布されている。例えば、特許文献1に記載の振動波モーターでは、積層型圧電素子に相当する電気機械変換素子積層体は、単層型圧電素子に相当する単層電気機械変換素子が三層分積層されてなる。各単層電気機械変換素子は、表裏一方の面に、接地電極に相当する円環状の共通電極パターンが形成され、他方の面には信号電極に相当する扇状の駆動信号印加電極パターンが円環に沿って複数形成されている。そして、電気機械変換素子積層体は、下面にステーターが接触し、その下面には共通電極パターンが形成され、上面に向かって、順次駆動信号印加電極パターン、共通電極パターン、駆動信号印加電極パターンが配置されることになる。そして、各単層電気機械変換素子のそれぞれに形成されている同種の電極パターン同士が端面に塗布された金属ペーストを介して上下方向で接続されている。
【0007】
しかし、特許文献1に記載の振動波モーターでは、粘性を有する金属ペーストが互いに積層されている単層電気機械変換素子の層間を跨ぐように塗布されている。そのため、例えば、積層方向で駆動信号印加電極パターン同士を接続する金属ペーストが単層電気機械変換素子の層間に入り込んだ際、共通電極パターンに位置ずれがあると、その金属ペーストが共通電極パターンと接触し、駆動信号印加電極パターンと共通電極パターンが短絡する可能性がある。また、共通電極パターンに位置ずれがなくても、金属ペーストが層間に深く入り込めば、やはり短絡が発生する可能性がある。駆動信号印加電極パターンと共通電極パターンが短絡していなくても、金属ペーストが層間に入り込めば、電気機械変換素子積層体を大きな振幅で振動させるために高い電圧を印加した際、駆動信号印加電極パターンと共通電極パターンの一方に接続された金属ペーストと、他方の電極パターンとの間で放電を起こす可能性がある。放電が発生すれば、その放電時の熱で、層間の接着剤や電極パターンが溶けるなどして、電気機械変換素子積層体が破損する可能性がある。
【0008】
そこで本発明は、信号電極と接地電極との短絡や放電が発生し難い積層型圧電素子と、その積層型圧電素子を用いた超音波モーターとを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、下方に超音波モーターのステーターが接触した状態で配置される積層型圧電素子であって、
nを2以上の整数として、平板状の一つの圧電体からなる1層分の単層型圧電素子が、上下方向にn層分積層されてなり、
前記単層型圧電素子には、前記圧電体に、位相が互いに90゜ずれたA相とB相のそれぞれの駆動信号が上下方向に印加されるA相領域とB相領域が、所定の外径と内径とを有する円環に沿って円弧状に配置され、
上下方向と直交する一方向を前後方向とし、上下方向と前後方向とに直交する方向を左右方向として、
前記A相領域と前記B相領域は、前記円環の表面を二等分する前後方向の直線に対して左右対称となるように、中心角θ1の領域に分割して配置され、
前記A相領域と前記B相領域には、前記円環に沿って所定の中心角θ2で区切られた扇状の複数の分極領域が配置され、
前記分極領域の分極極性は、前記前後方向の直線に対して左右対称であるとともに、前記A相領域と前記B相領域では、隣接する分極領域の分極極性が互いに逆方向であり、
各層の前記単層型圧電素子は、上方から見たときに、同じ位置に同じ分極極性の分極領域が配置され、
前記単層型圧電素子の表裏一方の面は、前記A相領域と前記B相領域が接地される接地面であり、他方の面は前記A相領域と前記B相領域に、それぞれ、A相信号とB相信号が印加される駆動面であり、
最下層の前記単層型圧電素子を第1層とし、最上層の前記単層型圧電素子を第n層としし、kを自然数として、
第2k−1層の上面と第2k層の下面は前記駆動面であり、第2k層の上面と第2k+1層の下面は前記接地面であり、
上下方向で駆動面同士が対面する二つの単層型圧電素子の一方の駆動面、およびn=2kであるときの第n層の上面には、前記A相領域を包含しつつ前記円環に沿う円弧状のA相信号電極と、前記B相領域を包含しつつ前記円環に沿う円弧状のB相信号電極とが形成され、
上下方向で接地面同士が対面する二つの単層型圧電素子の一方の接地面、およびn=2k+1であるときの第n層の上面には、前記A相領域と前記B相領域を隔てる前後一方の間隙を残して前記円環に沿って円弧状に連続するC字状の接地電極が形成され、
n≧3である場合、上下方向で駆動面同士が対面する二つの単層型圧電素子の一方の駆動面、およびn=2k+1であるときの第n層の上面と第1層の下面のいずれかには、前記A相領域と前記B相領域とを隔てる前後他方の間隙に扇状の接地用端子電極が形成され、
第1層以外の各層には、接地面の前記A相領域と前記B相領域とを隔てる前後一方の間隙にA相端子電極とB相端子電極とが形成されているとともに、A相端子電極とB相端子電極と駆動面の前記A相端子電極と前記B相端子電極のそれぞれに対向する位置に形成された電極とを端面接続させるA相側面電極とB相側面電極とが形成され、
n=2kであるときの第n層のA相信号電極とB相信号電極のそれぞれ、あるいはn=2k+1であるときの第n相のA相端子電極とB相端子電極のそれぞれと、第1層〜第n−1層の駆動面のA相領域とB相領域のそれぞれに形成されている電極とが、A相側面電極とB相側面電極とを介して接続され、
n≧3である場合、駆動面に前記接地用端子電極が形成されている単層型圧電素子には、当該接地用端子電極と、接地面において前記A相領域と前記B相領域とを隔てる前後他方の間隙に形成されている電極とを端面接続させる接地用側面電極が形成されているとともに、各層の接地面において前記A相領域と前記B相領域とを隔てる前後他方の領域に形成されている電極とが接地用端子を介して接続されている、
ことを特徴とする超音波モーター用積層型圧電素子としている。
【0010】
また、表裏一方の面が、前記複数の分極領域のそれぞれの表面に分極用信号電極が形成された分極パターン面であり、表裏他方の面が、A相領域を包含しつつ前記円環に沿う円弧状のA相用の分極用接地電極と、前記B相領域を包含しつつ前記円環に沿う円弧状のB相用の分極用接地電極とが形成された分極接地面であり、
前記A相の信号電極と前記B相の信号電極は、前記分極接地面に形成された前記A相用の分極用接地電極と前記B相用の分極用接地電極であり、
前記接地電極は、前記分極駆動面に形成された前記分極用信号電極が導電体により前記C字状に接続されてなる、
超音波モーター用積層型圧電素子としてもよい。
【0011】
さらに、n≧3であり、上下方向で分極パターン面同士が対面する二つの単層型圧電素子は、前記分極用信号電極が薄膜で形成されているとともに、当該二つの単層型圧電素子の一方の分極パターン面の表層に薄膜による前記A相信号電極と前記B相信号電極が形成されている超音波モーター用積層型圧電素子とすることもできる。
【0012】
あるいは、n≧3であり、
第1の単層型圧電素子と第2の単層型圧電素子とを備え、
前記第1の単層型圧電素子は、表裏一方の面が、前記複数の分極領域のそれぞれの表面に分極用信号電極が形成された分極パターン面で、表裏他方の面が、A相領域を包含しつつ前記円環に沿う円弧状のA相用の分極用接地電極と、前記B相領域を包含しつつ前記円環に沿う円弧状のB相用の分極用接地電極とが形成された分極接地面であり、
第2の単層型圧電素子は、表裏一方の面が、前記複数の分極領域のそれぞれの表面に分極用信号電極が形成された分極パターン面で、表裏他方の面が、前記A相領域と前記B相領域を隔てる前後一方の間隙を残して前記円環に沿って円弧状に連続するC字状の分極用接地電極が形成された分極接地面であり、
第1層は、前記第1の単層型圧電素子であり、
k≧2である場合、第2k−1層は、前記第2の単層型圧電素子であり、第2k層は、前記第1の単層型圧電素子であり、
第n層の上面である最上面が前記接地面である場合、当該最上面の当該前記分極用信号電極が導電体で接続されて前記C字状の接地電極に形成され、
前記最上面が前記駆動面である場合、当該最上面の所定の前記分極用信号電極が導電体で接続されて、前記A相信号電極と前記B相信号電極に形成されている、
超音波モーター用積層型圧電素子とすることもできる。
【0013】
なお、分極用信号電極と分極用接地電極を備えた積層型圧電素子は、前記側面電極が銀ペーストを焼き付けてなる焼き付け銀であればより好ましい。
【0014】
上記いずれかに記載の積層型圧電素子において、
層間にフレキシブル配線基板が配置され、
二つの前記単層型圧電素子同士が前記駆動面で対面している層間では、前記フレキシブル配線基板の表裏両面に、前記A相領域と前記B相領域のそれぞれに対面するように二つの円弧状の配線パターンが形成されているとともに、それぞれの円弧状の配線パターンが層間の外方に導出され、
二つの前記単層型圧電素子同士が前記接地面で対面している層間では、前記フレキシブル配線基板の表裏両面に、前記A相領域と前記B相領域を隔てる後方の間隙が開放するC字状の配線パターンが形成されているとともに、当該配線パターンの一部が層間の外方に導出され、
前記フレキシブル配線基板の表面と裏面に形成されている、二つの前記円弧状の配線パターン同士、および前記C字状の配線パターンが配線部材により接続されている、
超音波モーター用積層型圧電素子とすることもできる。
【0015】
本発明の範囲には、上記いずれかに記載の積層型圧電素子の下面にステーターが接着されてなる超音波モーターも含まれている。そして、前記超音波モーターにおいて、前記積層型圧電素子と前記ステーターとが導電性を有するフィラーが添加された接着剤によって接着されていればより好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、信号電極と接地電極との短絡や放電が発生し難い超音波モーター用積層型圧電素子と、その積層型圧電素子を用いた超音波モーターとが提供される。なお、その他の効果については、以下の記載で明らかにする。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施例について、以下に添付図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明に用いた図面において、同一又は類似の部分に同一の符号を付して重複する説明を省略することがある。図面によっては説明に際して不要な符号を省略することもある。
【0019】
===単層型圧電素子の分極状態===
<分極領域>
本発明の実施例に係る積層型圧電素子は、複数の平板状の単層型圧電素子が積層されてなる。単層型圧電素子では、平板状の圧電体に扇状の複数の分極領域が円環状に配置されている。積層型圧電素子における単層型圧電素子の積層方向を上下方向とすると、上下一方から見ると、一つの積層型圧電素子を構成する全ての単層型圧電素子が同じ分極状態となっている。
図1に、単層型圧電素子10の分極状態の一例を示した。単層型圧電素子10は、所定のサイズ(例えば、外形62mm、内径42mm、厚さ0.1mm)の円環状の圧電体11からなり、その圧電体11に互いに位相が90゜ずれたA相の駆動信号とB相の駆動信号が、中心角θ1の円弧状のA相領域12aとB相領域12bとに印加される。A相領域12aとB相領域12bは、円環を二等分する直線100、すなわち、円環の直径を含む所定の直線100に対して線対称となるように配置されている。A相領域12aとB相領域12bには、それぞれ中心角がθ2の扇状の分極領域13が複数形成されている。図中では、各分極領域13が網点のパターンによって示されている。なお、以下では、上記所定の直線100の延長方向を前後方向とし、平板状の圧電体11の法線方向(図中、紙面奥行き方向)を上下方向とする。そして、上下方向と前後方向とに直交する方向を左右方向とする。したがって、圧電体11の表裏の面は、前後方向と左右方向とを含む平面となる。
【0020】
図1に示した単層型圧電素子10は、A相とB相の各領域(12a、12b)のそれぞれが10箇所の分極領域13に区分されている。ここで、平板状の圧電体11の表裏両面に対する法線方向を上下方向とすると、各分極領域13は、上下方向に分極している。また、A相とB相の各領域(12a、12b)では、隣接する分極領域(13、13)の分極極性の方向が逆方向となっている。なお、
図1では、上下一方から上下他方に向かう分極方向の極性を「+」、その逆方向を「−」としている。さらに、例えば、A相領域12aに属するとともに分極極性が+となる分極領域13であれば、この領域を「A+」と標記している。すなわち単層型圧電素子10には、「A+」「A−」「B+」「B−」の4種類の分極領域13が存在することになる。なお、
図1に示した単層型圧電素子10のA相領域12aとB相領域12bは、前後方向に対して線対称であるものの、左右方向に対しては線対称ではなく、円環上に配置されたA相領域12aとB相領域12bとを隔てる間隙(101、102)の中心角の大きさに差がある。
【0021】
図1に示した分極状態を得るためには、圧電体11の各分極領域13に上下方向の電界を印加すればよい。なお、分極処理の手順は、従来の積層型圧電素子における単層型圧電素子と同様である。しかし、本発明の実施例に係る積層型圧電素子では、単層型圧電素子10に分極領域を形成する際に使用される電極の構造と、積層型圧電素子においてA相領域12aとB相領域12bのそれぞれにA相の駆動信号(以下、A相信号とも言う)とB相の駆動信号(以下、B相信号とも言う)を印加するための電極の構造とが従来の積層型圧電素子とは異なっている。以下では、まず、
図1に示した分極状態を得るために形成した電極の構造について説明し、その上で、積層型圧電素子を駆動するための各種電極の形状や、電極間の接続構造などについて説明する。
【0022】
<分極処理用の電極>
図2は、単層型圧電素子10に形成されている分極領域13を形成するための分極処理に際して使用される電極の構造の一例を示す図である。
図2(A)と
図2(B)は、それぞれ、分極処理時に単層型圧電素子10の表裏一方の面と表裏他方の面とに形成される電極(14〜16)の構造の一例を示す図である。なお、
図2(A)と
図2(B)では、単層型圧電素子10に形成されている電極(14〜16)を用途ごとに異なるハッチングで示した。
【0023】
図2(A)に示したように、圧電体11の表裏一方の面111において、前後方向の直線100に対して左右対称に配置された中心角θ1の円弧状のA相領域12aとB相領域12bのそれぞれには、中心角θ2の電極(以下、分極用信号電極14とも言う)が10個ずつ形成されている。また、A相領域12aとB相領域12bとを隔てる間隙(101、102)には、中心角θ3の扇状の電極(以下、端子電極15とも言う)も形成されている。
【0024】
A相領域12aとB相領域12bは、左右対称であるものの、前後対称ではなく、円環上に配置されたA相領域12aとB相領域12bとを隔てる間隙(101、102)の幅に差があり、図示した例では、前後一方の間隙101は、中心角θ3の端子電極15が一つだけ配置され、前後他方の間隙102には、端子電極15が三つ配置されている。ここで、単層型圧電素子10において、分極処理時に分極用信号電極14が形成される面を分極パターン面111と称することとする。そして、以下では、図中に示したように、圧電体11の分極パターン面111におけるA相領域12aとB相領域12bとを隔てる間隙(101、102)について、幅が狭い方を前方として前後方向を規定することとし、左と右の各方向については、図中に示したように後方から前方を見たときの状態で規定することとする。
【0025】
図2(B)に示したように、圧電体11の表裏他方の面112には、A相領域12aとB相領域12bのそれぞれを包含しつつ、前後方向に対して左右対称に形成された二つの円弧状の電極(以下、分極用接地電極16とも言う)が形成されている。すなわち、上下方向から見ると、分極パターン面111の後方の間隙102に配置された三つの端子電極15のうち、左右の二つの端子電極15が、分極用接地電極16の後端側の領域と重複している。なお、以下では、分極用接地電極16が形成された面を分極接地面112と称することとする。
【0026】
このように、単層型圧電素子10には、分極処理の実行時点では、分極用信号電極14、分極用接地電極16、および端子電極15の3種類の電極が形成されていることになる。そして、分極処理に際しては、分極用信号電極14と分極用接地電極16とを用いる。分極処理は、例えば、
図2に示した電極構造を有する圧電体11をシリコンオイルに浸漬しつつ、分極用接地電極16を接地するとともに、分極用接地電極16と個々の分極用信号電極14との間に各分極領域13の分極極性に応じた方向の強電界を印加することで行われる。
【0027】
===第1の実施例===
本発明の第1の実施例として、2層分の単層型圧電素子を上下方向に積層させてなる積層型圧電素子を挙げる。そして、以下では、積層型圧電素子を用いて超音波モーターを形成する際、ステーターに接触させる側の面を下面として、上方と下方を規定することとする。
【0028】
<積層型圧電素子の概略>
第1の実施例に係る積層型圧電素子では、分極処理に際して用いた電極と、進行波を発生させるために駆動信号を印加する電極とが異なる構造を有している。
図3は、第1の実施例に係る積層型圧電素子1aを上後方から見たときの斜視図である。積層型圧電素子1aは、上下方向に二つの単層型圧電素子(10u、10d)が積層されてなる。上述したように、この積層型圧電素子1aの下面にステーターを接触させることになる。周知のごとく、金属製のステーターは、それ自体が接地される。それによって、ステーターと接する積層型圧電素子1aの下面も接地されることになる。
【0029】
積層型圧電素子1aの上面には、円環の一部が開放するC字状の電極(以下、接地電極21とも言う)が形成されている。この接地電極21は、
図2に示した分極用信号電極14や分極用接地電極16とは異なる形状を有する。そして、接地電極21は、
図1に示したA相領域12aとB相領域12bの双方を包含する領域に形成されている。また、C字状の接地電極21によって円環が開放する領域には分極処理時に用いた三つの端子電極15が残存している。接地電極21は、外部配線を介してステーターに接続されるなどして接地され、所定の端子電極22には、印刷配線基板(FPC)などの外部からの配線が接続されて、当該配線を介して外部回路から駆動信号が供給される。また、上側圧電素子10uの端面において、外部からの配線が接続される所定の端子電極22に対応する位置には、圧電体11の表裏に跨がる側面電極23が形成されている。
【0030】
<積層型圧電素子の電極構造>
第1の実施例に係る積層型圧電素子は、側面電極(
図3、符号23)を有しながら、個々の単層型圧電素子に形成されている電極の形状や配置、一つの単層型圧電素子における表裏間での電極の接続構造、および複数の単層型圧電素子同士の層間での電極の接続構造などに特徴を有している。そして、その特徴により、短絡や放電を確実に防止できるものとなっている。
【0031】
図4は、第1の実施例に係る積層型圧電素子1aの電極構造を示す図である。
図4では、電極のみが示されており、積層型圧電素子1aを上後方から見たときの各単層型圧電素子(10a、10b)の上面と下面のそれぞれに形成されている電極の形状と配置が示されている。すなわち、単層型圧電素子(10a、10b)の下面の電極については、上方に透過させた状態で示している。
【0032】
第1の実施例に係る積層型圧電素子1aにおいて、上方と下方の単層型圧電素子(10a、10b)が対面する層間では、分極処理時に形成される電極の形状が、互いに前後と左右の各方向を含む面に対して面対称となる関係になっている。そして、上方の単層型圧電素子(以下、上側圧電素子10uとも言う)の上面211は、分極処理時においては分極パターン面111となっていた。すなわち、分極処理時には、上側圧電素子10uの下面212は分極接地面112となっていた。
【0033】
しかし、先に
図3に示したように、上側圧電素子10uの上面211にはC字状の接地電極21が形成されている。第1の実施例に係る積層型圧電素子1aでは、上側圧電素子10uの上面211に導電性ペースト(例えば、ドータイト(登録商標:藤倉化成株式会社))などを塗布し、分極用信号電極同士(14、14)が接続されて、A相領域12aとB相領域12bを一括して包含するC字状の接地電極21が形成されている。すなわち、分極処理時には、中心角θ2の分極用信号電極14が形成されていた分極パターン面111に接地電極21が形成されている。
【0034】
上側圧電素子10uの下面212には、分極処理時に接地していた二つの円弧状の分極用接地電極16が形成されている。積層型圧電素子1aでは、この二つの分極用接地電極16を、A相信号が印加される電極(以下、A相信号電極24aとも言う)とB相信号が印加される電極(以下、B相信号電極24bとも言う)として使用している。また、上面211の後方に形成されている三つの端子電極15のうち、A相領域12aに隣接する左側の端子電極(以下、A相端子電極22aとも言う)とB相領域に隣接する右側の端子電極(以下、B相端子電極と22bも言う)が、それぞれ、側面電極23を介して下面212のA相端子電極22aとB相端子電極22bとに接続されている。なお、以下では、必要に応じ、A相端子電極22aに接続される側面電極23をA相側面電極23aと称し、B相側面電極23bと称することとする。
【0035】
下側圧電素子10dは、上面213が分極接地面112であり、下面214が分極パターン面111である。また、下側圧電素子10dの上面213と下面214には、分極処理で用いた電極(16、14)がそのまま残存している。そして、以上の電極構造を有する積層型圧電素子1aでは、上側圧電素子10uのA相信号電極24aとB相信号電極24bが、それぞれ、A相側面電極23aとB相側面電極23bを介してA相端子電極22aとB相端子電極22bとに接続されている。
【0036】
さらに、上側圧電素子10uの下面212と下側圧電素子10dの上面213が、例えば、エポキシ系接着剤などによって接着されている。そのため、下側圧電素子10dの上面213に形成されている左方と右方の分極用接地電極16は、それぞれ、上側圧電素子10uの下面212に形成されている円弧状のA相信号電極24aとB相信号電極24bに接触する。それによって、下側圧電素子10dの上面213に形成されている左方と右方の分極用接地電極16が、それぞれ、A相信号電極24aとB相信号電極24bとなる。また、下側圧電素子10dの下面214に形成されている扇状の分極用信号電極14は、下側圧電素子10dの下面214に接触するステーターを介して接地される。
【0037】
なお、
図4に示した積層型圧電素子1aでは、上側圧電素子10uと下側圧電素子10dの上面(211、213)と下面(212、214)における前方の端子電極同士(22g、22g)が側面電極23gによって接続されている。この側面電極23gは、上側圧電素子10uの上面211の接地電極21と、下側圧電素子10dの下面214の分極用信号電極14を確実に接地させるための電極であり、下側圧電素子10dの下面214がステーターに接触して前方の端子電極(以下、接地端子電極22gとも言う)が接地されることで、上側圧電素子10uと下側圧電素子10dのそれぞれにおける前方の側面電極(以下、接地側面電極23gとも言う)を介して上側圧電素子10uの上面211から下側圧電素子10dの下面214までの接地経路が形成される。
【0038】
以上の電極構造を有する第1の実施例に係る積層型圧電素子1aでは、側面電極23が上側圧電素子10uと下側圧電素子10dの層間を跨ぐことがない。そのため、側面電極23を金属ペーストで形成したとしても、層間に入り込む可能性が少なく、短絡や放電が発生し難くなる。さらに、側面電極23は、上側圧電素子10uにのみ形成すればよいことから、金属ペーストのような流動性がない焼き付け銀で形成することができる。側面電極23を焼き付け銀で形成すれば、確実に短絡や放電を防止することができる。また、焼き付け銀は、金属ペーストよりも低抵抗であることから、側面電極23を焼き付け銀で形成すれば、信号電極を介して印加される駆動信号の電圧降下を低減させることができ、積層型圧電素子1aをより低電圧で駆動することが可能となる。
【0039】
なお、圧電体11の分極領域13は、熱によって分極状態が崩れてしまうことから、焼き付け銀による側面電極23は、分極処理よりも前に形成しておく必要がある。そして、従来の積層型圧電素子では、層間を跨ぐように側面電極が形成されていることから、必然的に分極処理後に側面電極を形成する必要があった。すなわち従来の積層型圧電素子では、側面電極を焼き付け銀で形成することができなかった。一方、第1の実施例に係る積層型圧電素子1aでは、側面電極23が層間を跨がない構造であり、焼き付け銀からなる側面電極23を、分極用信号電極14や分極用接地電極16と同時に形成することができる。また、側面電極23を、分極用信号電極14や分極用接地電極16と同時に形成すれば、金属ペーストを塗布して側面電極を形成する工程が不要になるため、積層型圧電素子1aの製造コストを低減させることができる。
【0040】
===第2の実施例===
上記第1の実施例に係る積層型圧電素子1aは、二つの単層型圧電素子(10a、10b)を積層した2層型であった。そして、第1の実施例に係る積層型圧電素子1aは、層間を跨がない側面電極23を用いながら、層間に形成されているA相とB相の信号電極(22a、22b)に駆動信号を印加することができる基本構造を備えていた。そして、この基本構造は、3層以上の積層型圧電素子にも適用することができる。そこで、第2の実施例として、3層型の積層型圧電素子を挙げる。
【0041】
図5は、第2の実施例に係る積層型圧電素子1bを上後方から見たときの電極構造を示している。なお、
図5では、
図4と同様に、各単層型圧電素子(10u、10m、10d)の圧電体を省略し、各単層型圧電素子(10u、10m、10d)の下面(212、216、214)の電極を上方へ透過させた状態で示している。なお、以下では、積層型圧電素子1bを構成する3層分の単層型圧電素子(10u、10m、10d)について、最下層の単層型圧電素子10dを第1層10dと言うこともある。そして、第1層10dから順次上方に向かって、第2層10m、第3層10uと言うこともある。また、各層(10u、10m、10d)の表裏の面について、電極の形状を問わず、A相領域12aとB相領域12bの表面が接地される面を接地面200gと称し、A相領域12aおよびB相領域12bの表面にA相およびB相の駆動信号が印加される面を駆動面200sと称することとする。
【0042】
第2の実施例に係る積層型圧電素子1bにおいても、最下層の第1層10dの下面214にステーターが配置される。また、
図5に示したように、第2の実施例に係る積層型圧電素子1bは、第1層10dの下面214の接地面200gから第3層10uの上面211の駆動面200sまで、上方に向かって、各層の層間(10d−10m、10m−10u)で互いに対面する面が駆動面200s、接地面200gの順となっている。そして、第2の実施例に係る積層型圧電素子1bは、第1層10dと第2層10mの電極の形成状態が、第1の実施例に係る積層型圧電素子1aと同様であり、第3層10uの単層型圧電素子の電極形状が第1層10dや第2層10mのいずれとも異なっている。
【0043】
第3層10uは、分極処理に際しては、下面212が分極パターン面111であり、上面211が分極接地面112である。そして、積層型圧電素子1bの状態では、下面212が接地面200gで上面211が駆動面200sとなる。第3層10uは、上面211の円弧状の二つの分極用接地電極16が、それぞれA相とB相の信号電極(24a、24b)として使用される。また、下面212のA相領域12aとB相領域12bには、分極用信号電極14が形成され、A相領域12aとB相領域12bとを区切る前方および後方の間隙(101、102)のそれぞれには一つの端子電極15および三つの端子電極15が形成されている。そして、後方の間隙102に形成されている三つの端子電極15のうち、左方と右方の端子電極(22a、22b)が、それぞれA相端子電極22aとB相端子電極22bとなっている。また、A相端子電極22aとB相端子電極22bは、それぞれ、A相側面電極23aとB相側面電極23bとを介してA相信号電極24aとB相信号電極24bとに接続されている。さらに、上面211と下面212の前方の一つの接地端子電極同士(22g、22g)が接地側面電極23gを介して接続されている。
【0044】
第2の実施例に係る積層型圧電素子1bでは、以上の構成により、第3層10uの上面211に形成されているA相信号電極24aとB相信号電極24bに、それぞれA相信号とB相信号が印加されると、そのA相とB相の駆動信号が、第3層10uのA相側面電極23aとB相側面電極23b、第3層の下面212のA相端子電極22aとB相端子電極22bを介して第2層10mの上面215のA相端子電極22aとB相端子電極22bに印加される。
【0045】
また、第3層10uの上面211の前方の接地端子電極22gと接地側面電極23gにより、第2層10mの接地電極21が接地されている。第3層の前方の接地端子電極22gが接地されることで、第3層10uの前方の接地側面電極23gを介して第3層10uの下面212の接地端子電極22gも接地される。そして、その第3層10uの下面212の接地端子電極22gが第2層10mの上面215の接地電極21に接触している。第2層10mと第1層10dについては、第1の実施例における上側圧電素子10uと下側圧電素子10dと同様の電極構造や導通経路によって、第2層10mの下面216と第1層10dの上面213が駆動面200sとなり、第1層10dの下面214が接地面200gとなる。なお、第2層10mの上面215に形成されている接地電極21は、第3層10uの下面212に形成されていてもよい。いずれにしても、上下方向で電極パターン面同士(111、111)が対面する層間では、上下いずれかの単層型圧電素子(10u、10m)に接地電極21を形成すればよい。
【0046】
ところで、複数の単層型圧電素子同士を接着して積層型圧電素子を作製する際には、普通、層間の接着剤の厚さを可能な限り薄くするために、積層させた複数の単層型圧電素子を圧着して層間の接着剤を外方に押し出している。そして、第2の実施例に係る積層型圧電素子1bでは、第2層10mの上面215と第3層10uの下面212に分極用信号電極14が形成されている。そのため、分極用信号電極14を厚膜である焼き付け銀などで形成すると、第2層10mと第3層の層間には、円環に沿う複数の厚い凹凸によって、上下方向に大きな高低差を有する間隙が円環状に断続的に並ぶことになる。そのため、圧着時に第2層10mと第3層10dが凹凸に沿って撓み、第2層10mや第3層10uを含め、積層型圧電素子1bを構成するいずれかの単層型圧電素子(10u、10m、10d)が破損する可能性がある。あるいは、圧着条件を厳密に管理する必要が生じ、製造コストを増大させる可能性がある。そこで、分極パターン面111が対面し合う構造を有する第2の実施例に係る積層型圧電素子1bでは、少なくとも分極パターン面111の電極(14、15)、さらには、その電極(14、15)の表層に形成する接地電極21を、スパッタリングなどを用いて形成される薄膜電極にすることが望ましい。
【0047】
<変形例>
3層分の単層型圧電素子(10u、10m、10d)を用いた第2の実施例に係る積層型圧電素子1bには、種々の変形例が考えられる。例えば、
図6に示した積層型圧電素子1cでは、
図5に示した積層型圧電素子1bに対し、第2層10mの上面215に接地電極21が形成されておらず、さらに、第3層10uは、分極処理時では上面211が分極パターン面111であり、下面212が分極接地面112である。そして、第3層10uの下面212の分極接地面112には、
図3〜
図5に示した円弧状の二つの分極用接地電極16に代え、A相領域12aとB相領域12bの双方を包含しつつ、円環の後方が開放するC字状の電極17が形成されている。すなわち、第3層10uの下面212には、
図5に示した積層型圧電素子1bの第2層10mの上面215に形成されていた接地電極21と同様の形状の分極用接地電極17が形成されている。また、第3層10uの上面211には、A相領域12aとB相領域12bのそれぞれに対応する分極用信号電極14が導電性ペーストなどによって接続されてなる円弧状の二つの電極(25a、25b)が形成されている。そして、第3層10uの上面211のA相領域12aに形成された円弧状の電極25aが、A相信号が印加されるA相信号電極25aとなり、B相領域12bに形成された円弧状の電極25bが、B相信号が印加されるB相信号電極25bとなる。なお、この
図6に示した積層型圧電素子1cでは、第2層10mの上面215と第3層10uの下面212の両方が分極パターン面111にならず、第3層10uの下面212が分極接地面112になっている。分極接地面112には、A相領域12aおよびB相領域12bを包含する円弧状の二つの分極用接地電極16が形成されていることから、層間に大きな高低差が生じず、分極用信号電極14や分極用接地電極16を薄膜で形成しなくても、圧着時に単層型圧電素子(10u、10m、10d)が破損し難くなる。また、第2層10mの上面215に接地電極21を追加で形成する必要がない。
【0048】
図7は、第2の実施例に係る積層型圧電素子1bのその他の変形例を示す図である。
図7に示した積層型圧電素子1dは、第1層10d、第2層10m、および第3層10uの上面(211、215、213)と下面(212、216、214)の電極の形状や構造は、第2の実施例に係る積層型圧電素子1bと同様である。しかし、第3層10uの上面211に接地端子電極22gがなく、第1層10dの上面213と下面214、および第2層10mの上面215と下面216の端子電極15を接地端子電極22gとしている。そして、第1層10dおよび第2層10mの上面(213および215)と下面(214、および216)の接地端子電極同士(22g、22g)が、接地側面電極23gを介して接続されている。
【0049】
いずれにしても、3層分以上の単層型圧電素子を備えた積層型圧電素子では、層間で対面する二つの単層型圧電素子の上面と下面が、下方から上方に向かって順次接地面、駆動面の順に配置されていればよい。そして、一つの側面電極が一つの単層型圧電素子の端面にのみ形成され、端子電極と側面電極とによって、層間の接地面や駆動面から外方への接地経路や駆動信号の導通経路が形成されていればよい。
【0050】
===超音波モーター===
本発明の実施例に係る超音波モーターは、上述した本発明の実施例に係る積層型圧電素子の下面にステーターが接着された構造を有する。積層型圧電素子とステーターとの層間には、接着剤が層状に介在している。接着剤の層(以下、接着層とも言う)は、厚さが過大であると、緩衝材として作用し、積層型圧電素子からステーターへの振動の伝達効率が低下する。また、接着層が誘電体層として作用して、接地電位が不安定になる可能性もある。しかし、ステーターと積層型圧電素子との接着強度を確保するためには、接着層にはある程度の厚さ(例えば、5μm〜10μm)が必要である。そこで、積層型圧電素子とステーターとの層間に、金属や炭素材料などの導電性のフィラーを混在させてもよい。
【0051】
フィラーは、強度や機能性向上等を目的として接着剤、樹脂、ゴム、塗料などに添加される粒子あるいは粉体であり、積層型圧電素子とステーターとの層間に接着剤よりも硬い導電性のフィラーを介在させれば、積層型圧電素子とステーターとの接着強度を確保した上で、積層型圧電素子とステーターとの間の振動の伝達効率や導電性が向上する。なお、フィラーの粒子径については、接着層の厚さに応じて適宜に設定すればよく、第1の実施例および第2の実施例に係る積層型圧電素子(10a、10b)では、厚さが5μm〜10μm程度であった。したがって、接着層に混在させるフィラーには粒径が5μm〜10μm程度のものを使用すればよい。
【0052】
===その他の実施例===
上記実施例に係る積層型圧電素子は、複数の単層型圧電素子が直接接触した状態で積層されていた。しかし、硬いセラミックスからなる単層型圧電素子同士を直接接触させ、かつ各単層型圧電素子を大きく振動させると、単層型圧電素子が破損する可能性がある。そこで、上下方向で単層型圧電素子が対面する層間にFPCを介在させてもよい。
図8に、層間にFPC30を介在させた積層型圧電素子1eを示した。
図8に示した積層型圧電素子1eは、第1の実施例の変形例であり、この
図8は、積層型圧電素子1eを上後方から見たときの各単層型圧電素子(10u、10d)とFPC30の電極構造を示している。
【0053】
FPC30の平面形状は、単層型圧電素子(10u、10d)の外形に沿う円環状で、上面31には、上側圧電素子10uの下面212に形成されているA相信号電極24aとB相信号電極24bとに対面するように銅箔などの導体からなる2本の配線(33a、33b)が円弧状に形成されている。また、下面32にも、上方から見て同じ形状の2本の配線(図示せず)が同じ位置に形成されている。そして、上面31に形成されている円弧状の2本の配線(33a、33b)のそれぞれが、スルーホールなどの導通部34を介して下面32の同じ位置に形成されている同形状の配線に接続されている。なお、FPC30に形成されている配線(33a、33b)は、導体が表面に露出しており、これらの配線(33a、33b)が、それぞれ、上側圧電素子10uの下面212および下側圧電素子10dの上面213のそれぞれに形成されているA相信号電極24aとB相信号電極24bとに金属ペーストなどによって接続されている。
【0054】
第1の実施例に係る積層型圧電素子1aでは、上側圧電素子10uの下面212に形成されているA相信号電極24aとB相信号電極24bとを介してA相とB相の駆動信号が下側圧電素子10dのA相領域12aとB相領域12bとに印加される。したがって、上方から見たときに同じ位置になる分極領域13の分極極性が同じであれば、下側圧電素子10dは、表裏が反転して分極接地面112が上面213となるように配置されていてもよい。
【0055】
また、第1の実施例に係る積層型圧電素子1aでは、上側圧電素子10uの上面211の接地電極21が確実に接地電位になるように、接地側面電極22gを用いて下側圧電素子10dの下面214から、上側圧電素子10uの上面211の接地電極21までの接地経路が形成されていた。しかし、上側圧電素子10uの上面211に形成されているC字状の接地電極21を外部配線を介して接地させるのであれば、上側圧電素子10uと下側圧電素子10dの接地側面電極22gを省略することもできる。
【0056】
上記各積層型圧電素子(1a〜1e)を構成する単層型圧電素子(10u、10m、10d)の分極パターン面111と分極接地面112には、円環の全周に渡って円弧状や扇状の電極(14〜16)が形成されていた。しかし、これらの電極(14〜16)のうち、端子電極15には、駆動に際して接地や外部回路との導通に関与しないものがある。そこで、駆動時に使用しない端子電極15については、形成しなくてもよい。
【0057】
また、各単層型圧電素子(10u、10m、10d)の表裏一方の面におけるA相領域12aとB相領域12bを接地電位にして、表裏他方の面のA相領域12aとB相領域12bに、A相信号とB相信号を個別に印加することができるのであれば、分極処理後に単層型圧電素子の表面の電極(14〜16)を除去し、その上で、駆動に必要な電極を再形成してもよい。あるいは、圧電体の表面に個々の分極領域の形状に応じた電極を押し当て、その電極を介して圧電体に電界を印加することで各分極領域を分極させることも考えられる。
【0058】
なお、第1および第2の実施例では、全ての単層型圧電素子(10u、10m、10d)において、分極パターン面111と分極接地面112の電極構造が同じである。そのため、第1および第2の実施例に係る積層型圧電素子(1a、1b)は、各層(10u、10m、10d)ごとに、電極構造を変える必要がなく、コストダウンし易い構造を備えていると言える。
【0059】
本発明の実施例に係る積層型圧電素子は、第1層の下面を接地面として、上方に向かって層間で対面し合う単層型圧電素子の面が、順次駆動面、接地面の順で配置されていればよい。そして、二つの単層型圧電素子が駆動面同士で対面する層間では、一方の単層型圧電素子の層間側の面にA相信号電極とB相信号電極が形成されていればよい。また、二つの単層型圧電素子が接地面同士で対面する層間では、一方の単層型圧電素子の層間側の面に接地電極が形成されていればよい。そして、各単層型圧電素子の駆動面のA相領域とB相領域にA相信号とB相信号が印加されるように、所定の単層型圧電素子に信号端子電極と信号側面電極とが形成されて層間の駆動面から最上層の単層型圧電素子の上面まで駆動信号の導通経路が確保されていればよい。また、各単層型圧電素子の接地面のA相領域とB相領域が接地されるように、所定の単層型圧電素子に接地電極が形成されて、層間の接地面から最上層の単層型圧電素子の上面あるいは第1層の下面まで接地経路が確保されていればよい。したがって、本発明の実施例に係る積層型圧電素子は、4層以上の単層型圧電素子で構成されていてもよい。