【実施例】
【0065】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態について、さらに詳しく説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0066】
〔平均粒径の測定方法〕
本実施例において、レーザー回折式の粒度分布測定装置SALD-2200(島津製作所)を用いて、原料乳の平均粒径および標準偏差を測定した。具体的には、原料乳をイオン交換水で希釈し、この回折・散乱の光強度の分布の最大値が35〜75%(絶対値:700〜1500)になるように調整した。そして、粒度分布測定装置用のソフトウェアWingSALD IIを用いて、この光強度の分布を解析し、平均粒径±標準偏差を求めた。
【0067】
〔発酵乳の硬度の測定方法〕
本実施例において、カードメーターMAX ME-500(アイテクノエンジニアリング社)を用いて、発酵乳の硬度(強度またはカードテンション)を測定した。具体的には、100gの重りを付けたヨーグルトナイフを発酵乳の天面に静置し、発酵乳を継続的に上昇させて、2g/秒程度で加重しながら、この加重の経過時間に合わせて、この加重の測定値を曲線で表現した。このとき、この加重の経過時間(秒)を縦軸、この加重の測定値を横軸とし、縦軸の10gと横軸の4秒を同じ距離として表現した。そして、発酵乳が破断に至った場合、発酵乳の天面からヨーグルトナイフが侵入することで、この時間-荷重曲線に変曲点(破断点)が生じ、この破断に至るまでの加重を硬度(g)の指標とした。
【0068】
〔発酵乳の滑らかさの評価方法〕
本実施例において、ヨーグルトナイフの侵入角度および撹拌後の平均粒径を測定して、発酵乳の食感の滑らかさを評価した。ここで、上述した発酵乳の硬度の測定方法において、カードメーターの測定曲線における、原点を通り破断点に向けた接線と、破断点の後の時間-荷重曲線との角度を測定して、ヨーグルトナイフの侵入角度を評価した。また、プロペラ型の撹拌翼または薬匙を用いて、発酵乳(試料)を100回転程で撹拌し、カードを崩してから、レーザー回折式の粒度分布測定装置SALD-2200(島津製作所)を用いて、発酵乳の攪拌後の平均粒径を測定した。
【0069】
〔試験1〕
(実施例1)
生乳、脱脂粉乳および水を混合して、原料乳(ヨーグルトミックス;脂肪:3.1重量%、無脂乳固形分:9.70重量%)を調製し、原料乳を加温(80℃程度)して均質化(400kg/cm
2)してから、超高温殺菌(UHT;130℃、2秒間)した後に冷却(約10℃)した。
【0070】
このとき、原料乳の平均粒径±標準偏差は、0.52±0.13μmであった。
【0071】
前記の原料乳を加温(43℃程度)してから、N
2を注入し、原料乳の溶存酸素濃度(DO)を5ppmに低減した後に、乳酸菌のスターター(明治ブルガリアヨーグルトLB81(株式会社明治)から分離した)を3重量%で添加(接種)した。
【0072】
カップ容器(容量:100g、プラスチック製)へ充填してから、発酵室(43℃)で保管して、乳酸酸度が0.70%に到達するまで静置(約3時間)した後に、冷蔵室(10℃以下)で保管して、セットタイプのヨーグルト(実施例1)を製造した。
【0073】
(比較例1)
生乳、脱脂粉乳および水を混合して、原料乳(ヨーグルトミックス;脂肪:3.1重量%、無脂乳固形分:9.7重量%)を調製し、原料乳を加温(80℃程度)して均質化(150kg/cm
2)してから、超高温殺菌(UHT;130℃、2秒間)した後に冷却(約10℃)した。
【0074】
このとき、原料乳の平均粒径±標準偏差は、1.38±0.13μmであった。
【0075】
前記の原料乳を加温(43℃程度)してから、N
2を注入し、原料乳の溶存酸素濃度(DO)を5ppmに低減した後に、乳酸菌スターター(明治ブルガリアヨーグルトLB81(株式会社明治)から分離した)を3重量%で添加(接種)した。
【0076】
カップ容器(容量:100g、プラスチック製)へ充填してから、発酵室(43℃)で保管して、乳酸酸度が0.7 % に到達するまで静置(約3時間)した後に、冷蔵室(10℃以下)で保管して、セットタイプのヨーグルト(比較例1)を製造した。
【0077】
(発酵乳の硬度)
実施例1と比較例1のヨーグルトの硬度(カードテンション)を測定した。
図1は、実施例1と比較例1のヨーグルトの硬度を示すグラフである。ここで、硬度が26g以上であれば、流通時に組織を維持できる発酵乳であると言える。
【0078】
図1に示すように、比較例1(原料乳の平均粒径:1.38±0.13μm)のヨーグルトでは、硬度が25gと、26g未満であり、硬度が不十分であって、流通時に組織を維持できないことが示された。これに対して、実施例1(原料乳の平均粒径:0.52±0.13μm)のヨーグルトでは、硬度が51gと、26g以上であり、硬度が十分であって、流通時に組織を維持できることが示された。以上の結果から、原料乳の平均粒径を十分に小さくせずに、原料乳を超高温殺菌処理した場合には、流通時の振動に耐えられる十分な硬度の発酵乳を得られないことを確認できた。これに対して、原料乳の平均粒径を小さくすると、原料乳を超高温殺菌処理した場合でも、流通時の振動に耐えられる十分な硬度の発酵乳を得られることを確認できた。
【0079】
〔試験2〕
(実施例2)
生乳、脱脂粉乳および水を混合して、原料乳(ヨーグルトミックス;脂肪:3.1重量%、無脂乳固形分:9.7重量%)を調製し、原料乳を加温(80℃程度)して均質化(400kg/cm
2)してから、超高温殺菌(UHT;130℃、2秒間)した後に冷却(約10℃)した。
【0080】
このとき、原料乳の平均粒径±標準偏差は、0.52±0.13μmであった。
【0081】
前記の原料乳を加温(39℃程度)してから、窒素(N
2)を注入し、原料乳の溶存酸素濃度(DO)を5ppmに低減した後に、乳酸菌のスターター(明治ブルガリアヨーグルトLB81(株式会社明治)から分離した)を3重量%で添加(接種)した。
【0082】
カップ容器(容量:100g、プラスチック製)へ充填してから、発酵室(43℃)で保管して、乳酸酸度が0.7%に到達するまで静置(約3時間)してから、冷蔵室(10℃以下)で保管して、セットタイプのヨーグルト(実施例2)を製造した。
【0083】
実施例2(原料乳の平均粒径:0.52±0.13μm)のヨーグルトでは、硬度が49gと、26g以上であり、流通時に組織を維持できることが示された。そして、ヨーグルトナイフの侵入角度は47度であり、攪拌後の平均粒径は27μmであり、食感の滑らかさに優れていることが示された。以上の結果から、原料乳の平均粒径を小さくして、原料乳を超高温殺菌処理した場合には、流通時の振動に耐えられる十分な硬度を有し、食感の滑らかさに優れた発酵乳を得られることを確認できた。
【0084】
(比較例2)
生乳、脱脂粉乳および水を混合して、原料乳(ヨーグルトミックス;脂肪:3.1重量%、無脂乳固形分:9.70重量%)を調製し、原料乳を加温(80℃程度)して均質化(150kg/cm
2)してから、高温短時間殺菌(HTST;95℃、達温殺菌)した後に冷却(約10℃)した。
【0085】
このとき、原料乳の平均粒径±標準偏差は、1.40±0.15μmであった。
【0086】
前記の原料乳を加温(39℃程度)してから、N
2を注入し、原料乳の溶存酸素濃度(DO)を5ppmに低減した後に、乳酸菌のスターター(明治ブルガリアヨーグルトLB81(株式会社明治)から分離した)を3重量%で添加(接種)した。
【0087】
カップ容器(容量:100g、プラスチック製)へ充填してから、発酵室(43℃)で保管して、乳酸酸度が0.7%に到達するまで静置(約3時間)してから、冷蔵室(10℃以下)で保管して、セットタイプのヨーグルト(比較例2)を製造した。
【0088】
比較例2(原料乳の平均粒径:1.40±0.15μm)のヨーグルトでは、硬度が55gと、26g以上であり、流通時に組織を維持できることが示された。ただし、ヨーグルトナイフの侵入角度は91度であり、攪拌後の平均粒径は45μmであり、食感の滑らかさに劣っていることが示された。
【0089】
(官能評価)
実施例2と比較例2のヨーグルトの官能評価を実施した。官能評価では、ヨーグルトの製造から6日後に、7段階の尺度(−3〜+3)を基づいて、専門パネルの17名による二点比較法を実施した。危険率1%で有意差がある(「**」で表す)と評価した。
図2は、実施例2と比較例2のヨーグルトの官能評価の結果を示す図である。
【0090】
実施例2のヨーグルト(原料乳の平均粒径:0.52±0.13μm、殺菌:UHT)では、比較例2のヨーグルト(原料乳の平均粒径:1.40±0.15μm、殺菌:HTST)に比べて、(カードの)組織の緻密さ、後味のまろやかさ、風味のクリーミー感、濃厚感、後味のミルク感、滑らかさ、食べごたえ、総合評価の各項目が有意に優れていた。つまり、これらの各項目において、実施例2と比較例2の間に統計的な有意差があることを確認できた。したがって、原料乳を均質化して、原料乳の平均粒径を小さく調整し、かつ超高温殺菌処理した場合には、組織が緻密であり、まろやかさ、風味のクリーミー感、濃厚感、後味のミルク感、滑らさおよび食べごたえに優れた発酵乳を得られることを確認できた。すなわち、原料乳を均質化して、原料乳の平均粒径を小さく調整し、かつ超高温殺菌処理することで、風味が良好であり、食感の滑らかさに優れた発酵乳を得られることを確認できた。
【0091】
〔試験3〕
(実施例3)
生乳、脱脂粉乳および水を混合して、原料乳(ヨーグルトミックス;脂肪:3.1重量%、無脂乳固形分:9.70重量%)を調製し、原料乳を加温(80℃程度)して均質化(400kg/cm
2)してから、超高温殺菌(130℃、2秒間)した後に冷却(約10℃)した。
【0092】
このとき、原料乳の平均粒径±標準偏差は、0.52±0.13μmであった。
【0093】
前記の原料乳を加温(43℃程度)してから、N
2を注入し、原料乳の溶存酸素濃度(DO)を5ppmに低減した後に、乳酸菌のスターター(明治ブルガリアヨーグルトLB81(株式会社明治)から分離した)を3重量%で添加(接種)した。
【0094】
カップ容器(容量:100g、プラスチック製)へ充填してから、発酵室(43℃)で保管して、乳酸酸度が0.7%に到達するまで静置したところ、2時間50分(約3時間)が経過し、その後、冷蔵室(10℃以下)で保管して、セットタイプのヨーグルト(実施例3)を製造した。
【0095】
(実施例4)
生乳、脱脂粉乳および水を混合して、原料乳(ヨーグルトミックス;脂肪:3.1重量%、無脂乳固形分:9.7重量%)を調製し、原料乳を加温(80℃程度)して均質化(400kg/cm
2)してから、超高温殺菌(130℃、2秒間)した後に冷却(約10℃)した。
【0096】
このとき、原料乳の平均粒径±標準偏差は、0.52±0.13μmであった。
【0097】
前記の原料乳を加温(43℃程度)してから、原料乳の溶存酸素濃度(DO)を調整せず、乳酸菌のスターター(明治ブルガリアヨーグルトLB81(株式会社明治)から分離した)を3重量%で添加(接種)した。
【0098】
カップ容器(容量:100g、プラスチック製)へ充填してから、発酵室(43℃)で保管して、乳酸酸度が0.7%に到達するまで静置したところ、3時間50分(約4時間)が経過し、その後に、冷蔵室(10℃以下)で保管して、セットタイプのヨーグルト(実施例4)を製造した。
【0099】
(発酵時間)
実施例3と4のヨーグルトの発酵時間(乳酸酸度が0.7%に到達するまでの時間)を測定
した。実施例3(発酵前の脱酸素処理:有)のヨーグルトでは、実施例4(発酵前の脱酸素処理:無)のヨーグルトに比べて、発酵時間が大きく短縮されることが示された。以上の結果から、発酵前に脱酸素処理し、原料乳の溶存酸素濃度を低減した場合には、発酵時間が短縮され、発酵乳を製造するための所要時間を短縮できるため、発酵乳の生産効率を向上できることを確認できた。
【0101】
〔試験4〕
(実施例5〜8および比較例3)
生乳、脱脂粉乳および水を混合して、原料乳(ヨーグルトミックス;脂肪:3.1重量%、無脂乳固形分:9.7重量%)を調製し、原料乳を加温(80℃程度)して均質化(後述した各種の圧力)してから、超高温殺菌(130℃、2秒間)した後に冷却(約10℃)した。
【0102】
このとき、原料乳を均質化する条件(圧力)を調整することで、平均粒径を様々に変更して、原料乳を調製した。そして、実施例5〜8と比較例3のヨーグルトにおいて、原料乳の均質化後の平均粒径を表2に示した。
【0103】
前記の原料乳を加温(43℃程度)してから、N
2を注入し、原料乳の溶存酸素濃度(DO)を5ppmに低減した後に、乳酸菌のスターター(明治ブルガリアヨーグルトLB81(株式会社明治)から分離した)を3重量%で添加(接種)した。
【0104】
カップ容器(容量:100g、プラスチック製)へ充填してから、発酵室(43℃)で保管して、乳酸酸度が0.7%に到達するまで静置(約3時間)してから、冷蔵室(10℃以下)で保管して、セットタイプのヨーグルト(実施例5〜8と比較例3)を製造した。
【0105】
(発酵乳の硬度)
実施例5〜8と比較例3のヨーグルトの硬度を測定して、表2に示した。表2に示すように、比較例3のヨーグルト(原料乳の平均粒径:1.30μm)では、硬度が20gと、26g未満であり、硬度が不十分であって、流通時に組織を維持できないことが示された。これに対して、実施例5〜8のヨーグルト(原料乳の平均粒径:0.40〜0.73μm、0.73μm以下、原料乳の均質化圧力:250〜400kg/cm
2)では、硬度が34〜59gと26g以上であり、硬度が十分であって、流通時に組織を維持できることが示された。以上の結果から、原料乳を均質化する圧力を150kg/cm
2(150kg/cm
2以下)に設定して、原料乳の平均粒径を1μm以下まで小さくせずに、原料乳を超高温殺菌処理した場合には、流通時の振動に耐えられる十分な硬度の発酵乳を得られないことを確認できた。これに対して、原料乳を均質化する圧力を250〜400kg/cm
2(180kg/cm
2以上)に設定して、原料乳の平均粒径を1μm以下(0.8μm以下)まで小さくすると、原料乳を超高温殺菌処理した場合でも、流通時の振動に耐えられる十分な硬度の発酵乳を得られることを確認された。
【0106】
【表2】
【0107】
〔試験5〕
(実施例9〜12)
生乳を加温(80℃程度)して均質化(400kg/cm
2)してから、超高温殺菌(保持時間:2秒間)した後に冷却(約10℃)した。
【0108】
このとき、原料乳を殺菌する条件(温度)を調整することで、熱履歴を様々に変更して、原料乳を調製した。そして、実施例9〜12のヨーグルトにおいて、原料乳の均質化後の平均粒径を表3に示した。
【0109】
上記の原料乳を加温(43℃程度)してから、窒素(N
2)を注入し、原料乳の溶存酸素濃度(DO)を5ppmに低減した後に、乳酸菌のスターター(明治ブルガリアヨーグルトLB81(株式会社明治)から分離した)を3重量%で添加(接種)した。
【0110】
カップ容器(容量:100g、プラスチック製)へ充填してから、発酵室(43℃)で保管して、乳酸酸度が0.7%に到達するまで、静置(約3時間)してから、冷蔵室(10℃以下)で保管して、セットタイプのヨーグルト(実施例9〜12)を製造した。
【0111】
(発酵乳の硬度)
実施例9〜12のヨーグルトの硬度を測定して、表3に示した。表3に示すように、実施例9〜12のヨーグルト(原料乳の平均粒径:0.45〜0.57μm(0.57μm以下)、原料乳の殺菌温度:130〜144℃)では、硬度が50〜60gと、26g以上であり、硬度が十分であって、流通時に組織を維持できることが示された。以上の結果から、原料乳の平均粒径を1μm以下(0.8μm以下)まで小さくすると、原料乳を殺菌する温度を130〜144℃程度(115℃以上)に設定して、原料乳を超高温殺菌処理した場合でも、流通時の振動に耐えられる十分な硬度の発酵乳を得られることを確認できた。
【0112】
【表3】
【0113】
〔試験6〕
(実施例13)
生乳、脱脂粉乳および水を混合して、原料乳(ヨーグルトミックス;脂肪:3.1重量%、無脂乳固形分:9.7重量%)を調製し、原料乳を加温(80℃程度)して均質化(250kg/cm
2+50kg/cm
2)してから、超高温殺菌(130℃、2秒間)した後に冷却(約10℃)した。
【0114】
このとき、原料乳の平均粒径±標準偏差は、0.5±0.13μmであった。
【0115】
前記の冷却した原料乳を43℃程度に加温してから、窒素(N
2)を注入し、原料乳の溶存酸素濃度(DO)を5ppmに低減した後に、乳酸菌スターター(明治ブルガリアヨーグルトLB81(株式会社明治)から分離した)を3重量%で添加(接種)した。
【0116】
カップ容器(容量:100g、プラスチック製)へ充填してから、発酵室(43℃)で保管して、乳酸酸度が0.7%に到達するまで約3時間静置してから、冷蔵室(10℃以下)で保管して、セットタイプのヨーグルト(実施例13)を製造した。
【0117】
(付着力の評価)
喫食および嚥下の特性の計測装置(以下、喫食および嚥下計測装置)を用いて、実施例13の発酵乳と、従来のセットタイプヨーグルトである明治ブルガリアヨーグルトLB81(株式会社明治;比較例4)との風味特性(主に喫食および嚥下時の食感)の差異を評価した。
【0118】
使用した喫食および嚥下計測装置の構成を
図3に示す。喫食および嚥下計測装置は、生体表面を模倣した素材(水、親水性ポリビニルアルコールおよびジメチルスルホスキドを混合して作製した)を貼付した傾斜板を備えている。この傾斜板に、所定量の試料(液体、固体、半固体およびゼリーなど)を供給すると、試料が傾斜板の上を流下または滑落することにより、喫食および嚥下の現象を模倣することができる。喫食および嚥下計測装置は、試料が傾斜板の上を流下または滑落する挙動を、複数のセンサと複数のカメラで多面的に計測して数値解析することにより、喫食および嚥下の現象を模擬的に定量化する計測装置である。
【0119】
具体的には、喫食および嚥下計測装置は、
図3に示すように、傾斜面を有する傾斜板と、傾斜面上に試料を提供する供給部(高精度定量供給ピストンポンプ)と、供給部から傾斜面上へ供給された試料を検出する供給センサ(吐出確認センサ)と、傾斜面上の所定の地点を流下する試料を検出する到達センサ(上部到達確認センサおよび下部到達確認センサ)と、各センサの出力を記録するデータロガーと、傾斜面上を流下する試料を傾斜面の上方から撮像して上面画像を生成する上面カメラと、傾斜面上を流下する試料を傾斜面の側方から撮像して側面画像を生成する側面カメラと、データロガーの出力、側面画像および上面画像の少なくとも一つを使用し、傾斜面上を流下する試料の状態パラメータを演算する演算部とを備えている。
【0120】
喫食および嚥下計測装置は、傾斜板上を流下または滑落する食塊の挙動を疑似的な嚥下現象と定義し、流下または滑落時の速度、加速度、圧力、力、せん断速度、壁面せん断応力、壁面せん断力、壁面で消費されるエネルギー、動的接触角、流下面積、滑落面積、流下軌跡、滑落軌跡、試料流下時の中心の厚さ、滑落時の中心の厚さおよび付着力を求めることが可能である。ここで付着力とは、傾斜面の単位面積あたりの、傾斜面で消費されるエネルギーをいう。喫食および嚥下計測装置を用いることで、異なる物性や特性を有する食塊サンプルについて、喫食および嚥下時に発生する物理量の差異を評価することが可能となり、それによって食塊の物性が嚥下時の挙動に与える影響について、評価することが可能となる。
【0121】
各物理量は、以下に示す式により算出することができる。ここで、せん断速度γ、厚さδ、粘度μ、せん断応力τ、力F、面積S、長さL(センサ間の距離)、仕事量Wおよび付着力fs[J/m
2]として表す。なお、粘度は、たとえば、レオメータ(動的粘弾性測定装置)で測定する。
【0122】
【数1】
【0123】
上述した喫食および嚥下計測装置を用いて、明治ブルガリアヨーグルトLB81(株式会社明治;比較例4)と実施例13の発酵乳の流下または滑落時の各物理量を各4回ずつ計測した。測定した各物理量の結果を表4に示す。また、
図4は、比較例4と実施例13の付着力を示すグラフである。
【0124】
表4および
図4に示すように、従来の発酵乳(明治ブルガリアヨーグルトLB81)と比較して、実施例13の発酵乳は、付着力が高いことが示された。実施例13の発酵乳の付着力は、0.0008[J/m
2]以上であり、従来の発酵乳と比較して約1.3倍の付着力を有していた。また、本発明の発酵乳は、表示上「乳」のみで調製されたものであるが、従来のセットタイプヨーグルト(明治ブルガリアヨーグルトLB81など)と同等の硬度を維持することができることが示された。
【0125】
【表4】