(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6937241
(24)【登録日】2021年9月1日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】グリース組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 107/02 20060101AFI20210909BHJP
C10M 117/02 20060101ALI20210909BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20210909BHJP
C10N 20/02 20060101ALN20210909BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20210909BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20210909BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20210909BHJP
【FI】
C10M107/02
C10M117/02
C10N10:04
C10N20:02
C10N30:06
C10N40:02
C10N50:10
【請求項の数】2
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2017-541618(P2017-541618)
(86)(22)【出願日】2016年2月9日
(65)【公表番号】特表2018-505281(P2018-505281A)
(43)【公表日】2018年2月22日
(86)【国際出願番号】EP2016052733
(87)【国際公開番号】WO2016128403
(87)【国際公開日】20160818
【審査請求日】2019年2月1日
【審判番号】不服2020-7243(P2020-7243/J1)
【審判請求日】2020年5月28日
(31)【優先権主張番号】15154756.9
(32)【優先日】2015年2月11日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】390023685
【氏名又は名称】シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(72)【発明者】
【氏名】ダーグリング,シュテファン
【合議体】
【審判長】
川端 修
【審判官】
木村 敏康
【審判官】
蔵野 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−53236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M107/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
100℃で1〜5mm2/sの動粘度を有するポリアルファオレフィンである第1の基油成分をグリース組成物の重量に基づいて40〜90重量%含むグリース組成物であって、カルシウムのC13−C21脂肪酸塩である増ちょう剤を含み、前記増ちょう剤の量が前記グリース組成物の重量に基づき2〜18重量%であり、前記第1の基油成分がグリース組成物中の基油の総重量に基づいて全基油の少なくとも80重量%を構成する、グリース組成物。
【請求項2】
シール軸受内のシール−金属接触面におけるグリース組成物の使用であって、前記グリース組成物が、基油と、増ちょう剤と、を含み、前記基油が、100℃で1〜5mm2/sの動粘度を有するポリアルファオレフィンである第1の基油成分を前記グリース組成物の重量に基づいて40〜90重量%含み、カルシウムのC13−C21脂肪酸塩である増ちょう剤を含み、前記増ちょう剤の量が前記グリース組成物の重量に基づき2〜18重量%であり、前記第1の基油成分がグリース組成物中の基油の総重量に基づいて全基油の少なくとも80重量%を構成する、グリース組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース組成物、及びシール軸受内のグリース組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
シール軸受は、多くの異なるタイプの機械において使用される。シールは、軸受に損傷を与え、かつ機械の機能を損ない得る、汚れ及び水の進入を防止する。典型的なシール材料には、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)及びフルオロエラストマ(FKM)が含まれる。シールの寿命を延長するために、グリースがシール接点において提供される。シール−金属接触面においては、著しい摩擦が存在し得、これは、熱発生及び効率性の損失につながり得る。本発明者は、シール−金属接触面における摩擦を低減するように作用し得、それによって、シール軸受の効率性を改善することができる、グリース組成物の提供を目指した。
【発明の概要】
【0003】
本発明者は、驚くべきことに、低粘度ポリアルファオレフィン基油とカルシウム
増ちょう剤との組み合わせが、シール−金属接触面において、特に低い摩擦を発生させるグリースを提供することができるということを見出した。したがって、本発明は、
100℃で1〜5mm2/sの動粘度を有するポリアルファオレフィンである第1の基油成分を
40〜90重量%含
むグリース組成物であって、重量パーセンテージが、該グリース組成物の重量に基づき、カルシウムのC
13−C
21脂肪酸塩である
増ちょう剤を含む、グリース組成物を提供する。
【0004】
さらなる態様において、本発明は、シール軸受内のシール−金属接触面におけるグリース組成物の使用であって、該グリース組成物が、基油と、
増ちょう剤と、を含み、該基油が、
100℃で1〜5mm2/sの動粘度を有するポリアルファオレフィンである第1の基油を
40〜90重量%含み
、重量パーセンテージが、該グリース組成物の重量に基づき、カルシウムのC
13−C
21脂肪酸塩である
増ちょう剤を含む、グリース組成物の使用を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0005】
グリース組成物は、
100℃で1〜5mm2/sの動粘度を有するポリアルファオレフィンである第1の基油成分を
40〜90重量%含
む。グリース組成物は、さらなる基油を含み得るが、好ましくは、第1の基油成分は、全基油の少なくとも50重量%、及び好ましくは少なくとも80重量%(グリース組成物中の基油の総重量に基づく)を構成する。
【0006】
グリース組成物中の
増ちょう剤は、カルシウムのC
13−C
21脂肪酸塩であり、好ましくは、カルシウムの水素化ひまし油脂肪酸塩である。
増ちょう剤の量は、グリース組成物の重量に基づき、好ましくは2〜18重量%、より好ましくは2〜14重量%である。
【0007】
本発明のグリース組成物はまた、酸化防止剤、さび止め、油性向上剤、極圧添加剤、摩耗防止剤、固体潤滑剤、金属不活性化剤、ポリマー、洗浄剤、及び他の添加剤を含み得る。
【0008】
酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−パラクレゾール、P,P’−ジオクチルジフェニルアミン、N−フェニル−α−ナフチルアミン、及びフェノチアジンが挙げられる。
【0009】
さび止めとしては、酸化パラフィン、カルボン酸金属塩、スルホン酸金属塩、カルボン酸エステル、スルホン酸エステル、コハク酸エステル、ソルビタンエステル、及び種々のアミン塩が挙げられる。
【0010】
油性向上剤、極圧添加剤、及び摩耗防止剤としては、例えば、硫化亜鉛ジアルキルジチオホスフェート、硫化亜鉛ジアリールジチオホスフェート、硫化亜鉛ジアルキルジチオカルバメート、硫化亜鉛ジアリールジチオカルバメート、硫化モリブデンジアルキルジチオホスフェート、硫化モリブデンジアリールジチオホスフェート、硫化モリブデンジアルキルジチオカルバメート、硫化モリブデンジアリールジチオカルバメート、有機モリブデン錯体、硫化オレフィン、トリフェニルホスフェート、トリフェニルホスホロチオネート、トリクレジルホスフェート、他のホスフェートエステル、ならびに硫化脂肪及び油が挙げられる。
【0011】
固体潤滑剤としては、例えば、モリブデンジスルフィド、黒鉛、窒化ホウ素、メラミンシアヌレート、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、タングステンジスルフィド、雲母、フッ化黒鉛などが挙げられる。
【0012】
金属不活性化剤としては、例えば、N,N’−ジサリチリデン−1,2−ジアミノプロパン、ベンゾトリアゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾチアゾール、及びチアジアゾールが挙げられる。
【0013】
グリース組成物は、標準的なグリース製造ルートを使用して製造され得る。
【0014】
本発明のグリース組成物は、シール軸受内のシール−金属接触面において、好適に使用される。シールは、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、水素処理アクリロニトリル−ブタジエンゴム(HNBR)、またはフルオロエラストマ(FKM)等の材料から好適に作製される。軸受は、潤滑剤を含有し、本発明のグリース組成物は、グリース組成物が潤滑剤によって汚染されないように適用されるべきである。
【実施例】
【0015】
本発明を、実施例及び比較実施例によって、以下で詳細にさらに説明するが、本発明は、これらの実施例によっていかようにも制限されない。
【0016】
グリースは、基油及び脂肪酸をケトルに添加し、85〜90℃まで(3℃/分で)加熱し、100rpmで撹拌することによって調製した。水酸化カルシウムを粉末として添加し、次いで、水を添加した。ケトルを閉め、135℃まで(2℃/分で)加熱した。内容物を100rpmで撹拌し、ケトルの壁温度限界を、140℃に設定した。ケトルを、135℃に到達した約40分後に、換気した。追加の基油を80℃まで加熱し、次いで、ポンプを介してケトルに添加した。内容物を150rpmで5分間撹拌し、生成物温度を130〜135℃に保持した。窒素管をケトルに接続し、内容物を窒素流に15分間曝露させ、それによって、試料を脱水した。内容物を100rpmで撹拌しながら、100℃まで(2℃/分で)冷却した。希釈のための追加の基油を使用して、80℃以下で添加剤を添加した。添加剤の添加後、内容物を100rpmで1分間撹拌した。次いで、内容物を50〜60℃まで冷却した(5℃/分での壁温度設定:20℃、及び100rpmでの撹拌によって制御)。10分間、−150ミリバールの真空を使用し、50rpmで撹拌して、脱気を70℃で開始した。生成物を、1×300バールで均質化した。
【0017】
全ての製剤を、以下の表1に要約し、量は、製剤の総重量に基づく重量%として示される。
【表1】
【0018】
PAO 2.0は、ポリアルファオレフィンであり、100℃で2.0cStの粘度を有した。XHVI 3.0及びXHVI 4.0は、Fischer−Tropschプロセスによって作製される基油であり、Shellから入手した。XHVI 3.0は、100℃で3.0cStの粘度を有し、XHVI 4.0は、100℃で4.0cStの粘度を有した。HCOFAは、水素化ひまし油脂肪酸である。添加剤パッケージは、実施例及び比較実施例の各々において同じであった。
【0019】
グリースは、NBRシールに適用した。シール軸受を24時間運転させ、次いで、摩擦を測定した。
【0020】
結果を表2に示す。
【表2】
【0021】
本発明のグリース組成物(基油がポリアルファオレフィンである)は、比較実施例のグリース組成物(基油が同様の粘度を有するが、Fischer−Tropschプロセスによって作製されている)よりも相当低い摩擦を示す。