(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来技術の問題点に鑑み本発明は、建設に必要な工数を予見できない影響の大きな不確定要素があっても工数推定の精度向上と合理化が可能となり、種々の見積り計算や建設管理に適用可能な工数分析システム及びそのデータ構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するための第1の手段として、過去の実績作業データに基づいて作業に要する工数の算出式を生成する工数分析システムにおいて、
作業端末と内部ネットワークを介して接続され、過去の作業日報のデータや作業記録を含む前記実績作業データを蓄積した実績作業データベースと、製品情報と図面情報と作業者情報を蓄積した建設管理データベースと、
前記作業端末と前記内部ネットワークを経由し更に外部ネットワークを介して接続され、少なくとも気象情報と経済情報を蓄積した外部データベースと、
前記作業端末に接続され、前記作業の工数をその作業の物理単位で除した基準工数を作成し、かつ前記作業の前記内部ネットワークを介して得た内的要因及び前記外部ネットワークを介して得た外的要因を付加した工数変動要因を作成するデータ作成サーバと、前記データ作成サーバに格納されている前記基準工数と前記工数変動要因を読み出し、前記基準工数の変動に寄与すると考えられる前記工数変動要因の中から前記基準工数との相関が高い複数要因の組み合わせである特徴量を機械学習で自動的に生成・抽出し
て工数変動を推定する評価式を作成する工数算出サーバと、
を備えたことを特徴とする工数分析システムを提供することにある。
上記第1の手段によれば、従来方法や経験者でも予見できなかった実績工数の変動要因とその影響度を過去の実績作業データの傾向から新たに推定する方法を提供し、工事に必要な工数推定精度を向上かつ合理化でき、種々の見積り計算や建設管理に適用することができる。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するための第2の手段として、第1の手段において、前記工数算出サーバは、前記
評価式が前記決定係数に満たないときに、工数変動との相関が明らかな要因を統計処理で正規化して取り除くことを特徴とする工数分析システムを提供することにある。
上記第2の手段によれば、実績工数と工数算出式との明らかな要素はあらかじめ実績工数から除いたデータに対して、変動を明らかにしていくことができるようになる。工数予測においては、あらかじめ除した要素と本手法にて用いた工数算出式とを組み合わせることで算出精度を高めることができる。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するための第
4の手段として、第1
ないし3のいずれか1の手段において、前記内的要因は、実績作業データベースの作業実績と、建設管理データベースに蓄積した製品情報と、図面情報と、作業者情報のいずれか1つ以上であることを特徴とする工数分析システムを提供することにある。
上記第
4の手段によれば、従来方法や経験者でも予見できなかった工数変動に影響を与える可能性のある要因を見付け出して工数算出式に加えることができる。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するための第
5の手段として、第1ないし第
4のいずれか1の手段において、前記外的要因は、外部データに蓄積した気象情報、経済情報、雇用条件のいずれか1つ以上であることを特徴とする工数分析システムを提供することにある。
上記第
5の手段によれば、従来方法や経験者では想定することもできなかった工数変動に影響を与える要因を見付け出すことが可能となり、それらを工数算出式に加えることができる。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するための第
6の手段として、第1ないし第
5のいずれか1の手段において、前記工数算出サーバは、
前記データ作成サーバに格納されている前記基準工数と前記工数変動要因を読み出し、前記基準工数の変動に寄与すると考えられる前記工数変動要因の中から前記基準工数との相関が高い複数要因の組み合わせである特徴量を機械学習で自動的に生成・抽出し、その関係性を前記特徴量と共に表す評価式を作成する要因抽出型の人工知能であることを特徴とする工数分析システムを提供することにある。
上記第
6の手段によれば、AI(人工知能)を用いた機械学習によって、どの工数変動要因の組合せが工数変動の説明に合致するか自動抽出でき、従来方法や経験者では想定することもできなかった工数変動に影響を与える要因を見付け出すことが可能となり、それらを工数算出式に加え、工数変動の少ない高精度な見積りを作成できる。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するための第6の手段として、データベースとデータ作成サーバと工数算出サーバからなる工数分析システムを用いた工数分析方法であって、
前記データベースが、プラント建設の実績となる過去の作業日報のデータや作業記録を含めた実績工数と、製品情報と、図面情報と、作業者情報と、気象情報と、経済情報のうちいずれか1つ以上を蓄積し、
前記データ作成サーバが、前記データベースの蓄積情報から管理対象となる作業番号でくくった予測すべき対象となる要素作業毎の工数データと、前記作業番号に含まれる要素作業とその要素作業毎の作業条件を示した要因データを作成し、
前記工数算出サーバにおいて、AIによる機械学習によって前記工数データへの影響が大きい前記要因データを抽出し
て工数変動を推定する評価式を作成し、前記評価式で算出される値と前記実績工数の関係があらかじめ定めた決定係数以上のとき、前記評価式をもとに工数を算出する工数分析方法を提供することにある。
上記第7の手段によれば、従来方法や経験者でも予見できなかった実績工数の変動要因とその影響度を過去の実績作業データの傾向から新たに推定する方法を提供し、工事に必要な工数推定精度を向上かつ合理化でき、種々の見積り計算や建設管理に適用することができる。
本発明は、上記課題を解決するための第7の手段として、データベースとデータ作成サーバと工数算出サーバからなる工数分析システムを用いた工数分析方法であって、
前記データベースが、プラント建設の実績となる過去の作業日報のデータや作業記録を含めた実績工数と、製品情報と、図面情報と、作業者情報と、気象情報と、経済情報のうちいずれか1つ以上を蓄積し、
前記データ作成サーバが、前記データベースの蓄積情報から管理対象となる作業番号でくくった予測すべき対象となる要素作業毎の工数データと、前記作業番号に含まれる要素作業とその要素作業毎の作業条件を示した要因データを作成し、
前記工数算出サーバにおいて、AIによる機械学習によって前記工数データへの影響が大きい前記要因データを抽出し
て工数変動を推定する評価式を作成し、前記評価式で算出される値と前記実績工数の関係があらかじめ定めた決定係数に満たないとき、前記評価式と線形回帰式との積で表される基準工数の算出式をもとに工数を算出する工数分析方法を提供することにある。
【発明の効果】
【0013】
上記構成による本発明によれば、従来方法や経験者でも予見できなかった実績工数の変動要因とその影響度を過去の実績データの傾向から新たに推定する方法を提供し、建設に必要な工数の推定精度を向上かつ合理化でき、種々の見積り計算や建設管理に適用できる。またAIを用いた工数算出サーバにより、潜在的な要因を抽出して、従来の見積りでは予見できなかった要因を付加した高精度な見積りを作成できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の工数分析システム及びそのデータ構造の実施形態について、添付図面を参照しながら、以下詳細に説明する。
【0016】
[工数分析システム10]
図1は、本発明の工数分析システムの構成図である。図示のように本発明の工数分析システム10は、実績作業データベース20と、建設管理データベース30と、外部データベース40と、データ作成サーバ50と、工数算出サーバ60とを主な基本構成としている。
【0017】
本実施形態の工数分析システム10は、ユーザの作業端末12にデータ作成サーバ50と、工数算出サーバ60と、入出力インターフェース70が接続し、さらに内部ネットワーク14を介して実績作業データベース20、建設管理データベース30と接続し、さらに外部ネットワーク16を介して外部データベース40に接続している。ユーザの作業端末12は、CPU、メモリ、キーボード、タッチスクリーン、マイク、スピーカなどの周知構成からなる。
実績作業データベース20は、プラント建設の実績となる過去の作業日報のデータや作業記録を含めた実績工数を蓄積したデータベースである。
【0018】
建設管理データベース30は、製品情報と図面情報と作業者情報を蓄積したデータベースである。
製品情報とは、プラント建設に必要な製品(構成物)、例えば配管の場合、口径、長さ、材質、重量等の情報である。
図面情報とは、プラント建設の作業場所、作業エリアの面積、形状などの情報である。
作業者情報とは、プラント建設に係わる作業者の経歴(経験年数)、資格等の情報である。上記実績作業データベースと建設管理データベースのデータが内的要因である。
【0019】
外部データベース40は、気象情報と経済情報等を蓄積したデータベースである。このうち経済情報等とは、例えば、為替、国際情勢、経済状況や雇用条件なども含めた様々な外的要因である。
データ作成サーバ50は、プラント建設に必要な工数を求める工数算出式に用いるデータを形式変換するサーバである。
ここで工数算出式とは、作業毎に工数を管理する場合の作業毎の単位物量あたりの工数を算出する式である。この工数算出式は、マイクロソフト社のEXCELやオープンソースのR等、一般の計算プログラムソフトで作成できる。本実施形態では後述する工数算出サーバで作成している。
【0020】
図3は基準工数の説明図である。基準工数とは、例えば、配管開先合わせ作業(例えば、搬入から所定位置まで吊上げて、開先合わせして溶接する作業をいう、以下同じ)の場合、作業を搬入、吊上げ、開先合わせ、溶接に分け(ここでは要素作業とする)、それぞれの要素作業毎(作業番号、作業名称)に行われる作業において、作業に必要とする工数を、その作業の物理単位(搬入であれば部品や重量ごと、開先合わせであれば配管接続点数:点)で除した値であり、数値が大きいほど単位当たり作業に大きな工数を必要としたことを表し、逆に数値が小さいほど作業に必要な工数が小さかったことを表している。この基準工数(工数/点)は実績作業データから求めることができる。基準工数を用いることで様々な要因で変動する工数と予め数量のはっきりしている作業量を分けて工数算出式を作成することができる。
【0021】
本実施形態のデータ作成サーバ50は、実績作業データベース20を用いてデータ形式変換を行って基準工数を作成している。
ついで、建設管理データベース30及び外部データベース40を用いてデータ形式変換を行って工数変動要因を作成している。
図4は工数変動要因の説明図である。
工数変動要因とは、工数を増減させる要因データである。具体的には要因項目とその定義(範囲)を示したデータであり、例えば、要因項目の対象物大きさの場合、定義は配管口径や機器重量等の大きさを規定する要因となる。作業位置情報は、作業場所の床からの高さ等が定義となる。作業空間密集度は、作業空間の密集度(作業対象物容量/空間体積等)を規定する値である。作業エリア情報はエリア形状の複雑度(エリア変数、エリア面積、エリア周長/面積等)を規定する値である。作業者情報は作業に従事する作業者の条件(所属、資格等)を規定する情報である。気象条件は、作業実施時の気象条件である。経済情報は経済状況によって生じる雇用条件の変動等の様々な要因である。失業率等によって現場で作業するスキルレベルに差が生じることもある。
【0022】
[工数分析のデータ構造]
図5は工数分析のデータ構造の説明図である。工数分析に利用するデータ構造は、大きく分けて2つの構成からなり、一方は
図3に示す予測すべき対象となる作業別の基準工数データと(以下、本発明では工数データという)、他方は
図4に示す作業対象物の条件データである(以下、本発明では要因データという)。
工数データは予測する単位(本実施形態では作業別)と予測したい値のデータをまとめた構成である。
【0023】
要因データは工数変動の条件となる様々な要因データをまとめた構成であり、工数データと比べて膨大な項目数(要因数)となる。一例として(
図4参照)配管開先合わせ作業の工数データは、対象物大きさ(No1)については、各接続点毎のデータ(具体例)としてA1:配管No、A2:口径、A3:厚み(肉厚)、A4:接続する点を構成する配管の長さ、A5:材質、A6:重量、A7:直管、曲管などの形状、A8:接続点の開先種別等のデータを含む。
作業位置情報(No2)については、B1:接続する配管が通る建物の階層、B2:接続点の床からの高さ、B3:配管を搬入する開口部(搬入口)、B4:配管が通る部屋の開口広さ等から必要な情報のいずれかを含む。
同様にして考えられる全ての要因(
図4中のNo1〜7…)のデータを一群として持つ。またこれらのデータ群は時期による要因も含むため、本実施例では時系列にデータをまとめている。ある作業エリアでは作業期間別にデータを持たせる構造となる。基本的な分析方法は、工数データの変動を要因データの条件を使って回析分析を行っていく方法となる。
【0024】
ここで従来、工数算出式の計算プログラムソフトは以下のように行っていた。
図6は配管開先合わせ作業を例にした場合に明らかな工数変動要因の説明図である。図中のグラフは配管開先合わせ作業に係わる基準工数とエリア等の管理対象となる範囲内の配管の平均口径(mm)、配管開先合わせ作業に係わる基準工数と作業時期(着工からの月数)、配管開先合わせ作業に係わる基準工数と作業者の現場への従事期間1年以上の人数比(%)の関係を示している。それぞれY=ax+b(口径が大きくなるにつれて基準工数が大きくなる)、Y=ax
2+bx+c(施工開始時は作業量が少なく、準備や慣れ等の時間も含むため基準工数が比較的高く、ピーク時に最も効率が良くなり、施工終期で再び作業量が少なくなり基準工数が比較的高くなる)、Y=−ax+b(現場に慣れた作業者が多くなることで基準工数が下がる)等と作業の種類や内容によって一定の相関関係があると考えることができる。
【0025】
図7は作業別に工数を集計している現場において実績基準工数(実績データ)と従来統計による工数算出式から算出した基準工数(工数算出データ)とを比較した説明図である。同図の縦軸は基準工数変動比を示し、横軸は作業番号(エリア等の管理対象でくくったもの)を示している。また丸プロットは実績データ、四角プロットは従来統計による工数算出式から算出した基準算出データを示している。
図6に示す3つの明らかな工数変動要因のみを用いた従来統計により作成した工数算出データと実績データを比較したところ、両者間には依然として差違が多く現れた。このように従来の統計的予測だけでは、この程度の推定が限界であり、これ以上の予測は熟練者の知見に頼らざるを得ない状況であった。
【0026】
本発明の作業実績分析システムは、工数算出サーバ60によって従来統計の計算ソフトで実績工数の推定値を求める工数算出式を作成して見積りや建設管理に活用する時の指標としている。
この工数算出サーバ60は、工数データである基準工数と要因データである工数変動要因の相関性及び組合せについて、AI(人工知能)を用いた機械学習を行う。
このAI技術は日立製作所が独自開発した人工知能であるHitachi AI Technology/H(以下、単にAT/Hという)を用いている。AT/Hは、工数変動要因の影響度推定に適用した場合、ある目的変数(本実施形態の工数)の変動に寄与すると考えられる説明変数群(本実施形態の工数変動要因)の中から目的変数との相関が高い複数要因の組合せ(特徴量)を機械学習で自動的に生成・抽出し、その関係性を数式化する要因抽出型の人工知能である。
【0027】
AT/Hは、工事におけるエリア別の実績工数集計データと、その実績工数の内訳となるエリア内の工事対象物それぞれの対象物毎の条件データを用いて、実績工数に変動を与える特徴量を様々な変動要因の中から自動作成して選出する。このとき実績工数の変動との相関が高く、類似性のある要因群の特徴量をグループ化し、工数変動への影響度の高いグループから、適正な特徴量を選出し、工数変動を推定する式を導き出す。また導き出された式の係数からその影響度が定量的に推定できる。
ここで、AT/Hが推定する要因は影響度の高い上位(例えば3つ、設定により変更可能)の特徴量を推定するため、全ての要因をAT/Hだけで計算した場合、人が経験から比較的容易に判断可能なものが相関の高い要因として優先的に抽出される。一方、人が判断し難い潜在的な要因が他より相関が低く評価式に反映されないことが推定される。そこで、工数変動と相関が強く、あきらかな要因はあらかじめ線形回帰等の従来統計処理でその影響度を解析し、その回帰式で基準工数を除して正規化したものを新たな基準工数とし、これを用いてAT/Hに処理させることで、明らかな要因の影響を分析の範囲外とすることができる。
【0028】
新たな基準工数(工数/点)=基準工数(工数/点)/(α×要因1×β)・・・(1)
一例として、配管開先合わせ作業の場合、配管の口径は大きければ大きいほど、工事に掛かる工数は大きくなる。これらは配管口径にて工数を正規化した値を基準工数として分析対象とすることで、AT/Hによって配管口径以外の工数変動要因が推定できるようになる。
新たな基準工数を用いたAT/Hによる工数算出式は次式で表すことができる。
【0029】
新たな基準工数(工数/点)=(a1×特徴量1+a2×特徴量2+a3×特徴量3+b)・・・(2)
上記(1)及び(2)から基準工数の予測式は以下となる。
基準工数予測式(工数/点)=(α×要因1×β)×(a1×特徴量1+a2×特徴量2+a3×特徴量3+b)・・・(3)
ここで要因1は明らかな要因(配管口径)による回帰式で求め、特徴量はAIによる評価式で求まる。
【0030】
上記(3)式は配管口径のみを正規化対象とし、またAT/Hによる特徴量を3つとしたときの例となるが、従来統計で影響度を除外する対象やAT/Hによって導き出す特徴量は分析対象となるデータ数にもよるが、一般には次式で表すことができる。
基準工数予測式(工数/点)=(要因1による回帰式)×(要因2による回帰式)×・・×(要因nによる回帰式)×(a1×特徴量1+a2×特徴量2+a3×特徴量3+・・+an×特徴量n+b)・・・(4)
実績工数のデータが多く、建設管理DB30と外部DB40から様々な情報を取得できれば、上記(4)式によって人的情報の影響のほか、気象条件や、場合によっては経済情勢として建設現場の失業率(建設現場の失業率が高い場合、腕の良い職人が余っている可能性があり、そのときの作業は腕の良い作業者が多く工数が小さくなると予測できる。)の工数変動への影響などが導き出せる可能性もある。
【0031】
なお、得られた工数算出式の良否の判断基準として、工数算出で計算した工数と実績工数間の決定係数で評価した。決定係数は、計算式の結果と実績値との相関係数を二乗したものである。
図8は決定係数の値と相関の強さの関係を示す表である。決定係数は、一般に16%以上の場合、実績と計算式の間には比較的相関があるとされる。
図9は前記配管開先合わせ作業を対象としたAT/Hによる工数算出式の説明図である。
同図はあらかじめ工数変動に明らかな影響を与える要因として(
図6参照)、配管口径の他、建設時期、作業者の現場従事期間については影響度を統計的に正規化し、その影響度を順次除いて計算を示している。配管口径、時期、作業者従事期間で正規化済みの基準工数算出式は、順次、従来統計による回帰式で算出したものであり、ここでの数式は省略する。
【0032】
同図に示すAT/Hが抽出した工数変動への影響が高い上位の特徴量1−3は、それぞれの影響度が係数と切片の一次式で算出されている。作業場所高さ、エリア形状、エリア面積、密集度はいずれも算出条件を定義して導き出した定量的な情報になっている。
特徴量1からは作業場所高さが比較的高く、かつ作業エリアの形状が複雑な条件の時に係数が2.88で、切片が0.85であることから基準工数は3.7倍の工数になる傾向が見られたと判断でき、これらに該当する作業は分析対象とした作業中10作業であった。同様に特徴量2としてエリア面積が比較的小さく、かつ密集度が高い場合に4.0倍の工数増の傾向があり該当する作業は1であった。特徴量3からはエリア面積が中程度の所で1.5倍の工数増加傾向があり、該当する作業が15作業であった。特徴量1−3に該当しない作業は、それぞれ特徴量が0となり、工数は切片から0.85倍の減少傾向になることがわかった。特徴量の数値はその条件に全ての対象物が該当すれば特徴量は1、全て該当しなければ0、半分該当すれば0.5という値になる。
【0033】
本実施例では実績工数への影響が明らかとして
図6のように考えた影響因子(変動要因)以外に
図4で示したような要因データの様々な影響因子の中から工数変動要因どうしの組み合わせによって、膨大な工数変動を説明する特徴量(要因の組み合わせ)を自動作成すると共に、同様の影響になる組み合わせは類似の特徴量としてグループ分けしながら、統計的に矛盾のない(多重共線性を避ける)工数変動要因の組み合わせを自動抽出している。これにより具体的に工数算出サーバ60は、従来統計による基準工数算出式×AIによる工数算出式によって工数を予測可能としている。
上記工数算出サーバ60により作業工数に影響のある工数変動要因を自動抽出した結果、例えば、作業位置情報、作業空間密集度の工数変動要因によって基準工数が増加する傾向があるという関係性がわかることになる。
【0034】
図10は実績基準工数と、従来統計による工数算出式及び工数算出サーバによる工数算出式から算出した基準工数を比較した説明図である。同図の縦軸は基準工数変動比を示し横軸は作業番号を示している。また丸プロットは実績基準工数(実績データ)、四角プロットは本実施形態の工数算出サーバによる工数算出式から算出した基準工数を示している。配管口径、建設時期、作業者の現場従事時間以外の工数変動要因をAT/Hが自動抽出し、従来統計処理による評価と組み合わせる。この結果、
図7に示す従来統計による工数算出式よりも、従来統計による工数算出式×AIによる工数算出式の方が実績基準工数との差違が少なくなった。
また工数算出サーバ60は、実績基準工数と工数変動式の決定係数(実績基準工数/工数変動式の値×100)(%)の閾値を予め定めている。この決定係数は、値が大きいほど基準工数との相関があり、値が小さいほど基準工数との相関が少ない。本実施形態では、決定係数の閾値を一例として40%と定めており、40%以上の場合には、工数算出式を決定とし、40%に満たない場合には、影響因子による説明式を作成して、再度工数算出サーバ60による新たな自動抽出を行っている。なお工数のばらつきが少ない作業では、この閾値をより高く設定できる。
【0035】
[工数分析方法]
上記構成による本発明の工数分析方法について、以下説明する。
図2は、本発明の工数分析システムの処理フロー図である。
<AI計算用データ作成>
図11は工数データ及び要因データの説明図である。
工数分析に利用するデータ構造は、2つの構成からなり、一方は管理対象となる作業番号でくくった予測すべき対象となる要素作業毎の工数データに関するものである。またここには工数データのほかに作業番号毎に比較ができるように作業番号毎の作業物量として配管開先合わせ作業であれば開先合わせ点数があり、工数をこの物量で除した単位物量当たりの工数を表す基準工数(工数/点)のデータが含まれる。他方は作業番号に含まれる全ての要素作業とその要素作業毎の作業条件を示した要因データとなる。
【0036】
ここで、要因データは各要素作業の工数が変動すると考えられる要因の条件をまとめた構成であり、工数データと比べて膨大な項目数(要素作業数と工数変動要因)となる。これらのデータは
図1の建設管理DB30と外部DB40から取得する。建設管理DB30からは対象物の大きさや形状、材質、接続点情報、作業位置に関する情報、作業者の資格情報等から考えられるあらゆる要因の条件を登録してよい。
さらに、外部DB40から対象となる要素作業実施時の気象情報や作業実施時期の経済情勢等から場合によっては失業率や外国人労働者の受入れ率等、該当建設現場の作業に影響が考えられるあらゆる要因の情報を登録してよい。
考えられ、かつデータ取得可能なあらゆる要因の情報が登録されれば、データ数に応じてAT/Hが工数変動の説明に合致する要因の組み合わせとなる特徴量を自動生成して抽出してくれる。
【0037】
ステップ1:データ作成サーバ50により実績作業データベース20のデータに基づいてデータ形式変換(予測対象データ)を行う。具体的には工程算出式に用いる工数データとなる実績工数や単位重量あたりの実績工数で表す実績基準工数を計算する。
ステップ2:次にデータ作成サーバ50により建設管理データベース30及び外部データベース40のデータに基づいてデータ形式変換(予測対象条件データ)を行う。具体的には要因データとなる構造の工程算出式に用いる工数変動要因の実績条件の一覧を作成する。
【0038】
<AIによる要因抽出と工数算出式作成>
ステップ3:工数算出サーバ60において、AI(人工知能)による機械学習によって、複数の工数変動要因を組み合わせた膨大な特徴量データを自動生成し、それらの特徴量の中からどの特徴量の組み合わせが工数変動の説明に合致するか自動抽出する。
ステップ4:そして抽出した工数変動要因による工数算出式を作成する(従来統計による工数算出式×AIによる工数算出式)。
図7に示すような明らかに相関が高い影響因子が選別できていない場合、この段階でAIが自動的に相関の強い因子を抽出して、それらのみを抽出してくる場合もある。
ステップ5:次に実績基準工程と作成した工数算出式の値の決定係数を算出し閾値以上であるか否かの判断を行う。
ステップ6:あらかじめ定めた閾値以上の場合には、実績基準工数に近い工数算出式として決定する。
【0039】
ステップ7:一方、閾値に満たない場合には、AIが抽出した影響度の強い要因を選択する。前記配管開先合わせ作業の場合、配管口径の他、建設時期、作業者の現場従事期間等となる。
AT/Hが推定する要因は影響度の高い上位の特徴量を推定するため、全ての要因をAT/Hだけで計算した場合、人が経験から比較的容易に判断可能なものが相関の高い要因として優先的に抽出される。一方、人が判断し難い潜在的な要因が他より相関が低く評価式に反映されないことが発生する。そこでこのような場合は、工数変動との相関が明らかな要因は線形回帰等の従来統計処理でその影響度を解析して、その範囲外とする。
【0040】
<従来統計処理による工数算出式作成>
ステップ8:影響が明らかになった要因であるか否かの判断を行う。人が経験から比較的容易に判断可能な工数変動への相関の高い要因でもよいし、AT/Hが最初に導き出した要因でもよい。前記配管開先合わせ作業の場合、配管口径の他、建設時期、作業者の現場従事期間となる。要因がない場合、ステップ1に移行する。
ステップ9:ステップ1で要因がある場合(Yes)、従来の統計処理により影響度を定量化する。
ステップ10:明らかになった要因の影響度を取り除いた新たな基準工数データを作成する(データの正規化)。その後、ステップ1に移行する。
【0041】
図12は平均口径を明らかな影響因子として正規化した工数データ及び要因データの説明図である。同図に示す工数データでは、影響因子を取り除く前の基準工数が正規化され更新された新たな基準工数が表示されている。
このような本発明によれば、AT/Hで導き出した工数算出式は未知作業の工数を予測するものではなく、あらかじめ取り上げた工数変動要因の中から、工数変動への寄与が高いものを選出しているものであり、別の要因に関するデータが収集できれば、決定係数も高まる可能性がある。従来の統計処理では一つ一つの要因を人間が手作業で確認しなければならなかった作業をAI技術が自動で選出していることに有効性がある。
【0042】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明した。しかしながら、本発明は、上記実施形態に何ら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の変更が可能である。
また、本発明は、実施形態において示された組み合わせに限定されることなく、種々の組み合わせによって実施可能である。