特許第6937342号(P6937342)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6937342
(24)【登録日】2021年9月1日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】水性液体香料組成物
(51)【国際特許分類】
   C11B 9/00 20060101AFI20210909BHJP
   A61Q 13/00 20060101ALI20210909BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20210909BHJP
   A61K 8/31 20060101ALI20210909BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20210909BHJP
【FI】
   C11B9/00 C
   A61Q13/00 100
   A61K8/34
   A61K8/31
   C11B9/00 E
   C11B9/00 R
   A61L9/01 V
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2019-140649(P2019-140649)
(22)【出願日】2019年7月31日
(65)【公開番号】特開2021-24871(P2021-24871A)
(43)【公開日】2021年2月22日
【審査請求日】2020年12月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 龍之介
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 雅之
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2019−137694(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/054939(WO,A2)
【文献】 特開2014−024953(JP,A)
【文献】 特開2012−000024(JP,A)
【文献】 特開平07−102278(JP,A)
【文献】 特表2018−522014(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 9/00− 9/02
A61L 9/00− 9/22
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−90/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
FSTA(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記香料化合物(a-1)及び(a-2)を含有し、香料化合物(a-1)の含有量が0.2質量%以上3.0質量%以下、香料化合物(a-2)の含有量が12質量%以下、香料化合物(a-1)と香料化合物(a-2)との質量比(a-2)/(a-1)が1.0以上10以下であり、エタノールの含有量が35質量%以上69質量%以下、界面活性剤の含有量が0.001質量%未満である、水性液体香料組成物。
(a-1):50質量%エタノール水溶液への溶解度が1.0質量%未満である難水溶性香料化合物
(a-2):25℃におけるハンセン溶解度パラメータ(HSP)において、中心値(δdph)=(16.52, 4.02, 9.66)[Mpa1/2]であり、相互作用半径R=2.2[Mpa1/2]であるハンセン球内の香料化合物
【請求項2】
水を30質量%以上含有する、請求項1に記載の水性液体香料組成物。
【請求項3】
香料化合物(a-1)が、香料化合物(a-1)としては、例えば、1,3,5−ウンデカトリエン、α-ターピネン、α-ピネン、α-フェナンドレン、β-ピネン、γ-ターピネン、アセチルセドレン、オシメン、カリオフィレン、カンフェン、ジフェニルメタン、ジペンテン、セドレン、ターピノレン、p-サイメン、p-メンタン、バレンセン、ビサボレン、ベルドラシン、ミルセン及びリモネンからなる群より選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載の水性液体香料組成物。
【請求項4】
香料化合物(a-2)が、1−オクテン−3-オール、2,6−ノナジエナール、2−メチル−3-ブテン−2−オール、3,5,5−トリメチルシクロヘキサノール、1-オクタノール、1-ノナノール、1-デカノール、1-ウンデカノール、10-ウンデセン-1-オール、1-ドデカノール、イソ吉草酸、イソシクロゲラニオール、ゲラン酸、シス−3−ヘキセニルラクテート、シス−6−ノネン−1−オール、シトロネル酸、シトロネロール、ジヒドロフロラロール、デカン酸、9-デセン-1-オール、トランス−2−ヘキセン−1−オール、ノナン酸、パンプルフルール(登録商標)、ヒドロキシシトロネロール、フェニルヘキサノール、フォルロシア(登録商標)、フロラロール、ヘキサン酸、ヘプタン酸、ペリルアルコール、メントール、モサローム及びロジノールから選ばれる1種以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の水性液体香料組成物。
【請求項5】
香料化合物(a-2)が、Labeled Magnitude Scaleによるニオイ強度の最大値が33.3以下の香料化合物である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の水性液体香料組成物。
【請求項6】
エタノール水溶液を溶媒とし、難水溶性香料化合物を溶解した水性液体香料組成物の製造方法であって、下記要件1〜5を満たすように、下記香料化合物(a-1)及び(a-2)、エタノール、並びに水を混合する特徴を有する、水性液体香料組成物の製造方法。
(a-1):50質量%エタノール水溶液への溶解度が1.0質量%未満である難水溶性香料化合物
(a-2):25℃におけるハンセン溶解度パラメータ(HSP)において、中心値(δdph)=(16.52, 4.02, 9.66)[Mpa1/2]であり、相互作用半径R=2.2[Mpa1/2]であるハンセン球内の香料化合物
要件1:香料化合物(a-1)の含有量が0.2質量%以上3.0質量%以下
要件2:香料化合物(a-2)の含有量が12質量%以下
要件3:香料化合物(a-1)と香料化合物(a-2)との質量比(a-2)/(a-1)が1.0以上10以下
要件4:エタノールの含有量が35質量%以上69質量%以下
要件5:界面活性剤の含有量が0.001質量%未満
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性液体香料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
空間への香りの揮散は、心地よい空間を創造したり、生活空間内の臭気に伴う不快感を軽減したりするために一般的に行われている。空間へ香りを揮散させる芳香剤の形態としては、寒天やカラギーナンに香料を含ませたゲルタイプ、お香のような燻煙タイプ、香料を溶剤に溶かした液体タイプがあるが、芳香器などを用いて自由に香りを噴霧でき、外観も良いことから、空間デザインを目的とした芳香剤では液体タイプが最近よく用いられている。
【0003】
香料化合物は親油性であるため、これを溶解して液体タイプの香料組成物とするには、一般的にエタノール、イソプロパノール等の有機溶剤が用いられる。しかし、これらの有機溶剤は引火点が低く、法律で使用や保管が制限される場合がある。引火性を抑制することができ、かつ低コストである香料組成物としては、有機溶剤と共に水を用いた水性液体香料組成物が挙げられる。このような水性液体香料組成物において、水の比率をある程度高くして相対的に有機溶剤の比率を下げることにより、引火点を高くすることができる。しかし、前述のとおり香料化合物の多くは親油性であり、水に溶けづらいことから、水性溶剤への溶解を補助する手段が必要となる。
【0004】
香料化合物等の親油性化合物を水性溶剤に溶解させる最も一般的な手段は界面活性剤を用いることであり、従来、可溶化性能等の観点から、種々の構造の界面活性剤の利用が提案されている(例えば、特許文献1〜4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭54-132491号公報
【特許文献2】特開昭57-070197号公報
【特許文献3】特表2003-534431号公報
【特許文献4】特開平09-301844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、界面活性剤は不揮発性であるため、芳香器の噴霧部に蓄積して目詰まりを起こしたり、香料組成物の組成変化を起こしたりするという問題や、微粒子状に揮散させた場合、これを吸引することによる人体に対する安全性上の懸念がある。前記先行技術の中にも同様の問題点に触れているものもあるが、界面活性剤を利用する技術である以上は、これらの問題を完全に解消するものではなかった。
【0007】
したがって本発明は、芳香器の噴霧部の目詰まり、香料組成物の組成変化、吸引による人体に対する安全性等の問題を生ずることなく、難水溶性の香料化合物を安定に溶解した透明水性液体香料組成物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、界面活性剤を実質的に使用することなく、安全な濃度範囲のエタノール水溶液に対し、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)を利用したハンセン球法によって選択された特定の香料化合物を溶解助剤として少量添加することによって、難水溶性の香料化合物の溶解を好適に補助できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明は、下記香料化合物(a-1)及び(a-2)を含有し、香料化合物(a-1)の含有量が0.2質量%以上3.0質量%以下、香料化合物(a-2)の含有量が12質量%以下、香料化合物(a-1)と香料化合物(a-2)との質量比(a-2)/(a-1)が1.0以上10以下であり、エタノールの含有量が35質量%以上69質量%以下、界面活性剤の含有量が0.001質量%未満である、水性液体香料組成物を提供するものである。
(a-1):50質量%エタノール水溶液への溶解度が1.0質量%未満である難水溶性香料化合物
(a-2):25℃におけるハンセン溶解度パラメータ(HSP)において、中心値(δdph)=(16.52, 4.02, 9.66)[Mpa1/2]であり、相互作用半径R=2.2[Mpa1/2]であるハンセン球内の香料化合物
【0010】
さらに本発明は、エタノール水溶液を溶剤とし、難水溶性香料化合物を溶解した水性液体香料組成物の製造方法であって、下記要件1〜5を満たすように、下記香料化合物(a-1)及び(a-2)、エタノール、並びに水を混合する特徴を有する、水性液体香料組成物の製造方法を提供するものである。
(a-1):50質量%エタノール水溶液への溶解度が1.0質量%未満である難水溶性香料化合物
(a-2):25℃におけるHSPにおいて、中心値(δdph)=(16.52, 4.02, 9.66)[Mpa1/2]であり、相互作用半径R=2.2[Mpa1/2]であるハンセン球内の香料化合物
要件1:香料化合物(a-1)の含有量が0.2質量%以上3.0質量%以下
要件2:香料化合物(a-2)の含有量が12質量%以下
要件3:香料化合物(a-1)と香料化合物(a-2)との質量比(a-2)/(a-1)が1.0以上10以下
要件4:エタノールの含有量が35質量%以上69質量%以下
要件5:界面活性剤の含有量が0.001質量%未満
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、芳香器の噴霧部の目詰まり、香料組成物の組成変化、吸引による人体に対する安全性等の問題を生ずることなく、難水溶性の香料化合物を安定に溶解した透明水性液体香料組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔香料化合物(a-1):難水溶性香料化合物〕
香料化合物(a-1)は、親油性である香料化合物の中でも特に難水溶性のものである。本発明において難水溶性とは、50質量%エタノール水溶液への溶解度が1.0質量%未満であることをいう。
【0013】
香料化合物(a-1)としては、例えば、1,3,5-ウンデカトリエン、α-ターピネン、α-ピネン、α-フェナンドレン、β-ピネン、γ-ターピネン、アセチルセドレン、オシメン、カリオフィレン、カンフェン、ジフェニルメタン、ジペンテン、セドレン、ターピノレン、p-サイメン、p-メンタン、バレンセン、ビサボレン、ベルドラシン、ミルセン、リモネン等が挙げられる。
【0014】
本発明の水性液体香料組成物中における香料化合物(a-1)の含有量は、香りの質やバランスの観点から、0.2質量%以上であって、好ましくは0.4質量%以上、より好ましくは0.7質量%以上、また、香料化合物(a-2)によって安定に溶解する観点から、3.0質量%以下であって、好ましくは2.0質量%以下であり、より好ましくは1.0質量%以下である。
【0015】
〔香料化合物(a-2):溶解助剤としての香料化合物〕
香料化合物(a-2)は、香料化合物(a-1)をエタノール水溶液に溶解するための溶解助剤として用いられる香料化合物であり、25℃におけるHSPにおいて中心値(δdph)=(16.52, 4.02, 9.66)[Mpa1/2]であり、相互作用半径R=2.2[Mpa1/2]であるハンセン球内にある香料化合物である。香料化合物(a-2)は香料化合物であるがゆえにその他の香料化合物と同等の揮発性を有し、界面活性剤を使用した場合のような芳香器の目詰まり、香料組成の変化を起こさず、また人体に対する吸引安全性の問題も生ずることなく、香料化合物(a-1)に対し所定の比率で用いることにより、香料化合物(a-1)の溶解を補助し、安定に溶解させることができる。なお、HSPは、市販されているソフトウェアである HSPiP 5th Edition version 5.0.10.1 中の登録値又は推算値を使用した。このソフトウェアは、https://www.hansen-solubility.com/等のサイトから取得可能である。また、こうしたソフトウェアに基づくHSPの推算方法は、例えば C. M. Hansenらによる文献“Hansen Solubility Parameters: A User's Handbook, Second Edition”(CRC Press, 2007)に基づくことができる。
【0016】
香料化合物(a-2)は、香料組成物としての香調に対する影響をできるだけ抑える観点から、Labeled Magnitude Scale(LMS)によるニオイ強度の最大値が、33.3以下であることが好ましく、17.2以下であることがより好ましい。LMSは、B. G. Green(Chem. Senses., 1993, 18(6), 683-702)によって言語標識と対数尺度を組み合わせて開発された感覚強度尺度であり、測定対象による感覚強度の違いを直接的に、かつ、詳細に測ることが可能であり、味覚、嗅覚、触覚等の感覚強度の定量化・比較に利用されている。LMSは、0=「Barely detectable」、100=「Strongest Imaginable」として、0〜100の評価尺度内に示す感覚強度(「Barely Detectable」、「Weak」、「Moderate」、「Strong」、「Very Strong」)が標識されている。
【0017】
LMSによる数値が意味する強度を以下に示す。
0〜1.4:ほとんど匂いがしない、1.5〜6.1:弱い匂い、6.2〜17.2:楽に感じる匂い、17.3〜35.4:強い匂い、35.5〜53.3:とても強い匂い、53.4〜100:非常に強い匂い
【0018】
なお、本明細書においてLMSによるニオイ強度の最大値は、気温25度下で一晩平衡、飽和化させた香料気相濃度を専門パネル5名がLMSを用いて評価した値のことをいう。
【0019】
香料化合物(a-2)としては、例えば、1-オクテン-3-オール、2,6-ノナジエナール、2-メチル-3-ブテン-2-オール、3,5,5-トリメチルシクロヘキサノール、1-オクタノール、1-ノナノール、1-デカノール、1-ウンデカノール、10-ウンデセン-1-オール、1-ドデカノール、イソ吉草酸、イソシクロゲラニオール、ゲラン酸、シス-3-ヘキセニルラクテート、シス-6-ノネン-1-オール、シトロネル酸、シトロネロール、ジヒドロフロラロール、デカン酸、9-デセン-1-オール、トランス-2-ヘキセン-1-オール、ノナン酸、パンプルフルール(登録商標)、ヒドロキシシトロネロール、フェニルヘキサノール、フォルロシア(登録商標)、フロラロール、ヘキサン酸、ヘプタン酸、ペリルアルコール、メントール、モサローム、ロジノール等が挙げられる。これらのうち、LMSによるニオイ強度の最大値が33.3以下である、1-ノナノール、1-デカノール、1-ウンデカノール、10-ウンデセン-1-オール、1-ドデカノール、シス-6-ノネン-1-オール、シトロネロール、デカン酸、9-デセン-1-オール、パンプルフルール(登録商標)、ヒドロキシシトロネロール、フェニルヘキサノール、フロラロール及びメントールから選択される1種又は2種以上が好ましく、なかでもLMSによるニオイ強度の最大値が17.2以下である、1-デカノール、1-ウンデカノール、10-ウンデセン-1-オール、1-ドデカノール、デカン酸、パンプルフルール(登録商標)及びヒドロキシシトロネロールから選択される1種又は2種以上がより好ましい。
【0020】
本発明の水性液体香料組成物中における香料化合物(a-2)の含有量は、香料化合物(a-2)自体の溶解限界及びその香りの観点から、12質量%以下であって、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下である。なお、香料化合物(a-2)の含有量の下限値は、香料化合物(a-1)の含有量に応じて変動するため、下に示す香料化合物(a-1)と香料化合物(a-2)の質量比(a-2)/(a-1)によって定まることとなる。
【0021】
本発明の水性液体香料組成物中における香料化合物(a-1)と香料化合物(a-2)の質量比(a-2)/(a-1)は、香料化合物(a-1)を安定に溶解させる観点から、1.0以上であって、好ましくは1.2以上、より好ましくは2.0以上であり、また、香りの質やバランスの観点から、10以下であって、好ましくは7.0以下、より好ましくは4.0以下である。
【0022】
〔その他の香料化合物〕
本発明の水性液体香料組成物には、前記香料化合物(a-1)及び(a-2)以外に、例えば、Steffen Arctander編著“Perfume and Flavor Chemicals” Montclair, N.J.(U.S.A.) (1969年)、合成香料編集委員会編集「合成香料−化学と商品知識」(化学工業日報社、2016年12月20日、増補新版)、中島基貴編著「香料と調香の基礎知識」産業図書(1995年初版)等に記載されている公知の香料化合物を含有することができる。
【0023】
本発明の水性液体香料組成物中における全香料化合物の含有量は、空間に噴霧した際の香りの強度の観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、更に好ましくは2.0質量%以上であり、また、エタノール水溶液に対し安定に溶解する観点から、好ましくは6.0質量%以下、より好ましくは5.0質量%以下、更に好ましくは4.0質量%以下である。
【0024】
〔エタノール〕
本発明の水性液体香料組成物中におけるエタノールの含有量は、香料化合物を安定に溶解する観点から、35質量%以上であって、好ましくは40質量%以上、より好ましくは45質量%以上であり、また、香料組成物の引火点を上げ安全性を高める観点から、69質量%以下であって、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下、更に好ましくは52質量%以下である。
【0025】
〔水〕
本発明の水性液体香料組成物中における水の含有量は、香料組成物の引火点を上げ安全性を高める観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは45質量%以上であり、また、香料化合物を安定に溶解する観点から、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下、更に好ましくは52質量%以下である。
【0026】
〔その他の溶剤〕
本発明の水性液体香料組成物には、エタノール及び水以外に、更に必要に応じ、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール(ソルフィット:登録商標);3-メトキシ-3-メチル-1-ブチルアセテート(ソルフィットAC:登録商標)、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール、カプリリルグリコール、1,2-ヘキサンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、イソプレングリコール、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、アルキル基の炭素数が3〜8のモノアルキルグリセリルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジメトキシメタン、ベンジルアルコール、フェノキシエタノール、ベンジルオキシエタノール等の溶剤(希釈剤)を含有することができる。
【0027】
〔界面活性剤〕
本発明は、芳香器の目詰まりや香料組成物の組成変化の原因となる界面活性剤を実質的に使用することなく、揮発性である香料化合物を溶解助剤として使用することで難水溶性香料化合物の溶解を補助し、安定に溶解させることを特徴とする。この点から、本発明の水性液体香料組成物中における界面活性剤の含有量は、0.001質量%未満であって、好ましくは0.0005質量%以下、より好ましくは0.0001質量%以下であり、本発明の水性液体香料組成物中に界面活性剤を実質的に含まないことが更に好ましい。
【0028】
〔製造方法〕
本発明の水性液体香料組成物は、下記要件1〜5を満たすように、香料化合物(a-1)及び(a-2)、エタノール、並びに水を混合することによって製造することができる。
要件1:香料化合物(a-1)の含有量が0.2質量%以上3.0質量%以下
要件2:香料化合物(a-2)の含有量が12質量%以下
要件3:香料化合物(a-1)と香料化合物(a-2)との質量比(a-2)/(a-1)が1.0以上10以下
要件4:エタノールの含有量が35質量%以上69質量%以下
要件5:界面活性剤の含有量が0.001質量%未満
【実施例】
【0029】
実施例1-1〜1-3、比較例1-1〜1-3
99.5質量%エタノール(富士フイルム和光純薬社製)とイオン交換水を用い、50質量%のエタノール水溶液を調製した。
この50質量%エタノール水溶液に対し、表1に示すセダー調調合香料を表中に示す賦香率のとおり添加して香料組成物を調製し、気温25℃、湿度40度で一晩静置後、目視で溶解状態を下記の基準に従って確認した。
【0030】
(溶解状態の評価基準)
〇:透明溶液。高い溶解補助効果あり
△:極めて微量の溶け残りが生じるが、大部分は溶解した。溶解補助効果あり
×:白濁した。溶解補助効果なし
【0031】
その後、密閉した評価ブース(2.72m3)内に、芳香器で前記香料組成物20μLを噴霧し、ブース内の空気を小型扇風機を用いて循環させ、噴霧終了後1分後に空間の香りの質について、下記の3段階評価を行った。
【0032】
(香りの質の評価基準)
〇:香料化合物(a-2)を添加していない香料組成物(比較例1-2)と同様の香調
△:香料化合物(a-2)を添加していない香料組成物(比較例1-2)と一部異なる香調
×:香料化合物(a-2)を添加していない香料組成物(比較例1-2)と異なる香調
【0033】
【表1】
【0034】
実施例2、比較例2-1〜2-2
表2に示すシトラス調調合香料を表中に示す賦香率のとおり添加して香料組成物を調製し、前記と同様にして溶解状態及び香りの質を評価した。なお、香りの質の評価における比較対象(基準)は、比較例2-2とした。
【0035】
【表2】
【0036】
実施例3、比較例3-1〜3-2
表3に示すパイン調調合香料を表中に示す賦香率のとおり添加して香料組成物を調製し、前記と同様にして溶解状態及び香りの質を評価した。なお、香りの質の評価における比較対象(基準)は、比較例3-2とした。
【0037】
【表3】