特許第6937343号(P6937343)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6937343
(24)【登録日】2021年9月1日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】高輝度を有する蓄光繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/62 20060101AFI20210909BHJP
   D01F 8/14 20060101ALI20210909BHJP
   C09K 11/64 20060101ALI20210909BHJP
【FI】
   D01F6/62 302Z
   D01F8/14 B
   C09K11/64
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-153458(P2019-153458)
(22)【出願日】2019年8月26日
(65)【公開番号】特開2020-51016(P2020-51016A)
(43)【公開日】2020年4月2日
【審査請求日】2019年8月26日
(31)【優先権主張番号】107134163
(32)【優先日】2018年9月27日
(33)【優先権主張国】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】501296612
【氏名又は名称】南亞塑膠工業股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】NAN YA PLASTICS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100196117
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 利恵
(72)【発明者】
【氏名】廖▲徳▼超
(72)【発明者】
【氏名】蘇崇智
(72)【発明者】
【氏名】▲頼▼佳昇
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−081543(JP,A)
【文献】 特開2001−131829(JP,A)
【文献】 特開2006−348393(JP,A)
【文献】 特開2005−054307(JP,A)
【文献】 特開2014−214309(JP,A)
【文献】 特開2015−086345(JP,A)
【文献】 特開2016−102051(JP,A)
【文献】 特開2007−132149(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F1/00−9/04
C09K11/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄光マスターバッチを溶融して紡糸することで製造された高輝度を有する蓄光繊維であって、
前記蓄光マスターバッチは、全重量を基にして、
(a)固有粘度(IV)が0.2〜2.0であるポリエステル粉末又はポリエステルペレットから選ばれる79.5〜95wt%の熱可塑性高分子と、
(b)蓄光パウダーに対する添加量が0.1〜20wt%であるシランカップリング又はチタネートの変性剤で蓄光パウダー表面が変性されてなる、一般式M1−XAl・Euで示されアルミネート類ドープ微量希土類元素である変性蓄光パウダーであって、MがSr、Mg、Ca又はBaであり、NがDy、La、Ce、Mn、Sm、Gd、Pr、Lu、Ho、Y、Yb、Tm又はErであり、−0.33≦X≦0.6、0.001≦Y≦0.002、0.002≦Z≦0.005を満たす1〜20wt%の変性蓄光パウダーと、
(c)0.01〜5wt%のヒンダードフェノール型又はホスファイト型酸化防止剤から選ばれる酸化防止剤と、
を各成分の全量が100wt%となるように含有し、
製造された前記蓄光繊維は、
(1)D65光源によって200LUXで20分間照射すると、初期2分間の輝度が150mcd/m以上に達成可能であり、
(2)D65光源によって25LUXで15分間照射すると、初期2分間の輝度が50mcd/m以上に達成可能である条件を満たすことを特徴とする、蓄光繊維。
【請求項2】
前記蓄光マスターバッチの昇圧値は0.5bar/g以下であることを特徴とする、請求項1に記載の蓄光繊維。
【請求項3】
前記蓄光繊維の繊維太さは1〜10dpfにあることを特徴とする、請求項1又は2に記載の蓄光繊維。
【請求項4】
前記蓄光繊維の繊維構造は芯鞘型構造であり、芯部が蓄光マスターバッチであり、鞘部がポリエステルであり、芯鞘比が40/60〜60/40であることを特徴とする、請求項3に記載の蓄光繊維。
【請求項5】
前記蓄光繊維の直径度は10〜30マイクロメートルであることを特徴とする、請求項3に記載の蓄光繊維。
【請求項6】
前記変性蓄光パウダーは、蓄光パウダーに対する添加量が1〜10wt%である3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン又はピロリン酸チタネートを含むことを特徴とする、請求項1に記載の蓄光繊維。
【請求項7】
前記熱可塑性高分子の固有粘度(IV)は1.2であることを特徴とする、請求項1に記載の蓄光繊維。
【請求項8】
前記酸化防止剤はビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ベンタエリスリトールジホスファイトであることを特徴とする、請求項1に記載の蓄光繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蓄光繊維に関し、特に、低光源条件でも高輝度を呈することができる蓄光繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、織物の暗状態における視認性を高めるために、蓄光性を有する繊維は既に異なる分野で広く適用されてきた。
【0003】
蓄光材の発光原理としては、蓄光材で可視光、紫外線又は太陽光を吸収し、光源がなくなった後、燐光と称される残光を発光できる。蓄光材を繊維に加えて蓄光繊維を製造することは、染色する必要がないだけでなく、繊維が昼に可視光又は太陽光を吸収して電子エネルギー準位の遷移を引き起こすことにより、夜又は暗所では様々な色の残光を発光して視認性を向上させることができる。
【0004】
このような蓄光繊維については、従来、特許文献1及び特許文献2には、硫化物を蓄光材として添加して繊維を製造することが開示された。特許文献3には、硫化亜鉛を複合蓄光繊維の主材とすることが開示されたが、上述した繊維は、輝度が弱くて発光時間が短いという欠点を有する。特許文献4には、輝度効果を向上させるために、一般式(M0.9995Eu0.0005−0.002)Al・(M0.9995Eu0.0005−0.002)O・n(Al−b−a(MはSr、Ca、Mg、Baの少なくとも1種の元素であってもよく、QはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Y、Lu、Mn、及びBiの少なくとも1種の元素であり、a=0.0005〜0.002であり、b=0.001〜0.35であり、n=1〜8である)で示される蓄光材が開示された。特許文献5には、上述した構成の蓄光パウダーを採用してポリオレフィン繊維を製造することが開示されたが、ポリオレフィンの融点が160℃であるため、加工過程において高温のため溶融現象が生じやく、また、比重<0.9であるため、繊度が細かい繊維を製造できないようになり、そして染色できないという問題もある。
【0005】
特許文献6に開示された「高輝度夜光性繊維及びその製造方法」は、焼結手段によって得られた夜光性パウダーを利用し、夜光性パウダーを芯鞘型繊維の芯部としてポリエステル樹脂又はポリオレフィン樹脂に加え、夜光性パウダーを含まないポリエステルを鞘部の材料とする。これにより、上述した高輝度夜光性繊維は夜光性パウダー7〜25%を含み、1000LUXで30分間照射して経時的に輝度を記録したところ、照射を停止してから2分間後、輝度がいずれも280mcd/m以上に達成できるが、10分間後、輝度が80%以上に減衰し、1時間後、輝度がただ2分間後における輝度の2.3%〜4.2%になり、蓄光繊維の輝度の減衰率が速くて残留光度のパーセントが低くなった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭49−47646公報
【特許文献2】特公平3−70020公報
【特許文献3】特開平112414公報
【特許文献4】日本特開平10−231480
【特許文献5】日本特開2000−136438号公報
【特許文献6】台湾特許第564268号特許
【発明の概要】
【0007】
本発明の主な目的は、上述した従来技術の問題を解決するために、蓄光マスターバッチを溶融して紡糸することで製造され繊維太さが1〜10dpfにある蓄光繊維を提供し、特に、低光源(200LUX以下)の条件でも高輝度を有すると共に以下の条件を満たす蓄光繊維を提供することにある。
(1)D65光源によって200LUXで20分間照射すると、初期輝度が150mcd/m以上に達成可能である。
(2)D65光源によって25LUXで15分間照射すると、初期輝度が50mcd/m以上に達成可能である。
【0008】
本発明のもう1つの主な目的は、全重量を基にして、50〜95wt%の熱可塑性(高分子)樹脂と、1〜30wt%の変性蓄光パウダーと、0.01〜5wt%の酸化防止剤とを含む蓄光マスターバッチを提供することにある。変性蓄光パウダーは変性された後、樹脂に均一に分散することによって、変性蓄光パウダーと樹脂との結合性を向上させることができる。蓄光マスターバッチは、昇圧値が0.5bar/g以下である。紡糸で製造された蓄光繊維は低光源条件でもエネルギーを吸収し、暗所では高輝度と遅い輝度減衰率という繊維特徴を呈することができる。
【0009】
本発明の酸化防止剤は、ヒンダードフェノール型又はホスファイト型酸化防止剤から選ばれるものであり、好ましくは、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ベンタエリスリトールジホスファイトから選ばれるものである。
【0010】
本発明のもう1つの主な目的は、一般式M1−XAl・Euで示されアルミネート類ドープ微量希土類元素である(その中、MがSr、Mg、Ca又はBaであり、NがTd、Dy、La、Ce、Mn、Sm、Gd、Pr、Lu、Ho、Y、Yb、Tm又はErであり、−0.33≦X≦0.6であり、0.008≦Y≦0.002であり、0.002≦Z≦0.005である)変性蓄光パウダーを提供することにある。
【0011】
本発明の変性蓄光パウダーは、蓄光パウダーに対する添加量が0.1〜20wt%であるシランカップリング又はチタネート変性剤を含み、好ましくは、蓄光パウダーに対する添加量が1〜10wt%である3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン又はピロリン酸チタネートを含む。
【0012】
本発明に係る蓄光繊維は、低光源条件でも高輝度を呈することができるという顕著な効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の蓄光パウダーはアルミネート類ドープ微量希土類元素である。本発明の蓄光パウダーは一般式M1−XAl・Eu(その中、MがSr、Mg、Ca又はBaであり、NがTd、Dy、La、Ce、Mn、Sm、Gd、Pr、Lu、Ho、Y、Yb、Tm、Erであり、−0.33≦X≦0.6であり、0.008≦Y≦0.002であり、0.002≦Z≦0.005である。)で示される。本発明の蓄光パウダーは、パウダー表面変性技術によってパウダー表面が変性された。即ち、本発明の蓄光パウダーは、パウダーに対する添加量が0.1〜20wt%、好ましくは1〜10wt%であるシランカップリング又はチタネートなどの変性剤でパウダー表面が変性された。
【0014】
本発明のシランカップリングは、ビニルケイ素クロロホルム、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、β−(3,4−エポキシシクロへキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−(2−アジリジル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルトリメチルジエトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メチルプロぺニルプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メチルプロぺニルプロピルトリメトキシシラン、γ−メチルプロぺニルプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メチルプロぺニルプロピルトリエトキシシラン、N−β(アジリジル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アジリジル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アジリジル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3
−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ジ−(3−[トリエトキシシリル]−プロピル)−テトラスルフィド(TESPT)、又はジ−(3−[トリエトキシシリル]−プロピル)−ジスルフィドから選ばれ、好ましくは3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランである。
【0015】
本発明のチタネートは、イソステアリルチタネート、ステアロイルチタネート、オイルアルコールチタネート、又はピロリン酸チタネートから選ばれ、好ましくはピロリン酸チタネートである。
【0016】
本発明の蓄光パウダーの変性フローは、以下のステップを含む。
【0017】
蓄光パウダーを攪拌槽に入れ、アンカー型翼を攪拌翼として使用して200rpmの回転数で攪拌する。蓄光パウダーの重量に対して、変性剤である3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン1〜10wt%を使用し、変性剤/イソプロパノール=1/6(容積比)で希釈して溶解させ、蓄光パウダーに徐々に滴下する。翼の攪拌レートを1000rpmに調節し、滴下レートを1ml/分間とする。滴下が完了した後、攪拌槽を120℃まで昇温して2時間攪拌し、イソプロパノールを揮発させて変性蓄光パウダーを得た。
【0018】
本発明の蓄光マスターバッチの調製方法は、以下のステップを含む。
【0019】
蓄光マスターバッチの全重量を基にして、1〜30wt%の変性蓄光パウダー、50〜95wt%の熱可塑性高分子及び0.01〜5wt%の酸化防止剤を素材として使用する。可塑性高分子はポリエステル粉末又はポリエステルペレットから選択されてもよい。また、ポリエステル粉末又はペレットの固有粘度(IV)は0.2〜2.0であり、好ましくは1.2である。素材を均一に混合することで混合パウダーとした後、ダブルスクリュー押出機で混練した。混練温度180〜280℃且つ回転数250rpmの条件で、熱可塑性高分子(樹脂とも称する)が溶融状を呈する。この際に、蓄光パウダーにおける変性剤の末端基と樹脂との極めて良い相溶性によって蓄光パウダーを非常に均一に樹脂マトリックスに分散させる。更に、樹脂マトリックスを水冷してから乾燥させて、乾燥したものをペレタイズする。更に、140℃温度で4〜6時間乾燥を行った後、本発明の蓄光マスターバッチを完成した。
【0020】
更に具体的には、本発明の変性蓄光パウダーは無機材料であり、表面が変性されると、パウダーが完全に樹脂に均一に分散して分散性を高めることができる。したがって、本発明の蓄光マスターバッチは紡糸過程においても昇圧現象が無く、紡糸状況が良好であり、長期間で紡糸して生産することができる。
【0021】
本発明の酸化防止剤は、ヒンダードフェノール型酸化防止剤(Hindered Phenol Antioxidants)、又はホスファイト型酸化防止剤(Phosphite Antioxidants)から選ばれてもよい。
【0022】
ホスファイト型酸化防止剤は、ジメチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネート、ジエチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネート、ジプロピル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネート、ジブチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネート、ジペンチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネート、ジへキシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネート、ジへプチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネート、ジオクチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネート、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ベンタエリスリトールジホスファイト、ジエチル−ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ホスホネートマンガン、ジエチル−ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ホスホネートマグネシウム、ジエチル−ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ホスホネートカルシウム、ジエチル−ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ホスホネートジルコニウムから選ばれてもよく、好ましくはビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ベンタエリスリトールジホスファイトである。
【0023】
本発明に係る蓄光繊維は、乾燥された蓄光マスターバッチを溶融して紡糸することで製造されたものである。蓄光繊維の繊維構造としては、複合紡糸によって芯鞘型構造を構成してもよい。芯鞘型構造は、芯部が蓄光マスターバッチであり、鞘部がポリエステルであり、芯鞘比(芯/鞘)が40/60〜60/40である。
【0024】
本発明に係る蓄光繊維の製造方法は、以下のステップを含む。
【0025】
本発明の蓄光マスターバッチを素材として使用し、紡糸温度230〜290℃且つ紡糸巻き取り速度1000〜3000メートル/分間の条件で、複合紡糸によって芯鞘型構造の半延伸蓄光糸(POY)を形成し、仮撚過程によって加工糸(DTY)である本発明に係る蓄光繊維を製造した。蓄光繊維は直径度が10〜30マイクロメートル(μm)であり、繊維太さが1〜10dpfである。
【0026】
本発明に係る蓄光繊維は、繊維構造が芯鞘型として設計され、芯部の蓄光パウダーが繊維芯部に包まれるため、50回水洗しても、蓄光繊維の発光輝度を維持できる。そのため、本発明に係る蓄光繊維は、衣類や家内装飾、戸外安全性製品を含む繊維適用産業に広く適用され得る。
【0027】
以下、変性蓄光パウダーを製造して蓄光マスターバッチと蓄光繊維として加工するいくつかの具体的な実施例(実施例1〜4)を挙げる。また、比較例を提供して補助的に本発明の目的、効果及び原理を説明する。
【0028】
各の実施例及び比較例で製造された変性蓄光パウダー及び蓄光繊維は、以下の方法によって物性を評価した。
(1)昇圧測定
蓄光マスターバッチを8%に希釈し、ろ過昇圧試験機(メーカー:LabTech、型式:LTF34−GP)によってろ過網15μmで蓄光マスターバッチの昇圧値を評価した。昇圧値が低いほど、蓄光パウダーのポリエステル樹脂における分散状況が良くなると表す。
(2)輝度測定
JIS Z9107に準じ、直径35mmの大きさのガーターをサンプルとし、サンプルを黒い箱に置いて48h静置し、温度23±2℃且つ50±10%RHで、D65光源によって200LUXで20分間照射し、25LUXで15分間照射した後、輝度計(メーカー:KONICA MINOLTA、型式:LS−100)で測定し、2、10、20、30及び60分間の輝度を記録した。
【0029】
(実施例1)
(1)蓄光パウダー変性
蓄光パウダーを攪拌槽に置き、アンカー型翼を攪拌翼として使用して200rpmの回転数で攪拌する。蓄光パウダーの重量に対して、変性剤である3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン1wt%を使用し(表1、配合番号A1)、変性剤/イソプロパノール=1/6(容積比)で希釈して溶解させ、蓄光パウダーに徐々に滴下する。翼の攪拌レートを1000rpmに調節し、滴下レートを1ml/分間とする。滴下が完了した後、攪拌槽を120℃まで昇温して2時間攪拌し、イソプロパノールを揮発させて変性蓄光パウダーを得た。
(2)蓄光マスターバッチ製造
表2の素材配合を参照し、79.5wt%のPETポリエステル樹脂、20wt%の変性蓄光パウダーA1、及び0.5wt%のビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ベンタエリスリトールジホスファイト(以下、単に酸化防止剤RCPEP36と言う)を素材として使用し、ダブルスクリュー押出機によって溶融して造粒した。
(3)蓄光繊維製造
繊維標準75D/72Fで、芯部が乾燥した蓄光マスターバッチであり鞘部が乾燥したポリエステル粒子であるように、芯鞘比50/50、紡糸温度280℃、紡糸速度2500m/分間で部分延伸糸(POY)を製造し、そして加工糸(DTY)として加工してガーターの形に編織した。
【0030】
製造された蓄光マスターバッチの昇圧値を測定し、その結果を表2に示す。蓄光マスターバッチの紡糸とガーターの編織の後、輝度を測定して表3及び表4に示す。当該ガーターを50回水洗した後、輝度を測定したところ、表5に示すように、その蓄光効果は最初のレベルにも維持でき、糸の輝度は水洗の前後、影響されなかった。
【0031】
(実施例2)
(1)上記実施例1の製造方法と同じように変性蓄光パウダーを製造したが、変性剤添加量は蓄光パウダー重量の5wt%である(表1、配合番号A2)。
(2)表2の素材配合を参照し、79.5wt%のPETポリエステル樹脂、20wt%の変性蓄光パウダーA2及び0.5wt%の酸化防止剤RCPEP36を素材として使用し、ダブルスクリュー押出機によって溶融して造粒し、蓄光マスターバッチを製造した。
【0032】
製造された蓄光マスターバッチの昇圧値を測定し、その結果を表2に示す。蓄光マスターバッチの紡糸とガーターの編織の後、輝度を測定して表3及び表4に示す。当該ガーターを50回水洗した後、輝度を測定したところ、表5に示すように、その蓄光効果は最初のレベルにも維持でき、糸の輝度は水洗の前後、影響されなかった。
【0033】
(実施例3)
(1)上記実施例1の製造方法と同じように変性蓄光パウダーを製造したが、変性剤添加量は蓄光パウダー重量の10wt%である(表1、配合番号A3)。
(2)表2の素材配合を参照し、79.5wt%のPETポリエステル樹脂、20wt%の変性蓄光パウダーA3及び0.5wt%の酸化防止剤RCPEP36を素材として使用し、ダブルスクリュー押出機によって溶融して造粒し、蓄光マスターバッチを製造した。
【0034】
製造された蓄光マスターバッチの昇圧値を測定し、その結果を表2に示す。蓄光マスターバッチの紡糸とガーターの編織の後、輝度を測定して表3及び表4に示す。当該ガーターを50回水洗した後、輝度を測定したところ、表5に示すように、その蓄光効果は最初のレベルにも維持でき、糸の輝度は水洗の前後、影響されなかった。
【0035】
(実施例4)
(1)上記実施例1の製造方法と同じように変性蓄光パウダーを製造したが、変性剤はピロリン酸チタネートであり、添加量は蓄光パウダーの1wt%である(表1、配合番号A4)。
(2)表2の素材配合を参照し、79.5wt%のPETポリエステル樹脂、20wt%の変性蓄光パウダーA4及び0.5wt%の酸化防止剤RCPEP36を素材として使用し、ダブルスクリュー押出機によって溶融して造粒し、蓄光マスターバッチを製造した。
【0036】
製造された蓄光マスターバッチの昇圧値を測定し、その結果を表2に示す。蓄光マスターバッチの紡糸とガーターの編織の後、輝度を測定して表3及び表4に示す。当該ガーターを50回水洗した後、輝度を測定したところ、表5に示すように、その蓄光効果は最初のレベルにも維持でき、糸の輝度は水洗の前後、影響されなかった。
【0037】
(比較例1)
(1)蓄光パウダーが変性されない(表1、配合番号A5)。
(2)表2の素材配合を参照し、79.5wt%のPETポリエステル樹脂、20wt%の蓄光パウダーA5及び0.5wt%の酸化防止剤RCPEP36を素材として使用し、ダブルスクリュー押出機によって溶融して造粒し、蓄光マスターバッチを製造した。
【0038】
製造された蓄光マスターバッチの昇圧値を測定し、その結果を表2に示す。蓄光マスターバッチの紡糸とガーターの編織の後、輝度を測定して表3及び表4に示す。当該ガーターを50回水洗した後、輝度を測定したところ、表5に示すように、その蓄光効果は最初のレベルにも維持でき、糸の輝度は水洗の前後、影響されなかった。
【0039】
(結果)
(1)実施例1〜3の蓄光パウダーは変性剤である3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで処理された後、また、実施例4の蓄光パウダーは変性剤であるピロリン酸チタネートで処理された後、それぞれ樹脂及び分散剤と混練して造粒し、蓄光マスターバッチを乾燥した後、ろ過昇圧試験機で昇圧値を評価したところ、その測定値(表2参照)はいずれも0.5bar/g以下であり、蓄光パウダーのポリエステル樹脂における分散状況が極めて良いと表す。
(2)比較例1の蓄光パウダーは変性されなく、直接に樹脂及び分散剤と混練して造粒し、蓄光マスターバッチを乾燥した後、ろ過昇圧試験機で昇圧値を評価したところ、その測定値(表2参照)は1.2bar/gであり、0.5bar/gよりも大きく、蓄光パウダーのポリエステル樹脂における分散状況が良くないと表す。
(3)上述した2つの結論によると、変性剤で処理された蓄光パウダーは、蓄光パウダーのポリエステル樹脂における分散に効果的に寄与し、パウダーの会合現象を低減し、また昇圧を改良し、蓄光繊維を順調に紡糸することに寄与できる、と実証された。
(4)実施例1〜4で製造された蓄光マスターバッチは、乾燥して水を除いた後、芯−鞘型としての複合紡糸となる。芯−鞘型としての複合紡糸は、芯部が蓄光マスターバッチであり、鞘部がポリエステルである。芯−鞘型としての複合紡糸が巻き取られた後、加工糸として加工された。加工糸をガーターとして編織したものの効果を評価したところ、表3のように、蓄光パウダーが表面変性されて紡糸された糸は、顕著に輝度が変性されないパウダー表面よりも高くて、表4のように、低輝度光源でも同じ傾向を有する。
(5)表5のように、実施例1〜4と比較例1を紡糸した後、糸の輝度は水洗の前後でも変化しないが、その理由としては、糸が複合紡糸によって得られるものであり、蓄光パウダーが繊維中心に包まれ、糸の輝度は水洗の前後、影響されなかった。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
【表5】