(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明によるエレベータの二重化ブレーキ装置およびブレーキ装置の二重化リニューアル方法の実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態によるエレベータの二重化ブレーキ装置を示す図である。この二重化ブレーキ装置は、エレベータのリニューアルに際して、
図2に示す既存の巻上機のブレーキ装置を二重化、すなわち、ブレーキアーム操作部を1つ増設したブレーキシステムに改造したものである。
【0011】
そこで、まず、
図2を参照して既存のブレーキ装置8について説明する。
図2において、参照番号11は、既存のブレーキドラムを示している。ブレーキドラム11の両側には、ブレーキアーム12a、12bが設けられている。ブレーキアーム12a、12bには、ブレーキシュー13a、13bが保持されている。ブレーキアーム12a、12bに架け渡されるように、スプリングロッド18が直角に取り付けられており、このスプリングロッド18の一端部には制動力発生スプリング19が設けられている。ブレーキアーム12a、12bの基端部は、軸14a、14bに枢支されている。制動力を発生させる場合には、制動力発生スプリング19の弾性力によって、ブレーキシュー13a、13bがブレーキドラム11に押し付けられるようになっている。
【0012】
次に、
図2において、参照番号15Aは、ブレーキ装置8を解放するためのブレーキアーム操作部である。
図3は、ブレーキアーム操作部15Aの構成を示す図である。
ブレーキアーム操作部15Aでは、左右一対の操作レバー16a、16bがソレノイドコイルによって駆動される。操作レバー16a、16bの一端部は、ブレーキアーム操作部15Aの両側に設けられた支持部23a、23bに回動可能に支持され、操作レバー16a、16bの他端部は、連結部21を介してブレーキアーム操作部15Aの駆動部と連結されている。
【0013】
操作レバー16a、16bの先端部には、それぞれボルト受け部22a、22bが形成されている。ブレーキアーム12a、12bの先端部には、ギャップ調整ボルト17a、17bが取り付けられている。このギャップ調整ボルト17a、17bは、ブレーキシュー13a、13bとブレーキドラム11との間の隙間を調整するボルトである。ギャップ調整ボルト17a、17bの先端は、操作レバー16a、16bのボルト受け部22a、22bに当接するようになっている。
【0014】
ブレーキアーム操作部15Aが操作レバー16a、16bを押し押し広げると、操作レバー16a、16bのボルト受け部22a、22bには、ギャップ調整ボルト17a、17bが当接するので、ブレーキアーム12a、12bが左右に広がり、ブレーキ装置8を解放することができる。なお、ブレーキシュー13a、13bとブレーキドラム11との間の隙間を調整する場合には、ねじ込んだギャップ調整ボルト17a、17bの位置をロックナット39で適当な位置に固定することでギャップの調整が可能である。
【0015】
次に、以上のような既存のブレーキ装置8を改造することにより二重化した
図1に示すブレーキ装置10について説明する。なお、
図1において、
図2の既存のブレーキ装置8の構成要素には、
図2と同一の参照符号が付されている。
この実施形態では、ブレーキドラム11、ブレーキシュー13a、13b、ブレーキアーム12a、12b、スプリングロッド18、制動力発生スプリング19、ブレーキアーム操作部15Aは、既存のものがそのまま活用されている。この二重化への改造にあたり、追加した構成要素は、既存のブレーキアーム12a、12bを長くするための延長ブレーキアーム30A、30Bと、スプリングロッド24および制動力発生スプリング19と、ブレーキアーム操作部15Bである。ブレーキアーム操作部15Bは、操作レバー20a、20bが支持部26a、26bに枢支されており、既存のブレーキアーム操作部15Aと同型である。
【0016】
制動力を発生するときには、ブレーキシュー13a、13bは、2つの制動力発生スプリング19、25の弾性力でブレーキドラム11に押し付けられる。この二重化によって、制動力は既存のシングル構成に較べて増強される。
制動力を解放する場合には、既設のブレーキアーム操作部15Aのソレノイドコイルが励磁されると、一方の操作レバー16aは、ギャップ調整ボルト17aを介して左側のブレーキアーム12aを押し広げ、ブレーキシュー13aをブレーキドラム11から離間させる。増設のブレーキアーム操作部15Bのソレノイドコイルも励磁され、他方の操作レバー20bは、ギャップ調整ボルト17bを介して右側の延長ブレーキアーム30Bおよびブレーキアーム12bを押し広げ、ブレーキシュー13bをブレーキドラム11から離間させる。
【0017】
ここで、
図4は、既存のブレーキ装置8から二重化されたブレーキ装置10に到る改造手順について順を追って示す図である。このうち、
図4(A)は、既存のブレーキアーム12a、12bに延長ブレーキアーム30A、30Bを継ぎ足す前の状態を示し、
図4(B)は、左側のブレーキアーム12aに延長ブレーキアーム30Aを継ぎ足した状態を示す。
図4(C)は、右側のブレーキアーム12bに延長ブレーキアーム30Bを継ぎ足してブレーキアームが更新された状態を示す。
図4(D)は、新規追加したブレーキアーム操作部15Bとスプリングロッド24および制動力発生スプリング25の取り付けが終わった延長ブレーキアーム30A、30Bを示している。
【0018】
まず、
図4(A)において、左側のブレーキアーム12bから既設のギャップ調整ボルト17a(
図2参照)を取り外す。このとき他方のギャップ調整ボルト17bはそのまま残しておく。次に、
図4(B)に示されるように、ギャップ調整ボルト17aを取り外した後のブレーキアーム12bの先端部に延長ブレーキアーム30Aを継ぎ足すようにして取り付ける。
ここで、
図5は、延長ブレーキアーム30Aの継手部を示す斜視図である。
延長ブレーキアーム30Aの継手部には、ギャップ調整ボルト17aが貫通する穴31が形成されている。このとき、ブレーキアーム12bの先端部のギャップ調整ボルト穴(図示せず)と延長ブレーキアーム30Bの穴31が合うように延長ブレーキアーム30Aを取り付ける。然る後、回り止め兼固定部材32を取り付け、図示しないねじを貫通穴35からねじ穴34に螺入して固定する。延長ブレーキアーム30Aの固定は、取り外したギャップ調整ボルト17aを位置調整しながら取り付け直すことで行う。このとき、ギャップ調整ボルト17aのセット位置は、残しておいたブレーキアーム12b側のギャップ調整ボルト17bと同期動作、すなわち同時に操作レバー16a、16bに当たるようにそれに合わせて位置調整すればよい。
【0019】
次に、同じようにして、他方のブレーキアーム12bについても、延長ブレーキアーム30Bを継ぎ足す。このときの作業は、最初の延長ブレーキアーム30Aの継ぎ足しと特段変わるところはない。ギャップ調整ボルト17bは不要になるので、これを外した後、延長ブレーキアーム30Aを固定するときは、図示しない首下長さの短いボルトを使用して固定する。このボルトがブレーキアーム操作部15Aの操作レバー16bに干渉するのを防止するためである。
【0020】
こうして、左右の延長ブレーキアーム30A、30Bの継ぎ足しが終わったら、次に、
図4(D)に示されるように、取付サドル36a、36bを図示しない支持部に配置し、この取付サドル36a、36bに新しく増設するブレーキアーム操作部15Bを固定する。増設するブレーキアーム操作部15Bとしては、既設のブレーキアーム操作部15Aと同一仕様の同じ製品であるのが好ましい。
【0021】
次に、
図4(D)において、追加するスプリングロッド24と制動力発生スプリング25を延長ブレーキアーム30A、30Bに取り付ける。この場合、延長ブレーキアーム30A、30Bには、予め、スプリングロッド24を通す穴が形成されているものとする。追加するスプリングロッド24と制動力発生スプリング25は、既存のスプリングロッド18と制動力発生スプリング19と同種のものである。最後に、延長ブレーキアーム30Aの先端部に、ギャップ調整ボルト17bを取り付け、ブレーキアーム操作部15Bの増設は終了する。
【0022】
制動力の調整は、増設したブレーキの制動機能について行われる。本実施形態の場合、追加した制動力発生スプリング25の弾性力の調整は、ナット37、38を締めたり緩めたりして実施される。また、ブレーキドラム11とブレーキシュー13a、13bの間のギャップの調整については、ギャップ調整ボルト17bを回すことで調整することができる。他方、既存のブレーキアーム操作部15Aと制動力発生スプリング19により発揮される制動機能については、リニューアル前に既に調整済であるので、調整作業は不要である。
【0023】
このように既存のブレーキシステムを土台として、延長ブレーキアーム30A、30Bやブレーキアーム操作部15B、スプリングロッド24および制動力発生スプリング25などのわずかな部品を追加することで、既設用品には大掛かりな改造を加えることなく、ブレーキシステムの二重化を図ることができる。従来、ブレーキアーム操作部を一式新品に交換する場合と較べると、ブレーキドラム11とブレーキシュー13a、13bの当たり具合の摺り合わせや、調整、制動力試験等の作業項目を必要とせず、部品取り付けと保守作業レベルの調整確認で全ての作業が完了する。
【0024】
次に、二重化されたブレーキ装置10の電源について補足しておく。
上記のように二重化された場合、2つの同じブレーキアーム操作部15A、15Bが並列に設けられている。電源ラインを分岐して、ブレーキアーム操作部15A、15Bを並列に接続すれば、ブレーキ解放時には、電源仕様を検討する必要なくどちらのブレーキアーム操作部15A、15Bも同時に動作させることができる。
【0025】
そして、各ブレーキアーム操作部15A、15Bの電源ライン上では、エレベータの制御装置に切り離し回路を組み込んでおくことが好ましい。これにより、どちらか一方のブレーキアーム操作部15A、15Bを任意に動作させることができるようになる。ブレーキの機能健全性を確認するときに、片ブレーキにおける制動性能、制動力を確認することがあるが、上記した切り離し回路があれば、実際の動作に即した電動による片ブレーキ操作が可能であり、制動力確認等の点検をプログラミングした手順により自動的に実行することが可能である。
【0026】
以上は電動によるブレーキの解放であるが、次のように、治具を利用した手動開放も可能である。
エレベータの保守点検時には、巻上機のブレーキを手動開放する操作が行われることがある。
図6は、ブレーキの手動開放に用いられる治具を示す図で、
図6(A)は正面図、
図6(B)は側面図である。
この開放治具は、レバー部40と、その先端に設けられた引掛け部41とからなる治具である。引掛け部41は、増設したブレーキアーム操作部15Bの操作レバー20a、20bの連結部に着脱可能に係合する。この解放治具は、
図6(B)に示されるように、てこの原理を応用して操作レバー20a、20bを押し広げ、ブレーキを解放できるようになっている。
図1において、実際の開放操作のときには、延長ブレーキアーム30Bにギャップ調整ボルト17bと同じギャップ調整ボルトを取り付けておく。
【0027】
このような開放治具を用いることにより、増設したブレーキアーム操作部15Aを手動操作し、延長ブレーキアーム30A、30Bを押し広げることにより、既設のブレーキアーム操作部15Aを操作することなく、ブレーキを開放することが可能になる。手動開放作業か終わったら、延長ブレーキアーム30B取り付けたギャップ調整ボルトは取り外しておく。
【0028】
以上のような開放治具は、既存のブレーキアーム操作部15Aにも用いられていた治具である。本実施形態のように、既存のブレーキアーム操作部15Aに同一品のブレーキアーム操作部15Bを増設すると、既存のブレーキアーム操作部15Aに使っていた開放治具をそのまま利用することができる。
【0029】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態によるエレベータの二重化ブレーキ装置について、
図7を参照して説明する。
この第2実施形態は、ブレーキ装置10のブレーキ開放動作時に正常に作動したかを監視する作動検知器を設けるようにした実施の形態である。なお、ブレーキ装置10の本体は、
図1の第1実施形態と同一なので、同一の構成要素には同一の参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。
図7に示されるように、ブレーキアーム12a、12bがそれぞれブレーキ開放の正常な動作位置に変位したことを検出する、例えばマイクロスイッチを用いた検出器44a、44bが設けられている。ブレーキ開放時には、それまでブレーキシュー13a、13bをブレーキドラム11に押し付けていたブレーキアーム12a、12bが開き、検出器44a、44bをオンにするので、正常なブレーキ開放動作が行われたことを検知することができる。
【0030】
以上のような第2実施形態によれば、既存のブレーキアーム操作部15Aと増設のブレーキアーム操作部15Bは独立してブレーキアーム12a、12bを動かすところ、正常に動作してブレーキ開放が行われたことを検出器44a、44bからの信号により確認することができる。また、二重化した左右それぞれのブレーキ機構の作動状況を独立して監視可能であり、新安全基準の要求を満たすことができる。例えば、ブレーキアーム12a、12bの一方のブレーキアームが正常に開かず、いわゆる引き摺り現象が発生したような場合にも、検出器44a、44bのうち一方のみから検知信号を得ることで、引き摺りが生じていることを把握することが可能である。
【0031】
以上、本発明のエレベータの二重化ブレーキ装置について、好適な実施形態を挙げて説明したが、これらの実施形態は、例示として挙げたもので、発明の範囲の制限を意図するものではない。もちろん、明細書に記載された新規な装置、方法およびシステムは、様々な形態で実施され得るものであり、さらに、本発明の主旨から逸脱しない範囲において、種々の省略、置換、変更が可能である。請求項およびそれらの均等物の範囲は、発明の主旨の範囲内で実施形態あるいはその改良物をカバーすることを意図している。