特許第6937364号(P6937364)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6937364-真空蒸着のための装置および方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6937364
(24)【登録日】2021年9月1日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】真空蒸着のための装置および方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20210909BHJP
   C23C 14/14 20060101ALI20210909BHJP
【FI】
   C23C14/24 A
   C23C14/24 D
   C23C14/24 J
   C23C14/14 C
【請求項の数】32
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-504124(P2019-504124)
(86)(22)【出願日】2017年7月27日
(65)【公表番号】特表2019-523345(P2019-523345A)
(43)【公表日】2019年8月22日
(86)【国際出願番号】IB2017000876
(87)【国際公開番号】WO2018020311
(87)【国際公開日】20180201
【審査請求日】2019年3月4日
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2016/054477
(32)【優先日】2016年7月27日
(33)【優先権主張国】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ペイス,セルジオ
(72)【発明者】
【氏名】シルベルベール,エリック
(72)【発明者】
【氏名】ウィルダース,ディミトリ
(72)【発明者】
【氏名】ボネマン,レミー
(72)【発明者】
【氏名】ガウヤット,リュシー
【審査官】 有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−138462(JP,A)
【文献】 米国特許第02665229(US,A)
【文献】 特表2010−522272(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/067662(WO,A1)
【文献】 特表2015−519469(JP,A)
【文献】 特開平06−306583(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0165326(US,A1)
【文献】 特開2007−169787(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主要素と、少なくとも1つの追加要素とを含む金属合金から形成されたコーティングを走行中の基材(S)上に連続して堆積させるための真空蒸着設備(1)であって、真空蒸着チャンバ(2)と、チャンバ内を通るように基材を走行させるための手段とを備え、真空蒸着設備は、
−蒸気ジェットコータ(3)と、
−主要素と、少なくとも1つの追加要素とを含む蒸気を蒸気ジェットコータに供給するのに適した蒸発るつぼ(4)と、
−溶融状態の主要素を蒸発るつぼに供給するのに適しており、蒸発るつぼ内の液体のレベルを一定に維持することが可能な再充填炉(9)と、
−少なくとも1つの追加要素が固体状態で供給されるのに適している供給ユニット(11)であって、蒸発るつぼに少なくとも1つの追加要素を、溶融状態、固体状態、または部分的に固体状態には無関係に、供給するのに適している供給ユニット(11)と、をさらに備え、
蒸気ジェットコータ(3)は、走行中の基材(S)上に蒸気を噴霧するように構成されており、
蒸気ジェットコータ(3)は、蒸発るつぼに取り付けられており、
蒸発るつぼ(4)は、ポット(5)、カバー(6)、およびカバーの一方の側と、蒸気ジェットコータ(3)の他方の側とに接続された蒸発管(7)で構成されており、
蒸発るつぼ(4)は加熱手段(8)を備えており、これにより蒸気を形成して蒸気ジェットコータ(3)に供給することを可能にし、
蒸着チャンバ(2)内の圧力は蒸発るつぼ内の圧力よりも低く保たれることにより、蒸気を発生させ、蒸発管(7)を介して蒸気ジェットコータ(3)に蒸気を送ることが可能である、真空蒸着設備(1)。
【請求項2】
供給ユニット(11)が供給管(12)を含む、請求項1に記載の真空蒸着設備。
【請求項3】
供給管(12)の下端が、蒸発るつぼ(4)内の液体のレベルよりも低い、請求項2に記載の真空蒸着設備。
【請求項4】
蒸発るつぼ(4)がカバー(6)を含み、その上に供給管(12)が接続されている、請求項2または3のいずれか一項に記載の真空蒸着設備。
【請求項5】
供給管(12)が、一方では少なくとも1つの追加要素が加熱されている間それを保持し、他方では蒸発るつぼ(4)内でそれを放出するのに適したインゴットホルダ(15)を備える、請求項2または4のいずれか一項に記載の真空蒸着設備。
【請求項6】
インゴットホルダ(15)が、U字形の断面を有する弁である、請求項5に記載の真空蒸着設備。
【請求項7】
供給管(12)が、少なくとも供給管の下部において、蒸発るつぼ(4)内の圧力より高い圧力を提供するのに適した不活性ガス入口(13)を備える、請求項2〜6のいずれか一項に記載の真空蒸着設備。
【請求項8】
供給ユニット(11)が予熱炉を備える、請求項1から7のいずれか一項に記載の真空蒸着設備。
【請求項9】
供給ユニット(11)が加熱装置(14)を備える、請求項1から8のいずれか一項に記載の真空蒸着設備。
【請求項10】
蒸気ジェットコータ(3)が音速蒸気ジェットコータである、請求項1から9のいずれか一項に記載の真空蒸着設備。
【請求項11】
蒸気ジェットコータ(3)の蒸気の供給が、蒸気るつぼ(4)を蒸気ジェットコータ(3)に接続する蒸発管(7)を介して行われる、請求項1から10のいずれか一項に記載の真空蒸着設備。
【請求項12】
再充填炉(9)が蒸発るつぼ(4)の下に配置され、大気圧に維持されるように適合されている、請求項1〜11のいずれか一項に記載の真空蒸着設備。
【請求項13】
蒸発るつぼ(4)の主要素の供給が、蒸発るつぼ(4)上に再充填炉(9)を接続する管(10)を通して行われる、請求項1〜12のいずれか一項に記載の真空蒸着設備。
【請求項14】
蒸発るつぼ(4)が誘導加熱器(8)を含む、請求項1〜13のいずれか一項に記載の真空蒸着設備。
【請求項15】
再充填炉(9)が、金属インゴット供給手段に接続されている、請求項1〜14のいずれか一項に記載の真空蒸着設備。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか一項に記載の真空蒸着設備を用いて、基材をコーティングするための方法であって、
−(i)金属合金浴に溶融状態の主要素を供給するステップと,
−(ii)少なくとも1つの追加要素を金属合金浴の上方で固体状態で加熱し、溶融状態、固体状態、または部分的に固体状態には無関係に、少なくとも1つの追加要素を金属合金浴に供給するステップと、
−(iii)主要素と、少なくとも1つの追加要素とを含む金属合金浴を蒸発させるステップと、
−(iv)主要素と、少なくとも1つの追加要素とを含む蒸気を用いて基材に噴霧するステップと、
−(v)主要素と、少なくとも1つの追加要素と、を含む金属合金層を基材上に連続して堆積させるステップと、を含む、基材をコーティングするための方法。
【請求項17】
請求項1〜15のいずれか一項に記載の真空蒸着設備を用いて、基材をコーティングするための方法であって、
−(i)主要素と、少なくとも1つの追加要素とを含む金属合金浴を蒸発させるステップと、
−(ii)主要素と、少なくとも1つの追加要素とを含む蒸気を用いて基材に噴霧するステップと、
−(iii)主要素と、少なくとも1つの追加要素とを含む金属合金層を基材上に連続して堆積するステップを含み、
金属合金浴が、一方では主要素を溶融状態で気圧効果によって連続して供給され、他方では少なくとも1つの追加要素を少なくとも部分的に固体状態で供給される、基材をコーティングするための方法。
【請求項18】
蒸気が音速で基材上に噴霧される、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
金属合金浴に連続して主要素が供給される、請求項16記載の方法。
【請求項20】
連続供給が気圧効果によって行われる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
少なくとも1つの追加要素を金属合金浴の上方で加熱する前に、少なくとも1つの追加要素の表面に存在する可能性がある酸化物が除去される、請求項16〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
酸化物の除去が化学研磨によって行われる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
金属合金浴に少なくとも1つの追加要素が不連続的に供給される、請求項16〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
少なくとも1つの追加要素がインゴットの形態である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
インゴットのサイズおよび/または供給頻度を制御することによって、金属合金浴は経時的に一定の組成に維持される、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
金属合金浴に少なくとも1つの追加要素が連続的に供給される、請求項16〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
少なくとも1つの追加要素がワイヤの形態である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
ワイヤの直径および/または供給速度を制御することによって、金属合金浴が経時的に一定の組成に維持される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
少なくとも1つの追加要素が、主要素よりも低い密度を有する、請求項16〜28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
主要素が亜鉛である、請求項16〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
少なくとも1つの追加要素がマグネシウムである、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
8重量%から43重量%のマグネシウム含有量を有する亜鉛系金属合金の浴を蒸発させることによって、0.1〜20重量%のマグネシウム含有量を有する亜鉛系金属合金の層を連続して前記基材に堆積させることを含む、請求項31に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば亜鉛−マグネシウム合金のような金属合金から形成されたコーティングを基材上に堆積させるための真空付着設備に関し、前記設備は、より詳細には、帯状の鋼を被覆することが意図されているが、それに限定されるものではない。本発明はまた、その基材をコーティングするための方法に関する。
【0002】
帯状の鋼などの基材上に合金からなる金属コーティングを堆積させるための様々な方法が知られている。これらの中でも、溶融コーティング、電着、さらには真空蒸着およびマグネトロンスパッタリングなどの様々な真空蒸着法を挙げることができる。
【0003】
音速蒸気ジェットコータ、コーティングの金属要素を含む蒸気をコータに供給するのに適した蒸発るつぼ、および再気圧効果によって蒸発るつぼに溶融した金属合金を供給するのに適した再充填炉を含む真空蒸着設備を用いて移動する基材上に金属合金層を堆積させることは、国際公開第2008/142222号パンフレットから知られている。そのような再充填炉は、所与のコーティング組成を生成するのに便利である。それにもかかわらず、コーティング組成物の変化が必要とされるとすぐに、再充填炉と、蒸発るつぼとの間の高さを適合させる必要がある。これは、再充填炉の非常に大きな経路をもたらす可能性があり、このことは工業的に合理的ではない。
【0004】
欧州特許第2937442号明細書からも、蒸気ジェットコータと、金属合金浴よりわずかに上で溶融するインゴットが供給される蒸発るつぼとを含む真空蒸着設備を用いて、移動する基材上に金属合金層を蒸着することが知られている。そのような供給は、2種類のインゴットが必要である、すなわち設備を始動するための金属合金浴の組成における1種類のインゴットと、巡航電力(cruise power)での蒸発を補償するための金属合金層の組成における別の種類のインゴットが必要であるために制約的である。さらに、所与の合金組成のそのようなインゴットは、製造するのが困難であり、高価である。その上、インゴットの溶融速度は設備がライン速度の変動に追従する能力を制限する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2008/142222号
【特許文献2】欧州特許第2937442号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、ラインの能力を損なわずに、金属合金の組成の変動の管理における適応性を可能にする、金属合金から形成されたコーティングを堆積させるための真空蒸着設備および金属合金層で被覆された基材の製造方法を提供することによって、従来技術の設備および方法の欠点を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的のために、本発明の第1の主題は、主要素と、少なくとも1つの追加要素とを含む金属合金から形成されたコーティングを走行中の基材上に連続して堆積させるための真空蒸着設備であって、真空蒸着チャンバと、チャンバ内を通るように基材を走行させるための手段とを備え、この設備はさらに、
−蒸気ジェットコータと、
−主要素と、少なくとも1つの追加要素とを含む蒸気を蒸気ジェットコータに供給するのに適した蒸発るつぼと、
−溶融状態の主要素を蒸発るつぼに供給するのに適しており、蒸発るつぼ内の液体のレベルを一定に維持することが可能な再充填炉と、
−少なくとも1つの追加要素を固体状態で供給するのに適しており、蒸発るつぼに少なくとも1つの追加要素を、溶融状態、固体状態、または部分的に固体状態には無関係に、供給するのに適している供給ユニットと、を備える。
【0008】
本発明による設備はまた、個別にまたは組み合わせて考慮される、以下に列挙される、任意選択の特徴を有してよく、
すなわち、
−供給ユニットは供給管を含む、
−供給管の下端は蒸発るつぼ内の液体の高さより低い、
−蒸発るつぼは、その上に供給管が接続されるカバーを含む、
−供給管は、一方では少なくとも1つの追加要素が加熱されている間それを保持し、他方では蒸発るつぼ内でそれを放出するのに適したインゴットホルダを備える、
−インゴットホルダは断面がU字形の弁である、
−供給管は、少なくとも供給管の下部に、蒸発るつぼ内の圧力より高い圧力を提供するのに適した不活性ガス入口を含む、
−供給ユニットは予熱炉を含む、
−供給ユニットは加熱装置を含む、
−蒸気ジェットコータは音速蒸気ジェットコータである、
−蒸気ジェットコータの蒸気の供給は、蒸気るつぼを蒸気ジェットコータに接続する蒸発管を通して行われる、
−再充電炉は蒸発るつぼの下に配置され、大気圧に維持されるように適合されている、
−蒸発るつぼの主要素の供給は、蒸発るつぼに再充電炉を接続する管を通して行われる、
−蒸発るつぼは誘導加熱器を含む、
−再充電炉は金属インゴット供給手段に接続されている、
ことである。
【0009】
本発明の第2の主題は、基材をコーティングするための方法であり、以下の
−(i)金属合金浴に溶融状態の主要素を供給するステップと、
−(ii)少なくとも1つの追加要素を金属合金浴の上方で固体状態で加熱し、溶融状態、固体状態、または部分的に固体状態には無関係に、少なくとも1つの追加要素を金属合金浴に供給するステップと、
−(iii)主要素と、少なくとも1つの追加要素とを含む金属合金浴を蒸発させるステップと、
−(iv)主要素と、少なくとも1つの追加要素とを含む蒸気を用いて基材に噴霧するステップと、
−(v)主要素と、少なくとも1つの追加要素とを含む金属合金層を基材上に連続して堆積させるステップと、
を含む。
【0010】
本発明の第3の主題は、基材をコーティングするための方法であって、
−(i)主要素と、少なくとも1つの追加要素とを含む金属合金浴を蒸発させるステップと、
−(ii)主要素と、少なくとも1つの追加要素とを含む蒸気を用いて基材に噴霧するステップと、
−(iii)主要素と、少なくとも1つの追加要素とを含む金属合金層を基材上に連続して堆積させるステップと、を含む。
金属合金浴は、一方では主要素を溶融状態で供給され、他方では少なくとも1つの追加要素を少なくとも部分的に固体状態で供給される。
【0011】
本発明による両方の方法はまた、個別にまたは組み合わせて考慮され、以下に列挙される任意選択の特徴を有してよく、すなわち
−蒸気が音速で基材に噴霧されることと、
−金属合金浴に、主要素が連続的して供給されることと、
−連続供給は気圧効果によって行われることと、
−少なくとも1つの追加要素を金属合金浴の上方で加熱する前に、少なくとも1つの追加要素の表面に存在する可能性がある酸化物が除去されることと、
−酸化物の除去は化学研磨によって行われることと、
−金属合金浴に少なくとも1つの追加要素を不連続に供給することと、
−少なくとも1つの追加要素はインゴットの形態であることと、
−インゴットのサイズおよび/または供給頻度を制御することによって、金属合金浴は経時的に一定の組成に維持されることと、
−金属合金浴に少なくとも1つの追加要素を連続して供給することと、
−少なくとも1つの追加要素がワイヤの形態であることと、
−金属合金浴は、ワイヤの直径および/または供給速度を制御することによって経時的に一定の組成に維持されることと、
−少なくとも1つの追加要素は、主要素よりも低い密度を有することと、
−主要素は亜鉛であることと、
−少なくとも1つの追加要素はマグネシウムであることと、
−方法は、8重量%から43重量%のマグネシウム含有量を有する亜鉛系金属合金の浴を蒸発させることにより、0.1重量%〜20重量%のマグネシウム含有量を有する亜鉛系金属合金の層を前記基材上に連続して堆積させること、
である。
【0012】
明らかであるように、本発明は、一方で金属合金の主要素を供給し、他方で金属合金の追加要素(複数可)を供給することによる蒸発るつぼの二重供給に基づいている。とりわけ、本発明は、
−溶融状態で供給することにより、蒸発るつぼに主要素を連続して供給と、同時に、
−固体、あるいは部分的に溶融、または完全に溶融には無関係な状態で、維持することができるインゴットまたはワイヤに基づいた追加要素(複数可)の非常に適応性のある供給と、を利用する。
【0013】
この二重供給のおかげで、追加要素(複数可)の供給頻度を調整することによって、および/または追加要素(複数可)の性質を調整することによって、金属合金浴のひいては金属合金層の、組成を非常に容易に変更することが可能である。さらに、再充填炉の設備能力および蒸発るつぼに連続して供給することができるその能力のおかげで、ライン速度の迅速な変動が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明による設備の一実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の他の特徴および利点は、以下の説明においてさらに詳細に説明されるであろう。
【0016】
本発明は、純粋に説明の目的で提供されており、決して限定的であることは意図されない以下の説明を、本発明による設備の一実施形態の断面図である図1を参照して読むことによってよりよく理解されるであろう。
【0017】
本出願で使用される用語「下方」、「真下」は、設備が真空蒸着ラインに設置されているときの設備の異なる構成要素の位置および方向を指すことに留意されたい。
【0018】
本発明の目的は、主要素とようやく一つの追加要素とを含む金属合金から形成されたコーティングを基材上に堆積させることである。その目的は特に亜鉛−マグネシウムコーティングを得ることである。しかしながら、この方法はこれらのコーティングに限定されず、そのそれぞれの相対的な含有量の制御がこの場合容易になるため、その要素が、浴温度における蒸気圧の差が10%未満である金属合金をベースとするあらゆるコーティングを包含することが好ましい。
【0019】
特定の指示を与えるために、個々にまたは組み合わせて考慮すると、主要素としての亜鉛と、クロム、ニッケル、チタン、マンガン、マグネシウム、ケイ素、アルミニウムなどの追加要素(複数可)でできたコーティングを挙げることができる。
【0020】
さらに、二元金属合金が好ましくは目標とされるが、言うまでもなく、Zn Mg Alなどの三元金属合金の堆積、または例えばZn Mg Al Siなどの四元合金の堆積さえも可能である。
【0021】
金属合金層は、好ましくは少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも80重量%の主要素を含む。亜鉛−マグネシウム堆積の場合、金属合金層は、好ましくは0.1〜20重量%のマグネシウムを含む。0.1%未満になると、マグネシウムによってもたらされる耐食性の改善はもはや十分とは言えない。他方、20%を超えると、より高い割合のマグネシウムは、金属合金層の過度に急速な消耗をもたらし、したがって逆説的に耐食性性能を低下させることになるであろう。好ましい一実施形態では、金属合金層は少なくとも0.4重量%、好ましくは少なくとも2重量%のマグネシウムを含有する。好ましい一実施形態では、金属合金層は15重量%未満のマグネシウムを含有する。これらの好ましいマグネシウム含有量は、耐食性、および層の適応性に関してより良い妥協点を提供する。
【0022】
言うまでもなく、主要素または追加要素のいずれかは、真空蒸着設備に供給するために使用される原材料の製造から生じる避けがたい不純物を含んでいる可能性がある。たとえ本発明がこれらの不純物による金属合金浴の汚染を回避することを意図しているとしても、金属合金層中の不純物の存在を除外することはできない。
【0023】
コーティングの厚さは、好ましくは0.1〜20μmの間であろう。一方、0.1μm未満では、基材の防食性が不十分になる恐れがある。他方、特に自動車または建設分野で要求されるレベルの耐食性を得るために、20μmを超える必要はない。一般に、自動車用途の場合、厚さは5μmに制限され得る。
【0024】
図1を参照すると、本発明による設備1はまず、真空蒸着チャンバ2と、このチャンバを通るように基材を走行させるための手段とを備える。
【0025】
この蒸着チャンバ2は、好ましくは10−8〜10−3バールの圧力に保たれた気密封止可能な箱である。それは、入口ロックと、出口ロック(これらは図示されていない)とを有し、それらの間を、例えば帯状の鋼などの基材Sが走行することができる。
【0026】
基材Sは、前記基材の性質および形状に応じて、任意の適切な手段で走行させることができる。帯状の鋼がその上に載ることができる回転支持ローラーが特に使用される場合がある。
【0027】
蒸着チャンバ2内で、被覆されるべき基材Sの面のすぐそばに蒸気ジェットコータ3がある。このコータは、走行中の基材S上に金属合金の蒸気を噴霧するのに適している。それは、その長さが、被覆されるべき基材の幅に近い、幅の狭い蒸気出口開口部31を備えた抽出チャンバで構成されるのが有利である。このチャンバは、例えばグラファイト製であり得る。
【0028】
蒸気出口開口部31は、例えば縦方向および横方向に調整することができるスロットなどの任意の適切な形状を有することができる。その幅を適合させることが可能であることで、蒸気ジェットを広範囲の蒸着される金属表面温度内に維持する、したがって広範囲の蒸発速度内に維持することを可能にする。さらに、その長さを、被覆されるべき基材の幅に適合させることが可能であることは、蒸着された金属の損失を最小限にすることを可能にする。
【0029】
コータは、好ましくは音速蒸気ジェットコータ、すなわち音速の蒸気ジェットを発生させることができるコータである。この種のコータは通常、JVD(ジェット蒸着)装置とも呼ばれる。読み手は、この種の装置の詳細のより完全な説明について特許出願国際公開第97/47782号パンフレットを参照することができる。
【0030】
蒸気ジェットコータ3は、直接であっても、またはそうでなくても、蒸気ジェットコータに、主要素と追加要素(複数可)を含む蒸気を供給するのに適した蒸発るつぼ4に取り付けられている。蒸発るつぼ4は、基材S上に堆積させるべき蒸気を発生させる金属合金浴を収容するのに適している。蒸発るつぼ4は、好ましくは蒸着チャンバ2内に配置される。
【0031】
蒸発るつぼ4は主に、ポット5、カバー6、およびカバーの一方の側と、蒸気ジェットコータ3の他方の側とに接続された蒸発管7で構成される。これらの異なる部品は、例えばグラファイト製であり得る。
【0032】
蒸発るつぼ4は加熱手段8を備えており、これにより金属合金の蒸気を形成して蒸気ジェットコータ3に供給することを可能にする。蒸発るつぼ4は、金属合金浴の攪拌および組成の均質化をより容易にするという利点を有する誘導加熱器を備えるのが有利である。
【0033】
蒸発るつぼ4内の圧力は、浴温および金属合金浴の組成に依存する。それは一般的に10−3と10−1バールの間で変動する。したがって、蒸着チャンバ2内の圧力は蒸発るつぼ内の圧力よりも低く保たれる。一例として、700℃のZn−Mg浴の場合、蒸発るつぼ内の圧力は約5.10−2バールであり、蒸着チャンバ内の圧力は約10−4バールに維持される。密閉型蒸発るつぼと、蒸着チャンバとの間に生じる圧力差のおかげで、金属合金の蒸気を発生させ、それを蒸発管7を介して蒸気ジェットコータ3に送ることが可能である。蒸発管7は、蒸気の流速を調節するための弁Vを有利に備えている。
【0034】
蒸発るつぼ4は、溶融状態の金属合金の主要素を蒸発るつぼに供給するのに適した再充填炉9に接続されている。再充填炉は、真空蒸着チャンバ2の外部に配置されることが好ましい。
【0035】
再充填炉9は、主要素を溶融し、加熱システムによってそれを溶融状態に保つように適合されたポットである。有利には、再充填炉はそれ自体金属インゴット供給手段に接続されている。
【0036】
蒸発るつぼ4の主要素の供給は、好ましくは、蒸発るつぼ4に再充填炉9を接続する管10を通して行われる。この管の入口は、浴の表面に存在する不純物が蒸発るつぼ内に吸い込まれないように主要素浴の中に突っ込むようになっている。蒸発が起きる場所で浴表面をかき乱すことを避けるために、管の出口は蒸発るつぼの下部に位置するのが好ましい。
【0037】
再充填炉9は、蒸発るつぼ4の下に配置され、大気圧に維持されるようになっていることが好ましい。蒸発るつぼ4と、再充填炉9との間の高さ、およびそれらの間に生じる圧力差により、金属合金浴が蒸発するにつれて、溶融した主要素が気圧効果によって蒸発るつぼ内に上がってくる。このことは、蒸発るつぼの連続供給を保証し、いかなるライン速度であろうと、蒸発るつぼ内の液体のレベルを一定に維持することに貢献する。
【0038】
本発明の一実施形態では、蒸発るつぼ4と、再充填炉9との間の高さを調整することで蒸発るつぼ内の液体のレベルを調整することができる。
【0039】
例えばインゴットまたはワイヤとして固体状態で追加要素(複数可)を供給するのに適しており、追加要素(複数可)を、溶融状態、固体状態、または部分的に固体状態には無関係に、蒸発るつぼに供給するのに適している供給ユニット8に、蒸発るつぼ4はまた、接続されている。
【0040】
固体状態の追加要素(複数可)を有する供給ユニット12の供給のおかげで、供給頻度および固体要素(複数可)の寸法が容易に制御され、このことは経時的に浴の一定の組成を維持することを可能にする。適切な場合には、それはまた、金属合金浴の組成を非常に容易に修正することも可能にする。
【0041】
供給ユニット11は、重力を利用するために蒸発るつぼ4上、好ましくは蒸発るつぼのカバー6上に接続される供給管12を含むことが好ましい。
【0042】
供給管12は、様々な部品および様々な材料で作製することができる。例えば、下部片は、蒸発るつぼの温度に抵抗するためにグラファイトであってよく、上部片は、金属のようなより抵抗の少ない材料である場合もある。
【0043】
供給ユニット12の固体状態での追加要素(複数可)の供給作業は、供給管の上端部を介して容易に行われる。追加要素(複数可)の表面に吸着した水を除去するために、供給管12の上端部は、供給装置の一部である予熱炉に接続されるのが好ましい。予熱炉自体は、好ましくは真空ロック機構に接続されている。
【0044】
供給管12の下端は、蒸発るつぼ4内の液体のレベルよりも低いことが好ましい。したがって、後でより詳細に説明するように供給管内の蒸気の上昇を制限することができる。
【0045】
供給管12の下部には、好ましくは加熱装置14が備わっており、最終的には蒸発管7を取り囲む加熱装置と共有される。結果として、追加要素(複数可)を、それらが金属合金浴の中に放出される前に加熱することができる。供給管の下部の温度、および供給管の下部にある追加要素(複数可)の滞留時間に応じて、追加要素(複数可)は固体のまま維持される、あるいは部分的に溶融される、または完全に溶融される。供給ユニットの出口における追加要素(複数可)の状態におけるこの適応性のおかげで、自分の好みに応じて一方または他方の状態を利用することができる、すなわち
−追加要素(複数可)と、金属合金浴との温度差を制限することを選ぶことで、追加要素(複数可)が浴中に導入される際に浴は冷却されず、かつ堆積速度も低下されない場合、追加要素(複数可)は有利に溶融する、
−供給管の内面上での追加要素(複数可)の堆積を回避することを選んだ場合、追加要素(複数可)は、浴温度に近い温度まで有利に暖められるが、固体状態に維持されることになる、
−妥協点が必要な場合、追加要素(複数可)は部分的に溶融することが有利であろう。
【0046】
供給管12は、有利には、その下半分に配置された不活性ガス入口13を含む。この入口のおかげで、蒸発るつぼ4内の圧力を超える不活性ガスの圧力を供給管内に供給することができる。結果として、供給管内の蒸気の上昇が回避される。
【0047】
インゴット供給の場合、供給管12は、一方では追加要素(複数可)のインゴットが加熱される間それを保持し、他方では追加要素(複数可)を蒸発るつぼの中に放出するのに適したインゴットホルダ15を含むのが有利である。インゴットホルダ15は、加熱装置14の高さのところで、供給管の下半分に配置されるのが好ましい。このインゴットホルダのおかげで、インゴットの供給ユニット内での滞留時間、ひいてはそれらの温度および状態を効率的に制御することが可能である。蒸発るつぼ内のインゴットの放出頻度を正確に制御することも可能になる。
【0048】
インゴットホルダ15は好ましくは弁である。インゴットを保持および放出をし易くするために、U字形の断面を有するのが有利である。U字形の底部は衝撃吸収材で有利に覆うことができ、その結果、弁の中に落下するインゴットがそれを破壊することがなくなる。
【0049】
当業者は、インゴットがその中に詰まり、蒸発るつぼまたはインゴットホルダ15内に激しく落下しないように、供給管12の形状を調整する方法を知っているであろう。
【0050】
ワイヤ供給の場合、当業者は、ワイヤが圧力損失によって単に真空下に置かれるように、ワイヤの直径に合わせて供給管の形状を調整する方法を知っているであろう。当業者はまた、ワイヤの速度をどのように調整して供給ユニット内のワイヤの滞留時間を制御し、そしてその結果としてその温度および状態を制御するかも知っているだろう。
【0051】
複数の追加要素を独立して供給するために、複数の供給ユニットを蒸発るつぼに接続することができることに留意しなければならない。
【0052】
設備1を運転したい場合、主要素のインゴットが再充填炉6に導入される。
【0053】
インゴットが溶融すると、蒸発るつぼ4および管10が加熱され、次いで蒸発るつぼ4内に真空が作り出される。そして、再充填炉9に収容されている液体状の主要素が蒸発るつぼ4を満たす。
【0054】
基材上に堆積させることが望まれる金属合金の組成がまず決定され、そして次に、この浴との平衡状態で、意図されたコーティングの組成を有する蒸気を得るための浴の組成が決定される。例えば、8重量%から43重量%、それぞれ10重量%から38重量%のマグネシウム含有量を有する亜鉛系金属合金の浴を蒸発させることによって、0.1〜20重量%、それぞれ0.4〜15重量%のマグネシウム含有量を有する亜鉛系金属合金の層を得ることができる。
【0055】
したがって、固体状態の適切な量の追加要素(複数可)が、金属合金浴の上方に位置する供給ユニット11に導入される。それらは浴温度に近い温度に達するように浴の近くで加熱される。この加熱作業中、追加要素(複数可)は固体のまま維持されるか、部分的に溶融される、または完全に溶融される。それらは、その後それらが主要素と混合する金属合金浴の中に放出される。
【0056】
それはその後、
−(i)主要素と、追加要素(複数可)とを含む金属合金浴を蒸発させる、
−(ii)主要素と、追加要素(複数可)とを含む蒸気を基材に噴霧する、
−(iii)主要素と、追加要素(複数可)とを含む金属合金層を基材上に連続して堆積させることが可能である。
【0057】
運転中の蒸発を補償し、浴の組成を一定に維持するために、金属合金浴が再充填炉9を介して主要素を再充填されるとき、適切な量の追加要素(複数可)が連続して、またはそうではなく添加される。
【0058】
追加要素(複数可)は、供給管の内面への追加要素(複数可)の堆積を制限するために、少なくとも部分的に固体状態で蒸発るつぼ4に添加されることが好ましい。
【0059】
追加要素(複数可)が主要素よりも密度が低い場合、放出された追加要素(複数可)は、供給管12の下端部で金属合金浴の表面上に浮遊し、適切な場合にはそこで溶融する。これは、その下端と、液体金属のレベルとの間に位置する供給管の下部にある追加要素(複数可)に一種のキャップを形成する。このキャップのおかげで、主要素内の蒸気の上昇は供給管内で制限される。さらに、追加要素(複数可)が不純物を含む場合、この不純物はキャップ内に保持され、金属合金浴を汚染することはない。その間、追加要素(複数可)を供給することによって、不純物は蒸発るつぼ内の供給管の下端から放出される。
【0060】
−追加要素(複数可)におけるインゴットのサイズおよび/または供給頻度、あるいは
−追加要素(複数可)におけるワイヤの直径および/または供給速度の適切な制御によって、経時的に浴の組成を一定に保つことを可能にする。
【0061】
蒸発るつぼ中の不純物のレベルを制限するために、供給ユニットに導入する前に、固体状態の追加要素(複数可)を任意で洗浄することができる。インゴット/ワイヤの表面に存在する可能性がある酸化物の除去は、特に化学的酸洗によって行うことができる。
【0062】
本発明による方法は、より詳細には、但しこれだけではなく、事前に被覆されているか、またはむきだしであるかにかかわらず帯状金属の処理に適用される。当然のことながら、本発明による方法は、例えば帯状アルミニウム、帯状ガラスまたは帯状セラミックのような任意の被覆された、または被覆されない基材に使用することができる。
【0063】
本方法はより詳細には、鋼が引き出し加工(drawing)または任意の他の好適な方法によって形成される前に析出してはならない、固溶体中に大量の炭素を含有する焼付硬化帯状鋼など、拡散熱処理中にその特性が低下し易い基材に適用される。本発明による方法を実施することにより、金属合金の堆積をほとんどの冶金術と適合させることを可能にする。
図1