(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6937366
(24)【登録日】2021年9月1日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】黒麹種菌の連続培養及びそれを用いたクエン酸製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/14 20060101AFI20210909BHJP
C12P 7/48 20060101ALI20210909BHJP
【FI】
C12N1/14 B
C12N1/14 C
C12P7/48
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-512299(P2019-512299)
(86)(22)【出願日】2018年12月24日
(65)【公表番号】特表2020-534787(P2020-534787A)
(43)【公表日】2020年12月3日
(86)【国際出願番号】CN2018123053
(87)【国際公開番号】WO2020042481
(87)【国際公開日】20200305
【審査請求日】2019年2月26日
(31)【優先権主張番号】201810986196.4
(32)【優先日】2018年8月28日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】519068065
【氏名又は名称】ジァンスー グォシン ユニオン エネルギー カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Jiangsu Guoxin Union Energy Co.,Ltd
(73)【特許権者】
【識別番号】519068076
【氏名又は名称】ジァンナン ユニバーシティー
【氏名又は名称原語表記】Jiangnan University
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シー グェイヤン
(72)【発明者】
【氏名】フー ヂージェ
(72)【発明者】
【氏名】リー ヨウラン
(72)【発明者】
【氏名】ジァン シァオドン
(72)【発明者】
【氏名】ジン サイ
(72)【発明者】
【氏名】スン フーシン
(72)【発明者】
【氏名】ヂァン チォン
(72)【発明者】
【氏名】ヂョウ ドンジャオ
(72)【発明者】
【氏名】ルー ジャウェイ
(72)【発明者】
【氏名】ミァオ マオドン
(72)【発明者】
【氏名】ファン ズーハオ
【審査官】
佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】
中国特許出願公開第102250971(CN,A)
【文献】
中国特許出願公開第104099253(CN,A)
【文献】
中国特許出願公開第104087624(CN,A)
【文献】
特表2003−527853(JP,A)
【文献】
特開平01−199586(JP,A)
【文献】
特開2007−089404(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第103290070(CN,A)
【文献】
特表2008−533981(JP,A)
【文献】
Bioprocess Biosyst Eng (2017), Vol.40, pp.45-53
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒麹種菌の連続培養方法であって、
(1)開始段階:黒麹菌の胞子を種菌培地に接種し、16〜36時間培養して液体種菌を得るステップ、
(2)種菌の連続培養段階:ステップ(1)で得られた液体種菌に対し連続分散処理を施し、分散で得られた液体種菌を連続培養し、培養過程中の液体種菌を発酵培地に連続して流入させて発酵培養し、同時に流出した液体種菌と同一の速度で新鮮流加培地を補給するステップ、及び、
(3)停止段階:新鮮流加培地の補給及び分散処理を停止し、継続培養して液体種菌を得てから液体種菌を発酵培地に移して発酵培養するステップ、
を含み、
前記ステップ(3)において継続培養の培養条件は、温度35〜39℃、風量0.3〜0.6vvm、タンク内圧0.05〜0.1Mpa、撹拌回転数150〜200rpmであることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記ステップ(1)において黒麹菌の胞子を接種した後の最終濃度は、1〜9×105個/mLであり;前記ステップ(1)において種菌培地の全糖は、100〜180g/L、C/Nが20〜40であり;前記ステップ(1)において種菌培養条件は、温度35〜39℃、風量0.2〜0.4vvm、タンク内圧0.05〜0.1Mpa、撹拌回転数100〜200rpmであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ステップ(2)において補給する新鮮流加培地の全糖は、150〜200g/L、C/Nが15−30であり;前記ステップ(2)内の連続培養条件は、温度35〜37℃、風量0.3〜0.6vvm、タンク内圧0.05〜0.07Mpa、撹拌回転数が150〜200rpmであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ステップ(2)において、前記液体種菌の連続分散処理の方法は、分散器で液体種菌内の菌糸体を10〜80μmの綿状菌糸に分散することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ステップ(2)において、新鮮流加培地の補給速度と液体種菌流出の速度F=V/tであり、ここでVは種菌タンク内の液体種菌体積であり、サイズの異なるタンクで液体種菌体積を確認し;tは、液体種菌の滞留時間であり、綿状菌糸の細胞濃度に基づきフィードバック調節を行い、通常は6〜24時間をとることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ステップ(2)、前記ステップ(3)において、発酵接種の割合は、5〜25%(v/v)であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ステップ(2)、前記ステップ(3)において、発酵培地の全糖は、160〜200g/Lで、C/Nが50−90であり;前記ステップ(2)、前記ステップ(3)において、温度35〜39℃、風量0.1〜0.4vvm、タンク内圧0.05〜0.1Mpa、撹拌回転数100〜200rpmの条件で発酵培養し、還元糖濃度が5g/Lを下回った時、発酵を終了することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記種菌培地、新鮮流加培地、発酵培地は、各々澱粉質原料の液化液と窒素源を調合してから成り;前記澱粉質原料は、トウモロコシ粉、キャッサバ粉、モロコシ粉、小麦澱粉のうちの少なくとも1種を含み;前記窒素源は、硫酸アンモニウム、尿素、大豆粕粉末、
コーンスティープリカーのうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
請求項1に記載の黒麹種菌の連続培養方法によって黒麹菌を得る第1ステップと、
前記第1ステップで得られた黒麹菌を発酵させてクエン酸の製造に用いる第2ステップとを含むことを特徴とする、クエン酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の培養技術分野に関し、特に、黒麹種菌の連続培養及びそれを用いたクエン酸製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クエン酸は、世界における製造量及び使用量が最大の有機酸であり、重要な化学工業製品でもあり、幅広く使用されている。クエン酸は、主に例えば酸味料、酸化防止剤、ゲル化剤等の食品工業に用いられ、かつ医薬、飼料、化学工業、電子、紡績等の工業分野でも広く利用されており、市場の需要量も年を追って増加している。中国は、クエン酸の最大生産国と輸出国であり、製造技術も最先端で、市場における競争力も強く、特に、トウモロコシ、ほし芋等の澱粉質を原料とする独創的な液内発酵指数が世界上位入りを果たした。
【0003】
しかしながら近年生物発酵技術が絶え間なく急速に発展し、新しい発酵技術も絶え間なく生まれ、様々な効率の高い連続培養方式は異なる発酵製品上に広く利用されているが、クエン酸を生成する菌種である黒麹菌は、多核の糸状真菌であり、その生育特性及び菌体形態が酵母や細菌等の単細胞微生物と全く異なり、酵母や細菌を生産菌株とする高効率かつ成熟した発酵方式は黒麹菌のクエン酸発酵・製造に上手く利用することができず、クエン酸等の糸状菌を生産菌株とする発酵産業の発展を著しく制約していた。
【0004】
現在、クエン酸の発酵や製造は、依然従来の方式のままで使用し、すなわち、先に大量の黒麹菌胞子を調製し;そして胞子を種菌培地内に接種して培養して成熟した液体種菌を得;液体種菌を発酵培地内に移入して発酵させてクエン酸発酵液を得る。クエン酸の従来酵方式には、以下の問題があり;
(1)黒麹菌胞子の調製は手間がかかり、周期も長く、効率も低い:黒麹菌菌種は、賦活、平板によるスクリーニング及びステージ3拡大培養を経る必要があり、調製周期が30日を超え;手作業が煩雑で、雑菌汚染リスクも大きい。
(2)菌種の安定性や一致性が悪い:現在胞子調製の機械化程度が低く、麩麹培養容器が小さく、異なる容器内の一致性が比較的悪いため、種菌培養の品質と発酵結果が不安定となる。
(3)種菌培養の効率が低い:胞子接種から種菌培養までは、8〜12時間の発芽時間が必要で、種菌タンクの利用効率が下がる。
(4)種菌の回分培養が不安定である:回分培養において、菌体の生育環境(例えば糖濃度、pH等)が絶え間なく変化し、菌体の生育は長期的に最適な環境にあることができない。
【0005】
現在業界内には、糸状菌の種菌連続培養方法がまだなく、その原因は糸状菌が一般的に多細胞で、生育が遅く、塊状や球状になり、連続培養において細胞が容易にロスしていた。よく見られる連続培養は、主に細菌、酵母等種類の微生物の面に集中し、これらは全て単細胞で、形態も簡単で、制御しやすい。特許文献1には、菌糸体の分散技術に基づきクエン酸の黒麹種菌の連続培養方法が開示され、「連続」培養と称されているが、本質は「循環」培養であり、その方法は前バッチの残りの分散菌糸を新しい種菌培地に接種して液体種菌として培養し種菌循環培養を実現する。その方法は胞子の使用量を減らすと共に胞子の発芽時間を短縮できるが、種菌を異なるタンク内に切り換えて培養する必要があるため、設備システムが増えてしまい、操作も相対的に煩雑となり;かつ各バッチの液体種菌は依然回分培養方式で行い、培養環境も絶え間なく変化するため、種菌が最適な環境条件で生育することを保証できず、バッチ間の不安定が存在するだけでなく、更に重要なことは菌種の退化を容易に招き、発酵レベルにも影響を及ぼす。よって、現在の業界内には、本当の種菌連続培養方法が生み出されていない。
【0006】
特許文献1内の回分培養に比べると、黒麹種菌の連続培養は以下の技術的問題点を克服する必要がある。(1)菌体の生育が遅く、菌糸体が容易にロスし;(2)菌種の継代回数を減らし、菌体の退化を防止;(3)適した液体種菌の滞留時間を確定して、菌体ロスの速すぎを防止し、同時に移種液体種菌内の菌体量が十分となるよう保障し、かつ培養環境の安定性も保証し;(4)適した菌糸の大きさを確定し、菌体の生育速度及び希釈速度のバランスをとらせる。
【0007】
よって、如何にして多細胞糸状菌の制限を打破し、液体種菌の調製過程を改善することで、胞子の使用量を減らし、種菌培養効率をアップできることや、また種菌の生育環境を最適な状態に維持させることができ、培養環境が菌体の生育状態に基づいてリアルタイムでフィードバック調節を行い、菌種の退化を防止し、液体種菌の品質安定を保証し、発酵レベルを向上させるかが、現在クエン酸の生産中の解決が急務の課題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】中国特許番号第CN201410329652.X号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来技術に存在する上記課題について、本発明の出願人は、黒麹種菌の連続培養及びそれを用いたクエン酸製造方法を提供する。本発明の方法は、多細胞糸状菌の生育が遅いこと及び菌糸体の連続培養において容易にロスする問題を解決し、種菌の連続培養を完全に実現し、菌体を最適な生育環境に維持させ、菌種の退化を防止し、液体種菌も連続して安定した高い活力状態にさせることで、対応する発酵指標は顕著に高める。
【課題を解決するための手段】
【0010】
黒麹種菌の連続培養方法であって、
(1)開始段階:黒麹菌の胞子を種菌培地に接種し、16〜36時間培養して液体種菌を得るステップ、
(2)種菌の連続培養段階:ステップ(1)で得られた液体種菌に対し連続分散処理を施し、分散で得られた液体種菌を連続培養し、培養過程中の液体種菌を発酵培地に連続して流入させて発酵培養し、同時に流出した液体種菌と同一の速度で新鮮流加培地を補給するステップ、及び、
(3)停止段階:新鮮流加培地の補給及び分散処理を停止し、継続培養して液体種菌を得てから液体種菌を発酵培地に移して発酵培養するステップ、
を含む。
【0011】
ステップ(1)において黒麹菌の胞子を接種した後の最終濃度は、1〜9×10
5個/mLであり;ステップ(1)において種菌培地の全糖は、100〜180g/L、C/Nが20〜40であり;ステップ(1)において種菌培養条件は、温度35〜39℃、風量0.2〜0.4vvm、タンク内圧0.05〜0.1Mpa、撹拌回転数100〜200rpmである。
【0012】
ステップ(2)において補給する新鮮流加培地の全糖は、150〜200g/L、C/Nが15−30であり;ステップ(2)内の連続培養条件は、温度35〜37℃、風量0.3〜0.6vvm、タンク内圧0.05〜0.07Mpa、撹拌回転数が150〜200rpmである。
【0013】
ステップ(3)において継続培養の培養条件は、温度35〜39℃、風量0.3〜0.6vvm、タンク内圧0.05〜0.1Mpa、撹拌回転数150〜200rpmである。
【0014】
ステップ(2)において、前記液体種菌の連続分散処理の方法は、分散器で液体種菌内の菌糸体を10〜80μmの綿状菌糸に分散する。
【0015】
ステップ(2)において、新鮮流加培地の補給速度と液体種菌流出の速度F=V/tであり、ここでVは種菌タンク内の液体種菌体積であり、サイズの異なるタンクで液体種菌体積を確認し;tは、液体種菌の滞留時間であり、綿状菌糸の細胞濃度に基づきフィードバック調節を行い、通常は6〜24時間をとる。
【0016】
ステップ(2)、ステップ(3)において、発酵接種の割合は、5〜25%(v/v)である。
【0017】
ステップ(2)、ステップ(3)において、発酵培地の全糖は、160〜200g/Lで、C/Nが50−90であり;ステップ(2)、ステップ(3)において、温度35〜39℃、風量0.1〜0.4vvm、タンク内圧0.05〜0.1Mpa、撹拌回転数100〜200rpmの条件で発酵培養し、還元糖濃度が5g/Lを下回った時、発酵を終了する。
【0018】
前記種菌培地、新鮮流加培地、発酵培地は、各々澱粉質原料の液化液と窒素源を調合してから成り;前記澱粉質原料は、トウモロコシ粉、キャッサバ粉、モロコシ粉、小麦澱粉のうちの少なくとも1種を含み;前記窒素源は、硫酸アンモニウム、尿素、大豆粕粉末、コーンスティープリカーのうちの少なくとも1種を含む。
【0019】
クエン酸の製造方法であって、その方法は種菌の連続培養方法で得られた黒麹菌を発酵させてクエン酸の製造に用いる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の方法は、糸状菌の種菌連続培養を完全に実現し、特許文献1に比べると、設備システムを大幅に簡略化し、種菌タンクの使用量を1/3まで減らし、操作ステップも減らすため、生産効率が大いに高まり、各バッチの発酵タンクに対応する種菌培養の段取時間は12時間節約し、種菌培養の自動化水準を向上させる。
【0021】
本発明の種菌連続培養方法は、特許文献1に比べると、菌種の継代回数を減らし、菌種の退化を効果的に防止でき、15日間操作しても種菌の活力が下がらないよう保つことができ、発酵指標も安定する。効率の高い連続操作は、開始・停止の段取時間を減らすだけでなく、かつ黒麹菌の胞子使用量も1/3に減らすことができることで、黒麹菌の胞子の培養コストを大幅に削減することができる。
【0022】
本発明の方法の際立った利点は、菌体を最適な生育環境内に維持させ、種菌が終始連続的に安定した活力の高い成熟状態にさせ、液体種菌の品質の安定性及び一致性を保証する。また特許文献1内の種菌は、回分培養を用い、タンク内のpHが下がり続けると共に栄養物質が徐々に消耗し、培養条件が菌体の生育及び活力の保持に徐々に不利になることで、液体種菌の品質に影響を及ぼし、かつバッチ間の液体種菌の品質の差が比較的大きく;より大きな欠陥とは、発酵タンク内に移した液体種菌が分散器で処理した後の分散菌糸であり、発酵タンクの初期に成長回復の必要があるため、発酵指標にも影響を及ぼす。特許文献1に比べると、発酵の初期糖度が16%の時、発酵効率は27.5%上がり、発酵転化率も3.4ポイントアップし、かつ発酵の安定性も顕著に向上した。
【0023】
また、種菌の活力が高めたため、酸生成速度が増加し、本発明の方法は、高濃度発酵条件において特許文献1に比べてもより大きな利点を持ち、発酵の初期糖度を18%に上がった時、発酵による酸生成も18%を超えることができ、発酵周期が60時間未満で、発酵転化率が100%を超え、発酵効率が31.6%アップし、発酵転化率を4.8ポイントアップした。よって、本発明の方法を利用すると、クエン酸の高濃度、高転化率及び高効率の発酵や製造を完全に実現し、クエン酸産業の技術向上にとって重要な役割を果たす。
【0024】
本発明は、初めて連続流加に連続分散を結合して黒麹種菌の連続培養方法を実現し、最適な滞留時間及び菌糸の大きさを確定し、かつ最適化して種菌培養の異なる段階の培養パラメータを得て、多細胞糸状菌の生育が遅いこと、及び菌糸体の連続培養中に容易にロスする問題を解決し、種菌の連続培養を完全に実現し、菌体を最適な生育環境内に維持させ、菌種の退化を防止し、液体種菌を連続的に安定した活力の高い状態にさせ、対応する発酵指標のアップは顕著である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面及び実施例を組み合わせて本発明を具体的に説明する。
【0027】
以下の実施例と比較例にかかわる原料及び試薬は、いずれも市販されている商品であり;黒麹菌が中国工業微生物菌種保存管理センター(CICC)に由来し、保存番号CICC40021である。全糖、還元糖の測定は、いずれもフェーリング滴定法を用い、窒素源の測定がケルダール法を用い、クエン酸の測定が0.1429mol/LのNaOH滴定を用い、胞子計数が血球計算盤を用いた。特別な説明がない限り、均しくこの分野で常用されている設備及び工程の方法を用いた。
【実施例1】
【0028】
トウモロコシ粉と水道水を1:3の重量比で均一に混合し、Ca(OH)
2を用いてペースのpHを6.0に調整し、トウモロコシ粉20U/gの添加量によりα−高温アミラーゼを添加し;噴射液化を経て、ヨウ素試液を滴加して淡褐色を呈した後、合格トウモロコシの液化液を得;トウモロコシの液化液80%をフィルタープレスでろ過してろ過残渣を除去し、トウモロコシの糖化液を得た。
【0029】
開始段階:トウモロコシの液化液と硫酸アンモニウムを種菌培地として調合(全糖100g/L、C/Nが20)し、滅菌・冷却後、黒麹菌の胞子を種菌培地に接種し、胞子の最終濃度が9×10
5個/mLであり、温度35℃、風量0.2vvm、タンク内圧0.05Mpa、撹拌回転数100rpmの条件で16時間培養して、液体種菌を得た。
【0030】
連続段階:トウモロコシの液化液と硫酸アンモニウムを種菌流加培地として調合した(全糖150g/L、C/Nが15)。分散器で得られた液体種菌を連続的に分散処理し、菌糸体を10μmの綿状菌糸に分散し;同時に滞留時間を6時間として新鮮種菌流加培地の連続補給速度を制御し、液体種菌を同一の速度で発酵培地に連続的に流入して発酵培養した。種菌連続培養段階の培養温度は、35℃、風量が0.3vvm、タンク内圧が0.05Mpa、撹拌回転数が150rpmであった。
【0031】
停止段階:種菌の活力の低下傾向にあると検出した時、新鮮種菌流加培地の補給及び分散処理を停止し、残りの液体種菌を発酵培地に移して発酵培養した。その段階の種菌培養条件は、温度35℃、風量0.3vvm、タンク内圧0.05Mpa、撹拌回転数150rpmであった。
【0032】
発酵培地は、トウモロコシの液化液、トウモロコシの糖化液及び硫酸アンモニウムを調合して成り(全糖160g/L、C/Nが50);発酵接種の割合は、25%(v/v)であり;発酵培養条件は、温度35℃、風量0.1vvm、タンク内圧0.05Mpa、撹拌回転数100rpmであり、還元糖濃度が5g/Lを下回った時、発酵を終了させ、各バッチの発酵における酸度、残糖を測定し、また転化率、発酵効率等の指標を計算した。
【実施例2】
【0033】
トウモロコシ粉と水道水を1:3の重量比で均一に混合し、Ca(OH)
2を用いてペースのpHを6.0に調整し、トウモロコシ粉20U/gの添加量によりα−高温アミラーゼを添加し;噴射液化を経て、ヨウ素試液を滴加して淡褐色を呈した後、合格トウモロコシの液化液を得;トウモロコシの液化液80%をフィルタープレスでろ過してろ過残渣を除去し、トウモロコシの糖化液を得た。キャッサバ粉と水道水を1:3の重量比で均一に混合し、Ca(OH)
2を用いてペースのpHを6.0に調整し、キャッサバ粉20U/gの添加量によりα−高温アミラーゼを添加し;噴射液化を経て、ヨウ素試液を滴加して淡褐色を呈した後、合格キャッサバの糖化液を得た。
【0034】
開始段階:トウモロコシの液化液と尿素を種菌培地として調合(全糖140g/L、C/Nが30)し、滅菌・冷却後、黒麹菌の胞子を種菌培地に接種し、胞子の最終濃度が4.5×10
5個/mLであり、温度37℃、風量0.3vvm、タンク内圧0.075Mpa、撹拌回転数150rpmの条件で26時間培養して、液体種菌を得た。
【0035】
連続段階:トウモロコシの液化液と尿素を種菌流加培地として調合した(全糖175g/L、C/Nが23)。分散器で得られた液体種菌を連続的に分散処理し、菌糸体を45μmの綿状菌糸に分散し;同時に滞留時間を15時間として新鮮種菌流加培地の連続補給速度を制御し、液体種菌を同一の速度で発酵培地に連続的に流入して発酵培養した。種菌連続培養段階の培養温度は、36℃、風量が0.45vvm、タンク内圧が0.06Mpa、撹拌回転数が175rpmであった。
【0036】
停止段階:種菌の活力の低下傾向にあると検出した時、新鮮種菌流加培地の補給及び分散処理を停止し、残りの液体種菌を発酵培地に移して発酵培養した。その段階の種菌培養条件は、温度37℃、風量0.45vvm、タンク内圧0.075Mpa、撹拌回転数175rpmであった。
【0037】
発酵培地は、トウモロコシの液化液、トウモロコシの糖化液、キャッサバの糖化液及び尿素を調合して成り(全糖180g/L、C/Nが70);発酵接種の割合は、15%(v/v)であり;発酵培養条件は、温度37℃、風量0.25vvm、タンク内圧0.075Mpa、撹拌回転数150rpmであり、還元糖濃度が5g/Lを下回った時、発酵を終了させ、各バッチの発酵における酸度、残糖を測定し、また転化率、発酵効率等の指標を計算した。
【実施例3】
【0038】
トウモロコシ粉と水道水を1:3の重量比で均一に混合し、Ca(OH)
2を用いてペースのpHを6.0に調整し、トウモロコシ粉20U/gの添加量によりα−高温アミラーゼを添加し;噴射液化を経て、ヨウ素試液を滴加して淡褐色を呈した後、合格トウモロコシの液化液を得;トウモロコシの液化液80%をフィルタープレスでろ過してろ過残渣を除去し、トウモロコシの糖化液を得た。小麦澱粉と水道水を1:3の重量比で均一に混合し、Ca(OH)
2を用いてペースのpHを6.0に調整し、小麦澱粉20U/gの添加量によりα−高温アミラーゼを添加し;噴射液化を経て、ヨウ素試液を滴加して淡褐色を呈した後、合格小麦澱粉の糖化液を得た。
【0039】
開始段階:トウモロコシの液化液と大豆粕粉末を種菌培地として調合(全糖180g/L、C/Nが40)し、滅菌・冷却後、黒麹菌の胞子を種菌培地に接種し、胞子の最終濃度が1×10
5個/mLであり、温度39℃、風量0.4vvm、タンク内圧0.1Mpa、撹拌回転数200rpmの条件で36時間培養して、液体種菌を得た。
【0040】
連続段階:トウモロコシの液化液と大豆粕粉末を種菌流加培地として調合した(全糖200g/L、C/Nが30)。分散器で得られた液体種菌を連続的に分散処理し、菌糸体を80μmの綿状菌糸に分散し;同時に滞留時間を24時間として新鮮種菌流加培地の連続補給速度を制御し、液体種菌を同一の速度で発酵培地に連続的に流入して発酵培養した。種菌連続培養段階の培養温度は、37℃、風量が0.6vvm、タンク内圧が0.07Mpa、撹拌回転数が200rpmであった。
【0041】
停止段階:種菌の活力の低下傾向にあると検出した時、新鮮種菌流加培地の補給及び分散処理を停止し、残りの液体種菌を発酵培地に移して発酵培養した。その段階の種菌培養条件は、温度39℃、風量0.6vvm、タンク内圧0.1Mpa、撹拌回転数200rpmであった。
【0042】
発酵培地は、トウモロコシの液化液、トウモロコシの糖化液、小麦の糖化液及び大豆粕粉末を調合して成り(全糖200g/L、C/Nが90);発酵接種の割合は、5%(v/v)であり;発酵培養条件は、温度39℃、風量0.4vvm、タンク内圧0.1Mpa、撹拌回転数200rpmであり、還元糖濃度が5g/Lを下回った時、発酵を終了させ、各バッチの発酵における酸度、残糖を測定し、また転化率、発酵効率等の指標を計算した。
【0043】
<比較例1(特許文献1内の実施例1)>
葡萄糖と大豆粕粉末で各々種菌培地(全糖80g/L、全窒素1.5g/L)及び発酵培地(全糖が160g/L、全窒素が1.5g/L)を調合し;移植後、胞子濃度が55万個/mLで接種し;20時間培養して成熟した液体種菌を得、液体種菌の菌糸を分散器で分散し、処理後の菌体の平均直径を100μmとし、各々次のステージの種菌培地及び発酵培地に移し;次のステージの発酵培地に移し、発酵培地内の還元糖濃度が5g/L以下に下がった時、発酵を終了させた。このように繰り返し、種菌の活力が明らかに低下した時に停止した。各バッチの発酵における酸度、残糖を測定し、また転化率、発酵効率等の指標を計算した。
【0044】
<比較例2>
発酵培地の全糖は、180g/L、全窒素が1.5g/Lであり;他の条件は、比較例1と同じである。
【0045】
<比較例3>
トウモロコシ粉の液化液とトウモロコシの糖化液の調製は、実施例1と同じである。トウモロコシの液化液と硫酸アンモニウムで種菌培地(全糖120g/L、全窒素2g/L)と発酵培地(全糖160g/L、全窒素1.0g/L)を調合する。黒麹菌の胞子を種菌培地に接種し、胞子の最終濃度が4×10
5個/mLで、20時間培養して、ステージ1の成熟液体種菌を得た。70%の成熟液体種菌を1バッチ目の発酵培地内に移して培養し、還元糖濃度が5g/Lを下回った時、発酵を終了させた。残りの30%の液体種菌を分散器で処理して得られた菌糸体或いは菌塊の平均直径は62μmであり、種菌培地に移し、16時間培養して改めてステージ2の成熟液体種菌を再び得た。このように繰り返し、種菌の活力が明らかに低下した時に停止した。各バッチの発酵における酸度、残糖を測定し、また転化率、発酵効率等の指標を計算した。
【0046】
<比較例4>
トウモロコシ粉の液化液とトウモロコシの糖化液の調製は、実施例1と同じである。トウモロコシの液化液と硫酸アンモニウムで種菌培地(全糖120g/L、全窒素2g/L)と発酵培地(全糖160g/L、全窒素1.0g/L)を調合する。黒麹菌の胞子を種菌培地に接種し、胞子の最終濃度が4×10
5個/mLで、20時間培養して、ステージ1の成熟液体種菌を得た。70%の成熟液体種菌を1バッチ目の発酵培地内に移して培養し、還元糖濃度が5g/Lを下回った時、発酵を終了させた。残りの30%の液体種菌を分散器で処理して得られた菌糸体或いは菌塊の平均直径は50μmであり、新鮮種菌培地を残りの液体種菌に補給し、16時間培養して改めてステージ2の成熟液体種菌を再び得た。このように繰り返し、種菌の活力が明らかに低下した時に停止した。各バッチの発酵における酸度、残糖を測定し、また転化率、発酵効率等の指標を計算した。
【0047】
<比較例5>
種菌の連続培養段階において、新鮮種菌流加培地の連続補給速度は、滞留時間4時間で制御され、他の条件が実施例1と同じである。
<比較例6>
【0048】
種菌の連続培養段階において、種菌流加培地のC/Nは、40であり、他の条件が実施例1と同じである。
【0049】
<試験例1>
実施例1と比較例1、3、4の技術的効果を比較し、その結果を表1に整理した。
【0050】
【表1】
【0051】
実施例1と比較例1、3、4の技術的効果を比較すると分かるように、(1)本発明方法は、特許文献1に比べると、設備システムを簡略化し、種菌タンクの使用量を1/3まで減少し;操作ステップも減少したことで、生産効率のアップが顕著となり、各バッチの発酵タンクに対応する種菌培養の段取時間も12時間節約した。(2)本発明方法の連続操作時間は、更に長くなり、黒麹菌の胞子使用量も1/3に減らすことができたため、黒麹菌の胞子の培養コストを大幅に削減できた。(3)特許文献1に比べると、発酵初期糖度が16%の時、発酵効率は、27.5%アップし、発酵転化率も3.4ポイントアップした。
【0052】
<試験例2>
実施例2と比較例2の技術的効果を比較し、その結果を表2に整理した。
【0053】
【表2】
【0054】
実施例2と比較例2の技術的効果を比較すると分かるように、本発明の方法は、高濃度発酵条件において特許文献1に比べてもより大きな利点を持ち、発酵の初期糖度を18%に上がった時、発酵による酸生成も18%を超えることができ、発酵周期が60時間未満で、発酵転化率が100%を超え、発酵効率が31.6%アップし、発酵転化率を4.8ポイントアップした。よって、本発明の方法を利用すると、クエン酸の高濃度、高転化率及び高効率の発酵や製造を完全に実現し、クエン酸産業の技術向上にとって重要な役割を果たす。
【0055】
<試験例3>
本発明の実施例1と比較例5、6の性能を比較し、その結果を表3に整理した。
【0056】
【表3】
【0057】
本発明の実施例1と比較例5、6の性能を比較すると分かるように、種菌の連続培養段階の滞留時間及び流加培地C/N等のパラメータを変更した時、種菌の連続操作時間が著しい影響を受け、操作時間が短縮し、種菌の活力も速やかに低下し、対応する発酵転化率、発酵効率等の指標も明らかに下がった。
【0058】
本発明では好ましい実施例を前述の通り開示したが、これらは決して本発明に限定するものではなく、当業者であれば本発明の精神及び技術思想を逸脱しない範囲で、多様な変更及び修正が可能であることが理解できる。当業者により置換、変形及び変更される場合も本発明の保護範囲内に含まれる。