特許第6937374号(P6937374)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6937374マグネシウム合金板、およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6937374
(24)【登録日】2021年9月1日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】マグネシウム合金板、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 23/02 20060101AFI20210909BHJP
   C22C 23/04 20060101ALI20210909BHJP
   C22F 1/06 20060101ALI20210909BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20210909BHJP
【FI】
   C22C23/02
   C22C23/04
   C22F1/06
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 611
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 694B
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 694Z
   !C22F1/00 694A
   !C22F1/00 684C
   !C22F1/00 613
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 692A
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-534725(P2019-534725)
(86)(22)【出願日】2017年12月21日
(65)【公表番号】特表2020-503453(P2020-503453A)
(43)【公表日】2020年1月30日
(86)【国際出願番号】KR2017015263
(87)【国際公開番号】WO2018117696
(87)【国際公開日】20180628
【審査請求日】2019年6月25日
(31)【優先権主張番号】10-2016-0177465
(32)【優先日】2016年12月23日
(33)【優先権主張国】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】ナ、 ヒョン−テク
(72)【発明者】
【氏名】ソ、 イン シク
(72)【発明者】
【氏名】ソ、 ソク ジョン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ソン イル
【審査官】 川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−157626(JP,A)
【文献】 特開2011−099140(JP,A)
【文献】 特開2009−275274(JP,A)
【文献】 特開2010−013725(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0271332(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第1693511(CN,A)
【文献】 独国特許出願公開第102011056560(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 23/00−23/06
C22F 1/00− 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、0.5〜10%の亜鉛(Zn)、1〜15%のアルミニウム(Al)を含有し、残りはマグネシウム(Mg)および不可避不純物から構成され、
(0002)面[0001]方向を基準として方位差が30°以下の範囲内の集合組織の集合強度の平均値が3以下であり、
常温における限界成形高さ(LDH.Limited Dome Height)が10mm以上であ
下記式:
┃(c/a(1/4t)−c/a(1/2t))┃x(c/a(1/2t)−1x100
(式中、c/a(1/4t)およびc/a(1/2t)は、それぞれ鋼板の厚さ方向の1/4tおよび1/2t深さの任意の地点で測定したc/a値である)
を用いて計算された板材内のHCP(Hexagonal Close Packed)結晶構造のc/a値の偏差が5%以下を満足する、
マグネシウム合金板。
【請求項2】
厚さが0.4〜2mmである、請求項に記載のマグネシウム合金板。
【請求項3】
前記マグネシウム合金板は、厚さ方向に均一な非基底(non−basal)集合組織を有するように製造された、請求項に記載のマグネシウム合金板。
【請求項4】
重量%で、0.5〜10%の亜鉛(Zn)、1〜15%のアルミニウム(Al)を含有し、残りはマグネシウム(Mg)および不可避不純物から構成されるマグネシウム鋳造材を300〜500℃で1時間〜48時間溶体化処理する段階(a)と、
前記溶体化処理されたマグネシウム鋳造材を300〜500℃で予熱する段階(b)と、
前記予熱されたマグネシウム鋳造材を、下記の関係式(1)によって選定された拘束部材と共に、下記の関係式(2)と下記の関係式(3)を満足するように圧延する段階(c)と、
前記圧延されたマグネシウム合金圧延板材を300〜500℃で0.5時間〜5時間溶体化処理する段階(d)とを含マグネシウム合金板の製造方法であって、
前記マグネシウム合金板は、
(0002)面[0001]方向を基準として方位差が30°以下の範囲内の集合組織の集合強度の平均値が3以下であ
常温における限界成形高さ(LDH.Limited Dome Height)が10mm以上であり、
下記式:
┃(c/a(1/4t)−c/a(1/2t))┃x(c/a(1/2t)−1x100
(式中、c/a(1/4t)およびc/a(1/2t)は、それぞれ鋼板の厚さ方向の1/4tおよび1/2t深さの任意の地点で測定したc/a値である)
を用いて計算された板材内のHCP(Hexagonal Close Packed)結晶構造のc/a値の偏差が5%以下を満足する、
マグネシウム合金板の製造方法:
関係式(1)
1<┃(σmat−σmg)┃xσmg−1<20
σmatとσmgはそれぞれ、拘束部材とマグネシウム素材のMean Flow Stress(MFS)(MPa)である:
関係式(2)
0.4<NReffx(NRtotal−1)−1
Reffは、effective strain(εeff)値以上の変形が加えられる圧延パス数であり、
Rtotalは、総圧延パス数である:
関係式(3)
3<εeffx100(%)<40
εeff=┃T−T┃xLini−1
(mm)とT(mm)はそれぞれ、マグネシウム板材の変形前の厚さと変形後の厚さである。
【請求項5】
前記拘束部材の厚さがマグネシウム鋳造材対比5%を超えるように設計される、請求項に記載のマグネシウム合金板の製造方法。
【請求項6】
前記圧延は、累積圧下量50%以上で進行する拘束圧延である、請求項に記載のマグネシウム合金板の製造方法。
【請求項7】
前記圧延後、塗油処理またはメッキ処理を追加的に施す、請求項に記載のマグネシウム合金板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
マグネシウム合金板、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、国際環境規制の強化および燃費規制の強化に伴う輸送装備の燃費向上のための軽量化要求が増大している。このため、代表的な軽量金属であるマグネシウム鋳造材の適用に対する技術開発が活発に行われている。しかし、マグネシウム鋳造材は、HCP(Hexagonal Close Packed)の結晶構造を有し、常温で作動するスリップシステム(slip system)が制限的であるという欠点がある。特に、圧延後、マグネシウム合金板に形成される基底(basal)集合組織における当該スリップシステムは、プレス成形性に非常に不利である。
【0003】
韓国公開特許公報第2010−0038809号、および韓国公開特許公報第2012−0055304号では、イットリウム(Y)およびカルシウム(Ca)を添加して、薄板鋳造/圧延時の再結晶現象による結晶粒微細化および集合組織の分散制御により成形性を向上させる技術が提案されている。また、米国公開特許公報第2013−0017118号では、圧延時、上部/下部ロールの異なる回転速度の実現によりマグネシウム合金板に剪断変形を付加した後、熱処理により基底集合組織を緩和させる技術が提案されている。
【0004】
しかし、上記技術は、高価なイットリウムとカルシウムを添加しても、常温における限界成形高さ(LDH.Limited Dome Height)が5mm以下と、冷間成形性に劣る。また、上部/下部ロールの異なる回転速度の付与による異周速圧延技術は、剪断変形が表層にのみ集中することにより、成形性の向上に限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】韓国公開特許公報第2010−0038809号
【特許文献2】韓国公開特許公報第2012−0055304号
【特許文献3】米国公開特許公報第2013−0017118号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
優れた冷間成形性を有するマグネシウム合金板、およびその製造方法を提供する。具体的には、常温における限界成形高さが10mm以上の優れた冷間成形性を有するマグネシウム合金板材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態によるマグネシウム合金板は、重量%で、0.5〜10%の亜鉛(Zn)、1〜15%のアルミニウム(Al)を含有し、残りはマグネシウム(Mg)および不可避不純物から構成され、(0002)面[0001]方向を基準として方位差が30°以下の範囲内の集合組織の集合強度の平均値が3以下である。
【0008】
上記マグネシウム合金板は、板材内のHCP(Hexagonal Close Packed)結晶構造のc/a値の偏差が5以下を満足し得る。
【0009】
上記マグネシウム合金板は、常温における限界成形高さ(LDH.Limited Dome Height)が10mm以上であってもよい。
【0010】
上記マグネシウム合金板の厚さは、0.4〜2mmであってもよい。
【0011】
本発明の一実施形態によるマグネシウム合金板の製造方法は、重量%で、0.5〜10%の亜鉛(Zn)、1〜15%のアルミニウム(Al)を含有し、残りはマグネシウム(Mg)および不可避不純物から構成されるマグネシウム鋳造材を300〜500℃で1時間〜48時間溶体化処理する段階(a)と、上記溶体化処理されたマグネシウム鋳造材を300〜500℃で予熱する段階(b)と、上記予熱されたマグネシウム鋳造材を、下記の関係式(1)によって選定された拘束部材と共に、下記の関係式(2)と下記の関係式(3)を満足するように圧延する段階(c)と、上記圧延されたマグネシウム合金圧延板材を300〜500℃で0.5時間〜5時間溶体化処理する段階(d)とを含む。
【0012】
関係式(1)
1<┃(σmat−σmg)┃xσmg−1<20
σmatとσmgはそれぞれ、拘束部材とマグネシウム素材のMean Flow Stress(MFS)(MPa)である:
【0013】
関係式(2)
0.4<NReffx(NRtotal−1)−1
Reffは、effective strain(εeff)値以上の変形が加えられる圧延パス数であり、
Rtotalは、総圧延パス数である:
【0014】
関係式(3)
3<εeffx100(%)<40
εeffT−TxLini−1
(mm)とT(mm)はそれぞれ、マグネシウム板材の変形前の厚さと変形後の厚さである。
【0015】
上記拘束部材の厚さは、マグネシウム鋳造材対比5%を超えるように設計される。
上記圧延は、累積圧下量50%以上で進行する拘束圧延であってもよい。
上記圧延後、塗油処理またはメッキ処理を追加的に施してもよい。
【0016】
本発明の一実施形態によるマグネシウム合金板は、前述した製造方法により製造されたものであって、厚さ方向に均一な非基底(non−basal)集合組織を有することができる。
【0017】
前述した製造方法により製造されたマグネシウム合金板は、常温における限界成形高さ(LDH.Limited Dome Height)が10mm以上であってもよい。
【発明の効果】
【0018】
優れた冷間成形性を有するマグネシウム合金板、およびその製造方法を提供することができる。具体的には、常温における限界成形高さが10mm以上の優れた冷間成形性を有するマグネシウム合金板材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】比較例1によるマグネシウム合金圧延板材の結晶組織をEBSD(Electron Backscatter Diffraction)を用いて示す結果である。
【0020】
図2】実施例1によるマグネシウム合金圧延板材の結晶組織をEBSDを用いて示す結果である。
【0021】
図3】実施例1および比較例1の1/4t、1/2t地点における(0002)面の基準結晶方位分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
第1、第2および第3などの用語は、多様な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使用されるが、これらに限定されない。これらの用語は、ある部分、成分、領域、層またはセクションを、他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためにのみ使用される。したがって、以下に述べる第1部分、成分、領域、層またはセクションは、本発明の範囲を逸脱しない範囲内で第2部分、成分、領域、層またはセクションと言及される。
【0023】
ここで使用される専門用語は、単に特定の実施例を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数形態は、文言がこれと明確に反対の意味を示さない限り、複数形態も含む。明細書で使用される「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外させるわけではない。
【0024】
別途定義しないものの、ここで使用される技術用語および科学用語を含むすべての用語は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同じ意味を有する。通常使用される辞書に定義された用語は、関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有すると追加解釈され、定義されない限り、理想的または非常に公式的な意味で解釈されない。 また、特に言及しない限り、%は、重量%(wt%)を意味する。
【0025】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施例について、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳しく説明する。しかし、本発明は種々の異なる形態で実現可能であり、ここで説明する実施例に限定されない。
【0026】
本発明の一実施形態によるマグネシウム合金板は、重量%で、0.5〜10%の亜鉛(Zn)、1〜15%のアルミニウム(Al)を含有し、残りはマグネシウム(Mg)および不可避不純物から構成され、(0002)面[0001]方向基準で方位差が30°以下の範囲内の集合組織の集合強度の平均値が3以下である。例えば、厚さ方向に1/4t、1/2t地点において、(0002)面[0001]方向を基準として方位差が30°以下の範囲内の集合組織の集合強度の平均値が3以下であってもよい。
【0027】
また、上記板材内のHCP(Hexagonal Close Packed)結晶構造のc/a値の偏差は5以下を満足する。具体的には、c/a値の差が4%以下であってもよい。より具体的には、c/a値の差が3%以下であってもよい。さらにより具体的には、c/a値の差が2%以下であってもよい。
【0028】
これにより、本発明のマグネシウム合金板は、常温における限界成形高さ(LDH.Limited Dome Height)が10mm以上と、優れた冷間成形性を有することができる。
【0029】
以下、本発明のマグネシウム鋳造材の成分を説明する。
【0030】
本発明によるマグネシウム鋳造材は、重量%で、上記亜鉛の含有量が0.5〜10%、アルミニウムの含有量が1〜15%であり、残部がマグネシウムおよび不可避不純物から構成されることを特徴とする。本発明において、マグネシウム鋳造材の合金組成を制限した理由を説明し、以下、%は、重量%を意味する。
【0031】
亜鉛(Zn)
亜鉛は、マグネシウム合金板材において強度を上昇させる効果がある。亜鉛を0.5%未満で添加する場合、上記効果が不足して強度に劣り、10%を超える場合、結晶粒界に粗大な平衡相が形成されて成形性が減少する。したがって、亜鉛の含有量は0.5〜10%とするのが好ましい。
【0032】
アルミニウム(Al)
アルミニウムは、マグネシウム合金板材において耐食性と延伸率を向上させる効果がある。しかし、1%未満で添加する場合、上記効果が不足して目標の物性を達成しにくい。また、15%を超える場合、製造が容易でなく、軽量性確保の側面から効率性が低下するため、アルミニウムの含有量は1〜15%とするのが好ましい。
【0033】
一方、本発明の一実施形態によるマグネシウム合金板の製造方法は、重量%で、0.5〜10%の亜鉛(Zn)、1〜15%のアルミニウム(Al)を含有し、残りはマグネシウム(Mg)および不可避不純物から構成されるマグネシウム鋳造材を300〜500℃で1時間〜48時間溶体化処理する段階(a)と、上記溶体化処理されたマグネシウム鋳造材を300〜500℃で予熱する段階(b)と、上記予熱されたマグネシウム鋳造材を、下記の関係式(1)によって選定された拘束部材と共に、関係式(2)と関係式(3)を満足するように圧延する段階(c)と、
上記圧延されたマグネシウム合金圧延板材を300〜500℃で0.5時間〜5時間溶体化処理する段階(d)とを含む。
【0034】
以下、本発明の製造工程を段階別に分けて詳しく説明する。
【0035】
上記成分で鋳造されたマグネシウム鋳造材を300〜500℃で1時間〜48時間溶体化処理する。300℃未満で溶体化処理する場合、鋳造組織が残留して均一な微細組織を構成できず、製造後、冷間成形性が局部的に劣る問題点がある。500℃超過で熱処理時、溶融が発生したり粗大な微細組織が形成されて冷間成形性が減少する。また、1時間未満で熱処理する場合、均一な微細組織が得られず、48時間を超える場合、組織の均一化効果が顕著に減少し、経済的にも不利である。
【0036】
上記溶体化処理されたマグネシウム鋳造材を300〜500℃で予熱する。300℃未満で予熱する場合、圧延時、再結晶効果が十分でなくて微細組織の均一性が欠如し、500℃を超える場合、異常な結晶粒の成長により冷間成形性が減少する問題点がある。
【0037】
上記予熱されたマグネシウム鋳造材を、関係式(1)によって選定された拘束部材と共に、関係式(2)と関係式(3)を満足するように圧延する。
【0038】
関係式(1)
1<┃(σmat−σmg)┃xσmg−1<20
σmatとσmgはそれぞれ、拘束部材とマグネシウム素材のMean Flow Stress(MFS)(MPa)である。
【0039】
関係式(2)
0.4<NReffx(NRtotal−1)−1
Reff:effective strain(εeff)値以上の変形が加えられる圧延パス数
Rtotal:総圧延パス数
【0040】
関係式(3)
3<εeffx100(%)<40
εeffT−TxLini−1
(mm)とT(mm)はそれぞれ、マグネシウム板材の変形前の厚さと変形後の厚さを意味する。
【0041】
関係式(1)の値が1未満の場合、拘束部材の変形抵抗値が非常に小さく、小さい圧下量でも拘束部材の成形が過度に進行し、マグネシウム板材との界面からマグネシウム板材の中心部まで十分な拘束圧延効果を付与できない。反面、20を超える場合、拘束部材の変形抵抗値が非常に高く、圧延負荷量の増加で通板性の問題を引き起こすことがあり、拘束部材における変形抵抗が、マグネシウム板材の変形抵抗に比べて非常に大きく、マグネシウム界面から形成されるべき多軸の拘束変形挙動と異なる圧縮変形挙動が優勢に作用して、厚さ方向の1/2t地点まで拘束圧延の効果を効果的に付与できない。
【0042】
上記に基づいて選択された素材を適用して、圧延中、非基底(non−basal)集合組織が効果的に形成される時点まで必要な、effective strain(εeff)値以上の圧延パス数に対する関係式(2)において、初期の1パス以上は、通常の粗圧延過程と類似に、最終目標厚さの確保のための素材の厚さ調整を目標として圧延を開始するものの、少なくとも1パス以上はeffective strain(εeff)値以上の変形が加えられる圧下率で圧延されることが好ましい。同時に、上記言及したeffective strain(εeff)値以上の変形が加えられる圧下率に関する定義は、関係式(3)を満足しなければならない。関係式(3)において、値が3未満の場合、低い圧下率による剪断変形効果が顕著に低下して非基底(non−basal)集合組織が効果的に形成されない。40を超える場合、剪断変形効果の確保の側面からも効率が低下するだけでなく、マグネシウム素材と変形率が異なる拘束部材を共に圧延する時は、通板性の劣位により円滑な操業の進行が困難である。
【0043】
上記圧延されたマグネシウム合金圧延板材を、300〜500℃で0.5〜5時間溶体化処理する。300℃未満で溶体化処理する場合、再結晶挙動が十分でなく、延伸された圧延組織が残留して冷間成形性に劣るという問題がある。500℃超過で熱処理時、局部的に溶融が発生したり粗大な微細組織が形成されて、同じく冷間成形性に劣る。0.5時間未満で熱処理する場合、均一に再結晶された微細組織が得られず、5時間を超える場合、組織の均一化効果が顕著に減少する。
【0044】
上記のように、適用素材間の変形抵抗の差に対する関係式(1)を満足するように素材を選択し、関係式(2)と関係式(3)に対する検討に基づいて製造されたマグネシウム合金板は、(0002)面[0001]方向のbasal orientationの基準方位差が30°以内の平均集合強度(Iave(〜30°))が3以下と、非基底(non−basal)集合組織が効果的に形成される。また、本発明によるマグネシウム合金板において、HCP(Hexagonal Close Packed)格子構造のaspect−ratio偏差は、c/a値の差が5%以下であることを特徴とし、非常に均一な非基底(non−basal)集合組織の形成が可能で、結果的に常温でも10mm以上の限界成形高さの確保が可能である。具体的には、c/a値の差が4%以下であってもよい。より具体的には、c/a値の差が3%以下であってもよい。さらにより具体的には、c/a値の差が2%以下であってもよい。
【0045】
例えば、本発明によるマグネシウム合金板は、0.4〜2mmの厚さを有してもよいが、これに限定されるものではない。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例を通じてより詳しく説明するが、このような実施例の記載は本発明の実施を例示するためのものに過ぎず、このような実施例の記載によって本発明が限定されるわけではない。
【0047】
(マグネシウム合金板の製造)
実施例1〜、比較例1〜9
表1に記載の成分の重量%の検討に基づいて、COとSF混合ガス雰囲気下で溶解してマグネシウム合金溶湯を製造し、このように用意された溶湯を用いて、双ロール式薄板鋳造装置により板状の鋳造材を製造した。溶湯が発火する前の温度(約950℃)を考慮して710℃に維持させながら、ノズルに移送されて2つの冷却ロールの間に注入された。この時、2つの冷却ロールの間の間隔は約4mmに維持し、ロールの回転速度を約5mpmに維持して、200〜300℃/sの冷却速度で鋳造された。このように鋳造された板材について、次の後続熱処理を行った。まず、鋳造された板材を440℃で1時間熱処理した。これは、鋳造組織と偏析を最大限除去するためである。
【0048】
次に、上記のように熱処理されたマグネシウム鋳造材を関係式(1)の値が1未満の素材とし、純アルミニウム板材を20を超える素材として、4000MPa級のマルテンサイト基地組織を有する変態強化鋼(Mart鋼)を拘束部材に適用した。また、関係式(1)により適正範囲に属する素材として、Mild鋼、STS304、TWIP鋼を拘束部材に選択し、構成素材間の厚さ比率を、マグネシウム鋳造板材基準4.5%から100%まで変化を与えながら圧延を実施した。圧延前、400℃で30分間予熱後に圧延を実施し、熱間圧延時、passあたり、400℃で5分間追加の予熱と圧延を繰り返し、拘束部材の除去後、最終的にマグネシウム合金板材を再結晶させるために、400℃で1時間仕上げ熱処理を施した。
【0049】
表1と表2はそれぞれ、マグネシウム鋳造材と拘束部材の成分、材質、および相互間の変形抵抗の差を示すMFS、そして関係式(1)の結果値を示している。TS、YS、Elは、常温で4mmの厚さの板状型マグネシウム鋳造材および多様な当該厚さの拘束部材に対するJIS5規格、C方向に対する引張材質であり、MFSは400℃で0.1s−1の変形率付与時の測定結果である。表3は、圧延前の厚さ比率、圧延モード、累積圧下量、NReff、NRtotal、εeff値、および圧延後の最終圧延後の熱処理条件を示している。表4は、圧延後の拘束部材を除去し、残りの拘束圧延されたマグネシウム合金板材に対する常温引張材質と1/4tおよび1/2t地点の微細組織を、EBSD/OIMおよびTEM分析手法を利用して、Iave(1/4t)(〜30°)、Iave(1/2t)(〜30°)、c/a(1/4t)、c/a(1/2t)、c/aの偏差に対する結果値、そして限界ドーム高さ値を各実施および比較例によりまとめた。以上のように、製造された鋳造、圧延、後熱処理を終えたマグネシウム合金板材の成形性を評価するために、限界ドーム高さ試験を施した。限界ドーム高さ試験は、直径50mm、厚さ1〜1.5mmのディスク型試験片を作製した後、上部/下部ダイの間に試験片を挿入した後、5kNの力で試験片を固定し、27mmの直径を有する球形パンチを用いて、0.1mm/secの速度で変形を加え、ディスク型試験片の破断時までパンチを挿入した後、破断時の変形高さを測定する方式で行った。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
上記表1〜4において、c/a偏差値、△c/aは、1/4tおよび1/2t地点でTEM分析により測定されたc/a値に基づき、下記の式を用いて計算された。
【0055】
┃(c/a(1/4t)−c/a(1/2t))┃x(c/a(1/2t)−1x100≦5
c/a(1/4t):厚さ方向の1/4t地点におけるHCP(Hexagonal Close Packed)格子構造のaspect ratio
c/a(1/2t):厚さ方向の1/2t地点におけるHCP(Hexagonal Close Packed)格子構造のaspect ratio
【0056】
実施例1〜は、本発明で提示した変形抵抗の差に関する関係式(1)を考慮して選定された拘束部材と板状のマグネシウム鋳造材を適用し、εeff以上の圧下率で圧延したパス数および累積圧下量に対する相関関係式(2)と関係式(3)を満足して製造された結果である。
【0057】
表4を参照すれば、本発明で提示する非基底(non−basal)集合組織の形成挙動を満足し、(0002)面[0001]方向の基準方位差が30°以下の範囲内の集合組織の集合強度の平均値が3以下であることを確認することができる。また、板材内のHCP(Hexagonal Close Packed)結晶構造のc/a値の偏差が5以下を満足することを確認することができる。これにより、常温で限界ドーム高さ約10〜14mmを確保可能なマグネシウム合金圧延板材を最終的に製造することができた。
【0058】
比較例1〜3は、本発明で提示している拘束部材適用ベースの製造方式ではない、マグネシウム鋳造材のみを適用して、通常の圧延方式で製造された合金圧延板材に関する結果で、仕上げ熱処理後にも表4の(0002)面[0001]方向の基準方位差が30°以下の範囲内の集合強度の平均値から明らかなように、組織内の非基底(non−basal)集合組織が発達しないことを確認することができ、c/a偏差値から明らかなように、非基底(non−basal)集合組織の均一性も低下して、優れた冷間成形性を確保することができない。
【0059】
比較例4および5は、適用されたマグネシウム合金および拘束部材間の変形抵抗の差に対する関係式(1)の有効範囲を外れた場合である。より詳しくは、比較例4は、純アルミニウム板材を拘束部材に適用した場合で、圧延が行われた400℃の温度領域におけるMFSは約15MPaとマグネシウム鋳造材(120MPa)に比べて非常に低いことが分かり、関係式(1)に代入した結果、表2から確認できるように、約0.8程度と有効範囲未満であることが分かる。この場合、拘束部材の変形抵抗値が非常に小さく、小さい圧下量でも拘束部材の成形が過度に進行し、マグネシウム素材との界面からマグネシウム素材の中心部まで十分な拘束圧延効果を付与できず、厚さ方向の1/2tおよび1/4t地点で十分な非基底(non−basal)集合組織を確保することができず、厚さ方向にも集合組織の形成挙動が異なる。比較例5は、圧延が行われた400℃の温度領域におけるMFSが約3250MPaのMart鋼を拘束部材に適用した場合で、マグネシウム素材(120MPa)に比べて変形抵抗値が非常に高いことが分かる。この場合、拘束部材の変形抵抗がマグネシウム素材に比べて非常に大きく、マグネシウム素材の界面から多軸の拘束変形挙動が十分に形成/伝達されず、厚さ方向の1/2t地点まで拘束圧延の効果を効果的に付与できなかった。
【0060】
比較例6は、拘束圧延時、累積圧下量が30%未満で与えられ、マグネシウム合金圧延板材へ圧延時に十分な剪断変形が作用せず、マグネシウム合金圧延板材の1/2t地点では拘束圧延の効果があるが、厚さ方向の中心部には非基底(non−basal)集合組織の実現が十分でなく、結果的に厚さ方向に集合組織が不均一になって優れた冷間成形性の確保が難しい場合である。表4のように、圧延後の集合組織的特性をみた時、厚さ方向の1/4t地点における(0002)面[0001]方向の基準方位差が30°以下、つまり、Iave(1/4t)(〜30°)値は3以下を満足するものの、1/2t地点では3を超えることが分かり、その結果、c/a偏差値から明らかなように、非基底(non−basal)集合組織の均一性に劣り、優れた冷間成形性を確保することができない。
【0061】
比較例7は、板状のマグネシウム鋳造材に比べて拘束部材の厚さ比率が5%を超えられない場合である。この場合、界面部では異なる変形抵抗挙動に起因した拘束圧延効果がある程度確保され、表4のように、Iave(1/4t)(〜30°)値が一般圧延と比較して減少することが分かるが、その効果はわずかである。また、Iave(1/2t)(〜30°)値は一般圧延と類似していることが分かり、拘束圧延の効果が表層部ではわずかに作用するものの、厚さ方向の中心部までは作用しなかったことを確認することができる。
【0062】
比較例8および9は、effective strain(εeff)値以上の変形が加えられる圧下率で圧延されるパス数(NReff)が、本発明で提示する範囲を外れた場合で、比較例8は、総12パスのうち1パスのみが有効圧下量以上に圧延された場合である。つまり、表4から明らかなように、最終厚さ1.2mmに圧延するために、関係式(3)の値が40を超えて特定パスで圧下量が適用された場合で、製造時、通板性の低下によりマグネシウム素材と拘束部材との間の界面で剥離現象が発生して、拘束圧延効果を低下させた。比較例9は、総36パスのうち1パスのみが有効圧下量以上に圧延された場合で、大部分のパスあたりの圧下率が関係式(3)で提示する値3未満に圧下量が適用された場合で、マグネシウム合金圧延板材内の非基底(non−basal)集合組織の形成が効果的でないことが分かり、厚さ方向にも集合組織が均一でない。
【0063】
実施例および比較例について、より詳しい集合組織および物性評価の結果を図面を参照して説明する。
【0064】
図1は、一般に、段階(a)〜(d)に従い、拘束圧延なしに、一般圧延工程で圧延された後と、段階(g)を経た後の比較例1に相当するマグネシウム合金圧延板材に対する結晶組織を、EBSD(Electron Backscatter Diffraction)を用いて観察した結果である。観察地域は、厚さ方向の1/4t地点である。
【0065】
図2は、拘束圧延を適用した場合で、イットリウムやカルシウムなどの特殊元素が添加されず、拘束部材STS304を用いて、累積圧下量70%で拘束圧延および圧延後、400℃で1時間熱処理および炉冷を経たマグネシウム合金圧延板材の、厚さ方向の1/4t地点の結晶組織を示しており、実施例1に相当する。
【0066】
図3は、実施例1と比較例1に相当するもので、拘束圧延適用の有無による熱処理後の厚さ方向の1/4t、1/2t地点における(0002)面の基準結晶方位分布を示している。
【0067】
上記図1から明らかなように、拘束圧延を適用せずに圧延されたマグネシウム合金板材の結晶方位は、明確に(0002)面[0001]方向に結晶方位が集中した基底集合組織を呈しており、ダブルツインの分率が非常に低いことが分かる。しかし、図2のように、拘束圧延を施す場合、非常に高い分率のダブルツインが確認され、結晶方位も(0002)面基準[0001]方位に集中程度が緩和することが分かる。
【0068】
また、熱処理後の組織を比較する時、一般圧延による組織は相対的に結晶粒の大きさが粗大である(平均直径30μm)ことが分かり、これは、再結晶温度以上での熱処理による結果と判断される。しかし、拘束圧延材の場合、平均直径が12μmであって、マグネシウム合金圧延板材の厚さが約1.2mmであることを勘案すると、非常に微細な組織が形成されたことが分かる。これは、イットリウムやカルシウムがなくても、拘束圧延中に発生したダブルツインが熱処理時に再結晶サイト(site)の役割を果たした結果と判断される。
【0069】
さらに、図3から明らかなように、一般圧延材の場合、厚さ方向に(0002)面の基準結晶方位分布が異なることが分かるが、拘束圧延材は1/4t、1/2t地点とも基底集合組織が十分に緩和し、方位分布挙動も類似していることが分かる。
【0070】
本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態で製造可能であり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的な思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施可能であることを理解するであろう。そのため、以上に述べた実施例は、あらゆる面で例示的なものであり、限定的ではないと理解しなければならない。
図1
図2
図3