【文献】
REDDY, A. S. et al.,Properties of dc magnetron sputtered Cu2O films prepared at different sputtering pressures,APPLIED SURFACE SCIENCE,2006年12月21日,Vol. 253,pp. 5287-5292
【文献】
GAN, J. et al.,Influence of target power on properties of CuxO thin films prepared by reactive radio frequency magnetron sputtering,THIN SOLID FILMS,2015年05月28日,Vol. 594,pp. 250-255
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記光電変換層の成膜において、前記堆積速度は、0.02[μm/min]以上4[μm/min]以下である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の積層薄膜の製造方法。
前記光電変換層の成膜において、堆積速度をd[μm/min]とするとき、前記酸素分圧が0.55×d[Pa]以上1.4×d[Pa]以下である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の積層薄膜の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1実施形態)
第1実施形態は、積層薄膜と積層薄膜の製造方法に関する。
図1に積層薄膜100の断面概念図を示す。
図1に示す積層薄膜100は、第1透明電極1、第1透明電極1上に形成された光電変換層2とを有する。
【0009】
第1透明電極1は、光電変換層2と積層する層である。
図1では、第1透明電極1は、光電変換層2と直接接している。第1透明電極1の主面は、光電変換層2の主面と対向し、界面を有する。光電変換層2の第1透明電極1と対向する面の全面は、第1透明電極1と直接接していることが好ましい。第1透明電極1は、p型の光電変換層2と直接的に接するp型の電極である。第1透明電極1の厚さは、例えば、100nm以上1000nm以下であることが好ましい。
【0010】
第1透明電極1としては、透明導電性酸化物膜含むものが好ましい。透明導電性酸化物膜としては、酸化インジウムスズ(Indium Tin Oxide:ITO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(Al-doped Zinc Oxide:AZO)、ボロンドープ酸化亜鉛(Boron-doped Zinc Oxide:BZO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(Gallium-doped Zinc Oxide:GZO)、フッ素ドープ酸化スズ(Fluorine-doped Tin Oxide:FTO)、アンチモンドープ酸化スズ(Antimony-doped Tin Oxide:ATO)、チタンドープ酸化インジウム(Titanium-doped Indium Oxide:ITiO)、酸化インジウム酸化亜鉛(Indium Zinc Oxide:IZO)や酸化インジウムガリウム亜鉛(Indium Gallium Zinc Oxide:IGZO)、タンタルドープ酸化スズ(Ta-doped Tin Oxide:SnO
2:Ta)、ニオブドープ酸化スズ(Nb-doped Tin Oxide: SnO
2:Nb)、タングステンドープ酸化スズ(W-doped Tin Oxide:SnO
2:W)、モリブデンドープ酸化スズ(Mo-doped Tin Oxide:SnO
2:Mo)、フッ素ドープ酸化スズ(F-doped Tin Oxide:SnO
2:F)、水素ドープ酸化インジウム(Hydrogen-doped Indium Oxide:IOH)など特に限定されない。透明導電性酸化物膜は、複数の膜を持つ積層膜であってもよく、上記酸化物の他に酸化スズなどの膜が積層膜に含まれていてもよい。酸化スズなどの膜へのドーパントとしては、In、Si、Ge、Ti、Cu、Sb、Nb、F、Ta、W、Mo、Br、I及びClなどからなる群より選ばれる1種以上であれば特に限定されない。光電変換層2は、第1透明電極1に含まれる透明導電性酸化物膜と直接的に接していることが好ましい。
【0011】
第1透明電極1としては、酸化インジウムスズ膜とドープされた酸化スズ膜が積層した積層構造を含むものが好ましい。第1透明電極1としては、具体的には、酸化インジウムスズ膜とアンチモンドープ酸化スズ膜の積層膜、酸化インジウムスズ膜とフッ素ドープ酸化スズ膜の積層膜、酸化インジウムスズ膜とタンタルドープ酸化スズ膜の積層膜及び酸化インジウムスズ膜とニオブドープ酸化スズ膜の積層膜からなる群より選ばれる1種以上の積層構造を含むことが好ましい。ドープされた酸化スズ膜が第1透明電極1に含まれる場合は、ドープされた酸化スズ膜が光電変換層2と直接接していることが好ましい。
【0012】
第1透明電極1には、10nm以下の厚さの金属膜が含まれていてもよい。金属膜としては、Mo、Au、Cu、Ag、Al、Ta、Pt、Ru及びWからなる群より選ばれる1種以上の膜など特に限定されない。また、第1透明電極1は、透明導電性酸化物膜上部あるいは下部のいずれかにドット状、ライン状もしくはメッシュ状の金属を設けた電極でもよい。このとき、ドット状、ライン状もしくはメッシュ状の金属は、透明導電導電性酸化物膜と光電変換層32間に配置される。ドット状、ライン状もしくはメッシュ状の金属は、透明導電性酸化物膜に対して開口率が50%以上であることが好ましい。ドット状、ライン状もしくはメッシュ状の金属は、Mo、Au、Cu、Ag、Al、Ta、Pt、RuやWなど特に限定されない。ドット状、ライン上もしくはメッシュ状の金属を設けた場合、透過性は確保されるため、金属膜の厚さに限定はない。
【0013】
光電変換層2の結晶性を向上させる観点から第1透明電極1の光電変換層2が形成される面はSnを主成分とする金属の酸化物(透明導電性酸化物膜)の薄膜であることが好ましい。Snを主成分とする金属の酸化物の金属の90atom%以上は、Snであることが好ましい。Snを主成分とする金属の酸化物の薄膜には、Snの他にZn、Al、Ga、In、Si、Ge、Ti、Cu、Sb、Nb、F及びTaからなる群より選ばれる1種以上の金属(金属の酸化物)が含まれていてもよい。Inを主成分とする金属の酸化物(例えば、ITO)の膜上に光電変換層2を直接成膜すると、ITO膜と基板の積層体が高温で変形し易いためITO膜上にCu
2O膜を成膜することは適していない。
【0014】
光電変換層2は、亜酸化銅を主体とするp型の化合物半導体層である。亜酸化銅は、Cu
2Oで表される酸化物半導体である。亜酸化銅は、ノンドープ又はドープされた亜酸化銅である。光電変換層2の厚さは、例えば、500nm以上10μm以下である。光電変換層2の厚さは、1000nm以上5μm以下が好ましく、1500nm以上3μm以下がより好ましい。光電変換層2の厚さは例えば、断面観察により求められる。
【0015】
光電変換層2は、大きな亜酸化銅の結晶を多く含み、積層薄膜100を用いた太陽電池の変換効率及び透光性に優れることが好ましい。実施形態の製造方法で積層薄膜100を作製することで、亜酸化銅の結晶が大きくなり、変換効率及び透光性の向上に寄与する。光電変換層2の95wt%以上は亜酸化銅で構成されていることが好ましい。光電変換層2の98wt%以上が亜酸化銅で構成されていることが好ましい。つまり、光電変換層2は、CuOやCu等の異相をほとんど(実質的に)含まないことが好ましい。光電変換層2には、CuOやCuなどの異相が含まれず、実質的にCu
2O単相の薄膜であると、非常に高い透光性となるため好ましい。光電変換層2が実質的にCu
2Oの単相であることは、フォトルミネッセンス法(Photo Luminescence;PL法)により測定することで確認できる。
【0016】
光電変換層2は、Cuが60.0atom%以上67.0atom%以下であり、O(酸素)が32.5atom%以上34.0atom%以下であることが好ましい。Cuと酸素以外は、Cu以外の金属、ドーパント及び不純物からなる群より選ばれる元素を含む場合がある。光電変換層2にはCu以外の金属が酸化物として含まれていて、光電変換層2が複合酸化物である場合がある。光電変換層2に含まれる金属は、Cuに加えて、Sn、Sb、Ag、Li、Na、K、Cs、Rb、Al、Ga、In、Zn、Mg及びCaからなる群より選ばれる1種以上の金属である。Cu以外にAg、Li、Na、K、Cs、Rb、Al、Ga、In、Zn、Mg、Ta及びCaからなる群より選ばれる1種以上の金属が含まれると、光電変換層2のバンドギャップを調整することができる。光電変換層2の第1透明電極1側にはSi、Ge及びNのうちのいずれか1種以上のp型ドーパントが高濃度に分散したp+型領域が存在していてもよい。
【0017】
光電変換層2のバンドギャップは、2.0eV以上2.2eV以下であることが好ましい。かかる範囲のバンドギャップであると、Siを光吸収層に用いた太陽電池をボトムセルに用い、実施形態の薄膜を用いた太陽電池をトップセルに用いた多接合型太陽電池において、トップセル及びボトムセルの両方で太陽光を効率よく利用できる。光電変換層2の組成は、Cu
aM
bO
cで表すことができる。Mは、Si、Ge、N、Sn、Sb、Ag、Li、Na、K、Cs、Rb、Al、Ga、In、Zn、Mg、Ta及びCaからなる群より選ばれる1種以上の元素である。a、b及びcは、1.80≦a≦2.01、0.00≦b≦0.20及び0.98≦c≦1.02を満たすことが好ましい。上記光電変換層2の組成比は、光電変換層2の全体の組成比である。また、上記の光電変換層2の化合物組成比は、光電変換層2において全体的に満たすことが好ましい。光電変換層2には、その他、添加剤が含まれることがある。
【0018】
次に、積層薄膜100の製造方法を説明する。
図2に積層薄膜100の製造方法のフローチャートを示す。積層薄膜100の製造方法は、第1透明電極1上に銅を主成分とするターゲットを用いて酸素分圧0.01[Pa]以上10[Pa]以下の雰囲気でスパッタすることによって光電変換層2を成膜する工程(S01)を含む。光電変換層2の成膜工程(S01)の前に、減圧工程(S00)を任意に行なうことができる。
【0019】
銅を主成分とするターゲットは、銅の純度が99.99%以上であるターゲットである。銅の純度は、99.995%以上が好ましく、99.999%以上がより好ましい。高純度の銅をターゲットに用いることで、実質的にCu
2O単相の光電変換層2を得ることが出来る。光電変換層2に含まれる元素(例えば、Siなど)をターゲットに含んでいる場合は、銅の純度はこの限りではない。
【0020】
スパッタの雰囲気は、不活性ガスと酸素ガスが混合した酸化性雰囲気であることが好ましい。スパッタの雰囲気は、不活性ガスと酸素ガスからなる雰囲気であることがより好ましい。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、又は窒素ガスとアルゴンガスの混合ガスが好ましい。
【0021】
スパッタは、例えば、第1透明電極1をガラスなどの基板10に成膜した基材に対して行なう。
図3に基板10を含む積層薄膜100の断面模式図を示す。スパッタは、第1透明電極1の面に行ない、第1透明電極1上に光電変換層2を堆積させる。スパッタを行なう前には、第1透明電極1が配置されたチャンバー内を5.0×10
−3[Pa]以下に減圧する工程(S00)を行なうことが好ましい。減圧工程(S00)は、スパッタを行なうチャンバーで行なってもよいし、サブチャンバー内で行なってもよい。減圧の工程においては、スパッタとは異なり酸素を導入しない。基板10は、薄膜100を用いた太陽電池の基板として用いることができる。第1透明電極1は、例えば、基板10上にスパッタするなどして成膜される。基板10としては、例えば、白板ガラス、ソーダライムガラス化学強化ガラスや石英ガラスなどのガラスを用いることが好ましい。基板10としては、他にもアクリル、ポリカーボネート、やポリイミドなどの有機系の材料を用いることができる。
【0022】
スパッタ中のチャンバー内の全圧は、典型的には、0.1[Pa]以上10[Pa]以下である。上記の酸素分圧が0.01[Pa]以上10[Pa]以下(第1条件)の雰囲気でスパッタを行なう。かかる酸素分圧の範囲内でスパッタを行なうことで、ほぼ単相の亜酸化銅が第1透明電極1上に堆積する。酸素分圧が高すぎると、銅が酸化されすぎて亜酸化銅だけではなく、CuOも生成してしまう。また、酸素分圧が低すぎると銅の酸化が進まず、一部のCuがそのまま金属として堆積してしまう。CuOやCuの異相が第1透明電極1上に堆積すると、積層薄膜100を用いた太陽電池の変換効率が低下するだけでなく、積層薄膜100の透光性が低下してしまい、太陽電池のトップセルに用いるのに適さなくなる。スパッタは、DCスパッタ、RFスパッタ、DCマグネトロンスパッタ、RFマグネトロンスパッタとイオンビームスパッタのいずれでもよい。
【0023】
光電変換層2を成膜する際に、酸素分圧が0.01[Pa]以上4.8[Pa]以下(第2条件)の範囲内であることを満たし、かつ、堆積速度をd[μm/min]とするとき、酸素分圧が0.5d[Pa]以上1.5d[Pa]以下(第3条件)であることを満たすことが良質な亜酸化銅を堆積する観点から好ましい。なお、堆積速度は、実際にスパッタを行なっている時間から求めるものである。そのため、間欠的にスパッタを行なう場合などにおいては、スパッタをしていない時間(成膜していない時間)を除いて堆積速度が求められる。
図4は、実施形態の酸素分圧と堆積速度の関係を示したグラフである。第2条件及び第3条件を満たす範囲は、
図4の細線の領域内である。なお、酸素分圧が0.01Paと4.8Paにおいて、太線、細線及び破線は、重なっている。太線の領域内において、透過性のある光電変換層2を作製することができるが、太線の領域内で細線の領域外よりも、細線の領域内の条件で作製した光電変換層2は非常に結晶性に優れ透過性も非常に高い。堆積速度が遅いと実用的ではないことから堆積速度は、0.02μm/min以上(第4条件)であることが好ましい。好ましい堆積速度は、20μm/min以下(第5条件)である。例えば、成膜面積が広い場合において、堆積速度が速いと光電変換層2の均質性が低下する場合があることからより好ましい堆積速度は、4μm/min以下(第6条件)である。実用性と膜質を考慮すると堆積速度は、0.02[μm/min]以上4[μm/min]以下(第7条件)であることが好ましい。より、実用性を考慮すると堆積速度は、1[μm/min]以上4[μm/min]以下(第8条件)を満たすことが好ましい。
図4の太線で囲った領域よりも上側、つまり、酸素分圧が高すぎると光電変換層2内に異相であるCuOが増加する傾向があって好ましくない。また、
図4の太線で囲った領域よりも下側、つまり、酸素分圧が低すぎると光電変換層2内に異相であるCuが増加する傾向があって好ましくない。堆積速度と酸素分圧を調整することで、より良質な亜酸化銅を堆積することが出来る。
【0024】
酸素分圧が低いとスパッタの際に酸素濃度が低いため、銅が酸化されずにCu相(金属状態)として堆積される。金属状態のCuが増えると光電変換層2は鏡のように光を反射してしまうため、光電変換層2に含まれる金属状態のCuは少ないことが好ましい。例えば、太線の領域内で細線の領域外で酸素分圧が低い条件では、光電変換層2に金属的な光沢感が確認される。また、太線の領域内で細線の領域外で酸素分圧が高い条件では、わずかにCuO相が光電変換層2に含まれるため目視で光電変換層2が少し濁っていることが確認される。光電変換層2が少し濁ったり少し金属的な光沢感があったりする場合においても、光電変換層2を用いた太陽電池単体では、使用することができる。しかし、光電変換層2に高い透過性が要求される多接合型の太陽電池においては、濁りがある又は/及び金属的な光沢感がある光電変換層を用いた太陽電池を多接合型の太陽電池のトップセルに用いるとボトムセルでの発電に大きな悪影響がある。
【0025】
細線の領域内では、光電変換層2は金属的な光沢感が無く光電変換層2が透き通っており、高い結晶性と高い透過率を両立している。光電変換層2の結晶性が低下すると、光電変換層2のCu
2O膜内部に、例えば、VBM(価電子帯最上部)から1.8eV離れたところ等にギャップ内準位が生じてしまう。具体的には、酸素分圧が2.4xd[Pa]の線の近傍の条件で成膜したCu
2O膜ではCuOの異相が確認されギャップ内準位が確認でき、透過率だけでなく変換効率も低くなる場合がある。細線の領域内では、Cu
2Oの結晶性が高いため、ギャップ内準位は特性に影響を及ぼさないほど少なくなり、高い結晶性と高い変換効率を両立することができる。ギャップ内準位が存在するとSiを光吸収層に用いた太陽電池をボトムセルとして用い、実施形態の光電変換層2を用いた太陽電池をトップセルとして用いて多接合型太陽電池を作製した際に、下部側のボトムセルの吸収帯波長をトップセル側で多く吸収してしまうために多接合化の観点からも光電変換層2は高い結晶性を有していることが好ましい。また、光電変換層2中にCuが多くなり光電変換層2が光を反射すると上記と同様に多接合化の観点から好ましくないため、細線の範囲内の酸素分圧の条件を満たすことが好ましい。
【0026】
より良質な亜酸化銅を堆積する観点から第3条件の酸素分圧は、0.55xd[Pa]以上1.00xd[Pa]以下であることがより好ましい。より好ましい酸素分圧の範囲は、
図4の破線で示した領域である。破線の領域内の条件でCu
2O膜を成膜すると、さらに結晶性に優れCu
2Oの結晶の膜厚方向の長さが膜厚と同程度になり、実質的にCu
2Oの単相になる。酸素分圧が0.50xd[Pa]以上になると光電変換層2中には金属状態Cuがほとんど存在しなくなるため、酸素分圧を上げることによる金属状態のCuの含有率を下げる効果は、酸素分圧が0.50xd[Pa]以上において小さくなる。酸素分圧が0.55xd[Pa]以上では金属状態のCuの含有率はほぼゼロになる。酸素分圧が1.50xd[Pa]以下であれば光電変換層2中にはCuOがほとんど存在しなくなるため、酸素分圧を下げることによるCuOの含有率を下げる効果は、酸素分圧が1.50xd[Pa]以下において小さくなる。同観点から酸素分圧は0.55×d[Pa]以上1.40×d[Pa]以下であることがより好ましい。酸素分圧が1.00xd[Pa]以下では金属状態のCuの含有率はほぼゼロになる。そして、破線の領域内の酸素分圧の条件でCu
2Oを成膜すると、金属的な光沢感が無くCu
2Oによって吸収される赤褐色で濁りのない宝石のような透明度の高い光電変換層2が得られる。
【0027】
Cu
2Oの膜厚をTとするとき、光電変換層2のCu
2Oの結晶の膜厚方向の直径が50nm以下の微小なCu
2O相を除いたCu
2Oの結晶の膜厚方向の平均直径は、0.7T以上1.0T以下であることが好ましい。微小なCu
2O相が多いと粒界が多くなるため変換効率が低下しやすい。Cu
2Oの結晶の膜厚方向の直径が50nm以下の微小なCu
2O相が占める断面積は、光電変換層2の断面積の10%以下を占めることが好ましい。
【0028】
光電変換層2の膜厚が100nm未満の薄膜の場合は、CuO相や金属状態のCuによる透過率の低下の影響は小さいが、光電変換層2の膜厚が500nm以上の厚膜の場合は、CuO相や金属状態のCuによる透過率の低下の影響が大きくなる。そこで、スパッタをする際の酸素分圧は、0.55xd[Pa]以上1.40xd[Pa]以下であることがより好ましい。スパッタをする際の酸素分圧が0.55xd[Pa]以上1.00xd[Pa]以下の条件は、膜厚が500nm以上の厚い光電変換層2を成膜する場合においてより好適な条件である。
【0029】
スパッタ条件は、スパッタ温度(基材の温度)が300℃以上600℃以下(第9条件)であることを満たし、かつ、酸素分圧が0.01[Pa]以上4.8[Pa]以下(第10条件)の範囲内であること及び1.5×10
+9×e
(−30000/スパッタ温度[K])以上(第11条件)であること満たすことが好ましい(ここでeは、ネイピア数であり、「exponential」の略である。)この第9条件から第11条件のすべてを満たすとき、CuOやCuの異相の生成をさらに押さえることができる。第11条件における温度は、摂氏ではなるケルビンで表される絶対温度である。この3条件を満たす範囲は、通常、CuO膜を生成する条件である。堆積速度があまりにも遅いと作製した膜がCuOを多量に含む可能性があるので注意する必要がある。1時間程度以内に成膜を完了することが好ましい。大面積にスパッタする場合等において結晶性の観点から、第9条件は、300℃以上550℃以下が好ましく、350℃以上550℃以下であることがより好ましく、300℃以上500℃以下がより好ましく、300℃以上450℃以下が更により好ましい。スパッタ温度は、基板10の融点を超えない温度とすることが好ましい。
【0030】
スパッタ温度が200℃以下程度でもCu
2O膜を成膜することができるが、Cu
2Oの結晶粒径が小さくなり、変換効率の点で不利となる。厚さが500nmで単相のCu
2O薄膜で、Cu
2Oの結晶粒径が例えば100nm以下であると、小さいCu
2Oの結晶が膜厚方向に重なるように存在することになるので、Cu
2O膜の厚さ方向に粒界が多く存在することになる。光電変換層2において、電子の流れる方向に粒界が存在すると、再結合が起きやすく電流および電圧が減少し、変換効率が低下してしまう。スパッタは、基本的に低温(200℃以下程度)で成膜する際に用いられる方法である。これはプラズマを用いた成膜方法により高品質な膜質が得られやすく、高温を用いないことで加熱によるダメージを抑制する意図があるからである。そのため、意図的な加熱を行なわなければ、数百nm以上の厚さのCu
2O膜で、Cu
2Oの粒径が膜厚程度にまで成長しない。実施形態においては、基板温度を上げてスパッタすることで、Cu
2Oの結晶粒子を膜厚程度の大きさにまで成長させることができる。膜厚方向に粒界が存在しないと、透光率が向上するため、Cu
2Oの結晶性向上に伴って変換効率が向上し、さらに、透光率が向上することによって下部側の太陽電池の発電量が増加することから多接合型の太陽電池における総発電量を増加させることができる。膜厚が厚くなるほど電子の移動距離が増加し、再結合による影響が顕著になるが、100nm程度等の薄膜の場合には、粒径が小さくても再結合はしにくく、また、透光率が下がりにくい。実施形態の光電変換層2は、薄くても500nmであり、1μm以上の厚膜では大粒径化しないと、変換効率と透光率の両方を高くすることが難しい。
【0031】
さらに、光電変換層2がSnを主成分とする金属酸化物の膜上で成膜されると、Cu
2O膜の成膜中にCu
2O膜にSnが拡散するため、ガラス基板上に同温度でスパッタするよりも大粒径化しやすく、結晶性を向上させることができる。加熱しながらSnを主成分とする金属の酸化物の膜上にCu
2Oスパッタすることで、200℃程度でのスパッタでは実現できなかった膜厚程度の大きさにまで成長したCu
2O結晶を有するCu
2O膜を成膜することができる。このCu
2O膜は前述の通り、実質的にCu
2O単相であるため、膜全体の結晶性も良く、透過型の太陽電池の変換効率として理想的である。
【0032】
Cuのシートを高温で酸化させることで厚くて、Cu
2Oが膜厚程度の大きさにまで成長したCu
2O膜を成膜することができる。しかし、この場合は、Cuシートの酸化後に透明電極をCu
2O膜上に形成する。Cu
2O膜上に直接、透明電極をスパッタで形成するとCu
2Oの結晶が破壊されてしまうため、太陽電池化した際に発電効率が低くなってしまう。実施形態の積層薄膜は、透明電極1上に光電変換層2を成膜するため、太陽電池化後も良質な光電変換層2を維持することができる。
【0033】
スパッタ後に加熱処理を行なってもよい。加熱処理は、室温以上スパッタ時の温度以下で所望の時間、積層薄膜100をチャンバー内で保持することが好ましい。
【0034】
かかる方法で製造した積層薄膜100は、700nm以上1000nm以下の波長の光の透過率が50%以上であり、非常に優れた透光性を有する。透光性に優れた積層薄膜100は、光透過型の太陽電池やボトムセルにおいても高効率に発電することのできる多接合型太陽電池のトップセルに好適に用いられる。
【0035】
実施形態では、ガラス上に光電変換層2を成膜せずに、第1透明電極1上に光電変換層2を成膜している。ガラス上に光電変換層2を成膜するとガラス内に存在する不純物が光電変換層2に拡散し、成膜条件を変えてしまったり、不純物準位を形成して光電変換層2の膜質を低下させたりする要因になりうる。また、光電変換層2を電極として使用可能な金属膜上に成膜すると、積層薄膜100に透光性がない。実施形態において、透光性は必要な特性であるため、光電変換層2を金属膜上に成膜して得られた積層薄膜は、透光性の観点から実用性に欠ける。スクライブで一部ガラス部分が出ている程度であれば概ね問題ない。亜酸化銅太陽電池を単体で用いる分にはこの限りではない。
【0036】
(第2実施形態)
第2実施形態は、太陽電池と太陽電池の製造方法に関する。
図5に太陽電池200の断面概念図を示す。
図5に示す太陽電池200は、第1透明電極1、光電変換層2、n型層3、第2透明電極4とを有する。第1透明電極1と光電変換層2が積層した積層体は、第1実施形態の積層薄膜100である。光電変換層2は、第1透明電極1とn型層3の間に配置される。n型層3は、光電変換層2と第2透明電極4との間に配置される。光電変換層2とn型層3は、pn接合を形成する。第1透明電極1と光電変換層2は、第1実施形態と共通するためその説明は省略される。例えば、n型層3と第2透明電極4の間などに図示しない中間層を配置することも出来る。光電変換層2よりもナローバンドギャップな光電変換層を有する太陽電池(例えば、Si太陽電池)を第2実施形態の太陽電池200と積層させて多接合型太陽電池とすることが出来る。
【0037】
n型層3は、光電変換層2上に配置されたn型の半導体層である。n型層3は、酸化物層又は硫化物層などが好ましい。n型層3に用いられる酸化物としては、特に限定されるものではないが、Zn
(1−x)A
xO
y(A=Si、Ge、Sn)、Cu
(2−x)M
xO
y(M=Mn、Mg、Ca、Zn、Sr、Ba、Al、Ga、In、Nb、Ta、ランタノイド)、Cu
2O:F、Cu
2O:N、Cu
2O:B、Cu
2O:Cl、Cu
2O:Br及びCu
2O:I、Al
(2−x)Ga
xO
3からなる群から選ばれる酸化物が好ましい。n型層に用いる硫化物としては、特に限定されるものではないが、Zn
xIn
(2−2x)S
(3−2x)、ZnS及びIn
xGa
(1−x)Sからなる群から選ばれる1種以上の硫化物が好ましい。xの範囲は0≦x≦1、yの範囲は0≦y≦2である。
【0038】
n型層3の膜厚は、典型的には、5nm以上100nm以下である。n型層3の厚さが5nm以下であるとn型層3のカバレッジが悪い場合にリーク電流が発生し、特性を低下させてしまう場合がある。カバレッジが良い場合は上記膜厚に限定されない。n型層3の厚さが100nmを超えるとn型層4の過度の高抵抗化による特性低下や、透過率低下による短絡電流低下が起こる場合がある。従って、n型層3の厚さは10nm以上50nm以下がより好ましい。また、カバレッジの良い膜を実現するためにn型層3の表面粗さは5nm以下が好ましい。n型層3の質が高い場合は200nm程度の膜厚でも動作する太陽電池が構成できる。
【0039】
光電変換層2の伝導帯下端(Conduction Band Minimum:CBM)の位置(Ecp(eV))とn型層3の伝導帯下の位置(Ecn(eV))の差である伝導帯オフセット(ΔE=Ecp−Ecn)は、−0.2eV以上0.6eV以下(−0.2eV≦ΔE≦+0.6eV)であることが好ましい。伝導帯オフセットが0より大きいとpn接合界面の伝導帯が不連続となりスパイクが生じる。伝導帯オフセットが0より小さいとpn接合界面の伝導帯が不連続となりクリフが生じる。スパイク及びクリフはどちらも光生成電子の障壁となるため小さい方が好ましい。従って、伝導帯オフセットは、0.0eV以上0.4eV以下(0.0eV≦ΔE≦+0.4eV)であることがより好ましい。ただし、ギャップ内準位を利用して伝導する場合はこの限りではない。CBMの位置は、以下の手法を用いて見積もることができる。電子占有準位の評価法である光電子分光により価電子帯上端(Valence Band Maximum:VBM)を実測し、続いて測定対象の材料のバンドギャップを仮定してCBMを算出する。しかしながら、実際のpn接合界面では、相互拡散や陽イオンの空孔発生など理想的な界面を維持していないため、バンドギャップが変化する可能性が高い。このため、CBMも直接的に光電子放出の逆過程を利用する逆光電子分光により評価することが好ましい。具体的には、太陽電池表面を低エネルギーイオンエッチングと正・逆光電子分光測定の繰り返しにより、pn接合界面の電子状態を評価できる。
【0040】
第2透明電極4は、第1透明電極3で挙げた透明導電性酸化物膜、又は、その積層体を用いることが好ましい。
【0041】
次に、太陽電池200の製造方法を説明する。
図6に太陽電池200の製造方法のフローチャートを示す。太陽電池200の製造方法は、第1透明電極1が配置されたチャンバー内を5×10
−3[Pa]以下に減圧する工程(S00)、第1透明電極1上に銅を主成分とするターゲットを用いて酸素分圧0.01[Pa]以上10[Pa]以下の雰囲気でスパッタすることによって光電変換層2を成膜する工程(S01)、n型層3を成膜する工程(S02)、第2透明電極4を成膜する工程(S03)とを含む。減圧工程(S00)と光電変換層2の成膜工程(S01)は、第1実施形態と共通するためその説明は省略される。
【0042】
n型層3を成膜する工程(S02)は、光電変換層2上にn型層3を成膜する工程である。n型層3に含まれる金属のターゲットを用いて、例えば、室温にて酸化雰囲気又は硫化雰囲気でスパッタすることによって、n型層3を成膜することが出来る。n型層3の製造方法は、上記のみに限られない。例えば、CBD(Chemical Bath Deposition:化学溶液析出)法、CVD(Chemical Vapor Deposition:化学蒸着)法、ALD(Atomic Layer Deposition:原子層堆積)法、塗布法、電析法、スプレー法、蒸着法などが挙げられる。
【0043】
第2透明電極4を成膜する工程(S03)は、n型層3上に第2透明電極4を成膜する工程である。第2透明電極4は、例えば、スパッタで成膜することが好ましい。中間層として例えば、半絶縁膜をn型層3と第2透明電極4の間に設ける場合は、n型層3の成膜後にZnO等をスパッタなどで成膜することが好ましい。そして、中間層上に第2透明電極4を成膜することが出来る。
【0044】
第2実施形態において、第1実施形態の積層薄膜100の製造方法を採用することで、透光性に優れた太陽電池を製造することが出来る。光電変換層2に透光性に優れた膜を用い、他の層も透光性の高い膜を成膜することで、透光性に優れた太陽電池を得ることができる。
【0045】
(第3実施形態)
第3実施形態は、太陽電池モジュールに関する。
図7に太陽電池モジュール300の一部の断面模式図を示す。
図7の太陽電池モジュール300は、トップセル301とボトムセル302を有する。なお、太陽電池モジュール300としては、
図8の断面模式図に示すようにボトムセル302を省略した実施形態の太陽電池200(
図7のトップセル301)を有する単接合型の太陽電池モジュール304とすることもできる。トップセル301の太陽電池には、第2実施形態の太陽電池200を用いる。トップセル301とボトムセル302は、図示しない接着層で接続されていることが好ましい。
【0046】
トップセル301は、複数の太陽電池200と電気的に接続した取出電極303を有する。複数の太陽電池200は、電気的に接続している。
図7に示すように接続した複数の太陽電池200が複数群トップセル301に含まれ、太陽電池200が接続した群が電気的に接続している。
図7及び
図8に示す形態は、複数の太陽電池200をモジュール化した形態の一例であり、図示していない形態の一例としては、スクライブを行なっていない
図5の太陽電池200の様な太陽電池を電気的に直列や並列に接続した構成が挙げられる。トップセル301はスクライブされた断面を有する。第1透明電極1のP1は、第1スクライブの断面である。光電変換層2とn型層3のP2は、第2スクライブの断面である。光電変換層2、n型層3と第2透明電極4のP3は第3スクライブの断面である。スクライブによって、各層を分離し、太陽電池200を小領域に分けてそれぞれを電気的に接続した構成としている。トップセル301は、第2透明電極4側(n型層3側)が光入射側としているが、トップセル301をひっくり返して、第1透明電極1側(光電変換層2側)を光入射側とすることも出来る。取出電極303は、例えばアルミニウムや銅の配線であり、太陽電池200で発電した電気を取り出す端子と接続する。
【0047】
ボトムセル302は、トップセルの光電変換層2よりもナローバンドギャップな光電変換層を有する太陽電池である。例えば、ボトムセルは、Siを光電変換層に用いた太陽電池を含む。トップセル301は、700nmから1000nmの光の透過率が高い光電変換層2を用いているためこれらの波長領域の光を吸収して発電するボトムセル302と組み合わせることで、太陽電池モジュール300全体で高効率に発電することが出来る。太陽電池モジュール300で発電することよって得られた電力は、送電線を通して消費されたり、蓄電池に充電されたりする。
【0048】
次に、太陽電池モジュール300の製造方法について説明する。
図9に太陽電池モジュール300の製造方法のフローチャートを示す。太陽電池モジュール300の製造方法は、基板10上に第1透明電極1を成膜する工程(S10)、第1透明電極1をスクライブ(第1スクライブ)する工程(S11)、第1透明電極1が配置されたチャンバー内を5×10
−3[Pa]以下に減圧する工程(S00)、第1透明電極1上に銅を主成分とするターゲットを用いて酸素分圧0.01[Pa]以上10[Pa]以下の雰囲気でスパッタすることによって光電変換層2を成膜する工程(S01)、n型層3を成膜する工程(S02)、光電変換層2とn型層3をスクライブ(第2スクライブ)する工程(S12)、第2透明電極4を成膜する工程(S03)、光電変換層2、n型層3と第2透明電極4をスクライブ(第3スクライブ)する工程(S13)、取出電極303を形成する工程(S14)と前工程までで得られたトップセル301とボトムセル302を貼り合わせる工程(S15)とを含む。
【0049】
基板10上に第1透明電極1を成膜する工程(S10)は、基板10上に例えばスパッタによって第1透明電極1を成膜する工程である。第1透明電極1が積層構造を有する場合は、ターゲットを代えて複数回処理することによって第1透明電極1を成膜する。
【0050】
第1透明電極1をスクライブ(第1スクライブ)する工程(S11)は、第1透明電極1を複数に分離させてスクライブされた断面P1を出す工程である。レーザー、機械的または化学的な処理を行なって、断面P1を出すことが好ましい。
【0051】
第1透明電極1が配置されたチャンバー内を5×10
−3[Pa]以下に減圧する工程(S00)、第1透明電極1上に銅を主成分とするターゲットを用いて酸素分圧0.01[Pa]以上10[Pa]以下の雰囲気でスパッタすることによって光電変換層2を成膜する工程(S01)は、第1実施形態と共通する。第3実施形態においては、スクライブによって生じた第1透明電極1の間隙(断面P1と断面P1に挟まれた間隙)にも光電変換層2を堆積する。
【0052】
n型層3を成膜する工程(S02)は、第1実施形態と共通する工程である。
【0053】
光電変換層2とn型層3をスクライブする工程(S12)は、光電変換層2とn型層3の積層方向に光電変換層2とn型層3を切断してスクライブされた断面P2を出す工程である。レーザー、機械的または化学的な処理を行なって、断面P2を出すことが好ましい。
【0054】
第2透明電極4を成膜する工程(S03)は、n型層3上に第2透明電極4を成膜する工程である。第2透明電極4は、第2透明電極4が積層構造を有する場合は、ターゲットを代えて複数回処理することによって第2透明電極4を成膜する。第3実施形態においては、スクライブによって生じた光電変換層2とn型層3の間隙(断面P2と断面P2に挟まれた間隙)にも第2透明電極を堆積する。
【0055】
光電変換層2、n型層3と第2透明電極4をスクライブ(第3スクライブ)する工程(S13)は、光電変換層2とn型層3の積層方向に光電変換層2、n型層3と第2透明電極4を切断してスクライブされた断面P3を出す工程である。レーザー、機械的または化学的な処理を行なって、断面P3を出すことが好ましい。第3スクライブによって、電気的に接続した複数の太陽電池200が形成される。
【0056】
取出電極303を形成する工程(S14)は、例えば、第1透明電極1上に金属の配線を形成する工程である。取出電極303を形成することで、トップセル301を得ることが出来る。本工程の後に例えば、樹脂で空隙を埋めて太陽電池200を保護することが好ましい。
【0057】
前工程までで得られたトップセル301とボトムセル302を貼り合わせる工程(S15)を行なって、多接合型の太陽電池モジュール300が製造される。例えば、基板10とボトムセル302の間に接着層を塗布してトップセル301とボトムセル302を貼り合わせることが好ましい。
【0058】
トップセル301に干渉縞が生じている場合でもボトムセル302と貼り合わせることで、トップセル301の透過率が実効的に向上するため、ボトムセル302で高効率に発電させる観点から好ましい。
【0059】
(第5実施形態)
第5実施形態は太陽光発電システムに関する。第4実施形態の太陽電池モジュール300は、第5実施形態の太陽光発電システムにおいて、発電を行う発電機として用いることができる。実施形態の太陽光発電システムは、太陽電池モジュールを用いて発電を行うものであって、具体的には、発電を行う太陽電池モジュールと、発電した電気を電力変換する手段と、発電した電気をためる蓄電手段又は発電した電気を消費する負荷とを有する。
図10に実施形態の太陽光発電システム400の構成概念図を示す。
図10の太陽光発電システムは、太陽電池モジュール401(300)と、電力変換装置402と、蓄電池403と、負荷404とを有する。蓄電池403と負荷404は、どちらか一方を省略しても良い。負荷404は、蓄電池403に蓄えられた電気エネルギーを利用することもできる構成にしてもよい。電力変換装置402は、変圧や直流交流変換などの電力変換を行う回路又は素子を含む装置である。電力変換装置402の構成は、発電電圧、蓄電池403や負荷404の構成に応じて好適な構成を採用すればよい。
【0060】
太陽電池モジュール300に含まれる受光したサブモジュール301に含まれる太陽電池セルが発電し、その電気エネルギーは、コンバーター402で変換され、蓄電池403で蓄えられるか、負荷404で消費される。太陽電池モジュール401には、太陽電池モジュール401を常に太陽に向けるための太陽光追尾駆動装置を設けたり、太陽光を集光する集光体を設けたり、発電効率を向上させるための装置等を付加することが好ましい。
【0061】
太陽光発電システム400は、住居、商業施設や工場などの不動産に用いられたり、車両、航空機や電子機器などの動産に用いられたりすることが好ましい。実施形態の変換効率に優れた太陽電池を太陽電池モジュール401に用いることで、発電量の増加が期待される。
【0062】
太陽光発電システム400の利用例として車両を示す。
図11に車両500の構成概念図を示す。
図11の車両500は、車体501、太陽電池モジュール502、電力変換装置503、蓄電池504、モーター505とタイヤ(ホイール)506を有する。車体501の上部に設けられた太陽電池モジュール501で発電した電力は、電力変換装置503変換されて、蓄電池504にて充電されるか、モーター505等の負荷で電力が消費される。太陽電池モジュール501又は蓄電池504から供給される電力を用いてモーター505によってタイヤ(ホイール)506を回転させることにより車両500を動かすことができる。太陽電池モジュール501としては、多接合型ではなく、第1実施形態又は第2実施形態の太陽電池100、101を備えた第1太陽電池モジュールだけで構成されていてもよい。透過性のある太陽電池モジュール501を採用する場合は、車体501の上部に加え、車体501の側面に発電する窓として太陽電池モジュール501を使用することも好ましい。
【0063】
以下、実施例を示して実施形態の積層薄膜100及び積層薄膜100を用いた太陽電池200及び太陽電池モジュール300について説明する。
【0064】
(実施例1)
チャンバー内で白板ガラス基板上に、裏面側の第1透明電極としてITO透明導電膜、その上にSbドープしたSnO
2透明導電膜を堆積する。透明な第1透明電極が形成された部材を1×10
−3[Pa]以下になるまでチャンバー内を減圧する。次に、酸素とアルゴンガスの雰囲気中でRFマグネトロンスパッタリング法により500℃で加熱して光電変換層として亜酸化銅化合物を成膜する。このとき酸素分圧は0.035[Pa]で堆積速度は、0.04[μm/min]で、膜厚は2μmである。室温でスパッタリング法によりp−亜酸化銅層上にn型のZn
0.8Ge
0.2O
xを堆積し、その後、表面側の第2透明電極としてAZO透明導電膜を堆積する。また表面側の第2透明電極堆積時には亜酸化銅の酸化を抑制するため室温で成膜しているが、例えばAZOを用いる事により室温でも低抵抗な膜が得られる。AZOのターゲットは、ZnOに対してAl
2O
3の割合が2wt%とした。反射防止膜を付けて光取り込み量を改善する場合は、その上に反射防止膜として例えば、MgF
2を堆積する。
【0065】
(実施例2)
チャンバー内で白板ガラス基板上に、裏面側の第1透明電極としてITO透明導電膜、その上にSbドープしたSnO
2透明導電膜を堆積する。透明な第1透明電極が形成された部材を1×10
−3[Pa]以下になるまでチャンバー内を減圧する。次に、酸素とアルゴンガスの雰囲気中でDCマグネトロンスパッタリング法により450℃で加熱して光電変換層として亜酸化銅化合物を成膜する。このとき酸素分圧は0.15[Pa]で堆積速度は、0.2[μm/min]で、光電変換層の膜厚は2μmである。室温でスパッタリング法によりp−亜酸化銅層上にn型のZn
0.8Ge
0.2O
xを堆積する。その後、表面側の第2透明電極としてAZO透明導電膜を堆積する。AZOのターゲットは、ZnOに対してAl
2O
3の割合が2wt%とした。その上に反射防止膜としてMgF
2を堆積する。
【0066】
(実施例3)
堆積速度を0.032[μm/min]とし、酸素分圧を0.0166[Pa]とし、膜厚を2μmとしたこと以外は実施例1と同様に太陽電池を作製する。
【0067】
(実施例4)
堆積速度を0.017[μm/min]とし、酸素分圧を0.025[Pa]とし、膜厚を2μmとしたこと以外は実施例1と同様に太陽電池を作製する。
【0068】
(実施例5)
490℃でスパッタリングして3μm厚のCu
2O膜を成膜したこと以外は実施例1と同様に太陽電池を作製する。
【0069】
(実施例6)
350℃でスパッタリングして500nm厚のCu
2O膜を成膜したこと以外は実施例1と同様に太陽電池を作製する。
【0070】
(実施例7)
300℃でスパッタリングして1.5μm厚のCu
2O膜を成膜したこと以外は実施例1と同様に太陽電池を作製する。
【0071】
(比較例1)
チャンバー内で白板ガラス基板上に、裏面側の第1透明電極としてITO透明導電膜、その上にSbドープしたSnO
2透明導電膜を堆積する。透明な第1透明電極が形成された部材を1×10
−3[Pa]以下になるまでチャンバー内を減圧する。次に、酸素とアルゴンガスの雰囲気中でRFマグネトロンスパッタリング法により500℃で加熱して光電変換層として亜酸化銅化合物を成膜する。このとき酸素分圧は0.009[Pa]で堆積速度は、0.04[μm/min]で、光電変換層の膜厚は2μmである。室温でスパッタリング法によりp−亜酸化銅層上にn型のZn
0.8Ge
0.2O
xを堆積する。その後、表面側の第2透明電極としてAZO透明導電膜を堆積する。また表面側の第2透明電極堆積時には亜酸化銅の酸化を抑制するため室温で成膜しているが、例えばAZOを用いる事により室温でも低抵抗な膜が得られる。AZOのターゲットは、ZnOに対してAl
2O
3の割合が2wt%とした。その上に反射防止膜としてMgF
2を堆積する。
【0072】
(比較例2)
堆積速度を0.01[μm/min]とし、酸素分圧を0.034[Pa]とし、膜厚を580nmとしたこと以外は実施例1と同様に太陽電池を作製する。
【0073】
(比較例3)
堆積速度を0.01[μm/min]とし、酸素分圧を0.034[Pa]とし、膜厚を2μmとしたこと以外は実施例1と同様に太陽電池を作製する。
【0074】
(比較例4)
堆積速度を0.017[μm/min]とし、酸素分圧を0.034[Pa]とし、膜厚を500nmとしたこと以外は実施例1と同様に太陽電池を作製する。
【0075】
(比較例5)
堆積速度を0.0325[μm/min]とし、酸素分圧を0.0147[Pa]とし、膜厚を650nmとしたこと以外は実施例1と同様に太陽電池を作製する。
【0076】
(比較例6)
堆積速度を0.0333[μm/min]とし、酸素分圧を0.0035[Pa]としたこと以外は実施例1と同様に太陽電池を作製する。
【0077】
(比較例7)
室温でスパッタリングしてCu
2O膜を成膜したこと以外は実施例1と同様に太陽電池を作製する。
【0078】
(比較例8)
200℃でスパッタリングしてCu
2O膜を成膜したこと以外は実施例1と同様に太陽電池を作製する。
【0079】
(比較例9)
SbドープしたSnO
2透明導電膜を堆積せずにITO膜上に500℃でスパッタリングしてCu
2O膜を成膜すると基板が変形したため、Cu
2O膜の成膜を中止した。
【0080】
得られた太陽電池の波長が700nmの光の透光率を評価した。透光率が60%以上100%以下の場合をAと評価し、透光率が20%以上60%未満の場合をBと評価し、透光率が20%未満の場合をCと評価した。また、得られた太陽電池の変換効率を求め、比較例1との相対値が1より大きい場合をAと評価し、0.6以上1未満の場合をBと評価し、0.1以上0.6未満の場合をCと評価した。光電変換層のCu
2Oの平均結晶粒径(面積基準 D10からD90)が1000nm以上である場合をAと評価し、500nm以上1000nm未満をBと評価し、500nm未満をCと評価した。また、平均結晶粒径/光電変換層の厚さが0.5以上である場合をAと評価し、0.25以上0.5未満をBと評価し、0.5未満をCと評価した。結果を表1に示す。
【0082】
実施例1及び実施例2の太陽電池は、どちらも透光率が60%以上であり、透光性に優れた太陽電池である。700nmの光の透光率が高いため、Si系の太陽電池とタンデム接合させた多接合型太陽電池(モジュール)に用いるのに好適である。実施例1と実施例2の太陽電池の高い透光率から、光電変換層の亜酸化銅層の結晶性が優れていることがわかる。結晶性が良いことは、実施例の太陽電池の変換効率にも現れており、比較例と比べていずれも良い結果である。実施例3と実施例4はCu
2O膜中にCu、CuOが微量ながら存在し始めているためか、透光性は実施例1,2よりは低いものの、太陽電池の変換効率は評価できるものである。例えば、ボトムセルにSi太陽電池を用いてタンデム太陽電池とする場合、ボトムセルにまで主に長波長側の光が透過することが望まれるため、実施例1、および実施例2のように高い透光性を示すことが望ましい。実施例1と実施例2の酸素分圧は、0.5×d[Pa]以上1.5d[Pa]以下の範囲内である。0.5d[Pa]以上1.5d[Pa]以下の範囲外になっても、0.24d[Pa]以上2.4d[Pa]以下であり酸素分圧が0.01[Pa]以上4.8[Pa]以下であると、例えば、実施例1及び実施例2、3、4には劣るものの透光性と変換効率を有する太陽電池が得られる。堆積速度が好ましい範囲でも、酸素分圧が高すぎるとCuOが生成しやすく、酸素分圧が低すぎるとCuが生成しやすいため、上記範囲を満たすように亜酸化銅層を形成することが重要である。
【0083】
実施例5から7を比較すると、低温にすることで結晶粒径が小さくなっていることから、低温成膜ではCu
2Oの大粒径化は難しいことがわかる。実施例6のように、結晶粒径が小さい場合でもCu
2O膜厚が薄い場合においては、比較的良好な太陽電池特性が得られる。薄膜化により透光性が高くなり、ボトムセルがより効率よく発電できるという点で、このような応用も可能となる。
【0084】
比較例9はSnO
2膜上ではなくITO膜上に成膜しようとしたが、基板温度を上げていくとITO膜つきの基板が軟化し、Cu
2O膜の成膜が不安定になったため、成膜を中止した。そのため、比較例9については、透光性、変換効率及び粒径について評価していない。
【0085】
また、
図12に実施例5の光電変換層と透明電極で構成された積層薄膜のXRD結果を示す。XRDの結果に示すように、CuOなどの異相が確認されず実質的にCu
2Oの単相であることがわかる。また、36°―37°の間に現れるCu2O(111)のピークの半値幅が非常に狭いことからも実施例の光電変換層の結晶性の高さが確認される。
明細書中、一部の元素は、元素記号のみで表している。
【0086】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態そのままに限定解釈されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成することができる。例えば、変形例の様に異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせても良い。