特許第6937420号(P6937420)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧 ▶ 東芝エネルギーシステムズ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6937420-回転照射装置の制御方法 図000002
  • 特許6937420-回転照射装置の制御方法 図000003
  • 特許6937420-回転照射装置の制御方法 図000004
  • 特許6937420-回転照射装置の制御方法 図000005
  • 特許6937420-回転照射装置の制御方法 図000006
  • 特許6937420-回転照射装置の制御方法 図000007
  • 特許6937420-回転照射装置の制御方法 図000008
  • 特許6937420-回転照射装置の制御方法 図000009
  • 特許6937420-回転照射装置の制御方法 図000010
  • 特許6937420-回転照射装置の制御方法 図000011
  • 特許6937420-回転照射装置の制御方法 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6937420
(24)【登録日】2021年9月1日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】回転照射装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20210909BHJP
   G21K 1/093 20060101ALI20210909BHJP
   G21K 5/04 20060101ALI20210909BHJP
【FI】
   A61N5/10 H
   G21K1/093 D
   G21K1/093 F
   G21K5/04 A
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-187303(P2020-187303)
(22)【出願日】2020年11月10日
(62)【分割の表示】特願2017-48806(P2017-48806)の分割
【原出願日】2017年3月14日
(65)【公開番号】特開2021-28001(P2021-28001A)
(43)【公開日】2021年2月25日
【審査請求日】2020年11月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野中 智幸
(72)【発明者】
【氏名】松田 晋弥
(72)【発明者】
【氏名】折笠 朝文
【審査官】 安田 昌司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−072717(JP,A)
【文献】 特開2015−097683(JP,A)
【文献】 特開2015−208598(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/045017(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0213690(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/00− 5/10
G21K 1/093
G21K 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転ガントリに設置され、かつ荷電粒子ビームの軌道を偏向する偏向磁場と、前記荷電粒子ビームを収束する収束磁場の少なくとも一方を形成する超伝導電磁石で前記荷電粒子ビームを照射対象に導く回転照射装置の制御方法であって、
制御装置が前記超伝導電磁石を励磁するように制御する工程と、
前記制御装置が、所定のタイミングで前記荷電粒子ビームの出射を行うように制御する工程と、
前記超伝導電磁石が励磁されている状態で、かつ前記荷電粒子ビームが出射されていないときに、前記制御装置が、前記回転ガントリを回転させて停止させるように回転ガントリ駆動部を制御する工程と、
を備えていることを特徴とする回転照射装置の制御方法。
【請求項2】
前記制御装置はビーム出射許可信号を出力することで、前記荷電粒子ビームの出射の射出を制御する請求項1に記載の回転照射装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、照射対象に対して周方向の任意の角度から荷電粒子ビームを照射する回転照射装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、回転照射治療装置は、患者の周りを回転することにより、シンクロトロン等の加速器で高エネルギーまで加速された荷電粒子ビームを患者に対して周方向の任意の角度から照射する装置である。そのため、回転照射治療装置は、患者の周りを回転可能な回転フレーム(以下、回転ガントリと記す。)を備えている。
【0003】
上記シンクロトロン等の加速器で高エネルギーまで加速された荷電粒子ビームは、この回転ガントリの回転中心方向に導かれる。この回転中心方向に導かれた荷電粒子ビームは、超電導電磁石が設けられたビーム輸送装置により回転ガントリの外周方向へ一旦曲げられた後、再びその内周方向へ曲げられて治療室へ導かれる。治療室へ導かれた荷電粒子ビームは、照射部から照射対象である患者の患部に照射される。
【0004】
また、回転照射治療装置は、患者に対して荷電粒子ビームの照射角を変えるため、回転ガントリの回転角度を変えている。従来、照射角を変えて荷電粒子ビームを照射する際は、超伝導電磁石を無励磁状態で回転ガントリを回転させて所望の角度に停止させる。その後、超伝導電磁石を励磁し、荷電粒子ビームを照射している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−47287号公報
【特許文献2】特開平9−192244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来の回転照射治療装置の運用方法では、超伝導電磁石を無励磁状態で回転ガントリを回転させていることから、回転ガントリの回転時に加わる重力方向の力によって、超伝導電磁石内の構成部材が微妙にずれることがある。これにより、超伝導電磁石は、回転停止後の励磁の際にメカニカルにクエンチする問題がある。その結果、回転照射治療装置としてスムーズな治療を妨げる要因となっている。以下、クエンチする理由を具体的に説明する。
【0007】
すなわち、超伝導電磁石は、主に磁場を発生するコイルと、電磁力を支える電磁力支持部材により構成されている。通常、回転ガントリを回転させる際は、荷電粒子ビームが超伝導電磁石を通過しないため、無励磁状態で回転を行う。このように無励磁状態では、コイルに電磁力が生じていないため、電磁力支持部材とコイルとの間には摩擦力が生じていないか、もしくは摩擦力が少ない状態となっている。
【0008】
この状態で回転ガントリの回転に伴う加速度及び振動が加わると、超伝導電磁石内においてコイルと電磁力支持部材との間で僅かなずれ、歪が生じてしまうことがある。このずれ、歪が原因となり超伝導電磁石を再励磁した際にずれ、歪が解消することによる機械的擾乱により発熱し、クエンチを誘発してしまうことがある。
【0009】
超伝導電磁石がクエンチすると、発熱するため回転照射治療装置の運転を停止し、超伝導電磁石の再冷却を待って再起動する必要がある。これにより、回転照射治療装置による治療を停止せざるを得ず、治療時間が長くなるという問題がある。
【0010】
本実施形態が解決しようとする課題は、回転ガントリの回転に伴う超伝導電磁石内の構成部材のずれ、歪を防止可能な回転照射装置の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本実施形態に係る回転照射装置の制御方法は、回転ガントリに設置され、かつ荷電粒子ビームの軌道を偏向する偏向磁場と、前記荷電粒子ビームを収束する収束磁場の少なくとも一方を形成する超伝導電磁石で前記荷電粒子ビームを照射対象に導く回転照射装置の制御方法であって、制御装置が前記超伝導電磁石を励磁するように制御する工程と、前記制御装置が、所定のタイミングで前記荷電粒子ビームの出射を行うように制御する工程と、前記超伝導電磁石が励磁されている状態で、かつ前記荷電粒子ビームが出射されていないときに、前記制御装置が、前記回転ガントリを回転させて停止させるように回転ガントリ駆動部を制御する工程と、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本実施形態によれば、回転ガントリの回転に伴う超伝導電磁石内の構成部材のずれ、歪を防止することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態に係る回転照射治療装置を示す縦断面図である。
図2図1の複合型超伝導電磁石を示す縦断面図である。
図3】一実施形態に係る回転照射治療装置のシステム構成を示すブロック図である。
図4図3の制御装置の制御順序を示すフローチャートである。
図5図3の制御順序によるビーム生成部の照射、複合型超伝導電磁石の励磁、及び回転ガントリの回転動作の各タイミングを示すタイミングチャートである。
図6図2の複合型超伝導電磁石におけるコイルに作用する電磁力を縦断面で示す説明図である。
図7図3の複合型超伝導電磁石の他の接続形態を示すブロック図である。
図8】一実施形態の制御装置の他の制御順序を示すフローチャートである。
図9図8の制御順序によるビーム生成部の照射、複合型超伝導電磁石の励磁、及び回転ガントリの回転動作の各タイミングを示すタイミングチャートである。
図10】一実施形態の制御装置のさらに他の制御順序を示すフローチャートである。
図11図10の制御順序によるビーム生成部の照射、複合型超伝導電磁石の励磁、及び回転ガントリの回転動作のさらに他の各タイミングを示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施形態に係る回転照射治療装置について、図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態では、回転照射装置を回転照射治療装置に適用した例について説明する。
【0015】
(回転照射治療装置の全体構成)
図1は一実施形態に係る回転照射治療装置を示す縦断面図である。図2図1の複合型超伝導電磁石を示す縦断面図である。
【0016】
まず、図1により、本実施形態における回転照射治療装置1の全体構成について説明する。
【0017】
図1に示す回転照射治療装置1は、建屋2内に設置されている。回転照射治療装置1は、シンクロトロン等の加速器(図示せず)、回転ガントリ3、ビームパイプ(真空ダクト)4、及び複合型超伝導電磁石5を主要な構成要素としている。
【0018】
回転ガントリ3は、ビーム輸送路の終端となり荷電粒子ビームの出口となる照射部6を保持しながら回転する。回転ガントリ3は、回転軸3aの周りを任意の角度で回転可能な構造となっている。これにより、治療時に照射部6に位置する照射対象としての患者の患部に対して任意の方向から照射することが可能である。
【0019】
ビームパイプ4は、その内部が真空に維持されており、上記加速器で加速された荷電粒子ビームを患者の患部へと導くビーム輸送路である。
【0020】
複合型超伝導電磁石5は、図2に示すようにビームパイプ4の外周側に荷電粒子ビームを偏光させるビーム偏向用の2極コイル12と、荷電粒子ビームを収束させるビーム収束用の4極コイル13が同心状に配置されている。すなわち、複合型超伝導電磁石5は、荷電粒子ビームのビーム軌道を制御する磁場として、偏向磁場(2極磁場)と収束磁場(4極磁場)の2つの磁場を重畳的な合成磁場として同時に形成している。
【0021】
偏向磁場とともに形成される収束磁場は、ビームパイプ4を通過する荷電粒子ビームの軌道中心(ビーム進行方向)から遠ざかる発散成分を強制的に抑え、荷電粒子ビームが回転ガントリ3に入射して照射部6から出射されるまでにその指向性が高まるように調節されている。このような偏向磁場の調節は、複合型超伝導電磁石5の配置によっても行われている。
【0022】
本実施形態の複合型超伝導電磁石5は、回転ガントリ3の内部においてあらかじめ設定された間隔をあけて3体設けられている。複合型超伝導電磁石5は、2極コイル12と4極コイル13の外側側にスペーサ14を介して鉄ヨークを兼用する電磁力支持部材15が同心状に配置されている。さらに、この電磁力支持部材15の外周側には、真空容器16が同心状に配置されている。
【0023】
複合型超伝導電磁石5は、アクティブシールドコイルを有し、漏れ磁場を少なくする構成となっている。複合型超伝導電磁石5は、回転ガントリ3の構造物や、図示しないモニター等の測定機器に磁場の影響を与えることがなく、かつ照射部6に対する漏れ磁場も少なくなっている。複合型超伝導電磁石5は、患者や治療のための装置に対して磁場の影響を与えることがない構造になっている。
【0024】
(回転照射治療装置の作用)
シンクロトロン等の加速器(図示せず)によって炭素イオンや陽子等の荷電粒子ビームが数百MeVの高エネルギーまで加速され、ビームラインを通して回転照射治療装置1に導入される。この荷電粒子ビームは、重粒子線や陽子線等の荷電粒子線からなり、真空状態が維持されたビームパイプ4内を通過し、その軌道が複合型超伝導電磁石5の偏向磁場(2極磁場)により3回曲げられた後、照射部6から出射されて、照射対象である患者の患部(照射点)に対して垂直方向から照射される。
【0025】
ここで、複合型超伝導電磁石5の4極磁場は、上述したように荷電粒子ビームの拡散を防ぎ、照射部6に高精度の荷電粒子ビームを供給することが可能としている。
【0026】
(システムの構成)
図3は一実施形態に係る回転照射治療装置のシステム構成を示すブロック図である。
【0027】
図3に示すように、制御装置20は、例えばマイクロコンピュータ等のコンピュータ資源によって構成され、図示しないROM(Read Only Memory)、又はハードディスク装置等の記録媒体に記憶された処理プログラム及び各種データ等をCPU(Central Processing Unit)が読み出してメインメモリに展開し、この展開した処理プログラムを順次CPUが実行する。このプログラムの実行により、プログラムに対応する方法が実行される。なお、制御装置20を構成するマイクロコンピュータの数は1つでも複数でもよい。
【0028】
制御装置20は、CPUが処理プログラムを実行することで実現される機能の構成として、回転ガントリ駆動制御部21と、電磁石電源制御部22と、照射制御部23とを備えている。なお、制御装置20を構成するこれらの要素を実現する手法はソフトウェアに限るものではなく、その一部又は全部の要素を、論理回路やアナログ回路等を組み合わせたハードウェアを用いて実現してもよい。
【0029】
回転ガントリ駆動制御部21は、回転ガントリ3を駆動する回転ガントリ駆動部24に接続されている。回転ガントリ駆動制御部21は、回転ガントリ駆動部24を制御することで、回転ガントリ3のオン、オフ動作の各タイミング等を制御する。これにより、照射対象である患者の患部に対する照射部6の位置及び方向が制御される。
【0030】
電磁石電源制御部22は、電磁石電源25と信号線を介して接続されている。この電磁石電源25は、複合型超伝導電磁石5と信号線を介して接続されている。電磁石電源制御部22は、電磁石電源25を制御することにより、複合型超伝導電磁石5のオン、オフを制御するとともに、その励磁量(励磁電流)及びその励磁量による励磁タイミングを制御する。
【0031】
なお、本実施形態において、電磁石電源制御部22、電磁石電源25、及び複合型超伝導電磁石5は、それぞれ別々に構成したが、これに限らずこれらの全てを一体に構成してもよく、また電磁石電源制御部22及び電磁石電源25を一体に構成するか、あるいは電磁石電源25及び複合型超伝導電磁石5を一体に構成するようにしてもよい。
【0032】
照射制御部23は、ビーム生成部26に接続されている。ビーム生成部26は、炭素イオンや陽子等の粒子を生成するとともに、シンクロトロン等の加速器によってこれらの粒子を患部の奥深く到達できるエネルギーまで加速して荷電粒子ビームを生成している。
【0033】
照射制御部23は、ビーム生成部26により生成された荷電粒子ビームの出射のオン、オフ制御を行っている。具体的には、制御装置20は、例えば図示しない線量モニターからの線量満了信号を得て、ビーム出射許可信号を出力する。この線量モニターは、患部に照射する線量をモニターするものである。照射制御部23は、このビーム出射許可信号に基づいて荷電粒子ビームの出射のオン、オフを制御する。
【0034】
治療計画データ記憶部(データ記憶部)30は、例えばハードディスク装置等の記録媒体から構成されている。治療計画データ記憶部30には、荷電粒子ビームの照射タイミング、複合型超伝導電磁石5の励磁量及び励磁タイミング、回転ガントリ3の回転オン、オフ動作のタイミング等に必要となる各諸元が例えばパターンファイルと呼ばれるデータファイルに処理順に記憶され、治療照射の開始前に制御装置20に出力される。
【0035】
制御装置20は、入力されたデータに基づいて回転ガントリ駆動制御部21、電磁石電源制御部22、及び照射制御部23を制御する。
【0036】
(システムの作用)
図4図3の制御装置の制御順序を示すフローチャートである。図5図3の制御順序によるビーム生成部の照射、複合型超伝導電磁石の励磁、及び回転ガントリの回転動作の各タイミングを示すタイミングチャートである。
【0037】
ここで、治療照射の開始前に制御装置20に対し、治療計画データ記憶部30から荷電粒子ビームの照射タイミング、複合型超伝導電磁石5の励磁量及び励磁タイミング、回転ガントリ3の回転オン、オフ動作のタイミング等の各種データがあらかじめ出力されている。
【0038】
まず、図4及び図5に示すように、電磁石電源制御部22は、電磁石電源25を制御して励磁量nで複合型超伝導電磁石5を励磁する(ステップS1)。次いで、複合型超伝導電磁石5を消磁せず、回転ガントリ駆動制御部21は、回転ガントリ駆動部24のオン、オフ動作の各タイミングを制御して回転ガントリ3を別の照射位置であるm+1照射位置に回転駆動させる(ステップS2)。
【0039】
そして、照射制御部23は、荷電粒子ビームの出射のオン、オフを制御してビーム生成部26から電磁石電源25の励磁量nで荷電粒子ビームの出射を開始する(ステップS3)。この励磁状態を維持した状態で、回転ガントリ駆動制御部21は、回転ガントリ駆動部24のオン、オフ動作の各タイミングを制御して回転ガントリ3をさらに別の照射位置であるm+2照射位置に回転駆動させる(ステップS4)。
【0040】
さらに、電磁石電源25を制御してステップS1の励磁量より高い次の励磁量である励磁量n+1で複合型超伝導電磁石5を励磁する(ステップS5)。照射制御部23は、荷電粒子ビームの出射のオン、オフを制御してビーム生成部26から電磁石電源25の励磁量n+1で荷電粒子ビームを出射する(ステップS6)。
【0041】
図6図2の複合型超伝導電磁石におけるコイルに作用する電磁力を縦断面で示す説明図である。
【0042】
本実施形態では、図4及び図5に示すように複合型超伝導電磁石5を励磁してから回転ガントリ3を回転させるように制御している。そのため、図6に示すように、磁束線17が2極コイル12及び4極コイル13に電磁力として作用する。その結果、2極コイル12及び4極コイル13には、矢印で示すようなコイル電磁力が作用する。
【0043】
このコイル電磁力は、スペーサ14を介して電磁力支持部材15に伝達され、2極コイル12及び4極コイル13と電磁力支持部材15との間に摩擦力が生ずる。そのため、この状態で回転ガントリ3を回転させても、2極コイル12及び4極コイル13と、電磁力支持部材15は摩擦力により固定されて、互いにずれたり、あるいは歪むことがないため、クエンチを生じることがなくなる。
【0044】
したがって、本実施形態では、回転ガントリ3の回転前に複合型超伝導電磁石5を励磁することにより、発生する電磁力によって複合型超伝導電磁石5の内部の構成部材を拘束することで、複合型超伝導電磁石5内の構成部材のずれを防ぎ、回転ガントリ3の回転に伴いメカニカルにクエンチする問題を防止することができる。
【0045】
なお、本実施形態において、2極コイル12と4極コイル13は、接着により一体化されており、その配置態様はどちらが内周側、外周側に配置されていてもよい。
【0046】
また、本実施形態において、複合型超伝導電磁石5の励磁量は、2極コイル12及び4極コイル13と、電磁力支持部材15との間に摩擦力が生じて固定される励磁量であればよい。
【0047】
このように本実施形態によれば、複合型超伝導電磁石5を励磁してから回転ガントリ3を回転させるように制御したことから、回転ガントリ3の回転に伴う複合型超伝導電磁石5内の構成部材のずれ、歪の発生を防止することができる。その結果、回転ガントリ3の回転に伴い複合型超伝導電磁石5がメカニカルにクエンチするのを未然に防止することが可能になる。これにより、回転照射治療装置1による治療を停止させることなく、治療時間の短縮化が図れる。
【0048】
また、本実施形態では、複合型超伝導電磁石5の励磁量を2段階に切替可能としたことにより、照射対象である患者の患部に適正な線量の荷電粒子ビームを短時間で照射することができる。なお、本実施形態では、複合型超伝導電磁石5の励磁量を2段階に切替可能としたが、それ以上の段階数に切替可能としてもよい。これにより、適正な線量の荷電粒子ビームを一段と短時間で照射することができる。
【0049】
さらに、本実施形態では、回転ガントリ3の回転時に複合型超伝導電磁石5の励磁量を次の照射時の励磁量に制御することにより、照射時に励磁量を設定する手間を省くことができる。
【0050】
(複合型超伝導電磁石の他の接続形態)
図7図3の複合型超伝導電磁石の他の接続形態を示すブロック図である。
【0051】
図3に示す実施形態では、電磁石電源制御部22に電磁石電源25及び複合型超伝導電磁石5を1組接続した例について説明したが、図7では、電磁石電源制御部22に電磁石電源25及び複合型超伝導電磁石5を2組接続している。
【0052】
これにより、図3に示す実施形態と比べて電磁石電源制御部22の数を削減し、構成を簡素化することができる。
【0053】
なお、図7では、電磁石電源25及び複合型超伝導電磁石5を2組接続した例について説明したが、これに限らず電磁石電源制御部22に電磁石電源25及び複合型超伝導電磁石5を3組以上接続するようにしてもよい。
【0054】
また、図7では、電磁石電源25及び複合型超伝導電磁石5を別々に構成した例について説明したが、これに限らず前記実施形態のように一体に構成するようにしてもよい。
【0055】
(制御装置の他の制御順序)
図8は一実施形態の制御装置の他の制御順序を示すフローチャートである。図9図8の制御順序によるビーム生成部の照射、複合型超伝導電磁石の励磁、及び回転ガントリの回転動作の他の各タイミングを示すタイミングチャートである。なお、この制御順序でも、前記実施形態と同様に、治療照射の開始前に治療計画データ記憶部30から制御装置20に対して各種データがあらかじめ出力されている。その他の制御順序でも同様である。
【0056】
まず、図8及び図9に示すように、電磁石電源制御部22は、電磁石電源25を制御して励磁量n+1で複合型超伝導電磁石5を励磁する(ステップS11)。次いで、複合型超伝導電磁石5を消磁せず、回転ガントリ駆動制御部21は、回転ガントリ駆動部24のオン、オフ動作の各タイミングを制御して回転ガントリ3を別の照射位置であるm+1照射位置に回転駆動させる(ステップS12)。
【0057】
そして、照射制御部23は、荷電粒子ビームの出射のオン、オフ制御してビーム生成部26から電磁石電源25の励磁量n+1で荷電粒子ビームを出射する(ステップS13)。この励磁状態を維持した状態で、回転ガントリ駆動制御部21は、回転ガントリ駆動部24のオン、オフ動作の各タイミングを制御して回転ガントリ3をさらに別の照射位置であるm+2照射位置に回転駆動させる(ステップS14)。
【0058】
さらに、電磁石電源25を制御してステップS11の励磁量より低い次の励磁量である励磁量nで複合型超伝導電磁石5を励磁する(ステップS15)。照射制御部23は、荷電粒子ビームの出射のオン、オフ制御してビーム生成部26から電磁石電源25の励磁量nで荷電粒子ビームを出射する(ステップS16)。
【0059】
図8及び図9に示すように荷電粒子ビームの照射タイミング、複合型超伝導電磁石5の励磁タイミング及び励磁量、回転ガントリ3の回転オン、オフ動作のタイミングを制御しても前記実施形態と同様の効果が得られる。
【0060】
(制御装置のさらに他の制御順序)
図10は一実施形態の制御装置のさらに他の制御順序を示すフローチャートである。図11図10の制御順序によるビーム生成部の照射、複合型超伝導電磁石の励磁、及び回転ガントリの回転動作のさらに他の各タイミングを示すタイミングチャートである。
【0061】
まず、図10及び図11に示すように、電磁石電源制御部22は、電磁石電源25を制御して励磁量nで複合型超伝導電磁石5を励磁する(ステップS31)。次いで、複合型超伝導電磁石5を消磁せず、回転ガントリ駆動制御部21は、回転ガントリ駆動部24のオン、オフ動作の各タイミングを制御して回転ガントリ3を別の照射位置であるm+1照射位置に回転駆動させる(ステップS32)。
【0062】
そして、照射制御部23は、荷電粒子ビームの出射のオン、オフ制御してビーム生成部26から電磁石電源25の励磁量nで荷電粒子ビームを出射する(ステップS33)。この励磁状態を維持した状態で、回転ガントリ駆動制御部21は、回転ガントリ駆動部24のオン、オフ動作の各タイミングを制御して回転ガントリ3をさらに別の照射位置であるm+2照射位置を回転駆動させる(ステップS34)。
【0063】
さらに、上記電磁石電源25の励磁量nを維持した状態で、照射制御部23は、荷電粒子ビームの出射のオン、オフを制御してビーム生成部26から電磁石電源25の励磁量nで荷電粒子ビームを出射する(ステップS35)。
【0064】
図10及び図11に示すように複合型超伝導電磁石5の励磁量を一定に制御した場合でも、前記実施形態と同様の効果が得られる。
【0065】
このように本実施形態では、複合型超伝導電磁石5を励磁してから回転ガントリ3を回転させるように制御する。
【0066】
(その他の実施形態)
本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0067】
なお、上記実施形態では、回転照射治療装置1に適用した例について説明したが、これに限らず照射対象に対して周方向の任意の角度から荷電粒子ビームを照射する回転照射装置であれば、例えば物理学実験等のように様々な用途に適用可能である。
【0068】
また、上記実施形態では、2極コイル12と、4極コイル13の双方を設置した例について説明したが、これに限定されることなく、2極コイル12又は4極コイル13のいずれか一方のみ単独で構成される超伝導電磁石の場合においても同様の効果が得られる。また、2極コイル12、4極コイル13が6極以上の多極で構成される場合についても同様である。
【符号の説明】
【0069】
1…回転照射治療装置(回転照射装置)、2…建屋、3…回転ガントリ、3a…回転軸、4…ビームパイプ(真空ダクト)、5…複合型超伝導電磁石(超伝導電磁石)、6…照射部、12…2極コイル、13…4極コイル、14…スペーサ、15…電磁力支持部材、16…真空容器、17…磁束線、20…制御装置、21…回転ガントリ駆動制御部、22…電磁石電源制御部、23…照射制御部、24…回転ガントリ駆動部、25…電磁石電源、26…ビーム生成部、30…治療計画データ記憶部(データ記憶部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11