【実施例】
【0028】
図1に示すように、モータコア製造装置10は、接着剤塗布機構11と、打ち抜き装置20と、磁石挿入機50と、加圧機構55と、加熱機構60とからなる。以下、これらの機構又は装置の構成や作用を詳しく説明する。
【0029】
図2に示すように、打ち抜き装置20は、接着剤塗布機構11を内蔵している。
打ち抜き装置20は、ベース21と、このベース21に載せられている下金型22と、この下金型22の上方に配置される上金型23と、この上金型23を支えるプレス板24と、このプレス板24を昇降すると共に下金型22に載った帯状薄鋼板41に上金型23を押圧するプレスシリンダ25とを基本要素とする。
【0030】
帯状薄鋼板41の厚さは、例えば0.2〜0.5mmである。
なお、理解を容易にするために、図示を省略したが、帯状薄鋼板41は、材料を移動させる際には下金型22の上面に接触しない様に点状の接着剤を避けて配置されたピンで支持して押し上げる。更に確実に押し上げる為プレート状の部材で支持してもよい。この場合は、プレート状の部材の上面に、点状の接着剤との接触を避けるために筋状の凹溝を設ける。
【0031】
上金型23には、下面に、内周パンチ26と、この内周パンチ26を囲う複数のマグネット穴パンチ27と、外周パンチ28とが設置されている。
【0032】
下金型22には、内周パンチ26の下と、マグネット穴パンチ27の下にスクラップ排出穴31、32が設けられている。
スクラップ排出穴31、32の下に、スクラップコンベア33が配置され、打ち抜き工程で発生するスクラップ34、35は、スクラップ排出穴31、32を通って落下し、スクラップコンベア33で装置外へ排出される。
【0033】
また、下金型22には、外周パンチ28の下にパイリング(段積み)板36が昇降可能に嵌められている。パイリング板36はサーボシリンダ37で支持されている。サーボシリンダ37は精密な位置制御が可能な機器である。
下降する外周パンチ28で打ち抜かれたコア42は、落下してパイリング板36に載る。複数枚のコア42が載るときに、最上位のコア42の高さが一定になるように、パイリング板36は徐々に下げられる。
【0034】
コア42が所定枚数積層されたら、積層コア43は想像線で示す位置まで下げられ、プッシュ38で押され、コンベア39に移され、このコンベア39で次の工程まで運ばれる。
【0035】
接着剤塗布機構11は、例えば円柱状の塗布ガン12と、この塗布ガン12を昇降するガン昇降シリンダ13とからなる。
【0036】
本実施例では、接着剤は帯状薄鋼板41の下面に塗布される。したがって、最下位(1枚目)のコア42に対しては、塗布ガン12を想像線の位置まで下げる。最下位のコア42、すなわち1枚目のコア42だけは未塗装状態とする。この処置により、1枚目のコア42がパイリング板36に貼りつくことはなくなる。
2枚目以降のコア42については、塗布ガン12を実線の位置に戻し、下面に塗装を施す。
【0037】
帯状薄鋼板41は、塗布ガン12から外周パンチ28へ(図面左から右へ)移動する。すなわち、この移動方向に沿って、塗布ガン12と内周パンチ26と外周パンチ28とが配置されている。
塗布ガン12の中心と内周パンチ26の中心との距離をD1とし、内周パンチ26の中心と外周パンチ28との中心の距離をD2としたときに、距離D1と距離D2は同じにする。
【0038】
帯状薄鋼板41の移動を止めて、上金型23を下げる。すると、帯状薄鋼板41のある部位の下面に塗布ガン12で接着剤が塗布される。上金型23を上げる。
【0039】
次に、距離D1だけ帯状薄鋼板41を移動する。帯状薄鋼板41の移動を止めて、上金型23を下げる。帯状薄鋼板41のある部位に中心穴とマグネット穴とが打ち抜き形成される。このときに、同期して、「ある部位」の次の部位に接着剤が塗布される。上金型23を上げる。
【0040】
次に、距離D2(D1と同じ)だけ帯状薄鋼板41を移動する。帯状薄鋼板41の移動を止めて、上金型23を下げる。帯状薄鋼板41のある部位においてコア42が打ち抜かれパイリング板36上へ落下する。このときに、同期して、「ある部位」の次の部位に中心穴とマグネット穴とが打ち抜き形成され、「次の部位」の次の部位に接着剤が塗布される。上金型23を上げる。
【0041】
図2の3a−3a矢視図を
図3(a)で説明し、3b−3b矢視図を
図3(b)で説明する。
図3(a)に示すように、帯状薄鋼板41はコイル材のままであるが、後に想像線で示すマグネット穴44が打ち抜き形成される。
【0042】
図3(b)に示すように、塗布ガン12の上面には、複数個の吐出穴14が配置されている。複数個の吐出穴14は、この例では、
図3(a)に示すマグネット穴44に対応して設けられている。
塗布ガン12に、一液型接着剤15が供給され、途中の流路は省略したが、吐出穴14から所定量吐出される。
【0043】
図2の4−4矢視図を
図4で説明し、5矢視図を
図5で説明する。
図4に示すように、帯状薄鋼板41に、点状の接着剤15A(一液型接着剤15であるが、形状の差異を明らかにするために英文字を添えた。以下同じ)が塗布されており、加えて、マグネット穴44と中心穴45とが、打ち抜き形成されている。
【0044】
図5に示すように、外周が打ち抜き形成されることで、穴あき円板状のコア42が得られた。このコア42の下面には、マグネット穴44の周囲で且つ中心寄りの部位に、穴1個当たり1個の接着剤15Aが塗布されている。
【0045】
コア42は積層され、
図2で説明したコンベア39で運ばれる。運ばれてきた積層コア43に、
図6に示す磁石51が挿入される。磁石51は単数もしくは複数の棒状の永久磁石である。
【0046】
図6に示すように、磁石挿入機50は、例えばロボットハンド52である。
セット台53に載せられた積層コア43のマグネット穴44に、ロボットハンド52で磁石51が挿入される。なお、磁石挿入機50は、ロボットハンド52に限定されない。
この挿入時点では、磁石51は積層コア43に接着されない。
【0047】
仮に接着剤がマグネット穴44に存在すると、磁石51に挿入が難しくなることがある。
本実施例では、マグネット穴44に接着剤が存在しないため、磁石51の挿入は容易になる。磁石51の挿入し直しも可能である。よって、磁石51の挿入作業には時間的な余裕が十分にある。
【0048】
磁石51が挿入された積層コア43は、加圧機構55へ移される。
図7に示すように、加圧機構55は、プレス台56と、プレス盤57とからなる。
積層コア43は、プレス台56に載せられ、上からプレス盤57で軸力が加えられる。
このときの軸力による加圧作用を詳しく説明する。
【0049】
図8は接着剤の形状の変化を説明する図である。
図8(a)に示すように、コア42の下面に、点状の接着剤15Aが塗布されている。点状の接着剤15Aは、ほぼ半球であり、外径はd0である。
図8(b)に示すように、
図7のプレス盤57で加圧される途中では、上下2枚のコア42で挟まれることで、接着剤15Bは横(コア42の平面に平行)に広がる。更に加圧力を増やす。
図8(c)に示すように、所定の加圧力Fに達すると、接着剤15Cはごく薄いフィルムになる。広がった後の径をdfとする。
【0050】
図9は、横軸に面圧Pをとり縦軸に広がった後の径dfをとったときの面圧Pと径dfとの相関を示すグラフである。面圧Pは、P=(加圧力F/ 点状接着剤の外径d0)で定義される。
外径d0が一定であれば、加圧力Fを増やすと、面圧Pは増加する。面圧Pが増加するほど接着剤は広がって、広がった後の径dfは大きくなる。ただし、接着剤が薄くなるほど加圧しにくくなるため、曲線は寝た形態となる。
【0051】
次に磁石51と、
図8で説明した接着剤との関係を、
図10及び
図11に基づいて説明する。
図10(a)に示すように、マグネット穴44の近傍に且つマグネット穴44の幅中心(ほぼ幅中心を含む。)に、点状の接着剤15Aが塗布されている。なお、分かり易くするために、下面に塗布した点状の接着剤15Aを、おもて側に示した。この状態から点状の接着剤15Aは、押し広げられる。
図10(b)に示すように、広がった接着剤15Bの縁がマグネット穴44の縁に到達した。
【0052】
図10(c)において、マグネット穴44が無いときには、更に押し広げられた接着剤15Cは、想像線で示すマグネット穴44に一部分が被さる。広がった後の径dfまで押し広げられると、例えば、高さ1/4dfの欠円部分(弓形部分)がマグネット穴44に被さり、高さ3/4dfの部分がコア42に残る。
【0053】
図10(b)の11a−11a線断面図を、
図11(a)に示す。
図11(a)でコア42に下向き力が付与されると、接着剤15Bは更に広がる。
【0054】
図11(b)に示すように、一部の接着剤15C1は、コア42からはみ出して、磁石51に当たり、上と下へ流動する。図は省略したが上のコア42の上からも接着剤が流れ落ちて来るため、磁石51に当たった後は、コア42の厚さの1/2の距離だけ、上と下へ流れる。コア42の厚さは0.2〜0.5mm程度である。コア42の厚さの1/2は0.1〜0.25mmとなり、この程度であれば接着剤が上と下に容易に流れ得る。更に、接着剤の余剰分は磁石51の他の面(図面では手前の面と奥の面)に回り込む。
【0055】
結果、
図11(c)に示すように、一部の接着剤15C1がマグネット穴44と磁石51との隙間を埋め、残りの接着剤15C2がコア42とコア42の間に残る。
【0056】
図10(c)に示す広がった後の径dfで、
図11(c)に示す接着剤15C1及び接着剤15C2の配分が得られ、この配分で磁石51の固定強度と、コア42とコア42の間の接合強度が要求仕様を満足したとする。
【0057】
このときの広がった後の径dfを、
図9に当て嵌めて加圧力Fを求める。この加圧力Fに基づいて、
図7に示すプレス盤57のプレス力を、制御する。これにより、
図11(b)と
図11(c)とに示す一部の接着剤15C1と残りの接着剤15C2の形態が再現できる。
【0058】
図7に示す積層コア43は、一部の接着剤がマグネット穴と磁石との隙間を埋め、残りの接着剤がコア42間に残っている。
ここで、重要なことは、接着剤が、常温で塗布されただけでは硬化せず加熱により硬化する一液型接着剤であることである。
図1に示す接着剤塗布機構11で塗布した後、打ち抜き装置20で打ち抜き、磁石挿入機50で磁石を挿入し、加圧機構55で加圧する間は、接着剤が硬化しないため、作業は急ぐ必要がなく、作業を厳密に管理する必要もない。結果、モータコアの製造作業において、時間的な余裕があるモータコア製造装置(
図1、符号10)が提供される。
【0059】
図7に示す加圧機構55には、加熱機構60が付設されている。加熱機構60は、例えば誘導加熱コイル61である。誘導加熱コイル61に通電することで、積層コイル43を加熱する。加熱温度は一液型接着剤15が硬化する温度である。
加熱することにより一液型接着剤15が硬化され、所望のモータコア63が得られる。
【0060】
尚、これまでは加熱することで硬化する一液型接着剤について説明してきたが、塗布されただけでは硬化しない接着剤であれば本発明に用いることができる。例えば塗布後に加圧することで主剤と硬化剤を反応させる感圧接着剤を使用してもよい。
この場合、加熱機構60は必要なくなり、加圧機構55のみで接着剤を硬化させることができる。すなわち、
図1において、モータコア製造装置10は、接着剤塗布機構11と、打ち抜き装置20と、磁石挿入機50と、加圧機構55とで構成される。
【0061】
点状の接着剤15Aの塗布位置について、
図12に基づいて説明を加える。
図12(a)に示すように、接着剤15Cの中心点である塗布点65をマグネット穴44に近づけると、一部の接着剤15C1の比率を大きくすることができる。
【0062】
逆に
図12(b)に示すように、塗布点65をマグネット穴44から遠くすると、一部の接着剤15C1の比率を小さくすることができる。
または、
図12(c)に示すように、マグネット穴44の1個当たり、複数(この例では2個)の塗布点65を設定してもよい。塗布点65を複数にすることで、マグネット穴44と磁石51との隙間に、より十分な量の接着剤15C1を充当することができる。
【0063】
一液型接着剤15の特性、コア42の厚さ、マグネット穴44の大きさ、マグネット穴44と磁石51との隙間などを勘案して、塗布点65の位置や数を決めればよい。
すなわち、本発明では、接着剤15を面ではなく点で塗布したため、塗布点65の位置や数を制御することで、磁石51の接着固定とコア42同士の接着固定とを制御することができる。
【0064】
また、11(c)で示したように、広がった後の接着剤15Cはコア42間及び磁石51周りに留まり、コア42からはみ出すことはない。結果、一液型接着剤15の無駄使いをなくすことができる。
【0065】
また、磁石とコアだけを接着固定する従来技術や、コア同士だけを接着固定する従来技術に対して、本発明では、磁石とコアを接着固定しつつコア同士を接着固定するため、強度などモータコアの品質を高めることができる。
【0066】
なお、
図1に示す接着剤塗布機構11と、打ち抜き装置20と、磁石挿入機50と、加圧機構55と、加熱機構60とは、別々に設置することは差し付けない。
しかし、
図7に示すように、加圧機構55に加熱機構60を付設すると、装置の集約が図れてより好ましい。
また、
図2に示すように、打ち抜き装置20に接着剤塗布機構11を内蔵すると、装置の集約が図れてより好ましい。
【0067】
尚、
図2に示す打ち抜き装置20は、一実施例を示しただけであり、適宜変更して差し支えない。例えば、接着剤塗布機構11は、打ち抜き装置20の外で且つ打ち抜き装置20の前に設けてもよい。
接着剤塗布機構11、磁石挿入機50、加圧機構55、加熱機構60も一例を示しただけであり、構成などは適宜変更して差し支えない。
【0068】
また、コア41に設けるマグネット穴43の数やレイアウトは、実施例に限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【0069】
以上に説明した接着剤塗布機構11と、加圧機構55と、加熱機構60とを用いて実施するモータコア製造方法は次のように纏めることができる。
すなわち、
図5に示すように、接着剤塗布機構11により、コア42の所定箇所に点の形態で一液型接着剤15Aを塗布する(接着剤塗布工程)。次に、
図7に示すように、加圧機構55により、接着剤が塗布された積層コア43に軸力を加えて広げ、
図11(c)に示すように、接着剤の一部15C1を磁石51とマグネット穴44との隙間に介在させつつ残部15C2を隣り合うコア42間に介在させる(加圧工程)。続いて、
図7に示す加熱機構60により、積層コア43を加熱して接着剤を硬化させる(加熱工程)。
【0070】
この製造方法によれば、点状の接着剤を押し広げる。広がった後の接着剤においても、面積はそれほど大きくなく、中心部分の蒸発が期待され、所望の接着強度が確保できる。結果、一液型接着剤が採用できる。一液型接着剤であれば、常温で硬化することはなく、作業中に時間的な余裕が生まれる。
【0071】
また、接着剤は点の形態で塗布するため、押し広げてもはみ出しは起こらない。はみ出しが無ければ接着剤の全てを接合に使用できる。
また、広げた接着剤で、コア同士の接合と磁石の接着固定とが同時に行える。
よって、本発明によれば、モータコアの製造作業において、時間的な余裕があり、接着剤の無駄使いがなく、磁石の接着固定に加えてコア同士の接合が可能であるモータコア製造方法が提供される。
【0072】
または、接着剤塗布機構11と、加圧機構55とを用いて実施するモータコア製造方法は次のように纏めることができる。
すなわち、
図5に示すように、接着剤塗布機構11により、コア42の所定箇所に点の形態で一液型接着剤15Aを塗布する(接着剤塗布工程)。次に、
図7に示すように、加圧機構55により、接着剤が塗布された積層コア43に軸力を加えて広げ、
図11(c)に示すように、接着剤の一部15C1を磁石51とマグネット穴44との隙間に介在させつつ残部15C2を隣り合うコア42間に介在させると共に加圧により接着剤を硬化させる(加圧工程)。
【0073】
この製造方法によれば、点状の接着剤を押し広げる。広がった後の接着剤においても、面積はそれほど大きくなく、中心部分の蒸発が期待され、所望の接着強度が確保できる。結果、一液型接着剤が採用できる。一液型接着剤であれば、常温で硬化することはなく、作業中に時間的な余裕が生まれる。
【0074】
また、接着剤は点の形態で塗布するため、押し広げてもはみ出しは起こらない。はみ出しが無ければ接着剤の全てを接合に使用できる。
また、広げた接着剤で、コア同士の接合と磁石の接着固定とが同時に行える。
よって、本発明によれば、モータコアの製造作業において、時間的な余裕があり、接着剤の無駄使いがなく、磁石の接着固定に加えてコア同士の接合が可能であるモータコア製造方法が提供される。