【実施例】
【0023】
以下に実施例、参考例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
以下の原料を使用して、実施例1〜7、参考例1〜2、および比較例1〜9の密閉式鉛蓄電池用セパレーター(AGMセパレーター)を作成した。
【0024】
[配合原料]
(1)マイクロガラス繊維
日本板硝子(株)製 CMLF−208、数平均繊維径0.8μm
(2)非接着性モノフィラメント状有機繊維
(株)クラレ製 EP133−5、ポリエチレンテレフタレート、繊度1.45dtex
(3)熱融着性有機繊維
A:ユニチカ(株)製 メルティー6080、2成分芯鞘タイプ(芯:ポリエチレンテレフタレート、鞘:ポリエチレン)、繊度1.50dtex
B:ダイワボウ製 PZ08−5、1成分全融タイプ(ポリプロピレン)、繊度0.80dtex
C:ユニチカ(株)製 キャスベン8080、2成分芯鞘タイプ(芯:ポリエチレンテレフタレート、鞘:ポリエチレンテレフタレート)、繊度1.10dtex
D:ユニチカ(株)製 メルティー4000、1成分全融タイプ(共重合ポリエチレンテレフタレート)、繊度2.20dtex
E:ユニチカ(株)製 メルティー4080、2成分芯鞘タイプ(芯:ポリエチレンテレフタレート、鞘:共重合ポリエチレンテレフタレート)、繊度1.22dtex
【0025】
[AGMセパレーターの作製]
実施例1〜7、参考例1〜2、および比較例1〜9の密閉式鉛蓄電池用セパレーター(AGMセパレーター)を、表1〜2で示される配合に従って、次の手順で作製した。
原料を業務用ミキサー(Panasonic製 MX−152SP)の容器に7〜10g程度入れ、pH3の硫酸酸性水を約1000ml加えて60秒間離解(回転数:約9700rpm)した。スラリー状の試料液を実験用の角型シートマシンに入れ、更にpH3の硫酸酸性水を加えて濃度0.25重量%になるように均一に攪拌した後にシート化した。箱型乾燥機を用いて温度180℃にて30分間加熱乾燥させてAGMセパレーターを作製した。シートを乾燥させる際には、乾燥機内に水蒸気が籠らないように注意した。
【0026】
[試験および評価方法]
上記実施例、参考例および比較例に対して、下記の条件で評価を行い、その結果を表1〜2にまとめて示した。
(1)重量(g/m
2)
作製したAGMセパレーターを100mm×100mmの大きさに切断したものを試験片とし、その10枚の重量を電子天秤で測定して、重量(g/m
2)を算出した。
(2)厚さ(mm)
作製したAGMセパレーターを100mm×100mmの大きさに切断したものを試験片とし、その10枚を重ねて、密閉式鉛蓄電池用AGMセパレーターの電池工業会規格SBA S 0406−2017年版7.2.2.b)項記載の方法に従って測定を行った。
測定は、重ねた10枚の試験片の全面に一様に加わるように荷重196Nを静かに加え、AGMセパレーターの四隅の厚さを測定し、その平均値で表した。
(3)見掛け密度(g/cm
3)
密閉式鉛蓄電池用AGMセパレーターの電池工業会規格SBA S 0406−2017年版7.2.3項記載の方法に従って測定を行い、以下の式によって算出した。
見掛け密度(g/cm
3)=[重量(g/m
2)]÷[厚さ(mm)]÷1000
(4)引張強度(N/10mm
2)
密閉式鉛蓄電池用AGMセパレーターの電池工業会規格SBA S 0406−2017年版7.2.7項記載の方法に基づいて、以下の手順で行った。
作製したAGMセパレーターを10mm×70mmの大きさに切断して試験片とし、294N以下のショッパ式または、これに準じる引張試験機を用い、チャック(つかみ)間隔を50mmとして、毎分200mmの速度で試験片を引張り、試験片が破断するまでの最大値を測定した。
(5)最大細孔径(μm)
試験片にエタノール液を含浸させ、更に試験片上に10mmの高さでエタノール液を注液し、下方(AGMセパレーター面)より加圧した空気を流した。徐々に通気圧を上げ、試験片を通って最初に泡(気泡)が出てきた時の圧力値をマノメーター(mm)から読み取り、以下の計算式によって最大細孔径を算出した。
この時、エタノール液の温度を測定し、その温度における表面張力を計算式中に組み入れた。
最大細孔径(μm)=[4×(液体の表面張力)×10
4]÷[980×{(マノメーターの読み値、mm)−(試料上の液の高さ、10mm)}]
(6)接着強度(N)
a.試験条件は、「温度:70℃、湿度:75%、5kPa加圧条件下で48時間放置」、「温度:70℃、湿度:75%、10kPa加圧条件下で48時間放置」の2条件とした。
b.作製したAGMセパレーターを切断(5kPa加圧:100mm×100mm、10kPa加圧:70mm×70mm)して試料(各2枚を1セット)とした。
c.前処理として、試料(2枚1セット)を試験条件と同一の温湿度条件に設定した恒温恒湿槽内に1時間放置した。
d.前処理した試料(2枚1セット)を上質紙(試料と同じ大きさに切断したもの)2枚で挟み、さらにアクリル板(120mm×120mm×厚さ10mm)2枚で挟んだ後、試験条件の温湿度条件に設定した恒温恒湿槽内に入れ、所定の重り(5kPa加圧:5Kg、10kPa加圧:10Kg)をアクリル板の上に乗せた。
e.48時間放置後に恒温恒湿槽から試料を取り出し、接着強度を測定した。
f.接着強度は、JIS L3416:2000の「面ファスナー 7.4.2はく離強さ」に準じ、以下のように測定した。
処理後の試料から、幅25mmの試験片を接着された状態のまま採取し、接着した部分50mmの「接着強度」をオートグラフ((株)島津製作所製)を用いて測定して最大値を取り、合計6測定の結果の平均値を求めた。
「接着強度」が0.10N以上を「接着」とした。
また、試験片をつかみに装着するまでに接着状態を維持できない場合、「接着強度」を「0.00」とした。
(7)表層剥離(「無」・「毛羽」・「剥離」)
表層剥離の状態は、接着状態の試料(2枚1セット)を手で剥がした際に、どちらかの試料表面における毛羽、および表層剥離の有無を目視で確認することによって行った。
接着強度が0.10N未満であって、AGMセパレーターのいずれかの表面に
、厚さが0.1mm未満の表層剥離が確認できた場合、「毛羽」とした。
接着強度が0.10N未満の場合は、AGMセパレーターの片側の面の剥ぎ取られる量が0.1mm未満であり、局部的に剥ぎ取られている状態であるため、電池性能に与える影響は小さい。
AGMセパレーターのいずれかの表面に
、厚さが0.1mm以上の表層剥離が確認できた場合、「剥離」とした。
「毛羽」および「剥離」のいずれも確認できなかった場合、「無」とした。
【0027】
このような実施例1〜7、参考例1〜2、および比較例1〜9の評価結果を、表1〜2にまとめて示した。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
表1〜2で示される実施例1〜7、参考例1〜2、および比較例1〜9の試験結果から、密閉式鉛蓄電池用セパレーター(AGMセパレーター)どうしの接着による剥離を抑制するため、密閉式鉛蓄電池用セパレーター(AGMセパレーター)どうしの接着条件として5kPa、または10kPaの加圧下、温度70℃、湿度75%の条件下で48時間、恒温恒湿槽内に放置した後の状態を確認し、当該接着条件下でも引き剥がし時の表層に「剥離」が生じない、且つ接着強度が0.10N未満の熱融着性有機繊維の種類を特定することができた。
表層剥離の状態の目視観察においては、厚さが0.1mm以上の表面層の剥離があったものを「剥離」とし、厚さが0.1mm未満の極僅かな剥がれや、繊維の毛状のものがささくれ立った状態のものを「毛羽」とした。
近年のISSに使用される密閉式鉛蓄電池用のセパレーター(AGMセパレーター)の厚さは1.8mm未満と薄く、AGMセパレーターの片側の面が剥ぎ取られた場合においても、剥離が0.1mm以上の厚さで生じてしまうと、AGMセパレーターの規定の厚さが保てないという品質不具合が生じる。そして、客先において電池組み立て工程におけるロールの掛け直しによる生産ロスを引き起こすこととなる。
一方、厚さが0.1mm未満の極僅かな剥がれや、繊維の毛状のものがささくれ立った状態のものは、AGMセパレーターの表面が局部的に剥ぎ取られている状態であるため、電池性能に与える影響は小さいと考えられる。また、ISSに使用される密閉式鉛蓄電池用のAGMセパレーターにおいても、0.1mm未満程度の局部的な剥がれでは、AGMセパレーターの規定の厚さを保てるものと考えられる。
「剥離」を起こしたものは、最低でも0.10N以上の接着強度を示していることから、接着強度が0.10N未満であれば、「剥離」を起こさないと判断できる。AGMセパレーターの接着試験において、表裏接着(「剥離」を起こさない、且つ接着強度が0.10N未満)を起こさない熱融着性のある有機繊維の種類を特定することができた。
また、接着強度が0.10N未満を示したものの表層は、「剥離」が生じていなかった。これは、AGMセパレーター自体がもつ強度よりも接着する強度が小さいため、「剥離」が生じないものと推測される。
【0031】
実施例1〜7、参考例1〜2、および比較例1〜9の試験結果から、本発明の密閉式鉛蓄電池用セパレーター(AGMセパレーター)は、捲回による圧力、および/または輸送・保管時における温湿度環境(条件)においても、AGMセパレーターどうしの表裏面が接着して引き起こされる表層の「剥離」が起こらず、品質不具合と生産ロスを引き起こすことのない密閉式鉛蓄電池用セパレーター(AGMセパレーター)を提供することができることが確認できた。