(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1及び第2のPWM制御用ブリッジは、互いに1/2周期分の位相差を持って各スイッチ素子をオン/オフさせることを特徴とする、請求項1に記載の交流電源装置。
前記3相のトランス及び前記3相のリアクトルが、その両者の機能を有する3相のトランス結合されたリアクトルとして形成されていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の交流電源装置。
出力電力に応じて、前記第1及び第2のPWM制御用ブリッジの一方の動作を停止し、かつ、前記スイッチ素子の駆動周波数が変化されることを特徴とする、請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の交流電源装置。
前記3相のリアクトルの他端にそれぞれ接続される中性点を有する3相の負荷回路を有し、前記中性点を前記2つの入力コンデンサの接続点に接続することを特徴とする、請求項1に記載の交流電源装置。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<交流電源装置(全体構成)>
図1は、交流電源装置の全体構成を示す回路図である。本構成例の交流電源装置1は、直流電源E1から供給される直流入力電圧Vin(Vinの低電位側を接地点としているが、本図からは省略)を3相の交流出力電圧Vout*(ただし、*=U,V,W、以下同様)に変換して負荷RL*に供給するDC/ACコンバータ(いわゆる高電圧インバータ)であり、入力コンデンサ11及び12と、トランジスタブリッジ20*と、単巻変圧器T*と、平滑リアクトルLs*と、平滑コンデンサ40*と、を有する。
【0029】
入力コンデンサ11及び12は、相互間の接続ノードを3相の交流出力電圧Vout*の中性点X(=中性点電圧VXの印加端)とするように、直流電源E1の正極端(=直流入力電圧Viの印加端)と負極端(=接地端)との間に直列接続されており、コンデンサブリッジとして機能する。なお、入力コンデンサ11及び12それぞれの容量値が等しい場合には、VX=Vin/2となる。このように構成し動作させた場合、単巻変圧器T*の中点VN*と中性点Xの間の電圧は、中性点Xでクランプされ、スイッチ素子21*〜24*の駆動周波数fxの2倍の周波数で変動するため、平滑リアクトルLs*に必要なインダクタンス値をNPC方式のインバータと比較して1/2にすることができるので、小型化・低損失化が可能になる。
【0030】
トランジスタブリッジ20*は、2つのPWM[pulse width modulation]制御用ブリッジ20*1及び20*2から構成されている。PWM制御用ブリッジ20*1及び20*2は、それぞれ、直流電源E1の正極端と負極端との間に直列接続されたスイッチ素子21*及び22*、並びに、スイッチ素子23*及び24*(本図の例では、いずれもNチャネル型MOSFET)を含み、互いに所定の位相差(例えば1/2周期分の位相差)を持って各スイッチ素子を、所定のデッドタイムを設けて相補的にオン/オフさせることにより、インターリーブ動作を行う。なお、PWM制御用ブリッジ20*1及び20*2のDUTY(=Ton/T、ただし、Tはスイッチング周期(=1/fx)、Tonはスイッチ素子21*及び23*それぞれのオン期間)は、所望の交流波形が生成されるように適切にPWM制御される。
【0031】
単巻変圧器T*は、PWM制御用ブリッジ20*1及び20*2それぞれの出力端と平滑リアクトルLs*との間に接続されており、単巻変圧器T*の励磁インダクタンスLm1*、Lm2*が平滑リアクトルLs*に対して十分に大きければ、
図2Bのように単巻変圧器Tの中点VNを切断し、2つの平滑リアクトルLs1、Ls2に分割しても動作は同一となる。
図1に戻り、単巻変圧器T*の説明を続ける。単巻変圧器T*は、第1巻線31*及び第2巻線32*と、コア33*を含む。より具体的に述べると、第1巻線31*の第1端(=巻始端)は、PWM制御用ブリッジ20*1の出力端(=スイッチ素子21*及び22*相互間の接続ノード)に接続されている。第2巻線32*の第1端(=巻終端)は、PWM制御用ブリッジ20*2の出力端(=スイッチ素子23*及び24*相互間の接続ノード)に接続されている。第1巻線31*の第2端(=巻終端)と第2巻線32*の第2端(=巻始端)は、平滑リアクトルLs*の第1端に共通接続されている。また、第1巻線31*と第2巻線32*とは、コア33*を介して相互に磁気結合されている。特に、第1巻線31*と第2巻線32*は、コア33*の内部に発生させる磁束を互いに打ち消す向きにそれぞれ巻かれている(詳細は後述)。
【0032】
平滑リアクトルLs*の第2端は負荷RL*の第1端(=交流出力電圧Vout*の出力端)に接続されており、平滑コンデンサ40*の第1端は、負荷RL*の第1端に接続されている。平滑コンデンサ40*の第2端は、3相共通接続されている。このように接続された平滑コンデンサ40*は、平滑リアクトルLs*と共にLCフィルタを形成しており、交流出力電圧Vout*を平滑化する。
【0033】
なお、負荷RL*の第2端は、中性点Xに接続されている。このように、中性点Xは、3相の交流出力電圧Vout*全てに対する共通の基準電位点になる。従って、ヨーロッパなどで主流の3相4線方式(U相,V相,W相+中性点X)に対応することができる。
【0034】
<基本動作>
以下では、交流電源装置1の基本動作について説明する。なお、基本動作の理解には、3相回路ではなく、単相分の回路を用いれば十分である。
【0035】
図2Aは、
図1の交流電源装置1の単相分を表示した回路図(=U相、V相、W相の一つを抽出した回路図)である。なお、単相表示に伴い、各構成要素の符号末尾に付されていた相番号*(=U,V,W)が割愛されている。一方、本図では、スイッチ素子21〜24それぞれのドレイン電流をId21〜Id24とし、第1巻線31及び第2巻線32それぞれのインダクタ電流をIL1及びIL2とし、負荷RLに流れるインダクタ電流をILとして、それぞれ明示しており、以下の図面でも、これらの符号が用いられている。また、ドレイン電流Id21〜Id24、インダクタ電流IL1及びIL2、並びに、インダクタ電流ILは、矢印の向きが正方向として定義されている。また、2つのトランジスタブリッジそれぞれの出力端のノード電圧をVL1及びVL2とし、単巻変圧器Tの励磁インダクタンスLm1及びLm2と、平滑リアクトルLsの接続点のノード電圧をVNとしている。
【0036】
なお、単巻変圧器Tの励磁インダクタンスLm1、Lm2が平滑リアクトルLsに対して十分に大きければ、
図2Bのように、単巻変圧器T及び平滑リアクトルLsを1つの回路素子であるトランス結合したリアクトル30で構成することが可能である。この場合、平滑リアクトルLsは単巻変圧器Tの2つの巻線31及び32の漏れインダクタンスLs1、Ls2で形成されており、インダクタ電流ILは2つの漏れインダクタンスLs1、Ls2にそれぞれ流れるインダクタ電流IL1及びIL2の和によって表される。また、結合部と漏れインダクタンスLs1、Ls2の間のノード電圧VN1及びVN2は、上記条件下では実質的に同電位となる。
【0037】
交流電源装置1の動作状態は、(1)0≦DUTY<0.5、Vout<0V、(2)DUTY=0.5、Vout=0V、及び、(3)0.5<DUTY≦1、Vout>0Vの3つに大別することができる。そこで、以下では、
図2Aに対して、上記3つの動作状態それぞれについて、場合を分けながら詳細に説明する。
【0038】
図3は、0≦DUTY<0.5における交流電源装置1の基本動作を説明するためのタイミングチャートであり、上から順に、スイッチ素子21〜24それぞれのゲート・ソース間電圧Vgs21〜Vgs24、スイッチ素子21〜24それぞれのドレイン電流Id21〜Id24、並びに、インダクタ電流IL(=IL1+IL2)が描写されている。
【0039】
本図で示したように、スイッチ素子21及び22とスイッチ素子23及び24は、それぞれ所定のスイッチング周期T(=1/fx)で相補的にオン/オフされている。また、スイッチ素子21及び22の駆動位相と、スイッチ素子23及び24の駆動位相との間には、1/2周期分の位相差が設けられている。
【0040】
ここで、単巻変圧器Tの第1巻線31と第2巻線32とは、互いに磁気結合されているので、その一方に電流が流れれば、他方にも同じ方向に電流が流れる。その結果、第1巻線31と第2巻線32のそれぞれに流れるインダクタ電流IL1及びIL2は、いずれも同等の挙動を示すことになる。すなわち、第1巻線31と第2巻線32には、それぞれ、駆動周波数の2倍で変調されたインダクタ電流IL1及びIL2(延いてはこれらを合算したインダクタ電流IL)が流れる。
【0041】
なお、0≦DUTY<0.5であるときには、スイッチ素子22及び24の同時オン期間(時刻t11〜t12、時刻t13〜t14、時刻t15〜t16、及び、時刻t17〜t18を参照)が生じるので、負のインダクタ電流ILが流れる。以下、この点について詳述する。
【0042】
図4は、0≦DUTY<0.5における交流電源装置1の主電流経路(=スイッチ素子22及び24の同時オン期間に電流が流れる経路)を示す等価回路図である。なお、本図では、Vin=2E、VX=E(=Vin/2)である場合を例に挙げて説明を行う。また、これ以降の説明では、特に断らない限り、交流出力電圧Voutの電圧値は、中性点電圧VX(=E)を基準電位とする電圧値として説明する。
【0043】
本図の破線矢印で示すように、スイッチ素子22及び24の同時オン期間には、入力コンデンサ12が直流電源として振る舞うことにより、入力コンデンサ12→負荷RL→漏れインダクタンスLs→励磁インダクタンスLm1及びLm2→スイッチ素子22及び24→入力コンデンサ12という経路に電流が流れる。従って、インダクタ電流ILは、負値となる(
図3も参照)。
【0044】
また、このとき、励磁インダクタンスLm1及びLm2それぞれの第1端に現れるノード電圧VL1及びVL2は、スイッチ素子22及び24がともにオンしていることから、いずれも0となる。一方、励磁インダクタンスLm1及びLm2共通の第2端に現れるノード電圧VNは、DUTY=0.5のときにEとなり、DUTY=0のときに0となる。
【0045】
従って、0≦DUTY<0.5であるときには、交流出力電圧Voutが中性点電圧VXに対して負値(<0)となり、その絶対値はDUTYが下がるほど大きくなる。具体的に述べると、DUTY=0.5のときにはVout=0となり、DUTY=0のときにはVout=−Eとなる。
【0046】
図5は、DUTY=0.5における交流電源装置1の基本動作を説明するためのタイミングチャートであり、先出の
図3と同じく、上から順に、スイッチ素子21〜24それぞれのゲート・ソース間電圧Vgs21〜Vgs24、スイッチ素子21〜24それぞれのドレイン電流Id21〜Id24、並びに、インダクタ電流IL(=IL1+IL2)が描写されている。
【0047】
本図で示したように、DUTY=0.5であるときには、スイッチ素子21及び23の同時オン期間もスイッチ素子22及び24の同時オン期間も生じないので、励磁インダクタンスLm1及びLm2以外には電流が全く流れない。以下、この点について詳述する。
【0048】
図6は、DUTY=0.5における交流電源装置1の主電流経路(=励磁インダクタLm1及びLm2以外に電流が流れない様子)を示す等価回路図である。なお、本図では、先出の
図4と同じく、Vin=2E、VX=E(=Vin/2)である場合を例に挙げて説明を行う。また、本図では、スイッチ素子21及び24の同時オン期間(=
図5の時刻t20〜t21、及び、時刻t22〜t23)を例に挙げて説明を行う。
【0049】
スイッチ素子21及び24の同時オン期間において、励磁インダクタンスLm1の第1端に現れるノード電圧VL1は、スイッチ素子21がオンしていることから2Eとなる。一方、励磁インダクタンスLm2の第1端に現れるノード電圧VL2は、スイッチ素子24がオンしていることから0となる。従って、励磁インダクタンスLm1及びLm2共通の第2端に現れるノード電圧VNは、Lm1=Lm2であるときにEとなり、中性点電圧VX(=E)と同電位になる。その結果、漏れインダクタンスLsにはインダクタ電流ILが流れず、負荷RLへの印加電圧もE(=VX)となるので、Vout=0となる。
【0050】
なお、本図では、スイッチ素子21及び24の同時オン期間を例に挙げたが、スイッチ素子22及び23の同時オン期間(=
図5の時刻t21〜t22、及び、時刻t23〜t24)においても、ノード電圧VL1及びVL2が上記とは逆(VL1=0、VL2=2E)になるだけであり、励磁インダクタンスLm1及びLm2以外には電流が流れず、Vout=0となる。
【0051】
図7は、0.5<DUTY≦1における交流電源装置1の基本動作を説明するためのタイミングチャートであり、先出の
図3や
図5と同じく、上から順に、スイッチ素子21〜24それぞれのゲート・ソース間電圧Vgs21〜Vgs24、スイッチ素子21〜24それぞれのドレイン電流Id21〜Id24、並びに、インダクタ電流IL(=IL1+IL2)が描写されている。
【0052】
本図で示したように、0.5<DUTY≦1であるときには、スイッチ素子21及び23の同時オン期間(時刻t30〜t31、時刻t32〜t33、時刻t34〜t35、時刻t36〜t37、及び、時刻t38〜t39を参照)が生じるので、正のインダクタ電流ILが流れる。以下、この点について詳述する。
【0053】
図8は、0.5<DUTY≦1における交流電源装置1の主電流経路(=スイッチ素子21及び23の同時オン期間に電流が流れる経路)を示す等価回路図である。なお、本図では、先出の
図4や
図6と同じく、Vin=2E、VX=E(=Vin/2)である場合を例に挙げて説明を行う。
【0054】
本図の破線矢印で示すように、スイッチ素子21及び23の同時オン期間には、入力コンデンサ11が直流電源として振る舞うことにより、入力コンデンサ11→スイッチ素子21及び23→励磁インダクタンスLm1及びLm2→漏れインダクタンスLs→負荷RL→入力コンデンサ11という経路に電流が流れる。従って、インダクタ電流ILは、正値となる(
図7も参照)。
【0055】
また、このとき、励磁インダクタンスLm1及びLm2それぞれの第1端に現れるノード電圧VL1及びVL2は、スイッチ素子21及び23がオンしていることから、いずれも2Eとなる。一方、励磁インダクタンスLm1及びLm2共通の第2端に現れるノード電圧VNは、DUTY=0.5のときにEとなり、DUTY=1のときに2Eとなる。
【0056】
従って、0.5<DUTY≦1であるときには、交流出力電圧Voutが中性点電圧VXに対して正値(>0)となり、その絶対値はDUTYが上がるほど大きくなる。具体的に述べると、DUTY=0.5のときにはVout=0となり、DUTY=1のときにはVout=+Eとなる。なお、DUTYの最大値を1未満、最小値を0より大きく設定することで、出力電圧の振幅を±E以下の範囲で調整することができる。
【0057】
このように、本願のインバータ方式は、Vin=2Eで最大Vout=±Eまで出力することのできるものとなり、これを3相として出力する。NPC方式のインバータと比較すると、単巻変圧器Tを使用した周波数2倍の3相3レベルインバータと本願インバータで、フィルタ回路のリアクトル(本願では
図2Aでの平滑リアクトルLs)に掛かる電圧波形が等しくなる。このため、本願インバータの平滑リアクトルLsに必要なインダクタンス値は、3レベルインバータと比較して1/2となり、単巻変圧器Tを付加したとしてもなお小型化のメリットが得られる。また、3レベルインバータのようにスイッチ素子が直列で接続されている回路と比較して、本願インバータはスイッチ素子が並列に接続されているため、電流低減による導通損失の低減が可能であり、またその特長を活用して出力容量を増やすことも可能である。
【0058】
<単巻変圧器及び平滑リアクトルの磁束密度に関する考察>
図9は、Vout及びDUTY(横軸)と、単巻変圧器T及び平滑リアクトルLsの磁束密度B(縦軸)との相関図である。なお、実線B1は、平滑リアクトルLsの直流成分(=平滑リアクトルLsに流れる直流電流成分により生じる磁束の密度)を示しており、小破線B2は、リアクトルLsの交流成分(=平滑リアクトルLsに流れる交流電流成分により生じる磁束の密度)を示している。一方、大破線B3は、単巻変圧器Tの励磁成分(=励磁インダクタンスLm1及びLm2に流れるインダクタ電流IL1及びIL2によりコア33に生じる磁束の密度)を示している。
【0059】
先にも述べたように、本構成例の交流電源装置1では、0≦DUTY<0.5であるときに−E≦Vout<0となり、DUTY=0.5のときにVout=0となり、0.5<DUTY≦1であるときに0<Vout≦+Eとなる。
【0060】
また、平滑リアクトルLsに着目すると、|Vout|>E/2において、磁束密度が高くなる(実線B1を参照)。一方、単巻変圧器Tの励磁成分に着目すると、|Vout|<E/2において、コア33の磁束密度が高くなる(大破線B3を参照)。より端的に述べると、Vout=0のときには、B1が最小でB3が最大となり、Vout=±Eのときには、B1が最大でB3が最小となる。すなわち、本構成例の交流電源装置1では、単巻変圧器Tと平滑リアクトルLsにおける負担の大きい領域が明確に分かれている。
【0061】
なお、本構成例の交流電源装置1では、これに用いられる単巻変圧器Tと平滑リアクトルLsとして、クレストファクタの大きい出力に対しても磁気飽和を生じにくく、かつ、広駆動範囲で連続動作するのに必要な平滑用インダクタンスを有することが望まれる。以下では、このような要求を満足することのできる一手段として、新規のトランス結合されたリアクトル30(特にコア33の新規構造)を提案する。
【0062】
<トランス結合されたリアクトル(第1実施形態)>
図10は、トランス結合されたリアクトル30の第1実施形態を示す模式図であり、
図11は、トランス結合されたリアクトル30の縦断面図(
図10のX1−X2断面図)である。本実施形態のトランス結合されたリアクトル30は、先にも述べたように、第1巻線31及び第2巻線32と、コア33を含む。特に、コア33は、第1コア部33aと、これとは別体である第2コア部33bとを組み合わせて成る。
【0063】
第1コア部33aは、第1巻線31及び第2巻線32がそれぞれ捲回される環状部材であり、磁脚部として機能する。なお、第1巻線31及び第2巻線32は、第1コア部33aに対して、第1コア部33a内に発生させる磁束MF1及びMF2を互いに打ち消す向きにそれぞれ巻かれている。
【0064】
このような構成を採用することにより、第1コア部33a内には、第1巻線31に流れるインダクタ電流IL1と、第2巻線32に流れるインダクタ電流IL2との差分に起因する磁束ΔMF(=MF1−MF2)しか発生しないので、磁気飽和し難くなる。
【0065】
一方、第2コア部33bは、第1巻線31及び第2巻線32がいずれも捲回されない例えば棒状の部材であり、いわゆるパスコアとして機能する。なお、第2コア部33bは、これを通る磁束MF1及びMF2によってトランス結合されたリアクトル30の漏れインダクタンスが生じるように配置されている。例えば、第2コア部33bは、本図で示したように、第1コア部33aの連結部位α1及びβ1の相互間を繋ぐように配置するとよい。
【0066】
なお、連結部位α1は、第1コア部33aから第2コア部33bに対して磁束MF1及びMF2が分流される部位であり、本図の例では、第1コア部33aの上側梁部側面がこれに相当している。一方、連結部位β1は、第2コア部33bから第1コア部33aに対して磁束MF1及びMF2が合流される部位であり、本図の例では、第1コア部33aの下側梁部側面がこれに相当している。
【0067】
先出の
図2Bで示したように、トランス結合されたリアクトル30には、互いに磁気結合された励磁インダクタンスLm1及びLm2のほか、第1コア部33aから第2コア部33bに分流された磁束に起因する漏れインダクタンスLs1及びLs2が生じる。
【0068】
これらの漏れインダクタンスLs1及びLs2は、平滑コンデンサ40と共にLCフィルタを形成するための平滑リアクトルとして利用することができる。従って、第1コア部33aと第2コア部33bとが別体であれば、第1コア部33aの物性及び第2コア部33bの物性や形状を適宜設計することにより、平滑リアクトルとしての特性を任意に調整することが可能となる。その結果、所望の漏れインダクタンスLs1及びLs2を有する小型のトランス結合されたリアクトル30を実現することができるので、交流電源装置1全体の小型化に貢献することが可能となる。
【0069】
このように、本実施形態のトランス結合されたリアクトル30は、第1コア部33aと第2コア部33bが別体として設けられていることを特徴の一つとする。ただし、第1コア部33aと第2コア部33bは、必ずしも異なる材料で形成されている必要はない。例えば、第1コア部33aと第2コア部33bがいずれも同一の材料で形成されている場合であっても、これらを別体として設けておけば、両者が一体成型されている場合と比べて第2コア部33bの形状や断面積(=第2コア部33bを貫く磁束の方向に対して垂直な断面の面積)などを変更しやすいので、平滑リアクトルとしての特性を任意に調整することができる。
【0070】
なお、磁脚部とパスコアが一体成型された従来のコア(いわゆるE型コア)を用いて、上記と同等の漏れインダクタンスを得ようとすると、パスコアに大きなギャップを設ける必要があるので、空気中への放出磁束が大きくなってしまう。
【0071】
一方、本実施形態のトランス結合されたリアクトル30であれば、第2コア部33bに必ずしもギャップを設ける必要がないので、空気中への放出磁束を大幅に抑えることができる。従って、トランス結合されたリアクトル30の周囲に設けられた制御回路素子の誤動作や回路パターンでの渦電流損失も低減することができるので、誤動作や電力損失の少ない交流電源装置1を実現することが可能となる。
【0072】
また、第1コア部33aについては、上記の漏れインダクタンス生成と切り離して設計することができる。従って、その設計自由度が向上するので、例えば、材質選択におけるコスト削減を実現することが可能になる。
【0073】
図10及び
図11に戻り、トランス結合されたリアクトル30の説明を続ける。本実施形態のトランス結合されたリアクトル30において、トランジスタブリッジ20を構成する2つのPWM制御用ブリッジを互いに1/2周期分の位相差で駆動した場合、漏れインダクタンスの生成を担う第2コア部33bは、これを通過する磁束の変化周波数fyがPWM制御用ブリッジの駆動周波数fx(例えば20kHz)よりも高い周波数(例えば40kHz(=2×fx))となるように配置されている。
【0074】
このような構成とすることにより、LCフィルタの形成に必要な漏れインダクタンスLs1及びLs2のインダクタンス値が小さくなる。具体的には、駆動周波数fxの2倍周波数の電流振動に起因する必要漏れインダクタンス値の低減、及び、それぞれの漏れインダクタンスに印加される電圧(入出力電圧の差分からリアクトル結合部30に掛かる電圧を引いた値)の低減に起因する必要漏れインダクタンスの低減によって、同じ出力電流を得るために必要なインダクタンス値を、単一のPWM制御用ブリッジ及び平滑リアクトルを使用した場合(コンデンサブリッジを使用する構成)と比較して、約1/2に低減できる。従って、第2コア部33bの断面積縮小による小型化及びコスト削減、並びに、入力コンデンサ11及び12及び平滑コンデンサ40の小型化などを実現することが可能となり、逆に、単一のPWM制御用ブリッジを使用した場合と同じコア断面積を使用すれば、約2倍の電流を許容することができる。クレストファクタの大きい交流電源装置1においては、上記した小型化の効果が特に大きいと言える。
【0075】
また、本実施形態のトランス結合されたリアクトル30では、第1巻線31による磁束MF1と、第2巻線32による磁束MF2とを足し合わせた合計磁束が第2コア部33bを貫く。すなわち、第2コア部33bには、第1コア部33aよりも高密度な磁束が結果的に発生する。これを鑑みると、第2コア部33bの飽和磁束密度は、第1コア部33aの飽和磁束密度以上であることが望ましい。このようなコア設計によれば、より小さい断面積の第2コア部33bを採用することができるので、トランス結合されたリアクトル30の小型化(延いては交流電源装置1の小型化)を実現することが可能となる。
【0076】
ただし、第1コア部33aから第2コア部33bに漏れる磁束の量が大き過ぎると、励磁インダクタンスLm1及びLm2が小さくなり、トランス結合されたリアクトル30を設けた意味がなくなる。そのため、第2コア部33bの比透磁率が大きい場合には、第2コア部33bに必要最小限(=空気中への放出磁束が許容される範囲内)のギャップを設けて、飽和磁束密度と比透磁率とのバランス調整を行えばよい。
【0077】
以上で説明したように、本実施形態のトランス結合されたリアクトル30であれば、クレストファクタの大きい出力に対して磁気飽和を抑制しつつ、広駆動範囲で連続動作するのに十分な大きさの漏れインダクタンスLs1及びLs2を持つ小型の平滑リアクトルを実現することができる。従って、小型・高効率で誤動作の少ない交流電源装置を提供することができる。
【0078】
また、本実施形態のトランス結合されたリアクトル30では、高周波磁界による損失に異方性を持つ材料を用いて第1コア部33aが形成されており、これに伴い第2コア部33bの形状や配置に工夫を凝らすとともに、磁気遮蔽部33cが設けられている。以下では、この点について詳述する。
【0079】
図12は、高周波磁界による損失に異方性を持つコア材料の一例を示す模式図である。本図で示した第1コア部33aは、磁性体a11(例えば、高電圧・大電力向きの鋼板材料)と絶縁体a12とを積層して成る薄帯部材a10を金型に何周も巻き付けて作製される。従って、第1コア部33aを断面視または側面視すると、その上下方向に磁性体a11と絶縁体a12が何層にも重なった状態となる。なお、実際にトランス結合されたリアクトル30を形成する際は、第1コア部33aを
図11中の上下方向に2つに分離してU字状に成型し、それを組み合わせて使用する。
【0080】
この第1コア部33aをA1方向又はA2方向(=断面または側面の法線方向)から見た場合には、磁性体a11の断面積が小さいので、高周波磁界による損失が小さくなる。一方、第1コア部33aをB方向(=上面の法線方向)から見た場合には、磁性体a11の断面積が大きいので、渦電流が流れやすく損失が大きくなる。このように、薄帯部材a10は、高周波磁界による損失に異方性を持つ材料(=A1方向及びA2方向の損失とB方向の損失が異なる材料)である。従って、これを用いて形成された第1コア部33aでは、これに生じる渦電流が磁束方向の依存性を持つことになる。
【0081】
図10及び
図11に戻り、トランス結合されたリアクトル30の説明を続ける。本実施形態のトランス結合されたリアクトル30において、第2コア部33bは、伸長部33b1と主胴体部33b2を持つ。伸長部33b1は、第1コア部33aの上側梁部と下側梁部について、それぞれの側面の少なくとも一部(=連結部位α1及びβ1に相当)を覆うように主胴体部33bから上下方向に張り出している。
【0082】
磁気遮蔽部33cは、上記の連結部位α1及びβ1において、第1コア部33aと第2コア部33bの相互間を通る磁束の経路を第1コア部33aの側面方向(=
図12のA2方向に相当)に制限するための部材である。見方を変えると、磁気遮蔽部33cは、
図13のA1方向とA2方向との間でその向きを変えようとする磁束については、これを遮蔽することなく通過させる一方、A1方向とB方向との間でその向きを変えようとする磁束については、これを遮蔽するための部材であるということもできる。なお、磁気遮蔽部33cは、本図で示すように、第1コア部33aと主胴体33b2との間に設ければよい。
【0083】
このような構成とすることにより、第1コア部33aから第2コア部33bに分流される磁束、並びに、第2コア部33bから第1コア部33aに合流される磁束は、いずれも磁気抵抗の変化しない経路(=
図12のA1方向からA2方向に至る経路、または、A2方向からA1方向に至る経路)を通ってその向きを変えることになる。従って、第1コア部33aを形成する材料として、渦電流による損失に異方性を持つ材料を用いた場合であっても渦電流の発生を抑制することができるので、局所的な発熱を最小限に抑えることが可能となる。なお、磁気遮蔽部33cとしては、銅板などを好適に用いることができる。
【0084】
また、主胴体部33b2は、伸長部33b1よりも大きい断面積(=第2コア部33bを貫く磁束に対して垂直な断面の面積)を持つように形成されている。より具体的に述べると、伸長部33b1と主胴体部33b2は、それぞれの外側面が面一となるように形成されており、主胴体部33b2は、第1コア部33aの空洞部を埋めるように、第1コア部33aの内側に向けて突出している。このような構成とすることにより、トランス結合されたリアクトル30のサイズアップを最小限に抑えつつ、第2コア部33bの断面積を増大することができるので、第2コア部33bでの磁気飽和を生じ難くなる。
【0085】
なお、本実施形態では、一対の第2コア部33bが第1コア部33aをその両側面方向から挟み込むように設けられている。ただし、必ずしも第2コア部33bを一対設ける必要はなく、少なくとも一方が設けられていれば上記の機能を発揮することが可能である。
【0086】
また、本実施形態では、一対の主胴体部33b2が空隙を隔てて対向しているが、空隙の大きさは不問である。また、そもそも、上記の空隙自体が必須の構成要素ではなく、双方の主胴体部33b2が互いに当接するようにそれぞれの厚さを調整しても構わない。
【0087】
また、本実施形態では、伸長部33b1が第1コア部33aの側面を上下方向に見て部分的に覆っている形状にはなっているが、全体を覆う形状になっていても構わない。
【0088】
なお、第1コア部33aの材質としては、ファインメット(登録商標)やNANOMET(登録商標)などのナノ結晶軟磁性材料を用いることが望ましく、第2コア部33bの材質としては、リカロイ(登録商標)などの磁性材料を用いることが望ましい。
【0089】
<トランス結合されたリアクトル(第2実施形態)>
図13は、トランス結合されたリアクトル30の第2実施形態を示す模式図であり、
図14は、トランス結合されたリアクトル30の縦断面図(
図13のY1−Y2断面方向から見た側面図)である。本実施形態のトランス結合されたリアクトル30において、コア33は、第1環状部材33dと、第2環状部材33eと、第3環状部材33fとを組み合わせて成る。なお、第1環状部材33d、第2環状部材33e、及び、第3環状部材33fは、いずれも、渦電流による損失に異方性を持つ同一の材料(例えば、
図12を参照)から成る。
【0090】
第1環状部材33dと第2環状部材33eは、互いの一部分同士が隣接するように配置されている。また、第3環状部材33fは、第1環状部材33dと第2環状部材33eの外周に沿って双方を取り囲むように配置されている。
【0091】
このようなコア33の作製手順としては、最初に、
図12の薄帯部材a10を金型に何周も巻き付けることにより、第1環状部材33dと第2環状部材33eをそれぞれ個別に作製し、これらを隣り合わせて並べた後、両者を捲芯として、
図12の薄帯部材a10をさらに何周も巻き付けることにより、第3環状部材33fを作製すればよい。なお、実際にトランス結合されたリアクトル30を形成する際は、コア部33を
図13中の上下方向に2つに分離してW字状に成型し、それを組み合わせて使用する。
【0092】
上記構成から成るコア33において、第3環状部材33fは、先述の第1コア部33aとして機能する。また、第1環状部材33dと第2環状部材33eは、先述の第2コア部33bとして機能する。
【0093】
なお、第1環状部材33dと第3環状部材33fの重畳部分には、第1巻線31が巻かれている。また、第2環状部材33eと第3環状部材33fの重畳部分には、第2巻線32が巻かれている。すなわち、第1コア部33aには、その内部に発生させる磁束を互いに打ち消す向きに第1巻線31と第2巻線32が巻かれている。また、第2コア部33bは、これを通る磁束によってトランス結合されたリアクトル30の漏れインダクタンスが生じるように配置されている。これらの点については、先述の第1実施形態(
図10)と同様である。
【0094】
ここで、第1環状部材33d及び第2環状部材33eのうち、第2コア部33bの両端部に相当する屈曲部位は、第1コア部33aから第2コア部33bに磁束が分流される連結部位α2、及び、第2コア部33bから第1コア部33aに磁束が合流される連結部位β2として理解することができる。
【0095】
上記の連結部位α2及びβ2において、第1コア部33aから第2コア部33bに分流される磁束、並びに、第2コア部33bから第1コア部33aに合流される磁束は、いずれも第1環状部材33d及び第2環状部材33eの屈曲方向に沿ってその向きを変えるだけであり、これが貫く方向の磁気抵抗(=磁性体の断面積)には何ら変化が生じない。
【0096】
図12に即して述べると、第1コア部33aと第2コア部33bを貫く磁束は、あくまで渦電流による損失の少ないA1方向に沿って進み、連結部位α2及びβ2では、第1環状部材33d及び第2環状部材33eの屈曲方向に沿ってA1方向自体がその向きを変える。従って、磁束の分流や合流が生じるときでも、渦電流による損失の大きいB方向の磁束が生じることはない。
【0097】
このように、本実施形態のトランス結合されたリアクトル30において、第1コア部33aと第2コア部33bは、それを通る磁束の方向に沿って渦電流による損失が変わらない(=損失が常に低い値に維持される)ように成型されている。従って、第1環状部材33d、第2環状部材33e、及び、第3環状部材33fを形成する材料(延いては、第1コア部33a及び第2コア部33bを形成する材料)として、渦電流による損失に異方性を持つ材料を用いた場合であっても、渦電流の発生を抑制することができるので、局所的な発熱を最小限に抑えることが可能となる。
【0098】
なお、漏れインダクタンスを調整する必要がある場合には、第1環状部材33dと第2環状部材33eの双方において、断面積を低減するか、もしくは、互いに対向する位置にギャップ部33d1及び33e1を形成し、第2コア部33bに適切なギャップを設けてやればよい。
【0099】
また、本実施形態のトランス結合されたリアクトル30において、コア33は、第3コア部33gをさらに有する。なお、第3コア部33gは、第1コア部33a及び第2コア部33b双方の側面の少なくとも一部を覆い、これを通る磁束によって第1コア部33a及び第2コア部33bに発生する磁束が互いに行き来できるように配置されている。
【0100】
図13に即してより具体的に述べると、第3コア部33gは、第1環状部材33dと第3環状部材33fの重畳部分、及び、第2環状部材33eと第3環状部材33fの重畳部分(例えば上側梁部及び下側梁部)において、それぞれの側面の少なくとも一部を覆うように接着剤などで貼付されている。
図13では第1環状部材33d用と、第2環状部材ようで第3コア部33gが分離されているが、ちょうど図中で両方の第3コア部33gを繋ぐ形、すなわち第1環状部材33d、第2環状部材33e及び第3環状部材33fの3つの少なくとも一部を覆うような構成でもよい。
【0101】
なお、第1環状部材33d、第2環状部材33e及び第3環状部材33fの材質としてはファインメット(登録商標)やNANOMET(登録商標)などのナノ結晶軟磁性材料を用いることが望ましく、第3コア部33gの材質としては、フェライトなどの磁性材料を用いることが望ましい。
【0102】
先出の
図9でも示したように、本構成例の交流電源装置1では、トランス結合されたリアクトル30における負担(コア損)の大きい領域が明確に分かれており、第1コア部33aと第2コア部33bのそれぞれでコア損を生じるタイミングがずれている。
【0103】
より具体的に述べると、DUTY=0.5(Vout=0)では、トランス結合されたリアクトル30の励磁成分(
図9の大破線B3)が最大となるので、基本的には、第1コア部33a(=第3環状部材33f)にコア損が生じて発熱する。一方、DUTY=0または1(Vout=±E)では、トランス結合されたリアクトル30の漏れ成分(
図9の実線B1)が最大となるので、基本的には、第2コア部33b(=第1環状部材33dと第2環状部材33e)にコア損が生じて発熱する。
【0104】
特に、第1環状部材33d、第2環状部材33e、及び、第3環状部材33fをそれぞれ形成する磁性体a11が鋼板材料である場合、各部材を通る磁束が明確に分離されて、第1コア部33aと第2コア部33bそれぞれの内部に磁束が閉じ込められる、という特徴がある。
【0105】
そこで、第3コア部33gを設けて第1コア部33aと第2コア部33bとの相互間で磁束を行き来させることにより、一方の負担(コア損)が少ないときには、他方から磁束の一部を受け取って、実質的には磁束を貫くコア断面積を増大させることによってその負担(コア損)を分担することができる。このような負担(コア損)のバランス化により、トータル的なコア損を低減し、磁気飽和の抑制を実現することが可能となる。
【0106】
<トランジスタブリッジ制御>
なお、これまでに説明してきた交流電源装置1において、出力電力が小さい領域では、導通損失がほぼ無くなり、スイッチング損失が主となる。そのため、出力電力が小さい領域では、トランジスタブリッジ20の駆動周波数fxを引き下げることにより、スイッチング損失を低減することが望ましい。
【0107】
その際、出力電力が所定の閾値よりも低くなったときには、トランジスタブリッジ20を構成する2つのPWM制御用ブリッジのうち、いずれか一方の動作を停止するとよい。このような停止制御を行うことにより、トランス結合されたリアクトル30において、通常時には励磁インダクタンスとして機能する部分も平滑リアクトルとして活用することができるので、スイッチング損失を低減するために、トランジスタブリッジ20の駆動周波数fxを引き下げても、磁気飽和を抑制することが可能になる。
【0108】
<オンデューティ制限>
また、交流電源装置1は、交流出力電圧Voutと所定の閾値(±Vlimit)との比較結果などに応じて、スイッチ素子21〜24のオンデューティDUTYに制限が掛けられる構成にするとよい。
図15に即してより具体的に述べると、交流出力電圧Voutの出力波形において、特に、交流出力電圧Voutが最大値または最小値(±E)に近い領域(|Vout|>Vlimit)では、オンデューティDUTYの上限値または下限値を制限するとよい。このようなオンデューティ制限を行うことにより、交流出力波形の歪みや中性点電圧VXの脈動が生じるものの、これと引き換えにスイッチング損失を低減させることができるので、交流電源装置1全体の効率を向上させることが可能となる。
【0109】
<ワイドバンドギャップ半導体(SiC、GaN)の適用>
また、トランジスタブリッジ20を形成するスイッチ素子21〜24については、少なくともその一つがワイドバンドギャップ半導体(SiC系半導体またはGaN系半導体など)から成ることが望ましい。
【0110】
このように、SiC系半導体(MOSFETなど)またはGaN系半導体(高電子移動度トランジスタやMOSFETなど)から成るスイッチ素子であれば、Si系半導体から成るスイッチ素子と比べて、その出力容量や帰還容量といった寄生容量を低減することができるので、高周波駆動時におけるスイッチング損失の増大を抑制することができる。
【0111】
また、トランス結合されたリアクトル30については、先の実施形態を採用することにより、電流が大きく(すなわち電力が大きく)、通常のチョークコイルを使用した場合には磁気飽和が生じやすい場合においても、これを小型に作り込むことができる。従って、小型・高効率で大電力の交流電源装置1を実現することが可能となる。
【0112】
また、上記のスイッチ素子としてSiC−MOSFETを用いれば、低オン抵抗と縦型構造による高い熱伝導率が得られる。従って、大電流・大電力の交流電源装置1を実現することが可能となる。
【0113】
また、SiC−MOSFETは、ボディダイオードの逆回復電流が小さく、かつ、寄生容量が小さいので、電流の実効値を低く抑えることができ、スイッチ素子やパターンの導通損失、並びに、トランス結合されたリアクトル30の銅損を低減することが可能となる。
【0114】
このように、ワイドバンドギャップ半導体から成るスイッチ素子は、高耐圧でありながらも、低オン抵抗・低スイッチング損失であり、かつ、高温時にもその傾向が比較的保持される。そのため、これまでに説明してきたインバータ方式のように、入力電圧及びスイッチ素子への直接印加電圧が高い場合でも、十分に熱的に許容される動作が可能になる。
【0115】
<その他の変形例>
なお、本明細書中に開示されている種々の技術的特徴は、上記実施形態のほか、その技術的創作の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。すなわち、上記実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきであり、本発明の技術的範囲は、上記実施形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内に属する全ての変更が含まれると理解されるべきである。