(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6937502
(24)【登録日】2021年9月2日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】多孔質複合フィルムおよび多孔質複合フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/42 20060101AFI20210909BHJP
【FI】
C08J9/42CEW
C08J9/42CFG
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-204377(P2016-204377)
(22)【出願日】2016年10月18日
(65)【公開番号】特開2018-65902(P2018-65902A)
(43)【公開日】2018年4月26日
【審査請求日】2019年10月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山田 宗紀
(72)【発明者】
【氏名】柴田 健太
(72)【発明者】
【氏名】繁田 朗
(72)【発明者】
【氏名】越後 良彰
【審査官】
大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−327633(JP,A)
【文献】
国際公開第2016/040632(WO,A1)
【文献】
国際公開第2013/084368(WO,A1)
【文献】
特開2014−231570(JP,A)
【文献】
特表2007−523247(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第102275341(CN,A)
【文献】
特開2013−040250(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00− 9/42
B29C 44/00−44/60;67/20
H01M 2/14− 2/18
C08J 7/04− 7/06
B01D 53/22;61/00−71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みが10〜200μm、平均気孔径が0.05〜5μm、通気度がJIS P−8117に基づくガーレ値として1〜200秒の多孔質含フッ素ポリマフィルム中の気孔の一部に非熱可塑性ポリイミドが充填された多孔質複合フィルムであって、非熱可塑性ポリイミド含有量が、多孔質複合フィルム質量に対し、15〜30質量%であり、JIS P−8117に基づくガーレ値が、3000秒以下であることを特徴とする多孔質複合フィルム。
【請求項2】
アミド系溶媒とエーテル系溶媒とを含有する非熱可塑性ポリイミド前駆体溶液を、厚みが10〜200μm、平均気孔径が0.05〜5μm、通気度がJIS P−8117に基づくガーレ値として1〜200秒の多孔質含フッ素フィルムに含浸後、乾燥、熱硬化する工程を含む請求項1記載の多孔質複合フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質複合フィルムおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
含フッ素ポリマの中で、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる多孔質フィルムは、その優れた耐熱性と高い気孔率を利用して、電子材料、光学材料、リチウム二次電池用セパレータ、フィルタ、分離膜、電線被覆等の産業用材料、医療材料の素材、液体用フィルタ、気体用フィルタ等の分野で利用されている。 多孔質PTFEフィルムを製造する方法としては、延伸による多孔質化を利用した方法が、広く実用化されている。 この方法により得られる多孔質PTFEフィルムは、力学的強度には優れるものの、高温での寸法安定性に乏しい。この寸法安定性を向上させる方法として、特許文献1、2には、ポリイミド(PI)、ポリウレタン等の耐熱性高分子溶液を、多孔質PTFEフィルムに含浸、乾燥して、PTFEセル表面の一部または全部を耐熱性高分子で被覆することにより、複合化する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国公開特許20160075914号
【特許文献2】米国公開特許20160075915号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記文献で開示された多孔質複合フィルムでも、高温、例えば300℃程度の高温に晒された場合の寸法変化率が1%を超え、寸法安定性としては、充分なものではなかった。
【0005】
そこで本発明は、上記課題を解決するものであり、通気性が良好であり、かつ300℃以上の高温での寸法安定性に優れた耐熱性の多孔質複合フィルムおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、多孔質複合フィルムの構成を特定のものとした上で、多孔質複合フィルムの通気性を特定することで、上記課題が解決されることを見出し、本発明の完成に至った。
【0007】
本発明は下記を趣旨とするものである。
<1> 含フッ素ポリマと非熱可塑性PIとからなる多孔質複合フィルムであって、非熱可塑性PI含有量が、多孔質複合フィルム質量に対し、15〜30質量%であり、JIS P−8117に基づくガーレ値が、3000秒以下であることを特徴とする多孔質複合フィルム。
<2> アミド系溶媒とエーテル系溶媒とを含有する非熱可塑性PI前駆体溶液を、多孔質含フッ素ポリマフィルムに含浸後、乾燥、熱硬化する工程を含む請求項1記載の多孔質複合フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の多孔質複合フィルムは、高温での寸法安定性に優れ、高い通気性を有するので、電子材料、光学材料、リチウム二次電池用セパレータ、フィルタ、分離膜、電線被覆等の産業用材料、医療材料の素材、液体用フィルタ、気体用フィルタ等の分野で好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の多孔質複合フィルムは、含フッ素ポリマと非熱可塑性PIとからなり、多孔質含フッ素ポリマフィルム中の気孔の一部に非熱可塑性PIが充填されているものである。ここで用いられる多孔質含フッ素ポリマフィルムは、PTFE、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)等の含フッ素ポリマからなるものであり、耐薬品性、耐熱性の点から、PTFE製であることが好ましい。多孔質PTFEフィルムは、PTFE樹脂から延伸法や湿式抄造法等で製造され、市販品を用いることができる。市販品の具体例としては、住友電工ファインケミカル社製「ポアフロン」、日東電工社製「TEMISH」、日本ゴア社製「ゴアマイクロフィルトレーションメディア」、巴川製紙社製「トミーファイレック」等を挙げることができる。これらの多孔質PTFEフィルムは、PIに対する密着性を向上させるために、シランカップリング剤処理、プラズマ処理、界面活性剤等による親水化処理等、公知の表面処理がなされていることが好ましい。
【0010】
多孔質含フッ素ポリマフィルムは、厚みが10〜200μm、平均気孔径が0.05〜5μm、通気度が、JIS P−8117に基づくガーレ値として、1〜200秒のものを用いることが好ましい。 これらの多孔質含フッ素ポリマフィルムは、PIに対する密着性を向上させるために、シランカップリング剤処理、プラズマ処理等による公知の表面処理がなされていることが好ましい。
【0011】
多孔質複合フィルムを構成する非熱可塑性PIとは、イミド環を有する耐熱性高分子であり、350℃未満の温度で射出成形、押出成形等の熱成形性を示さないPIをいう。非熱可塑性PIは、通常、DSCによるガラス転移温度を示さないが、ガラス転移温度を示す場合であっても、250℃以上である。 このような、非熱可塑性PIを、多孔質複合フィルム質量に対し、15〜30質量%、好ましくは、16〜25質量%充填して複合化することにより、良好な通気性と、高温における良好な寸法安定性を同時に確保した多孔質複合フィルムとすることができる。 ここで、多孔質複合フィルムの通気度は、JIS P−8117に基づくガーレ値として、3000秒以下であり、1000秒以下とすることが好ましく、500秒以下とすることがより好ましい。ガーレ値の下限に制限はないが、通常10秒以上であり、50秒以上とすることが好ましく、100秒以上とすることがより好ましい。
【0012】
本発明の多孔質複合フィルムは、例えば、非熱可塑性PIの前駆体であるポリアミック酸(以下、「PAA」と略記することがある)溶液を、多孔質含フッ素ポリマフィルムに含浸後、乾燥、熱硬化することにより得ることができる。このようにすることにより、多孔質含フッ素ポリマフィルムを構成する含フッ素ポリマセル表面の一部または全部を非熱可塑性PIで被覆することができる。この非熱可塑性PIは、多孔質であっても、非多孔質であってもよいが、寸法安定性向上の観点から非多孔質であることが好ましい。
【0013】
PAAは、略等モルのテトラカルボン酸二無水物(TA)とジアミン(DA)との反応生成物である。
【0014】
TAの具体例としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸無水物、および3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、PMDA、BPDAが好ましい。
【0015】
DAの具体例としては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(DADE)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、p−フェニレンジアミン(PDA)、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルメタン3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、DADE、BAPP、PDAが好ましい。
【0016】
PAA溶液の溶媒としては、溶質であるPAAを溶解する良溶媒と、PAAには貧溶媒となる溶媒とを混合した混合溶媒を用いることが好ましい。ここで、良溶媒とは、25℃において、PAAに対する溶解度が1質量%以上の溶媒をいい、貧溶媒とは、25℃において、PAAに対する溶解度が1質量%未満の溶媒をいう。
【0017】
良溶媒としては、PAAに対する溶解性が良好なアミド系溶媒が好ましく用いられる。アミド系溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
貧溶媒としては、MEK等のケトン系溶媒よりも、多孔質含フッ素ポリマフィルムに対する浸透性が良好なエーテル系溶媒が好ましく用いられる。エーテル系溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、ジメトキシエタン(DME)、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、THF、DMEが好ましい。これらのエーテル系溶媒を用いることにより、多孔質含フッ素ポリマフィルムに対するPAA溶液の良好な含浸性が得られ、均一な多孔質複合フィルムを得ることができる。
【0019】
混合溶媒中における貧溶媒の配合量としては、混合溶媒質量に対し、50〜95質量%とすることが好ましく、60〜90質量%とすることがより好ましい。このようにすることにより、PAA溶液の多孔質含フッ素ポリマフィルムに対する良好な含浸性を確保することができる。
【0020】
PAA溶液は、例えば、前記混合溶媒中、略等モルのTAとDAとを、100℃以下の温度で反応させることにより得ることができる。 PAA溶液は、良溶媒中で重合反応して溶液を得た後、これに貧溶媒を加える方法や、貧溶媒中で重合反応して懸濁液を得た後、これに良溶媒を加える方法で得ることもできる。
【0021】
PAA溶液におけるPAAの濃度は、3〜30質量%が好ましく、5〜15質量%がより好ましい。
【0022】
PAA溶液の30℃における粘度は0.01〜100Pa・sの範囲が好ましく、0.1〜50Pa・sがより好ましい。
【0023】
PAA溶液には、必要に応じて、各種界面活性剤やシランカップリング剤のような公知の添加物を、本発明の効果を損なわない範囲で添加してもよい。また、必要に応じて、PAA溶液に、PAA以外の他の高分子を、本発明の効果を損なわない範囲で添加してもよい。
【0024】
多孔質複合フィルムは、例えば、多孔質含フッ素ポリマフィルムに、PAA溶液を含浸し、これを100〜170℃で乾燥後、窒素ガス雰囲気下、200〜350℃で熱処理を行うことにより得ることができる。
【0025】
多孔質含フッ素ポリマフィルムへのPI溶液の含浸は、多孔質含フッ素ポリマフィルムの表面にPI溶液を塗布または浸漬することにより行うことができる。塗布機としては、ダイコーター、リップコーター、グラビアコーター、バーコーター、ドクターブレードコーター、コンマコーター、リバースロールコーター、バーリバースロールコーター等を用いることができる。また、浸漬法を用いる場合は、多孔質含フッ素ポリマフィルムをPI溶液に浸漬後、ロールプレス、マングル等を用いて、表面に付着した剰余のPI溶液を除去すればよい。
【実施例】
【0026】
以下に、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。なお本発明は実施例により限定されるものではない。
【0027】
<実施例1>
ガラス製反応容器に、窒素雰囲気下、DADE:0.96モル、DMAcおよびDMEからなる混合溶媒(DMAc/DMEの混合比率は質量比で20/80とした)を投入して攪拌し、DADEを溶解した。この溶液をジャケットで30℃以下に冷却しながら、PMDA:1.00モルを徐々に加えた後、50℃で5時間重合反応させ、固形分濃度が6質量%のPAA溶液を得た。この溶液を、プラズマ処理したPTFEフィルム(住友電工ファインポリマー社製「ポアフロン」 厚み:30μm ガーレ値:23秒)の表面に塗布して含浸した。 しかる後、このフィルムの周囲を金属製フレームで固定して、130℃で10分、150℃で20分乾燥後、窒素ガス雰囲気下、300℃で60分処理して、熱硬化することによりPAAを非熱可塑性PIに転換し、多孔質複合フィルム(C−1)を得た。C−1の非熱可塑性PI含有量は、C−1質量に対し、16.8質量%であった。C−1のガーレ値をJIS P−8117に基づき測定したところ、260秒であった。 また、C−1を5cm角に切り出し、これを300℃の熱板上に30秒置くことにより、寸法変化率(縦および横方向の収縮率の平均値)を測定した所、1%以下であった。
【0028】
<実施例2>
「PMDA:1.00モル」を「BPDA:1.00モル」、「DADE:0.96モル」を「DADE:0.20モルおよびPDA:0.76モルの混合物」としたこと以外は、実施例1と同様に行い、非熱可塑性PI含有量が、21.5質量%の多孔質複合フィルム(C−2)を得た。実施例1と同様にして、C−2のガ−レ値および300℃での寸法変化率を測定した所、ガ−レ値は、570秒、寸法変化率は、1%以下であった。
【0029】
<比較例1>
非熱可塑性PI含有量を、13.5質量%としたこと以外は、実施例1と同様に行い、多孔質複合フィルム(R−1)を得た。実施例1と同様にして、R−1のガ−レ値および300℃での寸法変化率を測定した所、ガ−レ値は、210秒であったが、寸法変化率は、1%を超えていた。
【0030】
<比較例2>
非熱可塑性PI含有量を、11.6質量%としたこと以外は、実施例1と同様に行い、多孔質複合フィルム(R−2)を得た。実施例1と同様にして、R−2のガ−レ値および300℃での寸法変化率を測定した所、ガ−レ値は、150秒であったが、寸法変化率は、1%を超えていた。
【0031】
<比較例3>
非熱可塑性PI含有量を、33.5質量%としたこと以外は、実施例1と同様に行い、多孔質複合フィルム(R−3)を得た。実施例1と同様にして、R−3のガ−レ値および300℃での寸法変化率を測定した所、寸法変化率は、1%以下であったが、ガーレ値は、3000秒を超えていた。
【0032】
実施例で示したように、非熱可塑性PIの含有量を所定範囲とした本発明の多孔質複合フィルムは、優れた耐熱性、良好な通気性に加え、良好な寸法安定性を有していることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の多孔質複合フィルムは、電子材料、光学材料、リチウム二次電池用セパレータ、フィルタ、分離膜、電線被覆等の産業用材料、医療材料の素材、液体用フィルタ、気体用フィルタ等の分野で好適に用いることができる。