(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6937600
(24)【登録日】2021年9月2日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】ドローン検出システム及びドローン検出方法
(51)【国際特許分類】
G01S 13/58 20060101AFI20210909BHJP
G01S 13/87 20060101ALI20210909BHJP
G01S 13/88 20060101ALI20210909BHJP
B64C 27/08 20060101ALI20210909BHJP
B64C 39/02 20060101ALI20210909BHJP
【FI】
G01S13/58 210
G01S13/87
G01S13/88
B64C27/08
B64C39/02
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-76626(P2017-76626)
(22)【出願日】2017年4月7日
(65)【公開番号】特開2018-179634(P2018-179634A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年2月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000115636
【氏名又は名称】リオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112472
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100202223
【弁理士】
【氏名又は名称】軸見 可奈子
(72)【発明者】
【氏名】青山 秀次
(72)【発明者】
【氏名】塩見 格一
【審査官】
藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−215843(JP,A)
【文献】
特開2017−067756(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2017/0059692(US,A1)
【文献】
佐々木 理志ら,「24GHz帯小型マルチモードセンサモジュールNJR4233Dを用いたドローン検知の検討」,電子情報通信学会技術研究報告,一般社団法人電子情報通信学会,2016年10月13日,Vol.116, No.252,pp.41-45
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00− 7/42
G01S 13/00−13/95
B64C 27/08
B64C 39/02
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CSDB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロペラにて飛行しているドローンを検出するドローン検出システムであって、
送波装置から間欠的に送波される探索波の反射波を含む周波数帯の波を受信波として受波する受波装置と、
前記受信波中に、前記探索波の周波数に対して上下にドップラーシフトした第1と第2の周波数の反射波が含まれているか否かを判別する判別部と、
前記受信波を、予め定められた一定期間毎、サンプルホールドして前記判別部に取り込むサンプルホールド部と、を有するドローン検出システム。
【請求項2】
前記送波装置としてのレーダー送信機から間欠的に送波されるパルス波を構成する搬送波を、前記探索波として利用する請求項1に記載のドローン検出システム。
【請求項3】
プロペラにて飛行しているドローンを検出するドローン検出システムであって、
探索波を送波する複数の送波装置と、
前記複数の送波装置から送波される探索波の反射波を含む周波数帯の波を受信波として受波する受波装置と、
前記受信波中に、前記探索波の周波数に対して上下にドップラーシフトした第1と第2の周波数の反射波が含まれているか否かを判別する判別部と、
前記複数の送波装置が互いに同期した前記探索波を送波するように制御する同期制御部とを有するドローン検出システム。
【請求項4】
プロペラにて飛行しているドローンを検出するドローン検出システムであって、
送波装置から送波される探索波の反射波を含む周波数帯の波を受信波として受波する受波装置と、
前記受信波中に、前記探索波の周波数に対して上下にドップラーシフトした第1と第2の周波数の反射波が含まれているか否かを判別する判別部と、
前記受信波の周波数スペクトルを演算するスペクトル演算部と、を有し、
前記判別部は、前記周波数スペクトルに、予め定められた基準値以上のスペクトル強度を有しかつ前記探索波の周波数より上側と下側とに予め定められた許容差内で同一のシフト量だけシフトした2つの周波数の波を、前記第1と第2の周波数の反射波であると判断するドローン検出システム。
【請求項5】
前記探索波と同じ周波数のローカル波と前記受信波とを混合するイメージリジェクションミクサを有し、前記探索波より高周波側の受信波に基づく中間波と、前記探索波より低周波側の受信波に基づく中間波とに分けて前記スペクトル演算部に付与する信号処理部を備える請求項4に記載のドローン検出システム。
【請求項6】
前記ドップラーシフトによる周波数のシフト量より大きく前記探索波の周波数からシフトしたローカル波と前記受信波とを混合するミクサを有し、前記第1と第2の周波数の反射波を併せて含み得る中間波を前記スペクトル演算部に付与する信号処理部を備える請求項4に記載のドローン検出システム。
【請求項7】
前記受信波又は前記ローカル波の位相を変更する位相調整器と、
前記位相の変化に対して前記中間波のビートの変化が最大になる位相又はその近傍の位相をスキャンして求め、その求めた位相に前記受信波又は前記ローカル波の位相が固定されるように前記位相調整器を制御する位相制御部とを備える請求項5又は6に記載のドローン検出システム。
【請求項8】
ドローン無しの状態で予め受波した前記受信波の周波数スペクトルをノイズスペクトルとして記憶して、前記受信波の周波数スペクトルから前記ノイズスペクトルを差し引くノイズ除去手段を備える請求項4乃至7の何れか1の請求項に記載のドローン検出システム。
【請求項9】
プロペラにて飛行しているドローンを検出するドローン検出方法であって、
複数の送波装置を離間させて配置しかつ、それら送波装置から互いに同期した探索波を送波し、
前記複数の送波装置から送波される探索波の反射波に、前記探索波の周波数に対して上下にドップラーシフトした第1と第2の周波数の反射波が含まれているか否かに基づいて前記ドローンの有無を判別するドローン検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロペラにて飛行しているドローンを検出するドローン検出システム及びドローン検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プロペラで飛行する小型のドローンが急速に普及し、それに伴い、条例や政令等によりドローンの飛行禁止エリアが多く設けられてきている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、ドローンは、飛行機やヘリコプター等に比べて小型であるため、レーダにて正確に検出ことができず、飛行禁止エリアにドローンが進入したか否かを監視することが困難であった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、飛行中のドローンを正確に検出可能なドローン検出システム及びドローン検出方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明は、プロペラにて飛行しているドローンを検出するドローン検出システムであって、送波装置から
間欠的に送波される探索波の反射波を含む周波数帯の波を受信波として受波する受波装置と、前記受信波中に、前記探索波の周波数に対して上下にドップラーシフトした第1と第2の周波数の反射波が含まれているか否かを判別する判別部と、
前記受信波を、予め定められた一定期間毎、サンプルホールドして前記判別部に取り込むサンプルホールド部と、を有するドローン検出システムである。
請求項2の発明は、前記送波装置としてのレーダー送信機から間欠的に送波されるパルス波を構成する搬送波を、前記探索波として利用する請求項1に記載のドローン検出システムである。
【0007】
請求項3の発明は、プロペラにて飛行しているドローンを検出するドローン検出システムであって
、探索波を送波する複数の送波装置と、前記複数の送波装置から送波される探索波の反射波を含む周波数帯の波を受信波として受波する受波装置と、前記受信波中に、前記探索波の周波数に対して上下にドップラーシフトした第1と第2の周波数の反射波が含まれているか否かを判別する判別部と、前記複数の送波装置が互いに同期した前記探索波を送波するように制御する同期制御部とを有するドローン検出システムである。
【0010】
請求項
4の発明は、
プロペラにて飛行しているドローンを検出するドローン検出システムであって、送波装置から送波される探索波の反射波を含む周波数帯の波を受信波として受波する受波装置と、前記受信波中に、前記探索波の周波数に対して上下にドップラーシフトした第1と第2の周波数の反射波が含まれているか否かを判別する判別部と、前記受信波の周波数スペクトルを演算するスペクトル演算部
と、有し、前記判別部は、前記周波数スペクトルに、予め定められた基準値以上のスペクトル強度を有しかつ前記探索波の周波数より上側と下側とに予め定められた許容差内で同一のシフト量だけシフトした2つの周波数の波を、前記第1と第2の周波数の反射波であると判断す
るドローン検出システムである。
【0011】
請求項
5の発明は、前記探索波と同じ周波数のローカル波と前記受信波とを混合するイメージリジェクションミクサを有し、前記探索波より高周波側の受信波に基づく中間波と、前記探索波より低周波側の受信波に基づく中間波とに分けて前記スペクトル演算部に付与する信号処理部を備える請求項
4に記載のドローン検出システムである。
【0012】
請求項
6の発明は、前記ドップラーシフトによる周波数のシフト量より大きく前記探索波の周波数からシフトしたローカル波と前記受信波とを混合するミクサを有し、前記第1と第2の周波数の反射波を併せて含み得る中間波を前記スペクトル演算部に付与する信号処理部を備える請求項
4に記載のドローン検出システムである。
【0013】
請求項
7の発明は、前記受信波又は前記ローカル波の位相を変更する位相調整器と、前記位相の変化に対して前記中間波のビートの変化が最大になる位相又はその近傍の位相をスキャンして求め、その求めた位相に前記受信波又は前記ローカル波の位相が固定されるように前記位相調整器を制御する位相制御部とを備える請求項
5又は
6に記載のドローン検出システムである。
【0014】
請求項
8の発明は、ドローン無しの状態で予め受波した前記受信波の周波数スペクトルをノイズスペクトルとして記憶して、前記受信波の周波数スペクトルから前記ノイズスペクトルを差し引くノイズ除去手段を備える請求項
4乃至
7の何れか1の請求項に記載のドローン検出システムである。
【0015】
請求項
9の発明は、プロペラにて飛行しているドローンを検出するドローン検出方法であって、
複数の送波装置を離間させて配置しかつ、それら送波装置から互いに同期した探索波を送波し、前記複数の送波装置から送波される探索波の反射波に、前記探索波の周波数に対して上下にドップラーシフトした第1と第2の周波数の反射波が含まれているか否かに基づいて前記ドローンの有無を判別するドローン検出方法である。
【発明の効果】
【0017】
送波装置から送波された探索波が、ドローンの回転中のプロペラで反射して受波装置に受波されると、受波装置に近づく側に回転移動中のプロペラで反射した反射波は、探索波より周波数が高くなる側にドップラーシフトし、受波装置から遠ざかる側に回転移動中のプロペラで反射した反射波は、探索波より周波数が低くなる側にドップラーシフトする。これに対し、請求項
1,3,4及び9のドローン検出システム及びドローン検出方法では、受信波中に、探索波の周波数に対して上下にドップラーシフトした第1と第2の周波数の反射波が含まれているか否かに基づいてドローンの存否を判断するので、ドローンとそれ以外のものが明確に区別され、ドローンを正確に検出することができる。
【0018】
なお、上記第1と第2の周波数の反射波の有無は、受信波の波高の変化から判断してもよいし、請求項
4のドローン検出システムのように、受信波の周波数スペクトルを求めてスペクトル強度で判断してもよい。
【0019】
請求項
3及び請求項
9の発明のように、複数の送波装置から送波される探索波を同期させることで、探索波同士の干渉が防がれ、任意の送波装置からの探索波を利用してドローンを検出することができる。これにより、広範囲でドローンの検出が可能になる。
【0020】
探索波は、送波装置から間欠的に送波されるものであってもよい。ここで、受信波全体に対して探索波の受波期間が極めて短い場合、判別部において、探索波の周波数に対して上下にドップラーシフトした第1と第2の周波数の反射波を受信波全体から検出することが困難になる。これに対し、請求項
1の構成のように、受信波を、予め定められた一定期間毎、サンプルホールドして判別部に取り込むサンプルホールド部を備えれば、そのような問題が解消される。なお、ドローン検出システムに探索波を間欠的に出力する送波装置を備えた構成としてもよいし、例えば、レーダー送信機から間欠的に送波されるパルス波を構成する搬送波を探索波として利用してもよい(請求項
2の発明)。
【0021】
請求項
8のドローン検出システムでは、受信波の周波数スペクトルからハムノイズの成分を抑えることができ、ドローンの検出精度が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るドローン検出システムのブロック図
【
図2】(A)ハムノイズの周波数スペクトル,(B)ハムノイズと反射波の周波数スペクトル,(C)ハムノイズと反射波の周波数スペクトル
【
図3】(A)高周波側の中間波の周波数スペクトル,(B)低周波側の中間波の周波数スペクトル
【
図5】第2実施形態のドローン検出システムの概念図
【
図6】第3実施形態のドローン検出システムの概念図
【
図8】第4実施形態のドローン検出システムのブロック図
【発明を実施するための形態】
【0023】
[第1実施形態]
以下、本発明の一実施形態を
図1〜
図4に基づいて説明する。
図1には、本実施形態に係るドローン検出システム10と、その検出対象であるドローン91の一例とが示されている。このドローン91は、例えば、広く普及しているタイプのものであって、水平旋回する直径15〜25[cm]のプロペラ90を4つ以上有する。そして、例えば、プロペラ90を1500〜2000[rpm]で回転させて、最高速度50[km/h]で移動することができる。
【0024】
ドローン検出システム10は、例えば、送受波兼用のホーン型のアンテナ15を備える。アンテナ15には、アンプ12、分配器13、サーキュレータ14を介して発信器11が接続されている。発信器11は、例えば、VCXOであって、マイクロコンピュータ22にて制御されて10〜25[GHz]の一定周波数(例えば、10[GHz])の交流信号を連続して出力する。それがアンプ12で増幅され、分配器13を通り、さらに、サーキュレータ14の第1ポートから第2ポートを通ってアンテナ15に付与される。これにより、アンテナ15から一定周波数(例えば、10[GHz])のマイクロ波(電磁波)が探索波として送波される。そして、その探索波の反射波を含む周波数帯の波が受信波としてアンテナ15に受波されて、サーキュレータ14の第2ポートから第3ポートを通り、アンプ18で増幅され、さらに、位相調整器19を介してイメージリジェクションミクサ21に取り込まれる。
【0025】
ここで、飛行中のドローン91で探索波が反射すると、
図4に示すようにプロペラ90のうちアンテナ15に近づく側に回転移動中の部位に反射することで探索波より高周波側にドップラーシフトした反射波(
図4の10[GHz]+fの反射波)と、プロペラ90のうちアンテナ15から遠ざかる側に回転移動中の部位に反射することで探索波より低周波側にドップラーシフトした反射波(
図4の10[GHz]−fの反射波)との両方を含む受信波がイメージリジェクションミクサ21に取り込まれる。
【0026】
イメージリジェクションミクサ21は、発信器11が出力する一定周波数(例えば、10[GHz])の交流波を分配器13及びアンプ17を通してローカル波として取り込み、90度位相が異なる2つのローカル波に2分配してそれぞれ受信波と混合し、中間波W1と中間波W2とを生成する。具体的には、イメージリジェクションミクサ21は、受信波を同相に2分配する第1分配器23と、ローカル波を90度の位相をずらして2分配する第2分配器24と、第1及び第2の分配器23,24で分配された一方の受信波と一方のローカル波とを混合して中間波W1を生成する第1ミクサ25と、第1及び第2の分配器23,24で分配された他方の受信波と他方のローカル波とを混合して中間波W2を生成する第2ミクサ26とを有する。そして、中間波W1,W2がA/Dコンバータ27を通してマイクロコンピュータ22に取り込まれる。
【0027】
図1には、マイクロコンピュータ22における信号処理がブロック図にして示されている。即ち、マイクロコンピュータ22は、所定のプログラムを実行することで、中間波W1の位相を90度ずらす90度移相器29と、その90度位相をずらされた中間波W1と中間波W2との和を演算する加算器31と差を演算する減算器32として機能する。
【0028】
ここで、本実施形態のドローン検出システム10では、上述の如く、受信波を中間波W1,W2にダウンコンバージョンするために、探索波と同じ周波数のローカル波を使用するので、
図4に示すように、探索波より高周波側の受信波の中間波(以下、単に「上側中間波Wu」という)と、探索波より低周波側の受信波の中間波(以下、単に「下側中間波Wd」という)と重なり合う。即ち、上側中間波Wu及び下側中間波Wdの一方を希望波とすると他方が一方のイメージ波(阻害波)になる。
【0029】
これに対し、本実施形態のドローン検出システム10では上述の如く、加算器31により中間波W1,W2の和を演算することで、上側中間波Wuをイメージ波として抑えて下側中間波Wdを希望波として抽出することができると共に、減算器32により中間波W1,W2の差を演算することで下側中間波Wdをイメージ波として抑え、上側中間波Wuを希望波として抽出することができる。
【0030】
また、マイクロコンピュータ22は、所定のプログラムを実行することでFFT40、ハムノイズ除去部41、ドローン判別部42(本発明に係る「判別部」に相当する)として機能する。そして、FFT40(本発明に係る「スペクトル演算部」に相当する)にて、下側中間波Wd及び上側中間波Wuの周波数スペクトルをそれぞれ求める。ここで、
図2(A)にはドローン91が存在しない場合の上側中間波Wuの周波数スペクトルが示され、
図2(B)にはドローン91が存在する場合と存在しない場合のそれぞれの上側中間波Wuの周波数スペクトルが重ねられた状態で示されている。また、
図2(C)にはドローン91が存在する場合と存在しない場合のそれぞれの下側中間波Wdの周波数スペクトルが重ねられた状態で示されている。この例のように、上側中間波Wuの周波数スペクトルには、一定周波数のハムノイズが含まれる。
【0031】
ハムノイズ除去部41(本発明に係る「ノイズ除去手段」に相当する)では、上記ハムノイズを除去する。そのために、ハムノイズ除去部41は、例えば、ドローン91が存在しない状態で取得した受信波に基づき、上側中間波Wu及び下側中間波Wdの周波数スペクトルをハムノイズスペクトルとして予め求めて記憶している。そして、下側中間波Wd及び上側中間波Wuの周波数スペクトルからハムノイズスペクトルを除去する処理を行う。
図3(A)には、ハムノイズスペクトルを除去された上側中間波Wuの周波数スペクトルの一例が示され、
図3(B)には、ハムノイズスペクトルを除去された下側中間波Wdの周波数スペクトルの一例が示されている。
【0032】
ドローン判別部42では、ハムノイズスペクトルを除去された下側中間波Wd及び上側中間波Wuの周波数スペクトルにおいて、それぞれ予め決められた基準範囲R1の周波数帯に予め定められた基準値K1以上のスペクトル強度を有する波(以下、これを「判別対象波」という)が存在するか否かを判別する。そして、下側中間波Wd及び上側中間波Wuの両方の周波数スペクトル中に、
図3(A)及び
図3(B)に示すように、判別対象波L1,L2が存在する場合には、例えば、一方の判別対象波L1の周波数の中央値と、他方の判別対象波L2の周波数の中央値との差分が、予め定められた許容差Δfであるときにドローン91が存在すると判断し、マイクロコンピュータ22に接続されているた報知器43を作動させる。
【0033】
ここで、上記基準範囲R1は、検出対象であるドローン91のプロペラ90が採り得る回転速度とプロペラ90の半径とに基づいて定めることができる。本実施形態では、基準範囲R1は、例えば、100〜400[Hz]に設定されている。また、上記基準値K1は、ホワイトノイズによるスペクトルと判別対象波とが区別可能な値に、実測実験に基づて定めることができ、本実施形態では、例えば、15[dB]に設定されている。さらに、上記許容差Δfは、ドローン91が採り得る移動速度vに基づいて設定することができる。
【0034】
ところで、中間波W1及び中間波W2のビートの大きさは、受信波とローカル波との位相差によって変化する。また、ビートを信号として捉えるとそのビート信号は、受信波とローカル波の周波数差で振幅する正弦波であるから、ゼロクロスポイントで勾配が最も大きくなる。即ち、受信波とローカル波との位相差の変化に対するビートの変化量はゼロクロスポイントの近傍で最も大きくなる。そこで、ビート信号の正弦波のゼロクロスポイントの近傍で、受信波がローカル波によってサンプリングされて中間波が生成されるように、前述の位相調整器19にて受信波の位相を調整する制御を行っている。
【0035】
具体的には、マイクロコンピュータ22が、所定のプログラムを実行することで位相制御部34として機能し、中間波W2のビートを検出すると共に位相調整器19にて受信波の位相を所定量ずつ変化させて、位相変化に対して中間波W2のビートの変化が最大になるときの位相をスキャンして求める。そして、その位相に位相調整器19を固定する。
【0036】
本実施形態のドローン検出システム10の構成に関する説明は、以上である。なお、本実施形態では、発信器11とアンプ12とアンテナ15とマイクロコンピュータ22とから本発明に係る「送波装置」が構成されている。また、位相調整器19とイメージリジェクションミクサ21とマイクロコンピュータ22とA/Dコンバータ27とから本発明に係る「受信装置」が構成されている。さらに、90度移相器29と、その90度位相をずらされた中間波W1と中間波W2との和を演算する加算器31と差を演算する減算器32とから本発明に係る「信号処理部」が構成されている。
【0037】
次に、このドローン検出システム10の作用効果について説明する。ドローン91が、飛行禁止エリアに進入しないように監視するためには、ドローン検出システム10のアンテナ15から飛行禁止エリアに向けて探索波を送波する。この状態で飛行禁止エリアにドローン91が進入すると、探索波がドローン91のプロペラ90で反射して、前述したように探索波の周波数に対して上側と下側とにそれぞれドップラーシフトした反射波を含む受信波(
図4上段部参照)がドローン検出システム10に取り込まれる。そして、探索波より高周波側の受信波からダウンコンバージョンされた上側中間波Wuの周波数スペクトル(
図3(A)参照)と、探索波より低周波側の受信波からダウンコンバージョンされた下側中間波Wdの周波数スペクトル(
図3(B)参照)とのそれぞれに、周波数が基準範囲R1内で、スペクトル強度が基準値K1以上の判別対象波L1,L2が出現し、それら判別対象波L1,L2の周波数差が許容差Δf内で同一になる。これに基づき、ドローン91が飛行禁止エリアに進入したと判断されて報知器43が作動する。
【0038】
このように、本実施形態のドローン検出システム10は、受信した受信波中に、探索波の周波数に対して上下にドップラーシフトした反射波が含まれているか否かに基づいてドローン91の存否を判断するので、例えば風に揺れている樹木や電線等や滑空する鳥とドローン91とを確実に区別することができ、ドローン91を正確に検出することができる。ここで、鳥が一定周期で羽ばたいた場合、探索波に対して上下にドップラーシフトした反射波が発生し得るが、プロペラ90の移動速度に比べて羽根の移動速度は十分に小さいので羽根による反射波の周波数スペクトルは、前述の基準範囲R1に入らない。また、一定周期で羽根を羽ばたく期間はプロペラ90が一定周期で回転している期間に比べて極めて短い。これらにより、羽ばたいている鳥をドローン91と誤検出するようなことはない。なお、より確実に鳥の誤検出を防ぐために、一定期間以上連続して同じ判別対象波L1,L2が検出されたことを条件にしてドローン91の有無を判別してもよい。
【0039】
[第2実施形態]
本実施形態のドローン検出システム10Zは、
図5に示されており、間隔を空けて配置された複数のドローン検出装置10Pからなり、各ドローン検出装置10Pは、前記第1実施形態のドローン検出システム10と略同じ構成になっている。そして、複数のドローン検出装置10Pのうちの1つがマスターとなり、そのマスターのドローン検出装置10Pが100[MHz]の同期用REF信号を出力し、これを各ドローン検出装置10Pが受信している。そして、全てのドローン検出装置10Pが、例えば10[GHz]の探索波を送波していて、同期用REF信号の位相が「0」になる度に、探索波の位相も「0」になるようにマイクロコンピュータ22が発信器11を制御している。これにより、複数のドローン検出装置10Pの間で、探索波の相互干渉が抑えられ、各ドローン検出装置10Pが他のドローン検出装置10Pから送波された探索波の反射波を受信してドローン91を検出することができる。
【0040】
また、各ドローン検出装置10Pの検出結果は、それらドローン検出装置10Pの位置情報と共にマスターのドローン検出装置10Pへと無線送信されるようになっている。これにより、広範囲の領域の何れの場所にドローン91が進入したかを知ることができる。なお、本実施形態では、上述の通り同期用REF信号の位相に基づいて発信器11を制御しているときの各ドローン検出装置10Pのマイクロコンピュータ22が、本発明に係る「同期制御部」に相当する。
【0041】
[第3実施形態]
本実施形態のドローン検出システム10Vは、
図6に示されており、イメージリジェクションミクサ21を有しない点が第1実施形態のドローン検出システム10と大きく異なる。具体的には、このドローン検出システム10Vは、送波用アンテナ15Aと受波用アンテナ15Bとを別々にして備える。
【0042】
送波用アンテナ15Aには、水晶振動子44に基づいて第1発振回路45Aが出力する一定周期(例えば、10[GHz])の交流波をアイソレータ46を通して受け、一定周波数(例えば、10[GHz])のマイクロ波(電磁波)を探索波として送波する。すると、その探索波の反射波を含む周波数帯の波が受信波として受波用アンテナ15Bに受波される。そして、その受信波が、アンプ18を通してミクサ21Vにてローカル波と混合される。
【0043】
ここで、ローカル波の周波数は、
図7の上段に概念的に示されているように、プロペラ90の回転により探索波より高周波側にドップラーシフトした反射波の周波数(例えば、10[GHz]+f)よりさらに高い周波数になっている。具体的には、ドップラーシフトによって探索波より高くなる周波数fは略100〜400[GHz]程度であることを考慮して、ローカル波の周波数は、10.00001[GHz](10[GHz]+1[KHz])に設定されている。これにより、上記ローカル波と受信波とをミクサ21Vにて混合して生成される中間波は、
図7の下段に示すように、10[GHz]+1[KHz]より高周波側の受信波の中間波と、10[GHz]+1[KHz]より低周波側の受信波の中間波とが重なった状態になる。なお、10.00001[GHz]のローカル波は、前述の水晶振動子44に基づいて第2発振回路45Bから出力される。
【0044】
ミクサ21Vにて生成された受信波は、ローパスフィルタ47とA/Dコンバータ27とを通してマイクロコンピュータ22に取り込まれ、第1実施形態のドローン検出システム10と同様の処理が行われる。具体的には、マイクロコンピュータ22は、所定のプログラムを実行することが、FFT40,ハムノイズ除去部41V、ドローン判別部42Vとして機能する。FFT40では、上記した中間波の周波数スペクトルを演算する。その周波数スペクトルには、第1実施形態の
図2で示したようにハムノイズも重なった状態になる。これに対し、ハムノイズ除去部41Vが、前記第1実施形態のハムノイズ除去部41と同様に、ドローン91が存在しない状態の周波数スペクトルであるノイズスペクトルとして予め求めて記憶している。そして、中間波の周波数スペクトルからハムノイズスペクトルを除去する処理を行う。
【0045】
ドローン判別部42Vは、ハムノイズスペクトルを除去された中間波の周波数スペクトルにおいて、前記第1実施形態と同様に、基準範囲R1の周波数帯に基準値K1以上のスペクトル強度を有する2つの判別対象波L1,L2が存在するか否かを判別する。そして、それら判別対象波L1,L2の各周波数の中央値と1[KHz]との差をそれぞれドップラーシフト量として求め、それらドップラーシフト量同士の差分が許容差Δfであるときにドローン91が存在すると判断して報知器43を作動させる。
【0046】
本実施形態の構成によっても、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。また、イメージリジェクションミクサ21を有しないので、コンパクトかつ安価に製造することができる。
【0047】
[第4実施形態]
本実施形態のドローン検出システム10Wは、飛行場の航空局に設けられたレーダー送信機から送波される信号を探索波として利用する。そのレーダー送信機は、SSR送信機とSLS送信機とからなり、SSR送信機は、例えば5[msec]の一定周期でA質問信号又はC質問信号を送波する。そのA質問信号は、
図9に示すように8[μsec]の間隔を開けた2つのパルス波(以下、「SSRパルス波」という)で構成され、C質問信号(図示せず)は、21[μsec]の間隔を開けた2つのSSRパルス波で構成されている。また、SLS送信機は、A質問信号及びC質問信号の最初のSSRパルス波の出力タイミングから2[μsec]後にパルス波(以下、適宜「SLSパルス波」という)を出力する。
【0048】
SSRパルス波及びSLSパルス波は、共に1030[MHz]の搬送波で変調される。また、SLSパルス波のパルス幅は、1[μsec]になっている。即ち、1030[MHz]の搬送波の1波長は、約1[nsec]であるから、1パルスのSLSパルス波は、約1000周期分の搬送波で構成されている。そして、本実施形態のドローン検出システム10Wは、このSLSパルス波を構成する1030[MHz]の搬送波を探索波として利用する。
【0049】
本実施形態のドローン検出システム10Wは、
図8に示されており、アンテナ15で受波した受信波を、アンプ18,53、分配器50及び位相調整器19を通してイメージリジェクションミクサ21に取り込むと共に、同じ受信波をゲート制御部51、探索波ロック部52にも取り込む。
【0050】
ゲート制御部51は、SLSパルス波を構成する1030[MHz]の搬送波を、±100[nsec]の分解能で検出することができる。そして、ゲート制御部51は、SLS送信機からアンテナ15にて直接受信したSLSパルス波の先頭部分を検出して、検出直後から1[μsec]毎にゲート信号を出力する。なお、ゲート制御部51は、本願出願人が販売する「受動型レーダ」に搭載されたものと同じ回路構成になっていてる。
【0051】
探索波ロック部52は、SLS送信機から間欠的に送波されてくる1030[MHz]の搬送波に同期した1030[MHz]のローカル波を生成してイメージリジェクションミクサ21に連続出力する。その同期を図るために探索波ロック部52は、ゲート制御部51からゲート信号を取得している。
【0052】
イメージリジェクションミクサ21は、第1実施形態と同様に、ローカル波と受信波とを混合して中間波W1,W2を生成する。そして、それら中間波W1,W2がサンプルホールド部54により、1[μsec]のサンプリング周期でサンプルホールドされて、A/Dコンバータ27を介してマイクロコンピュータ22に取り込まれる。そのために、サンプルホールド部54は、ゲート制御部51から1[μsec]毎にゲート信号を受けている。そして、マイクロコンピュータ22において、1[μsec]の長さの中間波W1,W2から1[μsec]の長さの上側中間波Wu及び下側中間波Wdが求められる。そして、それら1[μsec]の長さの上側中間波Wu及び下側中間波Wd毎に、第1実施形態と同様の処理によってドローン91の有無が判別される。また、第1実施形態と同様に、中間波W2のビートに基づいた位相調整器19による位相の調整も行われる。
【0053】
ここで、本実施形態のように探索波が間欠的に送波される構成では、上述したサンプルホールド部54を備えていないと、受信波全体に対して探索波の受波期間が極めて短い場合、探索波の周波数に対して上下にドップラーシフトした第1と第2の周波数の反射波を受信波全体から検出することが困難になる。これに対し、本実施形態のドローン検出システム10Wでは、受信波を一定期間毎にサンプルホールドして、一定期間の受信波毎にドローン91の有無を判別するので、上記した問題が解消される。なお、ドローン検出システム10Wに探索波を間欠的に出力する送波装置を備えた構成としてもよい。
【0054】
[他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、上記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0055】
10,10V,10W,10Z ドローン検出システム
19 位相調整器
21 イメージリジェクションミクサ
21V ミクサ
22 マイクロコンピュータ
34 位相制御部
41,41V ハムノイズ除去部(ノイズ除去手段)
42,42V ドローン判別部
90 プロペラ
91 ドローン
K1 基準値
R1 基準範囲