【実施例】
【0033】
次に、実際にリチウムイオン二次電池を作製する手順について説明しながら、リチウムイオン二次電池の負極以外の構成についても詳述する。
【0034】
1.実施例1〜20、参考例1〜3及び比較例1〜17のリチウムイオン二次電池の作製
(1.1)負極の構成
集電体の空孔率Y(%)及び貫通孔径r(μm)を変えたCu箔(厚さ10μm)からなる集電体1を用意した。実施例1〜20、参考例1〜3及び比較例1〜17のリチウムイオン二次電池を構成する集電体の構成を後述する表1に記載する。集電体の空孔率Yは、Cuの比重と集電体の体積の積から、実際の集電体の重量を引いて、それを比重と集電体の体積の積で商して算出した。
【0035】
負極合剤層を構成するSi系負極活物として、メカニカルアロイ法を用いて合成したSi合金(Si
70Ti
30)と、黒鉛として、天然黒鉛を用い、これらを質量比で3:97〜40:60で混合した。具体的には、実施例1〜6は3:97、実施例7〜11及び比較例1〜2は20:80、実施例12〜15、比較例3〜5及び比較例17〜19は30:70、実施例16〜18及び比較例6〜9は40:60、比較例10〜16は50:50で作製した。この黒鉛の結晶性は、d002が3.356Å以下、Lc(002)が1000Å以上、La(110)が1000Å以上である。なお、ここで「d002」とは、黒鉛の結晶の(002)面の面間隔距離(X線回折装置で測定)を意味し、「Lc(002)」は、黒鉛の002回折線(X線回折装置で測定)から求めた結晶子径(結晶子のc軸方向の厚み)を意味し、「La(110)」は黒鉛の110回折線(X線回折装置で測定)から求めた結晶子径(結晶子のa軸方向の幅)を意味するものとする。Si合金及び天然黒鉛のレーザー回折法に測定された平均粒径D
50は、それぞれ5μmである。
【0036】
バインダは、ポリアミドイミドを用いた。上述した構造式1のR
1〜3の炭素数又はnの数を調整して、物性値(破断強度A及び破断伸率B)を変えたバインダを用意した。バインダの破断強度は、引張試験機(株式会社島津製作所製、オートグラフAG−Xplus)を用いて、速度0.2m/分で引張り、バインダ4が破断したときの強度として、以下の式3から算出した。
A=(引張荷重)÷(負極バインダ片の断面積)…式3
また、バインダの破断伸率(%)は、上述した引張試験機を用いて、速度0.2m/分で引張り、負極バインダが破断したときの伸率として、以下の式4から算出した。
B=100×{(引張後の負極バインダ片の長さ−引張前の負極バインダ片の長さ)}÷(引張前の負極バインダ片の長さ)…式4
なお、試験片の寸法は3cm×3cmで、測定温度は25℃である。
【0037】
実施例1〜20、参考例1〜3及び比較例1〜17の負極のバインダの物性値(破断強度A、破断伸率B及び靭性「A×B÷10」)を表1に併記する。
【0038】
【表1】
【0039】
負極は、上述した負極活物質及びバインダを含む負極合剤層のスラリー(負極スラリー)を作製後、集電体の上に塗工し、プレスすることで作製した。負極スラリーは、上述した負極活物質とバインダ以外に、アセチレンブラックを導電材として添加した。その質量比率が、順に92:5:3となるように配合し、粘度が6000〜8000mPaとなるようにNMP(N−methylpyrrolidone)溶媒を混合しながら、スラリーを作製した。今回溶媒にNMPを用いたが、水や2−ブトキシエタノール、ブチルセロソルブ、N,N−ジメチルアセトアミド、ジエチレングリコールジエチルエーテル等であっても構わないし、これらの混合物であってもかまわない。スラリー作製は、プラネタリミキサを用いた。
【0040】
得られた負極スラリーを用いて、集電体1上に卓上コンマコータで塗工した。塗工量は11g/m
2となるように作製した。乾燥炉を通して90℃1次乾燥した。そして、塗工した負極をロールプレスで密度を調整した。なお、密度は、電極の空孔が20〜40%程度となるように、プレスし、負極は密度1.9g/cm
3で作製した。その後、300℃でポリアミドイミドを1時間、真空で熱硬化させた。なお、窒素中であってもかまわないし、樹脂の硬化時間は問われない。
【0041】
(1.2)セパレータ及び電解液の構成
セパレータとしては、熱収縮によりリチウムイオンを通さなくなる材料であれば、問わない。例えば、ポリオレフィン等が用いられる。ポリオレフィンは、主にポリエチレン、ポリプロピレン等を少なくとも1種類を含むことを特徴とするが、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリアクリロニトリル等の耐熱性樹脂を含んでもかまわない。
【0042】
また、無機フィラー層を片面もしくは両面に塗っていてもかまわない。無機フィラー層は、SiO
2、Al
2O
3、モンモリロナイト、雲母、ZnO、TiO
2、BaTiO
3及びZrO
2の少なくとも1種類を含むもの等が好ましいが、コストや性能の観点から、SiO
2またはAl
2O
3が最も好ましい。本実施例ではポリプロピレンの間にポリエチレンを有する3層膜(厚さ25μm)のものを用いた。
【0043】
電解液には1MLiPF
6の電解質を用い、EC:EMC=1:3vol%の溶媒に溶かしたものを用いた。この他、電解液としては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、メチルアセテート、エチルアセテート、メチルプロピオネート、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1−エトキシ−2−メトキシエタン、3−メチルテトラヒドロフラン、1,2−ジオキサン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、2−メチル−1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン等より少なくとも1種以上選ばれた非水溶媒に、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiN(C
2F
5SO
2)
2等より少なくとも1種以上選ばれたリチウム塩を溶解させた有機電解液、リチウムイオンの伝導性を有する固体電解質、ゲル状電解質又は溶融塩電池等で使用される既知の電解質を用いることができる。
【0044】
(1.3)正極の構成
正極は、アルミニウム箔からなる正極集電箔の表面に、正極合剤層が形成されている。正極合剤層には、正極活物質としてLiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2、導電助剤として炭素材料及びバインダとしてPVDFを用いた。その質量比率は、順に、90:5:5で作製し、合剤塗工量は240g/m
2で作製した。アルミニウム箔への正極活物質合剤の塗工時には、NMPの分散溶媒で粘度調整した。塗工後の正極は、120℃で乾燥した後、ロールプレスで密度を調整し、本実施例において密度は3.0g/cm
3で作製した。
【0045】
(1.4)リチウムイオン二次電池の構成
上述した負極、セパレータ、電解液及び正極を用いて、積層型のラミネートセルを構成する積層型電極群を作製した。
図4は本発明のリチウムイオン二次電池(ラミネートセル)内部の積層型電極群の一例を示す分解図である。
図4に示すように、積層型電極群40は、板状の正極45と、帯状の負極46とが、セパレータ47に挟まれて積層されている。なお、作製した正極と負極は、加工の際に、箔の一部に活物質合剤の塗工されない未塗工部をそれぞれ形成した。正極未塗工部43および負極未塗工部44は、それぞれ束ねて、電池内外を電気的に接続する正極端子41,負極端子42に超音波溶接されている。溶接方法は、抵抗溶接等他の溶接手法であってもかまわない。なお、正極端子41、負極端子42は電池内外の封止性をより高めるために、あらかじめ熱溶着樹脂を端子の封止箇所に塗布し、又は取付けていてもかまわない。
【0046】
図5は本発明のリチウムイオン二次電池(ラミネートセル)の一例を示す分解図である。ラミネートセル50は、電極群52をラミネートフィルム51,53の周縁部を175℃で10秒間熱溶着封止させ電気的に絶縁した状態とし、正極端子41と負極端子42を貫通させることにより作製した。封止は、注液口を設けるために、一辺以外をはじめに熱溶着させ、電解液を注液した後に、残りの一辺を真空加圧しながら、熱溶着封止させた。
【0047】
2.実施例1〜20、参考例1〜3及び比較例1〜17の負極及びリチウムイオン二次電池の評価
(2.1)放電容量評価
作製した負極について、φ16mmのサイズに加工し、セパレータを挟み、対極をLiとした単極式小型セル(単極式電池)を作製し、負極の放電容量Qを測定した。充放電条件は、下限電圧5mVまで0.2CAで定電流充電と2hの定電圧充電を行い、上限電圧2.0Vまで、0.2CAで定電流放電させた際の放電容量を負極の放電容量とした。
【0048】
ここで、1CAは、1時間で電池容量の充電又は放電が終了する電流値であり、0.2CAは、5時間で電池容量の充電又は放電が終了する電流値である。0.2CAの場合、負極の厚さの影響を無視することができる。
【0049】
実施例1〜20、参考例1〜3及び比較例1〜17の負極の設計容量(Ah/kg)と、測定した負極の放電容量Q(Ah/kg)の値を後述する表2に記載する。
【0050】
また、実施例1〜20、参考例1〜3及び比較例1〜17について、式1,式2を満たすものをそれぞれ「〇」と評価し、式1,式2を満たさないものをそれぞれ「×」と評価した。評価結果を表2に併記する。
【0051】
(2.2)サイクル特性評価
作製したラミネートセルを用いて、電圧4.2V、電流0.5CAの定電流充電を行った後、2時間の定電圧充電を行った。放電は、電圧2V、電流0.5CAで定電流放電を行い、これらを100回繰り返し、1回目の放電容量に対する100回目の放電容量の比率をラミネートセルの100サイクル後の容量維持率とした。実施例1〜20、参考例1〜3及び比較例1〜17の容量維持率を表2に併記する。
【0052】
【表2】
【0053】
図6はリチウムイオン二次電池の容量維持率と集電体の空孔率Yの関係を示すグラフである。
図6は、実施例1〜6(負極の放電容量Q:400Ah/kg)、実施例7〜11及び比較例1〜2(負極の放電容量Q:500Ah/kg)、実施例12〜15及び比較例3〜5(負極の放電容量Q:600Ah/kg)、実施例16〜18及び比較例6〜9(負極の放電容量Q:700Ah/kg)及び比較例10〜16(負極の放電容量Q:800Ah/kg)の放電容量Qと空孔率Yをプロットしたグラフである。
【0054】
図6に示すように、容量維持率と空孔率Yの関係は、負極の放電容量Qによって変わることがわかる。負極の放電容量Qが400Ah/kgの場合、空孔率Yが0〜
50%の間で、90%程度の高い容量維持率を示している。負極の放電容量Qが500Ah/kgの場合、空孔率Yが10〜50%のときに(
図6の領域(I))90%程度の高い容量維持率となる。負極の放電容量Qが600Ah/kgの場合、空孔率Yが20〜50%のときに(
図6の領域(II))80%以上の高い容量維持率となる。負極の放電容量Qが700Ah/kgの場合、空孔率Yが30〜50%のときに(
図6の領域(III))76%以上の高い容量維持率となる。
【0055】
図7はリチウムイオン二次電池の集電体の空孔率Yと負極の容量Qの関係を示すグラフである。
図7は、高いサイクル特性を有する実施例1〜18のデータをプロットしている。このグラフから、高サイクル特性を実現するためのYとQの関係を示す式1(0.1Q−40≦Y≦50)を求めることができる。すなわち、式1を満たす実施例1〜18は、高容量及び高サイクル特性を両立することができることがわかる。
【0056】
実施例14、実施例19及び実施例20の比較から、貫通孔径rがSi系負極活物質の平均粒径(5μm)以上120μm以下であれば、高容量及び高サイクル特性を両立することができることがわかった。
【0057】
一方、比較例1〜17は、放電容量Qについては設計容量通りとなっているが、式1を満たしていないため、同じ放電容量Qの実施例と比較してサイクル特性が低くなっている。Y<0.1Q−40の集電体はシワを抑制できず、一方、Yが50%より大きい場合は集電体の強度が低下し、サイクル特性が低下しているものと考察される。
【0058】
比較例17は集電体1の貫通孔の径が130μmであり、塗工時にスラリーが落ちてしまい、塗工することができなかった。
【0059】
参考例1は、式1を満たしているが、バインダの破断強度Aが好ましい範囲である80〜400MPaの範囲外(80MPa未満)であり、かつ、式2を満たしていない。このため、サイクル特性が低下している。
【0060】
参考例2は、式1を満たし、高いサイクル特性を示しているが、放電容量Qが設計容量より低下している。これは、バインダの破断強度Aが好ましい範囲である80〜400MPaの範囲外(400MPaより大きい)であり、かつ、式2を満たさないために、つまりバインダ中のイミド基の量が多いために、負極バインダ中のイミド基にLiがトラップされ、負極の不可逆容量となり、負極の放電容量が低くなっているものと考えられる。
【0061】
参考例3は、式1及び式2ともに満たしているが、サイクル特性が低い。これは、参考例3は貫通孔の径が負極活物質の平均粒径5μmより小さく、集電体への応力を緩和できず、サイクル特性が低下したものと考えられる。
【0062】
以上、説明したように、本発明によれば、Siを含む負極活物質と、ポリイミド、ポリアミド又はポリアミドイミドをバインダとして備えるリチウムイオン二次電池において、高容量及び高サイクル特性を高いレベルで両立することができるリチウムイオン二次電池を提供することができることが実証された。
【0063】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0064】
例えば、本実施例では。リチウムイオン二次電池として積層型のラミネートセルを作製しているが、他捲回構造であっても金属缶に封入されたものであっても同様の効果が得られる。