特許第6937602号(P6937602)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6937602
(24)【登録日】2021年9月2日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/134 20100101AFI20210909BHJP
   H01M 4/70 20060101ALI20210909BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20210909BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20210909BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20210909BHJP
【FI】
   H01M4/134
   H01M4/70 A
   H01M4/62 Z
   H01M4/38 Z
   H01M4/66 A
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-81998(P2017-81998)
(22)【出願日】2017年4月18日
(65)【公開番号】特開2018-181695(P2018-181695A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2019年10月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】505083999
【氏名又は名称】ビークルエナジージャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】關 栄二
(72)【発明者】
【氏名】木村 尚貴
(72)【発明者】
【氏名】熊代 祥晃
【審査官】 松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−086448(JP,A)
【文献】 特開2016−103337(JP,A)
【文献】 特開2017−050203(JP,A)
【文献】 特開2017−091942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13−84
H01M 10/05−0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、前記正極及び前記負極を仕切るセパレータと、を備えるリチウムイオ
ン二次電池において、
前記負極は、厚さが5μm以上15μm以下のCu箔からなる集電体と、前記集電体の
表面に設けられた負極合剤層と、を有し、
前記負極合剤層は、Siを含む負極活物質と天然黒鉛とを質量比で3:97〜40:6
0で混合し、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド又はこれらの混合物を含むバイ
ンダと、を含み、
前記Siを含む負極活物質がSi1−Xであり、MはAl、Ni、Cu、Fe、T
i、Mn、Oから選ばれる少なくとも1種であり、0.5≦x≦0.9であり、
前記負極の放電容量Q(Ah/kg)と前記集電体の空孔率Y(%)が以下の式1を満
たすように、前記集電体に貫通孔が設けられ、
前記バインダの破断強度A(MPa)が、80MPa以上400MPa以下であり、
前記貫通孔の径が、負極活物質の平均粒径以上120μm以下であり、
前記負極の放電容量Q(Ah/kg)が、400(Ah/kg)以上700(Ah/k
g)以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
0.1Q−40≦Y≦50…式1
【請求項2】
請求項1記載のリチウムイオン二次電池において、前記負極の放電容量Qが500Ah
/kg以上700Ah/kg以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
請求項1記載のリチウムイオン二次電池において、前記負極合剤層の膨張率が11
0%超150%未満であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
請求項1記載のリチウムイオン二次電池において、
前記負極の放電容量Q(Ah/kg)、前記バインダの破断強度A(MPa)及び前記
バインダの破断伸度B(%)が、以下の式2を満たすことを特徴とするリチウムイオン二
次電池。
Q≦A×B÷10≦3×Q…式2
【請求項5】
請求項1記載のリチウムイオン二次電池において、
Mは、Al、Ni、Cu、Fe、Ti、Mnから選ばれる少なくとも1種であり、
0.6≦x≦0.8であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化や枯渇燃料の問題から電気自動車(Electric Vehicle,EV)が各自動車メーカーで開発され、その電源として高エネルギー密度を有するリチウムイオン二次電池が求められている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の高エネルギー密度化が期待できる負極活物質として、シリコン(Si)を含む活物質が期待されている。しかしながら、Siは充放電に伴う体積変化が大きい。このため、充放電に伴う活物質粒子間の導電ネットワークの破壊及び集電体からの負極合剤層の剥離によって、サイクル劣化が大きいという課題がある。
【0004】
特許文献1には、負極と、正極と、セパレータと、を備え、上記負極は、ケイ素を含有するSi系負極活物質と、黒鉛と、負極バインダと、を含み、上記負極の放電容量Q(Ah/kg)と上記負極バインダ単体の破断強度A(MPa)と破断伸率B(%)とが所定の関係式を満たすリチウムイオン二次電池が開示されている。特許文献1によれば、初期容量及びサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017−50203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、リチウムイオン二次電池に対する高い性能の要求はますます高まっている。このため、上記特許文献1よりもさらに高いレベルで高容量及び高サイクル特性を両立するリチウムイオン二次電池の開発が望まれている。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑み、Siを含む負極活物質と、ポリイミド、ポリアミド又はポリアミドイミドをバインダとして含む負極を有するリチウムイオン二次電池において、高容量及び高サイクル特性を高いレベルで両立することができるリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するため、正極と、負極と、正極及び負極を仕切るセパレータと、を備えるリチウムイオン二次電池において、負極は、厚さが5μm以上15μm以下のCu箔からなる集電体と、集電体の表面に設けられた負極合剤層と、を有し、負極合剤層は、Siを含む負極活物質と天然黒鉛とを質量比で3:97〜40:60で混合し、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド又はこれらの混合物を含むバインダと、を含み、Siを含む負極活物質がSi1−Xであり、MはAl、Ni、Cu、Fe、Ti、Mn、Oから選ばれる少なくとも1種であり、負極の放電容量Q(Ah/kg)と集電体の空孔率Y(%)が以下の式1を満たすように、集電体に貫通孔が設けられ、バインダの破断強度A(MPa)が、80MPa以上400MPa以下であり、貫通孔の径が、負極活物質の平均粒径(5μm)以上120μm以下であり、負極の放電容量Q(Ah/kg)が、400(Ah/kg)以上700(Ah/kg)以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池を提供する。
0.1Q−40≦Y≦50…式1
【0009】
本発明のより具体的な構成は、特許請求の範囲に記載される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、Siを含む負極活物質及びポリイミド、ポリアミド又はポリアミドイミドをバインダとして含む負極を有するリチウムイオン二次電池において、高容量及び高サイクル特性を高いレベルで両立することができるリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【0011】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】従来のリチウムイオン二次電池の負極の一部を模式的に示す断面図(a)と、サイクル後の集電体の上面図(b)である。
図2】本発明のリチウムイオン二次電池の負極の一部を模式的に示す断面図(a)と、サイクル後の集電体の上面図(b)である。
図3A】本発明のリチウムイオン二次電池を構成する集電体の一例を模式的に示す上面図である。
図3B】本発明のリチウムイオン二次電池を構成する集電体の他の例を模式的に示す上面図である。
図4】本発明のリチウムイオン二次電池(ラミネートセル)内部の積層型電極群の一例を示す分解図である。
図5】本発明のリチウムイオン二次電池(ラミネートセル)の一例を示す分解図である。
図6】リチウムイオン二次電池の容量維持率と集電体の空孔率Yの関係を示すグラフである。
図7】リチウムイオン二次電池の集電体の空孔率Yと負極の放電容量Qの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[本発明の基本思想]
特許文献1において使用されているポリイミド、ポリアミド又はポリアミドイミド又はこれらの混合物からなるバインダ(以下、「ポリイミド系バインダ」と称する。)は、強度及び結着力が優れた樹脂であり、体積変化が大きいSiを含む負極活物質(以下、「Si系負極活物質」と称する。)を用いた場合であっても、集電体から負極合材層が剥離することを防ぐことができる。しかし、本発明者の検討の結果、ポリイミド系バインダを用いた場合に特有の課題が生じることがわかった。
【0014】
図1は従来のリチウムイオン二次電池の負極の一部を模式的に示す断面図(a)と、サイクル後の集電体の上面図(b)である。図1の(a)に示すように、負極10´は、集電体1´と、集電体1´の表面に設けられた負極合剤層5´を有する。負極合剤層5´は、Si系負極活物質2´、黒鉛3´及びバインダ4´を含む。充放電時に膨張収縮の大きいSi系負極活物質2´を含む場合、負極活物質2´の膨張収縮に伴う負極合剤層5´の膨張収縮に伴い、集電体1´から負極合剤層5´が剥離する恐れがある。しかしながら、上述したように、バインダ4´としてポリイミド系バインダを用いた場合、その強度及び結着力が大きいことから集電体1´と負極合剤層5´との密着性が高くなるため、負極合剤層5´が膨張収縮しても、集電体1´から負極合剤層5´が剥離することを防ぐことができる。
【0015】
しかしながら、集電体1´と負極合剤層5´との密着性が高いがために、集電体1´が負極合剤層5´の膨張収縮に追従して集電体1´に応力がかかる。その結果、図1の(b)に示すように、集電体1´にシワ7が発生することがあることがわかった。このようなシワ7が多く生じると、サイクル特性低下の原因となり得る。
【0016】
本発明者は、鋭意検討の結果、負極活物質としてSi系負極活物質を用いた場合であっても、充放電後に集電体にシワがよらないリチウムイオン二次電池の構成を見出し、本発明を完成した。図2は本発明の負極の一部を模式的に示す断面図(a)と、サイクル後の集電体の上面図(b)である。図2の(a)に示すように、負極10は、集電体1と、集電体1の表面に設けられた負極合剤層5を有する。負極合剤層5は、Si系負極活物質2、黒鉛3及びバインダ4を含む。本発明は、負極の放電容量(Q)と集電体1の空孔率(%)とが、上述した式1を満たすように集電体1に貫通孔20が設けられている。このような構成とすることで、図2の(b)に示すように、Si系負極活物質2の膨張収縮に伴う集電体1のシワの発生を抑制することができるものである。
【0017】
図2の(b)に示すように、本発明のリチウムイオン二次電池においても集電体1の表面にシワ7は生じるが、図1の(b)に示す従来のリチウムイオン二次電池よりも大幅にシワが低減されていることがわかる。
【0018】
なお、本発明において、負極の放電容量Qの値によってはY=0の場合もあり得る。すなわち、この場合は貫通孔20を有していなくともよい。本発明は、Si系負極活物質及びポリイミド系バインダを含む負極を有するリチウムイオン二次電池において、高容量及び高サイクル特性を満たすための上記式1を見出したことに大きな意義があるものである。
【0019】
以下、本発明のリチウムイオン二次電池を構成する負極の構成について詳述する。
【0020】
(イ)集電体
上述したように、本発明は、集電体1に貫通孔20が設けられる場合がある。図3Aは本発明のリチウムイオン二次電池を構成する集電体の一例を模式的に示す上面図であり、図3Bは本発明のリチウムイオン二次電池を構成する集電体の他の例を模式的に示す上面図である。図3A及び3Bに示すように、集電体に設けられる貫通孔の形状は、円形でも四角形でもよい。さらに、四角形以外の多角形であってもよい。上記式1を満たしていれば、貫通孔20の形状はどのようなものであってもよい。製造の容易さ及び応力緩和の観点から、円形が最も好ましい。
【0021】
貫通孔20の径(図3Aではr、図3Bのような多角形の貫通孔であれば、内接円の径r´)は、後述するSi系負極活物質2の平均粒径以上120μm以下であることが好ましい。貫通孔20の径がSi系負極活物質2の平均粒径以上であると、貫通孔20を通じて、集電体1の表と裏の負極活物質2の粒子が接触することができ、導電ネットワークを保持できて好ましい。また、120μmより大きいと、後述する負極スラリーの塗工性が低下し、電池の製作性が低下する。また、集電体の厚さは5μm以上15μm以下が好ましい。5μm未満であると、集電体の強度を十分に保つことができず、サイクル特性が低下する。また、15μmより大きいと、本発明のシワ抑制効果が低減する。
【0022】
上述したように、本発明において、負極の放電容量Qと集電体1の空孔率Yは、式1の関係を満たす。空孔率Yが0.1Q−40よりも小さいと、集電体1にシワが発生し、サイクル特性が低下する。また、空孔率Yが0.1Q−40よりも大きいと、集電体1の強度が低下し、サイクル特性が低下する。
【0023】
(ロ)負極活物質
本発明のリチウムイオン二次電池は、Si系負極活物質2を用いる。具体的には、Si合金及びSi酸化物等の材料を用いることができる。Si合金は、通常、金属ケイ素(Si)の微細な粒子が他の金属元素の各粒子中に分散された状態となっているか、または、他の金属元素がSiの各粒子中に分散された状態となっている。他の金属元素は、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)のいずれか1種類以上を含むものであれば、構わない。
【0024】
Si合金の作製方法は、メカニカルアロイ法により機械的に合成するか、または、Si粒子と他の金属元素との混合物を加熱し、冷却することで行うことができる。Si合金の組成は、Si:他の金属元素の原子比率が50:50〜90:10が望ましく、60:40〜80:20がより望ましい。Si合金としては、Si70Ti10Fe10Al10、Si70Al30、Si70Ni30、Si70Cu30、Si70Fe30、Si70Ti30、Si70Mn30、Si70Ti15Fe15、Si70Al10Ni20等を用いることもできる。
【0025】
(ハ)黒鉛
導電助剤として用いる黒鉛3は、天然黒鉛及び人造黒鉛等の黒鉛質の材料を用いることができる。コストの観点からは天然黒鉛が望ましいが、表面を難黒鉛化炭素で被覆していてもかまわない。
【0026】
(ニ)バインダ
バインダ4としては、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド又はこれらの混合物を用いる。さらに、ポリイミド系バインダに加えて、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やスチレンブタジエン共重合体(SBR)等の他のバインダを混合したバインダであってもよい。
【0027】
なお、ポリアミドイミドの厳密な定義は特に決まっておらず、ポリイミドとポリアミドイミドの混合物もポリアミドイミドと呼ばれている。以下の構造式1にポリアミドイミドの構造例を示す。
【0028】
【化1】
【0029】
上記構造式1のRは炭素数1〜18のアルキレン基、アリーレン基、ベンゼン等であり、窒素酸素、硫黄、ハロゲンを含んでも構わない。また、構造式1のR〜R10は水素、アルキル基又はアリール基である。R〜Rの炭素数を増やすことや、構造式1のnを増やしてポリマー量を変えること、つまり、イミド基を増やすことで、バインダの物性値(破断強度、破断伸率、靭性及び弾性率)を変化させることができる。なお、構造式(1)において中央部の環構造は、ベンゼン環その他の不飽和環でもよい。
【0030】
バインダの破断強度Aは、80〜400MPaであることが好ましい。バインダの破断強度が80MPa未満であると、Si負極活物質の体積変化による負極合剤層の剥離が生じてサイクル特性低下が大きくなる。また、バインダの破断強度Aが400MPaを超えると、バインダ中のイミド基の量を増やすことになるため、負極バインダ中のイミド基にリチウム(Li)がトラップされて負極の不可逆容量となり、負極の放電容量Qが低くなる。
【0031】
また、負極の放電容量Qと、負極合剤層5を構成するバインダ4の破断強度A(MPa)と破断伸度B(%)が、以下の式2の関係を満たすことが好ましい。
Q≦A×B÷10≦3×Q…式2
式2中、バインダの靭性を示す「A×B÷10」の値がQよりも小さいと、バインダによる負極合剤層5の剥離抑制効果が低くなる。また、「A×B÷10」の値が3×Qよりも大きいと、バインダ中のバインダ中のイミド基の量を増やすことになるため、負極バインダ中のイミド基にLiがトラップされ、負極の不可逆容量となり、負極の放電容量が低くなる。
【0032】
(ホ)負極合剤層
負極合剤層5の膨張率は、110%超150%未満であることが好ましい。膨張率が110%以下であると、集電体1のシワ抑制効果が低下する。また、膨張率が150%以上であると、集電体1の空孔率Yを50%以上にする必要があり、集電体1の強度が低下してサイクル特性が低下する。
【実施例】
【0033】
次に、実際にリチウムイオン二次電池を作製する手順について説明しながら、リチウムイオン二次電池の負極以外の構成についても詳述する。
【0034】
1.実施例1〜20、参考例1〜3及び比較例1〜17のリチウムイオン二次電池の作製
(1.1)負極の構成
集電体の空孔率Y(%)及び貫通孔径r(μm)を変えたCu箔(厚さ10μm)からなる集電体1を用意した。実施例1〜20、参考例1〜3及び比較例1〜17のリチウムイオン二次電池を構成する集電体の構成を後述する表1に記載する。集電体の空孔率Yは、Cuの比重と集電体の体積の積から、実際の集電体の重量を引いて、それを比重と集電体の体積の積で商して算出した。
【0035】
負極合剤層を構成するSi系負極活物として、メカニカルアロイ法を用いて合成したSi合金(Si70Ti30)と、黒鉛として、天然黒鉛を用い、これらを質量比で3:97〜40:60で混合した。具体的には、実施例1〜6は3:97、実施例7〜11及び比較例1〜2は20:80、実施例12〜15、比較例3〜5及び比較例17〜19は30:70、実施例16〜18及び比較例6〜9は40:60、比較例10〜16は50:50で作製した。この黒鉛の結晶性は、d002が3.356Å以下、Lc(002)が1000Å以上、La(110)が1000Å以上である。なお、ここで「d002」とは、黒鉛の結晶の(002)面の面間隔距離(X線回折装置で測定)を意味し、「Lc(002)」は、黒鉛の002回折線(X線回折装置で測定)から求めた結晶子径(結晶子のc軸方向の厚み)を意味し、「La(110)」は黒鉛の110回折線(X線回折装置で測定)から求めた結晶子径(結晶子のa軸方向の幅)を意味するものとする。Si合金及び天然黒鉛のレーザー回折法に測定された平均粒径D50は、それぞれ5μmである。
【0036】
バインダは、ポリアミドイミドを用いた。上述した構造式1のR1〜3の炭素数又はnの数を調整して、物性値(破断強度A及び破断伸率B)を変えたバインダを用意した。バインダの破断強度は、引張試験機(株式会社島津製作所製、オートグラフAG−Xplus)を用いて、速度0.2m/分で引張り、バインダ4が破断したときの強度として、以下の式3から算出した。
A=(引張荷重)÷(負極バインダ片の断面積)…式3
また、バインダの破断伸率(%)は、上述した引張試験機を用いて、速度0.2m/分で引張り、負極バインダが破断したときの伸率として、以下の式4から算出した。
B=100×{(引張後の負極バインダ片の長さ−引張前の負極バインダ片の長さ)}÷(引張前の負極バインダ片の長さ)…式4
なお、試験片の寸法は3cm×3cmで、測定温度は25℃である。
【0037】
実施例1〜20、参考例1〜3及び比較例1〜17の負極のバインダの物性値(破断強度A、破断伸率B及び靭性「A×B÷10」)を表1に併記する。
【0038】
【表1】
【0039】
負極は、上述した負極活物質及びバインダを含む負極合剤層のスラリー(負極スラリー)を作製後、集電体の上に塗工し、プレスすることで作製した。負極スラリーは、上述した負極活物質とバインダ以外に、アセチレンブラックを導電材として添加した。その質量比率が、順に92:5:3となるように配合し、粘度が6000〜8000mPaとなるようにNMP(N−methylpyrrolidone)溶媒を混合しながら、スラリーを作製した。今回溶媒にNMPを用いたが、水や2−ブトキシエタノール、ブチルセロソルブ、N,N−ジメチルアセトアミド、ジエチレングリコールジエチルエーテル等であっても構わないし、これらの混合物であってもかまわない。スラリー作製は、プラネタリミキサを用いた。
【0040】
得られた負極スラリーを用いて、集電体1上に卓上コンマコータで塗工した。塗工量は11g/mとなるように作製した。乾燥炉を通して90℃1次乾燥した。そして、塗工した負極をロールプレスで密度を調整した。なお、密度は、電極の空孔が20〜40%程度となるように、プレスし、負極は密度1.9g/cmで作製した。その後、300℃でポリアミドイミドを1時間、真空で熱硬化させた。なお、窒素中であってもかまわないし、樹脂の硬化時間は問われない。
【0041】
(1.2)セパレータ及び電解液の構成
セパレータとしては、熱収縮によりリチウムイオンを通さなくなる材料であれば、問わない。例えば、ポリオレフィン等が用いられる。ポリオレフィンは、主にポリエチレン、ポリプロピレン等を少なくとも1種類を含むことを特徴とするが、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリアクリロニトリル等の耐熱性樹脂を含んでもかまわない。
【0042】
また、無機フィラー層を片面もしくは両面に塗っていてもかまわない。無機フィラー層は、SiO、Al、モンモリロナイト、雲母、ZnO、TiO、BaTiO及びZrOの少なくとも1種類を含むもの等が好ましいが、コストや性能の観点から、SiOまたはAlが最も好ましい。本実施例ではポリプロピレンの間にポリエチレンを有する3層膜(厚さ25μm)のものを用いた。
【0043】
電解液には1MLiPFの電解質を用い、EC:EMC=1:3vol%の溶媒に溶かしたものを用いた。この他、電解液としては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、メチルアセテート、エチルアセテート、メチルプロピオネート、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1−エトキシ−2−メトキシエタン、3−メチルテトラヒドロフラン、1,2−ジオキサン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、2−メチル−1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン等より少なくとも1種以上選ばれた非水溶媒に、LiPF、LiBF、LiClO、LiN(CSO等より少なくとも1種以上選ばれたリチウム塩を溶解させた有機電解液、リチウムイオンの伝導性を有する固体電解質、ゲル状電解質又は溶融塩電池等で使用される既知の電解質を用いることができる。
【0044】
(1.3)正極の構成
正極は、アルミニウム箔からなる正極集電箔の表面に、正極合剤層が形成されている。正極合剤層には、正極活物質としてLiNi1/3Mn1/3Co1/3、導電助剤として炭素材料及びバインダとしてPVDFを用いた。その質量比率は、順に、90:5:5で作製し、合剤塗工量は240g/mで作製した。アルミニウム箔への正極活物質合剤の塗工時には、NMPの分散溶媒で粘度調整した。塗工後の正極は、120℃で乾燥した後、ロールプレスで密度を調整し、本実施例において密度は3.0g/cmで作製した。
【0045】
(1.4)リチウムイオン二次電池の構成
上述した負極、セパレータ、電解液及び正極を用いて、積層型のラミネートセルを構成する積層型電極群を作製した。図4は本発明のリチウムイオン二次電池(ラミネートセル)内部の積層型電極群の一例を示す分解図である。図4に示すように、積層型電極群40は、板状の正極45と、帯状の負極46とが、セパレータ47に挟まれて積層されている。なお、作製した正極と負極は、加工の際に、箔の一部に活物質合剤の塗工されない未塗工部をそれぞれ形成した。正極未塗工部43および負極未塗工部44は、それぞれ束ねて、電池内外を電気的に接続する正極端子41,負極端子42に超音波溶接されている。溶接方法は、抵抗溶接等他の溶接手法であってもかまわない。なお、正極端子41、負極端子42は電池内外の封止性をより高めるために、あらかじめ熱溶着樹脂を端子の封止箇所に塗布し、又は取付けていてもかまわない。
【0046】
図5は本発明のリチウムイオン二次電池(ラミネートセル)の一例を示す分解図である。ラミネートセル50は、電極群52をラミネートフィルム51,53の周縁部を175℃で10秒間熱溶着封止させ電気的に絶縁した状態とし、正極端子41と負極端子42を貫通させることにより作製した。封止は、注液口を設けるために、一辺以外をはじめに熱溶着させ、電解液を注液した後に、残りの一辺を真空加圧しながら、熱溶着封止させた。
【0047】
2.実施例1〜20、参考例1〜3及び比較例1〜17の負極及びリチウムイオン二次電池の評価
(2.1)放電容量評価
作製した負極について、φ16mmのサイズに加工し、セパレータを挟み、対極をLiとした単極式小型セル(単極式電池)を作製し、負極の放電容量Qを測定した。充放電条件は、下限電圧5mVまで0.2CAで定電流充電と2hの定電圧充電を行い、上限電圧2.0Vまで、0.2CAで定電流放電させた際の放電容量を負極の放電容量とした。
【0048】
ここで、1CAは、1時間で電池容量の充電又は放電が終了する電流値であり、0.2CAは、5時間で電池容量の充電又は放電が終了する電流値である。0.2CAの場合、負極の厚さの影響を無視することができる。
【0049】
実施例1〜20、参考例1〜3及び比較例1〜17の負極の設計容量(Ah/kg)と、測定した負極の放電容量Q(Ah/kg)の値を後述する表2に記載する。
【0050】
また、実施例1〜20、参考例1〜3及び比較例1〜17について、式1,式2を満たすものをそれぞれ「〇」と評価し、式1,式2を満たさないものをそれぞれ「×」と評価した。評価結果を表2に併記する。
【0051】
(2.2)サイクル特性評価
作製したラミネートセルを用いて、電圧4.2V、電流0.5CAの定電流充電を行った後、2時間の定電圧充電を行った。放電は、電圧2V、電流0.5CAで定電流放電を行い、これらを100回繰り返し、1回目の放電容量に対する100回目の放電容量の比率をラミネートセルの100サイクル後の容量維持率とした。実施例1〜20、参考例1〜3及び比較例1〜17の容量維持率を表2に併記する。
【0052】
【表2】
【0053】
図6はリチウムイオン二次電池の容量維持率と集電体の空孔率Yの関係を示すグラフである。図6は、実施例1〜6(負極の放電容量Q:400Ah/kg)、実施例7〜11及び比較例1〜2(負極の放電容量Q:500Ah/kg)、実施例12〜15及び比較例3〜5(負極の放電容量Q:600Ah/kg)、実施例16〜18及び比較例6〜9(負極の放電容量Q:700Ah/kg)及び比較例10〜16(負極の放電容量Q:800Ah/kg)の放電容量Qと空孔率Yをプロットしたグラフである。
【0054】
図6に示すように、容量維持率と空孔率Yの関係は、負極の放電容量Qによって変わることがわかる。負極の放電容量Qが400Ah/kgの場合、空孔率Yが0〜50%の間で、90%程度の高い容量維持率を示している。負極の放電容量Qが500Ah/kgの場合、空孔率Yが10〜50%のときに(図6の領域(I))90%程度の高い容量維持率となる。負極の放電容量Qが600Ah/kgの場合、空孔率Yが20〜50%のときに(図6の領域(II))80%以上の高い容量維持率となる。負極の放電容量Qが700Ah/kgの場合、空孔率Yが30〜50%のときに(図6の領域(III))76%以上の高い容量維持率となる。
【0055】
図7はリチウムイオン二次電池の集電体の空孔率Yと負極の容量Qの関係を示すグラフである。図7は、高いサイクル特性を有する実施例1〜18のデータをプロットしている。このグラフから、高サイクル特性を実現するためのYとQの関係を示す式1(0.1Q−40≦Y≦50)を求めることができる。すなわち、式1を満たす実施例1〜18は、高容量及び高サイクル特性を両立することができることがわかる。
【0056】
実施例14、実施例19及び実施例20の比較から、貫通孔径rがSi系負極活物質の平均粒径(5μm)以上120μm以下であれば、高容量及び高サイクル特性を両立することができることがわかった。
【0057】
一方、比較例1〜17は、放電容量Qについては設計容量通りとなっているが、式1を満たしていないため、同じ放電容量Qの実施例と比較してサイクル特性が低くなっている。Y<0.1Q−40の集電体はシワを抑制できず、一方、Yが50%より大きい場合は集電体の強度が低下し、サイクル特性が低下しているものと考察される。
【0058】
比較例17は集電体1の貫通孔の径が130μmであり、塗工時にスラリーが落ちてしまい、塗工することができなかった。
【0059】
参考例1は、式1を満たしているが、バインダの破断強度Aが好ましい範囲である80〜400MPaの範囲外(80MPa未満)であり、かつ、式2を満たしていない。このため、サイクル特性が低下している。
【0060】
参考例2は、式1を満たし、高いサイクル特性を示しているが、放電容量Qが設計容量より低下している。これは、バインダの破断強度Aが好ましい範囲である80〜400MPaの範囲外(400MPaより大きい)であり、かつ、式2を満たさないために、つまりバインダ中のイミド基の量が多いために、負極バインダ中のイミド基にLiがトラップされ、負極の不可逆容量となり、負極の放電容量が低くなっているものと考えられる。
【0061】
参考例3は、式1及び式2ともに満たしているが、サイクル特性が低い。これは、参考例3は貫通孔の径が負極活物質の平均粒径5μmより小さく、集電体への応力を緩和できず、サイクル特性が低下したものと考えられる。
【0062】
以上、説明したように、本発明によれば、Siを含む負極活物質と、ポリイミド、ポリアミド又はポリアミドイミドをバインダとして備えるリチウムイオン二次電池において、高容量及び高サイクル特性を高いレベルで両立することができるリチウムイオン二次電池を提供することができることが実証された。
【0063】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0064】
例えば、本実施例では。リチウムイオン二次電池として積層型のラミネートセルを作製しているが、他捲回構造であっても金属缶に封入されたものであっても同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0065】
1,1a、1b,1´…集電体、2,2´…負極活物質。3,3´…黒鉛、4,4´…バインダ、5,5´…負極合剤層、7,7´…集電体のシワ、10,10´…負極、20,20a,20b…貫通孔、40…積層型電極群、41…正極端子、42…負極端子、43…正極未塗工部、44…負極未塗工部、45…正極、46…負極、47…セパレータ、50…ラミネートセル、51…ラミネートフィルム(ケース側)、52…電極群、53…ラミネートフィルム(ふた側)。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7