特許第6937646号(P6937646)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6937646
(24)【登録日】2021年9月2日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】ワイヤ送給装置及び較正方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/133 20060101AFI20210909BHJP
   B23K 9/12 20060101ALI20210909BHJP
【FI】
   B23K9/133 501Z
   B23K9/12 303B
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-186336(P2017-186336)
(22)【出願日】2017年9月27日
(65)【公開番号】特開2019-58936(P2019-58936A)
(43)【公開日】2019年4月18日
【審査請求日】2020年5月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100108213
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 豊隆
(72)【発明者】
【氏名】楠本 太郎
(72)【発明者】
【氏名】荒金 智
【審査官】 正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−058469(JP,A)
【文献】 特開2015−199091(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/133
B23K 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤを送給する第1のワイヤ送給部と、
前記第1のワイヤ送給部により送給された溶接ワイヤを収容するワイヤバッファと、
前記ワイヤバッファに収容された溶接ワイヤを溶接トーチに送給する第2のワイヤ送給部と、
前記ワイヤバッファに収容されている溶接ワイヤの所定位置における角度を検出する角度検出部と、
前記角度検出部により検出される角度に基づいて、前記ワイヤバッファに収容されている溶接ワイヤのバッファ量を取得するバッファ量取得部と、
前記バッファ量取得部の較正を実行する較正部と、
少なくとも前記第1のワイヤ送給部及び前記第2のワイヤ送給部のいずれか一方において溶接ワイヤを移動させるモータと、
を備え、
前記較正部は、
前記モータを駆動させ、前記バッファ量が減るように溶接ワイヤを移動させるワイヤ移動制御部と、
前記モータのトルクが閾値に到達したときの前記バッファ量を、前記バッファ量の最小値に設定し、当該最小値に、前記ワイヤバッファにおいて機械的に動作可能な範囲に対応する前記角度検出部による検出値の幅を加算した値を、前記バッファ量の最大値に設定する設定部と、
を含む、
ワイヤ送給装置。
【請求項2】
前記バッファ量は、前記ワイヤバッファに収容されている溶接ワイヤの長さにより定まる、
請求項1記載のワイヤ送給装置。
【請求項3】
前記較正部は、
前記バッファ量の中央値として、前記最小値及び前記最大値の平均値を設定する、
請求項1又は2記載のワイヤ送給装置。
【請求項4】
溶接ワイヤを送給する第1のワイヤ送給部と、前記第1のワイヤ送給部により送給された溶接ワイヤを収容するワイヤバッファと、前記ワイヤバッファに収容された溶接ワイヤを溶接トーチに送給する第2のワイヤ送給部と、前記ワイヤバッファに収容されている溶接ワイヤの所定位置における角度を検出する角度検出部と、前記角度検出部により検出される角度に基づいて、前記ワイヤバッファに収容されている溶接ワイヤのバッファ量を取得するバッファ量取得部と、を備えるワイヤ送給装置において前記バッファ量取得部の較正を実行する方法であって、
少なくとも前記第1のワイヤ送給部及び前記第2のワイヤ送給部のいずれか一方において溶接ワイヤを移動させるモータを駆動させ、前記バッファ量が減るように溶接ワイヤを移動させるステップと、
前記モータのトルクが閾値に到達したときの前記バッファ量を、前記バッファ量の最小値に設定し、当該最小値に、前記ワイヤバッファにおいて機械的に動作可能な範囲に対応する前記角度検出部による検出値の幅を加算した値を、前記バッファ量の最大値に設定するステップと、
を含む較正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ送給装置及び較正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、2つのワイヤ送給部の間にワイヤバッファを設けたワイヤ送給装置が開示されている。このワイヤ送給装置は、ワイヤバッファに収容される溶接ワイヤの量(以下、「バッファ量」という。)の取得値を、溶接ワイヤに対する押力(長さ方向に圧縮する力)及び張力に基づいて較正(キャリブレーション)する。具体的に、ワイヤ送給装置は、バッファ量が増えるように溶接ワイヤを移動させ、溶接ワイヤに対する押力が閾値を超えたときのバッファ量を最大値に設定する一方、バッファ量が減るように溶接ワイヤを移動させ、溶接ワイヤに対する張力が閾値を超えたときのバッファ量を最小値に設定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−58469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載のワイヤ送給装置では、バッファ量の最大値にばらつきが生じることがある。その要因として、例えば溶接ワイヤの種類や溶接ロボットの姿勢によって、押力に対するバッファ量が変化することが挙げられる。具体的に、鉄の溶接ワイヤとアルミの溶接ワイヤとのそれぞれに同じ押力を付与した場合、バッファ量は、鉄の溶接ワイヤよりもアルミの溶接ワイヤの方が大きくなる。したがって、アルミの溶接ワイヤを装備しているときに設定したバッファ量の最大値は、鉄の溶接ワイヤを装備しているときに設定したバッファ量の最大値よりも大きくなる傾向にある。つまり、特許文献1のワイヤ送給装置のように、溶接ワイヤに対する押力に基づいてバッファ量の最大値を設定すると、バッファ量の最大値にばらつきが生じ、較正の精度が低下する要因となる。
【0005】
そこで、本発明は、較正の精度を向上させることができるワイヤ送給装置及び較正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るワイヤ送給装置は、溶接ワイヤを送給する第1のワイヤ送給部と、第1のワイヤ送給部により送給された溶接ワイヤを収容するワイヤバッファと、ワイヤバッファに収容された溶接ワイヤを溶接トーチに送給する第2のワイヤ送給部と、ワイヤバッファに収容されている溶接ワイヤのバッファ量を取得するバッファ量取得部と、バッファ量取得部の較正を実行する較正部と、少なくとも第1のワイヤ送給部及び第2のワイヤ送給部のいずれか一方において溶接ワイヤを移動させるモータと、を備え、較正部は、モータを駆動させ、バッファ量が減るように溶接ワイヤを移動させるワイヤ移動制御部と、モータのトルクが閾値に到達したときのバッファ量を、バッファ量の最小値に設定し、当該最小値に所定値を加算した値を、バッファ量の最大値に設定する設定部と、を含む。
【0007】
この態様によれば、第1のワイヤ送給部と第2のワイヤ送給部との間に設けられたワイヤバッファに収容されている溶接ワイヤのバッファ量を取得するバッファ量取得部の較正を実行する際に、少なくとも第1のワイヤ送給部及び第2のワイヤ送給部のいずれか一方において溶接ワイヤを移動させるモータを駆動させて、バッファ量が減るように溶接ワイヤを移動させ、モータのトルクが閾値に到達したときのバッファ量を、バッファ量の最小値に設定し、当該最小値に所定値を加算した値をバッファ量の最大値に設定することが可能となる。これにより、較正時のばらつきが比較的少ない最小値に対して、所定値を加えることで、最大値を算出することができるため、バッファ量の最大値のばらつきを抑えることができる。
【0008】
上記態様において、バッファ量は、ワイヤバッファに収容されている溶接ワイヤの長さにより定まることとしてもよい。ワイヤバッファに収容できる溶接ワイヤの最小及び最大の長さは、ワイヤバッファ内の形状によって機械的に定めることができる。したがって、バッファ量を、ワイヤバッファに収容されている溶接ワイヤの長さで定めることにより、バッファ量の最小値及び最大値が把握しやすくなる。
【0009】
上記態様において、ワイヤバッファに収容されている溶接ワイヤの所定位置における角度を検出する角度検出部をさらに備え、バッファ量は、角度検出部により検出される角度により定まることとしてもよい。ワイヤバッファへの溶接ワイヤの収容量が最小のとき及び最大のときの所定位置における角度は、ワイヤバッファ内の形状によって機械的に定めることができる。したがって、バッファ量を、角度検出部により検出される角度で定めることにより、バッファ量の最小値及び最大値が把握しやすくなる。
【0010】
上記態様において、較正部は、バッファ量の中央値として、最小値及び最大値の平均値を設定することとしてもよい。これにより、溶接ワイヤの送給を制御する際の目標値にバッファ量の中央値を設定することができるため、溶接ワイヤを送給する際にバッファ量が最小値又は最大値に到達する可能性を低減させることができ、溶接時の安定性を向上させることが可能となる。
【0011】
本発明の他の態様に係る較正方法は、溶接ワイヤを送給する第1のワイヤ送給部と、第1のワイヤ送給部により送給された溶接ワイヤを収容するワイヤバッファと、ワイヤバッファに収容された溶接ワイヤを溶接トーチに送給する第2のワイヤ送給部と、ワイヤバッファに収容されている溶接ワイヤのバッファ量を取得するバッファ量取得部と、を備えるワイヤ送給装置においてバッファ量取得部の較正を実行する方法であって、少なくとも第1のワイヤ送給部及び第2のワイヤ送給部のいずれか一方において溶接ワイヤを移動させるモータを駆動させ、バッファ量が減るように溶接ワイヤを移動させるステップと、モータのトルクが閾値に到達したときのバッファ量を、バッファ量の最小値に設定し、当該最小値に所定値を加算した値を、バッファ量の最大値に設定するステップと、を含む。
【0012】
この態様によれば、第1のワイヤ送給部と第2のワイヤ送給部との間に設けられたワイヤバッファに収容されている溶接ワイヤのバッファ量を取得するバッファ量取得部の較正を実行する際に、少なくとも第1のワイヤ送給部及び第2のワイヤ送給部のいずれか一方において溶接ワイヤを移動させるモータを駆動させて、バッファ量が減るように溶接ワイヤを移動させ、モータのトルクが閾値に到達したときのバッファ量を、バッファ量の最小値に設定し、当該最小値に所定値を加算した値をバッファ量の最大値に設定することが可能となる。これにより、較正時のばらつきが比較的少ない最小値に対して、所定値を加えることで、最大値を算出することができるため、バッファ量の最大値のばらつきを抑えることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、較正の精度を向上させることができるワイヤ送給装置及び較正方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態におけるワイヤ送給装置の概略構成を例示するブロック図である。
図2図1のワイヤバッファの構成を例示する模式図である。
図3図1のワイヤ送給装置の動作の一例を説明するためのフローチャートである。
図4】変形例におけるワイヤバッファの構成を例示する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。
【0016】
図1は、本発明に係るワイヤ送給装置の概略構成を例示するブロック図である。ワイヤ送給装置1は、ワイヤリール2に巻かれた溶接ワイヤ4を、アーク溶接を行う溶接トーチ3に送給する装置である。ワイヤ送給装置1は、例えば、第1のワイヤ送給部11と、ワイヤバッファ12と、第2のワイヤ送給部13と、バッファ量取得部14と、ワイヤ送給制御部151及び較正部152を有する制御部15と、を備える。
【0017】
第1のワイヤ送給部11は、ワイヤリール2に巻かれた溶接ワイヤ4を溶接トーチ3に向けて送給する。第1のワイヤ送給部11は、例えば、溶接ワイヤ4を前進又は後退させるローラ(不図示)と、このローラを回転させるモータ(不図示)とを有する。溶接ワイヤ4の前進とは、溶接ワイヤ4が溶接トーチ3の方向に移動することであり、溶接ワイヤ4の後退とは、溶接ワイヤ4がワイヤリール2の方向に移動することである。
【0018】
モータは、制御部15からの指示に従って、溶接ワイヤ4を前進させる方向又は後退させる方向に回転する。例示的に、第1のワイヤ送給部11は、溶接するときには、ワイヤ送給制御部151からの指示に従って、溶接ワイヤ4を前進させる方向に送給する。また、第1のワイヤ送給部11は、較正するときには、較正部152からの指示に従って、溶接ワイヤ4を前進させる方向又は後退させる方向に移動させる。
【0019】
第2のワイヤ送給部13は、ワイヤバッファ12に収容された溶接ワイヤ4を溶接トーチ3に送給する。第2のワイヤ送給部13は、前述した第1のワイヤ送給部11と同様に、ローラとモータとを有する。ローラ及びモータの詳細については省略する。
【0020】
例示的に、第2のワイヤ送給部13は、溶接するときには、ワイヤ送給制御部151からの指示に従って、溶接ワイヤ4を母材に対して前進、後退させることを高速に繰り返しながら、溶接トーチ3に溶接ワイヤ4を送給する。また、第2のワイヤ送給部13は、較正するときには、較正部152からの指示に従って、溶接ワイヤ4を前進させる方向又は後退させる方向に移動させる。
【0021】
ワイヤバッファ12は、第1のワイヤ送給部11と第2のワイヤ送給部13との間に設けられる。ワイヤバッファ12は、第1のワイヤ送給部11により送給された溶接ワイヤ4を収容し、収容した溶接ワイヤ4を第2のワイヤ送給部13に渡す。第1のワイヤ送給部11により送給された溶接ワイヤ4の量と、第2のワイヤ送給部13によって前進方向に送給された溶接ワイヤ4の量とに応じて、ワイヤバッファ12に収容される溶接ワイヤ4の量、すなわちバッファ量が変動する。
【0022】
例えば、第1のワイヤ送給部11によって前進方向に送給された溶接ワイヤ4の量が、第2のワイヤ送給部13によって前進方向に送給された溶接ワイヤ4の量よりも多い場合に、バッファ量が増加する。また、第1のワイヤ送給部11によって前進方向に送給された溶接ワイヤ4の量が、第2のワイヤ送給部13によって前進方向に送給された溶接ワイヤ4の量よりも少ない場合に、バッファ量が減少する。
【0023】
これらを言い換えると、ワイヤバッファ12に収容される溶接ワイヤ4の長さが変化することにより、バッファ量が変動する。したがって、バッファ量は、ワイヤバッファ12に収容されている溶接ワイヤ4の長さに基づいて定めることができる。
【0024】
図2を参照し、ワイヤバッファ12の構成の一例について説明する。ワイヤバッファ12は、例えば、ケース121と、ワイヤガイド122と、支持部123とを有する。
【0025】
ケース121には、内部に溶接ワイヤ4を通過させるための入口121a及び出口121bが設けられている。入口121aと出口121bとの間には、溶接ワイヤ4をガイドするワイヤガイド122が設けられている。ワイヤガイド122は、例えば、コイル状にした金属線材又は樹脂により形成され、ケース121に収容される溶接ワイヤ4の量、すなわちバッファ量に応じて、長さが伸び縮みする。
【0026】
具体的に、バッファ量が増えると、ワイヤガイド122の長さが長くなり、バッファ量が最大になると、ワイヤガイド122が図2の122xの状態になる。一方、バッファ量が減ると、ワイヤガイド122の長さが短くなり、バッファ量が最小になると、ワイヤガイド122が図2の122nの状態になる。
【0027】
支持部123は、ワイヤガイド122の少なくとも一部をケース121に対して回転可能に支持する。図2に例示する支持部123は、ケース121の略中央において、ワイヤガイド122の略中央を回転可能(図示の回転方向)に支持する。支持部123は、例えば、ケース121に対して回転可能に設けられた円盤状の部材により形成され、支持部123の直径方向に設けられた孔にワイヤガイド122を通過させる。
【0028】
支持部123は、バッファ量が増えると、図示の反時計回り方向に回転する。一方、支持部123は、バッファ量が減ると、図示の時計回り方向に回転する。
【0029】
支持部123の内部には、エンコーダ(不図示)が設けられている。エンコーダは、支持部123のケース121に対する回転角度を検出する。なお、回転角度を検出するのは、エンコーダに限定されず、例えば回転角度を検出可能なセンサ等を含む角度検出部であればよい。
【0030】
図1に示すバッファ量取得部14は、ワイヤバッファ12に収容されている溶接ワイヤ4の量、すなわちバッファ量を取得する。具体的に説明すると、バッファ量取得部14は、支持部123のエンコーダにより検出された回転角度を取得することで、バッファ量を取得する。
【0031】
ここで、前述したように、バッファ量が増減すると、支持部123の回転角度が増減する関係にある。つまり、バッファ量と支持部123の回転角度とは単調写像の関係にある。したがって、回転角度が判明すれば、その回転角度をバッファ量に換算することができる。これにより、回転角度を取得することで、その回転角度に基づいてバッファ量を取得することができる。
【0032】
なお、バッファ量を取得する方法は、前述したエンコーダを用いるものには限定されない。例えば、バッファ量取得部14は、ケース121の入口121aと出口121bとにそれぞれ設けられた、溶接ワイヤ4の移動に応じて回転するローラと、このローラの回転数を検知するエンコーダとを用いてバッファ量を取得することとしてもよい。この場合、バッファ量取得部14は、ケース121に入った溶接ワイヤ4の長さと、ケース121から出た溶接ワイヤ4の長さとを取得することで、バッファ量を取得することができる。具体的に、バッファ量取得部14は、ケース121に入った溶接ワイヤ4の長さから、ケース121から出た溶接ワイヤ4の長さを減算することで、バッファ量を取得する。
【0033】
図1に示す制御部15は、物理的な構成として、例えば、プロセッサ、メモリ及び通信インタフェースを含む制御ユニットにより構成される。制御部15は、プロセッサがメモリに格納された所定のプログラムを実行することにより、図1に例示するワイヤ送給制御部151及び較正部152としての機能を実現する。
【0034】
ワイヤ送給制御部151は、バッファ量取得部14により取得されるバッファ量が、目標値に合致するように、少なくとも第1のワイヤ送給部11及び第2のワイヤ送給部13のいずれかに指令を出力し、溶接ワイヤ4の送給を制御する。上記目標値は、例えば、バッファ量の最大値及び最小値の中央値であってもよいし、バッファ量の最大値と最小値との間を予め定められた割合で分割する値であってもよい。
【0035】
較正部152は、ワイヤ移動制御部152a及び設定部152bを有し、バッファ量取得部14の較正を実行する。
【0036】
ワイヤ移動制御部152aは、少なくとも第1のワイヤ送給部11及び第2のワイヤ送給部13のいずれかに設けられたモータを駆動させ、バッファ量が減るように溶接ワイヤ4を移動させる。
【0037】
設定部152bは、モータのトルクが閾値に到達したときのバッファ量を、バッファ量の最小値に設定し、この最小値に所定値を加算した値を、バッファ量の最大値に設定する。閾値は、バッファ量の最小値が最適な値となるときのモータのトルクを予め実験等により求め、設定することが好ましい。所定値は、ワイヤ送給装置1ごとに固有の値を任意に定めることができるが、例えば、ワイヤバッファ12において機械的に動作可能な範囲に対応するエンコーダの検出値の幅を、所定値として定めることが好ましい。これにより、較正時のばらつきが比較的少ない最小値に対し、ワイヤバッファ12に固有の機械的に動作可能な範囲に対応するエンコーダの検出値の幅を加えて最大値を算出することができるため、バッファ量の最大値のばらつきを抑えることができる。
【0038】
設定部152bは、最小値及び最大値の平均値を、バッファ量の中央値に設定する。ここで、設定部152bにより設定されるバッファ量の最小値、最大値及び中央値等は、例えば、メモリ上に構築された設定値テーブルに格納される。
【0039】
次に、図3を参照して、実施形態におけるワイヤ送給装置1の動作について説明する。
【0040】
最初に、ワイヤ移動制御部152aは、少なくとも第1のワイヤ送給部11及び第2のワイヤ送給部13のいずれかに設けられたモータを駆動させ、バッファ量が減るように溶接ワイヤ4を移動させる(ステップS101)。
【0041】
続いて、設定部152bは、モータのトルクが閾値に到達したか否かを判定する(ステップS102)。この判定がNOである場合(ステップS102;NO)には、YESになるまでステップS102の判定を繰り返す。
【0042】
上記ステップS102の判定でモータのトルクが閾値に到達したと判定された場合(ステップS102;YES)に、設定部152bは、モータのトルクが閾値に到達したときのバッファ量を、バッファ量の最小値に設定する(ステップS103)。
【0043】
続いて、設定部152bは、上記ステップS103で設定した最小値に、所定値を加算した値を、バッファ量の最大値に設定する(ステップS104)。
【0044】
続いて、設定部152bは、上記ステップS103で設定した最小値及び上記ステップS104で設定した最大値の平均値を、バッファ量の中央値に設定する(ステップS105)。
【0045】
上述したように、実施形態におけるワイヤ送給装置1によれば、第1のワイヤ送給部11と第2のワイヤ送給部13との間に設けられたワイヤバッファ12に収容されている溶接ワイヤ4のバッファ量を取得するバッファ量取得部14の較正を実行する際に、少なくとも第1のワイヤ送給部11及び第2のワイヤ送給部13のいずれか一方において溶接ワイヤ4を移動させるモータを駆動させて、バッファ量が減るように溶接ワイヤ4を移動させ、モータのトルクが閾値に到達したときのバッファ量を、バッファ量の最小値に設定し、当該最小値に所定値を加算した値を、バッファ量の最大値に設定することが可能となる。
【0046】
これにより、較正時のばらつきが比較的少ない最小値に対して、ワイヤ送給装置1固有の値を加えることで、最大値を算出することができるため、バッファ量の最大値のばらつきを抑えることができる。それゆえ、実施形態におけるワイヤ送給装置1によれば、較正の精度を向上させることが可能となる。
【0047】
[変形例]
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。例えば、前述した各処理ステップは処理内容に矛盾を生じない範囲で任意に順番を変更し、または並列に実行することができる。
【0048】
また、ワイヤバッファの構成は、前述した実施形態における構成に限定されない。例えば、図4に示すワイヤバッファ12Sにも本発明を適用することができる。図4のワイヤバッファ12Sは、例えば、ケース121Sと、ワイヤガイド122Sと、支持部123Sとを有する。ケース121Sには、内部に溶接ワイヤ4を通過させるための入口121Sa及び出口121Sbが設けられている。
【0049】
本変形例のワイヤバッファ12Sと図2に示す実施形態のワイヤバッファ12との間の主な相違点は、本変形例のケース121Sが肉厚に形成されており、ワイヤガイド122Sの移動範囲が制限されている点である。本変形例では、バッファ量が最大になると、ケース121Sの内壁121Sd及び内壁121Seの双方に、ワイヤガイド122が当接しそうになる又は当接する。また、バッファ量が最小になると、ケース121Sの内壁121Sc及び内壁121Sfの双方に、ワイヤガイド122が当接しそうになる又は当接する。
【0050】
本変形例のワイヤバッファ12Sにおいて機械的に動作可能となる範囲は、ワイヤガイド122が、ケース121Sの内壁121Sc及び内壁121Sfの双方に当接しそうになる又は当接するときから、ワイヤガイド122が、ケース121Sの内壁121Sd及び内壁121Seの双方に当接しそうになる又は当接するときまでの範囲となる。したがって、本変形例においては、この機械的に動作可能となる範囲に対応するエンコーダの検出値の幅を、バッファ量の最大値を算出する際に用いる所定値に設定することが好ましい。
【符号の説明】
【0051】
1…ワイヤ送給装置、2…ワイヤリール、3…溶接トーチ、4…溶接ワイヤ、11…第2のワイヤ送給部、12…ワイヤバッファ、13…第1のワイヤ送給部、14…バッファ量取得部、15…制御部、121…ケース、122…ワイヤガイド、123…支持部、151…ワイヤ送給制御部、152…較正部、152a…ワイヤ移動制御部、152b…設定部。
図1
図2
図3
図4