特許第6937650号(P6937650)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6937650
(24)【登録日】2021年9月2日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】部分めっき方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/02 20060101AFI20210909BHJP
【FI】
   C25D5/02 G
   C25D5/02 H
   C25D5/02 J
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-190604(P2017-190604)
(22)【出願日】2017年9月29日
(65)【公開番号】特開2019-65332(P2019-65332A)
(43)【公開日】2019年4月25日
【審査請求日】2020年7月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】506365131
【氏名又は名称】DOWAメタルテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107548
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 浩一
(72)【発明者】
【氏名】足達 俊祐
(72)【発明者】
【氏名】堤 秀人
【審査官】 大塚 美咲
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−131284(JP,A)
【文献】 特開2005−206935(JP,A)
【文献】 特開2006−052472(JP,A)
【文献】 特開2012−087367(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の開口部を有する円筒形のマスク部材が円周方向に回転してマスク部材外周の一部に帯板状の被めっき材を密着させて搬送しながら、マスク部材の各々の開口部を介して、被めっき材にめっき液を供給するとともに、マスク部材の内周面側に配置された電極と被めっき材との間に電流を流して、被めっき材上のマスク部材の開口部に対向する部分をめっきする方法において、マスク部材の開口部に対向する部分をめっきした後、水を染み込ませた状態の給水スポンジロールをマスク部材の外周面に当接させながら回転させて、マスク部材の外周面に付着しためっき液を拭き取ることを特徴とする、部分めっき方法。
【請求項2】
前記給水スポンジロールを、前記マスク部材の外周面の前記被めっき材と密着する部分以外の部分において、前記マスク部材の外周面に当接させながら、前記マスク部材の回転により逆方向に回転させて、前記マスク部材の外周面に付着した前記めっき液を拭き取ることを特徴とする、請求項に記載の部分めっき方法。
【請求項3】
円周方向に回転可能な円筒形のマスク部材の外周面の一部に帯板状の被めっき材を密着させて搬送しながら、マスク部材に形成された複数の開口部の各々を介して、被めっき材にめっき液を供給するとともに、マスク部材の内周面側に配置された電極と被めっき材との間に電流を流して、被めっき材上のマスク部材の開口部に対向する部分をめっきする方法において、水を染み込ませた状態の給水スポンジロールを、マスク部材の外周面の被めっき材と密着する部分以外の部分において、マスク部材の外周面に当接させながら、マスク部材の回転により逆方向に回転させて、マスク部材の外周面に付着しためっき液を連続的に拭き取ることを特徴とする、部分めっき方法。
【請求項4】
前記マスク部材が非導電性部材からなることを特徴とする、請求項1乃至のいずれかに記載の部分めっき方法。
【請求項5】
前記水をしみこませた状態の給水スポンジロールが、給水器から水が供給された状態の給水スポンジロールであることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の部分めっき方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部分めっき方法に関し、特に、帯板状の被めっき材上の所定の部分をめっきする、部分めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、端子などの材料として使用される帯板状の被めっき材の所定の部分をめっきする方法として、円周方向に回転可能な略円筒形の非導電性部材からなるマスク部材の外周面に帯板状の被めっき材を密着させて搬送しながら、マスク部材に形成された複数の開口部の各々を介して、被めっき材にめっき液を供給するとともに、マスク部材の内周面側に配置されたアノードとカソードとしての被めっき材との間に電流を流して、被めっき材上のマスク部材の各々の開口部に対向する部分をめっきする方法が知られている。
【0003】
このような部分めっき方法に使用するマスク部材として、外周部に複数の位置決めピンが配置され、これらの位置決めピンが金属部材と係合して、金属部材を外周部に沿って搬送するドラム治具が知られている(例えば、特許文献1参照)。このようなドラム治具を使用して金属部材を部分めっきすると、金属部材がドラム治具の位置決めピンと係合して搬送されるので、金属部材上の所定の位置に精度良くめっきすることができる。
【0004】
しかし、ドラム治具のようなマスク部材の外周面に帯板状の被めっき材を密着させて搬送しながら、連続的に部分めっきを行うと、マスク部材の外周面に付着した過剰なめっき液からめっき金属が析出して、マスク部材に形成された開口部の内面や周縁部にめっき金属の析出物が付着し、その部分の電流密度が低下して、めっき皮膜の一部が欠けたように薄くなるという問題がある。
【0005】
このような問題を解消するため、マスク回転体に向かって、微量の純水を噴射する洗浄ノズルと、マスク回転体の表面から過剰な液体を落とす拭き取り部材を非めっき領域に付設することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−100593号公報(段落番号0030)
【特許文献2】特開2012−87367号公報(段落番号0018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2のように、洗浄ノズルからマスク回転体に向かって水を噴射しながら、拭き取り部材によりマスク回転体の表面から過剰な液体を落とすようにすると、マスク回転体の開口部(窓)が小さい場合に、マスク回転体の外周面に付着した過剰なめっき液が、噴射された水とともに、マスク回転体の開口部の内部に入り込んで、めっき金属が析出して、その開口部の内面にめっき金属の析出物が付着し、その部分の電流密度が低下して、めっき皮膜の一部が欠けたように薄くなる場合がある。
【0008】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、複数の開口部を有するマスク部材の一方の面に帯板状の被めっき材を密着させて、被めっき材上のマスク部材の開口部に対向する部分をめっきする方法において、マスク部材の開口部が比較的小さくても、めっき皮膜の一部が欠けたように薄くなるのを抑制することができる、部分めっき方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、複数の開口部を有するマスク部材の一方の面に帯板状の被めっき材を密着させて配置した後、マスク部材の各々の開口部を介して、被めっき材にめっき液を供給するとともに、マスク部材の他方の面側に配置された電極と被めっき材との間に電流を流して、被めっき材上のマスク部材の開口部に対向する部分をめっきする方法において、マスク部材の開口部に対向する部分をめっきした後、水を染み込ませた状態の給水スポンジロールをマスク部材の一方の面に当接させながら回転させて、マスク部材の一方の面に付着しためっき液を拭き取ることにより、マスク部材の開口部が比較的小さくても、めっき皮膜の一部が欠けたように薄くなるのを抑制できることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明による部分めっき方法は、複数の開口部を有するマスク部材の一方の面に帯板状の被めっき材を密着させて配置した後、マスク部材の各々の開口部を介して、被めっき材にめっき液を供給するとともに、マスク部材の他方の面側に配置された電極と被めっき材との間に電流を流して、被めっき材上のマスク部材の開口部に対向する部分をめっきする方法において、マスク部材の開口部に対向する部分をめっきした後、水を染み込ませた状態の給水スポンジロールをマスク部材の一方の面に当接させながら回転させて、マスク部材の一方の面に付着しためっき液を拭き取ることを特徴とする。
【0011】
この部分めっき方法において、マスク部材が略円筒形の部材であり、マスク部材の一方の面および他方の面がそれぞれ外周面および内周面であるのが好ましい。この場合、マスク部材が円周方向に回転してマスク部材の外周面の一部に被めっき材を密着させて搬送しながら、被めっき材上のマスク部材の開口部に対向する部分をめっきするのが好ましい。この場合、給水スポンジロールを、マスク部材の外周面の被めっき材と密着する部分以外の部分において、マスク部材の外周面に当接させながら、マスク部材の回転により逆方向に回転させて、マスク部材の外周面に付着しためっき液を拭き取るのが好ましい。
【0012】
また、本発明による部分めっき方法は、円周方向に回転可能な略円筒形のマスク部材の外周面の一部に帯板状の被めっき材を密着させて搬送しながら、マスク部材に形成された複数の開口部の各々を介して、被めっき材にめっき液を供給するとともに、マスク部材の内周面側に配置された電極と被めっき材との間に電流を流して、被めっき材上のマスク部材の開口部に対向する部分をめっきする方法において、水を染み込ませた状態の給水スポンジロールを、マスク部材の外周面の被めっき材と密着する部分以外の部分において、マスク部材の外周面に当接させながら、マスク部材の回転により逆方向に回転させて、マスク部材の外周面に付着しためっき液を連続的に拭き取ることを特徴とする。
【0013】
上記の部分めっき方法において、マスク部材が非導電性部材からなるのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複数の開口部を有するマスク部材の一方の面に帯板状の被めっき材を密着させて、被めっき材上のマスク部材の開口部に対向する部分をめっきする方法において、マスク部材の開口部が比較的小さくても、めっき皮膜の一部が欠けたように薄くなるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明による部分めっき方法の実施の形態に使用する部分めっき装置の側面を示す図である。
図2図1の部分めっき装置を水平面で切断して示す断面図である。
図3図2の部分めっき装置をIII−III線で切断して示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明による部分めっき方法の実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は本発明による部分めっき方法の実施の形態に使用する部分めっき装置の側面を示す図であり、図2図1の部分めっき装置を水平面で切断して示す断面図、図3図2の部分めっき装置をIII−III線で切断して示す拡大断面図である。なお、図1において、マスク部材上に配置される前後の被めっき材を見易くするために、被めっき材の方向を変える支持ロールをマスク部材の外側に示している。
【0018】
図1図3に示すように、本発明による部分めっき方法の実施の形態では、部分めっき装置10のマスク部材12の一方の面に長尺の帯板状の被めっき材14を密着させて配置した後、マスク部材12の複数の開口部12aの各々を介して、被めっき材14にめっき液を供給するとともに、マスク部材12の他方の面側に配置された電極(アノード)16と被めっき材14との間に電流を流して、被めっき材14上のマスク部材12の各々の開口部12aに対向する部分をめっきするようになっている。
【0019】
マスク部材12は、回転可能な略円筒形の(ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂などの)非導電性部材からなるマスク部材本体(ドラム形マスク部材本体)に、被めっき材支持部として上下方向略中央部に全周にわたって延びる凹部12bが形成され、この凹部12bの底面に被めっき材14が密着して配置されるようになっている。また、マスク部材12には、円周方向に所定の間隔(図示した実施の形態では略等間隔)で離間して所定の形状(図示した実施の形態では略矩形)の複数(図示した実施の形態では10個)の開口部12aが側面を貫通して形成されている。また、マスク部材12の外周面(一方の面)には、円周方向に所定の間隔(図示した実施の形態では略等間隔)で離間して所定の形状(図示した実施の形態では略円柱形)の複数の位置決めピン12cが突起しており、マスク部材12の外周面に被めっき材14が密着して配置される際に、被めっき材14に所定の間隔(位置決めピン12cと同一の間隔)で貫通して形成された所定の形状(図示した実施の形態では位置決めピン12cより僅かに大きい略円柱形)の複数の貫通孔14aと嵌合するようになっている。
【0020】
図2において矢印Aで示す方向に搬送された被めっき材14は、回転可能な入口側支持ロール20により方向を変えて、マスク部材12の外周面に密着すると、被めっき材14の貫通孔14aがマスク部材12の位置決めピン12cと嵌合して、マスク部材12を矢印Bで示す方向に回転させた後、回転可能な出口側支持ロール22により方向を変えて矢印Aで示す方向に搬送されるようになっている。
【0021】
このようにマスク部材12の外周面に被めっき材14を密着させて配置している間に、マスク部材12の各々の開口部12aを介して、マスク部材12の他方の面(内周面)側に配置されためっき液噴流部18のスリット18aから被めっき材14にめっき液が供給されるとともに、マスク部材12の内周面側に配置された電極(アノード)16とカソードとしての被めっき材14との間に電流が流れると、被めっき材14上のマスク部材12の各々の開口部12aに対向する部分にめっき皮膜が形成されるようになっている。
【0022】
めっき液噴流部18は、(断面が略扇形の)略半円筒形の非導電性部材からなり、マスク部材12の内周面の一部(被めっき材支持部12bの内周面の略半分)に対向するように配置されている。めっき液噴流部18のスリット18aは、めっき液噴流部18の内周面から外周面まで貫通しており、(図示しない)めっき液供給部により内周面側から外周面側にめっき液を噴射して供給することができるようになっている。
【0023】
アノード16は、断面が扇形の導電性部材からなり、めっき液噴流部18のスリット18aの内壁の上下の面に取り付けられている。
【0024】
また、マスク部材12の外周面の被めっき材14と密着する部分以外の部分において、回転可能な給水スポンジロール24がマスク部材12の外周面に当接して配置されている。この給水スポンジロール24には、(図示しない)給水器から水が供給されるようになっている。給水スポンジロール24は、マスク部材12の円周方向に対して垂直な幅方向に略平行に延びており、マスク部材12の回転により逆方向に回転して、水が染み込んだ状態で、マスク部材12の外周面(および開口部12aの周縁部)を拭き取るようになっている。このようにして水が染み込んだ給水スポンジロール24によりマスク部材12の外周面(および開口部12aの周縁部)を拭き取ることによって、マスク部材12の開口部12aの内面と周縁部に、めっき金属の析出物が付着するのを防止することができる。この給水スポンジロールとして、ポリビニルアルコール(PVA)をアセタール化して成型した多孔性連続気孔組織のPVAスポンジのように、吸水性、脱水性および耐摩耗性に優れたスポンジからなるロールを使用するのが好ましい。
【実施例】
【0025】
以下、本発明による部分めっき方法の実施例について詳細に説明する。
【0026】
[比較例]
Cu−Ni−Sn系合金(DOWAメタルテック株式会社製のNB109−EH材)からなる厚さ0.2mmの板状の素材(被めっき材)を6枚用意し、これらの被めっき材を前処理として脱脂し、水洗し、酸洗した後、水洗した。
【0027】
次に、これらの前処理済みの被めっき材の各々の全面に、電気めっきにより、下地めっきとしてNiストライクめっきを行った後にNiめっきを行って厚さ1μmのNiめっき皮膜を形成して、6枚のNiめっき済の被めっき材を用意した。
【0028】
次に、これらのNiめっき済の被めっき材を前処理として50℃において5Vで30秒間電解脱脂し、15秒間水洗し、硫酸で15秒間酸洗した後、水洗した。
【0029】
次に、2.0mm×1.2mmの略矩形の9個の開口部が8mm間隔で離間して一列に配置されるように形成され、この開口部の列と平行になるように、同様の9個の開口部の列が19mm間隔で離間して配置されるように形成された(ポリフェニレンスルフィド(PPS)からなる)マスク部材に、被めっき材を密着させて配置して、これらの開口部に対応する部分に、市販のAuめっき液により、被めっき材のNiめっき皮膜上にAuめっき皮膜を形成するように55℃において電流密度28A/dmで5分間Auめっきを行った。このAuめっき後に被めっき材を交換して、同様のAuめっきを繰り返して、6枚の被めっき材のNiめっき皮膜上に同様のAuめっきを行った後に、マスク部材をデジタルマイクロスコープで観察した。その結果、一方の列の9個の開口部には、いずれもAuの析出が認められ、他方の列の9個の開口部のうち、6個の開口部にAuの析出が認められた。
【0030】
[実施例1]
比較例と同様のマスク部材を使用して6枚の被めっき材の各々にAuめっきを行った後(各々の被めっき材のAuめっきを行う毎に)、水を染み込ませた給水スポンジロール(ジュラロン株式会社製のPVAスポンジロール「ジュラポア」)をマスク部材(の開口部に対応する部分)の上で1回転させて、マスク部材に付着した過剰なめっき液を拭き取った以外は、比較例と同様の方法により、6枚の被めっき材にAuめっきを行った後に、マスク部材をデジタルマイクロスコープで観察した。その結果、いずれの開口部にもAuの析出が認められなかった。
【0031】
[実施例2]
実施例1と同様の給水スポンジロールに、水の代わりにAuめっき液を染み込ませた以外は、実施例1と同様の方法により、6枚の被めっき材にAuめっきを行った後に、マスク部材をデジタルマイクロスコープで観察した。その結果、一方の列の9個の開口部のうち、1個の開口部にAuの析出が認められたが、他方の列の9個の開口部には、いずれもAuの析出が認められなかった。
【0032】
実施例1および2のように、水またはAu液を染み込ませた給水スポンジロールにより、マスク部材に付着した過剰なめっき液を拭き取れば、マスク部材の開口部が比較的小さくても、めっき皮膜の一部が欠けたように薄くなるのを抑制することができる。
【符号の説明】
【0033】
10 部分めっき装置
12 マスク部材
12a 開口部
12b 凹部(被めっき材支持部)
12c 位置決めピン
14 被めっき材
14a 貫通孔
16 アノード
18 めっき液噴流部
18a スリット
20 入口側支持ロール
22 出口側支持ロール
24 給水スポンジロール
図1
図2
図3