(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記積層工程では、前記熱電変換層の前記表面と、前記金属材料からなる薄板との間に、前記脱酸素剤の粒子を分散させて配置することを特徴とする請求項3記載の熱電変換素子の製造方法。
前記積層工程では、前記熱電変換層の前記表面に対し、前記金属材料の金属粒子と前記脱酸素剤の粒子が分散して混合されたペーストを密着させることを特徴とする請求項3記載の熱電変換素子の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本発明の実施形態に係る熱電変換素子Aは、
図1〜
図6に示すように、熱電変換材料10からなる熱電変換層1の表面1aに金属材料20からなる電極層2が設けられた構造を有するものである。熱電変換素子Aの製造過程などにおいて切断工程の有無にかかわらず、熱電変換層1と電極層2を有する構造体は全て熱電変換素子Aと呼ぶ。
熱電変換材料10としては、ビスマス−テルル系材料、鉛−テルル系材料、シリコンやシリサイド系材料などが知られている。その中でも、環境負荷の点からシリコンやシリサイド系材料が注目されており、使用温度帯は、シリコンで1000℃付近、シリサイド系材料で400〜800℃と比較的高温である。熱電変換性能の良い材料としてはマンガンシリサイド(MnSi
x)が挙げられる。
電極層2は、熱電変換層1となる熱電変換材料10から電気を取り出すために形成される金属性の物質であり、熱電変換層1の表面1aとして両面又は片面のみに積層形成されたもの以外にも、熱電変換素子A同士の結線に用いられるものが含まれてもよい。また電極層2の製造方法は問わない。
電極層2の金属材料20としては、導電性のあるニッケルやアルミニウム、金、銀、銅などの金属が挙げられる。特に金属材料20として融点が高く耐熱性に優れるニッケルを用いることが好ましい。
【0008】
熱電変換素子Aの製造方法の一例を
図1(a)(b)に示す。
図示例の製造方法は、
図1(a)に示されるように、熱電変換材料10からなる柱状インゴット基板1′の両面又は片面のみに金属材料20からなる導電膜2′が設けられた導電膜付き柱状インゴット基板100を製造する。これに続いて
図1(b)に示されるように、導電膜付き柱状インゴット基板100を所望の形状に切り出すことで、熱電変換層1の表面1aに電極層2が設けられた熱電変換素子Aを複数個それぞれ同時に製造している。
また、その他の例として図示しないが、柱状インゴット基板1′を所望の形状に切り出して複数個の熱電変換層1を製造した後、各熱電変換層1の両面又は片面のみに電極層2を設けることも可能である。
なお、図示例のように導電膜付き柱状インゴット基板100を導電膜2′と垂直な方向に切り出すのではなく、導電膜付き柱状インゴット基板100を研削することによっても、熱電変換素子Aを得ることができる。例えば導電膜付き柱状インゴット基板100を回転させながら研削して縮径することによって、大面積の1個の熱電変換素子Aを得ることもできる。
【0009】
柱状インゴット基板1′の製造装置Pの一例を
図2に示す。
図2に示される製造装置Pは、円柱状の空間部P1が形成されたカーボンダイP2と、空間部P1の両端に配設される一対のカーボンパンチP3と、を備えている。カーボンダイP2とカーボンパンチP3とで囲まれる円柱状の空間部P1に熱電変換材料10の粒子を投入し、焼結することにより、円柱状の柱状インゴット基板1′が製造される。
焼結方法としては、放電プラズマ焼結法、ホットプレス焼結法、熱間等方圧焼結法などが挙げられ、その中でも放電プラズマ焼結法が好ましい。放電プラズマ焼結法は、直流パルス通電法を用いた加圧圧縮焼結法の一種であり、パルス大電流を種々の材料に通電することによって焼結する方法である。
具体的な焼結条件は、熱電変換材料10の種類、柱状インゴット基板1′の大きさ等に応じて適宜調整することが好ましい。
【0010】
本発明の実施形態に係る熱電変換モジュール(熱電変換装置)Mとは、熱電変換素子Aを有する発電ユニットのことであり、複数個の熱電変換素子Aと、複数個の熱電変換素子Aの電極層2に接して設けられた電極板Bと、を備える。熱電変換モジュールMの一例を
図3に示す。
図3に示される熱電変換モジュールMは、複数個の熱電変換素子Aと、熱電変換素子Aの電極層2を挟み込むように配置される一対の電極板Bと、を備えている。
また、その他の例として図示しないが、n型半導体となる熱電変換素子Aとp型半導体となる熱電変換素子Aとを交互に複数個配置し、n型半導体となる熱電変換素子Aの電極層2とp型半導体となる熱電変換素子Aの電極層2とが電気的に直列に接続されるように複数個の電極板Bで挟み込んだ構成であってもよい。さらにn型半導体となる熱電変換素子Aとp型半導体となる熱電変換素子Aとを直接接合してpn接合部を形成した上で、n型半導体となる熱電変換素子Aの電極層2とp型半導体となる熱電変換素子Aの電極層2とが電気的に直列に接続されるように電極板Bを配置した構成であってもよい。
【0011】
[本発明の特徴について]
次に、本発明の実施形態の特徴を
図4〜
図6に基づいて詳細に説明する。
本発明の実施形態に係る熱電変換素子Aは、熱電変換層1と、熱電変換層1の表面1aに設けられる電極層2と、熱電変換層1及び電極層2の間に形成されるガラス質層3と、ガラス質層3の一部に分散(離散的に配置)して形成される複数の導通部4と、を主要な構成要素として備えている。
熱電変換層1は、
図4に示されるように、前述したシリサイド系又はシリコンを含む熱電変換材料10からなり、電極層2は、前述した金属材料20からなる。
ガラス質層3と導通部4の作り分けには、後述する脱酸素剤40を用いる。熱電変換層1と電極層2を単に積層し、有酸素雰囲気中で加熱(焼成)することにより、熱電変換層1の表面1aが酸化し、電極層2との間にはガラス質層3が形成される。脱酸素剤40を熱電変換層1の表面1aと電極層2の間か又は電極層2となる金属材料20の内部に配置し、有酸素雰囲気中で焼成することにより、脱酸素剤40の付近では酸素濃度が低下する。このため、脱酸素剤40の付近では熱電変換層1の表面1aが酸化されずに導通部4が形成されるとともに、それ以外の部位ではガラス質層3が形成される。焼成温度は、熱電変換層1が酸化する温度である必要がある。
【0012】
[ガラス質層について]
ガラス質層3とは、その主成分が非晶質の酸化ケイ素からなるガラス状態をいう。ケイ素の供給源は、シリサイド系又はシリコンを含む熱電変換材料10からなる熱電変換層1であり、酸化ケイ素は熱電変換材料10中のケイ素が酸化して生成される。安定性の点からケイ素と酸素の割合は、モル比で約1:2に設定することが好ましい。
すなわち熱電変換材料10は、それ自身が酸化して酸化ケイ素のガラス質層3を生成する。このため、熱電変換材料10は、シリコンまたはシリサイド系材料等のケイ素が主成分とした物質である。またシリサイドを構成する元素中でケイ素が最も酸化され易い元素である。例えばマンガンシリサイドの場合には、シリサイドの構成元素がマンガンとケイ素であり、マンガンとケイ素ではケイ素の方が酸化され易い元素であるために好ましい。
ガラス質層3は、熱電変換層1と電極層2を接着するとともに高温下で軟化し、熱電変換層1と電極層2の線熱膨張係数の差に起因する応力を緩和する働きがある。
そのため、ガラス質層3は、柔軟性及び強度の点から厚みを1〜10μmに設定することが好ましい。
【0013】
[導通部について]
複数の導通部4は、熱電変換層1及び電極層2の間で、熱電変換層1の熱電変換材料10と電極層2の金属材料20が部分的に接合されている導通(通電)機能を有する部位である。複数の導通部4は、熱電変換層1と電極層2の界面全体に亘り、それぞれを所定密度で分散させて配置する。
詳しく説明すると、熱電変換層1と電極層2の界面全体に亘る複数の導通部4の分散配置とは、熱電変換層1及び電極層2の間にあるガラス質層3の内部に複数の導通部4が分散して配置される場合や、熱電変換層1及び電極層2の間にガラス質層3と複数の導通部4がそれぞれ分散して配置される場合などがある。熱電変換層1及び電極層2の間にガラス質層3と複数の導通部4がそれぞれ分散して配置される場合には、ガラス質層3や複数の導通部4の他に気泡やそれ以外の物質が含まれることもある。
また複数の導通部4は、熱電変換層1と電極層2の間で冶金的に接合されていることが望ましく、更に拡散接合されていることが好ましい。
ここでいう「拡散接合」とは、「電極層2を構成する金属材料20の元素が熱電変換層1の熱電変換材料10側へ拡散」又は「熱電変換層1を構成する熱電変換材料10の元素が電極層2の金属材料20側へ拡散」のいずれか一方か、若しくは両方が起こっている部分である。複数の導通部4によって熱電変換層1と電極層2の間を部分的に原子レベルで接合する機能がある。これにより、熱電変換層1と電極層2の接合強度が向上するだけでなく接触抵抗の低減も同時に達成される。
複数の導通部4は、熱電変換層1と電極層2を積層し密着させた状態で、加熱して焼成することにより形成される。
【0014】
[ガラス質層と導通部の割合について]
ガラス質層3内における複数の導通部4の面積比は、約9:1〜1:9であることが好ましい。
ガラス質層3の面積比を約1割以上にすると、熱負荷への耐性が良好となり、約1割以下にした場合には、熱負荷への耐性が不良となり易くなる。
また複数の導通部4の面積比を約1割以上にすると、実使用時における熱電変換層1と電極層2の間の導通性が良好となり、約1割以下にした場合には、実使用時における熱電変換層1と電極層2の間の導通性能が低下する。
【0015】
[製造方法について]
そして、本発明の実施形態に係る熱電変換素子Aを生産するための製造方法は、熱電変換材料10からなる熱電変換層1の表面1aに対して脱酸素剤40が分散された金属材料20を積層する積層工程と、熱電変換層1,脱酸素剤40及び金属材料20などを有酸素雰囲気中で加熱して熱電変換層1の表面1aに電極層2を設ける焼成工程と、を主要な工程として含んでいる。
脱酸素剤40は、熱電変換材料10中のケイ素が酸化して酸化ケイ素となるのを阻止するためのものであり、有酸素雰囲気中の焼成に伴い脱酸素剤40の付近において酸素濃度を低下させる働きがある。
つまり脱酸素剤40は、熱電変換材料10に含まれるケイ素よりも酸化され易い物質からなる。ケイ素よりも酸化され易い元素としては、Li、Mg、Ca、Sr、Ba、Y、Ti、Zr、Alのいずれか1つ又はその化合物、若しくはこれらの組み合わせから選ばれる。このため、脱酸素剤40の添加量を調節することで、ガラス質層3と複数の導通部4の面積比を目的とする比率に調整することが可能になる。
脱酸素剤40の粒径としては、常温での安定性の点から1μm以上、分散性の点から100μm以下が好ましい。
脱酸素剤40は、
図5に示されるように、熱電変換層1の表面1aと電極層2の間に配置されるか、又は
図6に示されるように、金属材料20を主成分としたペースト50中に配置される。
【0016】
積層工程では、熱電変換層1の表面1aに対して脱酸素剤40が分散された金属材料20を積層する製法として、
図5に示す金属材料20からなる金属箔又は金属シートなどのような薄板21を用いる第一手法と、
図6に示す金属材料20からなるペースト50を用いる第二手法がある。
図5の第一手法では、熱電変換層1の表面1aと、金属箔や金属シートなどの薄板21との間に、脱酸素剤40の粒子41を散布するなどにより所定密度で分散配置し、且つそれぞれが熱電変換層1の表面1aと接触するように保持する。
図6の第二手法では、金属材料20の金属粒子22を主成分とし、且つ脱酸素剤40の粒子41が所定密度で分散されたペースト50を作製する。この際、溶剤に金属粒子22と脱酸素剤40の粒子41とを混合してペースト状にするか、又は予め金属粒子22が分散しているペースト(図示しない)に脱酸素剤40の粒子41を混合して、金属粒子22が主成分となるペースト50を作製する。このペースト50を熱電変換層1の表面1aに対して密着させる。また金属粒子22を含むペースト50中には、金属粒子22の酸化を防止するために、ホウ素(B)などの酸化防止剤(図示しない)を含有することが好ましい。
また、電極層2のその他の製法として図示しないが、
図5の薄板21を用いた第一手法や
図6のペースト50を用いた第二手法とは異なる手法を用いることも可能である。
【0017】
焼成工程では、加熱焼成時における焼成雰囲気中の酸素濃度が体積比で1%以上であり、詳しくは体積比で5%以上の有酸素雰囲気中が望ましい。更に製造コスト面から大気雰囲気中が好ましい。
図5の第一手法の場合には、加熱(焼成)により熱電変換層1の表面1aと電極層2(薄板21)の間に、熱電変換材料10中のケイ素が酸化して酸化ケイ素となりガラス質層3が生成される。これと同時にガラス質層3の一部において脱酸素剤40の付近では、酸素濃度が低下して熱電変換材料10中のケイ素を酸化させず、熱電変換材料10と金属材料20が接合して、複数の導通部4が熱電変換層1及び電極層2の界面全体に亘り分散して生成される。
一方、
図6の第二手法の場合には、加熱(焼成)によりペースト50の主成分となる金属粒子22が焼結されて電極層2となる。熱電変換層1の表面1aと電極層2の間には、熱電変換材料10中のケイ素が酸化して酸化ケイ素となりガラス質層3が生成される。これと同時にガラス質層3の一部において脱酸素剤40の付近では、酸素濃度が低下して熱電変換材料10中のケイ素を酸化させず、熱電変換材料10と金属粒子22が接合して、複数の導通部4が熱電変換層1及び電極層2の界面全体に亘り分散して生成される。
【0018】
このような本発明の実施形態に係る熱電変換素子A,熱電変換モジュールM及び熱電変換素子Aの製造方法によると、熱電変換材料10からなる熱電変換層1と、金属材料20からなる電極層2とが、両者間(界面)に形成したガラス質層3で接着されるとともに、ガラス質層3の一部に分散形成した複数の導通部4により導通可能になる。
熱電変換素子Aの実使用時における高温下では、熱電変換層1と電極層2を接着するガラス質層3が軟化して、熱電変換層1と電極層2の線熱膨張係数の差に起因する応力を緩和する。これにより、温度変化に伴う熱電変換層1と電極層2の導通障害が防がれ且つ抵抗の上昇が抑制される。
これに加えて、熱電変換層1及び電極層2の界面全体に亘って分散配置した複数の導通部4により、熱電変換材料10と金属材料20が部分的に接合される。このため、熱電変換材料10及び金属材料20の高い接合強度と良好な導通性が継続する。
したがって、高温下で長時間使用しても抵抗上昇が少ない熱電変換素子Aや熱電変換モジュールMを提供することができる。
その結果、金属の微粒子が分散された導電性ペーストを塗布し焼成して熱電変換層と電極層とを接合させる従来のものに比べ、熱電変換層1と電極層2の接合が安定し、導通障害や抵抗の上昇を防止できる。このため、長期間に亘り安定して熱エネルギーを電気エネルギーに変換でき、耐久性に優れて長寿命化が図れる。
【0019】
さらに
図5に示されるように、積層工程では、熱電変換層1の表面1aと、金属材料20からなる薄板21との間に、脱酸素剤40の粒子41を分散させて配置することが好ましい。
この場合には、熱電変換層1の表面1aに脱酸素剤40の粒子41を分散配置し、脱酸素剤40の粒子41が挟まれるように金属材料20の薄板21を積層させた状態で焼成される。
これにより、熱電変換材料10中のケイ素が酸化してガラス質層3を形成(生成)する。ガラス質層3の一部には、脱酸素剤40による酸素濃度の低下で熱電変換材料10と金属材料20が部分的に接合された複数の導通部4を、熱電変換層1及び電極層2の界面全体に亘り分散して形成(生成)する。
したがって、高温下で長時間使用しても抵抗上昇が少なく且つ接合強度が高い熱電変換素子Aを簡単に製造することができる。
その結果、高精度な熱電変換素子Aを低コストで大量生産できて生産性に優れる。
【0020】
また
図6に示されるように、積層工程では、熱電変換層1の表面1aに対し、金属材料20の金属粒子22と脱酸素剤40の粒子41が分散して混合されたペースト50を密着させることが好ましい。
この場合には、熱電変換層1の表面1aに対し、金属材料20の金属粒子22と脱酸素剤40の粒子41が分散混合されたペースト50を密着して積層された状態で焼成される。
これにより、ペースト50中の金属粒子22が焼結されて電極層2となる。熱電変換層1の表面1aと電極層2の間では、熱電変換材料10中のケイ素が酸化してガラス質層3を形成(生成)する。ガラス質層3の一部には、脱酸素剤40による酸素濃度の低下で熱電変換材料10と金属粒子22が部分的に接合された複数の導通部4を、熱電変換層1及び電極層2の界面全体に亘り分散して形成(生成)する。
したがって、金属粒子22と脱酸素剤40の粒子41の分散性が向上して、高温下で長時間使用しても抵抗上昇が少なく且つ接合強度が高い熱電変換素子Aを簡単に製造することができる。
その結果、より高精度な熱電変換素子Aを低コストで大量生産できて生産性に優れる。
【実施例】
【0021】
以下に、本発明の実施例を説明する。
[実施例1,2及び比較例1〜3]
表1に示す実施例1,2と比較例1〜3は、それらに記載された成分と焼成雰囲気で、
図6のペーストを用いた第二手法により、同一サイズ(直径30mm)の導電膜付き柱状インゴット基板を製造した。その後、導電膜付き柱状インゴット基板の両端面を研磨機で研削加工して、同一高さ寸法(5mm)とするとともに、両端面の平坦化するための表面処理を行った。最後に導電膜付き柱状インゴット基板をワイヤーソーで切断して同一サイズ(5mm角)の評価試料を作製した。
実施例1,2及び比較例1〜3では、柱状インゴット基板として同じ組成のマンガンシリサイドの焼結体が用いられており、共通の構成にしている。柱状インゴット基板の両面には、ペーストが所定厚み(250μm程度)で塗付され、乾燥後に所定温度(700℃)まで所定速度(4℃/min)で加熱して溶剤を除去する。その後は所定温度(700℃)で所定時間(10分)保持することにより、金属粒子などを焼結させている。
実施例1,2及び比較例1〜3では、金属材料の金属粒子としてニッケル粒子(平均粒径:0.15μm)を主成分としたペーストを用いており、共通の構成にしている。
実施例1,2及び比較例2では、金属粒子の酸化防止剤としてホウ素を含有したペーストが用いられ、有酸素雰囲気(大気)中で加熱(焼成)しており、共通の構成にしている。
実施例1及び比較例3では、ペースト中に脱酸素剤としてマグネシウムシリサイド(Mg
2Si)を添加しており、共通の構成にしている。
【0022】
実施例1では、ペーストとしてニッケルペーストが用いられ、脱酸素剤を添加し、撹拌機にて十分に撹拌した後に脱泡することにより、導電膜形成用ペーストが調整された。撹拌後における導電膜形成用ペーストの各成分割合を質量基準で下記に示す。
ニッケル粒子(平均粒径:0.15μm)・・・70部
溶剤としてターピネオール・・・20部
金属粒子の酸化防止剤(ホウ素:平均粒径1.0μm)・・・5部
バインダー樹脂(エチルセルロース樹脂)・・・1部
分散剤・・・1部
脱酸素剤としてマグネシウムシリサイド(平均粒径18.0μm)・・・3部
【0023】
実施例2では、脱酸素剤として金属チタン(平均粒径:38.0μm)を用いたところが異なっており、それ以外は実施例1と同じである。
【0024】
一方、比較例1では、脱酸素剤が無添加のペーストを不活性ガス(アルゴンガス:酸素濃度0.1%以下)中で加熱(焼成)する。このため金属粒子の酸化防止剤の添加量を1部以下に減らしたところが異なっており、それ以外は実施例1と同じである。
比較例2では、脱酸素剤が無添加のペーストを用いたところが異なっており、それ以外は実施例1と同じである。
比較例3は、脱酸素剤が添加されたペーストを不活性ガス(アルゴンガス:酸素濃度0.1%以下)中で加熱(焼成)する。このため金属粒子の酸化防止剤の添加量を1部以下に減らしたところが異なっており、それ以外は実施例1と同じである。
【0025】
[評価基準]
表1に示される評価結果(ガラス質層の有無、導通部の有無、引っ張り強度、初期の抵抗値、1000時間後の抵抗値、総合評価)は、以下の指標に基づくものである。
「ガラス質層の有無」及び「導通部の有無」は、実施例1,2及び比較例1〜3の各評価試料において、熱電変換層と電極層の間や界面又はその付近にガラス質層となる酸化ケイ素や、導通部となる接合部位が存在するか否かを確認するため、電子顕微鏡により観察した。酸化ケイ素及び接合部位の確認は、各評価試料の切断面をイオンミリング法にてクロスセクションポリッシュし、その後、ポリッシュ部を走査型電子顕微鏡(日本電子社製のJSM−6700F型)により観察した。さらにエネルギー分散型X線分光による元素分析、走査透過型電子顕微鏡との組み合わせによる電子エネルギー損失分光法を用いた分子構造分析と制限視野電子回折分析を行った。
「引っ張り強度」は、実施例1,2及び比較例1〜3の各評価試料において、熱電変換層と電極層の接合強度を確認するための試験である。熱電変換層と電極層の端面に接着剤で引っ張り試験機の治具をそれぞれ接着し、一方の治具を固定し、もう片方をフォースゲージで引っ張り、熱電変換層と電極層が剥離した力の大きさと熱電変換素子の断面積から引っ張り強度を算出した。その算出結果を三段階で評価した。
この「引っ張り強度」の評価結果において、○:接合強度が高い(算出結果が10.0MPa以上)、△:接合強度がやや劣る(算出結果が5.0〜9.9MPa)、×:接合強度が劣って剥がれ易い(算出結果が4.9MPa以下)、のように評価した。
「初期の抵抗値」「1000時間後の抵抗値」は、実施例1,2及び比較例1〜3の各評価試料を大気中で550℃に加熱して1000時間保持し、加熱初期と1000時間後において熱負荷試験を行い、それぞれの抵抗値を測定した。抵抗値の測定は、回路素子測定器(日置電機社製の3540ミリオームハイテスタ)を用い、その小面積端子用4端子リード(日置電機社製の9770ピン型リード)を、熱電変換層が挟まれるように両端面に形成された一対の電極層に接続して測定した。さらに加熱初期から1000時間後まで、熱電変換層と電極層の間を走査型電子顕微鏡により観察して、構造に変化がないか確認した。
この「初期の抵抗値」「1000時間後の抵抗値」の評価結果において、○:抵抗値が低い(10.00mΩ未満)、△:抵抗値がやや劣る(10.00〜99.99mΩ)、×:抵抗値が高い(100.00mΩ以上)、のように評価した。
「総合評価」とは、前述した「ガラス質層の有無」「導通部の有無」「初期の抵抗値」及び「1000時間後の抵抗値」の評価結果に基づいて総合的に二段階で評価した。
この「総合評価」の評価結果において、○:良、×:不向き、のように評価した。
【0026】
【表1】
【0027】
[評価結果]
実施例1,2と比較例1〜3を比較すると、実施例1,2は、ガラス質層と導通部が有り、「引っ張り強度」「初期の抵抗値」「1000時間後の抵抗値」の全てにおいて概ね良好な評価結果が得られている。
詳しく説明すると、実施例1の評価試料は、
図7に示される電子顕微鏡像から分かるように、熱電変換層と電極層の間にガラス質層となる酸化ケイ素と、導通部となる接合部位が存在することを確認できた。ガラス質層と推測される箇所は、電子エネルギー損失分光法を用いた分子構造分析により酸化ケイ素であることも分かった。さらに酸化ケイ素は、走査透過型電子顕微鏡の制限視野電子回折分析により、結晶構造の周期性がみられなかったため、非晶質のガラス状態であることも分かった。導通部をエネルギー分散型X線分光により元素分析したところ、熱電変換層の元素(MnとSi)が電極層側へ、電極層の元素(Ni)が熱電変換層側へ拡散していること、即ち拡散接合が確認された。
実施例1の「引っ張り強度」は、12.0MPaと高い値であった。
実施例1の「初期の抵抗値」は、7.15mΩであり、「1000時間後の抵抗値」は、7.35mΩであり、大きな変化はなくて良好であった。また加熱初期から1000時間後まで熱電変換層と電極層の間を走査型電子顕微鏡で観察したが外観に変化は見られなかった。
実施例2の評価試料は、「引っ張り強度」が10.0MPa、「初期の抵抗値」が8.94mΩ、「1000時間後の抵抗値」が9.38mΩであり、実施例1の評価試料と略同等の結果であった。
【0028】
しかし、これに対して、比較例1〜3は、「ガラス質層の有無」「導通部の有無」「引っ張り強度」「初期の抵抗値」「1000時間後の抵抗値」のいずれかで不良な評価結果になっている。
詳しく説明すると、比較例1は、評価試料の作製のため導電膜付き柱状インゴット基板の両端面を研磨したところ、熱電変換層と電極層が剥離してしまい、接合強度で不良な評価結果になった。その理由は、脱酸素剤を添加せず且つ不活性ガス(無酸素雰囲気)中で焼成を行ったからである。このため比較例1の評価試料では、「ガラス質層の有無」「導通部の有無」「引っ張り強度」「初期の抵抗値」「1000時間後の抵抗値」を評価することができなかった。
比較例2の評価試料は、
図8に示される電子顕微鏡像から分かるように、導通部となる接合部位が存在せず、抵抗(導通性)でやや劣る評価結果になった。その理由は、脱酸素剤が無添加のペーストを用いたため、熱電変換層の表面全てが酸化して導通部(接合部位)が形成されなかったからである。接合部位が無いため比較例2の「初期の抵抗値」は、39.28mΩであり、実施例1(7.15mΩ)の約5倍以上の値を示した。「1000時間後の抵抗値」は、加熱試験中に電極層が剥離したため計測不能であった。また比較例2の「引っ張り強度」は、8.5MPaであり、実施例1(12.0MPa)よりもやや低い値を示した。
比較例3の評価試料は、
図9に示される電子顕微鏡像から分かるように、ガラス質層となる酸化ケイ素と、導通部となる接合部位が共に存在せず、「1000時間後の抵抗値(導通性)」で不良な評価結果になった。その理由は、不活性ガス(無酸素雰囲気)中で焼成を行ったため、熱電変換層の表面が酸化されず電極層と間に酸化ケイ素を生成できなかったからである。比較例3の「引っ張り強度」は、11.8MPaであり、実施例1(12.0MPa)とほぼ同じ値を示した。比較例3の「初期の抵抗値」は、4.97mΩであり、実施例1(7.15mΩ)よりもやや低かった。しかし、比較例3の評価試料は、加熱初期から時間経過に伴い熱電変換層と電極層の間が変化して抵抗値が急激に上昇し、「1000時間後の抵抗値(導通性)」は、約1500.00mΩ以上まで上昇して不良な評価結果になった。
【0029】
なお、前示の実施例1,2と比較例1〜3では、
図6のペーストを用いた第二手法により導電膜付き柱状インゴット基板を製造したが、これに限定されず、
図5の薄板を用いた第一手法により導電膜付き柱状インゴット基板を製造してもよい。
この場合においても、前述した評価結果と同様な評価結果が得られた。