特許第6937663号(P6937663)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイシン軽金属株式会社の特許一覧

特許6937663かしめ性及び疲労強度に優れた耐摩耗性アルミニウム合金押出材及びそれに用いるアルミニウム合金
<>
  • 特許6937663-かしめ性及び疲労強度に優れた耐摩耗性アルミニウム合金押出材及びそれに用いるアルミニウム合金 図000002
  • 特許6937663-かしめ性及び疲労強度に優れた耐摩耗性アルミニウム合金押出材及びそれに用いるアルミニウム合金 図000003
  • 特許6937663-かしめ性及び疲労強度に優れた耐摩耗性アルミニウム合金押出材及びそれに用いるアルミニウム合金 図000004
  • 特許6937663-かしめ性及び疲労強度に優れた耐摩耗性アルミニウム合金押出材及びそれに用いるアルミニウム合金 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6937663
(24)【登録日】2021年9月2日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】かしめ性及び疲労強度に優れた耐摩耗性アルミニウム合金押出材及びそれに用いるアルミニウム合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/02 20060101AFI20210909BHJP
   C22F 1/043 20060101ALN20210909BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20210909BHJP
【FI】
   C22C21/02
   !C22F1/043
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 604
   !C22F1/00 612
   !C22F1/00 624
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630C
   !C22F1/00 630D
   !C22F1/00 630G
   !C22F1/00 630J
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 630Z
   !C22F1/00 631A
   !C22F1/00 681
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-205683(P2017-205683)
(22)【出願日】2017年10月25日
(65)【公開番号】特開2019-77919(P2019-77919A)
(43)【公開日】2019年5月23日
【審査請求日】2020年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100791
【氏名又は名称】アイシン軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】柴田 果林
【審査官】 河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/001870(WO,A1)
【文献】 特開平09−176769(JP,A)
【文献】 特開2015−063751(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/024079(WO,A1)
【文献】 国際公開第2003/072839(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/02
C22F 1/043
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下全て質量%にて、Si:3.0〜6.0%,Mg:0.2〜0.5%,Cu:0.1〜0.5%,Fe:0.01〜0.4%未満,Ti:0.01〜0.1%を含有し、
Mn:0.01〜0.5%,Cr:0.01〜0.5%,Zr:0.5%以下であって、Mn,Cr及びZrの合計が0.01〜0.6%の範囲であり、残部がAl及び不可避的不純物であるアルミニウム合金を用いて鋳造速度50mm/min以上にて連続鋳造を行うことでDASが平均50μm以下の金属組織からなる円柱ビレットが得られ、
前記円柱ビレットを460〜580℃,3〜24時間の均質化処理を行った後に460〜580℃に余熱し、押出成形し、
前記押出直後に冷却速度70℃/min以上にてダイス端焼入れを行い、次に150〜200℃,2〜12時間の熱処理を行うことで押出材の結晶粒の平均粒径が50μm以下、析出Si粒子の平均粒径が50μm以下であることを特徴とするかしめ性及び疲労強度に優れた耐摩耗性アルミニウム合金押出材の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐摩耗性のみならず、かしめ性及び疲労強度にも優れたアルミニウム合金押出材、それに用いるアルミニウム合金及び鋳造ビレットに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部品や機械部品等におけるバルブやピストン等の摺動部品を内蔵する製品においては、耐摩耗性のみならず、製作における切削性、摺動部品等の組み込みにおけるかしめ性、作動油等の圧力に耐えられる疲労強度等、総合的な特性が要求される。
このような部品としては、自動車の横滑り防止装置(ESC)等に用いられるアンチロックブレーキシステム(ABS)のボディ等が代表例である。
また、各種油圧制御用のバルブボディ部品等も例として挙げられる。
【0003】
例えば特許文献1等には、切削性に優れたアルミニウム合金を開示するが、かしめ性や疲労強度が不充分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−249931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、耐摩耗性や切削性を確保しつつ、かしめ性、疲労強度の改善を図ったアルミニウム合金押出材及びそれに用いるアルミニウム合金,押出用鋳造ビレットの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、かしめ性及び疲労強度に優れた耐摩耗性アルミニウム合金押出材を得るのが目的であり、そのために適した押出材用アルミニウム合金は、以下全て質量%にて、Si:3.0〜6.0%,Mg:0.2〜0.5%,Cu:0.1〜0.5%,Fe:0.01〜0.5%,Ti:0.01〜0.1%を含有し、Mn,Cr,Zrのうち1種以上を合計で0.01〜0.6%含有し、残部がAl及び不可避的不純物であることを特徴とする。
ここで、Mn:0.01〜0.5%,Cr:0.01〜0.5%,Zr:0.5%以下であって、Mn,Cr及びZrの合計が0.01〜0.6%の範囲であるのが好ましい。
【0007】
上記のアルミニウム合金(溶湯)を用いて、鋳造したビレットであって、金属組織中のDASが50μm以下であるのが好ましい。
ここでDASとは、金属組織中のデントライト相におけるデントライトアームスペーシングをいい、2次アームの間隔を測定する。
鋳造条件を制御することでDASが平均50μm以下となる。
【0008】
上記のアルミニウム合金ビレットを用いて押出加工を行い、押出材の結晶粒の平均粒径が50μm以下で、析出したSi粒子径の平均が50μm以下であるのが好ましい。
このような押出材は、押出条件を制御することで得られる。
【0009】
アルミニウム合金の成分範囲を選定した理由を、以下説明する。
<Si,Mg>
Si成分及びMg成分は、金属組織中にMgSiを検出させることで時効効果による強度が得られるとともに、過剰のSi成分はSi粒子として組織中に析出し、耐摩耗性と切削性が向上する。
本発明においては、Mg:0.2〜0.5%に設定し、下限0.2%以上により強度を確保しつつ、上限を0.5%以下とすることで、かしめ性を確保した。
Si成分は上記Mgの範囲を考慮して、Si:3.0〜6.0%の範囲とした。
好ましくは、Si:3.5〜5.0%の範囲である。
<Cu>
Cu成分は、固溶効果による強度向上を図りながら、かしめ性を確保しやすい成分である。
添加効果を発揮するには、0.01%以上必要であり、0.5%を超えると電位差による一般耐食性が低下する恐れがある。
そこで本発明は、Cu:0.01〜0.5%に設定した。
高耐食性を確保するには、Cu:0.10〜0.20%の範囲が好ましい。
<Fe>
Fe成分は、結晶粒界に分散して析出しやすく、このFe粒子を起点にして切削クズが破断しやすく、切削性が向上する。
しかし、添加量が多くなると、かしめ性が低下する原因となる。
そこで、Fe:0.01〜0.5%に設定した。
好ましくは、Fe:0.1〜0.4%の範囲である。
<Mn,Cr,Zr>
Mn,Cr,Zr成分は押出材の再結晶を抑制し、結晶粒の微細化に効果が認められるとともに、Si粒子の微細化にも寄与し、疲労伝播抑制により疲労強度が向上し、切削性も向上させる。
Mn,Cr,Zrは1種以上の添加で効果があり、その合計では(Mn+Cr+Zr):0.01〜0.6%の範囲に設定した。
個々の成分については、次のとおりである。
Mn成分は、添加量が多くなると結晶粒界に析出し、電位差腐食の恐れとかしめ性低下の原因となるので、添加する場合にはMn:0.01〜0.5%の範囲が好ましい。
Cr成分は添加量が多くなると、初晶生成物が生じやすくなり、かしめ性を低下させるので、添加する場合にはCr:0.01〜0.5%の範囲が好ましい。
Zr成分も添加量が多くなると、初晶生成物を生じやすくなるので、添加する場合でも0.5%以下が好ましい。
<Ti>
ビレット鋳造時に結晶粒の微細化効果があり、微量であれば切削性も向上する。
ただし、0.1%を超えると切削工具の寿命を短くするので、Ti:0.01〜0.1%の範囲が好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るアルミニウム合金の組成は、これを用いてビレットを鋳造速度50mm/min以上の速度で連続鋳造することでDASが平均50μm以下になり、この鋳造ビレットを用いて押出加工すると、結晶粒の平均粒径が50μm以下で析出Si粒子の平均粒径が50μm以下の押出材を得ることができ、これによりかしめ性及び疲労強度に優れた耐摩耗性を有する押出材が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】評価に用いたアルミニウム合金の組成及びビレットの鋳造条件を示す。
図2】評価に用いた製造条件を示す。
図3】評価結果を示す。
図4】金属組織の比較例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1の表に示した組成のアルミニウム合金の溶湯を用いて、8インチの円柱ビレットを鋳造した。
その鋳造条件を図1の表に示した。
実施例のように鋳造速度50mm/min以上の85mm/minで連続鋳造を行うと、DAS平均が50μm以下に抑えられる。
この円柱ビレットを460〜580℃,3〜24時間の均質化処理を行った。
次に、このビレットを460〜580℃に余熱し、約40mm×100mmの断面矩形形状の押出材を押出成形した。
その際の製造条件を図2の表に示す。
なお、押出直後にダイス端焼入れを行った後に、図2の表に示す熱処理を実施した。
その評価結果を、図3の表に示す。
図3の表には、本発明の目標値を記載した。
【0013】
評価した特性及びその評価方法は次のとおりである。
<疲労特性>
JIS−Z2274に基づいて押出材よりJIS−1号(1−8)回転曲げ疲労試験片を作製、JIS規格に準拠した小野式回転曲げ疲労試験機にて疲労試験を実施した。
<引張特性>
押出材よりJIS−13B号引張試験片を採取して、JIS−Z2241に準拠した引張試験を実施した。
<HRB硬度>
ロックウエルBスケール硬度計にてJIS−Z2245に準拠して押出材の表面硬度を測定した。
<かしめ性>
冷間据込み性試験方法を用いた。
押出材より径14mm×高さ21mmの試験片を採取し、これを冷間で軸方向に据込みプレスを行い側面に微小割れが発生し始める時の限界据込み率を求めた。
限界据込み率は次の式により求めた。
εhc=h0−hc/h0×100
εhc:限界据込み率(%)
h0:試験片の元の高さ
hc:割れ発生時の試験片の高さ
試験条件は、室温、圧縮速度は10mm/secとし、試験機は25トンのオートグラフを使用した。
<耐摩耗性>
摩擦摩耗試験機(オリエンテック製EFM−3−F型)を用いた。
試験方法は、異なる二つの円筒試料(ピンと試験片ディスク)をその中心線上に一致して回転させ、ピンに一定荷重を負荷して押し付けることにより、摩擦摩耗を生じさせる。
ピンは、径5mm×高さ8mmのSCr20(浸炭焼入れ)材とした。
試験片ディスクは押出材より切り出し、径60mm×高さ5mm、面粗さ1.6Z以下、平面度0.01以下に加工した。
潤滑液としてブレーキフルードを用い、回転数160rpm、試験期間50hr、加圧荷重20MPaとした。
摩耗量は、試験片ディスクの摩耗部を粗さ測定機にて測定した。
<結晶粒径,Si粒子径>
押出材の中央部より試料を切り出し、鏡面研磨仕上げを行い、その後、エッチングして400倍の光輝顕微鏡により金属組織を観察した。
<表面再結晶深さ>押出材の表面部より試料を切り出し、鏡面研磨仕上げを行い、その後、エッチングして50倍の光輝顕微鏡により金属組織を観察した。
<DAS>
ビレットからサンプルを切出し、ビレット表面を鏡面研磨仕上げを行い、その後ケラー試薬(0.5%HF)によりエッチングし、顕微鏡により測定した。
【0014】
図3の表に示した評価結果から実施例1〜9は全て、かしめ性、疲労強度、耐摩耗性の目標をクリアしていた。
これに対して比較例10はCu成分が少なく、疲労強度、耐力が目標未達であった。
比較例11は、Mn,Crが含まれていなく、ビレットの鋳造速度が遅く、DASが目標未達であったため、疲労強度、かしめ性が目標未達であった。
図4には、この比較例11と実施例1との組織の比較写真を示す。
比較例12は、Cu成分が多く、強度はあったが、かしめ性が劣っていた。
比較例13はSiが少なく、耐摩耗性が目標未達であった。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明に係るアルミニウム押出材は、耐摩耗性,切削性に優れるとともに高い疲労強度とかしめ性を有するので、加工性と耐圧性を有する各種油圧部品等に適用できる。
図1
図2
図3
図4