(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記変位検出期間の前記電流増加期間と前記電流減少期間とがデューティ比50%で形成されたことを特徴とする請求項6〜8のいずれか一項に記載の磁気軸受制御装置。
【背景技術】
【0002】
近年のエレクトロニクスの発展に伴い、メモリや集積回路といった半導体の需要が急激に増大している。
これらの半導体は、きわめて純度の高い半導体基板に不純物をドープして電気的性質を与えたり、エッチングにより半導体基板上に微細な回路を形成したりなどして製造される。
【0003】
そして、これらの作業は空気中の塵等による影響を避けるため高真空状態のチャンバ内で行われる必要がある。このチャンバの排気には、一般に真空ポンプが用いられているが、特に残留ガスが少なく、保守が容易等の点から真空ポンプの中の一つであるターボ分子ポンプが多用されている。
【0004】
また、半導体の製造工程では、さまざまなプロセスガスを半導体の基板に作用させる工程が数多くあり、ターボ分子ポンプはチャンバ内を真空にするのみならず、これらのプロセスガスをチャンバ内から排気するのにも使用される。
更に、ターボ分子ポンプは、電子顕微鏡等の設備において、粉塵等の存在による電子ビームの屈折等を防止するため、電子顕微鏡等のチャンバ内の環境を高度の真空状態にするのにも用いられている。
【0005】
このターボ分子ポンプは回転体を磁気浮上制御するため磁気軸受装置を備えている。そして、この磁気軸受装置では、回転体の位置変位を検出するため変位センサを備えているが、従来、この変位センサを設けずに回転体の位置変位を推定する技術が開示されている(特許文献1、特許文献2を参照)。
【0006】
特許文献1、特許文献2は共に、PWM(Pulse Width Modulation)方式のスイッチングアンプを用いて電磁石電流を制御する磁気軸受である。
特許文献1では、電磁石電流の検出値を微分回路で微分することによって電流の変化率(di/dt)を求める。そして、この電流の変化率(di/dt)が磁気軸受の電磁石とロータ軸間のギャップ長によって変化することを利用して推定した変位を基に、磁気軸受制御を行っている。
【0007】
一方、特許文献2では、スイッチングONあるいはOFF期間の電流の変化量を一定時間検出し、変化量と検出時間から電流の変化率(di/dt)を演算する。そして、この電流の変化率(di/dt)が磁気軸受の電磁石とロータ軸間のギャップ長によって変化することを利用して推定した変位を基に、磁気軸受制御を行っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、スイッチングアンプを用いた場合、電流検出値は多くの高周波ノイズ成分を含んでいる。このため、特許文献1のように、電磁石電流の検出値を微分回路で微分するとノイズ成分が更に増幅されて電流の変化率(di/dt)を求めることは困難となるおそれがある。
【0010】
また、磁気軸受制御のための電磁石電流値に対して、リップル電流の変化量は微小である。このため、特許文献2の場合では、大振幅で変化する電磁石電流からリップル電流成分のみを分離して検出することは困難となるおそれがある。
【0011】
本発明はこのような従来の課題に鑑みてなされたもので、変位センサが不要で、高精度な制御が可能で、かつ、小型で低コストな磁気軸受制御装置及び真空ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このため本発明(請求項1)は磁気軸受制御装置の発明であって、制御対象物を空中に浮上支持する電磁石と、該電磁石のコイルに対して直列に接続された誘導性素子と、前記電磁石に対し電流を供給するスイッチングアンプと、前記誘導性素子にかかる電圧を所定のタイミングで抽出する電圧抽出手段と、前記タイミングを生成し、前記タイミングで抽出した電圧を保持するサンプルホールド手段と、該サンプルホールド手段で保持された電圧を基に前記電磁石の前記コイルを流れる電流の時間微分に比例した信号を算出する電流変化率算出手段と、該電流変化率算出手段で算出された信号に基づき前記制御対象物と前記電磁石間の変位を推定する変位推定手段とを備え、前記電磁石に流す電流が前記変位推定手段で推定された変位に基づき制御されることを特徴とする。
【0013】
電磁石のコイルと誘導性素子とは直列に接続されているので同じ電流が流れる。誘導性素子にかかる電圧を所定のタイミングで抽出することで、この電圧から電流の時間微分である変化率に比例した信号を検出する。そして、その信号を用いて制御対象物と電磁石間の変位を推定する。そして、この変位に基づき電磁石に流す電流を制御する。
このことにより、電磁石の制御電流の大きさによらず、スイッチングアンプのON/OFFによって生じる電流リップルの時間微分を直接検出できる。従って、高精度かつ広い範囲で変位を推定するために必要なS/N比の大きな信号を検出できる。
このため、別途変位センサを設けた場合と同等以上の精度で磁気軸受の制御が可能になり、磁気軸受の小型化、低コスト化を実現できる。
【0014】
また、本発明(請求項2)は磁気軸受制御装置の発明であって、前記誘導性素子にはインダクタが適用され、前記電圧抽出手段では前記インダクタに生ずる電圧が抽出されることを特徴とする。
【0015】
インダクタを配設することで位置センサを無くした磁気軸受制御装置が小型でかつ簡単な構成で実現可能である。
電磁石電流は磁気軸受の制御によって大きく変動するのに対し、電流リップルの時間微分はインダクタンスが電磁石の例えば1/100以下である小型インダクタの両端に生じる電圧として安定して取得できるのでS/N比の大きな信号を小さなスペースで検出できる。
【0016】
更に、本発明(請求項3)は磁気軸受制御装置の発明であって、前記誘導性素子にはトランスが適用され、前記電圧抽出手段では前記トランスの二次側の電圧が抽出されることを特徴とする。
【0017】
誘導性素子にトランスを適用することで、トランスの一次側抵抗値と電流による電圧変動を無視できる。そして、スイッチングアンプによって発生するコモンモード電圧変動の影響がトランスニ次側には現れない。このため、電圧抽出手段で使用するアンプとして、大きなコモンモード電圧変動に対応した低速の差動アンプを使用する必要がなく、高速の差動アンプを使用できる。また、差動アンプ出力のセトリングタイムが短くなり制御の応答性を改善できる。
【0018】
更に、本発明(請求項4)は磁気軸受制御装置の発明であって、前記電磁石が前記制御対象物を挟んで対向して構成され、前記誘導性素子にはそれぞれの電磁石と直列に接続された一次巻線と、該一次巻線と同一の鉄心を有する二次巻線を備えるトランスが適用され、それぞれの前記一次巻線に生じた磁束が相殺される方向となるようにそれぞれの前記一次巻線が捲回されており、前記電圧抽出手段では前記トランスの前記二次巻線に生じた電圧が抽出されることを特徴とする。
【0019】
それぞれの電磁石と直列に接続されたトランス一次側の巻線に流れる電流で生じる磁束の差によってニ次側の巻線に電圧が誘起される。即ち、トランスニ次側の巻線にはそれぞれの電磁石を流れる電流の電流変化率の差に比例した電圧が誘起される。このため、サンプルホールド手段の所定のタイミングで抽出した電圧値は変位に比例した値となる。
【0020】
更に、本発明(請求項5)は磁気軸受制御装置の発明であって、前記スイッチングアンプの制御サイクルに前記誘導性素子にかかる電圧を抽出するための変位検出期間が設定され、前記電圧抽出手段では、前記誘導性素子にかかる電圧を前記変位検出期間内で少なくとも一回所定のタイミングで抽出することを特徴とする。
【0021】
変位検出期間を電磁石電流の電流制御期間とは分離して配設する。制御サイクルに対し変位検出期間を設定したことで、精度良く誘導性素子にかかる電圧を検出できる。サンプルホールド手段では、安定した段階の変動の無い電圧を常に同じタイミングで抽出し保持できる。このため、精度の高い変位を得ることができる。
【0022】
更に、本発明(請求項6)は磁気軸受制御装置の発明であって、前記変位検出期間には電流の増加する電流増加期間と電流の減少する電流減少期間とが形成されたことを特徴とする。
【0023】
このことにより、誘導性素子にかかる電圧を確実に抽出できる。
【0024】
更に、本発明(請求項7)は磁気軸受制御装置の発明であって、前記電圧抽出手段では前記誘導性素子にかかる電圧が前記電流増加期間と前記電流減少期間においてそれぞれ所定のタイミングで抽出され、抽出した2つの電圧を減算する減算手段を備え、前記変位推定手段では前記減算手段で減算された電圧を基に前記制御対象物と前記電磁石間の変位が推定されることを特徴とする。
【0025】
誘導性素子のインダクタはわずかに抵抗成分を持つため電流値の低周波成分が大きい場合、電圧降下を生じ、これがオフセットとなって誘導性素子の両端に生じる電圧値に重畳する。変位検出期間の前半の電流増加期間の誘導性素子にかかる電圧のサンプル値から変位検出期間の後半の電流減少期間の誘導性素子にかかる電圧のサンプル値を減算することによってこのオフセット成分を除去することができる。このため、精度の高い変位信号を得ることができる。
【0026】
更に、本発明(請求項8)は磁気軸受制御装置の発明であって、前記抽出した2つの電圧を加算する加算手段を備え、該加算手段で加算された電圧を基に前記電磁石に流れる電流が推定されることを特徴とする。
【0027】
変位検出期間の前半の電流増加期間の誘導性素子にかかる電圧のサンプル値から変位検出期間の後半の電流減少期間の誘導性素子にかかる電圧のサンプル値を加算することによって電流値に比例した信号が得られる。このため、電流検出専用の回路や抵抗を省略することが可能となる。
【0028】
更に、本発明(請求項9)は磁気軸受制御装置の発明であって、前記変位検出期間の前記電流増加期間と前記電流減少期間とがデューティ比50%で形成されたことを特徴とする。
【0029】
変位検出期間における電流増加期間と電流減少期間の時間は等しいため、変位検出期間での電流変動は0になり、電磁石電流の平均値には影響しない。
【0030】
更に、本発明(請求項10)は磁気軸受制御装置の発明であって、前記変位検出期間では前記電流増加期間が前記電流減少期間よりも先に設定されたことを特徴とする。
【0031】
スイッチングアンプは電流を一方向に流すことしかできない。変位検出期間での電磁石電流の平均値が0付近の場合に、電流減少期間内で電流値が0になるのを避けるため、変位検出期間では電流増加期間を電流減少期間よりも先に設ける。
【0032】
更に、本発明(請求項11)は真空ポンプの発明であって、制御対象物を空中に浮上支持する電磁石と、該電磁石のコイルに対して直列に接続された誘導性素子と、前記電磁石に対し電流を供給するスイッチングアンプと、前記誘導性素子にかかる電圧を所定のタイミングで抽出する電圧抽出手段と、前記タイミングを生成し、前記タイミングで抽出した電圧を保持するサンプルホールド手段と、該サンプルホールド手段で保持された電圧を基に前記電磁石の前記コイルを流れる電流の時間微分に比例した信号を算出する電流変化率算出手段と、該電流変化率算出手段で算出された信号に基づき前記制御対象物と前記電磁石間の変位を推定する変位推定手段とを備え、前記電磁石に流す電流が前記変位推定手段で推定された変位に基づき制御される磁気軸受制御装置を搭載した真空ポンプであって、前記制御対象物がロータ軸であり、該ロータ軸を径方向及び/又は軸方向に浮上支持する前記電磁石を複数個備えたことを特徴とする。
【0033】
更に、本発明(請求項12)は真空ポンプの発明であって、前記各電磁石の前記コイルに対してそれぞれ直列に接続された前記誘導性素子を備え、前記サンプルホールド手段では、前記誘導性素子にかかる電圧がすべての電磁石の前記スイッチングアンプの制御サイクルにおいて同期が取られた信号に基づき取得されることを特徴とする。
【0034】
ロータ軸を非接触浮上させる場合には複数の電磁石を用いる。各電磁石が任意のタイミングで変位検出を行うと、スイッチングアンプのスイッチングによって生じるノイズが他の電磁石のサンプル値に影響を及ぼす。これを避けるために、すべての電磁石の変位検出、及びサンプルホールドの動作は同期して行う。
また、前記サンプルホールドの動作は、実測により前記ノイズの影響が少なくなるタイミングを把握しておき、そのタイミングで実施しても良い。
【0035】
更に、本発明(請求項13)は真空ポンプの発明であって、前記スイッチングアンプより前記電磁石の前記コイルに流れる電流を抽出する電流抽出手段と、該電流抽出手段に流れる電流を所定のタイミングで保持する電流サンプルホールド手段を備え、該電流サンプルホールド手段における前記所定のタイミングは前記制御サイクルにおいて同期が取られた信号であることを特徴とする。
【0036】
電磁石のコイルに流れる電流の抽出のタイミングについても同期を取ることで精度の高い制御を行うことができる。
【発明の効果】
【0037】
以上説明したように本発明によれば、誘導性素子にかかる電圧を所定のタイミングで抽出する電圧抽出手段と、サンプルホールド手段で保持された電圧を基に電磁石のコイルを流れる電流の時間微分に比例した信号を算出する電流変化率算出手段と、電流変化率算出手段で算出された信号に基づき制御対象物と電磁石間の変位を推定する変位推定手段とを備えて構成したので、電磁石の制御電流の大きさによらず、スイッチングアンプのON/OFFによって生じる電流リップルの時間微分を直接検出できる。
【0038】
従って、高精度かつ広い範囲で変位を推定するために必要なS/N比の大きな信号を検出できる。
このため、別途変位センサを設けた場合と同等以上の精度で磁気軸受の制御が可能になり、磁気軸受の小型化、低コスト化を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1にターボ分子ポンプの構成図を示す。
図1において、ポンプ本体100の円筒状の外筒127の上端には吸気口101が形成されている。外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードによる複数の回転翼102a、102b、102c・・・を周部に放射状かつ多段に形成した回転体103を備える。
この回転体103の中心にはロータ軸113が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば、いわゆる5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。
【0041】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石が、ロータ軸113の径方向の座標軸であって互いに直交するX軸とY軸とに対をなして配置されている。
ロータ軸113は、高透磁率材(鉄など)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。
【0042】
また、下側径方向電磁石105が、上側径方向電磁石104と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している。
更に、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。
【0043】
軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bは、磁力により金属ディスク111をそれぞれ上方と下方とに吸引する。
このように、制御装置200は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。
【0044】
モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、制御装置200によって制御されている。
回転翼102a、102b、102c・・・とわずかの空隙を隔てて複数枚の固定翼123a、123b、123c・・・が配設されている。回転翼102a、102b、102c・・・は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。
【0045】
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。
そして、固定翼123の一端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125a、125b、125c・・・の間に嵌挿された状態で支持されている。
【0046】
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。
固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部にはベース部129が配設され、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間にはネジ付きスペーサ131が配設されている。そして、ベース部129中のネジ付きスペーサ131の下部には排気口133が形成され、外部に連通されている。
【0047】
ネジ付きスペーサ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝131aが複数条刻設されている。
ネジ溝131aの螺旋の方向は、回転体103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。
【0048】
回転体103の回転翼102a、102b、102c・・・に続く最下部には円筒部102dが垂下されている。この円筒部102dの外周面は、円筒状で、かつネジ付きスペーサ131の内周面に向かって張り出されており、このネジ付きスペーサ131の内周面と所定の隙間を隔てて近接されている。
【0049】
ベース部129は、ターボ分子ポンプ10の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。
ベース部129はターボ分子ポンプ10を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
【0050】
かかる構成において、回転翼102がモータ121により駆動されてロータ軸113と共に回転すると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じてチャンバからの排気ガスが吸気される。
吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送される。
ネジ付きスペーサ131に移送されてきた排気ガスは、ネジ溝131aに案内されつつ排気口133へと送られる。
【0051】
次に、電磁石とロータ軸間のギャップ長を推定する方法について説明する。まず、
図2のブロック図に基づきその構成を説明する。ロータ軸113の周囲には制御対象物に相当する円筒状で磁束の通り易いターゲット部材1が固着されている。但し、ターゲット部材1は省略されることも可能である。この場合、制御対象物に相当するのはロータ軸113である。そして、このターゲット部材1と所定の隙間3を隔てて上側径方向電磁石104の電磁石5が配設されている。この上側径方向電磁石104はX軸方向とY軸方向とにそれぞれ対となるよう合計4個の電磁石5で構成されている。
【0052】
電磁石5にはコイル7が捲回されている。このコイル7と直列に誘導性素子9が接続されている。電磁石5及び誘導性素子9にはPWMスイッチングアンプ11から電流が供給されるようになっている。また、このPWMスイッチングアンプ11に対しては、PID制御回路13からPID調整された信号が入力されるようになっている。電流検出回路15ではPWMスイッチングアンプ11から電流I
mが検出され、サンプルホールド17にて所定のサンプル信号に基づきそのタイミングでの電流値I
mが取得されるようになっている。ここで取得された電流値I
mはA/D変換器19でディジタル値に変換され、そのディジタル値がPID制御回路13に入力されるようになっている。
【0053】
また、誘導性素子9の両端子には差動入力アンプ21が接続され、誘導性素子9の両端子間の電圧V
sが検出され、サンプルホールド23にて所定のサンプル信号に基づきそのタイミングでの電圧値V
sが取得されるようになっている。ここで取得された電圧値V
sは。A/D変換器19でディジタル値に変換され、そのディジタル値がPID制御回路13に入力されるようになっている。A/D変換器19とPID制御回路13はDSP(Digital Signal Processor)にて構成されている。
【0054】
次に、
図3に基づき本発明の実施形態の作用を説明する。
図3にはPWMの一周期における電磁石5の電圧V
m、電磁石電流I
m、誘導性素子9の電圧V
s及びサンプル信号の関係を示す。
電磁石5を流れる電流値I
mの時間微分である変化率(di/dt)はターゲット部材1と電磁石5間の隙間3の変位の大きさに応じて変化する。ここに変化率(di/dt)は誘導性素子9の両端に生じる電圧値V
sを検出することで求めることができる。従って、電圧値V
sを検出すれば隙間3の変位の大きさを演算により推定できる。
【0055】
即ち、
図3において、電流値I
mは電磁石5を流れると共に誘導性素子9にも同じ電流が流れている。このため、PWMスイッチングアンプ11のON/OFFによって電流が変化するときに誘導性素子9の両端に生じる電圧値V
sを検出することで、この電圧値V
sから電流値I
mの時間微分である変化率(di/dt)に比例した信号を検出する。そして、その信号を用いてターゲット部材1と電磁石5間の隙間3の変位を推定し、この変位に基づき磁気軸受を制御する。
【0056】
変化率(di/dt)から得られるインダクタンスには変位に関係ない誘導性素子9のインダクタンス(Ls)も含まれるが、電磁石5のインダクタンス(Lm)に対して微小な値を設定することにより、影響を無視することができる。PWMスイッチングアンプ11の電源電圧をEとすると電流変化時の誘導性素子電圧は概略E×Ls/(Lm+Ls)となり、Ls/Lm<1/100の場合でも十分に信号処理可能な電圧を検出できる。例えば、電磁石5のインダクタンス(Lm)が20mHのとき、誘導性素子9のインダクタンス(Ls)は0.1mH程度に設定する。
【0057】
電磁石5に対し直列に誘導性素子9を接続し、差動入力アンプ21で誘導性素子9間の電圧V
sを検出する。
図3に示すように、PWMスイッチングアンプ11のスイッチングの一周期間は、電磁石5の電流制御期間と変化率(di/dt)を検出するための変位検出期間からなる。そして、変位検出期間は更に一定時間の電流増加期間と電流減少期間からなる。電流増加期間と電流減少期間とは等しい時間(デューティ比50%)とするのが望ましい。
【0058】
このように等時間の場合には電流増加期間における電流の増加値と電流減少期間における電流の減少値とが等しくなるので、変位検出期間を設けたことによるPWM電流制御に与える影響は少なくできる。また、この変位検出期間はセトリング期間経過後の電圧値V
sの安定した期間に設定することが望ましい。
【0059】
サンプルホールド23では、電流増加期間あるいは電流減少期間又はその両方の期間において電圧値V
sを取得する。サンプルホールド23で取得された電圧値V
sはA/D変換器19でディジタル信号化した後、DSPなどの信号処理回路で変位の推定値に変換し、磁気軸受制御に用いる。PID制御回路13ではここで推定された変位の値と図示しない位置の指令値との間で偏差が取られ、その偏差の大きさに応じて電流指令値が決められる。そして、電流検出回路15で抽出された電流値I
mがこの電流指令値となるようにPWM信号が調整される。
【0060】
以上により、電磁石5の制御電流の大きさによらず、PWMのON/OFFによって生じる電流リップルの変化率(di/dt)を直接検出できる。従って、高精度かつ広い範囲で変位を推定するために必要なS/N比の大きな信号を検出できる。
このため、別途変位センサを設けた場合と同等以上の精度で磁気軸受の制御が可能になり、磁気軸受の小型化、低コスト化を実現できる。
以下、各実施例について説明する。
[実施例1]
【0061】
図4に実施例1の回路図を示す。なお、
図2と同一の要素には同一の符号を付して説明を省略する。
図4はPWMスイッチングアンプ11、差動入力アンプ21、サンプルホールド23の具体的な回路構成例である。
図4において、電源30は+20〜60Vの直流電源である。この電源30にはダイオード31のカソードが接続され、ダイオード31のアノードにはFET33のドレイン端子が接続されている。FET33のソース端子とアースの間には抵抗Rsが接続されている。また、電源30にはFET35のドレイン端子が接続されている。FET35のソース端子にはダイオード37のカソードが接続され、ダイオード37のアノードはアースに接続されている。FET35のソース端子とFET33のドレイン端子間には電磁石5のコイル7と誘導性素子9とが直列に接続されている。
【0062】
ここに、誘導性素子9にはインダクタ(Ls)を使用し、電流値I
mは抵抗Rsを用いて検出する。なお、抵抗Rdは、電磁石5のインダクタンス(Lm)の寄生容量と誘導性素子9のインダクタンスとの共振を減衰させるためのダンピング抵抗である。
かかる構成において、FET33とFET35のそれぞれのゲート端子には変位検出期間と電流制御期間の設定されたPWM信号が入力される。
このとき、
図3に示す通り一周期間の電磁石5の電圧V
mと誘導性素子9の両端に生じる電圧値V
sとは共にプラス電位とマイナス電位とに大きく変動している。
【0063】
ターゲット部材1と電磁石5間の隙間3のギャップ長をg=g0+Δgとすると、電磁石5を流れる電流値I
mの時間微分である変化率(di/dt)はギャップ長gに比例する。定常時のギャップ長g0のときの変化率(di/dt)をあらかじめ実験等により測定しておくことによって、定常時のギャップ長g0からの変位Δgを推定することができる。
誘導性素子9を流れる電流は磁気軸受の制御によって大きく変動するのに対し、電流値Imの時間微分である変化率(di/dt)は誘導性素子9の両端に生じる電圧V
sとして安定して取得できるのでS/N比の大きな信号を検出できる。
[実施例2]
【0064】
図5に実施例2の回路図を示す。なお、
図4と同一の要素には同一の符号を付して説明を省略する。
図5において、誘導性素子9にはトランスTsを使用する。なお、抵抗Rdは、電磁石5のインダクタンス(Lm)の寄生容量とトランスTsのインダクタンス(Ls)との共振を減衰させるためのダンピング抵抗である。
【0065】
かかる構成において、トランスTsを用いることによって、以下の利点がある。
即ち、トランスTsの一次側抵抗値と電流値I
mによる電圧変動を無視できる。そして、PWMスイッチングアンプ11によって発生するコモンモード電圧変動の影響がトランスニ次側には現れない。このため、差動入力アンプ21として、大きなコモンモード電圧変動に対応した低速の差動アンプを使用する必要がなく、高速の差動アンプを使用できる。また、差動アンプ出力のセトリングタイムが短くなるので、変位検出期間を短縮できる。これにより一周期間の電流制御期間を長く取ることができ制御の応答性を改善できる。
[実施例3]
【0066】
図6に実施例3の回路図を示す。また、
図7に一周期間のサンプル信号と電流値I
m、誘導性素子9の両端に生じる電圧値V
sの関係を示す。なお、
図4と同一の要素には同一の符号を付して説明を省略する。
誘導性素子9のインダクタはわずかに抵抗成分Rsを持つため電流値I
mの低周波成分が大きい場合、電圧降下RsImを生じ、これがオフセットとなって誘導性素子9の両端に生じる電圧値V
sに重畳する。即ち、変位検出期間の前半でサンプルホールド23のサンプル信号SH1により検出した電圧値V
sは+di/dt+RsImであり、変位検出期間の後半でサンプルホールド24のサンプル信号SH2により検出した電圧値V
sは−di/dt+RsImである。
【0067】
従って、変位検出期間の前半の電流増加期間のサンプル値から変位検出期間の後半の電流減少期間のサンプル値を減算器41で減算することによってこのオフセット成分を除去することができる。このため、精度の高い変位信号を得ることができる。
ここに、サンプリングのタイミングは差動入力アンプ21のセトリングタイムを考慮して電圧変動の抑制された電圧の安定した領域内で設定する。
[実施例4]
【0068】
図8に実施例4の回路図を示す。また、
図9に一周期間のサンプル信号と電流値I
m、誘導性素子9の両端に生じる電圧値V
sの関係を示す。なお、
図4と同一の要素には同一の符号を付して説明を省略する。
実施例3の場合と同様に、誘導性素子9のインダクタはわずかに抵抗成分Rsを持つため電流値I
mの低周波成分が大きい場合、電圧降下RsImを生じ、これがオフセットとなって誘導性素子9の両端に生じる電圧値V
sに重畳する。即ち、変位検出期間の前半でサンプルホールド23のサンプル信号SH1により検出した電圧値V
sは+di/dt+RsImであり、変位検出期間の後半でサンプルホールド24のサンプル信号SH2により検出した電圧値V
sは−di/dt+RsImである。
【0069】
従って、変位検出期間の前半の電流増加期間のサンプル値から変位検出期間の後半の電流減少期間のサンプル値を減算器41で減算することによってこのオフセット成分を除去することができる。一方、電流増加期間のサンプル値と電流減少期間のサンプル値を加算器43で加算することによって電流値I
mに比例した信号が得られる。このため、精度の高い変位信号を得ることができると共に、加算器43を追加することによって電流検出専用の回路(
図2、
図4の電流検出回路15、
図4の抵抗Rs)を省略することが可能となる。
[実施例5]
【0070】
図10に実施例5の回路図を示す。なお、
図2と同一の要素には同一の符号を付して説明を省略する。上側径方向電磁石104はX軸方向とY軸方向とにそれぞれ対となるよう合計4個の電磁石5で構成されている。ここに、例えば、
図10に示すように、X軸方向においては電磁石5Aと電磁石5Bとが対向して配置されている。このとき、ターゲット部材1と電磁石5A間の一方の隙間3Aがg0+Δgに対し、ターゲット部材1と電磁石5B間の他方の隙間3Bはg0−Δgで表される。
【0071】
誘導性素子9としては同一のコア鉄心51に対して3つの巻線53、55、57が捲回されたトランスで構成する。一次側の巻線53は電磁石5Bのコイル7Bと直列に接続がされ、PWMスイッチングアンプ11Aより電流が供給されるようになっている。また、一次側の巻線55は電磁石5Aのコイル7Aと直列に接続がされ、PWMスイッチングアンプ11Bより電流が供給されるようになっている。
【0072】
トランスの一次側の巻線53と巻線55とは、図のような極性で配線することにより、それぞれが発生する磁束を互いに打ち消し合うようになっている。
そして、電磁石5Aと電磁石5Bに対し同じタイミングで電流増加、電流減少のための電圧を印加する。
従って、トランス一次側の巻線53と巻線55とに流れる電流で生じる磁束の差によってニ次側の巻線57に電圧が誘起される。即ち、トランスニ次側の巻線57には電磁石5Aと電磁石5Bを流れる電流の電流変化率の差に比例した電圧が誘起される。このため、サンプルホールド23のサンプル信号SH1により検出した電圧値V
sは変位Δgに比例した値となる。このことにより、片側の電磁石のみで測定した場合に得られるg0+ΔgからΔgを推定する必要がなくなる。
【0073】
なお、上記の各実施例においては、簡単化のため誘導性素子9を流れる電流値I
mをリニアに記載している。しかしながら、実際の電流値I
mは、
図11に示すように電磁石5の磁性材に生じる渦電流やヒステリシスの影響により、一定の変化率(di/dt)で増減するわけではない。スイッチングによりアンプ出力電圧が切り替わったポイントからの経過時間に従ってdi/dtは変化し、次第に一定値に近づく。サンプル信号SHはこの一定値に至った時点で生成することが望ましい。そして、変位検出期間におけるスイッチングからサンプリングまでの時間を常に一定にすることによって、渦電流、ヒステリシスなどの影響を避けることができる。
【0074】
変位検出期間は電磁石電流の電流制御期間とは分離されており、変位検出期間における電流増加期間と電流減少期間の時間は等しいため、変位検出期間での電流変動は0になり、電磁石電流の平均値には影響しない。変位検出期間が長いとPWM制御の一周期内で増減可能な電磁石電流の平均値が減少し、電磁石電流の制御応答性が低下する。従って、少なくとも変位検出期間の長さは電流制御期間の長さ未満にする必要があり、1/4以下が望ましい。
また、前出のPWMスイッチングアンプ11は電流を一方向に流すことしかできない。変位検出期間での電磁石電流の平均値が0付近の場合に、電流減少期間内で電流値が0になるのを避けるため、変位検出期間では電流増加期間を電流減少期間よりも先に設けることが望ましい。
【0075】
更に、回転体103を非接触浮上させる場合には上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105、軸方向電磁石106A、106Bの複数の電磁石を用いる。各電磁石が任意のタイミングで変位検出を行うと、PWMスイッチングアンプ11のスイッチングによって生じるノイズが他の電磁石5のサンプル値に影響を及ぼす。これを避けるためにすべての電磁石5の変位検出、及びサンプルホールドの動作は同期して行われる。
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変をなすことができ、そして、本発明が当該改変されたものにも及ぶことは当然である。