(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記コントローラは、前記通電期間において第1相の上アームの半導体スイッチング素子をオン状態に制御し、かつ第2相の下アームの半導体スイッチング素子をオン状態に制御する場合であり、さらに前記第1の制御モードの場合には、前記第2相の半導体スイッチング素子のオンオフを制御するパルス幅変調信号に基づいて前記無通電相の出力ノードの電圧の検出タイミングを決定する、請求項4に記載の半導体装置。
前記コントローラは、前記通電期間において第1相の上アームの半導体スイッチング素子をオン状態に制御し、かつ第2相の下アームの半導体スイッチング素子をオン状態に制御する場合であり、さらに前記第2の制御モードの場合には、前記第1相の半導体スイッチング素子のオンオフを制御するパルス幅変調信号に基づいて前記無通電相の出力ノードの電圧の検出タイミングを決定する、請求項4に記載の半導体装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、各実施形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰返さない。
【0013】
<第1の実施形態>
[モータ駆動システムの全体構成]
図1は、モータ駆動システムの構成の一例を示すブロック図である。
図1を参照して、モータ駆動システム90は、三相のブラシレスDCモータ130と、インバータ回路120と、インバータ回路120を制御する半導体装置100とを備える。
【0014】
(1.ブラシレスDCモータ)
ブラシレスDCモータ130は、Y結線された固定子巻線131U,131V,131Wと、1つ以上の磁極対を有する回転子(不図示)とを含む。インバータ回路120から固定子巻線131U,131V,131Wに与えられる三相交流に同期して回転子が回転駆動される。固定子巻線131U,131V,131Wの結節点を中点132と称する。
【0015】
(2.インバータ回路)
インバータ回路120は、U相上アーム用のMOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタUHと、U相下アーム用のMOSトランジスタULと、V相上アーム用のMOSトランジスタVHと、V相下アーム用のMOSトランジスタVLと、W相上アーム用のMOSトランジスタWHと、W相下アーム用のMOSトランジスタWLとを含む。上アームをハイサイド(High Side)とも称し、下アームをローサイド(Low Side)とも称する。以下、これらの接続に関して簡単に説明する。
【0016】
MOSトランジスタUHとMOSトランジスタULとは、この順で電源電圧VMを与える第1の電源ノード121と接地電圧GNDを与える第2の電源ノード122との間に接続される。MOSトランジスタUHとMOSトランジスタULとの接続点である出力ノードNUは、U相固定子巻線131Uの一端と接続される。
【0017】
同様に、MOSトランジスタVHとMOSトランジスタVLとは、第1の電源ノード121と第2の電源ノード122との間にこの順で直列に接続される。MOSトランジスタVHとMOSトランジスタVLとの接続点である出力ノードNVは、V相固定子巻線131Vの一端と接続される。MOSトランジスタWHとMOSトランジスタWLとは、第1の電源ノード121と第2の電源ノード122との間にこの順で直列に接続される。MOSトランジスタWHとMOSトランジスタWLとの接続点である出力ノードNWは、W相固定子巻線131Wの一端と接続される。
【0018】
MOSトランジスタUH,UL,VH,VL,WH,WLの各々は、逆バイアス方向に並列接続されたボディダイオード(不図示)を有している。したがって、同一相の上アームのトランジスタと下アームのトランジスタとが両方ともオフ状態の場合は、このボディダイオードを介して回生パスで電流が流れる場合がある。
【0019】
図1では、全てのMOSトランジスタUH,UL,VH,VL,WH,WLはNチャネルMOSトランジスタによって構成されている。これに代えて、上アームのMOSトランジスタUH,VH,WHと下アームのMOSトランジスタUL,VL,WLとの一方をNMOSにし、他方をPMOSにしてもよいし、全てのMOSトランジスタUH,UL,VH,VL,WH,WLをPチャネルMOSトランジスタで構成してもよい。
【0020】
また、インバータ回路120を構成する半導体スイッチング素子として、MOSトランジスタに代えて、たとえば、他の種類の電界効果トランジスタを用いてもよいし、バイポーラトランジスタを用いてもよいし、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を用いてもよい。ただし、他の種類のトランジスタを用いる場合には、同一相の上アームのトランジスタと下アームのトランジスタとが両方ともオフ状態の場合に回生パスで電流を流すために、各トランジスタと逆並列にフリーホイールダイオードを接続する必要がある。
【0021】
(3.半導体装置)
半導体装置100は、スイッチ回路150と、仮想中点生成回路160と、差動増幅回路140と、マイクロコントローラユニット(MCU:Micro Controller Unit)110とを含む。スイッチ回路150と差動増幅回路140とによって、インバータ回路120の無通電相の出力ノードの電圧を検出するための検出器115が構成される。
【0022】
スイッチ回路150は、出力ノードNU,NV,NWと接続される。スイッチ回路150は、MCU110から出力された相セレクト信号SLU,SLV,SLWに応じて、出力ノードNU,NV,NWのうちの選択相の出力ノードと検出ノード151とを接続する。
【0023】
仮想中点生成回路160は、ブラシレスDCモータ130の中点132と同一の電圧を有する仮想中点162を与える。具体的に、仮想中点生成回路160は、仮想中点162と出力ノードNUとの間に接続された抵抗素子161Uと、仮想中点162と出力ノードNVとの間に接続された抵抗素子161Vと、仮想中点162と出力ノードNWとの間に接続された抵抗素子161Wとを含む。抵抗素子161U,161V,161Wは、互いに等しい抵抗値を有している。
【0024】
差動増幅回路140は、検出ノード151の電圧Vdと参照電圧Vrefとの差分を増幅する。参照電圧Vrefとして中点132または仮想中点162の電圧が用いられる。
【0025】
図1に示すように、具体的な回路構成の一例として、差動増幅回路140は、演算増幅器141と、抵抗素子142,143,144,145とを含む。抵抗素子143は仮想中点162と演算増幅器141の+端子との間に接続される。抵抗素子142の一端は演算増幅器141の+端子に接続され、他端にはオフセット電圧Vofstが与えられる。抵抗素子145は検出ノード151と演算増幅器141の−端子との間に接続される。抵抗素子144は、演算増幅器141の−端子と出力端子との間に接続される。
【0026】
上記の回路構成において、検出ノード151の電圧をVdとし、仮想中点162の電圧をVrefとし、抵抗素子143,145の抵抗値をR1とし、抵抗素子142,144の抵抗値をR2とする。そうすると、演算増幅器141の出力電圧Voutは、
Vout=(Vref−Vd)×R2/R1+Vofst …(1)
で表される。したがって、演算増幅器141の電源電圧をVDD[V]とし、オフセット電圧VofstをVDD/2とすれば、演算増幅器141の出力電圧は、0〜VDD[V]の範囲内で変化し、検出ノード151の電圧Vdが仮想中点162の電圧Vrefに等しいときにVDD/2に等しくなる。
【0027】
MCU110は、CPU(Central Processing Unit)およびメモリ等を含むコンピュータを1つの集積回路に組み込んだものである。MCU110は、メモリに格納されたプログラムを実行することによってこの明細書に記載した種々の機能を実現する。MCU110は、さらにAD(Analog to Digital)変換器111を含み、差動増幅回路140の出力をデジタル値に変換する。
【0028】
MCU110は、不図示のシャント抵抗によるモータ電流の検出値と、差動増幅回路140の出力に基づく回転子の推定位置と、回転速度指令値112などの制御指令値とに基づいて、PWM信号GUH,GUL,GVH,GVL,GWH,GWLを生成する。MCU110は、生成したPWM信号GUH,GUL,GVH,GVL,GWH,GWLを、インバータ回路120を構成するMOSトランジスタUH,UL,VH,VL,WH,WLのゲートにそれぞれ出力する。さらに、MCU110は、生成したPWM信号GUH,GUL,GVH,GVL,GWH,GWLに基づいて、スイッチ回路150を切り替えるための相セレクト信号SLU,SLV,SLWを生成する。
【0029】
[120°通電方式の通電パターン]
本実施形態では、MCU110は、120°通電方式によってブラシレスDCモータ130を制御する。120°通電方式とは、電気角半周期のうち120°を通電期間とし、残りの60°を無通電期間とする方式であり、無通電期間において逆起電圧が現れる。三相のブラシレスDCモータでは、通電相が電気角60°ごとに切り替わるので、6つの通電パターンが生じる。
【0030】
なお、電気角半周期のうち120°以上180°未満を通電期間とした場合にも、無通電期間に生じる逆起電圧を測定可能であれば、本開示の技術を適用することができる。
【0031】
上記の120°通電方式の通電期間および無通電期間は、後述するPWM制御の通電期間および回生期間とは異なる期間を指している点に注意されたい。本明細書において、120°通電方式の通電期間および無通電期間とPWM制御の通電期間および回生期間とを明示的に区別する必要がある場合には、120°通電方式の通電期間をオン期間と称し、120°通電方式の無通電期間をオフ期間と称する。
【0032】
図2および
図3は、120°通電方式の場合の6つの通電パターンについて説明するための図である。
【0033】
図2(A)を参照して、インバータ回路120のW相上アームのMOSトランジスタWHとU相下アームのMOSトランジスタULとをオン状態に制御し他をオフ状態に制御すれば、W相固定子巻線131WからU相固定子巻線131Uにモータ電流Aが流れる。V相固定子巻線131Vは無通電状態であり、逆起電圧が現れる。以下の説明では、この通電パターンを通電パターンAと称する。
【0034】
また、通電パターンAにおいて、V相を「無通電相」と称し、W相を「上流側通電相」と称し、U相を「下流側通電相」と称する。モータ電流は、上流側通電相の固定子巻線から下流側通電相の固定子巻線の方向に流れる。他の通電パターンの場合にも同様に定義する。
【0035】
図2(B)を参照して、W相上アームのMOSトランジスタWHとV相下アームのMOSトランジスタVLとをオン状態に制御し他をオフ状態に制御すれば、W相固定子巻線131WからV相固定子巻線131Vにモータ電流Bが流れる。U相固定子巻線131Uは無通電状態であり、逆起電圧が現れる。以下の説明では、この通電パターンを通電パターンBと称する。
【0036】
図2(C)を参照して、U相上アームのMOSトランジスタUHとV相下アームのMOSトランジスタVLとをオン状態に制御し他をオフ状態に制御すれば、U相固定子巻線131UからV相固定子巻線131Vにモータ電流Cが流れる。W相固定子巻線131Wは無通電状態であり、逆起電圧が現れる。以下の説明では、この通電パターンを通電パターンCと称する。
【0037】
図3(A)を参照して、U相上アームのMOSトランジスタUHとW相下アームのMOSトランジスタWLとをオン状態に制御し他をオフ状態に制御すれば、U相固定子巻線131UからW相固定子巻線131Wにモータ電流Dが流れる。V相固定子巻線131Vは無通電状態であり、逆起電圧が現れる。以下の説明では、この通電パターンを通電パターンDと称する。
【0038】
図3(B)を参照して、V相上アームのMOSトランジスタVHとW相下アームのMOSトランジスタWLとをオン状態に制御し他をオフ状態に制御すれば、V相固定子巻線131VからW相固定子巻線131Wにモータ電流Eが流れる。U相固定子巻線131Uは無通電状態であり、逆起電圧が現れる。以下の説明では、この通電パターンを通電パターンEと称する。
【0039】
図3(C)を参照して、V相上アームのMOSトランジスタVHとU相下アームのMOSトランジスタULとをオン状態に制御し他をオフ状態に制御すれば、V相固定子巻線131VからU相固定子巻線131Uにモータ電流Fが流れる。W相固定子巻線131Wは無通電状態であり、逆起電圧が現れる。以下の説明では、この通電パターンを通電パターンFと称する。
【0040】
上記の通電パターンA,B,C,D,E,Fの順番でブラシレスDCモータ130に電流を流すようにインバータ回路120を制御すれば、U相、V相、W相、U相、…の順番で通電相が順次切り替わる。したがって、ブラシレスDCモータ130の回転子もこの回転電磁界に同期して回転する。この明細書では、便宜上この回転方向を順方向と称する。
【0041】
一方、上記の逆順で、すなわち、通電パターンF,E,D,C,B,Aの順番でブラシレスDCモータ130に電流を流すようにインバータ回路120を制御すれば、W相、V相、U相、W相、…の順番で通電相が順次切り替わる。したがって、ブラシレスDCモータ130の回転子もこの回転電磁界に同期して回転する。この明細書では、便宜上この回転方向を逆方向と称する。
【0042】
[PWM制御の場合の固定子巻線の電流および電圧]
次に、120°通電方式のブラシレスDCモータ130をPWM制御しているにおいて、通電相の固定子巻線131を流れる電流と無通電相の固定子巻線131に生じる逆起電圧について説明する。
【0043】
図4は、
図3(B)に示す通電パターンにおいて、ブラシレスDCモータ130をPWM駆動している場合のモータ電流の流れを示す図である。
図4に示す通電パターンEでは、U相が無通電相であり、V相が上流側通電相であり、W相が下流側通電相である。モータ電流は、上流側通電相のV相固定子巻線131Vから下流側通電相のW相固定子巻線131Wの方向に流れる。
【0044】
PWM制御では、
図4(A)のように電源電圧VMがブラシレスDCモータ130に供給されることにより通電パスで電流が流れる期間と
図4(B)または
図4(C)のように回生パスで電流が流れる期間とが繰り返される。この明細書では、前者を「通電期間」と称し、後者を「回生期間」と称する。
【0045】
図4(A)は、通電相であるV相上アーム用のMOSトランジスタVHおよびW相下アーム用のMOSトランジスタWLを両方ともオン状態にした場合(通電期間)、すなわち、ブラシレスDCモータ130に電源電圧が供給されている場合のモータ電流の流れを示す。具体的に
図4(A)に示すように、モータ電流は、電源電圧VMが与えられる第1の電源ノード121、MOSトランジスタVH、V相固定子巻線131V、中点132、W相固定子巻線131W、MOSトランジスタWL、接地電圧GNDが与えられる第2の電源ノード122の順に流れる。
【0046】
図4(B)は、通電相であるV相上アーム用のMOSトランジスタVHおよびW相下アーム用のMOSトランジスタWLのうち、MOSトランジスタVHをオフ状態にし、代わりにV相下アーム用のMOSトランジスタVLをオン状態にした場合(回生期間)を示す。この場合、
図4(B)に示すように、V相固定子巻線131V、中点132、W相固定子巻線131W、MOSトランジスタWL、MOSトランジスタVLの順に循環する回生パスで電流が流れる。
【0047】
このように
図4(B)では、インバータ回路120を構成する下アームのスイッチング素子に回生パスで電流が流れる。この明細書では、この制御モードを「下アーム回生モード」と称する。下アーム回生モードでは、上流側通電相であるV相のMOSトランジスタVH,VLのオンオフを切り替えることによって、通電期間と下アーム回生期間とが交互に現れるようにインバータ回路120を制御できる。
【0048】
図4(C)は、通電相であるV相上アーム用のMOSトランジスタVHおよびW相下アーム用のMOSトランジスタWLのうち、MOSトランジスタWLをオフ状態にし、代わりにW相上アーム用のMOSトランジスタWHをオン状態にした場合(回生期間)を示す。この場合、
図4(C)に示すように、V相固定子巻線131V、中点132、W相固定子巻線131W、MOSトランジスタWH、MOSトランジスタVHの順に循環する回生パスで電流が流れる。
【0049】
このように
図4(C)では、インバータ回路120の上アームのスイッチング素子に回生パスで電流が流れる。この明細書では、この制御モードを「上アーム回生モード」と称する。上アーム回生モードでは、下流側通電相であるW相のMOSトランジスタWH,WLのオンオフを切り替えることによって、通電期間と上アーム回生期間とが交互に現れるようにインバータ回路120を制御できる。
【0050】
以下、第1の実施形態では「下アーム回生モード」の場合について説明し、「上アーム回生モード」と「下アーム回生モード」とを併用する場合については第2の実施形態で説明する。なお、「上アーム回生モード」のみを用いてPWM制御を行うことも可能である。
【0051】
図5は、
図3(B)に示す通電パターンにおいてブラシレスDCモータ130をPWM駆動している場合に、ブラシレスDCモータに生じる逆起電圧について説明するための図である。
【0052】
図5(A)は、
図4(A)に対応する通電期間中において、中点132に生じる電圧と無通電相であるU相固定子巻線131Uに生じる逆起電圧を示している。
【0053】
図5(A)に示すように、中点132は、V相固定子巻線131VおよびON状態のMOSトランジスタVHを介して第1の電源ノード121(電源電圧VM)と接続され、W相固定子巻線131WおよびON状態のMOSトランジスタWLを介して第2の電源ノード122(接地電圧GND)と接続される。したがって、中点132にはVM/2近傍の電圧が印加される。なお、通電相の固定子巻線131V,131Wにも回転子の位置に応じた逆起電圧が生じるので、中点132の電圧はVM/2に完全に等しくならない。
【0054】
一方、無通電相であるU相固定子巻線131Uは、電源ノード121,122のいずれとも接続されておらず、高インピーダンス(Hi−Z)である。この場合、固定子巻線131には、約VM/2±α[V]の電圧が生じる。電圧αは回転子の位置に応じて生じる逆起電圧である。したがって、インバータ回路120のU相の出力ノードNUとブラシレスDCモータ130の中点132との電圧差(±α)に基づいて、回転子の位置を推定することができる。なお、本実施形態のモータ駆動システム90では中点132の電圧に代えて、
図1の仮想中点162の電圧が用いられる。
【0055】
図5(B)は、
図4(B)に対応する下アーム回生期間中において、中点132に生じる電圧と無通電相であるU相固定子巻線131Uに生じる逆起電圧を示している。
【0056】
図5(B)に示すように、中点132は、V相固定子巻線131VおよびON状態のMOSトランジスタVLを介して第2の電源ノード122(接地電圧GND)と接続され、W相固定子巻線131WおよびON状態のMOSトランジスタWLを介して第2の電源ノード122(接地電圧GND)と接続される。したがって、中点132には接地電圧GND近傍の電圧が印加される。なお、通電相の固定子巻線131V,131Wにも回転子の位置に応じた逆起電圧が生じるので、中点132の電圧は接地電圧GNDに完全に等しくならない。
【0057】
一方、無通電相であるU相固定子巻線131Uには、約GND±α[V]の電圧が生じる。電圧αは回転子の位置に応じて生じる逆起電圧である。したがって、インバータ回路120のU相の出力ノードNUとブラシレスDCモータ130の中点132との電圧差(±α)に基づいて、回転子の位置を推定することができる。なお、本実施形態のモータ駆動システム90では中点132の電圧に代えて、
図1の仮想中点162の電圧が用いられる。
【0058】
[モータ駆動制御の概略]
次に、模式的なモータ電流波形を示しながら、
図1に示すモータ駆動システム90の概略的な駆動制御手順について説明する。
【0059】
図6は、モータ電流波形の概略を示す模式的なタイミング図である。
図6では、停止中のブラシレスDCモータの回転子の位置検出から開始して、ブラシレスDCモータを連続的に駆動するまでの電流波形が模式的に示されている。
【0060】
図6を参照して、時刻t1から時刻t2において、停止中の回転子の位置検出(インダクティブセンス)が実行される。具体的に、
図1のMCU110は、
図2および
図3で説明した6個の通電パターンの各々で短時間ずつブラシレスDCモータに駆動電圧を印加する。具体的に
図6の場合には、通電パターンB,A,F,E,D,Cの順にインバータ回路120からブラシレスDCモータ130に駆動電圧が印加される。そして、MCU110は、無通電相の固定子巻線131に生じる電圧と仮想中点162に生じる電圧との電圧差を差動増幅回路140によって検出する。MCU110は、検出した電圧差に基づいて回転子の現在位置を推定する。
【0061】
次の時刻t2から時刻t3において、MCU110は回転子の現在の推定位置に基づいて、回転子に所望の回転方向のトルクが生じるようにインバータ回路120からブラシレスDCモータ130に電圧を印加する(駆動動作)。
図6の場合には、
図3(C)で説明した通電パターンFでインバータ回路120からブラシレスDCモータ130に電圧が印加される。以上説明したインダクティブセンス(時刻t1から時刻t2まで)と駆動動作(時刻t2から時刻t3まで)とを1回の位置検出動作とすると、MCU110は、ブラシレスDCモータ130が連続的に回転するまでこの位置検出動作を繰り返す(時刻t3から時刻t10まで)。
【0062】
時刻t10以降、ブラシレスDCモータ130は連続的に回転する。この連続回転中の通電パターンに応じて、MCU110は無通電相の固定子巻線131に生じる逆起電圧を検出することによってロータの位置を推定する。
図7以降で説明するように、本実施形態のモータ制御用の半導体装置では、逆起電圧を検出するタイミングに特徴がある。
【0063】
なお、既に説明したように120°通電方式の場合、通電相は電気角60°ごとに切り替わる。
図6のFG信号は電流切替えタイミングで生成される信号である。通電パターンは、D,C,B,A,F、E,D,C,B,A,Fの順に切り替わっており、回転子は逆方向に回転する。
【0064】
[モータ駆動制御の詳細]
図7は、第1の実施形態のモータ駆動システムの制御手順を示すフローチャートである。以下の各ステップは、
図1のMCU110が制御プログラムに従って動作することによって実現される。
【0065】
図1および
図7を参照して、MCU110は、現時点の回転子の推定位置、モータ電流の検出値、および回転速度指令値112などの制御指令に基づいて、インバータ回路120を構成する各半導体スイッチング素子のゲートに出力するPWM信号を生成する。これによって、PWM信号のデューティ比PWM_Dutyが更新される(ステップS100)。
【0066】
MCU110は、通電相を切り替えた場合には(ステップS101でYES)、インバータ回路120の無通電相の出力ノードと検出ノード151とを接続するようにスイッチ回路150を切り替える(ステップS102)。
【0067】
次のステップS103において、MCU110は、デューティ比PWM_Dutyが予め定める閾値よりも小さいか否かを判断する。
図7の例は、閾値が標準的な50%の場合を示しているが、この閾値の値に限定されるものではない。なお、デューティ比PWM_Dutyとは、PWM信号の1周期のうちの通電期間の割合、すなわち、通電期間/(通電期間+回生期間)をいう。
【0068】
デューティ比PWM_Dutyが閾値未満のとき(ステップS103でYES)、MCU110は、逆起電圧(BEMF)の検出タイミングを「回生期間」に変更する(ステップS104)。そして、MCU110は回生期間(
図9の回生期間III)において無通電相の固定子巻線に生じる逆起電圧を検出する(ステップS105)。このように、閾値が50%の場合に通電期間よりも長い回生期間においてBEMFを検出するので、BEMFの検出するタイミングの設定が容易である。その後、ステップS100に戻って処理が繰り返される。
【0069】
図7のステップS103に戻って、デューティ比PWM_Dutyが閾値以上のとき(ステップS103でNO)について説明する。この場合、MCU110は、BEMFの検出タイミングを「通電期間」に変更する(ステップS106)。
【0070】
次のステップS107において、MCU110は通電期間(
図8の通電期間I)において無通電相の固定子巻線に生じる逆起電圧を検出する。このように、閾値が50%の場合に回生期間よりも長くなる通電期間においてBEMFを検出するので、BEMFの検出するタイミングの設定が容易である。その後、ステップS100に戻って処理が繰り返される。
【0071】
ここで、
図7のステップS104,S106におけるPWM信号の論理レベルについて補足する。第1の実施形態では「下アーム回生モード」が用いられる。具体的に、PWM制御の通電期間において第1相の上アームの半導体スイッチング素子と第2相の下アームの半導体スイッチング素子がオン状態に制御される場合について説明する。この場合、下アーム回生期間では、MCU110は、上流側通電相である第1相の上アームの半導体スイッチング素子をオフ状態に制御し、第1相の下アームの半導体スイッチング素子をオン状態に制御する。MCU110は、下流側通電相である第2相の下アームの半導体スイッチング素子を、下アーム回生期間においてもオン状態に維持する。
【0072】
したがって、上記の場合、上流側通電相である第1相の上アーム半導体スイッチング素子のゲートに供給されるPWM信号の論理レベルに基づいて、通電期間か回生期間かを判別できる。なお、第1相の下アーム半導体スイッチング素子のゲートに供給されるPWM信号は、第1相の上アーム半導体スイッチング素子のゲートに供給されるPWM信号を反転したものである。したがって、第1相の下アーム半導体スイッチング素子のゲートに供給されるPWM信号の論理レベルに基づいても通電期間か回生期間かを判別できる。
【0073】
具体的に上記の例において、PWM信号の論理レベルがHレベルのとき半導体スイッチング素子がオン状態になり、PWM信号の論理レベルがLレベルのとき半導体スイッチング素子がオフ状態になるとする。そうすると、上流側通電相である第1相の上アームの半導体スイッチング素子のゲートに供給されるPWM信号は、通電期間のときにHレベルであり(ステップS106の場合)、回生期間のときにLレベルである(ステップS104の場合)。
【0074】
図8は、PWM信号のデューティ比が閾値以上の場合において、モータ出力電圧波形とゲート信号波形を模式的に示す図である。
【0075】
図8では、インバータ回路120のU相、V相、W相の出力ノードNU,NV,NWからブラシレスDCモータ130に出力される出力電圧の波形が示されている。さらに、インバータ回路120を構成する各MOSトランジスタのゲートに出力されるPWM信号GUH,GUL,GVH,GVL,GWH,GWLの波形が示されている。
図8の横軸は電気角[度]を表す。
【0076】
図8において電気角300°から360°の範囲では、MCU110は、
図3(B)で説明した通電パターンEでブラシレスDCモータ130を駆動するようにインバータ回路120を制御する。さらに、下アーム回生モードによってPWM制御が実行される。
【0077】
この場合、上流側通電相であるV相の上アームおよび下アームのMOSトランジスタVH,VLは、PWM信号GVH,GVLに応じて、オンオフが切り替わる。したがって、V相の出力ノードNVの電圧もHレベルとLレベルとが順次切り替わる。下流側通電相であるW相の上アームのMOSトランジスタWHはLレベルのPWM信号GWHによって常時オフに制御され、W相の下アームのMOSトランジスタWLはHレベルのPWM信号GWLによって常時オンに制御される。したがって、W相の出力ノードNWの電圧は接地電圧GNDに等しい。
【0078】
一方、無通電相であるU相のMOSトランジスタUH,ULは、LレベルのPWM信号GUH,GULによって常時オフ状態に制御される(Hi−Z)。この場合、逆起電圧によってU相の出力ノードNUには誘導電圧が生じ、U相の誘導電圧はV相電圧の変化に応じてHレベルとLレベルとに交互に切り替わる。HレベルおよびLレベルの各々の電圧値は徐々に減少する。
【0079】
MCU110は、V相の通電期間Iにおいて無通電相のU相に生じる誘導電圧を検出する。
図8の場合、通電期間Iは回生期間IIIよりも長いので、逆起電圧の検出タイミングの設定は容易である。
【0080】
図8において電気角360°から420°の範囲では、MCU110は、
図3(C)で説明した通電パターンFでブラシレスDCモータ130を駆動するようにインバータ回路120を制御する。さらに、下アーム回生モードによってPWM制御が実行される。
【0081】
この場合、上流側通電相であるV相の上アームおよび下アームのMOSトランジスタVH,VLは、PWM信号GVH,GVLに応じて、オンオフが切り替わる。したがって、V相の出力ノードNVの電圧もHレベルとLレベルとに交互に切り替わる。下流側通電相であるU相の上アームのMOSトランジスタUHはLレベルのPWM信号GUHによって常時オフに制御され、U相の下アームのMOSトランジスタULはHレベルのPWM信号GULによって常時オンに制御される。したがって、U相の出力ノードNUの電圧は接地電圧GNDに等しい。
【0082】
一方、無通電相であるW相のMOSトランジスタWH,WLは、LレベルのPWM信号GWH,GWLによって常時オフ状態に制御される(Hi−Z)。この場合、逆起電圧によってW相の出力ノードNWには誘導電圧が生じ、W相の誘導電圧はV相電圧の変化に応じてHレベルとLレベルとに交互に切り替わる。HレベルおよびLレベルの各々の電圧値は徐々に増加する。
【0083】
MCU110は、V相の通電期間Iにおいて無通電相のW相に生じる誘導電圧を検出する。
図8の場合、通電期間Iは回生期間IIIよりも長いので、逆起電圧の検出タイミングの設定は容易である。
【0084】
図9は、PWM信号のデューティ比が閾値未満の場合において、モータ出力電圧波形とゲート信号波形を模式的に示す図である。
【0085】
図9のタイミング図は、
図8のタイミング図に対応するものである。ただし、PWM信号のデューティ比PWM_Dutyが
図8の場合と異なるために、PWM信号に応じてモータ出力電圧がHレベルになる期間とLレベルになる期間とが
図8の場合と異なる。
図9のその他の点は
図8の場合と同じである。
【0086】
図9において電気角300°から360°の範囲では、MCU110は、V相の回生期間IIIにおいて無通電相のU相に生じる誘導電圧を検出する。
図9の場合、回生期間IIIは通電期間Iよりも長いので、逆起電圧の検出タイミングの設定は容易である。また、
図9において電気角360°から420°の範囲では、MCU110は、V相の回生期間IIIにおいて無通電相のW相に生じる誘導電圧を検出する。
図8の場合、回生期間IIIは通電期間Iよりも長いので、逆起電圧の検出タイミングの設定は容易である。
【0087】
図10は、
図9において無通電相の電圧波形をより詳細に示す図である。電気角300°から360°ではU相出力ノードNUの電圧波形(
図9の202)が実線で示され、電気角360°から420°ではW相出力ノードNWの電圧波形(
図9の203)が実線で示されている。さらに、仮想中点162の電圧波形が破線で示されている。
【0088】
図10に示すように、U相電圧、W相電圧、および中点電圧は、接地電圧GNDよりもボディダイオードの順方向電圧Vfだけ低い電圧(−Vf)から電源電圧VMよりも順方向電圧Vfだけ高い電圧(VM+Vf)の範囲で変化する。
【0089】
電気角300°から360°の範囲において、無通電相であるU相電圧および中点電圧は、上流側通電相であるV相電圧の変化に応じてHレベルとLレベルとに交互に切り替わる。この場合、HレベルおよびLレベルの各々の電圧値は徐々に減少するが、U相電圧の減少率のほうが中点電圧の減少率よりも大きい。これにより、両者が交差する交差点が生じ、この交差点の位置に基づいて回転子の位置を推定することができる。
【0090】
同様に、電気角360°から420°の範囲において、無通電相であるW相電圧および中点電圧は、上流側通電相であるV相電圧の変化に応じてHレベルとLレベルとに交互に切り替わる。この場合、HレベルおよびLレベルの各々の電圧値は徐々に増加するが、W相電圧の増加率のほうが中点電圧の増加率よりも大きい。これにより、両者が交差する交差点が生じ、この交差点の位置に基づいて回転子の位置を推定することができる。
【0091】
MCU110は、PWM信号の切り替わりから検出待ち時間Twが経過したときに、U相電圧またはV相電圧と中点電圧とを検出する。具体的に
図10において、MCU110は、PWM信号のデューティ比が閾値未満の場合には、回生期間中の電気角がθ10,θ11,θ14,θ15のときのU相電圧またはW相電圧と中点電圧とを検出する。
図10では、PWM信号の回生期間のほうが通電期間よりも長いので、逆起電圧の検出タイミングの設定は容易である。
【0092】
なお、MCU110は、PWM信号のデューティ比が閾値以上の場合には、通電期間中の電気角θ12,θ13,θ16,θ17のときのU相電圧またはW相電圧と中点電圧とを検出する。この場合、通電期間がより長くなるので、回生期間中よりも通電期間中のほうが逆起電圧の検出タイミングを設定しやすい。
【0093】
図1で説明した回路例では、MCU110は、U相電圧またはW相電圧と中点電圧との差電圧にオフセット電圧Vofstを加算した電圧値を取り込む。電圧値を取り込むタイミングは、たとえば、PWM信号の切り替わりから検出待ち時間Twが経過したときである。オフセット電圧VofstをVDD/2に設定すれば、U相電圧またはW相電圧と中点電圧とが等しいか否かを検出するための検出閾値はVDD/2になる。0[V]から電源電圧VDDの範囲を10ビットのAD変換器でデジタル値に変換した場合に、上記の検出閾値は512になる。
図10では、AD変換値が括弧の中に記載されている。
【0094】
[逆起電圧の検出タイミングの変形例]
図10の例では、逆起電圧の検出タイミングを、PWM信号の切り替わりから検出待ち時間Twが経過したときに設定していた。PWM信号を生成する際のキャリア信号を利用すると、より簡単に適切なタイミングを設定することができる。
【0095】
図11は、逆起電圧の検出タイミングの決定方法の一例を示す図である。
図11を参照して、MCU110は、PWM信号を生成する際に電圧指令値VCとキャリア信号CSとを比較し、比較結果に基づいてPWM信号のHまたはLを決定する。
【0096】
たとえば、
図11の例では、キャリア信号CSとして三角波が用いられる。時刻t30から時刻t32までの区間と、時刻t34から時刻t36までの区間では、キャリア信号CSが電圧指令値VCよりも大きくなるためにPWM信号はHレベルに設定される。その他の区間では、キャリア信号CSが電圧指令値VCよりも小さくなるためにPWM信号はLレベルに設定される。
【0097】
図11において、キャリア信号CSが最大値MAXとなる時刻t31および時刻t35はそれぞれ、PWM信号がHレベルを示す区間の中央である。キャリア信号CSが最小値MINとなる時刻t33は、PWM信号がLレベルを示す区間(すなわち、時刻t32から時刻t34まで)の中央である。したがって、キャリア信号CSが最大値または最小値となる時刻を逆起電圧の検出タイミングに設定すれば、適切なタイミングで逆起電圧を検出することができる。
【0098】
[効果]
以上のとおり、第1の実施形態によれば、三相モータ駆動用のインバータ回路に出力するPWM信号のデューティ比が閾値未満の場合には、三相モータに回生パスで電流を流すPWM信号の回生期間において、無通電相に生じる逆起電圧が検出される。したがって、デューティ比が極端に小さい場合でも無通電相に生じる逆起電圧を確実に検出できる。
【0099】
<第2の実施形態>
たとえば、電動工具などに使用するモータでは、インバータ回路を構成するMOSトランジスタの発熱を分散させ、MOSトランジスタの寿命を均一にするために、上アーム回生モードと下アーム回生モードとを併用する。たとえば、120°通電方式の場合には、電気角60°ごとに通電パターンを切り替えるときに上アーム回生モードと下アーム回生モードとが切り替えられる。
【0100】
第2の実施形態では、このようにPWM駆動において回生パスで電流を流す場合に上アーム回生と下アーム回生とを併用する場合について説明する。なお、第1の実施形態の
図1で説明したモータ駆動システム90の概略構成は、第2の実施形態の場合にも共通するので説明を繰り返さない。
【0101】
[モータ駆動システムの制御手順]
図12は、第2の実施形態のモータ駆動システムの制御手順を示すフローチャートである。以下の各ステップは、
図1のMCU110が制御プログラムに従って動作することによって実現される。
【0102】
図1および
図12を参照して、MCU110は、現時点の回転子の推定位置、モータ電流の検出値、および回転速度指令値112などの制御指令に基づいて、インバータ回路120を構成する各半導体スイッチング素子のゲートに出力するPWM信号を生成する。これによって、PWM信号のデューティ比PWM_Dutyが更新される(ステップS200)。
【0103】
MCU110は、通電相を切り替えた場合には(ステップS201でYES)、インバータ回路120の無通電相の出力ノードと検出ノード151とを接続するようにスイッチ回路150を切り替える(ステップS202)。
【0104】
以降の制御手順は、デューティ比PWM_Duty値が閾値未満であるか否かと(ステップS203)、下アーム回生であるか否か(ステップS203,S208)とで切り替わる。
【0105】
なお、
図12では一例として、閾値が50%の場合を示しているが、この値に限定されない。また、
図12では一例として、通電パターンがA,C,Eのいずれかの場合に下アーム回生によってPWM制御を実行し、通電パターンがB,D,Fのいずれかの場合に上アーム回生によってPWM制御を実行する場合を示しているが、これに限定されない。
【0106】
(1.PWM_Duty<50%かつ下アーム回生)
MCU110は、デューティ比PWM_Dutyが閾値未満でありかつ下アーム回生によってPWM制御を実行する場合には(ステップS203でYESかつステップS204でYES)、逆起電圧(BEMF)の検出タイミングを「下アーム回生期間」に変更する(ステップS205)。そして、MCU110は、下アーム回生期間(
図14の回生期間III)において無通電相の固定子巻線に生じる逆起電圧を検出する(ステップS206)。その後、ステップS200に戻って処理が繰り返される。
【0107】
(2.PWM_Duty<50%かつ上アーム回生)
MCU110は、デューティ比PWM_Dutyが閾値未満でありかつ上アーム回生によってPWM制御を実行する場合には(ステップS203でYESかつステップS204でNO)、逆起電圧(BEMF)の検出タイミングを「上アーム回生期間」に変更する(ステップS207)。そして、MCU110は上アーム回生期間(
図14の回生期間II)において無通電相の固定子巻線に生じる逆起電圧を検出する(ステップS206)。その後、ステップS200に戻って処理が繰り返される。
【0108】
ここで、「「上アーム回生モード」と「下アーム回生モード」との違いについてさらに説明する。たとえば、PWM制御の通電期間において第1相の上アームの半導体スイッチング素子と第2相の下アームの半導体スイッチング素子とがオン状態に制御される場合について説明する。この場合、下アーム回生期間では、MCU110は、上流側通電相である第1相の上アームの半導体スイッチング素子をオフ状態に制御し、第1相の下アームの半導体スイッチング素子をオン状態に制御する。MCU110は、下流側通電相である第2相の下アームの半導体スイッチング素子を、下アーム回生期間においてもオン状態に制御する。一方、上アーム回生期間では、MCU110は、下流側通電相である第2相の下アームの半導体スイッチング素子をオフ状態に制御し、第2相の上アームの半導体スイッチング素子をオン状態に制御する。MCU110は、上流側通電相である第1相の上アームの半導体スイッチング素子を、上アーム回生期間においてもオン状態に制御する。
【0109】
したがって、上記の例において下アーム回生の場合には、上流側通電相である第1相の上アームまたは下アームの半導体スイッチング素子のゲートに供給されるPWM信号によって、通電期間と回生期間とに交互に切り替えられる。よって、上流側通電相用のPWM信号に基づいて逆起電圧の検出タイミングを決定することができる。上アーム回生の場合には、下流側通電相である第2相の上アームまたは下アームの半導体スイッチング素子のゲートに供給されるPWM信号によって、通電期間と回生期間とに切替られる。よって、下流側通電相用のPWM信号に基づいて逆起電圧の検出タイミングを決定することができる。
【0110】
具体的に上記の例において、PWM信号電圧レベルがHレベルのとき半導体スイッチング素子がオン状態になりPWM信号の電圧レベルがLレベルのとき半導体スイッチング素子がオフ状態になるとする。そうすると、下アーム回生モードによってPWM制御を実行する場合には、上流側通電相である第1相の上アームスイッチング素子のゲートに供給されるPWM信号は、通電期間のときHレベルであり(ステップS210の場合)、下アーム回生期間のときLレベルである(ステップS205の場合)。逆に、上アーム回生モードによってPWM制御を実行する場合には、下流側通電相である第2相の上アームスイッチング素子のゲートに供給されるPWM信号は、通電期間のときLレベルであり(ステップS212の場合)、回生期間のときHレベルである(ステップS207の場合)。
【0111】
(3.PWM_Duty≧50%かつ下アーム回生)
MCU110は、デューティ比PWM_Dutyが閾値以上でありかつ下アーム回生モードによってPWM制御を実行する場合には(ステップS203でNOかつステップS209でYES)、逆起電圧(BEMF)の検出タイミングを「通電期間」に変更する(ステップS210)。この「通電期間」は、前述の例では、上流側通電相である第1相の上アーム半導体スイッチング素子のゲートに供給されるPWM信号がHレベルの場合に相当する。そして、MCU110は、通電期間(
図13の通電期間I)において無通電相の固定子巻線に生じる逆起電圧を検出する(ステップS211)。その後、ステップS200に戻って処理が繰り返される。
【0112】
(4.PWM_Duty≧50%かつ上アーム回生)
MCU110は、デューティ比PWM_Dutyが閾値以上でありかつ上アーム回生によってPWM制御を実行する場合には(ステップS203でNOかつステップS209でNO)、逆起電圧(BEMF)の検出タイミングを「通電期間」に変更する(ステップS212)。この「通電期間」は、前述の例では、下流側通電相である第2相の上アーム半導体スイッチング素子のゲートに供給されるPWM信号がLレベルの場合に相当する。そして、MCU110は通電期間(
図13の通電期間IV)において無通電相の固定子巻線に生じる逆起電圧を検出する(ステップS213)。その後、ステップS200に戻って処理が繰り返される。
【0113】
[モータ出力電圧波形とゲート信号波形の具体例]
図13は、第2の実施形態のモータ駆動システムにおいて、PWM信号のデューティ比が閾値以上のモータ出力電圧波形とゲート信号波形を模式的に示す図である。
【0114】
図13では、インバータ回路120のU相、V相、W相の出力ノードNU,NV,NWからブラシレスDCモータ130に出力される出力電圧の波形が示されている。また、インバータ回路120を構成する各MOSトランジスタのゲートに出力されるPWM信号GUH,GUL,GVH,GVL,GWH,GWLの波形が示されている。
図13の横軸は電気角[度]を表す。
【0115】
さらに、
図13では、
図2および
図3で説明した通電パターンが示されている。ここで、第2の実施形態のモータ駆動システムでは、120°通電方式が採用され、さらに、通電相の切り替わり時に上アーム回生と下アーム回生とが切り替えられる。具体的に
図13の場合には、通電パターンA,C,Eの場合に下アーム回生モードを用いてインバータ回路120がPWM制御され、通電パターンB,D,Fの場合に上アーム回生モードを用いてインバータ回路120がPWM制御される。
【0116】
図13において電気角300°から360°の範囲では、MCU110は、
図3(B)で説明した通電パターンEでブラシレスDCモータ130を駆動するようにインバータ回路120を制御する。さらに、下アーム回生モードによってPWM制御が実行される。したがって、この場合の各波形は、
図8の電気角300°から360°の範囲の波形と同じであるので、詳しい説明を繰り返さない。
【0117】
図13において電気角360°から420°の範囲では、MCU110は、
図3(C)で説明した通電パターンFでブラシレスDCモータ130を駆動するようにインバータ回路120を制御する。さらに、上アーム回生モードによってPWM制御が実行される。
【0118】
この場合、下流側通電相であるU相の上アームおよび下アームのMOSトランジスタUH,ULは、PWM信号GUH,GULに応じて、オンオフが切り替わる。したがって、U相の出力ノードNUの電圧もHレベルとLレベルとに交互に切り替わる。上流側通電相であるV相の上アームのMOSトランジスタVHはHレベルのPWM信号GVHによって常時オンに制御され、V相の下アームのMOSトランジスタVLはLレベルのPWM信号GVLによって常時オフに制御される。したがって、V相の出力ノードNVの電圧は電源電圧VMに等しい。
【0119】
一方、無通電相であるW相のMOSトランジスタWH,WLは、LレベルのPWM信号GWH,GWLによって常時オフ状態に制御される(Hi−Z)。この場合、逆起電圧によってW相の出力ノードNWには誘導電圧が生じ、W相の誘導電圧はU相電圧の変化に応じてHレベルとLレベルとに交互に切り替わる。HレベルおよびLレベルの各々の電圧値は徐々に増加する。
【0120】
MCU110は、U相の通電期間IVにおいて無通電相のW相に生じる誘導電圧を検出する。
図13の場合、通電期間IVは回生期間IIよりも長いので、逆起電圧の検出タイミングの設定は容易である。
【0121】
図14は、第2の実施形態のモータ駆動システムにおいて、PWM信号のデューティ比が閾値未満の場合のモータ出力電圧波形とゲート信号波形を模式的に示す図である。
【0122】
図14のタイミング図は、
図13のタイミング図に対応するものである。ただし、PWM信号のデューティ比PWM_Dutyが
図13の場合と異なるために、PWM信号に応じてモータ出力電圧がHレベルになる期間とLレベルになる期間とが
図13の場合と異なる。
図14のその他の点は
図13の場合と同じである。
【0123】
図14において電気角300°から360°の範囲では、MCU110は、V相の回生期間IIIにおいて無通電相のU相に生じる誘導電圧を検出する。
図14の場合、回生期間IIIは通電期間Iよりも長いので、逆起電圧の検出タイミングの設定は容易である。また、
図14において電気角360°から420°の範囲では、MCU110は、U相の回生期間IIにおいて無通電相のW相に生じる誘導電圧を検出する。
図13の場合、回生期間IIは通電期間IVよりも長いので、逆起電圧の検出タイミングの設定は容易である。
【0124】
図15は、
図14において無通電相の電圧波形をより詳細に示す図である。電気角300°から360°ではU相出力ノードNUの電圧波形(
図14の206)が実線で示され、電気角360°から420°ではW相出力ノードNWの電圧波形(
図14の207)が実線で示されている。さらに、仮想中点162の電圧波形が破線で示されている。
【0125】
図15に示すように、U相電圧、W相電圧、および中点電圧は、接地電圧GNDよりもボディダイオードの順方向電圧Vfだけ低い電圧(−Vf)から電源電圧VMよりも順方向電圧Vfだけ高い電圧(VM+Vf)の範囲で変化する。
【0126】
電気角300°から360°の範囲において、U相電圧および中点電圧は、上流側通電相であるV相電圧の変化に応じてHレベルとLレベルとに交互に切り替わる。この場合、HレベルおよびLレベルの各々の電圧値は徐々に減少するが、U相電圧の減少率のほうがと中点電圧の減少率よりも大きい。これにより、両者が交差する交差点が生じ、この交差点の位置に基づいて回転子の位置を推定することができる。
【0127】
同様に、電気角360°から420°の範囲において、W相電圧および中点電圧は、下流側通電相であるU相電圧の変化に応じてHレベルとLレベルとに交互に切り替わる。この場合、HレベルおよびLレベルの各々の電圧値は徐々に増加するが、W相電圧の増加率のほうが中点電圧の増加率よりも大きい。これにより、両者が交差する交差点が生じ、この交差点の位置に基づいて回転子の位置を推定することができる。
【0128】
MCU110は、PWM信号の切り替わりから検出待ち時間Twが経過したときに、U相電圧またはW相電圧と中点電圧とを検出する。具体的に
図15において、MCU110は、PWM信号のデューティ比が閾値未満の場合には、回生期間中の電気角がθ20,θ21,θ26,θ27のときのU相電圧またはV相電圧と中点電圧とを検出する。
図15では、PWM信号の回生期間のほうが通電期間よりも長いので、逆起電圧の検出タイミングの設定は容易である。
【0129】
なお、MCU110は、PWM信号のデューティ比が閾値以上の場合には、通電期間中の電気角θ22,θ23,θ24,θ25のときのU相電圧またはW相電圧と中点電圧とを検出する。この場合、通電期間がより長くなるので、回生期間中よりも通電期間中のほうが逆起電圧の検出タイミングを設定しやすい。
【0130】
図1で説明した回路例では、MCU110は、U相電圧またはW相電圧と中点電圧との差電圧にオフセット電圧Vofstを加算した電圧値を取り込む。電圧値を取り込むタイミングは、たとえば、PWM信号の切り替わりから検出待ち時間Twが経過したときである。オフセット電圧VofstをVDD/2に設定すれば、U相電圧またはW相電圧と中点電圧とが等しいか否かを検出するための検出閾値はVDD/2になる。0[V]から電源電圧VDDの範囲を10ビットのAD変換器でデジタル値に変換した場合には、上記の検出閾値は512になる。
図15では、AD変換値が括弧の中に記載されている。
【0131】
[効果]
第2の実施形態によれば、上アーム回生モードの場合には、下流側通電相用のPWM信号に基づいて無通電相に生じる逆起電圧の検出タイミングが決定され、下アーム回生モードの場合には、上流側通電相用のPWM信号に基づいて無通電相に生じる逆起電圧の検出タイミングが決定される。したがって、上アーム回生モードと下アーム回生モードとを交互に実行する場合でも、第1の実施形態の場合と同様の制御が可能になり、デューティ比が極端に小さい場合でもセンスレス方式で安定に三相モータを制御することができる。
【0132】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。